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神世への追憶編

ノリエラへの追憶

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 皆様方こんにちは、ハイパーキャノンと申します。

 いつもいつも小説を読んで下さりまして誠に有難う御座います。

 今回は所謂“閑談休話”的なお話です(その第一弾です)、取り敢えず再始動は致しましたモノの今は小説の本格的な連載はちょっとお休みをさせていただいている時期なのでこんな感じの軽めのお話となりました、どうか悪しからず御了承下さい(本当はいきなり物語を進めるのではなくて、蒼太君と花嫁達の新婚旅行のお話とか、蒼太君とメリアリアちゃん、蒼太君とアウロラちゃん、蒼太君とオリヴィアちゃんのイチャラブエッチなお話や、蒼太君と彼女達との日常のお話なんかも書いてみたい、等と考えております)。

 またこのお話では蒼太君が新たな神威を用いて村人を救う所から始まります(ただ相手を征伐するのみならず、彼は人を救ってやる事が出来るのです)、作中に詳しい説明が出て来ますが今回の神威はどんなに強力で悪意があるモノであっても“解呪解毒”が成し得る上に肉体の破損箇所修復に加えて、精神障害や精神汚染、またそれらに端を発する精神的な摩耗劣化等も魂のレベルで忽ちの内に浄化回復させて治癒させてしまう、と言う優れモノです(神威は回復技も充実しておりまして、それをお伝えしたかったのです)。

 ちなみに皆様方御存知でしたか?神様の瞳って青いんですって(神様に実際にお会いした事のあるらしい霊能者の方から聞いたお話です)。
ーーーーーーーーーーーーーー
「神威、神徳光恩!!!」

 長い黒髪を頭の左右両側で結わき、首からは五つの八尺瓊勾玉の首飾りを掛けて腰に十拳の剣を佩いた、青い両目の一柱の神が胸の前で両手を合わせ、その神秘の力たる“神威”を発動させた、するとー。

 目の前に横たわっていた白銀碧眼の“少女”の両親がみるみるうちに光に包まれて行き、そうかと思ったらその顔色に、“人間としての”血の気が蘇って来た、否、彼等だけではない。

 この村に住んでいる大部分の村人達が同様に“人間としての己”を取り戻して行くモノのこの時、“神”が用いた神威は“神饌招来”を遥かに上回る高位技で対象の呪いや病巣、またその身に潜むありとあらゆる毒素に限らず、果てはトラウマ等と言った心の傷や痼りを忽ちの内に取り除くと同時に肉体や精神の障害や汚染、摩耗劣化等を魂までをも含めたレベルで完全に浄化回復させて一気に治癒、本人を我に返らせては立ち直らせてしまうモノであったのだ。

「あ、ああ・・・っ!!!」

 “少女”が見ている目の前でー。

 程なくして自我を無くしてゾンビとなってしまうと言う“呪いの病”に蝕まれていた彼女の両親は“ん、んん・・・っ!!?”と呻いて目を開けるがそのブラウン色の瞳は落ち着いた、穏やかな光を湛えていて紛れもなく正気に戻った事を示唆していた。

「・・・・・っ。な、なんだこれは!!?」

「わ、私達は。一体・・・っ!!!」

「お父さま、お母さま!!!」

 上半身を起こしながら自身の頭に手をやって髪の毛を撫でつつも“訳が解らない”と言った表情を浮かべる2人であったがそんな彼等に銀髪碧眼の少女“ノリエラ・ラウラ・ド・ハッシェルヴェルグ”は飛び付いて頬擦りをする。

 メリアリアから“諦めるな!!!”と励ましてもらってはいたモノのそれでも、心の何処かでは正直に言ってもう“助からないのでは無いか?”、“殺すしか無いのかも知れない・・・!!!”等と考えて覚悟していた彼女にとっては今、目の前で繰り広げられていた“奇跡”がまだ信じられずにおり、“自分は夢でも見ているのでは無いか?”と言う感覚すらあったのだがしかし、これは嘘偽りの無い現実であり両親達が助かったのは本当の事であったのだ。

「有り難う御座います、蒼太さん!!!」

「ふうぅぅ・・・っ。良かったねノリエラ。御両親や村の人々が無事で何よりだったよ・・・っ!!!」

 “神の姿”を解いた蒼太がそう言って少女に応じるモノの今回、“彼等”が赴任して来たのは大国プロイセンとの国境付近にある小さな村“ヴェルノ”であり、ノリエラは今年で9歳になる、そこの領主の娘の1人であったのである。

 ここでの任務は最近、村で正体不明な病が多発しておりそれに掛かった人は我を忘れて夜な夜な徘徊し、挙げ句の果てには同じ人間を食い殺そうとする、と言う有様であって、その原因を調査して解決する事であったのだ。

 当然、村人達はそれを殊の外恐れており遂には堪らなくなって領主であった“ハッシェルヴェルグ”夫妻に直訴し、優しかった彼等は直ちにその求めに応じて事態をミラベルに伝え、それが回り回って蒼太達をここに向かわせる事となった、と言う訳であったのである。

 ただし。

 本来は秘密裏に事を進めなければならなかった筈の任務はしかし、良く言えば隠し事下手、悪く言えば口の軽い領主夫妻の為に周囲には漏れてしまっていて、“現場”に到着した蒼太達は早速村人達全員から歓迎を受けると同時に領主夫妻からの手厚いもてなしに饗する事となった。

 そんなハッシェルヴェルグ夫妻の子供達の中でも末っ子のノリエラは好奇心旺盛で快活であり、尚且つ少女にしては肝っ玉の据わっていた女の子であったから、蒼太達から外の世界についての話を聞きたがっていた、その為。

 蒼太やメリアリア、アウロラにオリヴィアと言った面々が入れ替わり立ち替わり、夜遅くまで3階にあるノリエラの部屋で自分達が今まで体験して来た出来事を彼女に伝えていた所ー。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「こ、これって・・・っ!!?」

「何だ?この濃密にして虚ろなる人々の気配は・・・!!!」

 4人が館の周囲を取り囲んでいる大勢の人波を感知して身構えるが、その直後にー。

 階下から“バリリイイィィィンッ!!!”と言うガラスの割れる音が聞こえて直後にメイド達の悲鳴が彼方此方からこだまして来る。

「!?!?!?!?な、なになにっ。なんなのっ!!?」

「ノリエラ、君はここにいてっ。皆行くぞ!!!」

「うんっ!!!」

「はいっ!!!」

「心得たっ!!!」

 蒼太の号令一下、メリアリア、アウロラ、オリヴィアは彼と共に武器を携え階段を駆け下りて行った、すると。

 そこにいたのは昼間、自分達をもてなしてくれていた村人達であったモノの、何やら様子がおかしい、白眼を剥いて泡を吹き、何やらブツブツと唱えていたのであるモノの、蒼太達を見付けた次の瞬間ー。

 猛烈な勢いで襲い掛かって来た、それはとてもの事一般人、即ち“常人”とは思えぬほどの身のこなしであり、力であり、速度であったが今まで何度も死線を潜り抜けて来た蒼太達からして見れば、決して対応出来ない程のモノでは無くて、手にした聖剣で、聖鞭で、ロッドで刀で後頭部や足をないで昏倒させては自由を奪い、地面にた叩き伏せていった、しかし。

「ウグアアアァァァァァッ!!!!!」

「・・・・・?」

「どういう、事なの・・・?」

 唖然とする4人の前でそれは起こるが何と普通ならば気を失っていてもおかしくない攻撃を食らいつつも、村人達は少しも躊躇う素振りも見せずに起き上がっては此方へと向けて再度突撃して来るではないか。

 その様子に。

「い、一体どうなっているの・・・!!?」

「確実に、“落とした”筈でしたのに!!!」

「どう言う身体構造をしているんだ、ここの住人は!!!」

「・・・・・」

(正気じゃ、ない・・・。もしくは我を失っている?いずれにしても真面(まとも)な状態では無いぞ、彼等は・・・!!!)

 狼狽する花嫁達とは対照的に、努めて冷静さを保ち続けていた蒼太はそこまで考えた瞬間にハッと気が付いた、本当にごく僅かに、なのであるモノの村人達の体内からは何やら呪いの匂いがするのだ、それもかなり複雑かつ高度な術式のモノなのだろう非常に洗練された力を感じる。

(つまり彼等は自我の無い操り人形の様な状態か。ならまともに卒倒を狙っていたのでは埒が明かない!!!)

 そう思った青年は、今度はその狙いを人体を縦横に走る経絡奇形の中でも、特に“神経系のツボ”へと変更した、これを穿たれれば例え己を失っていたとしても体を走る電気信号を乱す事が出来る為に確実に効果がある訳であり、それを狙ったモノだったのだ。

「グワアアアァァァァァッ!!!!!」

「グッギイイイィィィィィッ!!!!?」

 果たして彼の読みは正しく瞬く間に蒼太に襲い掛かろうとしていた村人達の内3、4人がバタバタとその場に倒れ伏すモノの、それを見た蒼太は1階に自分達以外に“まともな状態の者”が残っていない事を確認すると一度全員に“撤退命令”を下しつつも花嫁達を先に上階へと押し上げたその後で自らもまた階段を駆け上り、3階にまで退避して来た。

 勿論、そのままではすぐにでも追い掛けてこられかねないので、1階から2階に上がる階段と、2階から3階に続くそれとには“波動真空呪文”を使って構造自体を爆破、瓦解させて暫くの間は使用不能にしてしまう。

「どうしたの?あなた。私達はまだ・・・!!!」

「そうです、まだまだこれからですのよ!!?」

「目に物を見せてやろうと思っていた所だったのだがな・・・!!!」

「うん、それは解っているんだけど・・・。あの村人達は普通じゃ無い、どうやら昼間とは違って正気を失っているみたいなんだ。あんなに優しくしてくれた人達に刃を向けるのはどうにも心苦しくてね・・・!!!」

「それは・・・!!!まあ私達も同じだけれども。だけどそれじゃあ、一体どうしたら良いのかしら・・・?」

「手心を加えて攻撃しようにも、あの方々は興奮状態に陥っているからなのか。当て身で“落とす”事が出来ませんしね・・・!!!」

「全く厄介だな。このままでは罪も無い村人達に、再起不能なダメージを与える事になりかねんぞ!!?」

「そこなんだけれども・・・!!!」

 とそこまでメリアリア達花嫁と話し合っていた蒼太は再び“神人化”を用いる事にした、今回の事態はただ事では決して無く、このままではオリヴィアの言う通り、村人達に再起不能な程の痛手を負わせる、要するに“制圧”するしか無くなる訳であり、それではしかし、身を守る事は出来たとしても“救い”と言うモノが全くない。

「村人達からはごく僅かにだけれども呪(まじな)いの匂いがした。多分、外からでは無くて内側から漂って来たモノだと思うけれども恐らく、既に体の内部が蝕まれていてその結果として術者に操られてしまっているのだろう」

「・・・・・っ。そんな、それって!!!」

「“蠱毒”と言われるモノの一種、それを応用したモノだ」

 驚愕しつつも困惑するメリアリアに対して蒼太が告げるが実はこの時、彼の脳裏に走ったある考えがあった、それは。

 かつてこの辺り一帯で“メイヨール・デュマ”が暗躍し、“蠱毒”を改良した呪いでもって村人達全員を抹殺しようとしていた事があったのである。

 もし今回の犯人が何らかの方法を用いて“それ”を奪取し、自身の欲望を満たす為に発動させているのだとしたなら一大事である、大事になる前にケリを着けなくてはならなかった。

「僕達は今、敵地で孤立している状態だ。のみならず操られている村人達は犯人にとっては人質の役割も兼ねている筈なんだ、このまま見過ごせないよ!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「“神人化”を用いれば一発で犯人の居所が分かる上に村人達を苦しめている呪いから彼等を救い出してやる事も出来る。ここはもう、やるしかない!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「確かに“神人化”を使わくても任務は達成出来るけれども村人達を手酷い目に合わせなければならなくなるんだよ。だから頼む皆、またまた悪いとは思うんだけれども。僕が祈りを捧げる間、僕の事を守って欲しい!!!」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・・・」

 “解ったわ”と真剣な眼差しを向けて来る夫に対してメリアリアがまず頷いて見せた。

 正直に言って彼の言う事は解らない訳では無い、と言うよりもメリアリアもそれしかないと思っていたのである、・・・それ以外、あの陽気で人の良い村人達を解放してやる術は無い、と。

 ただし。

「でもあなた。体の方は大丈夫なの?あれって結構、負荷が掛かるんじゃない?」

「そうです。蒼太さんはあれを使っている最中って滅茶苦茶凄くなりますもの、心配ですわ?」

「村人達を助けるのは良いが、その所為(せい)で自分達の夫が苦しむ様な事にでもなったら・・・。私は・・・!!!」

「ああ、それは大丈夫だよ?前にも言ったと思うけれども、ちゃんと限界を守って使えば問題は無いから・・・。それじゃあ行くよ!!?」

 自らを案じてくれる妻達に改めてそう告げると、蒼太は早速“神人化”の為の祈りを捧げに入って行った、この間は蒼太は完全に無防備になってしまうためにメリアリア達は気が気では無かったのだがそれでも彼女達は必死に蒼太の護衛を行い、そして事件は解決へと至る。

 即ち“神人化”は今回もまた成功したのであるモノのその最中、完全に破壊されていたにも関わらず1階から2階に掛けての階段が凶暴化した村人達によって埋め尽くされ、彼等が上階へと押し上がって来た際はさしものメリアリア達も“ヒヤリ”としたモノであった、しかもその中に。

「ち、ちょっとあれ見て!!!」

「あれは・・・!!!」

「ハッシェルヴェルグ夫妻じゃないか!!!」

 何と3階目指して押し寄せる人波の中にはノリエラの両親にして今回の依頼主であるハッシェルヴェルグ達の姿もあったのであり、どうやら村人達と交流を深める内に呪いの気を吸ってしまい、完全に毒されてしまっていた様子であったのだ。

「嘘でしょう?まさかあの2人までが毒されていたなんて・・・!!!」

「この地域の領主と言う立場上、今日来たばかりの私達とは比べ物にならない位に普段から村人の方々と交流を持たれていた筈ですからね。ああなっても不思議では無いですけれども・・・!!!」

「おい、2人とも。良く考えれば今、私達は非常に拙い状況下にあるぞ?事態がこの村だけで済めば良いがもし、この騒動が他の地域にまで飛び火してしまっている、としたならば・・・!!!」

 オリヴィアがそう言い掛けた時だった、何と“部屋に居るように”と言い聞かされていた筈のノリエラが廊下に出て来てメリアリア達の元にまでやって来てしまったのだ。

 当然、彼女は階下で蠢く人波と、それに揉まれる様にして移ろい行く自分の両親の姿をまざまざと目の当たりにしてしまった訳であり、その余りの光景に思わず唖然としてしまうモノの如何に末っ子とは言え流石に度胸もある子だったノリエラは別段、騒ぎ立てる事も無く蒼太達の側でチョコンと座り込んでしまっていた。

「・・・・・っ!!!」

「ノリエラさん・・・っ!!!」

「下がって、危ないよ!!?」

 アウロラとオリヴィアがそう告げる中でしかし、メリアリアだけが動いて彼女を抱き締め、“大丈夫よ”と語り掛けた。

「蒼太が、私の夫が必ず何とかしてくれる。この人は凄いんだから。だから悲しまないで、絶望しないで?必ずあなたも皆も助けてあげる・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “うん・・・!!!”と消え去りそうな声でそう頷くノリエラの瞳からはしかし、直ぐさま大粒の涙が溢れ出して来た、気丈に振る舞っていてもまだ9歳の女の子である、心細くて泣きたくなる気持ちが、メリアリアには嫌というほど理解出来たのだ。

 何故ならば、かつての自分がそうだったからであり、またノリエラの気性が己と似通っていた事も手伝って、“放っておけない”との思いに駆られたからであったのであるモノの、あの日。

 幼い頃の宿敵であった“ヒュドラのヴェルキナ”と初めて相まみえると同時に蒼太と共に死線を乗り越えた日に、ヴェルキナの呼び出したモンスターの大群の前にメリアリアは一瞬、確実に“死”をイメージさせられてしまい、ダウンさせられてしまったモノのそれを振り払ってくれたのが蒼太であり、其れ処か自分を立ち直らせる事までしてくれた。

 それだけではない、クロードとルキナの前に打つ手が無くなり悲嘆に暮れ、その言葉に従わざるを得ない、と言う局面にまで追い詰められてしまった時に、またも彼女を絶望の淵から救い出してくれて、その性悪で低俗な野心を断ち切ってくれたのも蒼太であった。

 蒼太は彼女にとっては単に“最愛の人”と言うだけでは無くて、いざというときに勇気と希望を与えてくれる存在であり、自らを奮い立たせてくれる、まさに古の“勇者”、“仁者”そのものだったのである。

 だから。

 メリアリアは蒼太を信じた、そしてその思いの丈をありったけ、この目の前の少女にも伝えようとしていたのである、それが奏功したのだろう、一頻り泣き濡れた後でノリエラはグズりながらも再びあの気丈な顔を見せてくれるに至っていたのだ。

「ヒック、グス。うう・・・っ!!!」

「・・・・・っ。良い子!!!」

 そう言ってメリアリアがノリエラの頭を撫でているとー。

 遂に蒼太が“神人化”に成功して“神”となり、そして事件は解決の目を見る事となったのであったが“神人化”した蒼太はまず、村人達に掛けられていた“操り糸”を切断して彼等を沈静化させた後でそれを辿って犯人に肉薄、吹っ飛ばして卒倒させた、その後で。

 犯人の身柄を拘束すると返す刀で領主の館へと戻り、ハッシェルヴェルグ夫妻を含む被害者の救済に乗り出した訳であるモノの、これら一連の出来事は10分と経たずに行われた訳であって、その速さ、凄まじさ共にまさに“神業”の名に恥じぬ所業であったのである。

「村の人々は一種の“ゾンビ”状態にされていたみたいだね。でも良かったよ、1人の犠牲者も出さずに済んで・・・!!!」

「凄いわあなた、犯人をやっつけるだけじゃなくて、村の人々までをも助けるだなんて!!!」

「村人の方々、喜んでくれておりましたわね。良いことをした後は気持ちが良いですわ!!!」

「これであの村に悲劇が起こる事はもう無いだろうが・・・。しかしまさか今回の件にも“ハウシェプスト協会”の奴等が関与していたとはな!!!」

 実に1週間にも及ぶ労いの宴の後で惜しまれつつも村を後にした蒼太達一行が帰路に就き、話題に花を咲かせていた所にオリヴィアのこの言葉である、全員が思わず難しい顔を浮かべてしまうモノの今回、事件の裏にいたのは“ニール・アームストロング”と言うエイジャックス連合王国出身の青年であり、応援の為に駆け付けてくれた仲間達と共にかなり厳しく尋問した結果、彼もまた古くからの“ハウシェプスト協会”の信者である事が解って来たのだ。

 その“養成所”で呪術の腕を徹底的に磨き続けたニールはそれを“ある存在”達から見込まれ、そして今回の事件を起こすに至った、と言う訳であったのであるモノの“ある存在”とは誰なのか、と言う事に付いては結局はニールは口を割ろうとはしなかった。

 しかし。

「“キング・カイザーリン”か?それとも“ゾルデニール”のどちらかだろう、ニール・・・」

「・・・・・っ!!!」

 自らが放ったその言葉に一瞬だけだが、ニールの表情が強張った挙げ句に心拍数が急上昇したのを、蒼太は見逃さなかった、こと個々に至って彼は判断せざるを得なかったのである、“ハウシェプスト協会”が世界各地でまだ暗躍を続けている事、そしてその根幹は少しも揺らいではいないのだ、と言う事を。

「・・・・・」

(“キング・カイザーリン”と“ゾルデニール”。何者なのかは解らないけれども・・・。どうやらこの二つの存在を何とかしなければ世界に安寧は訪れる事は無いらしいな・・・!!!)

「何を考えているの?あなた・・・」

 家に着いてから自らの部屋に籠もり、窓辺におかれた椅子に座りつつそんな事を思って多少、悶々としていた夫に対して愛妻淑女(メリアリア)が声を掛けて来てくれるモノの、蒼太が見ると彼女はわざわざお茶を入れて来てくれたのであり、ティーポットやカップ、それに御茶菓子等一式を乗せたシルバートレイを手に優しく微笑んでくれていた。

「メリー・・・。うん、ちょっとね?」

「もう、あなたったら・・・。でもお願いよ?もっと私を見て・・・!!!」

 そう言うとメリアリアはティーセットの乗ったシルバートレイをテーブルの上に置き、蒼太にもたれ掛かる様にして抱き着いて来る。

「・・・可愛い、メリー」

(まるで子猫みたいだ・・・)

「あなた・・・。チュッ!!!」

 そう呼び掛けては口付けを交わすがその唾液は無味無臭の筈なのに、何故だかとても甘い風味が混じっていてネットリと絡み付いて来る。

 口内も熱く火照っており、メリアリアがこの瞬間を待ち焦がれていた事がハッキリと見て取れたモノの、そんな愛妻淑女の態度に嬉しくなってしまった蒼太は自身も徐々にそんな花嫁との接吻に没頭していった。

 その一方で。

“んちゅ、ちゅるっ。じゅるじゅぱっ。ちゅるちゅるちゅるちゅる、ちゅうううぅぅぅぅぅ~っ♪♪♪♪♪ぷふううぅぅぅっ!!?ぷふぅーっ、ぷふぅーっ、ぷふぅーっ。ぷふううぅぅぅ・・・っ❤❤❤ん、んちゅっ、くちゅっ。じゅるじゅるっ、ちゅぞぞぞぞぞぞぞ~っ。レロ、クチュッ。レロレロ、クチュクチュクチュクチュ・・・ッ。ちゅ、ちゅぱっ!!!じゅるじゅるじゅるじゅるっ、ちゅるるるっ。じゅるるるるるるるるるるるる~っっっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤”

“ん、んちゅっ、じゅるっ。ちゅぱちゅぱっ、じゅるるるっ。ちゅるちゅぷ、レロレロ。クチュクチュクチュクチュ・・・ッ!!!じゅるじゅぷっ、じゅぞぞぞっ。ちゅるちゅる、じゅるるるるるるっ!!!!!”

 メリアリアは完璧に出来上がってしまっていた、彼女は蒼太を確かに愛しており、そしてまた甘えていたのだ、普段はしっかり者でお姉さんの彼女であったが二人きりになると途端にその素顔を見せてくれるのであり、1人の女として妻として、夫に撓垂(しなだ)れ掛かってくる。

「ちゅぷちゅるっ、じゅるるるっ。じゅるるるるるるるるるるるる~っっっ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ぷはああぁぁぁっ!!!はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ。はああぁぁぁ・・・っ❤❤❤うふふ、うふふふふふふっ。あなたぁ・・・っ!!!」

「・・・どうしたの?メリー。今日は甘えん坊さんだね・・・」

「うふふふ、うふふふふふふっ。だってぇ・・・!!!」

 一頻り、口付けを交わした後でそれを解きつつ、見つめ合う二人であったが彼等の内、メリアリアの方は頬が紅潮してウットリとした表情を浮かべており、また大好きな蒼太の事をもっと良く見ようと瞳の瞳孔が開き、いつもより多くの光を反射してそこがキラキラと輝いていた。

「んもうっ。本当にいけない人、私をこんなにさせるなんて・・・!!!」

「・・・・・」

 そう告げるとメリアリアは再び蒼太の唇に自らのそれを重ね合わせるモノの、正直に言って彼女は自分で思うよりも遥かに蒼太の事を深い領域にまで愛し、かつ彼に恋していた、その炎は何処までも何処までも絶える事無く燃え広がって行き、彼女の頭と心とを焼き尽くして行ったのである。

 幼い頃から何度となく戦闘や冒険を共にして行く中で、メリアリアの思いは完全に蒼太一色に染め上げられていったのであったが特に、次々に訪れた危機や困難を彼は払い除けてくれたのであり、そしてその度毎に自分への、即ちメリアリアへの拙(つたな)かったけれどもしかし、決して嘘偽りなき“純真なる愛情”を見せて彼女を守り、導き続けて来てくれたのだ。

 そんなメリアリアはだから、彼を更に慕うと同時に知らず知らずの内に心酔していった、それは最早魂の中にまで浸透して行き、結果彼女を女の性(さが)に目覚めさせては蒼太がメリアリアに向ける以上の愛情を彼に向けさせるに至っていたのであった。

(蒼太、あなた。私の最愛の夫、もう逃がさないんだから。何処へもやらせはしないんだからぁっ!!!絶対に、絶対に・・・っ❤❤❤❤❤)

 そう思いつつも尚も最愛の伴侶との接吻に埋(うず)もれて行くモノの、実はメリアリアが蒼太に向ける思いの中には思慕と愛欲以外にも寂しさや嫉妬等があり、そしてその最たるモノこそが、一つは“エルヴスハイム事件”であり、もう一つはアウロラとの間に彼が為したとされる“パーズ・トワールの魔法の館探索”であるモノの、自分の知らない所で彼が他の女性達とそんな大冒険を繰り広げていた事が悲しくもあり悔しくもあり、だけどそれは仕方の無い事だとも思っていたのである、何故ならば。

 自分だってセイレーンに入った事を当初は秘匿していたのであり、また蒼太が同じ組織に入隊するかも知れない、となった時に真っ先に反対した経緯があったからだったのだがそれは取りも直さずに、蒼太の身を案じればこその判断であって、自分よりも2歳は年下の蒼太に“こんなにも辛くて危険な思いをさせたくない”と言う真心から出た行動であったのだ。

 それに彼女の経験上、そう言った任務は突然、上役から言い渡される事が常であって、だからそれら蒼太の為して来た冒険の数々も彼自身にとってもある日唐突に降って湧いてきた青天の霹靂だったに違い無い事と、そして恐らくは自分(メリアリア)の身を案じて“危険な事はさせられない”と言う思いから、そう言った事柄からは遠ざけていたのであろう事は想像に難くなかった為に、何も言わなかったのである。

 だけれども。

(あなた、やっぱり私の寂しいわ?だからいっぱい暖めて?いっぱいいっぱい私を愛して、満たして、夢中にさせて?お願いね、あなたああぁぁぁっ❤❤❤❤❤)

 そう思って胸の炎を余計に赤々と燃焼させつつも、その日もメリアリアは夫との逢瀬を満喫して行く事として、彼の腕の中で悦びに満ち満ちた表情を浮かべた。

「あなた、あなたぁっ。お願いよ、私を一人にしないで・・・!!!」

 まるで縋り付くかの様に、叫ぶ様に最後にそう告げると。

 メリアリアはまたも蒼太のそれへと自らの唇を重ね合わせては彼に抱き着き、その思いの丈を思う存分に爆発させて、彼と一つになり尽くして行ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
 “仁者”即ち“本当に優しい人”とは必ず本物の勇気をも併せ持っているモノである、一方で世間一般で“勇者”と呼ばれている人物が、必ずしも優しさを併せ持っているとは限らない。

 ~孔子、論語より~

 ちなみに今回のお話は“セイレーン編各話”及び“アウロラ・フォンティーヌ編4~6”、そして“エルヴスヘイム事件9”、“同エピローグ”を御覧になられれば、より理解が深まるかと存じます。
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