星降る国の恋と愛

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ガリア帝国編

バチカンへの道

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 今回のお話は“アウロラ・フォンティーヌ編6”を一緒に御覧になられるとより理解が深まるかと存じます。

 またもう一つ、皆様方にどうしても御報告しておかなければならない事が御座います(これは何れは皆様方にお伝えしなければならない、と思っておりました)。

 それと申しますのは蒼太君の事なのですが、“呪術戦士”的な立場にいる彼はモンスターのみならず鬼神や悪魔、妖怪に邪霊等を抹殺したり退治、調伏した事は勿論、場合によっては人を斬り殺した事も“あります”。

 魔物やモンスターに関しましては現実世界のみならず、エルフの世界である“エルヴスヘイム”に於いて、そして対人戦闘は主に“ガイア・マキナ”に於いてそれぞれ経験しているのですがその際、“一等星のリゲル”を含めて具体的に言えば17人程ですけれども確かに、彼は人を殺めています(大抵は向こう側も手練れだったりプロフェッショナルだったりした上に、殺す気満々で斬り掛かって来たからですが←要するに返り討ちにしたのです)。

 だから極めて強大なる“殺気”や“剣気”と行ったモノを放つ事が出来るのです。

 余談ですがエルヴスヘイムでの戦闘と言うのはだから、どうしても彼が経験しておかなくてはならないものでした、(既に優れた“戦士”として活躍していた父親に対する憧憬に後押しされた事もありましたが)少なくともあれがあったからこそ優しかった蒼太君も徐々に戦いの場や雰囲気にも慣れて行けたし、また幼いながらにも“無闇矢鱈(むやみやたら)な殺生はしない”、“けれども自分や大事な人の命を守る為には仕方が無い場合もあるんだ”と言う事が頭では無くて心で理解する事が出来たのです(それで覚悟を決める事が出来たんですね)。

 それに加えて“アウロラ・フォンティーヌ編”に於ける“トワールおばさんの館”での冒険、そして何より、“セイレーン編”での“ヒュドラのヴェルキナ”達との戦闘を経てそれらはより完全なモノへとなって行きました(あの時も蒼太君はメリアリアちゃんと力を合わせて“ヒュドラのヴェルキナ”を一挙に吹き飛ばそうとしましたし、またアウロラちゃんに命じて“星振魔法”を発動させたりしています、要するに相手を抹殺しようとしているんですね)。

 そうやって彼は少しずつ少しずつ、戦士になって行ったのです(勇敢さは勿論の事、非情さも身に付けて行ったのですね)、ただそうは言ってもやはり、根は優しくて温かい人なので今でも多少は、色々と葛藤する事はありますけれど、それは人には見せません(彼は基本的にはそう易々と自分の弱さを表に出す人間ではありませんので←でもメリアリアちゃん達にはバレてしまっていると言いますか、バッチリと見抜かれてしまっている訳なのですが←それで彼女達に、かなりの心配を掛けてしまっている訳なのです)。
ーーーーーーーーーーーーーー
「・・・“反逆皇神ゾルデニール”?」

「そうさ」

 些か困惑した表情でそう告げる蒼太に対してオレールが頷くモノの、実は蒼太にはその名前に聞き覚えがあった。

(いつ、何処で聞いたんだったっけかな?確かに“ゾルデニール”の名前に聞き覚えがあるのに・・・)

 オレールの一挙手一投足に注意を払いつつも蒼太が思案を続けるがしかし、その名前に反応したもう1人の女性がいた、メリアリア、オリヴィアと並んで彼の花嫁の一人であり、尚且つメリアリア同様に幼馴染の少女でもあった、アウロラ・フォンティーヌその人だ。

 彼女はハッキリと思い出していたのである、かつて蒼太と幼少の砌に“トワールの館”を冒険した日の事を。

(・・・あの時。確かにトワールは言っていた、“ゾルデニール”がどうのこうのって!!!)

 その事を夫に伝えに行こうとしてしかし、それは憚られた、オレールがゴホンと咳払いして話を続け始めたからだ。

「ゾルデニールは遙かな昔に、この地上を跋扈していた恐竜の魂が、より高度な自我と理性を得て顕現した霊魂の進化した姿らしい。・・・あくまで彼等が言う所によるとだけどな、それでそのゾルデニールは自分が、否“自分達こそが”この地上の正統なる統治者であり、支配者である、との思想を持ち続けている存在らしいんだ・・・!!!」

「・・・・・」

「ゾルデニールがデュマに話して聞かせた所によると、かつてこの地上には神々や他の星から来た霊的存在、そして自分達恐竜が力の均衡を保ったままで平和に暮らしていた、しかしある時、霊的人類が自分達の労働力欲しさにその均衡を破ってしまった。彼等は恐竜達に人の姿と理性、自我を与えて自分達の仕事の手伝いをさせていたのだがそれに我慢がならなくなった恐竜達が反乱を企てた、それを察知した神々が介入して我々を一網打尽にしたのだ、と言う事らしい・・・」

「・・・・・」

「ゾルデニールは言ったそうだ、“我々は被害者であり、この地上を支配していた正統なる血筋である”と。その為ゾルデニールとその仲間達はその後も地上を這いずり回っては神々の邪魔や反抗を企てる事ばかりを繰り返していたらしい・・・!!!」

 そこまで話を聞いた時、蒼太は些か違和感を覚えた、今までの内容によれば、霊的人類の働きによって知性を持った恐竜達が反乱を企てたモノの、神によって成敗された、との事であったがそこに至るまでの具体的な流れや、何故神々が霊的人類の味方をしたのか、と言う詳しい理由等がバッサリと切り落とされていたからである。

「・・・君はそれを信じたのか?」

「いいや、まさか!!!流石の僕もその話を聞いた瞬間に“ああ、ここはヤバい組織だったんだ、入っちゃいけなかったんだ!!!”と気が付いてね。それで、その・・・。“もし出来るのならば、逃げ出したい”と思っていたんだよ。そしたらアイツに、デュマに“裏切るな”と強く言われて、それでどうして良いのか解らなくなってしまっていたんだ・・・!!!」

「・・・・・」

 そこまで話終えた時に、オレールは些かグッタリとして椅子にもたれ掛かる様にして“ハアァ・・・ッ!!!”と一息溜息を付いたが蒼太は暫くの間、そんな彼の事を無言でジッと見つめていたモノの、やがて再び口を開いて尋問を続行していった。

「ゾルデニールは具体的に何をしようとしているんだ?奴がフリー・メーソンとハウシェプストを裏から操っているのか?答えろ!!!」

「わ、解った。言う、言うってば!!!」

 そう言って迫る蒼太に気圧されてしまったのだろう、オレールは気を取り直して話を続けた。

「ゾルデニールが何を考えているのか、と言う事に関しては、さっきも言った通りで僕も良く解らない。だけどずっと以前にはニムロデ王を唆(そそのか)してバベルの塔を建設させたり、フリーメーソンを乗っ取って世の中を混沌へと陥れたりしている事から見ても、少なくとも平和と安寧を求めているんじゃ無い事が解る・・・!!!」

 “それ以前の話として”とオレールは語り始めた、“ゾルデニールは人間を、余り快くは思ってはいない”と。

「アイツの究極目的である、“神々に対する反抗”と言うのが何を刺しているのかは皆目見当が付かないんだけれども・・・。人間の魂を奪って悪魔の眷族に仕立て上げたり、“愛”や“真理”を人々から奪い去るような事を平然とやっているのだから、ろくな事じゃ無いんだろうね・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “もうこれ以上”と蒼太は思った、オレールから“ゾルデニール”に対する話を聞いても真相が解明される事は無いだろうと彼はこの時予測していた、それらはオレール自身の見せる態度や表情、そして脈拍や彼の放つオーラの色合い等から窺い知れるが恐らくオレールは本当にこれ以上の事を聞かされてはおらず、つまりは隠し事や偽りは無しにして尋問に応じてくれた、と言う訳である、このままこの話題に付いて掘り下げてみようとしても無駄であろう。

「・・・質問を変えようか。と言うよりも、元に戻そうと言うのが正しい言葉なのかも知れないけれども、ハウシェプストとフリーメーソンの関係に付いて出来得る限りで話してもらおう!!!」

「さっきもチラッと言ったと思うが・・・。元々、ハウシェプスト協会はゾルデニールのもたらした数々の秘儀秘承の具現化、体現化を目的とする組織だった事もあって、その教義を遵守する事や秘密保持等協会員達への縛りもフリーメーソン等とは比べ物にならない位に厳しいモノであったらしい。要するに所属している信者達は非常に高度な修行、訓練を毎度の様に課され続け、それを熟して行く事を絶えず要求されるそうなんだけれども・・・。お陰で今ではそんじょそこらの諜報員や呪術師等では太刀打ちできない程の屈強な精鋭部隊が出来上がってしまった、と言う訳さ。君達は知らないかもだけれども、さっきのルテティア支部にいた連中もそうだったんだぜ?それをたった4人で・・・!!!」

「・・・・・」

(・・・・・っ!!!と言う事は、“カインの子供達”とまでは行かなくとも今日、戦った程度のレベルの戦士達が他にもまだ潜伏している可能性がある、と言う事か!!?)

 “厄介だな”と蒼太は思った、“カインの子供達”には確かに比べるべくも無いとは言えどもそれでも“彼等”は一般の兵隊等とは比べ物にならない位の鋭い感性と卓越した殺しの腕を持っている事には変わりなく、あんな連中がこれからもまだまだウジャウジャと出て来る、と考えると流石に頭が痛くなって来たのである。

「一体、君達は何者なんだ?どうやってあれだけの手練れを制圧出来たのか、凄く興味があるんだけれども・・・!!!」

「・・・余計なお喋りは良い、早く先を話せ!!!」

「わ、解った・・・!!!」

 青年に急かされる形でオレールがまたもや言葉を紡ぎ始めた。

「厳しい戒律と高度な修行を行うハウシェプストは、次第にフリーメーソンより秘密結社的性格な組織へと変貌を遂げて行ってね?それと同時に事情を知っている一部の実力者達や金持ち連中からも恐れられ始めて、そしてその結果として政財界各地の裏側に於いて、遂にフリーメーソン以上の影響力を確保するに至って行ったんだけれども・・・。ある日決定的な事件が起きた」

「・・・事件?」

「デュマがやって来たんだよ。前任者の祭司を殺した上に“神”からの、即ち“ゾルデニール”からの神託を携えてな!!!」

 オレールが再び険しい顔付きとなり、そう告げた。

「デュマが来てからと言うモノ、ハウシェプストの躍進は更に目覚ましいモノがあったらしい。戒律や修行も一層、厳しいモノとなりそのやり口も余計に凶暴化かつ陰湿化して行ったんだ」

「つまりはデュマが今現在のハウシェプスト協会を作り上げた、と言っても過言で無い訳か・・・!!!」

「全く以てその通りさ、デュマと更に言ってしまえばその取り巻き共、つまりは幹部達はハウシェプストを恐ろしい組織へと作り変えてしまった、なんて言うか奴等はこう、人間じゃ無いんだよ。解るかなぁっ?言いたい事が。なりは人間のそれをしているけれども、その実態は悪魔そのものだよ。僕にはそう感じられたね・・・」

「・・・・・」

「デュマは他にもそれ以前の祭司達とは根本的に違っていた、それまでの祭司達って言うのは“神”の言葉を断片的にしか聞き取れなかったんだそうだよ?しかも極めて調子の良い時だけ掲示が降りてくる、みたいなのが主流だったそうなんだけれども、デュマが来てからその流れが変わったんだ。何しろ彼と来たら何時でも何処でも、100%の確率で“神”からの声を聞き当て、しかもそれらの全てを胸の内に収める事が出来た、と言うから尋常な魔力では無いのだろうな。ちなみにそんな訳だったから、ますますハウシェプストは恐れられると同時に皆に注目されていった、当たり前と言えば当たり前だが“神”と直接話せる存在がいる組織の方が、様々な場面で何かと重宝されるからね。それに」

 オレールが続けた、“何よりフリーメーソン等とは違って選ばれた者しか入れない、狭き門であるが故に少数精鋭で行っていた事も功を奏して裏切り者や脱落者自体がそうそう出なかったみたいなんだ”とそう言って。

「・・・仮にそう言うのが出たとしたら、殺されてしまう、と考えて良いのかな?」

「多分ね。そうやって秘密が外へと漏れるのを防ぎ続けて来たんだと思うよ?兎にも角にもハウシェプストはフリー・メーソンとは一線を画した、“秘儀秘承呪術師集団”と化して行ったんだよ。・・・皮肉な事に当初の設立理念の具現化に完璧に成功した、と言う訳さ」

「・・・・・」

 ここまでオレールの話した内容を精査する事で漸く蒼太は理解する事が出来た、フリーメーソンとバビュローン同窓会、そしてハウシェプスト協会の歴史と繋がり、上下関係がまざまざと。

「それで、つまりは。今は“フリーメーソン”は=で“バビュローン同窓会”となり、それらの上と言うか、更に裏側にハウシェプスト協会が存在している、と言う訳か・・・!!!」

「そうだ」

 蒼太の言葉にオレールは頷いて後、更にこう付け加えた、“ハウシェプスト協会側から見れば、あれだけ権勢を誇っているロスチャイルド一族すらも、単なる金庫番の1人に過ぎない”とそう言って。

「とにかく・・・。今や魔術主義的陰謀論の中核はハウシェプスト協会にある、と言っていい。その更に中心にいるのが“アレクセイ・デュマ”だ、彼を倒した時にこそ、全ての謎は解き明かされて世界に平和と安寧はもたらされるだろう・・・!!!」

 “ただし”、とオレールはもう一言だけ付与するのを忘れなかった、“倒せればな?”とそう告げて。

「なあ君、強いんだろう?頼むよ、何とかデュマを倒してくれ。アイツがいる間は僕はもう、何処にも行けないし何にもやれなくなってしまったんだ・・・!!!」

「・・・随分と変わり身の早い男だな」

 そうしたオレールの態度に蒼太は今度はやや呆れて言ったが少なくともここに至るまでの間、彼の話に嘘偽りはないようだ、“取り敢えずは”だが信用しても良いだろう。

(しかし、証拠が無い!!!)

 と蒼太はその点だけが気掛かりだった、現時点で“邪神ゾルデニール”とその取り持ち役であろうと思われる“キング・カイザーリン”の存在を示す確かな物的証拠は無く、またデュマと言う男の正体に付いても、その目的や居場所に付いても結局は不明なままである、どうにも釈然としなかったが、しかし。

「君の話が確かだと言う証拠はあるのか?何か奴等から渡された物品とかは・・・」

「君達に押収された“飛ばし携帯”と“量子アニーラー”、それだけしか無いよ、証拠となる様な物品とかは最初から渡してはもらえなかったんだ・・・!!!」

 そう言うとオレールはまた黙ってしまい、何やら心配そうな面持ちのまま此方を見ていた、どうやら我が身が明日をも知れぬ身となってしまった事を心底憂いている様子であったが、さて。

「・・・今回、最後の質問だ。デュマが何処に向かったのか、話してもらおう!!!」

「多分、だけれどもバチカンに向かったと思うよ?そう言う話をしていたのを聞いた事があったしそれに、そこで“偽キリストシステムの稼働を見届けなくてはならない”って言う話しもしていたからね・・・」

 それを聞いた蒼太は。

 それでもある種の冷ややかな瞳をオレールに向けつつも取調室を後にした。

「ただいま・・・」

「あなた・・・っ!!!」

「蒼太さん・・・っ!!!」

「蒼太・・・っ!!!」

 そのままモニタールームへと向かった蒼太はそこでメリアリア達花嫁の歓待を受けた、皆心配そうな面持ちで事の成り行きを見守っていた為に彼が無事に帰って来てくれた事にホッとしていたのである。

「良かったわ、あなたが無事で。もしかしたらあのオレールって男、逆上するかも知れない、なんて思っていたモノだから・・・!!!」

「顔付きが険しくなったり肩を落としたり、あんまり落ち着きのある方じゃ御座いませんでしたからね・・・!!!」

「言っている内容も興味深いと言うよりも、想像の遥か上を行くモノだったな。確か“ゾルデニール”とか何とか・・・」

「そ、それですっ。蒼太さん!!!」

 するとオリヴィアの言葉を聞いたアウロラが思い出したかのように、やや興奮気味に言葉を発した。

「蒼太さん、覚えていますか?昔“トワールの館”を探索した時の事を・・・!!!」

「勿論、覚えているけれども。それが一体・・・!!?」

 そこまで言い掛けた、その時だ、蒼太もまた漸くアウロラの言わんとしている事に気が付いたのである。

「そうか、あの時にトワール自らが言ったんだよな!!?ゾルデニールがどうのこうのって・・・!!!」

「そうです、その時から私達は相手の正体を突き止めていたんですよ。あの時は何の事だか訳が解らなかったですけれども・・・!!!」

「・・・・・っ。トワールの館って、前にあなたとアウロラが一緒に冒険をしたって言う、あの?」

「“トワールおばさん”の館か、噂には聞いていたのだがまさか実在していたとはな!!!」

 興奮気味に頷き合う蒼太とアウロラとは対照的に、メリアリアとオリヴィアがキョトンとした面持ちで蒼太に語り掛けて来た。

「そうだよメリー、アウロラ、オリヴィア。僕達は既に敵の正体を突き止めていたんだ、それが今回、漸く繋がった。これでオレールの言っていた事は強(あなが)ち、彼の妄想とばかりは言い切れなくなって来た!!!」

「凄い、凄いですっ。あの時の冒険が、こんな所に繋がっていたなんて・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

「むうぅ・・・っ!!!」

 そう言って燥(はしゃ)ぎ合う二人をジト目で見つつも、メリアリアとオリヴィアとがプクーッと頬を膨らませるがこの時、彼女達はアウロラに嫉妬していたのでありその場にいたのがなんで自分で無かったのかと内心で悔しがっていた。

「・・・・・っ!!?ゴホンッ。と、とにかく、だ。相手の正体に付いてはある程度目星を立てる事が出来た。後は具体的な物的証拠が出て来れば、言うことは無いのだけれども!!!」

 そんな二人の視線に気が付いた蒼太は(他にもエメリックやポール達が怪訝そうな表情を浮かべている事も見て取った事もあって)慌てて話を変更して路線を元に戻すモノの正直、これでは相手の計画そのものの全容が明らかにされた訳では決してなく、所謂(いわゆる)一種の手詰まり状態に陥ってしまったのである。

「なにかこう、相手の計画そのもののスケジュールが入っている“USBメモリー”みたいなモノがあれば良いのだけれど。このままだと正体が掴めても反転攻勢に打って出る事が出来ないぞ、相手の出方が解らない限りかはな・・・」

「それならば・・・」

 とポールが助け船を出してくれた、彼として見れば邪神がどうだの、ニムロデ王がどうだのと、まだイマイチ要領を得ない会話が続いてはいたモノの、取り敢えずは今までの会話や事件の流れから、デュマがいるかも知れない場所の特定は粗方済んではいたのである、即ち。

「奴はバチカンに潜伏している可能性が極めて高い」

 それであったが今、問題なのは蒼太の言っていた通りでそれを指し示す物的証拠が何も無い、と言うその一言に尽きるのであってそれが故に今までのミラベルであったならば到底、行動に出る事は不可能な情勢であっただろう事が伺える。

 しかし。

「相手は何やらカルト臭のする組織の狂信者達だ、このままグズグズ放っておいたら、今度はもっと大掛かりな犯行的計画の実施に打って出るかも知れない。そうなる前に手を打たねばならん!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「それで、“行け”と言われるのですか?」

「当然だろう?君達だってそれを、真相を究明したがっていたではないか。これはチャンスだ、絶好のチャンスなのだ!!!」

 “責任は私が取る!!!”とポールはそこまで言い切った、即ちそこまでの覚悟を持って今回の指示、判断に打って出た、と言う訳である。

「蒼太君、これは由々しき大事態なのだ。直ちにバチカンに飛んでくれ、そして彼の地に潜伏していると思われる敵の司祭を拘束、もし不可能ならば“制圧”しろ。事は一刻を争うのだ、頼むよ!!!」

「・・・・・」

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「・・・・・」

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「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解りました”と数秒間の沈黙の後に蒼太は頷いていた、彼としても親の仇を討つまたとない機会なわけあり、誠に願ったり叶ったりな展開である。

「ただし条件があります」

「・・・・・。条件?」

「メリアリア・カッシーニ、アウロラ・フォンティーヌ、そしてオリヴィア・フェデラーの3名を、今回の捜査に同行させて下さい。デュマを討つためには彼女達の力が必要不可欠ですので。・・・いいだろう?みんな!!!」

「ええっ!!!」

「勿論ですともっ!!!」

「構わないよ、私達は。むしろ、望む所だよ!!!」

 三人の言葉に頷くと、蒼太は了承を得るために、覚悟と決意を秘めた瞳で真っ直ぐにポールの顔を見た。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “了承しない訳にはいかないな”と苦笑しながらポールは言うと、“行きたまえ”と改めて訓示を出した。

「ただし相手は正体不明のカルト宗教、その総元締めだ。何を仕出かすかは解らないから、そのつもりでな?皆充分に気を付けて掛かってくれ・・・!!!」

「命令を受領致しました!!!」

「一応、此方からも応援を回す。バチカンに潜伏させている部下達に、君達の援護をさせよう。だけどくれぐれも気を付けてな・・・?」

 気を回してそう言ってくれたポールに対して軽い会釈をすると蒼太とメリアリア達花嫁は、直ぐさま支度を調えてバチカンへと向けて出立して行った。
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