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ガリア帝国編
事件の後で
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今回のお話は、以前書かせていただきました“追憶編3”、及び“セイレーン編3”、また“セイレーン編4”を読んでから読んでいただきますとより理解がし易かろうと存じますが、組織の中に在籍している存在であります蒼太君達には、上からの命令に対する“拒否権”と言うモノは基本的には存在しません(ただしよっぽど理不尽な命令や上役による権力の乱用等には“拒否権”、“反抗権”、“自由権”が認められています←ただしもし、これらを行使した場合は下手をすれば裁判沙汰にまで発展します)、なので命令を受けたのならば従う他無いのです。
もし余りにも反抗的な態度が過ぎると、それもやはり裁判の対象となり、もしその席で“非が此方にある”となった場合にはセイレーンやミラベルを追放されます(追放された後はもう、国家権力に属しているどの組織からも入れてはもらえません。つまりは完全なる“村八分状態”となるのです)、後はもう、表舞台に戻る事は出来ずにヒッソリと生きて行く事になるのです(貴族であっても同様です、社交界から“追放”されます)。
もっと解りやすく言ってしまいますと、“セイレーン”や“ミラベル”への入隊を断ったのと同じ立場に立たされるのです。
ーーーーーーーーーーーーーー
「またしても阻止された、だと・・・?」
「はは・・・っ!!!」
暗闇の中で“男”は“影の女王”に平伏しつつも事の顛末を伝え続けた、“ポール・アギヨンの誘拐には成功したこと”、“しかしそれを早々と見抜かれては検閲体制を敷かれてしまい、逆にユーロ・エアポートにて一網打尽にされてしまったこと”、“実行部隊はその悉(ことごと)くが捕縛されてしまい、音信不通になってしまっていること”等を恐懼しながら述べ立てて行くモノの、しかし。
「・・・結局それで。“万能型量子コンピューター”及び“接続回路”を開発すべき人材は確保しそびれた、とそう言う訳だな?」
「ははっ。まことに恐れ多き次第にて・・・!!!」
「あの馬鹿者共めが、しくじりおってからに・・・っ!!!」
“男”の報告に“影の女王”は忌々し気にそう言い放つが、するとその怒りの波動が男の喉に纏わり付いては無意識の内に“ギュウゥゥッ、ギュウゥゥッ!!!”と締め上げて行くモノの、それに気付いた“影の女王”は直ぐさま平静さを取り戻して、言った。
「我等の悲願。“偽キリスト計画”発動までにはもう幾許(いくばく)の猶予も無い、と言うのに・・・」
「・・・・・」
「“AIエンペラー”は既にバチカンへと運び込まれているのだ。“5Gネットワーク”も欧州各国で準備が整いつつある、と言うのに。後はそれらを繋いで“偽キリストシステム”を稼働させる回路を作り出せる人材が必要だった、それこそがあの男、“ポール・アギヨン”だったのだがな・・・!!!」
「ははっ。キング・カイザーリン。それは・・・っ!!!」
“それだけではない”と“影の女王”こと“キング・カイザーリン”は続けて言った、“AIの古典的なシステムを、最新式の量子コンピューター型のそれへと改良出来得る可能性があった男でもあったのだがな”とそう告げて。
「返す返すも無念な事よ。折角以てここまで作り上げて来た努力の結晶が、今回の事で完成が遠退いてしまったわ!!!」
「・・・・・」
“まあ良い”と、それでも尚も余裕を見せつつ“キング・カイザーリン”は悍(おぞ)ましい声色で言葉を吐き出し続けた、“我等の計画は最早、最終段階に入っている。この流れを止める事は、誰にも出来はせぬであろう”と。
「キング・カイザーリン。左様に予言なさいますか?」
「なんだ?デュマよ。お前には何か、障害が見えると言うのか?」
「お忘れではありますまい。我等の側近3名を打ち破って消滅させ、この私にまでをも深手を負わせた東洋人の男の事を・・・!!!」
「・・・・・」
「あの事だけでは御座いませぬ。どうやらあの男、今回の事にも関わっている様子で御座いますれば・・・!!!」
「“時と運命の調律者”か・・・」
呟くように独りごちると“キング・カイザーリン”は何事かを思案していたモノの、やがて再び口を開いて“男”に告げた、“お前はどうしたいのだ?デュマよ”とそう言って。
「これは最早、私事では御座いませぬ。それ故にお伺いを立てているので御座いますれば・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“よく解った”とキング・カイザーリンは改めてその男、デュマに言葉を投げ掛けた、“ヤツを消せ!!!”とそう告げて。
「目下、ガリア帝国を根城にしているようだがな。多少は目障りになってきた・・・!!!」
「はは、カイザーリン・・・!!!」
「時期や方法、具体的な計画等は全てお前に一任する。・・・ただし」
「・・・・・?」
「これ以上、“組織”の傷を広げる事は許さん。・・・承知しているな?」
「よく、解って御座います・・・!!!」
「考えてみればお前達、“アンチ・クライスト・オーダーズ”も壊滅状態に陥ってしまっていたか。酷いものだな・・・」
「面目次第も御座いません。しかしキング・カイザーリン、次こそは必ずや・・・」
「・・・もし」
カイザーリンは続けた、“もしその男を討ち取る事が不可能だと判断したならば、その時は無理はしなくても良い”とそう言って。
「・・・・・?」
「なに、別段お前の復讐心に水を差すような真似はせぬよ。ただあくまでも“我等の悲願”達成を最優先にせよ、と言いたいだけだ・・・!!!」
「ははっ。カイザーリン・・・」
「“我が夫”もそれを心待ちにしている。その事は肝に銘じておけ!!!」
「はは・・・っ!!!」
それだけ告げると。
“キング・カイザーリン”の影は暗闇の中で揺らぎながら、その存在を入滅させた。
後に残されたのは“メイヨール・デュマ”と部屋の片隅で震えたまま跪いている、もう一名の配下の男のみであったのだ。
「・・・これで良い」
デュマは嬉しそうにほくそ笑んだ、“これであの男と正面切って決着を着ける事が出来る!!!”とそう言って。
「オレール!!!」
「は、ははっ。メイヨール・・・!!!」
デュマに自らの名前を呼ばれ、縮こまっていた男がおっかなびっくり立ち上がるモノの、この男こそが先日、蒼太が資料室を訪れた際に最重要関係者と目した男、“オレール・ポドワン”本人であった。
「お前もご苦労だったな。まあ“追われる身”となってしまったようだがそれでも、短期間の内に良くあそこまで“ポール・アギヨン”に関する情報を調べ上げて来てくれたモノだ・・・。そして“モグラ共”に対する連絡もな!!?」
「た、大した事はしておりませんっ。私が行動できたのはあくまでもメイヨールがお貸し下さった金塊とスマートフォン、そしてパスワード解除用の“量子アニーラー”があったればこそでして。あれでエグモント達に連絡を取ったり、セイレーンのパスワードを突破したりする事が出来たのでありますから・・・!!!」
「くっくっくっ。それで良い、その謙虚さがお前の持ち味であり、良い所だな・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
不敵かつ不気味に笑うデュマの気迫にすっかり飲まれてしまっていたオレールは内心で後悔していた、“やはり自分はとんでもない組織に入ってしまったのではないだろうか?”と。
すると。
「なに、そう案ずる事は無い。“我等の悲願”が達成された暁にはお前にも分け前をくれてやろう、それも“たんまり”とな・・・!!!」
「あ、有り難う御座います。デュマ様・・・」
「今後、お前には暫く身を潜めつつも改めて“ミラベル”及び“セイレーン”に対する情報収集を申し付けておくとして・・・。後は」
誰に対するモノでも無くて、ただただ呟くようにデュマは告げた、“あの男との間に決着を着けるだけだな・・・!!!”とそう言って、そしてー。
「あの“量子アニーラー”はお前にやろう。今後も何かあったら使うと良い・・・!!!」
「は、はい。メイヨール、それでは有り難く頂戴いたします・・・」
「オレールッ!!!」
「・・・・・っ。は、ははっ!!?」
「・・・裏切るなよ?」
「・・・・・っ!!?は、ははっ!!!」
そう返事を返して怯えながらも畏まるオレールの姿を満足げに見ていたデュマであったがやがて一頻り、それが済むと笑いながら立ち上がってー。
その漆黒の只中にある、暗闇の部屋から出て行った。
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「エグモント・アードラー」
「アルブレヒト・バッヘム」
「ディートリヒ・ボールシャイト」
「ヨハンネス・ブライテンバッハ」
“以上が”、とセイレーン本部“女王の間”に於いて蒼太、メリアリア、アウロラ3名の目前でオリヴィアが告げた、“今現在判明している彼等四人の姓名だ”とそう続けて。
「調べによるとな?蒼太の睨んだ通りで彼等は全員が“スペツナズ”に在籍していた事が判明している・・・!!!」
「“スペツナズ”ですって!!?」
その言葉に、思わずメリアリアが叫び声を挙げた。
「“イワン雷帝国”の誇る、特殊作戦専門チームじゃないの!!!」
「確か表には一切出て来ない、完全な“裏側担当チーム”だと記憶しておりますけれども・・・!!!」
「そうだ・・・!!!」
メリアリアの発したその言葉に、アウロラも些か狼狽えつつも追随するモノの、そんな二人に対してオリヴィアはあくまでも冷静に、報告書のくだりを読み続ける。
「しかも彼等は揃いも揃って、“プロイセン山岳部出身”だそうだ。そのかどで身体は全員屈強でガタイも良く、また気性も荒いと来ていた。即ち武道をやるには打って付けの人物達だった、と言う訳だよ・・・!!!」
「・・・・・」
その言葉を受けて蒼太は全てに合点が行った、プロイセンの山岳部地方には大柄な男が多いと聞くが、自分が戦った“エグモント”はまさにそれを体現したかのような存在だったからである。
「彼等が“スペツナズ”に所属していたのは、どれ位の期間なんだ?オリヴィア・・・」
「ああ。全員四年前後、と言った所だな。その後は軍を退役して故郷プロイセンで一般市民として生活していた。・・・表向きはな?」
「・・・・・?」
「表、向き・・・?」
「どういう、事ですの・・・?」
「彼等はその後チューリッヒに渡ってはそこで再び市民権を獲得して国民軍に入隊し、そこでも山岳地帯で特殊作戦用の猛特訓を受けていたんだ。・・・蒼太の言う“合気道”を実戦でも充分、通用するレベルにまで高めたのも、この“スペツナズ時代”と“国民軍兵役”での生活期間中に於いてだったらしいな。その後は皆も思っている通りに、“かつて特殊部隊にいた”と言う事を売りにしては欧州各国様々な国や地域でその時々の“裏の仕事”を高額な値段で引き受けていたらしい・・・」
そこまで話すとオリヴィアは、報告書から目を離してその視線を夫へと向けるが彼は何だか浮かない顔で俯いてしまっており、其れ処か徐々に眉間に皺を寄せては厳しい表情を浮かべて行った。
「どうしたんだ?蒼太。事件は無事に解決して奴等の正体も明るみに出て来た、と言うのに・・・」
「いいやまだ、解決はしてはいないよ?オリヴィア・・・ッ!!!」
蒼太がオリヴィアの言葉に対して即座に頭(かぶり)を振るモノの、事実としてこの時、事件から一週間は経っていた、と言うのにも関わらず、その中核に及ぶ情報を彼等はまだ何も掴み取ってはいなかったのであり、そう言う意味では依然として“真犯人の掌の上で躍らされている”と言える状況が続いていた。
エグモント達に付いても同様で、今回の事でいつ、何処で、誰に、何を依頼されたのか、と言う事柄に関しては一切、口を閉ざしたままであり、そう言った意味では今回の出来事に於ける全容解明は、まだまだ程遠い、と言うのが実状であったのである。
「皆にも聞いて欲しいんだけれども・・・。俺としては今回の事にも奴等、“ハウシェプスト協会”の連中が関わっているのではないか、と思っているんだよ・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「ハウシェプスト協会・・・っ!!?」
「い、いやしかし。あれは既に・・・!!!」
「決着が着いた、とは思っていないよ?僕としてはね・・・」
花嫁達全員に驚愕と緊張が走るのが、蒼太にはありありと見て取れたがしかし、彼は“今後の事もあるから”と言っては落ち着き払いつつ言葉を続けた。
「勿論、今現在の捜査過程に於いては彼等の名前は何一つとして出て来てはいないけれども・・・。だけど僕自身としては今回の事でも何か、彼等の様な“超国家間規模でのネットワーク”を誇る組織がエグモント達の背後にいた可能性と言うモノが、どうも頭をチラついて離れないんだよ・・・!!!」
「・・・・・っ。でも、それじゃあ!!!」
「考えてみて欲しいんだよ、メリー。これはアウロラやオリヴィアにもだけれども、前に奴等が関わっていた“ヴァロワ”と“フォンティーヌ”の一件に関しても、今回と全く同様の手口、段取りと言うか、匂いがするだろ?」
「・・・・・っ!!!!!」
「それって、つまり・・・っ!!!」
「エグモント達はあくまでも“実行部隊”として利用されたに過ぎない、と言う事か・・・!!?」
オリヴィアから発せられた言葉に今度は蒼太は頷いて見せた、“それこそが正解だと思うよ?”とそう告げた上で。
「こう言い方をしたら、アウロラには申し訳無いんだけれども・・・。この前は、ヴィクトーさんと言う“手駒”の他に、自前の精鋭部隊である“カインの子供達”と言うのを用意して使って来ただろう?だけれどもあの戦いで彼等は全員が俺達に敗れ去り、その悉(ことごと)くが逮捕されてしまっている事から、もう使えないのは決まっている訳だし・・・。かと言って幹部連中も僕がこの前の戦いで、殆ど全員倒しちゃったから、これも用いる事は出来ない!!!」
“残っているのは”、と蒼太が続けた、“アレクセイ・デュマ本人だけだが、アイツも君達の協力のお陰で何とか退ける事が出来た”と、そう言って。
「解るかい?つまりはもう、この時点でハウシェプスト協会内部には“纏まった有用戦力”は残されていない、と思うんだよ・・・!!!」
「・・・・・っ。そっか!!!」
“そう言う事ね?”とメリアリアが呟いた、“だから今回は外部の戦力を利用せざるを得なかったのね?”とそう言って。
「自分達の元にはもう、私達に対抗出来得る戦力は無い。だからエグモント達を雇ったんだわ、自分達の正体を隠した上でね・・・!!!」
「その通りだよ、メリー。そう考えれば色々と辻褄も合って来るしね・・・!!!」
「・・・・・っ。と言うことはつまり!!?」
「エグモント達を問い詰めたとしても。これ以上は何も出て来る事は無い、と・・・?」
「多分ね」
オリヴィアの言葉に、蒼太がまた頷いて見せた。
「だけどここで気になって来るのが、例の“オレール”と言う男の行方と果たしてきた役割に付いてなんだけれども・・・。彼は今現在、どう言う扱いになってるの?」
“ああ、それならば”とオリヴィアが蒼太の質問に答えて述べた、“行方不明になっているそうだ”とそう告げて。
「彼はルテティア郊外にある、三階建てアパートメントで独り暮らしをしている事が解っているのだがな。事件が発覚してからと言うモノ家には帰っていないらしく、張り込みを続けている仲間達からも、有力な情報は得られていないのが現状だ・・・!!!」
「・・・・・」
「“彼”が、どうかしたのか?」
「・・・オリヴィア。僕はね?今回の事ではこの男こそが“ハウシェプスト協会”と“エグモント達”の仲を取り持ったんじゃないか、と考えているんだよ」
“そうで無ければ”と蒼太が言った、“この事件に於けるオレールの行動や立ち位置、存在意義と言うモノが、イマイチ見えて来ないんだ”とそう告げて。
「しかしエグモント達は何も答えてはいないぞ?繰り返すが彼等は・・・!!!」
「別にエグモント達に直接接触しなくとも、“仕事”を依頼する事位は出来るだろう?そして情報を渡す事も・・・!!!」
“考えてみて欲しいんだ”と蒼太は続けた、“彼は区役所で勤務に就いていた、と言う事は即ち、国家公務員の資格を持っていたって事だろう?”とそう述べて。
「公務員試験を勉強したのであれば、恐らくは数学や時事問題で“ヒルベルト空間論”や“フォン・ノイマン”、そして“量子コンピューター”の事に付いても勉強した筈なんだ。そして徴税課勤務、と言う事は即ち、電話での応対やパソコンを用いての情報収集、情報整理なんかも、お手の物だっただろう。彼の様な人材を、ハウシェプスト協会が放っておく筈が無いよ・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「そう言えば・・・!!!」
蒼太のその言葉を受けてオリヴィアが語り始めた、“彼はニヒリズムを信奉していたらしいんだ”とそう告げて。
「ニヒリズムだって?こんな御時世に!!?」
「ニヒリズムって確か。ニーチェの唱えた・・・!!?」
「ああ、そうだ」
蒼太とメリアリアの発した言葉に、オリヴィアが頷いて見せるモノの彼女の話によるとこのオレールと言う男は臆病な上に猜疑心が強い性格であり、楽天的な考え方がどうにも性に合わないらしかった。
それだけではない、物事を全て理詰めで考えて行くその思考パターンから段々と唯物主義やニヒリズムに傾倒して行ってしまって、そう言う話題になると人が変わったように饒舌になっていたらしい、との事だったのだ。
「彼自身は何かに付けて斜めに構えていた男だったらしくてな。度々人前で大声で神や愛と言ったモノを否定しては周囲をドン引きさせる事も珍しく無かったそうなのだ。そのかどで、あまり友人と呼べる存在はいなかったらしくてな。常に独りで仕事に当たっていたらしいぞ?」
「ニヒリズムか。あんなの信奉していたのならば、人生なんて少しも楽しく無かっただろうに・・・!!!」
蒼太が困ったように笑いながら頷いて見せるモノの、一方で彼はますます確信を深めて行った、ある程度の社会的地位を得ていて唯物主義でニヒリズム信奉者、と来ればハウシェプスト協会の求めている人材と、恐ろしい程に特徴が一致している、いつ頃からかは定かでは無いにしても、それでも彼が協会への関わりを深めて行ったのは、恐らくは間違いないだろう。
「そのオレールが行方不明になってから、つまりは事件が発覚してから今日で丁度一週間か。恐らくはハウシェプスト協会の何処ぞの支部か何かに匿われている事だろうけれども・・・。それにしてもどうしてポール氏を・・・?」
「・・・“量子コンピューター”」
そんな夫の一人言に、メリアリアが素早く反応した、“多分だけれど、ハウシェプスト協会の奴等は量子コンピューターが欲しかったんじゃないかしら?”とそう告げて。
「連中が量子コンピューターを?何の為に・・・?」
「それは私にも、よく解らないけれど・・・。だけどこの世の中をひっくり返そうとしているような連中の考える事でしょ?だとしたら最新式の装備を手に入れて、それを自分達の計画達成の為に使おうとしても、ちゃんちゃらおかしな事では無いわ・・・!!!」
「・・・・・っ。そうか!!!」
そんな愛妻淑女(メリアリア)からの言葉を受けて、蒼太も直ぐさま合点が行った、“それでポールさんを連れ去ったのか”と膝を打って頷いて言う。
「だけど確かに、量子コンピューターが犯罪に使われるような事にでもなれば コイツはとんでもなく厄介だぞ?何しろこっちが事件を未然に防ごうとする手立てを全て、“可能性の領域”で予測して、それらを逆に擦り抜ける方法を考案して来る、と言う事になるんだからな!!!」
「そんな、それでは!!!」
アウロラが悲鳴に近い声で絶叫した、“どうやっても犯人の狙いを遮る事が、出来なくなるではありませんか!!!”とそう告げて。
「その通りだよ、アウロラ。それに確かに、奴等は“超国家間ネットワーク”を持っている連中だ、その“情報伝達網”を最新のモノにバージョンアップさせる為にも、量子コンピューターを求めたのかも知れないね・・・!!?」
「ねえ、あなた・・・」
するとそこまで彼の話を聞いていたメリアリアがまた疑問を呈してきた、“本当にそれだけのために量子コンピューターが必要になると思う?”とそう言って。
「だってそうでしょう?相手がもし、“量子コンピューター”を使用するのならば、こっちも“量子コンピューター”を使って相手の出方の対策を立てれば、お互い“手詰まり”の状態になって。つまりはそれは結果として、犯人側の狙いを頓挫させる事にもなりかねないでしょ?」
「・・・・・っ。あ、そっか!!!」
「確かに当初のポール氏の話によれば、犯人側は“事が済めば彼を解放する”と言っていたみたいだしな・・・?」
「そうよ」
そんなオリヴィアの言葉に今度はメリアリアが頷いて見せた、“量子コンピューターは何(いず)れは各国が持つようになるのだから、ただそれだけの為にポールさんを誘拐したとしても結局は時間の問題にしかならなかったでしょうに”と。
「なにかもっと、大きな目的があったんじゃないかしら?例えば今、この時期に量子コンピューターさえ作り出せれば後はどうとでもなるような思惑が・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
そんな愛妻淑女(メリアリア)の話を聞き終えた時に、蒼太の頭にはある閃きが走った、彼女の言っている事は紛う事無き正論であり、確かに蒼太もその点を考慮しないでは無かったモノの、しかし。
(もしここに。何某かの最新兵器を結びつけたら如何だろう?例えば何でも良い、“AIエンペラー”のような、量子コンピューターを使えば著しいまでのパワーアップが見込める人工知能に、実際に回路を接続させてそれを更に5Gネットワークに取り入れる。するとどう言った事が起きる事になるか・・・?)
そこまで考えた時に蒼太は、ある一つの結論に達した、それというのは。
「“AIエンペラー”は今、もしかしたならバチカンにあるのかも知れない」
それであった。
「“AIエンペラー”って。この前あなたが言っていた、あの・・・?」
「確か対象物を異次元の狭間に放逐する事が出来る、と言う人工知能兵器の事ですわね・・・!!!」
メリアリアとアウロラの言葉に蒼太が、“そうだ”と頷いて見せるモノの、“特に”と彼は続けて言った、“あれは5Gシステムと組み合わされた時にこそ、その真価を発揮するように組まれているんだ!!!”とそう言って。
「5Gシステムの放つ総エネルギー量は、4Gのそれとは比べ物にならない位にデカいからね?もしそれだけの“高周波電磁変動照射”に、AIエンペラーの祝詞の持つ、“超能力的音波変動”を重ね合わせたとしたら・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「相手はまず、間違いなく異世界へと飛ばされる・・・!!!」
「その通りだよ、アウロラ。しかもこれならばメリーの言う通り、こっちが量子コンピューターを持っていようと関係ない。何故ならばAIエンペラーは一台しか無いのだからね。相手からの攻撃を抑止する所か、防ぐことも叶わなくなるだろう・・・!!!」
「・・・・・っ。じゃあ、あなた。ハウシェプスト協会の本当の狙いって言うのは!!!」
「“偽キリストシステム”の最終構築にあったんだろうね、それがポール氏誘拐の真の目的だったんだろう。フォン・ノイマンと同じく、“ヒルベルト空間論”を熟知すると同時に彼と同じ視点を持ち、尚且つ“量子コンピューター”の重要性に付いても認識している“量子システムエンジニア”のポール氏を攫って来て“量子コンピューター”を完成させ、それを“AIエンペラー”に搭載させる。そこに更に“5Gネットワークシステム”を接続させればもう、“人工知能の神”の誕生さ。そんな事にでもなれば、奴等にとっては圧倒的に有利な国際情勢が出来上がっていた事だっただろう!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「なんて恐ろしい・・・っ!!!」
「冗談では無いぞ?上に報告して対策を練らなければならない事態では無いか!!!」
真剣な顔でそう意気込むオリヴィアに対して蒼太は悔しそうに言い放った、“無駄だよオリヴィア”とそう告げて。
「今、話した事柄に付いてはこの段階ではなんら確証も物証も得られていない、あくまで僕の考えたストーリーに過ぎないんだよ。この状態で君がもし、“敵がこんな事を考えている可能性がある”と言っても、誰も相手になんか、してくれやしないだろうさ・・・!!!」
「そ、そんな・・・っ!!!」
「あんまりです・・・っ!!!」
「何とかならないのか・・・?」
「方法は、たった一つしか無い。事情を知っているであろう“オレール”を捕まえて吐かせる事。これだけなんだけれども・・・!!!」
蒼太が暗い表情のままにそう告げると、“花嫁達”もどうすれば良いのかと、思案に暮れる事となったが、そんな矢先に。
「ちょっと、良いかな・・・?」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「貴方は・・・っ!!!」
「ポールさん・・・!!!」
“女王の間”の出入り口に当たる両開き式の分厚い自動扉の方向から人の気配が近付いて来た為に、全員がそちらの方を向き直るとドアがシュッと静かに素早く左右に開いてそこには先週救出された張本人である、ポール・アギヨンその人が立っていた。
彼は一日、二日と検査の為に“第1ルテティア総合病院”へと入院する運びとなっていたのであるが、“異常なし”とされて即日退院、任務に復帰していたのである。
「先日は大変、世話になったな。助けてもらって本当に感謝している・・・!!!」
「実際に貴方を助けるべく奔走したのはこの子達です、礼ならば彼女達に・・・」
「何を言うんだ!!!」
御礼が苦手な事もあって謙遜を露わにする蒼太に対し、“君だって大層、活躍していたじゃないか!!!”とポールは笑顔でそう告げて来た、彼に近寄ると同時にポンポンと肩を軽く、親しみを込めて叩きながら。
「何にしても大したチームだよ、君達は!!!ミラベルやプラムでも君達の話題で持ち切りになっていたぞ?次世代の新戦力が順当に育ちつつある、と。そう噂になっていたよ・・・!!!」
「・・・・・」
「そ、そんなこと・・・!!!」
「な、なんだか照れますわね。表立ってそう言われると・・・!!!」
「賞賛されるのは嫌いでは無いが、しかし直接告げられるのは面映ゆいな・・・!!!」
ポールの放ったその言葉に、三人が俯き加減で照れつつも、それでも満更でも無い様子で嬉しそうに微笑んでいると、そんな彼女達に代わって蒼太がポールに礼を述べた。
「どうも有り難う御座います、ポールさん。最高の褒め言葉です・・・!!!」
「いやいや。君達の実力と実績とがもたらした、当然の評価だよ。もっと胸を張っても良いんだぞ・・・?ところで」
とそこまで言い終えたポールが今度は不意に尋ねて来た、“こんな所に四人で集まって一体、何をしていたのだね?”とそう告げて。
すると。
「今回の事件の報告書を、全員に読み聞かせていた所であります!!!」
オリヴィアが答えて言った。
「先日のあなたの誘拐未遂事件に関する報告書が出来上がって参りましたので、それの中身を全員で共有したいと思いまして・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・ねえ、あなた。あなた!!!」
「んん?なんだい、メリー・・・」
「さっきの話、ポールさんにしてみたら良いんじゃ無いかしら?今のポールさんならば、単なるストーリーじゃなくて現実味のある話として受け取ってくれるかも知れないし・・・!!!」
「・・・・・っ。なるほど!!!」
それもそうか、とメリアリアがヒソヒソ声で伝えて来た言葉に納得した蒼太はこれ幸いとポールに向き合い、今し方自分達がしていた話の内容を彼に聞かせてその反応を見ることにしたのだ。
即ち。
“ポール氏の誘拐の目的”、“AIエンペラーと5Gネットワーク”、そして“オレールの身柄確保の重要性”に付いてであるモノの、すると。
「なるほど、コイツは・・・」
“とんでもなく厄介な事になってきているな・・・!!!”とポールは険しい表情となって、未だに何の証拠も挙がっていない筈の蒼太の話に対して真摯な姿勢で耳を傾けてくれたのである。
「確かに連中の異常性と言うか、大掛かりな行動パターンから紐解いて行けば、そう言う話も現実的には有り得るかも知れないが・・・。それにしても“AIエンペラー”とはな・・・!!!」
“合衆国(ステイツ)の最新兵器か・・・!!!”と呻いてポールは暫し、押し黙ってしまうが、しかし。
「蒼太君。確かに君の考えは中々に面白い、しかしどれ程深みのある考察だろうとやはり、証拠が無いのは痛いな。それでは恐らくこの話、誰にも聞いてもらえないだろうし、よしんば聞いてもらえたとしても、組織を動かす事は出来ないだろう・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「そんな・・・っ!!!」
「そう、ですよね?やっぱり・・・」
ポールの発したその言葉に、“やはり無理だったか・・・!!!”と気落ちする蒼太であったがそんな彼を見かねたのだろうポールが、“まあ待て・・・”と再び声を掛けて来る。
「あくまでも私が言ったのは、“今のままでは”と言う事だよ。要するにれっきとした証拠、或いは証人が出て来れば、話はまた変わって来るだろう・・・」
「・・・・・?え、ええ。まあ、そう言う訳ではあるんですけれども。しかし肝心要のそれらが今の所何処にも無く、また誰も居ないのが現状なんです。せめてオレールの行方さえ判明していたのならば、彼を捕縛して尋問し、情報を吐かせる事も可能でしょうに・・・!!!」
「その事なんだかね、蒼太君・・・」
ポールが何やら得意気な笑みを浮かべて言葉を続けた、“我々は既に、オレールの居場所を突き止めているかも知れないんだ!!!”とそう告げて。
「なんですって!!?」
「本当なんですか!!?」
自身から伝えたその情報に、そう言って驚いたような顔となり、問い質して来る蒼太とメリアリアに対してポールはゆっくり頷いてからこう答えた、“彼がハウシェプスト協会に関わっていたかも知れないと言う、君の話があっただろう?”とそう続けて。
「実はな。オレールの自宅の直ぐ側に、彼が事件前からちょくちょく足を運んでいた、ちょっと小洒落た“カフェバー”があってな?そこの地下に何やら大規模な集会場と言うか、礼拝堂のようなモノがあるらしいのだが・・・。ここが“ルテティア”に於ける、“ハウシェプスト協会”の支部では無いのか?と言う疑惑がある・・・!!!」
「そいつは・・・!!!」
「しかも、だ。事件当日の昼頃に、その近辺で路上生活を営んでいるホームレスが、オレール本人がそのカフェバーに入って行くのを目撃しているんだよ。・・・そして彼はそこから二度と再び出て来る事は無かったそうだ、足取りもプッツリとここで途絶えている」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「そんなこと・・・っ!!!」
「そんな情報は、此方のネットワークシステムには、未だに回って来てはいないですが!!?」
「ち、ちょっと落ち着きたまえ・・・!!!」
叫ぶようにそう言いつつも、自身に向かって詰め寄る姿勢を見せていた四人に対して、ポールが慌てて自制を呼び掛ける。
「これにはちょっとした訳があってな?私も出社して会議でつい昨日、聞いたばかりの報告なのだ。事情を問い質した所、まだ裏付けの取れていない、“未確認情報”との事でな?そう言う訳だったから“公の場で出すべきモノではない”とされ、更なる調査を待って君達に伝えよう、と言う手筈になっていたのだよ・・・」
“ただ”とポールが続けて述べた、“もし君達の想像通りの事態が進行していたとするならば、コイツは由々しき大問題だ!!!”とそう言って。
「だから君達にも伝える事にしたんだよ、もし万が一にも、“ハウシェプスト協会”の連中がそんな事を考えているとするのならば、これは絶対に見過ごす事は出来ん。事は一刻を争うのだ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「蒼太君。そしてメリアリア君達にも改めてお願いしたいのだが、今すぐとは言わない。明後日か明明後日位からでも良い、この建物の調査に参加してもらえないだろうか。元々こっちは“プラム”の隊員達に任せようかと思っていた案件なのだが、君達ならば彼等に負けず劣らずの活躍をしてくれるのでは無いか、と期待している!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ソイツは“命令”ですか・・・?」
蒼太からの問い掛けに、佇まいを糺したポールはゴホンッと咳き込み、こう続けた、“そうだ”と、“ミラベル本部から下された指示と、同レベルの効力がある命令だと思ってもらいたい”とそう述べて。
「と言っても、危険な場所まで行くのはあくまで“プラム”の隊員達に任せて君達には周囲の警戒と見張りを主に頼みたいんだ。何しろまだ、“ハウシェプスト協会”が入っているかどうかは解っていない状況にある、それとは別系統の“何か”がその礼拝堂を使用しているのかも知れんのだからな。ただ何れにせよ、そこに出入りしている人の波は常に把握しておきたいのだ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
暫しの沈黙の後にー。
四人は全員で顔を見合わせて頷き合うとポールに向き直り、こう答えた、“了解であります”とそう言って。
「明日、明後日と十二分に休みを取ってもらって。明明後日からの活動に参加してもらいたい。・・・現場には連絡を付けておく、住所その他は、後で纏めて資料を送るよ。各自、それで確認してくれ・・・。それではな」
“期待しているよ?蒼太君。・・・君には特にな”と帰り際にポールは静かにそう告げて、“女王の間”を後にした。
後に残された蒼太達は。
真相究明を志していた事と、“世界をハウシェプスト協会の様な連中の好きにされた堪るか!!!”と言う義憤から(あとついでに言えば、“命令”だった為に断るに断れなかった、と言う事情も加わって)敢えて引き受けはしたモノの、“また面倒臭い仕事を任されたモノだ”と内心で辟易しつつも任務に当たる事になったのである。
もし余りにも反抗的な態度が過ぎると、それもやはり裁判の対象となり、もしその席で“非が此方にある”となった場合にはセイレーンやミラベルを追放されます(追放された後はもう、国家権力に属しているどの組織からも入れてはもらえません。つまりは完全なる“村八分状態”となるのです)、後はもう、表舞台に戻る事は出来ずにヒッソリと生きて行く事になるのです(貴族であっても同様です、社交界から“追放”されます)。
もっと解りやすく言ってしまいますと、“セイレーン”や“ミラベル”への入隊を断ったのと同じ立場に立たされるのです。
ーーーーーーーーーーーーーー
「またしても阻止された、だと・・・?」
「はは・・・っ!!!」
暗闇の中で“男”は“影の女王”に平伏しつつも事の顛末を伝え続けた、“ポール・アギヨンの誘拐には成功したこと”、“しかしそれを早々と見抜かれては検閲体制を敷かれてしまい、逆にユーロ・エアポートにて一網打尽にされてしまったこと”、“実行部隊はその悉(ことごと)くが捕縛されてしまい、音信不通になってしまっていること”等を恐懼しながら述べ立てて行くモノの、しかし。
「・・・結局それで。“万能型量子コンピューター”及び“接続回路”を開発すべき人材は確保しそびれた、とそう言う訳だな?」
「ははっ。まことに恐れ多き次第にて・・・!!!」
「あの馬鹿者共めが、しくじりおってからに・・・っ!!!」
“男”の報告に“影の女王”は忌々し気にそう言い放つが、するとその怒りの波動が男の喉に纏わり付いては無意識の内に“ギュウゥゥッ、ギュウゥゥッ!!!”と締め上げて行くモノの、それに気付いた“影の女王”は直ぐさま平静さを取り戻して、言った。
「我等の悲願。“偽キリスト計画”発動までにはもう幾許(いくばく)の猶予も無い、と言うのに・・・」
「・・・・・」
「“AIエンペラー”は既にバチカンへと運び込まれているのだ。“5Gネットワーク”も欧州各国で準備が整いつつある、と言うのに。後はそれらを繋いで“偽キリストシステム”を稼働させる回路を作り出せる人材が必要だった、それこそがあの男、“ポール・アギヨン”だったのだがな・・・!!!」
「ははっ。キング・カイザーリン。それは・・・っ!!!」
“それだけではない”と“影の女王”こと“キング・カイザーリン”は続けて言った、“AIの古典的なシステムを、最新式の量子コンピューター型のそれへと改良出来得る可能性があった男でもあったのだがな”とそう告げて。
「返す返すも無念な事よ。折角以てここまで作り上げて来た努力の結晶が、今回の事で完成が遠退いてしまったわ!!!」
「・・・・・」
“まあ良い”と、それでも尚も余裕を見せつつ“キング・カイザーリン”は悍(おぞ)ましい声色で言葉を吐き出し続けた、“我等の計画は最早、最終段階に入っている。この流れを止める事は、誰にも出来はせぬであろう”と。
「キング・カイザーリン。左様に予言なさいますか?」
「なんだ?デュマよ。お前には何か、障害が見えると言うのか?」
「お忘れではありますまい。我等の側近3名を打ち破って消滅させ、この私にまでをも深手を負わせた東洋人の男の事を・・・!!!」
「・・・・・」
「あの事だけでは御座いませぬ。どうやらあの男、今回の事にも関わっている様子で御座いますれば・・・!!!」
「“時と運命の調律者”か・・・」
呟くように独りごちると“キング・カイザーリン”は何事かを思案していたモノの、やがて再び口を開いて“男”に告げた、“お前はどうしたいのだ?デュマよ”とそう言って。
「これは最早、私事では御座いませぬ。それ故にお伺いを立てているので御座いますれば・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“よく解った”とキング・カイザーリンは改めてその男、デュマに言葉を投げ掛けた、“ヤツを消せ!!!”とそう告げて。
「目下、ガリア帝国を根城にしているようだがな。多少は目障りになってきた・・・!!!」
「はは、カイザーリン・・・!!!」
「時期や方法、具体的な計画等は全てお前に一任する。・・・ただし」
「・・・・・?」
「これ以上、“組織”の傷を広げる事は許さん。・・・承知しているな?」
「よく、解って御座います・・・!!!」
「考えてみればお前達、“アンチ・クライスト・オーダーズ”も壊滅状態に陥ってしまっていたか。酷いものだな・・・」
「面目次第も御座いません。しかしキング・カイザーリン、次こそは必ずや・・・」
「・・・もし」
カイザーリンは続けた、“もしその男を討ち取る事が不可能だと判断したならば、その時は無理はしなくても良い”とそう言って。
「・・・・・?」
「なに、別段お前の復讐心に水を差すような真似はせぬよ。ただあくまでも“我等の悲願”達成を最優先にせよ、と言いたいだけだ・・・!!!」
「ははっ。カイザーリン・・・」
「“我が夫”もそれを心待ちにしている。その事は肝に銘じておけ!!!」
「はは・・・っ!!!」
それだけ告げると。
“キング・カイザーリン”の影は暗闇の中で揺らぎながら、その存在を入滅させた。
後に残されたのは“メイヨール・デュマ”と部屋の片隅で震えたまま跪いている、もう一名の配下の男のみであったのだ。
「・・・これで良い」
デュマは嬉しそうにほくそ笑んだ、“これであの男と正面切って決着を着ける事が出来る!!!”とそう言って。
「オレール!!!」
「は、ははっ。メイヨール・・・!!!」
デュマに自らの名前を呼ばれ、縮こまっていた男がおっかなびっくり立ち上がるモノの、この男こそが先日、蒼太が資料室を訪れた際に最重要関係者と目した男、“オレール・ポドワン”本人であった。
「お前もご苦労だったな。まあ“追われる身”となってしまったようだがそれでも、短期間の内に良くあそこまで“ポール・アギヨン”に関する情報を調べ上げて来てくれたモノだ・・・。そして“モグラ共”に対する連絡もな!!?」
「た、大した事はしておりませんっ。私が行動できたのはあくまでもメイヨールがお貸し下さった金塊とスマートフォン、そしてパスワード解除用の“量子アニーラー”があったればこそでして。あれでエグモント達に連絡を取ったり、セイレーンのパスワードを突破したりする事が出来たのでありますから・・・!!!」
「くっくっくっ。それで良い、その謙虚さがお前の持ち味であり、良い所だな・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
不敵かつ不気味に笑うデュマの気迫にすっかり飲まれてしまっていたオレールは内心で後悔していた、“やはり自分はとんでもない組織に入ってしまったのではないだろうか?”と。
すると。
「なに、そう案ずる事は無い。“我等の悲願”が達成された暁にはお前にも分け前をくれてやろう、それも“たんまり”とな・・・!!!」
「あ、有り難う御座います。デュマ様・・・」
「今後、お前には暫く身を潜めつつも改めて“ミラベル”及び“セイレーン”に対する情報収集を申し付けておくとして・・・。後は」
誰に対するモノでも無くて、ただただ呟くようにデュマは告げた、“あの男との間に決着を着けるだけだな・・・!!!”とそう言って、そしてー。
「あの“量子アニーラー”はお前にやろう。今後も何かあったら使うと良い・・・!!!」
「は、はい。メイヨール、それでは有り難く頂戴いたします・・・」
「オレールッ!!!」
「・・・・・っ。は、ははっ!!?」
「・・・裏切るなよ?」
「・・・・・っ!!?は、ははっ!!!」
そう返事を返して怯えながらも畏まるオレールの姿を満足げに見ていたデュマであったがやがて一頻り、それが済むと笑いながら立ち上がってー。
その漆黒の只中にある、暗闇の部屋から出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「エグモント・アードラー」
「アルブレヒト・バッヘム」
「ディートリヒ・ボールシャイト」
「ヨハンネス・ブライテンバッハ」
“以上が”、とセイレーン本部“女王の間”に於いて蒼太、メリアリア、アウロラ3名の目前でオリヴィアが告げた、“今現在判明している彼等四人の姓名だ”とそう続けて。
「調べによるとな?蒼太の睨んだ通りで彼等は全員が“スペツナズ”に在籍していた事が判明している・・・!!!」
「“スペツナズ”ですって!!?」
その言葉に、思わずメリアリアが叫び声を挙げた。
「“イワン雷帝国”の誇る、特殊作戦専門チームじゃないの!!!」
「確か表には一切出て来ない、完全な“裏側担当チーム”だと記憶しておりますけれども・・・!!!」
「そうだ・・・!!!」
メリアリアの発したその言葉に、アウロラも些か狼狽えつつも追随するモノの、そんな二人に対してオリヴィアはあくまでも冷静に、報告書のくだりを読み続ける。
「しかも彼等は揃いも揃って、“プロイセン山岳部出身”だそうだ。そのかどで身体は全員屈強でガタイも良く、また気性も荒いと来ていた。即ち武道をやるには打って付けの人物達だった、と言う訳だよ・・・!!!」
「・・・・・」
その言葉を受けて蒼太は全てに合点が行った、プロイセンの山岳部地方には大柄な男が多いと聞くが、自分が戦った“エグモント”はまさにそれを体現したかのような存在だったからである。
「彼等が“スペツナズ”に所属していたのは、どれ位の期間なんだ?オリヴィア・・・」
「ああ。全員四年前後、と言った所だな。その後は軍を退役して故郷プロイセンで一般市民として生活していた。・・・表向きはな?」
「・・・・・?」
「表、向き・・・?」
「どういう、事ですの・・・?」
「彼等はその後チューリッヒに渡ってはそこで再び市民権を獲得して国民軍に入隊し、そこでも山岳地帯で特殊作戦用の猛特訓を受けていたんだ。・・・蒼太の言う“合気道”を実戦でも充分、通用するレベルにまで高めたのも、この“スペツナズ時代”と“国民軍兵役”での生活期間中に於いてだったらしいな。その後は皆も思っている通りに、“かつて特殊部隊にいた”と言う事を売りにしては欧州各国様々な国や地域でその時々の“裏の仕事”を高額な値段で引き受けていたらしい・・・」
そこまで話すとオリヴィアは、報告書から目を離してその視線を夫へと向けるが彼は何だか浮かない顔で俯いてしまっており、其れ処か徐々に眉間に皺を寄せては厳しい表情を浮かべて行った。
「どうしたんだ?蒼太。事件は無事に解決して奴等の正体も明るみに出て来た、と言うのに・・・」
「いいやまだ、解決はしてはいないよ?オリヴィア・・・ッ!!!」
蒼太がオリヴィアの言葉に対して即座に頭(かぶり)を振るモノの、事実としてこの時、事件から一週間は経っていた、と言うのにも関わらず、その中核に及ぶ情報を彼等はまだ何も掴み取ってはいなかったのであり、そう言う意味では依然として“真犯人の掌の上で躍らされている”と言える状況が続いていた。
エグモント達に付いても同様で、今回の事でいつ、何処で、誰に、何を依頼されたのか、と言う事柄に関しては一切、口を閉ざしたままであり、そう言った意味では今回の出来事に於ける全容解明は、まだまだ程遠い、と言うのが実状であったのである。
「皆にも聞いて欲しいんだけれども・・・。俺としては今回の事にも奴等、“ハウシェプスト協会”の連中が関わっているのではないか、と思っているんだよ・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「ハウシェプスト協会・・・っ!!?」
「い、いやしかし。あれは既に・・・!!!」
「決着が着いた、とは思っていないよ?僕としてはね・・・」
花嫁達全員に驚愕と緊張が走るのが、蒼太にはありありと見て取れたがしかし、彼は“今後の事もあるから”と言っては落ち着き払いつつ言葉を続けた。
「勿論、今現在の捜査過程に於いては彼等の名前は何一つとして出て来てはいないけれども・・・。だけど僕自身としては今回の事でも何か、彼等の様な“超国家間規模でのネットワーク”を誇る組織がエグモント達の背後にいた可能性と言うモノが、どうも頭をチラついて離れないんだよ・・・!!!」
「・・・・・っ。でも、それじゃあ!!!」
「考えてみて欲しいんだよ、メリー。これはアウロラやオリヴィアにもだけれども、前に奴等が関わっていた“ヴァロワ”と“フォンティーヌ”の一件に関しても、今回と全く同様の手口、段取りと言うか、匂いがするだろ?」
「・・・・・っ!!!!!」
「それって、つまり・・・っ!!!」
「エグモント達はあくまでも“実行部隊”として利用されたに過ぎない、と言う事か・・・!!?」
オリヴィアから発せられた言葉に今度は蒼太は頷いて見せた、“それこそが正解だと思うよ?”とそう告げた上で。
「こう言い方をしたら、アウロラには申し訳無いんだけれども・・・。この前は、ヴィクトーさんと言う“手駒”の他に、自前の精鋭部隊である“カインの子供達”と言うのを用意して使って来ただろう?だけれどもあの戦いで彼等は全員が俺達に敗れ去り、その悉(ことごと)くが逮捕されてしまっている事から、もう使えないのは決まっている訳だし・・・。かと言って幹部連中も僕がこの前の戦いで、殆ど全員倒しちゃったから、これも用いる事は出来ない!!!」
“残っているのは”、と蒼太が続けた、“アレクセイ・デュマ本人だけだが、アイツも君達の協力のお陰で何とか退ける事が出来た”と、そう言って。
「解るかい?つまりはもう、この時点でハウシェプスト協会内部には“纏まった有用戦力”は残されていない、と思うんだよ・・・!!!」
「・・・・・っ。そっか!!!」
“そう言う事ね?”とメリアリアが呟いた、“だから今回は外部の戦力を利用せざるを得なかったのね?”とそう言って。
「自分達の元にはもう、私達に対抗出来得る戦力は無い。だからエグモント達を雇ったんだわ、自分達の正体を隠した上でね・・・!!!」
「その通りだよ、メリー。そう考えれば色々と辻褄も合って来るしね・・・!!!」
「・・・・・っ。と言うことはつまり!!?」
「エグモント達を問い詰めたとしても。これ以上は何も出て来る事は無い、と・・・?」
「多分ね」
オリヴィアの言葉に、蒼太がまた頷いて見せた。
「だけどここで気になって来るのが、例の“オレール”と言う男の行方と果たしてきた役割に付いてなんだけれども・・・。彼は今現在、どう言う扱いになってるの?」
“ああ、それならば”とオリヴィアが蒼太の質問に答えて述べた、“行方不明になっているそうだ”とそう告げて。
「彼はルテティア郊外にある、三階建てアパートメントで独り暮らしをしている事が解っているのだがな。事件が発覚してからと言うモノ家には帰っていないらしく、張り込みを続けている仲間達からも、有力な情報は得られていないのが現状だ・・・!!!」
「・・・・・」
「“彼”が、どうかしたのか?」
「・・・オリヴィア。僕はね?今回の事ではこの男こそが“ハウシェプスト協会”と“エグモント達”の仲を取り持ったんじゃないか、と考えているんだよ」
“そうで無ければ”と蒼太が言った、“この事件に於けるオレールの行動や立ち位置、存在意義と言うモノが、イマイチ見えて来ないんだ”とそう告げて。
「しかしエグモント達は何も答えてはいないぞ?繰り返すが彼等は・・・!!!」
「別にエグモント達に直接接触しなくとも、“仕事”を依頼する事位は出来るだろう?そして情報を渡す事も・・・!!!」
“考えてみて欲しいんだ”と蒼太は続けた、“彼は区役所で勤務に就いていた、と言う事は即ち、国家公務員の資格を持っていたって事だろう?”とそう述べて。
「公務員試験を勉強したのであれば、恐らくは数学や時事問題で“ヒルベルト空間論”や“フォン・ノイマン”、そして“量子コンピューター”の事に付いても勉強した筈なんだ。そして徴税課勤務、と言う事は即ち、電話での応対やパソコンを用いての情報収集、情報整理なんかも、お手の物だっただろう。彼の様な人材を、ハウシェプスト協会が放っておく筈が無いよ・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「そう言えば・・・!!!」
蒼太のその言葉を受けてオリヴィアが語り始めた、“彼はニヒリズムを信奉していたらしいんだ”とそう告げて。
「ニヒリズムだって?こんな御時世に!!?」
「ニヒリズムって確か。ニーチェの唱えた・・・!!?」
「ああ、そうだ」
蒼太とメリアリアの発した言葉に、オリヴィアが頷いて見せるモノの彼女の話によるとこのオレールと言う男は臆病な上に猜疑心が強い性格であり、楽天的な考え方がどうにも性に合わないらしかった。
それだけではない、物事を全て理詰めで考えて行くその思考パターンから段々と唯物主義やニヒリズムに傾倒して行ってしまって、そう言う話題になると人が変わったように饒舌になっていたらしい、との事だったのだ。
「彼自身は何かに付けて斜めに構えていた男だったらしくてな。度々人前で大声で神や愛と言ったモノを否定しては周囲をドン引きさせる事も珍しく無かったそうなのだ。そのかどで、あまり友人と呼べる存在はいなかったらしくてな。常に独りで仕事に当たっていたらしいぞ?」
「ニヒリズムか。あんなの信奉していたのならば、人生なんて少しも楽しく無かっただろうに・・・!!!」
蒼太が困ったように笑いながら頷いて見せるモノの、一方で彼はますます確信を深めて行った、ある程度の社会的地位を得ていて唯物主義でニヒリズム信奉者、と来ればハウシェプスト協会の求めている人材と、恐ろしい程に特徴が一致している、いつ頃からかは定かでは無いにしても、それでも彼が協会への関わりを深めて行ったのは、恐らくは間違いないだろう。
「そのオレールが行方不明になってから、つまりは事件が発覚してから今日で丁度一週間か。恐らくはハウシェプスト協会の何処ぞの支部か何かに匿われている事だろうけれども・・・。それにしてもどうしてポール氏を・・・?」
「・・・“量子コンピューター”」
そんな夫の一人言に、メリアリアが素早く反応した、“多分だけれど、ハウシェプスト協会の奴等は量子コンピューターが欲しかったんじゃないかしら?”とそう告げて。
「連中が量子コンピューターを?何の為に・・・?」
「それは私にも、よく解らないけれど・・・。だけどこの世の中をひっくり返そうとしているような連中の考える事でしょ?だとしたら最新式の装備を手に入れて、それを自分達の計画達成の為に使おうとしても、ちゃんちゃらおかしな事では無いわ・・・!!!」
「・・・・・っ。そうか!!!」
そんな愛妻淑女(メリアリア)からの言葉を受けて、蒼太も直ぐさま合点が行った、“それでポールさんを連れ去ったのか”と膝を打って頷いて言う。
「だけど確かに、量子コンピューターが犯罪に使われるような事にでもなれば コイツはとんでもなく厄介だぞ?何しろこっちが事件を未然に防ごうとする手立てを全て、“可能性の領域”で予測して、それらを逆に擦り抜ける方法を考案して来る、と言う事になるんだからな!!!」
「そんな、それでは!!!」
アウロラが悲鳴に近い声で絶叫した、“どうやっても犯人の狙いを遮る事が、出来なくなるではありませんか!!!”とそう告げて。
「その通りだよ、アウロラ。それに確かに、奴等は“超国家間ネットワーク”を持っている連中だ、その“情報伝達網”を最新のモノにバージョンアップさせる為にも、量子コンピューターを求めたのかも知れないね・・・!!?」
「ねえ、あなた・・・」
するとそこまで彼の話を聞いていたメリアリアがまた疑問を呈してきた、“本当にそれだけのために量子コンピューターが必要になると思う?”とそう言って。
「だってそうでしょう?相手がもし、“量子コンピューター”を使用するのならば、こっちも“量子コンピューター”を使って相手の出方の対策を立てれば、お互い“手詰まり”の状態になって。つまりはそれは結果として、犯人側の狙いを頓挫させる事にもなりかねないでしょ?」
「・・・・・っ。あ、そっか!!!」
「確かに当初のポール氏の話によれば、犯人側は“事が済めば彼を解放する”と言っていたみたいだしな・・・?」
「そうよ」
そんなオリヴィアの言葉に今度はメリアリアが頷いて見せた、“量子コンピューターは何(いず)れは各国が持つようになるのだから、ただそれだけの為にポールさんを誘拐したとしても結局は時間の問題にしかならなかったでしょうに”と。
「なにかもっと、大きな目的があったんじゃないかしら?例えば今、この時期に量子コンピューターさえ作り出せれば後はどうとでもなるような思惑が・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
そんな愛妻淑女(メリアリア)の話を聞き終えた時に、蒼太の頭にはある閃きが走った、彼女の言っている事は紛う事無き正論であり、確かに蒼太もその点を考慮しないでは無かったモノの、しかし。
(もしここに。何某かの最新兵器を結びつけたら如何だろう?例えば何でも良い、“AIエンペラー”のような、量子コンピューターを使えば著しいまでのパワーアップが見込める人工知能に、実際に回路を接続させてそれを更に5Gネットワークに取り入れる。するとどう言った事が起きる事になるか・・・?)
そこまで考えた時に蒼太は、ある一つの結論に達した、それというのは。
「“AIエンペラー”は今、もしかしたならバチカンにあるのかも知れない」
それであった。
「“AIエンペラー”って。この前あなたが言っていた、あの・・・?」
「確か対象物を異次元の狭間に放逐する事が出来る、と言う人工知能兵器の事ですわね・・・!!!」
メリアリアとアウロラの言葉に蒼太が、“そうだ”と頷いて見せるモノの、“特に”と彼は続けて言った、“あれは5Gシステムと組み合わされた時にこそ、その真価を発揮するように組まれているんだ!!!”とそう言って。
「5Gシステムの放つ総エネルギー量は、4Gのそれとは比べ物にならない位にデカいからね?もしそれだけの“高周波電磁変動照射”に、AIエンペラーの祝詞の持つ、“超能力的音波変動”を重ね合わせたとしたら・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「相手はまず、間違いなく異世界へと飛ばされる・・・!!!」
「その通りだよ、アウロラ。しかもこれならばメリーの言う通り、こっちが量子コンピューターを持っていようと関係ない。何故ならばAIエンペラーは一台しか無いのだからね。相手からの攻撃を抑止する所か、防ぐことも叶わなくなるだろう・・・!!!」
「・・・・・っ。じゃあ、あなた。ハウシェプスト協会の本当の狙いって言うのは!!!」
「“偽キリストシステム”の最終構築にあったんだろうね、それがポール氏誘拐の真の目的だったんだろう。フォン・ノイマンと同じく、“ヒルベルト空間論”を熟知すると同時に彼と同じ視点を持ち、尚且つ“量子コンピューター”の重要性に付いても認識している“量子システムエンジニア”のポール氏を攫って来て“量子コンピューター”を完成させ、それを“AIエンペラー”に搭載させる。そこに更に“5Gネットワークシステム”を接続させればもう、“人工知能の神”の誕生さ。そんな事にでもなれば、奴等にとっては圧倒的に有利な国際情勢が出来上がっていた事だっただろう!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「なんて恐ろしい・・・っ!!!」
「冗談では無いぞ?上に報告して対策を練らなければならない事態では無いか!!!」
真剣な顔でそう意気込むオリヴィアに対して蒼太は悔しそうに言い放った、“無駄だよオリヴィア”とそう告げて。
「今、話した事柄に付いてはこの段階ではなんら確証も物証も得られていない、あくまで僕の考えたストーリーに過ぎないんだよ。この状態で君がもし、“敵がこんな事を考えている可能性がある”と言っても、誰も相手になんか、してくれやしないだろうさ・・・!!!」
「そ、そんな・・・っ!!!」
「あんまりです・・・っ!!!」
「何とかならないのか・・・?」
「方法は、たった一つしか無い。事情を知っているであろう“オレール”を捕まえて吐かせる事。これだけなんだけれども・・・!!!」
蒼太が暗い表情のままにそう告げると、“花嫁達”もどうすれば良いのかと、思案に暮れる事となったが、そんな矢先に。
「ちょっと、良いかな・・・?」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「貴方は・・・っ!!!」
「ポールさん・・・!!!」
“女王の間”の出入り口に当たる両開き式の分厚い自動扉の方向から人の気配が近付いて来た為に、全員がそちらの方を向き直るとドアがシュッと静かに素早く左右に開いてそこには先週救出された張本人である、ポール・アギヨンその人が立っていた。
彼は一日、二日と検査の為に“第1ルテティア総合病院”へと入院する運びとなっていたのであるが、“異常なし”とされて即日退院、任務に復帰していたのである。
「先日は大変、世話になったな。助けてもらって本当に感謝している・・・!!!」
「実際に貴方を助けるべく奔走したのはこの子達です、礼ならば彼女達に・・・」
「何を言うんだ!!!」
御礼が苦手な事もあって謙遜を露わにする蒼太に対し、“君だって大層、活躍していたじゃないか!!!”とポールは笑顔でそう告げて来た、彼に近寄ると同時にポンポンと肩を軽く、親しみを込めて叩きながら。
「何にしても大したチームだよ、君達は!!!ミラベルやプラムでも君達の話題で持ち切りになっていたぞ?次世代の新戦力が順当に育ちつつある、と。そう噂になっていたよ・・・!!!」
「・・・・・」
「そ、そんなこと・・・!!!」
「な、なんだか照れますわね。表立ってそう言われると・・・!!!」
「賞賛されるのは嫌いでは無いが、しかし直接告げられるのは面映ゆいな・・・!!!」
ポールの放ったその言葉に、三人が俯き加減で照れつつも、それでも満更でも無い様子で嬉しそうに微笑んでいると、そんな彼女達に代わって蒼太がポールに礼を述べた。
「どうも有り難う御座います、ポールさん。最高の褒め言葉です・・・!!!」
「いやいや。君達の実力と実績とがもたらした、当然の評価だよ。もっと胸を張っても良いんだぞ・・・?ところで」
とそこまで言い終えたポールが今度は不意に尋ねて来た、“こんな所に四人で集まって一体、何をしていたのだね?”とそう告げて。
すると。
「今回の事件の報告書を、全員に読み聞かせていた所であります!!!」
オリヴィアが答えて言った。
「先日のあなたの誘拐未遂事件に関する報告書が出来上がって参りましたので、それの中身を全員で共有したいと思いまして・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・ねえ、あなた。あなた!!!」
「んん?なんだい、メリー・・・」
「さっきの話、ポールさんにしてみたら良いんじゃ無いかしら?今のポールさんならば、単なるストーリーじゃなくて現実味のある話として受け取ってくれるかも知れないし・・・!!!」
「・・・・・っ。なるほど!!!」
それもそうか、とメリアリアがヒソヒソ声で伝えて来た言葉に納得した蒼太はこれ幸いとポールに向き合い、今し方自分達がしていた話の内容を彼に聞かせてその反応を見ることにしたのだ。
即ち。
“ポール氏の誘拐の目的”、“AIエンペラーと5Gネットワーク”、そして“オレールの身柄確保の重要性”に付いてであるモノの、すると。
「なるほど、コイツは・・・」
“とんでもなく厄介な事になってきているな・・・!!!”とポールは険しい表情となって、未だに何の証拠も挙がっていない筈の蒼太の話に対して真摯な姿勢で耳を傾けてくれたのである。
「確かに連中の異常性と言うか、大掛かりな行動パターンから紐解いて行けば、そう言う話も現実的には有り得るかも知れないが・・・。それにしても“AIエンペラー”とはな・・・!!!」
“合衆国(ステイツ)の最新兵器か・・・!!!”と呻いてポールは暫し、押し黙ってしまうが、しかし。
「蒼太君。確かに君の考えは中々に面白い、しかしどれ程深みのある考察だろうとやはり、証拠が無いのは痛いな。それでは恐らくこの話、誰にも聞いてもらえないだろうし、よしんば聞いてもらえたとしても、組織を動かす事は出来ないだろう・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「そんな・・・っ!!!」
「そう、ですよね?やっぱり・・・」
ポールの発したその言葉に、“やはり無理だったか・・・!!!”と気落ちする蒼太であったがそんな彼を見かねたのだろうポールが、“まあ待て・・・”と再び声を掛けて来る。
「あくまでも私が言ったのは、“今のままでは”と言う事だよ。要するにれっきとした証拠、或いは証人が出て来れば、話はまた変わって来るだろう・・・」
「・・・・・?え、ええ。まあ、そう言う訳ではあるんですけれども。しかし肝心要のそれらが今の所何処にも無く、また誰も居ないのが現状なんです。せめてオレールの行方さえ判明していたのならば、彼を捕縛して尋問し、情報を吐かせる事も可能でしょうに・・・!!!」
「その事なんだかね、蒼太君・・・」
ポールが何やら得意気な笑みを浮かべて言葉を続けた、“我々は既に、オレールの居場所を突き止めているかも知れないんだ!!!”とそう告げて。
「なんですって!!?」
「本当なんですか!!?」
自身から伝えたその情報に、そう言って驚いたような顔となり、問い質して来る蒼太とメリアリアに対してポールはゆっくり頷いてからこう答えた、“彼がハウシェプスト協会に関わっていたかも知れないと言う、君の話があっただろう?”とそう続けて。
「実はな。オレールの自宅の直ぐ側に、彼が事件前からちょくちょく足を運んでいた、ちょっと小洒落た“カフェバー”があってな?そこの地下に何やら大規模な集会場と言うか、礼拝堂のようなモノがあるらしいのだが・・・。ここが“ルテティア”に於ける、“ハウシェプスト協会”の支部では無いのか?と言う疑惑がある・・・!!!」
「そいつは・・・!!!」
「しかも、だ。事件当日の昼頃に、その近辺で路上生活を営んでいるホームレスが、オレール本人がそのカフェバーに入って行くのを目撃しているんだよ。・・・そして彼はそこから二度と再び出て来る事は無かったそうだ、足取りもプッツリとここで途絶えている」
「・・・・・っ!!!!!」
「・・・・・っ!!!!?」
「そんなこと・・・っ!!!」
「そんな情報は、此方のネットワークシステムには、未だに回って来てはいないですが!!?」
「ち、ちょっと落ち着きたまえ・・・!!!」
叫ぶようにそう言いつつも、自身に向かって詰め寄る姿勢を見せていた四人に対して、ポールが慌てて自制を呼び掛ける。
「これにはちょっとした訳があってな?私も出社して会議でつい昨日、聞いたばかりの報告なのだ。事情を問い質した所、まだ裏付けの取れていない、“未確認情報”との事でな?そう言う訳だったから“公の場で出すべきモノではない”とされ、更なる調査を待って君達に伝えよう、と言う手筈になっていたのだよ・・・」
“ただ”とポールが続けて述べた、“もし君達の想像通りの事態が進行していたとするならば、コイツは由々しき大問題だ!!!”とそう言って。
「だから君達にも伝える事にしたんだよ、もし万が一にも、“ハウシェプスト協会”の連中がそんな事を考えているとするのならば、これは絶対に見過ごす事は出来ん。事は一刻を争うのだ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「蒼太君。そしてメリアリア君達にも改めてお願いしたいのだが、今すぐとは言わない。明後日か明明後日位からでも良い、この建物の調査に参加してもらえないだろうか。元々こっちは“プラム”の隊員達に任せようかと思っていた案件なのだが、君達ならば彼等に負けず劣らずの活躍をしてくれるのでは無いか、と期待している!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ソイツは“命令”ですか・・・?」
蒼太からの問い掛けに、佇まいを糺したポールはゴホンッと咳き込み、こう続けた、“そうだ”と、“ミラベル本部から下された指示と、同レベルの効力がある命令だと思ってもらいたい”とそう述べて。
「と言っても、危険な場所まで行くのはあくまで“プラム”の隊員達に任せて君達には周囲の警戒と見張りを主に頼みたいんだ。何しろまだ、“ハウシェプスト協会”が入っているかどうかは解っていない状況にある、それとは別系統の“何か”がその礼拝堂を使用しているのかも知れんのだからな。ただ何れにせよ、そこに出入りしている人の波は常に把握しておきたいのだ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
暫しの沈黙の後にー。
四人は全員で顔を見合わせて頷き合うとポールに向き直り、こう答えた、“了解であります”とそう言って。
「明日、明後日と十二分に休みを取ってもらって。明明後日からの活動に参加してもらいたい。・・・現場には連絡を付けておく、住所その他は、後で纏めて資料を送るよ。各自、それで確認してくれ・・・。それではな」
“期待しているよ?蒼太君。・・・君には特にな”と帰り際にポールは静かにそう告げて、“女王の間”を後にした。
後に残された蒼太達は。
真相究明を志していた事と、“世界をハウシェプスト協会の様な連中の好きにされた堪るか!!!”と言う義憤から(あとついでに言えば、“命令”だった為に断るに断れなかった、と言う事情も加わって)敢えて引き受けはしたモノの、“また面倒臭い仕事を任されたモノだ”と内心で辟易しつつも任務に当たる事になったのである。
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