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ガリア帝国編

ポール・アギヨン追跡事件

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 徐々に夏も差し迫って来つつあった6月の中旬ー。

 その日、セイレーンに激震が走った、予てより彼等と上層組織“ミラベル”との間に立って橋渡しをしてくれていた男、“ポール・アギヨン”が突如として失踪し、行方が解らなくなってしまった、と言うのだ。

 彼はその役目柄、ミラベルとセイレーンの隊員達の顔写真入りプロフィール名簿を小型のUSBメモリーの中に保存しては常に持ち歩いていたのであるモノの、そのUSBごと所在が解らなくなってしまっているのだと言う、当然ながらこれは由々しき大事態であって直ちにミラベル、セイレーンの双方で上層組織会議が持たれてその結果、真相の究明と彼の身柄、及びUSBメモリーの確保を最優先事項とする全員一致の方向で考えが纏まり散会、間髪を入れずに追跡が開始される事となったのである。

「またUSBメモリーか・・・!!!」

「子供の時にも、同じ事があったわよね・・・?」

 会場を後にして直ぐさま各部と連携を取りつつも追跡に移ろうとしていた蒼太の傍らで、彼の一人言を受けたメリアリアがそう付け加えるモノの、その側には当然の事ながらアウロラとオリヴィアも同行しており、自然と四人一組で動く体制が出来上がりつつあったが、しかし。

「ああ。そう言えばあの時はアウロラの“星震魔法”で片を付けたんだったね・・・」

「あの時の威力には、本当に凄いモノがあったわ。流石にビックリしちゃった、まあそのお陰で私達は助かったのだけれども・・・!!!」

「・・・・・」

 そんな二人の会話を聞きながらも、アウロラは少し照れたように俯いてしまうモノの、実際問題としては確かに、星震魔法は発動させれば威力は絶大なモノがあるのだがそこに至るまでが大変なのであり、現にあの時も蒼太とメリアリアに前衛を任せっ切りにしていたからこそアウロラは呪文に集中する事が出来たのであって、そう言う意味では彼女一人の力で成し得た事では、間違っても無かったのだ。

 そして。

 その結果として解き放たれた星震魔法は直径10キロの球体状の空間を、その比類無きエネルギー波で以て舐め尽くし、その場にいたエイジャックス連合王国の誇る天才魔法少女、“ヒュドラのヴェルキナ”を始めとする十数人のウィッチ達を、その手中に収めていたセイレーン隊員達のプロフィール名簿入りUSBメモリーごと、一網打尽にして見せた訳であったのだが今度は些か勝手が違い、先ずはポールがどこにいるのか、己の意思で逃亡したのか、はたまた事件事故に巻き込まれたのか、と言う所から探り当てて行かねばならないために、余り過激な手段には出られないのが現状である、自重して行動するにしくはない。

「・・・取り敢えずは、彼のこれまでの足跡を確認する所から始めなければならないけれども。事が発覚したのが今朝の午前9時、通常ならばとっくに出勤している筈のポール氏の姿が見えない事を不審に思った秘書が、彼のスマートフォンに連絡を入れてみた所繋がらず、家電も同じ。それで直接出向いて家族に話を伺った所、“家はとっくに出て行った”との事からミラベル本部に通報。そのまま追跡を開始する事態となった、そんなとこだろう?」

「ええ、そうっ!!!」

 蒼太の言葉にメリアリアが応えた。

「さっきの会議で報告された内容によれば、あなたの認識で間違いはないわ!!!」

「私達同様に、ミラベル側でも何かあった場合は必ず連絡を入れるようになっていた、との事でしたから。それにポール氏に限って言えば、無断欠勤等有り得ない、との事でしたし・・・!!!」

「そのポール氏なんだがな。同僚や上役連中の話だと特に悩み事を抱えているような様子は無くて、昨日までは少なくとも普通に出勤していたらしい。退出もそれまでと同じように定時で帰り、週休二日も有給もキッチリと取っている。勤務態度に不満は無く、家族関係も至って良好、どこにも自発的に失踪する理由は見当たらない、との事だったのだが・・・」

 アウロラもオリヴィアも、そう言って首を傾げるモノの、“だとすると”と蒼太の脳裏には嫌な考えが浮かんでは消えて行った、ポール氏は恐らく、何者かに無理矢理に連れ去られた可能性が高くてこれはだから“誘拐事件”と断定して足取りを追った方が早そうだと、彼はこの時点でそう判断していたのである。

「ポール氏の、今日の自宅を出てからの足取りは?」

「ああ、それだったら・・・!!!」

「今、ミラベルの隊員達が虱潰しに当たっている所だ」

 何事か言い掛けたメリアリアに代わってオリヴィアが言葉を紡いで行く。

「自宅からミラベル本部に至るまでの道筋にある監視カメラを徹底的に洗うと同時に聞き込みも開始しているそうだ、が。今のところ当たりは無い、と・・・!!!」

「・・・・・」

 “と言う事は・・・!!!”と蒼太はまたも独りごちた、“自宅を出てからそう離れていない場所で何者かに拉致されたのだろうな”とそう告げて。

「本人の勤務態度や家庭環境に問題は無かった、とすれば彼には現状の生活に対する不満など、どこにも無かった、と言う事になる。その彼がいきなり失踪してその足取りも掴めない、等と言う事はちゃんちゃらおかしい・・・!!!」

 “考えられるとすれば”と彼は続けた、“自宅を出て、誰からも姿が見えなくなった瞬間に、何者かによって車か何かで連れ去られたのだろう”、とそう言って。

「幽霊じゃないんだから。そうじゃなければ姿がどの監視カメラにも映っていないのはおかしいよ、普通はどこをどう歩いてもこのルテティアの街中にいたのならば、駅までのそれらか、ショッピングモールに設置されているモノなんかに映り込んでしまう筈なんだ、例え本人がどんなに気を付けていたとしてもね!!!」

「・・・確かに、姿が消せる訳でも無いモノね」

「仮に彼が自由意志で失踪したとして、徒歩で何処かへ向かうなんて事は考えられないよ。絶対に足を用意している筈だよ、僕だったらそうするな。だって自分がいなくなった事がバレたら確実に追撃を受ける事が決まっているのだから!!!」

「・・・・・」

「だとすると、犯人達は監視カメラに映らないようにして彼を連れ去った、と言う事になるが・・・」

「・・・・・っ!!?ポールさんの自宅には、監視カメラはあるの?オリヴィア」

「ああ。玄関に一台、設置されていた筈だ。それで数メートルの範囲ならば見通せるが、それがどうした?」

「ポールさんの家の前って、大通りなの?それとも・・・」

「いいや?車がやっと一台、通れる位の道幅しか無いはずだ。確か一方通行だったような・・・?」

 そこまで言い終えた時に、ようやくオリヴィアもハッとなった、“だとすると”とやや興奮気味に蒼太に告げる。

「玄関の監視カメラに犯人の車が映り込んでいるかも知れない!!!」

「それだよ、オリヴィア。早速ミラベル本部に連絡を!!!」

 そう言うと蒼太は自身はそのまま、セイレーン本部ビル地上4階部分にある資料室に向かって歩き出した、彼が気になる事はまだ他にも幾つか存在していて、そもそもどうしてポール氏の身元が割れたのか、その正体も住所も何もかもが犯人の知る所となったのかがどうしても解らないでいたのである。

 考えられるとすれば。

「セイレーンの資料室。あそこはミラベルのそれと違って国家公務員ならば誰でも利用する事が出来る・・・。まあ“許可”は必要になるけれど」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「あそこが一体、どうかしたのか?」

 彼の次の言葉を待って押し黙るメリアリアやアウロラとは対照的に、電話を終えて駆け付けたオリヴィアが蒼太にそう尋ねた。

「確かにあそこは“国家公務員”ならば申請して許可が降りれば誰でも利用する事は出来るが・・・。しかし幾らなんでもここには隊員達に関する情報までは登録されていないぞ?あれは“シークレットサービス”に属するモノだからな、閲覧する為にはミラベル本部にあるコンピュータにアクセスしてセキュリティーを突破しなくてはならない上に、閲覧時間の制限も外への持ち出し厳禁も掛けられているんだ、そう簡単には・・・!!!」

「思い出してよ、オリヴィア。昔一度隊員達の顔写真付きプロフィール名簿がハッキングされて、USBメモリーが持ち出されてしまった時の事を・・・」

「・・・・・っ。それが一体、どうかしたのか?」

「あのUSB事件の記録情報自体は、確かこの部屋でも管理されていた筈だよね?わざわざミラベル本部に行ってアクセスしなくとも、ここでその情報を閲覧する事は可能だったはず・・・!!!」

「・・・・・」

「あの事件の重要参考人や当時の捜査関係者への聞き取り調査、事情聴取の記録なんかはここでも閲覧する事が出来ていただろ?僕の記憶が正しければ確か、その中にポール氏に付いての調書も入っていた筈だ。それを見れば彼がどこの部署にいる、どんな関係者なのかは、一目瞭然に解ってしまうだろう!!!」

「ああっ!!!」

 話を聞いてオリヴィアは一瞬、愕然となった、確かにあそこの部署には隊員達の情報自体は存在していないがしかし、それに心当たりがありそうな人物のピックアップはする事が出来る、否、確かに出来はするモノの、しかし。

「だ、だがな蒼太。あれにアクセスする為にはミラベルかセイレーンの人間である事が必須条件で、その為のパスワードを入力しなくてはならないんだ。如何にウチが一般の公務員にも門戸が開かれているからと言っても流石にそこまで無防備では無いぞ?」

「そうよ、あなた!!!」

 そんな戦友の言葉を受けて、メリアリアもまた頷いて見せた。

「それにあの事件自体も表沙汰にならなかったから、知っている人だって殆どいない筈よ?それなのにどうやって犯人はそれを知ったって言うの!!?」

「・・・それは僕にも解らない。だけどあの部屋を訪れて、その情報にアクセスした人間がいた筈だ。ソイツが誰なのかを調べれば、少なくとも犯人に繋がる有力な手掛かりになるかも知れない!!!」

「・・・・・っ!!!」

「それは・・・っ!!!」

 “だからここへ来た!!!”と言って蒼太はそれでもまだ何事かを言いたそうにしていた花嫁達の機先を制すると、辿り着いた資料室への重厚な扉をゆっくりと手で押し開いて行くモノの、するとそこには。

「・・・・・っ!!」

「資料室へようこそ!!」

 膨大な量の書物や設定資料収集以外にも数台のパソコンが置かれていて、“許可さえおりれば”そのどれをも自由に使って良い事になっていたのであるモノの、しかしその為には先ずは入り口の直ぐ側にある、司書や受付嬢の詰めているカウンターで自身の名前と身分証明書を提示した挙げ句に、ここに来た目的を告げて了承されなければならない決まりとなっていた、万が一、何が起きても良いようにと司書達も武道の心得を十二分に積んでおり、それにも増して室内はかなりの数の監視カメラや警報装置が死角無く設置されているため、ここで騒ぎを起こしたり不審な行動を取ったりすれば、たちどころに捕縛される仕組みとなっていたのであるモノの、しかし。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ほ、本当に、ここに・・・?」

 “犯人に関する手掛かりがあるのか?”と声のトーンを落としつつも尋ねるオリヴィアに対して蒼太も些か難しそうな表情を見せるが実際問題として、彼にも未だに確信は無かった、確信は無かったモノのそれでも蒼太は何と無しに直感したのだ、“資料室しかない”とそう思いを馳せて。

 そしてその後に頭の理解が追い付いて来たのであったが、真実はオリヴィアの言うとおりでもし、外から何らかの手段で隊員達の情報にアクセスしようとするのならば、ミラベル本部に行ってパスワードや顔認証、指紋認証等のセキュリティーを突破し、その上で閲覧を試みなければならないような仕組みとなっていたのである。

 ちなみにその本部のコンピュータと言うモノは外のそれらとは切り離されている為に外界から遠隔操作で侵入する事は先ずは不可能であり、つまりそんな事をしようとする者がいれば、本部まで出向いて行かなくてはならないためにその時点でまず間違いなく捕まるか、そうで無くても“アシが付く”事となっていたのであるモノの、そうなると犯人が実際に、ミラベル本部にまで往来した可能性は限りなく低くなる。

 であるとすれば隊員達の情報を引き出し得るもう一つの選択肢はここ、セイレーン本部にしか無い訳であり(他の省庁にはそれらの情報自体が存在していない)、特にこの資料室ならば、国家公務員で無ければならないと言う前提条件はあるモノの、申請して許可さえおりれば何時でも誰でも(シークレットサービス以外の)目的の情報にアクセスする事が出来る為に本部に直接赴くよりかは逮捕される危険性が少なくて済む、等の利点があった。

 即ち。

「もし僕が犯人ならば、ミラベルの本部よりはここ、セイレーンの資料室を利用する。もしここで何の手掛かりも得られない、としたのならば事を起こさずにそのまま素直に撤退すれば良いだけだ。それならば例え姿を見られていようが、記録されていようが、何のリスクも無いからね・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 そう告げると蒼太は三人を引き連れて受け付けカウンターへと向けて歩を進めて行った、司書や受付嬢達ならば何かを知っているかも知れないと、そう考えたからであるモノの、しかし。

「誠に恐れ入りますが・・・。ここ1、2ヶ月間程度の出入館に関するモノと情報アクセス記録とを見せてはいただけないでしょうか?」

「・・・・・」

「誠に申し訳無いのですが・・・」

 当初、司書達は本当に申し訳無さそうにそう言って、彼に断りを入れ続けていた、セイレーンの隊員とは言えども女王位達の許可も無く、そうした事は出来ないと。

 すると。

「それならばここで今、許可を出そう!!!」

そのやり取りを聞いていたオリヴィア、メリアリア、アウロラの三人が横からズイッと前に出て来た。

「私はセイレーンの大騎士、オリヴィアだ。照合してもらいたい!!!」

「同じく。光輝玉のいばら姫、メリアリア!!!」

「青き星の祈り姫、アウロラと申します・・・!!!」

「・・・・・!?!?!?」

「し、失礼致しました。オリヴィア・フェデラー、メリアリア・カッシーニ。アウロラ・フォンティーヌ。確かに、照合いたしました!!!」

 受付嬢と司書達は些か以上に慌てふためきながらもそれでもテキパキとキーボードとマウスとを操作しては、顔写真付きの記録画面をデスクトップのスクリーンへと表示させて見せた。

「これがここ1、2ヶ月間の出入館者リストと閲覧記録になります!!!」

「どうぞ御覧下さい!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・っ!!!」

(あった・・・っ!!!)

 暫くの間、それを黙って眺め続けていた蒼太一行であったがしかし、遂にパソコンを使った閲覧者記録の中に、“機密情報”にアクセスした人物を一人だけ見出す事が出来た、名前は。

「オレール・ポドワン。24歳、男性。ルテティア在住、ルテティア区役所徴税課勤務・・・?」

「この人が犯人、ってこと・・・?」

 やや戸惑い気味にそう尋ねてくる愛妻淑女(メリアリア)の言葉に蒼太も“解らない”と首を傾げつつも返すが、しかし。

 七三分けでメガネを掛け、一見真面目な公務員風のその男に蒼太はしかし、何がしか感じる所があって、彼の情報を急いでプリントアウトして花嫁達に見せて回る。

「・・・・・!?!?!?」

「徴税官の方、でしょうか?確かに閲覧記録に載っていますけれども。だけどこの情報にアクセスする為には・・・」

「ああ、そうだ。隊員達にのみ配られるパスワードが無いと、アクセス出来ない筈なんだ、しかもパスワードは一定期間が経つか、何か異変が起きる度に書き換えられるから、今現在のパスワードを知っている人間で無ければ絶対にここにはリンクの効かない筈なのに。それをこの男は・・・!!!」

 アウロラの言葉を受けて、オリヴィアもまた、苦悩と疑問に満ち満ちた表情を浮かべるモノの、現に彼女達には解らない事だらけであって、どうしてこの、ルテティア在住の男がわざわざ自分達のプロフィールを盗んで行くのか、ポール氏とはどう言う関係だったのか、本当にポール氏を連れ去った犯人なのか否か。

 いいや、そもそも論として。

 それ以前の話としてはパッと見、明らかに軟弱そうな彼がどうやって武術の心得もある、それなりに体格の良いポール氏を拉致して連れ去ったのかがイメージ出来ずにおり、後から後から思考が溢れ出して来て止まらなくなってしまうが、そんな中で。

「司書さん、ごめんなさい。ちょっとお聞きしたいんですけれども・・・」

 蒼太はあくまでも冷静だった、この男の素性に付いて、彼はまだ疑っていたのである。

 即ち。

「このオレールと言う人の見せた身分証明書。これは本物であったのですか?」

「間違いなく、本物でした!!!」

 そう言って疑念を払拭できずにいた蒼太の言葉にも、司書は直ぐさまキッパリと答えて断定して見せるモノの、彼女達の言う所によると、ここで提示された身分証明書は必ず、その所属先の勤務機関のコンピュータにアクセスして本人確認を取る事となっており、その時もそうした結果、確かに徴税課に勤めている事が判明した、との事だったのだ。

「・・・・・?」

(こんな細身の男が、なぁ?第一線を退いているとは言えどもポール氏はそれなりに恵体でガタイも良いし、力だって強い筈だ。どう見たってこのオレールと言う人に、彼を押さえ込めるだけの力があるとは思えないけれども・・・)

 “だとすると”とそこまで考えた時に蒼太は、直ぐさま次の思考へと意識を飛ばしていたのである、即ち。

 “仲間がいる可能性があるな”と言う事柄に付いてであったが、もしそうであるのならばー。

「もしもし・・・?」

 蒼太がそこまで考えていた時に、不意にオリヴィアのスマートフォンが振動し始めて、それを見て取った彼女がいそいそと電話に出た、すると。

「エトルリア製のランチャーだと!!?ああ、解った。インテグラーレだな?了解した!!!」

 そう言って通話を切った彼女の表情はホッとすると同時にますます険しいモノとなるが、今の話の内容によると。

 “ポール氏の家の、玄関先に設置されている監視カメラの映像の解析が終わった”との事であり、“氏が掠われたと思しき時間に走っていたのはエトルリア製のランチャーデルタ・インテグラーレの黒だった”と言う結果が出た、との言葉がその場にいた全員にもたらされた。

「インテグラーレは精一杯に詰めれば5人乗りだ。氏が拘束されて無理矢理に乗り込まされたとしても、運転手を含めて敵はあと4人はいると見なければなるまい・・・!!!」

「ポール氏の自宅のある場所って、確かルテティア第三環状区画内の“モンパルナス地区”でしょう?あそこは閑静な住宅街が広がっていて、騒ぎなんか起きたら誰かが一発で気が付きそうなものなんだけれど・・・」

「ここからもそう遠くは無いですしね・・・。防犯意識だって高い区画の筈なのに、どうしてどなたも通報されなかったのでしょうか・・・?」

「・・・騒ぎになる前に、一瞬で拉致したんだろう」

 花嫁達の口にした疑問に、蒼太は静かにそう応えた、“犯人グループは余程の手練れだぞ?”とそう言って。

「女子供を連れて来るのとは訳が違う。大人の男で武術の心得もある人が、それも一瞬で拉致されたんだ。その事から見ても、その辺の下っ端に適当に命じて連れて来させたんじゃ無くて、人攫いに手慣れた様子が窺える・・・!!!」

「・・・・・っ!!!!!」

「・・・・・っ!!!!?」

「蒼太・・・っ!!!!?」

 オリヴィアが何かを言おうとしてしかし、彼女は声を掛けられなかった、いいや彼女だけでは無い、メリアリアもアウロラも、その場にいた誰しもが彼に言葉を掛けるのが躊躇われたモノの、要はそれだけ、彼の全身から発する気配が厳しいモノに変わっていたのであり、それと同時に。

「・・・・・」

(あ、あなた・・・!!!)

(蒼太さん・・・?)

(蒼太・・・?)

 自分達の夫が何某かの、凄絶な覚悟を決めているとしか思えなかった為であったが、しかし。

「彼等には多分、他にも余罪があると思うんだ。捕まえたら探ってみるとして・・・。まずは国境の出入り口を固めてもらった方が良いかもね・・・。オリヴィア!!!」

「・・・・・っ。な、なんだ急に?改まって」

「ミラベルの人達に今の事を伝えて、国境や空港なんかに検閲体制を敷いてもらうようにした方が良いと思うよ?まだ遠くへは逃げていないと思うからね・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・オリヴィア?」

「あ、ああ・・・っ!!!」

 再び蒼太からもたらされたその言葉に、オリヴィアはハッと我に帰ると“直ぐに伝える”と言って急いで電話を掛け始めるモノの正直な話、彼女だけでは決して無くて、メリアリアもアウロラも、つい今し方の夫が見せたあの鬼気にも似た猛烈な波動に些か戸惑いを覚えていた、特にメリアリアとアウロラの二人の受けた衝撃は、オリヴィアに比してかなり大きいモノがあったが幼い頃からずっと側にいて同じ時を過ごし、また恋い焦がれて来た青年が、ここに来て初めて見せた“男の壮絶さ”とでも言うべきモノに心理面におけるちょっとした情緒的ショックを受けてしまったのであり、それと同時に。

 “この人は、ああ言う顔もするんだな”と思って、いけない事とは知りつつも胸が奥から高鳴ってドキマギとして来てしまうが、要はそれだけ蒼太の見せた気迫は比類無きモノがあったのであり、戦いの中で見せるモノとはまた違う、峻険にして清廉なまでの激相の様とでも言うべきそれが三人をして思い切り緊張させると同時に改めて惚れ直させたのであるモノの、この時。

 蒼太は蒼太で考え続けていたのである、“またしてもハウシェプスト協会の奴等が動き出したのかも知れない”と。

 そう考えて、それならば今度こそ叩き潰してやろうと、自分の手でケリを着けてやろうとそう思いを巡らせていたのだ。

(この前は結局、メリー達に助けてもらった形になってしまったけれども・・・。だけど今回ばかりはそうはいかない、俺がこの手で、必ず奴等との間に決着を着けてみせる。必ずだ!!!)

 そう密かに決意をすると、蒼太はしかし今度はそれを表に再び出すことは無く、普段通りの表情と雰囲気とで妻達に接していった。
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