星降る国の恋と愛

モノポールエンジン

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ガリア帝国編

突入作戦

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「ザーッ。ザッ、ザッ。聞こえるか、ミラベル本部。こちら“総監室管理長”フランシス。繰り返す、こちら“総監室管理長”フランシス・・・」

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

 その第一報が入って来たのは、ちょうど午前9時を少し回った頃だった、朝の通勤ラッシュを搔い潜って出勤し、夜勤のメンバーからの報告を聞いて“今日も一日、頑張るぞ!!”等と思っていたミラベル本部付きの中枢指令コンピュータ室勤務の者達は思わず我が目と我が耳を疑ったが、何と外部から極秘回線を使って映像通信が送られて来たと思いきや、それは彼等とも顔馴染みであった、“総監室管理長”フランシス・ルセーブルその人のモノだったのだ。

 何処か一戸建てのリビングかダイニングにいると思しき彼の顔色は決して優れたモノでは無くて、表情も暗く沈んでぎこちなかった。

「・・・・・っ!!!」

「な、なにを、なんで!!?」

「フランシス室長、何故急に“秘匿コード”を使われたのです?それは通常は、使うことを許されていない極秘回線の筈ですが!!!」

「・・・・・」

「よーしよし、どうやら繋がった様だな!!!」

 突然の事に慌てふためくミラベル本部職員達であったが、事情はすぐに判明した、なんとフランシス室長は通勤途中に何者かによって拉致されてしまい、何処かへと幽閉されてしまっていたのだ。

 それだけではない。

「誰か、助けてぇっ!!!」

「恐いよ、ママァ~ッ!!!」

 画面の奥には一組の親子の姿が映し出されていたモノの、あの後、目出し帽とマスクで顔を隠したガイヤールはそのまま、近くの“保育園”に向かう親子連れを路上で大胆にも拉致すると、返す刀でその二人を人質に、フランシス室長に同行を半ば強制的に求めたのである、“この親子の命と安全は、あんた次第だ”とそう言って。

「騒いだり逆らったりすれば、どうなるか。解っているよな?フランシスさんよ・・・」

「・・・・・」

 首元にバタフライ・ナイフを突き付けられて脅されている親子連れは哀れにももはやパニック寸前と言った呈でブルブルと震えており到底、冷静な思考を働かせられる心理的余裕がある様には見えなかった、毎日を平和の中で過ごしていた一般人であるから仕方が無いと言えば仕方が無いが、その目は怯え切っており、まともな思考能力すらも奪われてしまった様に思われる。

「お願い、助けてっ。この子が殺されてしまうわっ!!!」

「ママッ、ママァッ!!!」

「だとさ。どうするよ、室長さん・・・」

「くうぅぅ・・・っ!!!」

 “解った”と言って、それを見せられたフランシスは折れてしまった、本当は一か八か胸に掛けられているホルダーからメラーラハンドガンを引き抜いて一発、コイツの額にお見舞いしてやろうかと思っていたのだが。

 しかし親子を見てそれが危険な事に気が付いた、二人はもはや発狂寸前に陥っていると言って良く、仮にそうなった場合、犯人達は平然と彼女達を殺害してその場から逃走を試みるだろう、無関係な一般人を巻き込む事は、何としてでも避けなくてはならない最優先事項だったのである。

「よーしよし。じゃあまず、胸の中のモノを出してもらおうか。おいお前ら!!!」

 とガイヤールは手下どもに指図をした、“コイツを縄で縛り上げろ”と。

「縛ったら車に乗せろ、ここから一番、近いアジトへと連れて行く。勿論、コイツらも一緒にな!!!」

「グ、ク・・・ッ。待て!!」

「あん?」

 縛られながらもフランシスはキッとガイヤールを見据えて言った、“その人達は関係無いだろう”、“もう離しても良いはずだ”と。

「人質ならば私がいるだろうが。一般人を巻き添えにする理由は無い!!!」

「・・・いいや、そうは行かねえな!!!」

 この期に及んでも尚、自身を睨み付ける胆力を有する室長が気に入らないのだろう、ガイヤールが苛立ちを隠そうともせずに言い放った、“コイツらはエカテリーナとの引き換え券なんだ”と、“お前らが捕縛してくれた家の幹部を開放させる為の大事な大事なな?”、とそう告げて。

「エカテリーナ?すると貴様は・・・!!!」

「おおっと、俺の正体なんぞどうだって良いはずだぜ?室長さんよ・・・」

 ガイヤールが告げた。

「良いか?アジトに着いたらすぐに秘密回線を使ってミラベル本部に連絡を取るんだ、もうその内容は解っているな?お宅らが先日、捕まえてくれた家の幹部の“エカテリーナ”を開放してもらう。それが済めばお前らも全員、無事に帰してやるよ・・・」

「お、お願い。助けてっ。私達は関係無いのっ!!!」

「ママッ、ママァッ。恐いよぉっ!!!」

「良いねぇ、もっと泣け、もっと叫べ。お前達が喚けば喚くほど、奴等はお前達を無視出来なくなる・・・!!!」

 全て思い通りだと、ガイヤールはほくそ笑んだ、後はコイツらをアジトへと連行した後で、此方の要求をミラベル本部に伝達するだけでいい、そうすれば全て解決する。

 ガイヤールはそう信じて疑わなかったから、その為に、三人をワゴン車に押し込んだ後で“早くしろ!!”と指示を出しては手下の一人に運転を任せ、自らは助手席に座って胡座をかいていたのであった。

「断っておくが」

 とガイヤールが続けて言った、“間違っても逃げよう等とは思わない事だ”とそう告げて。

「良いか?室長さんよ、あんただけなら逃げ切れるかも知れないが、この二人が一緒ならば話は別だろう。もしお前がちょっとでもおかしな真似をしたなら、ガキから殺ってやるかな!!!」

「・・・・・っ!!!」

 それを聞いたフランシスは、クソッと歯軋りをするのを堪えられなかった、ただでさえ、キツく縛られていて脱出は困難を極めると言うのに、そこへ持って来て一般人が一緒にいたのではこの場合、お荷物にしかならなかった。

 かてて加えてこの二人は自分の事で精一杯であり、とてもの事、他人様の事にまで頭を回している余力は無いように思われていたから、なおのこと脱出の際には余計な手荷物以外の何物でも無かったのである。

 結局。

 逃げ出すチャンスを窺っていたフランシスはその機会を逸してしまい、親子共々アジトへと連れ込まれてしまった、と言う訳であり、そしてそこで尋問を受けた結果として、秘密回線を使ってガイヤール達の要求を、ミラベル本部に伝える事となったのだ。

「いいか?此方には人質が3名いる、この中の一人はエカテリーナの身柄と引き換えだ。残りの2人は・・・、そうだな。エカテリーナを捕縛してくれた奴等の命と引き換えにしよう。もし断ったのならばこの件はテレビ局にでもリークしてやるよ、帝国と国民の安全を裏から支える超秘密組織がその実、我が身可愛さに国民を犠牲にした、等と言う事が知れ渡ったならば。お前らとしてはもう終わりだな、例え後からどんな言い逃れをしても末代まで続く汚点となるぜ?」

 “良いか?”とガイヤールは告げた、“今日の昼まで待ってやる”とそう告げて。

「本日の正午までに、此方の指定する場所までエカテリーナを連れて来い。場所は後から伝えるが勿論、お前らは何も妙な事はするなよな?そこで身柄を開放するんだ、そうしたら取り敢えず、このオッサンは帰してやるよ」

 “ただし”とガイヤールは続けた、“残りの2人に関しては、エカテリーナをやった奴の命と引き換えだ”とそう告げて。

「何人でやったかは解らないが・・・。少なくとも2人はあの世行きに出来るな、お前らも本望だろう?国民の為にその命を散らす事が出来るのだから。あとくれぐれも言っておくが、妙な真似はするなよ?コイツらの生殺与奪は今現在、こっちが握っているのだ、と言う事を忘れるな!!!」

 それだけ言うと。

 ガイヤールは通信を切った、逆探知は間に合わなかった、ただし電波の発せられた大凡の位置、方向までは確認する事が出来た為に、それがせめてもの僥倖となった。

 直ちにVPNと秘匿コードの変更改新が行われ、それがフランシス室長のモノを除く各員の端末機器にアップロードされた後でこの事はすぐにセイレーンにも伝えられた、当然“緊急出動態勢”を取っていた蒼太達の耳にも入る事となったがその知らせを聞いた時には蒼太はあまりの出来事に愕然とすると同時に激しい怒りを燃えたぎらせていたのである。

(何て奴等なんだろう!!!)

 心底思った青年であったが確かに、自分達の目的を遂げるためならば手段を選ばない連中である事を理解しているつもりであった、あったがしかし、まさかここまでやるとは思わなかった、何の罪も無い一般人まで平然と巻き添えにする辺りは、流石に無関係の人々の命を盾に取って父と母を惨殺したデュマの薫陶逞しいと言わざるを得ないが、このままではその親子と言うのが危険である、放ってはおけない。

 それに何より。

(メリー、アウロラ。それにオリヴィアも!!)

 蒼太が彼女達に意識を向けるがもしこの取り引きが現実のモノとなった場合は、一人目の命は自分の身で賄えるとしても、もう一人を助ける為には彼女達の内、いずれかにも死んでもらわなければならないのであり、それを思った瞬間に、蒼太は心底相手が憎らしくて堪らなくなっていた。

 そしてそれはー。

 メリアリアもアウロラもオリヴィアも同じ事だったのであり、彼女達のいずれもが、“例え自分が犠牲になったとしてでも蒼太だけは絶対に死なせまい”と心の底から決意すると同時に希(こいねが)っていたのであってそれ故に、まだ見ぬ相手に対して凄まじいまでの敵意と侮蔑と憤怒を覚えて腸を煮えくり返らせ、全身をワナワナと震わせ続けていたのであった。

「ミラベルとしてはな。君達の身柄を引き渡す訳には断じて行かない、こんな卑劣な取り引きには応じるつもりは絶対に無いから、その点は安心してくれたまえ。それから既にテレビ局には裏から手を回してあらゆるリーク情報をカットするようにと言ってある、こちらも準備は万全なんだが・・・」

「「「「・・・・・」」」」」

「フランシス室長が問題だ・・・」

 そう言って通信を送って来たミラベル役員が溜息を付くモノの、今現在は午前9時半を少し回った頃合いでありそれからお昼までに、と言う事は正味あと二時間半しか猶予は残されていない訳で、時間的余裕は全くない。

「逆探知は、したのですか・・・?」

「勿論、したさ。それで電波の来たある程度の方角と位置までは特定する事が出来たのだが・・・。その範囲と言うのが広すぎてな」

 そう言って上役は、スクリーンの向こうで頭を掻いた、“まずはこの地図を見てくれたまえ”とそう告げると、蒼太達に解りやすいように後ろにあったホワイトボードに縮小された地図をマグネットで止めて用意する。

「逆探知が示したエリアは、この第四環状区画から第三環状区画の北東エリア一帯だ、つまりはここを虱潰しに探せば奴等のアジトを発見する事が出来るかも知れないのだが。何分、人員も時間も限られている中で、これだけの広さをカバーするのは至難の業と言って良い。しかも奴等に発見されないようにしなければならない、どうすれば・・・っ!!!」

「・・・・・」

 “上役”と、それを見ていた蒼太が言った、“確かフランシス室長はホテルを出るまでの足取りは掴めているんですよね?”とそう告げて。

「ああ、そうだ。今朝の午前8時28分に、“ガリア帝国帝都ホテル”をチェックアウトする所までは確認されているモノの、その後の足取りは掴めていない。ただし防犯カメラの解析から、前日の夜からホテル前で張り込みと言うか、待機をしていた不審な黒いワゴン車が確認されている。それが朝の8時40分頃には猛スピードでホテル前を横切っている様子もな。恐らくこれが犯人のモノだと思われるが、それがどうした?」

「確か朝は渋滞があちらこちらに発生していて、長距離を移動するには時間がそれなりに掛かる筈です。にも拘わらずに9時を少し回った頃合いに本部に秘密回線で連絡を寄越して来た、と言う事は・・・?」

「相手はそれほど遠くまでは移動していない、と言う事か!!!」

「正解です、オリヴィア!!!」

 蒼太が頷くと今度は上役に向かってこう告げた、“朝の各通りストリートアベニューにおける、交通量の確認をお願いします”とそう言って。

「あのワゴン車の足取りが、何か掴めるかも知れません!!!」

「そうかっ。犯人達は渋滞に巻き込まれていたかも知れないからな!!!」

「それか、それを避ける為に或いは脇道を利用して裏路地に入ったかの、どちらかですが。・・・いずれにせよ、メイン・ストリート・アベニューを幾つか突破しない事には、各環状区画への移動は不可能な筈です」

「って言うことはつまり!!!」

 メリアリアがハッとなって言葉を続けた、“彼等は第四環状区画の何処かにいる”と。

「朝の通勤ラッシュ時間帯に、30分以内で第三環状区画の北東エリアまで車を走らせた挙げ句に、此方に通信を送って来るなんて、不可能だわ!!!」

「その通りだよ、メリーッ!!!敵は恐らく、第四環状区画内にいる筈だ、上役っ!!!」

「至急、人員を手配する。それからレベッカはまだ動かすな。事態がどう動くか解らんからな!!!」

 “それと”と上役は告げた、“君達にも動いてもらうぞ”とそう言って。

「敵に気が付かれないように、直ちに第四環状区画の北東エリア一帯に移動して奴等のアジトを探れ。見つけ次第、直ちに此方に報告をいれて絶対に勝手には動くな!!!」

 “ただし”と彼は付け加えた、“緊急を要する状況にあるならば構わんから現場の判断で動きたまえ”と。

「命令を受領致しました!!!」

 それだけ言うとミラベル役員は通信を切り、蒼太達は急いで出立していった、目指すは第四環状区画の北東エリアだ、ここからなら車で20分と掛からずに到着する事が出来るそこは、巨大な森林公園やタワーマンション等が立ち並ぶ高級住宅街となっていた。

「・・・・・」

(とすると)

 蒼太は思った、“奴等のアジトは第四環状区画の中の此方寄りにあるのかもな”と。

(フランシス室長が襲撃されたのが、午前8時30分前後だとして・・・。拉致して車に乗せるまでに凡そ5分程度は掛かっている筈だ、それからホテルの手前を横切ったとなれば、大体敵のアジトまでは・・・)

 その場で地図を広げた蒼太は位置を頭の中で逆算して第四環状区画の中の北東エリア、そのミラベル本部よりの場所に精神を集中させて研ぎ澄ませ、上から手を翳して見た、役職柄、フランシス室長とは何度か会った事があり、彼の波動は読めているため、その場で簡易的なモノではあるが、“波動探索(エネルギートレーサー)”を行ったのである、すると。

「・・・・・っ!!!」

(この辺りに、何かを感じる・・・っ!!!)

 蒼太が手を止めた場所、それは第五環状区画から第四環状区画へと向けて突っ切っている主要交通区画(メイン・ストリート・アベニュー)から内側へ、少し入った所にある、新築されたばかりの住宅分譲地の一画だった、ここにフランシス室長の息吹を感じた彼はそれをメリアリア達に伝えると彼女達を引き連れて直ちに出立していったモノの、幸いにして現場にはそれほど時間を掛けずにすぐに到着する事が出来た為に、さっそく辺りを捜索を開始する。

 しかし。

「・・・・・っ!!!」

「奴等のアジトは、この辺りね・・・!!?」

「ええ。凄い魔力を感じますし・・・!!!」

「ただならぬ気配が漂っているな・・・!!!」

 そう言って話し合うメリアリア達であったが、それというのはその辺り一帯の空間にはしかし、まだ昼間なのにも係わらず、濃厚なる“魔”の気配が立ち込めており、これでは“気付くな”と言う方がどだい無理な注文である、と言い換えても良い程だったのだ。

「・・・・・」

(どうして“遮蔽膜”を張っていない?普通ならばこう言った場合は自分が何処にいるのかを解らなくさせる為に“魔力を断絶させる為の壁か膜のようなモノ”を展開させておくはずなんだ。さもないと直ぐに見付かってしまうからな、それを展開させていない、と言うことはつまり、奴等も余程慌てふためいて今回の人質事件を計画して実行に移したモノと見える・・・)

 蒼太はそう判断するモノの、実際はそれに加えてもう一つの理由があった、何かと言えばそれは蒼太達の動きがガイヤールの予想を超えてあまりにも早すぎたのであり、現に彼等は一時間と掛からずにアジトの場所を絞り込むと現地に急行、後は具体的な所在の特定と内部の様子を探った後に突入するだけの状態となっていた。

 なのでこれがもし、最初からアジトの場所が解っていたならとっくに踏み込まれていてもおかしくない有様だった訳であって、ガイヤールの油断以外の何物でも無かったであろう事が伺える一幕であったのだが、しかし。

「どうするの?あなた・・・」

「取り敢えずは一度、ミラベル本部に報告する。もうVPNも秘匿コードも全て入れ替わっている筈だから、こっちの動きが敵に伝わる恐れは断じて無い。まずは増援を頼んで様子を見よう、まだアジトを特定出来た訳でもないのに、下手に騒ぎを起こしたら奴等に発見されてしまうからね・・・」

 蒼太がそう話していた、その時だった、突然“ヴヴヴヴッ”と携帯端末(スマートフォン)に連絡が入ってきたのである、送信の主は先のミラベル幹部であり、内容は“敵がエカテリーナの引き渡し場所を指定して来た”との事だったのだ。

「場所と時間は?」

「時間は正午、場所はルテティア第三環状区画内の住宅街にある空き家だ。調べたら買われた当初から持ち主が失踪していて、生活実態の無い事が解った、奴等のアジトになっていたんだな、そこでエカテリーナの身柄を置いて我々は遥か後方にまで、下がらなければならないらしい・・・」

 そう言うと上役は思わず歯軋りをした、相当に悔しいのだろう事が見て取れるがしかし、人質を取られている今となってはどうにも出来ない。

「エカテリーナの身柄引き渡しと安全地帯への退避行動が無事に済んだらフランシス室長を解放すると言って来ているが・・・。何処まで信用していいのやら」

「・・・上役」

 そこまで聞き及んだ時に、蒼太が告げた。

「我々は今、第四環状区画北東エリアにある、新造宅譲地に来ています。ここは魔力がダダ漏れに漏れていて、恐らくはこの近辺に連中のアジトがあると見て睨んでいるのですが。ここの分譲はいつから開始されたのか、今現在は何棟が売却済みなのか、確認をお願いしたいのですが・・・」

「調べてみる、少し待ってくれ・・・」

「助かります、それとこの近辺に、奴等に感付かれ無いように増援をお願いします。最低2チーム、8名です!!!」

「了解した、それと分譲地の件だがな。そこの宅地を販売している会社のコンピューターにハッキングを掛けて確認した所、現在までに30棟ある内の13棟が売却済みである事が解った。ちなみに販売開始時期は何と三日前からだそうだ、奴等恐らくは、新手のアジトに仕立て上げるつもりでそこの一角を購入していたのだろう。はしっこい奴等だ!!!」

「「「「・・・・・」」」」

 その言葉を聞いた瞬間に、蒼太達は押し黙ってしまっていた、それというのも即ち、この13棟の内の何れかに今も敵の親玉が子分と共に潜んでいて、この瞬間すらにも着々と、エカテリーナ奪回作戦を指揮している、と言う事になるのであり、そうなってくるとここからは、細心の注意を払いつつも動かなければならなかった。

 連中はまだ、自分達のアジトの所在が相当に絞り込まれている事を知らぬであろうし、もし知っていたとしたならば、たちどころに本部に通信を送って手を引かせようとする筈である、そうしておいて。

 自分達はもっと後方にある、安全なアジトに移動してはそこに人質を持って立てこもり、更なる熾烈な要求をしてくるであろう事は、容易に想像が出来る事象ではあったのである。

 ・・・それでも。

「増援部隊が来たならば、皆で協力して動かないとね。だって私達の為に一般の人々が犠牲になるだなんて、やっぱりあって欲しく無いもの!!!」

「うん。その通りだね、メリー。僕もそう思うよ・・・?」

「うん。だけど、あのね?本当は、私・・・!!!」

「・・・・・?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ううん。何でも無いの、何でも・・・!!!」

「・・・・・」

 “そうかい?”と蒼太は一見、何んでも無い風を装うモノのその実、腹の中では全く別の事を考えていた、決して進んでそれを行う訳では無いモノのそれでも、蒼太はいよいよとなったら例え自分を含む他の誰を、そして何を犠牲にしてでも良いから何よりメリアリアの事を、そしてアウロラとオリヴィアの事を守ってやりたいと本気で考えていたのであり、その為には最悪、一般人が犠牲になってもやむを得ない、と言う所にまで思考が及んでいたのであって、そしてそれはメリアリア達三人の花嫁もまた同様であったのだ。

 他の誰を、何を犠牲にしたとしてでも蒼太の事だけは守ってみせると、彼女達は三人が三人とも腹の底からそう決意すると同時に思いを固めていたのである。

「コホンッ。とにかく、上役。僕達は増援が来たなら、彼等と協力しつつもこの付近一帯で敵の“波動追跡”を行ってみます。もう少しだけ、相手の詳しい方角と位置とが特定出来るかも知れませんので・・・!!!」

「いや待て。蒼太君・・・!!!」

 すると自身の魂精を隠したままでそう告げる蒼太に対して、事態は一刻を争うと言うのにも関わらず、上役は彼の言葉を制止させた。

「君達もまた、彼等に狙われている身なんだぞ?それを忘れるな。今回は危険な橋を渡るのは仲間達に任せて、君達は後方支援を担当しろ!!!」

「・・・後方支援?」

「そうだ!!!」

 上役は厳しい顔で言い放った、“波動追跡やら突入やらは増援部隊に任せて君達は状況を此方に報告してくれるだけで良いから”と、“迂闊に動かないでくれ”と。

「万が一にも最初に突入したグループが仕損じた際にはその旨を報告して連中を監視するんだ、絶対に逃がさないようにしてな。そしてその為には、ある程度以上のレベルを持ったエージェントが必要なのだよ・・・!!!」

「・・・・・」

「無論、その時には君達にも再突入か、或いは救助作戦かに参加してもらう事にはなるだろうが・・・。だからこそ、なんだよ。もし君達が先に突入して失敗してしまった場合にはもう、何をやっても取り返しの付かない事になってしまうんだ、それだけは絶対に避けなければならない。解るな・・・?」

「・・・・・」

 蒼太はここまで聞いた時には漸くにして、上役達のつもりが奈辺にあるかを何となくではあるけれども感じ取れたような気がした、それは今回の人質事件の初点で“蒼太達に対する取り引きには応じない”とした、ミラベル本部の総意であると言っても差し支えないモノであったが、要はするに彼等としてみれば、自分達に取って非常なまでに有用且つ有能な手駒である蒼太達を見殺しにするのは流石に忍びなく感じていて、それ故に安全なる後方支援を打診してきた、と言う所が真相であったのであろう、多分。

 否、もっと言ってしまえば蒼太達さえ無事ならば今回は、人質がどうなっても構わない、等とさえ考えているのかも知れず、だからこそ一番肝要な部分である突入の場面を他の者達に任せろ、等とのたまって来たのかも知れないのだが、しかし。

「しかし上役。相手は恐らく、レプティリアンです、ここに来てもらえば解ります。それほど並々ならぬ魔力が渦巻いているのですよ?並大抵の力量の持ち主ならば、失敗する事は目に見えています!!!」

「・・・君達は何か?仲間を信用する事が出来ないのかね?」

「いいえ、そう言う訳ではありませんが・・・!!!」

「ではそう言う事だ!!!」

 蒼太の忠告の言葉には耳を貸さずに、上役はにべも無く言い放った、“仲間を信じて待ちたまえ”と、“それも仕事の内だよ?”とそう言って。

「毎日のように努力を重ね、技を研磨しているのは君達だけでは無い、と言う事だ。もう少し他人を信用したまえ!!!」

「・・・・・っ。はあ、まあ」

 と答える蒼太であったが確かに、自分やメリアリア達の身は一時はこれで安泰になったモノの、それと同時に新たなる不安も出て来ていたのであった、それというのは。

 もし万が一にも突入が失敗に終わった場合は最悪、人質を殺されるか、そうで無くとも人質が新たに増えてしまう可能性がある訳で有り、挙げ句の果てには。

「他にも仲間がいるだろう、出て来い!!」

 と言う展開になってしまうであろう事が、否が応でも頭の上に浮かんで来て、要するに事態がますます、混迷と悪化の一途を辿る事は必定であった、と言っても良かったモノの、しかし。

(・・・・・っ、やむを得ないか。それでもメリー達が無事に済むのであれば最悪、他の人々には犠牲になってもらうしか無い!!!)

 決して彼自身が望んでそうする訳では無かったにしてもそれでも、取り敢えずは腹の内でそう言った“冷たい算段”を為し終えた蒼太は上役の言葉に頷いて見せて、自分達は大人しく待機する事にしたのである。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 長くなりそうなので一旦、ここで切ります(次回こそガイヤールとの決着です)。
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