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ガリア帝国編
レベッカの誤算
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「またも失敗に終わったのか・・・!!」
「も、申し訳御座いませんっ。メイヨール・・・ッ!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
夜の帳が降りる頃、それよりも暗い黒闇の中で、その男、アレクセイ・デュマは溜息を付くと同時に宙を仰いだ。
目下の所、計画は全て順調に推移しておりここ、後はここ、ルテティアの結界を崩壊させてしまえばいつでも第二段階にまで事を進める事の出来る場面にまでやって来ていた、と言うにも関わらず、だ。
「“人類恐竜化計画”その真の狙いは我々しか知り得ないモノの、その為にはまだ幾許か、やっておかなくてはならない事があるのも事実。こんな所で手を拱いている場合では無いぞ?」
「は、はい、メイヨールッ。それはもう、重々に・・・っ!!」
「解っているならば、良い。それにお前達ばかりの責任でもないからな・・・」
そう言うとデュマは再び瞳を閉じては巨大な台座の付いているソファにゆったりと深く腰掛けては瞳を瞑る。
「この所、よく未来が見えなくなって来ておる。運命に干渉している何者かの存在が、我らが捻じ曲げようとしている運命の道筋を強力に糺しておるのだ、それを感じる・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「運命を、糺す者ですと?」
デマーグが口を開くがデュマはそれに対して軽く頷いただけで特に興味を示そうともしないモノの、彼からしてみれば部下の発言等に何某かの価値がある事はまず無いと言って良く、大抵の場合はだから、無視を決め込んでいたのであって、それ故にこうして反応する事すらも稀であった。
「ルテティアの結界を崩壊させると同時に人間の姿形を我々“レプティリアン”に変貌させてしまえる手段を何としてでも探すのだ。原子や元素の根元から固有振動数を変貌させる事でな、身体の組織そのものを組み直させる事が出来るようにする。それこそが“反逆皇帝ゾルデニール”、及び“キング・カイザーリン”の御意志に添う唯一の道筋・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「お前達三人にも出動命令を下す時が来るやも知れぬ、各々牙を研ぎ澄ませておけぃっ!!」
「「「ははっ!!」」」
一際語気を強めて言い放たれたデュマの言葉に、三人は恭しく頭を垂れつつそう答えた。
「・・・・・」
(しかし一体、何者だろうか。我々が歪めていた“運命の道筋”を元に戻そうとする者等とは・・・!!)
集会を終えて自らのアジトに帰る途次(みちすがら)、エカテリーナは思案に暮れていたモノの、当初は間違いなく上手く行っていたこの計画が、ある時を境に急に狂い始めた。
そのある時と言うのは例の“フォンティーヌ及びヴァロワ家壊滅作戦”の時からであり、あの時を以てして、それまで順調に行っていた自分達の“時”が狂い始めたのである、あれ程後手後手に回っていた筈の“セイレーン”が一気に息を吹き返して来てはあろう事かここ一ヶ月はハッキリと自分達を跳ね返し始めていた、尋常ならざる現象が、何か引き起こされた事に関してはもはや疑う余地が無い。
ただし。
(解らないっ。一体、何が原因なのか。セイレーン本部にこの前潜入させた部下達も皆、捕らえられて尋問されていると言うし、何が奴等を調子付かせているのか詳しく調べる必要があるな・・・!!)
“その中央にある物事、或いは人物こそが”とエカテリーナは確信していた、“乱れた時空を糺そうとする者に相違あるまい”と。
(先ずは基本に立ち返る、連中に起こった変化を知ることから始めなくてはダメだな。このままこれ以上、作戦を続けていても、こっちの被害がデカくなるだけで誰にも少しも“益”が無い!!)
そう判断したエカテリーナは。
アジトに付くと“時空魔法”を発動させては自らを子供の姿へと戻し、二日間の休暇を取った後、ルテティアの街へと向けて繰り出して行ったのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「でねっ!?お父さんがね?そしたらね~・・・っ!!!」
「うん、そっか。そうなんだ・・・!!!」
4月のルテティアの街はすっかり春のムードに包まれていた、シャンゼリゼ通りを始めとする大通りには街路樹として日本皇国から贈られて来たバラ科の落葉広葉樹“ソメイヨシノ”が一千本程も植えられていて、街を人々を淡紅色に染め上げていたのだが、そんなピンク色の花びらの舞う木の下を。
メリアリアは蒼太と並んで歩いていた、目的地は、特には無い、と言うよりも買い物ついでに街を散策していた訳であり、もっと言ってしまえば蒼太と2人で歩く事、それ自体が目的だった、と言っても良かった。
それというのも。
メリアリアは蒼太と共に過ごす時間が何よりも大切かつ大好きだったからであり、彼とお話している時、手を繋いでいる時、並んで歩いている時、キスをされている時、“愛してる”と言われて抱き締められている時、そしてー。
そんな彼と全てを重ねて一つに解け合っている時が、何物にも勝る至福の瞬間だったのであるモノの、そんな訳であったからこそ、彼女はよくよく蒼太と共にあろうとした、勿論、蒼太から“何処かへ行かないか?”等と誘われる事もあるにはあったがしかし、どちらかと言えばメリアリアの方からモーションを掛ける事の方が圧倒的に多かったのである。
ただし。
今回の散策は、ただそれだけの為に行われたモノでは断じて無かった、もう一つ別の目的があったからに他ならなかったのであるが、それというのはー。
例の“ハウシェプスト協会”の幹部候補生である男性からもたらされた情報であった、その話によれば“ハウシェプスト協会”の上部組織、“アンチ・クライスト・オーダーズ”を束ねている者こそが“アレクセイ・デュマ”、通称を“メイヨール・デュマ”と言われている謎の男である、との事だったのであるモノの、このデュマと言う男こそがまた問題だった。
コイツこそがかつて無関係な一般人の命を盾に取って蒼太の両親を死に追いやった張本人である、と言う事を、メリアリアはその場にいたアウロラ、オリヴィア共々蒼太から聞かされたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“あなた・・・?”とメリアリアが蒼太に対して呼び掛けるモノのあの後、取り調べ控え室内には沈黙と同時に重苦しい空気が漂っていた、その中心にいたのが、珍しい事に蒼太だった、滅多な事では感情を露わにしない彼がしかし、その時ばかりは腸が煮えくりかえる程の凄まじい怒りと憎しみとを前身から発していた事を、メリアリアもアウロラもオリヴィアもハッキリと感じ取っていたのである。
三人とも感性が鋭いだけでなく、蒼太との付き合いも長かった上に、昔から何かにつけて意識しては彼の事をよく見ていたからその変化に気が付けたのであるモノのしかし、ではこう言う場合に、何と声を掛けて良いのかが三人共に解らなかったのだ、そこでー。
まず思い切ってメリアリアが声を掛ける事にした、“もしかしたならこの人に怒られるのではないか?”等と考えながらもそれでもやはり、夫の様子が気になって仕方が無かったのであり、妻として心配でどうしようも無くなってしまったのと、何か力になれるのならばと勇気を出してみたのである。
「どうしたの?一体・・・。何があったの?」
「そ、そうです蒼太さん。教えて下さい・・・」
「何をそんなに怒っているのだ?蒼太・・・」
すると三人の言葉に、最初は正面を向いたまま黙っていた蒼太だったがやがて重々しく口を開いて、それでも過去に自分が神から見せられた事を話し始めたのであった、デュマがエイジャックスやプロイセンと組んでガリア帝国の辺境地域に出没していたこと、そこで恐ろしい呪いの実験を行おうとしていたこと、それに気付いた父と母が命をとして人々を守ったこと、そしてー。
その結果として2人が殺されなければならなかった事等を。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
“そ、そんな!?”とメリアリアが悲嘆にくれた、“おじ様とおば様が、そんな目に遭われていたなんて・・・!!!”とそう言って。
「酷いっ。そんなのあんまりだわっ!!!」
「なんて心の無い方なのでしょうか、何処までも他人様の命や人生を、弄ぶような真似をして・・・っ!!!」
「なんと言う卑劣な真似をする男なのだ、そのデュマと言う奴は!!!」
「・・・・・」
話を聞いた三人はそれぞれ激昂すると同時に蒼太の事を慮った、そして。
それと同時に何とか蒼太の心の傷を癒やそうと努めたのであり、メリアリアとの今回のデートもまた、その一環であった、と言う訳だ。
「だけどあれから3週間か、早いモノだね・・・」
「過ぎてみるとアッという間だったわ。最初はお祖父ちゃんのこと、ちょっと恨んだりもしたけれど・・・」
「まあ、アレッサンドロさんの気持ちも解らなくは無いんだけどね・・・」
「盛大に祝ってやりたいって言う、その事自体は凄く有り難かったし、嬉しかったんだけれども・・・。私としては正直な話、あなたと早く結ばれたいって思っていたから・・・っ!!!」
“今だってそうよ!!?”とメリアリアは両腕で蒼太の左腕にしがみ付き、顔を上げては彼を見つめるモノの、そのスカイブルーの瞳はキラキラと輝いており、顔は紅潮していていつもよりずっと、ぐっと可愛らしく見えてしまう。
「・・・・・」
(可愛い、メリー・・・)
そう思うと蒼太は周囲を一旦、窺った後に誰も見ていない事を見て取ると、素早く“チュ・・・ッ!!”とメリアリアの唇に唇を重ねた。
「・・・・・」
「ん・・・っ!!」
一方のメリアリアはそれが為される直前に夫のつもりを察すると同時に自らも瞳を閉じては蒼太に対して唇を晒すが、彼から“もっと色々な事がされたい”、“もっといっぱい愛して欲しい”と心の底から希(こいねが)っていたメリアリアにとって、こうした夫からのスキンシップは正直に言ってとても有り難いモノであり、待ち望んでいた瞬間でもあった。
ちなみに現状、婚約を済ませたメリアリアであったが今の所、蒼太とは2人で暮らせていた訳では決して無かった、と言うのも祖父であり先代の当主でもあるアレッサンドロの意向でカッシーニ家(ハーズィ)に伝わるしきたりに従い、籍を入れる前にまずは盛大なる宴である、“贈り祝い”を催さなければならないからであり、それから結婚式本番まで続く数々の会席を花嫁と花婿とが共に手を携えて通らなければならない慣わしであったのだ。
その為にはまだ幾許(いくばく)かの準備の期間が必要であり、その間、2人は婚姻届を役所に提出するのをまっている、と言う状況であったのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
“メリー”と蒼太が自らの花嫁に静かにゆっくりと語り掛け始めるモノの、そんな夫の話をメリアリアは喜びに満ち満ちた面持ちで聞き及んでいた。
「これからは、いっぱい、いっぱいキスをしようね?2人でもっといっぱい何処かに行って、美味しいモノを食べて、お話をして。色んな思い出を作って行こう?」
「・・・・・っっっ!!!!!」
“嬉しいっ!!!”とメリアリアは思わず再び夫の腕へとしがみ付いた。
「私もっ。もっといっぱい、いっぱいあなたと色んな事がしたいわ?一緒に色んな所へ行って、色んなお話をして、色んなモノを食べてっ。そしていっぱい、いっぱい愛し合うのっ!!!!!」
“ねえあなたっ”とメリアリアが告げた、“私達、ずうっとずうっと仲良くやって行こうねっ!!?”とそう言って。
「ああ・・・」
“勿論だよ!!!”と頷いて答えると蒼太もまた、愛妻へとその身を寄せるが、そんな2人が幸せいっぱいと言った表情と心持ちで歩いているとー。
「・・・・・?」
「・・・・・っ!!!」
(あ、あれえぇぇっ?この気配は・・・っ!!!)
(これってまさか・・・っ!!!)
「あああっ!!?」
「蒼太・・・っ!!!」
2人が知人の気配を背後に感じて振り返ると、少し向こうに案の定と言うべきか、なんというべきか、やはりアウロラとオリヴィアとが並んで立っていた。
向こうもこっちに気が付いたらしく、大仰に手を振っては瞳をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させている。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
「はあ、はあ、はあ・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・っ!!!」
2人は蒼太達に駆け寄って来ると、パアァッと華やいだ少女のような表情を浮かべて彼に尋ねた、“こんな所で一体、何をしているんですか!!?”とそう言って。
「今日はオフの日だろう?街でも散策していたのか?」
「え、ええ。ちょっと・・・っ!!!」
「そう言う貴女達は?珍しいじゃない、2人が揃って出歩いているなんて・・・!!!」
「ええ、私達も同じですっ!!!」
「アウロラとはさっきそこでバッタリと会ってな、それでやることも無かったから、2人でブラブラとしていた、と言う訳だよ!!!」
オリヴィアがそう言っている間にアウロラは蒼太の反対方向の腕へとしがみ付き、スリスリと頬刷りをしてきた。
「♪♪♪~っ、♪♪♪~っ!!!」
「ア、アウロラ・・・ッ!!?」
「あ、こらっ。ちょっと・・・っ!!!」
「な、何をしているんだっ。アウロラッ!!!」
蒼太が驚くと同時に他の2人が激昂するモノの、そうやって三人がいつもの如く三つ巴の戦いを繰り広げようとしていた時だった。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・?」
“あなた・・・?”とメリアリアが不思議そうな表情で尋ねるモノの、突然、蒼太が何かを警戒したかのように険しい顔付きとなり、辺りをしきりに見渡し始めたのである。
「・・・・・」
「どうしたの?あなた。何かあったの・・・?」
「・・・・・っ。蒼太さん?」
「どうしたのだ?蒼太。何か気になる事でも・・・」
最初はキョトンとした面持ちのまま、そんな夫の行動を見つめていたメリアリアとアウロラとオリヴィアであったがやがて自身達も彼の反応の意味に気が付いて咄嗟に身構えるが、遠くから徐々に、“ある女”の気配が近付いて来る事に気が付いたのであった。
それは例えるならばヒステリックな横暴性と理不尽なまでの凶暴性を併せ持つ、性格の捩じ曲がった憎悪と憤怒の塊そのものであり、到底人の放つ波動には思えない程に歪みきった、暗黒のオーラを放っていたモノのそれでも、街や道行く人々には何かの変異、変化は見られずに殺気も放ってはいない所を見るとどうやらここで殺り合うつもりは無いらしい事が伺えるが、さて。
「な、なにっ?この歪んだオーラは・・・!!?」
「凡そ人間のモノとは思えないが・・・!!!」
「あなた・・・っ!!?」
「此処じゃまずいな、ちょっと脇道に移動しようか」
4人は直ぐさま相談を終えると丁度横へと伸びていた、建物と建物とに挟まれていた通りの脇道へと足を向けては少し奥まで移動して距離を取り、メイン・ストリートの方へと向き直る。
向こうは此方に気付いていないのか、もしくは自らの正体を隠すつもりは無いらしく、尚も一歩一歩距離を縮めて来るモノの、実は蒼太にもメリアリアにも、そしてアウロラとオリヴィアにもこの気配には覚えがあった、それはあの時、あの“ルテティア第3総合病院”での事件の際に現場に残されていたモノであり、特にそれについて、蒼太とメリアリアの2人は警戒を一層、強めるモノの、つまりはそれは。
「メリー・・・ッ!!!」
「ええっ!!!」
“解っているわ・・・!!!”と夫からの言葉に応えるとメリアリアは尚も、メイン・ストリートの方角を凝視するモノの、それは間違いなくエカテリーナ、即ちレベッカの放つオーラそのものだったのであり、そして彼女こそ、メリアリアにあの“超人(アートマン)の石精”を用いて異国の少女の姿に変えた、張本人であったのだ。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
(とっ捕まえてやろうと思ったが・・・。ここで殺り合ったのでは一般人に死傷者が出るぞ!?)
(本当はここでケリを着けたいのだけれど・・・っ。周囲にこれだけの人々がいる状況下では・・・っ!!!)
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
“くそ・・・っ!!”とボソッと呟いてほんの僅かとは言えども無念さを露わにする蒼太の態度に、そして前身から抑えきれない程の闘志を漲らせるメリアリアとに、アウロラとオリヴィアとが違和感と驚愕を覚えて怪訝な面持ちとなるモノの、彼女達はまだ知らないのであった、レベッカが、つまりはエカテリーナこそがメリアリアに呪いを掛けては異国の少女の姿に変貌させた事も、それに対して蒼太が抱いた、殺意にも似た徹底的なる噴憎も。
だから。
2人は一瞬、“この人は、そしてメリアリアはどうしてしまったのだろうか?”と言う思いもあって、訝しい表情を浮かべたのであるモノの、その疑問は直ぐさま氷解して彼女達も怒りにも似た憤りを、それぞれの胸の内に抱く事となった。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
「そ、蒼太さんっ。どうしたんですか?メリアリアさんも・・・っ!!!」
「2人とも、落ち着けっ。そんなに力んでいては、相手に見付かるぞ・・・っ!!?」
そう言って自制を促すオリヴィアに対して蒼太はにべも無く言い放った、“奴は僕達を知っているよ、オリヴィア・・・”とそう告げて。
「前に話したでしょう?“ガイア・マキナ”で戦った少女の話を・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
「今から来るのが、そうだというのか!!?」
「しかも私に、変なマジックアイテムを使ってくれた張本人だからね!!」
オリヴィアの言葉に“ええ”と答えた夫の言葉に呼応するかのようにして、メリアリアもまた彼女達に告げるモノの、するとそれを聞いたアウロラとオリヴィアはそれぞれ、“なんですって!!?”、“なにぃっ!!?”と呻いては目の色を変えると同時に自らも前方を凝視しては戦闘態勢を取って身構えるが、やがてー。
その気配の“主”がメイン・ストリートの横道の前を横切ろうとしてー。
脇道(サブ・ストリート)の入り口でピタリと足を止めては黙って首だけを此方へと向けて、進路を変えては通りの中へと侵入して来るモノの、見た所、彼女は11、2歳の少女であり切れ長の青い瞳に少しボリュームのある紫色の髪の毛をポニーテールで纏めていた。
少女は明らかに蒼太達に気が付いている様相で彼と彼女達を凝視して来るモノの、次の瞬間ー。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“冗談でしょ!?”とレベッカが、即ちエカテリーナが呻くようにそう告げるモノの、彼女からしてみればまさか蒼太がこの場にいるとは思わず、しかも挙げ句の果てにはメリアリアまでも元の姿を取り戻したままでその側において臨戦態勢を取っている、しかもそれに加えて、セイレーンの誇る女王位2人もおまけでセットになっているのであり、これはもう、笑う以外の選択肢が彼女には存在していなかったのだ。
「ぷ・・・っ。あ、あはははっ。あははははははははははっ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・」
「何がおかしいんだ、レベッカ・・・」
「あははははははっ!!!だ、だって、だって!!まさか蒼太、貴男がこの場にいるなんてね!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「いちゃ、悪いのか・・・?」
「悪いとは、言わないけどさ!!」
エカテリーナが蒼太に応える、“まさかこんなに早く、この場に馳せ参じるとは思わなかった”とそう言って。
「だって、だって。貴男はずっと生死不明、所在不明だったんですものっ。まさか生きてこの世界にまでやって来ている、とは思わなかった!!!」
「・・・それはこっちの台詞だよ、レベッカ」
蒼太が応じた。
「お前がまさか、生きてこの世界にまで流れ着いていたなんてな。あっちでメリーに止めを喰らった筈なのに、どう言う手品を使ったんだか・・・」
「はんっ!!」
するとそれを聞いたエカテリーナが忌ま忌ましさを隠そうともせずに髪の毛を手で払い除けては蒼太とメリアリアの方を睨み付けて言った。
「確かに私は、殺されたよ、向こうのメリアリアッ、お前になっ。しかしそれを救って下さったお方がいたのさ、優しい優しい、偉大なお方が!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・それが」
“メイヨール・デュマと言う訳か?”と蒼太が発した言葉にエカテリーナは一瞬、明らかにギョッとなった、“どう言う事だ?”、“なんでお前達がメイヨールの事を知っている!?”と狼狽えながらも口にする。
「一体、どういう訳だか知らないが・・・。よくも調べているじゃないか、流石は蒼太だ。昔から抜け目の無い奴だと思っていたがな、随分とはしっこさも出て来たようだな!!」
「そう言うお前は昔っからはしたない女だったな、まだ正体を現す前から向こうのメリー達によくよく窘(たしな)められていたじゃないか・・・。まあ、それ以上に元から警戒されてもいたけれども」
「・・・・・っ!!!!!」
それを聞いたレベッカは突如として凶暴さ剥き出しの顔をして此方へと向けて飛び掛からんばかりの態勢を取って来た、歯軋りしている状態で口を開け、両脚を踏ん張っているその姿はまるで、人方のティラノサウルスか何かが獲物を見付けて噛み砕こうとしている直前の動作によく似ており、蒼太は油断無く、特注のベースケースに入れてある聖剣“ナレク・アレスフィア”の柄へと手を掛けるが、しかし。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ちいぃぃ・・・っ!!」
と短く呻くとエカテリーナは構えを解いては表情を元のそれに戻すが、先程から彼女は明らかに目立ち過ぎていたのであり、道行く人々からジロジロと、風変わりな目で見られていたのである。
その上。
(まずいな、此方は私1人だけ。それに対して向こうは4人。しかもいずれも“女王クラス”か・・・)
エカテリーナが頭の中で素早く計算するモノの、もし此処が本部か何処かであったのならば豊富にいる手下共に先ずは襲い掛からせて行き、相手を存分に消耗させてから出て行って、自分自身で止めを刺す、と言う作戦が利くのであるが(その為相手が十四、五人程度ならば、如何に女王位と言えども倒す事等造作も無い事なのであるが)、場所がアウェイと言うのが些か拙くてこのままでは自分が相手にノコノコ誘い出されたような格好である、一旦、撤退して出直して来なくてはならなかった。
「今日は、止めておくわ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“些か分が悪いもの・・・”と悪戯っぽく微笑むと、エカテリーナは踵を返して立ち去ろうとした、そうしておいてー。
思い出したかのように何事かを告げようとしたけれども、黙って何も言わずに立ち去っていったのである。
「・・・・・」
(なるほどね・・・!!!)
“迂闊だったわ!!”と人波を掻き分けつつも人間とは思えない程の速さで逃走してゆく最中にエカテリーナが考えるモノの、恐らくは蒼太こそがメイヨールの言う所の“時空を糺す者”であり“人類恐竜化計画”における最大の障害である、と考えて間違いない。
それに加えて。
(あの場にいたヤツら全員、凄い力を持っていやがった。真面(まとも)にぶつかったなら多分、全力を尽くしても此方がやられる!!)
“戦略を組み直さなければ!!”とエカテリーナは尚も思うが特にあの三人ーメリアリア、アウロラ、オリヴィアーは厄介だ、アイツら自身の凄まじさと言うモノは、向こうの世界(ガイア・マキナ)でエカテリーナ自身が散々に味合わされていたモノであったけれども、今日感じたそれはまた別物だった、と言って良い、それというのも。
(恐らくは蒼太だ)
それがエカテリーナの出した結論であったが確かに、メリアリア、アウロラ、オリヴィアと言うのは精神も強靱で人格も高潔、加えて努力家でもあり本人達自身が才能すらも持ち合わせていた、毎日が極限状態の連続であり、弱いヤツらならあっという間に神経を磨り減らしてしまう“セイレーン”において、その最高戦力たる“女王位”を張っている事を見ても、彼女達の峻烈さがよくよく解ろうかと言うものであるが、それだけではない。
彼女達においては間違いなく、“蒼太の存在”がキーパーソンになっているのはほぼほぼ間違いない事実であり、現に蒼太が来てからと言うものヤツらには不思議な勢いと言うか、力のようなモノが発揮され始めていた、お陰でこちらの立てた作戦は連続して失敗に追いやられていたのであり“人類恐竜化計画”も暗礁に乗り上げてしまっていたのである。
(蒼太の力、いや“存在自体”がそうなのか。メリアリア達“花嫁”の持つ光り輝きを、蒼太が元の何倍にも増幅させている。何処までも何処までも、強く高く燃え上がらせてその精神を、魂を、“根源なる霊性”の持ち併せたる無限とも言える“純粋なるエネルギー”を究極の領域にまで進化させてしまっている・・・!!!)
“厄介なヤツだ!!”と内心で舌打ちをするとエカテリーナはますます速度を上げて行き、そのままその場を後にした。
一方で。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
残された4人もまた、暫くの間“残心”を取った後に、どうやらエカテリーナが完全に撤退した事が解ると人目を避けるために移動を開始するモノの、その途中でメリアリアとアウロラとオリヴィアは心配そうな面持ちとなり、蒼太にそれぞれ“大丈夫・・・?”と声を掛けていたのであるが、本人は流石に、そう簡単に憎しみに飲み込まれてしまうような柔な精神はしていなかった。
「僕なら平気さ。そう簡単に我を忘れたりはしないよ・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「そうか・・・」
その言葉に、三人はホッと胸を撫で下ろすと同時にやはり“蒼太は蒼太だ”と安堵した、正直言ってメリアリアもアウロラもオリヴィアも、皆彼の事を心配していたモノの、蒼太はそんなに容易くは自らを見失ってしまうような愚心愚昧な男等では断じて無かったのである。
「あなた、良かった・・・!!!」
「蒼太さん、良かったです!!!」
「ホッとしたぞ、流石は蒼太だ!!!」
三人共に口々に蒼太の事を褒め称えるが、その内にアウロラが言いだした、“そうですよ!!”とハッとしたように声高く叫んで。
「せっかくですから。皆さん御飯でも食べに行きませんか!!?この近くにあるんです、フォンティーヌ家(ハーズィ)御用達の店が!!!」
「えっ?そうなの・・・?」
「へえぇ・・・?」
「ほう・・・っ!!」
するとその言葉に、三人とも、表情がパアァッと明るくなった、ちょうどお昼も近くなって来た所であるし、フォンティーヌ家御用達のお店ならば信用して良いかも知れない。
「フレンチ・レストランなんですけれど・・・。価格はリーズナブルで味は確か、品質は保証しますわ!!!」
「へえぇ?そんなお店がこの近くにねぇ・・・!!!」
「ま、まあ?たまには悪く無いかもね、御相伴にお預かりするのも・・・!!!」
「では折角なので、道案内を頼むとするか・・・!!」
三人は結局そう言って三人は、アウロラの道案内の元、彼等一族がお忍びでおとずれると言う、その隠れた名店へと足を運んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
結局この日一日中、蒼太君達はメリアリアちゃん、アウロラちゃん、オリヴィアちゃんの三人でトリプルデートを満喫しました。
ちなみに今現在、三人の中で最も蒼太君への愛情や、本人との結び付きが強いのはメリアリアちゃんなのです(なので蒼太が怒り心頭に達していた時にも、心配の余りに思い切って一番最初に声を掛けたりしたんです←それだけ蒼太君に対する思い、愛情が強いんですね)。
これは小さな頃から互いに一番、一緒に過ごして来た時間が長いのと同時に彼女は既に身も心も、魂すらも蒼太に捧げ尽くしているからなのです(小さな頃から思い出を育むと同時にイチャラブセックスを繰り返しても来ましたし、そう言った事もあっての事です)。
しかしメリアリアちゃん、アウロラちゃん、オリヴィアちゃんはそれぞれ、根っこの部分が同じであり、蒼太君に対する愛情の強さも魂の絆の確かさも皆互角の筈なのに、どうしてメリアリアちゃんと他の2人で差が付いてしまったのでしょうか。
それというのも、私がアウロラちゃんやオリヴィアちゃんを出すのが遅かったからであり、もし最初から三人で同時に登場していたのなら、三人共に蒼太君への愛情がマックスになっていて、まさにバラ色のハーレム状態が出来上がっていた事であろうと思われます(蒼太君を思う気持ちの上では2人とも、メリアリアちゃんに負けず劣らずなのですが、如何せんまだアウロラちゃんもオリヴィアちゃんも、蒼太君との間にちゃんとした“イチャラブエッチ”をしていないので←要するにまだ“結ばれてはいない”ので、その結果として恋人同士の更なる蜜月である“蕩けるような愛欲の日々”、即ち“夫婦の絆と思いの発露”、その極致とも言うべき奥深い領域にまで一つに重なり合って交わり尽くした2人の“甘美で超越的なる確かさの顕現”とでも言うべきモノが、彼との間にまだ体現出来ていないので、その分だけメリアリアちゃんの方が愛情が強く出るのです)。
今後はそうなって行く予定でありますので、どうぞもう暫くお待ち下さい。
「も、申し訳御座いませんっ。メイヨール・・・ッ!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
夜の帳が降りる頃、それよりも暗い黒闇の中で、その男、アレクセイ・デュマは溜息を付くと同時に宙を仰いだ。
目下の所、計画は全て順調に推移しておりここ、後はここ、ルテティアの結界を崩壊させてしまえばいつでも第二段階にまで事を進める事の出来る場面にまでやって来ていた、と言うにも関わらず、だ。
「“人類恐竜化計画”その真の狙いは我々しか知り得ないモノの、その為にはまだ幾許か、やっておかなくてはならない事があるのも事実。こんな所で手を拱いている場合では無いぞ?」
「は、はい、メイヨールッ。それはもう、重々に・・・っ!!」
「解っているならば、良い。それにお前達ばかりの責任でもないからな・・・」
そう言うとデュマは再び瞳を閉じては巨大な台座の付いているソファにゆったりと深く腰掛けては瞳を瞑る。
「この所、よく未来が見えなくなって来ておる。運命に干渉している何者かの存在が、我らが捻じ曲げようとしている運命の道筋を強力に糺しておるのだ、それを感じる・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「運命を、糺す者ですと?」
デマーグが口を開くがデュマはそれに対して軽く頷いただけで特に興味を示そうともしないモノの、彼からしてみれば部下の発言等に何某かの価値がある事はまず無いと言って良く、大抵の場合はだから、無視を決め込んでいたのであって、それ故にこうして反応する事すらも稀であった。
「ルテティアの結界を崩壊させると同時に人間の姿形を我々“レプティリアン”に変貌させてしまえる手段を何としてでも探すのだ。原子や元素の根元から固有振動数を変貌させる事でな、身体の組織そのものを組み直させる事が出来るようにする。それこそが“反逆皇帝ゾルデニール”、及び“キング・カイザーリン”の御意志に添う唯一の道筋・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「お前達三人にも出動命令を下す時が来るやも知れぬ、各々牙を研ぎ澄ませておけぃっ!!」
「「「ははっ!!」」」
一際語気を強めて言い放たれたデュマの言葉に、三人は恭しく頭を垂れつつそう答えた。
「・・・・・」
(しかし一体、何者だろうか。我々が歪めていた“運命の道筋”を元に戻そうとする者等とは・・・!!)
集会を終えて自らのアジトに帰る途次(みちすがら)、エカテリーナは思案に暮れていたモノの、当初は間違いなく上手く行っていたこの計画が、ある時を境に急に狂い始めた。
そのある時と言うのは例の“フォンティーヌ及びヴァロワ家壊滅作戦”の時からであり、あの時を以てして、それまで順調に行っていた自分達の“時”が狂い始めたのである、あれ程後手後手に回っていた筈の“セイレーン”が一気に息を吹き返して来てはあろう事かここ一ヶ月はハッキリと自分達を跳ね返し始めていた、尋常ならざる現象が、何か引き起こされた事に関してはもはや疑う余地が無い。
ただし。
(解らないっ。一体、何が原因なのか。セイレーン本部にこの前潜入させた部下達も皆、捕らえられて尋問されていると言うし、何が奴等を調子付かせているのか詳しく調べる必要があるな・・・!!)
“その中央にある物事、或いは人物こそが”とエカテリーナは確信していた、“乱れた時空を糺そうとする者に相違あるまい”と。
(先ずは基本に立ち返る、連中に起こった変化を知ることから始めなくてはダメだな。このままこれ以上、作戦を続けていても、こっちの被害がデカくなるだけで誰にも少しも“益”が無い!!)
そう判断したエカテリーナは。
アジトに付くと“時空魔法”を発動させては自らを子供の姿へと戻し、二日間の休暇を取った後、ルテティアの街へと向けて繰り出して行ったのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「でねっ!?お父さんがね?そしたらね~・・・っ!!!」
「うん、そっか。そうなんだ・・・!!!」
4月のルテティアの街はすっかり春のムードに包まれていた、シャンゼリゼ通りを始めとする大通りには街路樹として日本皇国から贈られて来たバラ科の落葉広葉樹“ソメイヨシノ”が一千本程も植えられていて、街を人々を淡紅色に染め上げていたのだが、そんなピンク色の花びらの舞う木の下を。
メリアリアは蒼太と並んで歩いていた、目的地は、特には無い、と言うよりも買い物ついでに街を散策していた訳であり、もっと言ってしまえば蒼太と2人で歩く事、それ自体が目的だった、と言っても良かった。
それというのも。
メリアリアは蒼太と共に過ごす時間が何よりも大切かつ大好きだったからであり、彼とお話している時、手を繋いでいる時、並んで歩いている時、キスをされている時、“愛してる”と言われて抱き締められている時、そしてー。
そんな彼と全てを重ねて一つに解け合っている時が、何物にも勝る至福の瞬間だったのであるモノの、そんな訳であったからこそ、彼女はよくよく蒼太と共にあろうとした、勿論、蒼太から“何処かへ行かないか?”等と誘われる事もあるにはあったがしかし、どちらかと言えばメリアリアの方からモーションを掛ける事の方が圧倒的に多かったのである。
ただし。
今回の散策は、ただそれだけの為に行われたモノでは断じて無かった、もう一つ別の目的があったからに他ならなかったのであるが、それというのはー。
例の“ハウシェプスト協会”の幹部候補生である男性からもたらされた情報であった、その話によれば“ハウシェプスト協会”の上部組織、“アンチ・クライスト・オーダーズ”を束ねている者こそが“アレクセイ・デュマ”、通称を“メイヨール・デュマ”と言われている謎の男である、との事だったのであるモノの、このデュマと言う男こそがまた問題だった。
コイツこそがかつて無関係な一般人の命を盾に取って蒼太の両親を死に追いやった張本人である、と言う事を、メリアリアはその場にいたアウロラ、オリヴィア共々蒼太から聞かされたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“あなた・・・?”とメリアリアが蒼太に対して呼び掛けるモノのあの後、取り調べ控え室内には沈黙と同時に重苦しい空気が漂っていた、その中心にいたのが、珍しい事に蒼太だった、滅多な事では感情を露わにしない彼がしかし、その時ばかりは腸が煮えくりかえる程の凄まじい怒りと憎しみとを前身から発していた事を、メリアリアもアウロラもオリヴィアもハッキリと感じ取っていたのである。
三人とも感性が鋭いだけでなく、蒼太との付き合いも長かった上に、昔から何かにつけて意識しては彼の事をよく見ていたからその変化に気が付けたのであるモノのしかし、ではこう言う場合に、何と声を掛けて良いのかが三人共に解らなかったのだ、そこでー。
まず思い切ってメリアリアが声を掛ける事にした、“もしかしたならこの人に怒られるのではないか?”等と考えながらもそれでもやはり、夫の様子が気になって仕方が無かったのであり、妻として心配でどうしようも無くなってしまったのと、何か力になれるのならばと勇気を出してみたのである。
「どうしたの?一体・・・。何があったの?」
「そ、そうです蒼太さん。教えて下さい・・・」
「何をそんなに怒っているのだ?蒼太・・・」
すると三人の言葉に、最初は正面を向いたまま黙っていた蒼太だったがやがて重々しく口を開いて、それでも過去に自分が神から見せられた事を話し始めたのであった、デュマがエイジャックスやプロイセンと組んでガリア帝国の辺境地域に出没していたこと、そこで恐ろしい呪いの実験を行おうとしていたこと、それに気付いた父と母が命をとして人々を守ったこと、そしてー。
その結果として2人が殺されなければならなかった事等を。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
“そ、そんな!?”とメリアリアが悲嘆にくれた、“おじ様とおば様が、そんな目に遭われていたなんて・・・!!!”とそう言って。
「酷いっ。そんなのあんまりだわっ!!!」
「なんて心の無い方なのでしょうか、何処までも他人様の命や人生を、弄ぶような真似をして・・・っ!!!」
「なんと言う卑劣な真似をする男なのだ、そのデュマと言う奴は!!!」
「・・・・・」
話を聞いた三人はそれぞれ激昂すると同時に蒼太の事を慮った、そして。
それと同時に何とか蒼太の心の傷を癒やそうと努めたのであり、メリアリアとの今回のデートもまた、その一環であった、と言う訳だ。
「だけどあれから3週間か、早いモノだね・・・」
「過ぎてみるとアッという間だったわ。最初はお祖父ちゃんのこと、ちょっと恨んだりもしたけれど・・・」
「まあ、アレッサンドロさんの気持ちも解らなくは無いんだけどね・・・」
「盛大に祝ってやりたいって言う、その事自体は凄く有り難かったし、嬉しかったんだけれども・・・。私としては正直な話、あなたと早く結ばれたいって思っていたから・・・っ!!!」
“今だってそうよ!!?”とメリアリアは両腕で蒼太の左腕にしがみ付き、顔を上げては彼を見つめるモノの、そのスカイブルーの瞳はキラキラと輝いており、顔は紅潮していていつもよりずっと、ぐっと可愛らしく見えてしまう。
「・・・・・」
(可愛い、メリー・・・)
そう思うと蒼太は周囲を一旦、窺った後に誰も見ていない事を見て取ると、素早く“チュ・・・ッ!!”とメリアリアの唇に唇を重ねた。
「・・・・・」
「ん・・・っ!!」
一方のメリアリアはそれが為される直前に夫のつもりを察すると同時に自らも瞳を閉じては蒼太に対して唇を晒すが、彼から“もっと色々な事がされたい”、“もっといっぱい愛して欲しい”と心の底から希(こいねが)っていたメリアリアにとって、こうした夫からのスキンシップは正直に言ってとても有り難いモノであり、待ち望んでいた瞬間でもあった。
ちなみに現状、婚約を済ませたメリアリアであったが今の所、蒼太とは2人で暮らせていた訳では決して無かった、と言うのも祖父であり先代の当主でもあるアレッサンドロの意向でカッシーニ家(ハーズィ)に伝わるしきたりに従い、籍を入れる前にまずは盛大なる宴である、“贈り祝い”を催さなければならないからであり、それから結婚式本番まで続く数々の会席を花嫁と花婿とが共に手を携えて通らなければならない慣わしであったのだ。
その為にはまだ幾許(いくばく)かの準備の期間が必要であり、その間、2人は婚姻届を役所に提出するのをまっている、と言う状況であったのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
“メリー”と蒼太が自らの花嫁に静かにゆっくりと語り掛け始めるモノの、そんな夫の話をメリアリアは喜びに満ち満ちた面持ちで聞き及んでいた。
「これからは、いっぱい、いっぱいキスをしようね?2人でもっといっぱい何処かに行って、美味しいモノを食べて、お話をして。色んな思い出を作って行こう?」
「・・・・・っっっ!!!!!」
“嬉しいっ!!!”とメリアリアは思わず再び夫の腕へとしがみ付いた。
「私もっ。もっといっぱい、いっぱいあなたと色んな事がしたいわ?一緒に色んな所へ行って、色んなお話をして、色んなモノを食べてっ。そしていっぱい、いっぱい愛し合うのっ!!!!!」
“ねえあなたっ”とメリアリアが告げた、“私達、ずうっとずうっと仲良くやって行こうねっ!!?”とそう言って。
「ああ・・・」
“勿論だよ!!!”と頷いて答えると蒼太もまた、愛妻へとその身を寄せるが、そんな2人が幸せいっぱいと言った表情と心持ちで歩いているとー。
「・・・・・?」
「・・・・・っ!!!」
(あ、あれえぇぇっ?この気配は・・・っ!!!)
(これってまさか・・・っ!!!)
「あああっ!!?」
「蒼太・・・っ!!!」
2人が知人の気配を背後に感じて振り返ると、少し向こうに案の定と言うべきか、なんというべきか、やはりアウロラとオリヴィアとが並んで立っていた。
向こうもこっちに気が付いたらしく、大仰に手を振っては瞳をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させている。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
「はあ、はあ、はあ・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・っ!!!」
2人は蒼太達に駆け寄って来ると、パアァッと華やいだ少女のような表情を浮かべて彼に尋ねた、“こんな所で一体、何をしているんですか!!?”とそう言って。
「今日はオフの日だろう?街でも散策していたのか?」
「え、ええ。ちょっと・・・っ!!!」
「そう言う貴女達は?珍しいじゃない、2人が揃って出歩いているなんて・・・!!!」
「ええ、私達も同じですっ!!!」
「アウロラとはさっきそこでバッタリと会ってな、それでやることも無かったから、2人でブラブラとしていた、と言う訳だよ!!!」
オリヴィアがそう言っている間にアウロラは蒼太の反対方向の腕へとしがみ付き、スリスリと頬刷りをしてきた。
「♪♪♪~っ、♪♪♪~っ!!!」
「ア、アウロラ・・・ッ!!?」
「あ、こらっ。ちょっと・・・っ!!!」
「な、何をしているんだっ。アウロラッ!!!」
蒼太が驚くと同時に他の2人が激昂するモノの、そうやって三人がいつもの如く三つ巴の戦いを繰り広げようとしていた時だった。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・?」
“あなた・・・?”とメリアリアが不思議そうな表情で尋ねるモノの、突然、蒼太が何かを警戒したかのように険しい顔付きとなり、辺りをしきりに見渡し始めたのである。
「・・・・・」
「どうしたの?あなた。何かあったの・・・?」
「・・・・・っ。蒼太さん?」
「どうしたのだ?蒼太。何か気になる事でも・・・」
最初はキョトンとした面持ちのまま、そんな夫の行動を見つめていたメリアリアとアウロラとオリヴィアであったがやがて自身達も彼の反応の意味に気が付いて咄嗟に身構えるが、遠くから徐々に、“ある女”の気配が近付いて来る事に気が付いたのであった。
それは例えるならばヒステリックな横暴性と理不尽なまでの凶暴性を併せ持つ、性格の捩じ曲がった憎悪と憤怒の塊そのものであり、到底人の放つ波動には思えない程に歪みきった、暗黒のオーラを放っていたモノのそれでも、街や道行く人々には何かの変異、変化は見られずに殺気も放ってはいない所を見るとどうやらここで殺り合うつもりは無いらしい事が伺えるが、さて。
「な、なにっ?この歪んだオーラは・・・!!?」
「凡そ人間のモノとは思えないが・・・!!!」
「あなた・・・っ!!?」
「此処じゃまずいな、ちょっと脇道に移動しようか」
4人は直ぐさま相談を終えると丁度横へと伸びていた、建物と建物とに挟まれていた通りの脇道へと足を向けては少し奥まで移動して距離を取り、メイン・ストリートの方へと向き直る。
向こうは此方に気付いていないのか、もしくは自らの正体を隠すつもりは無いらしく、尚も一歩一歩距離を縮めて来るモノの、実は蒼太にもメリアリアにも、そしてアウロラとオリヴィアにもこの気配には覚えがあった、それはあの時、あの“ルテティア第3総合病院”での事件の際に現場に残されていたモノであり、特にそれについて、蒼太とメリアリアの2人は警戒を一層、強めるモノの、つまりはそれは。
「メリー・・・ッ!!!」
「ええっ!!!」
“解っているわ・・・!!!”と夫からの言葉に応えるとメリアリアは尚も、メイン・ストリートの方角を凝視するモノの、それは間違いなくエカテリーナ、即ちレベッカの放つオーラそのものだったのであり、そして彼女こそ、メリアリアにあの“超人(アートマン)の石精”を用いて異国の少女の姿に変えた、張本人であったのだ。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
(とっ捕まえてやろうと思ったが・・・。ここで殺り合ったのでは一般人に死傷者が出るぞ!?)
(本当はここでケリを着けたいのだけれど・・・っ。周囲にこれだけの人々がいる状況下では・・・っ!!!)
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
“くそ・・・っ!!”とボソッと呟いてほんの僅かとは言えども無念さを露わにする蒼太の態度に、そして前身から抑えきれない程の闘志を漲らせるメリアリアとに、アウロラとオリヴィアとが違和感と驚愕を覚えて怪訝な面持ちとなるモノの、彼女達はまだ知らないのであった、レベッカが、つまりはエカテリーナこそがメリアリアに呪いを掛けては異国の少女の姿に変貌させた事も、それに対して蒼太が抱いた、殺意にも似た徹底的なる噴憎も。
だから。
2人は一瞬、“この人は、そしてメリアリアはどうしてしまったのだろうか?”と言う思いもあって、訝しい表情を浮かべたのであるモノの、その疑問は直ぐさま氷解して彼女達も怒りにも似た憤りを、それぞれの胸の内に抱く事となった。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
「そ、蒼太さんっ。どうしたんですか?メリアリアさんも・・・っ!!!」
「2人とも、落ち着けっ。そんなに力んでいては、相手に見付かるぞ・・・っ!!?」
そう言って自制を促すオリヴィアに対して蒼太はにべも無く言い放った、“奴は僕達を知っているよ、オリヴィア・・・”とそう告げて。
「前に話したでしょう?“ガイア・マキナ”で戦った少女の話を・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!!」
「今から来るのが、そうだというのか!!?」
「しかも私に、変なマジックアイテムを使ってくれた張本人だからね!!」
オリヴィアの言葉に“ええ”と答えた夫の言葉に呼応するかのようにして、メリアリアもまた彼女達に告げるモノの、するとそれを聞いたアウロラとオリヴィアはそれぞれ、“なんですって!!?”、“なにぃっ!!?”と呻いては目の色を変えると同時に自らも前方を凝視しては戦闘態勢を取って身構えるが、やがてー。
その気配の“主”がメイン・ストリートの横道の前を横切ろうとしてー。
脇道(サブ・ストリート)の入り口でピタリと足を止めては黙って首だけを此方へと向けて、進路を変えては通りの中へと侵入して来るモノの、見た所、彼女は11、2歳の少女であり切れ長の青い瞳に少しボリュームのある紫色の髪の毛をポニーテールで纏めていた。
少女は明らかに蒼太達に気が付いている様相で彼と彼女達を凝視して来るモノの、次の瞬間ー。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“冗談でしょ!?”とレベッカが、即ちエカテリーナが呻くようにそう告げるモノの、彼女からしてみればまさか蒼太がこの場にいるとは思わず、しかも挙げ句の果てにはメリアリアまでも元の姿を取り戻したままでその側において臨戦態勢を取っている、しかもそれに加えて、セイレーンの誇る女王位2人もおまけでセットになっているのであり、これはもう、笑う以外の選択肢が彼女には存在していなかったのだ。
「ぷ・・・っ。あ、あはははっ。あははははははははははっ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・」
「何がおかしいんだ、レベッカ・・・」
「あははははははっ!!!だ、だって、だって!!まさか蒼太、貴男がこの場にいるなんてね!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「いちゃ、悪いのか・・・?」
「悪いとは、言わないけどさ!!」
エカテリーナが蒼太に応える、“まさかこんなに早く、この場に馳せ参じるとは思わなかった”とそう言って。
「だって、だって。貴男はずっと生死不明、所在不明だったんですものっ。まさか生きてこの世界にまでやって来ている、とは思わなかった!!!」
「・・・それはこっちの台詞だよ、レベッカ」
蒼太が応じた。
「お前がまさか、生きてこの世界にまで流れ着いていたなんてな。あっちでメリーに止めを喰らった筈なのに、どう言う手品を使ったんだか・・・」
「はんっ!!」
するとそれを聞いたエカテリーナが忌ま忌ましさを隠そうともせずに髪の毛を手で払い除けては蒼太とメリアリアの方を睨み付けて言った。
「確かに私は、殺されたよ、向こうのメリアリアッ、お前になっ。しかしそれを救って下さったお方がいたのさ、優しい優しい、偉大なお方が!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・それが」
“メイヨール・デュマと言う訳か?”と蒼太が発した言葉にエカテリーナは一瞬、明らかにギョッとなった、“どう言う事だ?”、“なんでお前達がメイヨールの事を知っている!?”と狼狽えながらも口にする。
「一体、どういう訳だか知らないが・・・。よくも調べているじゃないか、流石は蒼太だ。昔から抜け目の無い奴だと思っていたがな、随分とはしっこさも出て来たようだな!!」
「そう言うお前は昔っからはしたない女だったな、まだ正体を現す前から向こうのメリー達によくよく窘(たしな)められていたじゃないか・・・。まあ、それ以上に元から警戒されてもいたけれども」
「・・・・・っ!!!!!」
それを聞いたレベッカは突如として凶暴さ剥き出しの顔をして此方へと向けて飛び掛からんばかりの態勢を取って来た、歯軋りしている状態で口を開け、両脚を踏ん張っているその姿はまるで、人方のティラノサウルスか何かが獲物を見付けて噛み砕こうとしている直前の動作によく似ており、蒼太は油断無く、特注のベースケースに入れてある聖剣“ナレク・アレスフィア”の柄へと手を掛けるが、しかし。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ちいぃぃ・・・っ!!」
と短く呻くとエカテリーナは構えを解いては表情を元のそれに戻すが、先程から彼女は明らかに目立ち過ぎていたのであり、道行く人々からジロジロと、風変わりな目で見られていたのである。
その上。
(まずいな、此方は私1人だけ。それに対して向こうは4人。しかもいずれも“女王クラス”か・・・)
エカテリーナが頭の中で素早く計算するモノの、もし此処が本部か何処かであったのならば豊富にいる手下共に先ずは襲い掛からせて行き、相手を存分に消耗させてから出て行って、自分自身で止めを刺す、と言う作戦が利くのであるが(その為相手が十四、五人程度ならば、如何に女王位と言えども倒す事等造作も無い事なのであるが)、場所がアウェイと言うのが些か拙くてこのままでは自分が相手にノコノコ誘い出されたような格好である、一旦、撤退して出直して来なくてはならなかった。
「今日は、止めておくわ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“些か分が悪いもの・・・”と悪戯っぽく微笑むと、エカテリーナは踵を返して立ち去ろうとした、そうしておいてー。
思い出したかのように何事かを告げようとしたけれども、黙って何も言わずに立ち去っていったのである。
「・・・・・」
(なるほどね・・・!!!)
“迂闊だったわ!!”と人波を掻き分けつつも人間とは思えない程の速さで逃走してゆく最中にエカテリーナが考えるモノの、恐らくは蒼太こそがメイヨールの言う所の“時空を糺す者”であり“人類恐竜化計画”における最大の障害である、と考えて間違いない。
それに加えて。
(あの場にいたヤツら全員、凄い力を持っていやがった。真面(まとも)にぶつかったなら多分、全力を尽くしても此方がやられる!!)
“戦略を組み直さなければ!!”とエカテリーナは尚も思うが特にあの三人ーメリアリア、アウロラ、オリヴィアーは厄介だ、アイツら自身の凄まじさと言うモノは、向こうの世界(ガイア・マキナ)でエカテリーナ自身が散々に味合わされていたモノであったけれども、今日感じたそれはまた別物だった、と言って良い、それというのも。
(恐らくは蒼太だ)
それがエカテリーナの出した結論であったが確かに、メリアリア、アウロラ、オリヴィアと言うのは精神も強靱で人格も高潔、加えて努力家でもあり本人達自身が才能すらも持ち合わせていた、毎日が極限状態の連続であり、弱いヤツらならあっという間に神経を磨り減らしてしまう“セイレーン”において、その最高戦力たる“女王位”を張っている事を見ても、彼女達の峻烈さがよくよく解ろうかと言うものであるが、それだけではない。
彼女達においては間違いなく、“蒼太の存在”がキーパーソンになっているのはほぼほぼ間違いない事実であり、現に蒼太が来てからと言うものヤツらには不思議な勢いと言うか、力のようなモノが発揮され始めていた、お陰でこちらの立てた作戦は連続して失敗に追いやられていたのであり“人類恐竜化計画”も暗礁に乗り上げてしまっていたのである。
(蒼太の力、いや“存在自体”がそうなのか。メリアリア達“花嫁”の持つ光り輝きを、蒼太が元の何倍にも増幅させている。何処までも何処までも、強く高く燃え上がらせてその精神を、魂を、“根源なる霊性”の持ち併せたる無限とも言える“純粋なるエネルギー”を究極の領域にまで進化させてしまっている・・・!!!)
“厄介なヤツだ!!”と内心で舌打ちをするとエカテリーナはますます速度を上げて行き、そのままその場を後にした。
一方で。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
残された4人もまた、暫くの間“残心”を取った後に、どうやらエカテリーナが完全に撤退した事が解ると人目を避けるために移動を開始するモノの、その途中でメリアリアとアウロラとオリヴィアは心配そうな面持ちとなり、蒼太にそれぞれ“大丈夫・・・?”と声を掛けていたのであるが、本人は流石に、そう簡単に憎しみに飲み込まれてしまうような柔な精神はしていなかった。
「僕なら平気さ。そう簡単に我を忘れたりはしないよ・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「そうか・・・」
その言葉に、三人はホッと胸を撫で下ろすと同時にやはり“蒼太は蒼太だ”と安堵した、正直言ってメリアリアもアウロラもオリヴィアも、皆彼の事を心配していたモノの、蒼太はそんなに容易くは自らを見失ってしまうような愚心愚昧な男等では断じて無かったのである。
「あなた、良かった・・・!!!」
「蒼太さん、良かったです!!!」
「ホッとしたぞ、流石は蒼太だ!!!」
三人共に口々に蒼太の事を褒め称えるが、その内にアウロラが言いだした、“そうですよ!!”とハッとしたように声高く叫んで。
「せっかくですから。皆さん御飯でも食べに行きませんか!!?この近くにあるんです、フォンティーヌ家(ハーズィ)御用達の店が!!!」
「えっ?そうなの・・・?」
「へえぇ・・・?」
「ほう・・・っ!!」
するとその言葉に、三人とも、表情がパアァッと明るくなった、ちょうどお昼も近くなって来た所であるし、フォンティーヌ家御用達のお店ならば信用して良いかも知れない。
「フレンチ・レストランなんですけれど・・・。価格はリーズナブルで味は確か、品質は保証しますわ!!!」
「へえぇ?そんなお店がこの近くにねぇ・・・!!!」
「ま、まあ?たまには悪く無いかもね、御相伴にお預かりするのも・・・!!!」
「では折角なので、道案内を頼むとするか・・・!!」
三人は結局そう言って三人は、アウロラの道案内の元、彼等一族がお忍びでおとずれると言う、その隠れた名店へと足を運んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
結局この日一日中、蒼太君達はメリアリアちゃん、アウロラちゃん、オリヴィアちゃんの三人でトリプルデートを満喫しました。
ちなみに今現在、三人の中で最も蒼太君への愛情や、本人との結び付きが強いのはメリアリアちゃんなのです(なので蒼太が怒り心頭に達していた時にも、心配の余りに思い切って一番最初に声を掛けたりしたんです←それだけ蒼太君に対する思い、愛情が強いんですね)。
これは小さな頃から互いに一番、一緒に過ごして来た時間が長いのと同時に彼女は既に身も心も、魂すらも蒼太に捧げ尽くしているからなのです(小さな頃から思い出を育むと同時にイチャラブセックスを繰り返しても来ましたし、そう言った事もあっての事です)。
しかしメリアリアちゃん、アウロラちゃん、オリヴィアちゃんはそれぞれ、根っこの部分が同じであり、蒼太君に対する愛情の強さも魂の絆の確かさも皆互角の筈なのに、どうしてメリアリアちゃんと他の2人で差が付いてしまったのでしょうか。
それというのも、私がアウロラちゃんやオリヴィアちゃんを出すのが遅かったからであり、もし最初から三人で同時に登場していたのなら、三人共に蒼太君への愛情がマックスになっていて、まさにバラ色のハーレム状態が出来上がっていた事であろうと思われます(蒼太君を思う気持ちの上では2人とも、メリアリアちゃんに負けず劣らずなのですが、如何せんまだアウロラちゃんもオリヴィアちゃんも、蒼太君との間にちゃんとした“イチャラブエッチ”をしていないので←要するにまだ“結ばれてはいない”ので、その結果として恋人同士の更なる蜜月である“蕩けるような愛欲の日々”、即ち“夫婦の絆と思いの発露”、その極致とも言うべき奥深い領域にまで一つに重なり合って交わり尽くした2人の“甘美で超越的なる確かさの顕現”とでも言うべきモノが、彼との間にまだ体現出来ていないので、その分だけメリアリアちゃんの方が愛情が強く出るのです)。
今後はそうなって行く予定でありますので、どうぞもう暫くお待ち下さい。
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その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
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【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
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一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
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