星降る国の恋と愛

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ガリア帝国編

ルテティア第三総合病院事件

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「お祖父ちゃんにも困ったモノねーっ!!!」

「まあでも、気持ちは解るけどね・・・」

 ある3月の晴れた週末の金曜日の午前10時30分過ぎー。

 この日、メリアリアは蒼太と二人で街の散策に明け暮れていた、本来であればこの日は、ルテティア第五環状区画区役所へと二人の婚姻届を提出に向かう筈であったが、二人が諸々の手続きや逢瀬を終えて一休みし、“さあこれから記入を済ますぞ!!”と言う直前でその電話はもたらされた。

 電話の主は蒼太の舅でありメリアリアの実父ダーヴィデからであって、聞けば“結婚式までの一連の儀式の為に入籍は暫く留まって欲しい”との事であったのである。

 ダーヴィデ曰く、カッシーニ家のしきたりに沿って大々的にお祝いをする、との事でありこれを以て蒼太を一族として迎え入れると同時に青年(蒼太)と淑女(メリアリア)両名に夫婦としての祝福を授ける、大昔からの慣わしなのだと言うのだ。

「いや、すまんね。私共としては今風に、若い二人に任せてせめて式だけは盛大に行おうと思っていたのだが。おおっと、勿論、私達持ちでな?わっはっはっはっ!!」

「そ、そんな。お義父さん・・・っ!?」

「もうっ。お父さんたら・・・っ!!」

 と、その言葉を聞いて蒼太もメリアリアも戸惑うと同時に大いに照れて遠慮をし、また恥ずかしくもなってしまった、そもそも論として両名は揃って式はいずれ挙げるとしてもそれは自分達の身の丈にあった、身内だけの質素なモノにしようと当初は考えていたモノだったから、この岳父からの(ついでに言えば嫁方の祖父からの)申し出はまさに寝耳に水であり、二人とも驚きを禁じ得なかったのであるモノの、しかし。

「蒼太もメリアリアも、良いんだよ?もっと私達に甘えても。まあこんな爺ちゃんに何が出来るか解らんがね、わっはっはっはっ!!」

「お、お義父さん。しかしですね・・・!!」

「も、もうっ、お父さん。恥ずかしいわ!!」

 二人は顔を真っ赤にしつつも電話の応対を続けるモノの、心の底では喜びと感動とが、フツフツと湧き上がって来るのを感じていた、正直招待客の大半は(即ちメリアリアの親戚連中と言うモノは)蒼太にとっても顔見知りであり、中には友人付き合いをしている間柄の面々もいた、幼い頃から一緒に過ごして来た二人は誕生日が一ヶ月違いであったために(メリアリアの方が1月であり蒼太は2月である)、ダーヴィデ達の(元々はメリアリアの発案と意見に拠る所が大きかったのであるモノの)好意で一緒に誕生日を祝ってもらっていたから、それらの席を通して彼等と誼(よしみ)を通じて行ったのである。

「大勢の人に見守られてって言うのは正直ちょっと照れ臭いけれども・・・。それでも皆、祝ってくれるよね?メリー!!!」

「ええ、あなた。だって皆、あなたの事が大好きで。とっても信頼しているんだもの!!!」

 電話を切ったその後で、二人はすっかり舞い上がってしまっており、早くも結婚式への夢と希望に胸を躍らせると同時に、“失敗しなければ良いけれど”とある種の緊張をも覚えていたのであった。

「だけどカッシーニ家に、そんなしきたりがあったなんてね?僕、全然知らなかったよ!!!」

「本当よね?私もちっとも知らなかったわ。お父さん達、そう言う話って全然してくれなかったんだから!!!」

 そんな事を話しつつも、二人が散策を続けているとー。

 遠くから何やら、けたたましいサイレンの音が鳴り響いてきて見れば何台ものパトカーやら救急車やらが大手通りを行き交っていた、この辺りは国家の最高意思決定機関である中央省庁が数多く建ち並んでいる第5区画のバイタル・パート、“政経エリア”近辺であり、帝城への出入り口に面してもいた事から警備も極めて厳重であった筈である、一体何事が起こったのであろうか。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “ミラベル本部の、すぐ近くだね?”と告げる蒼太にメリアリアも神妙な面持ちで“ええ・・・!!!”と頷いてみせるモノのこの時、二人の脳裏には嫌な想像が働いた、もしかしたならミラベルに、何事かあったのではあるまいか。

「いくら何でも、そこまでの事は出来ないと思うけど・・・!!!」

「でも相手は“エイジャックス連合王国”よ?それに“カインの子供達”みたいな奴らもいるのよ!?解らないわ!!!」

 愛妻(メリアリア)からのその言葉に、蒼太は“うーん・・・”と思わず唸ってしまうがもし本当に、“国家高等秘密警察”の本拠地たるミラベル・ビルディングが直接襲撃を受けたとなれば、事態はとんでもない局面に突入している事になるのであり、国家の根幹を成している安全体制そのものが、基本的な部分から破綻を来している事を意味するのみならず、自分達の日常生活も送れなくなっている事を意味するのである、放ってはおけない。

(これは“セイレーン本部”も同じだけれども・・・。本来が“裏方組織”である“ミラベル”は、その本部の場所も業務内容も、隊員達の素性さえもが最高機密であるだけじゃなく、情報防御態勢(セキュリティ・ガード)だって万全で最新鋭のモノが導入されていた筈なんだ、それが突破されたと言う事は・・・!!?)

 蒼太は思うがそもそもが、“ミラベル本部”が襲われて何らかのダメージを負わされている、と言う事は=で万全の態勢を誇っていた筈のセキュリティ・ガードが突破され、内部情報が流出してしまっている可能性がある事を示唆している訳であり、そしてそれは取りも直さず“国家呪術師”や“魔法戦士”等の所謂(いわゆる)“裏方稼業”を生業としている自分達の素性が“敵性国家”や“第三国”にバレている可能性がある事を意味する訳であって、そうなればもう、安心して国外旅行に赴く所か、街中を歩く事も出来なくなる。

 況んや結婚式など夢のまた夢、と言った状況でありとてもの事、放ってはおける事態等では間違ってもありはしなかったのだ。

「行ってみよう!!!」

「うん!!!」

 夫と同じ気持ち、考えだったのであろうメリアリアもまた、蒼太の言葉にそう頷くと二人はもう、次の瞬間には地面を蹴って跳躍して空中に躍り出ていた、もし事態が彼等の予想通りの展開を見せているのだとしたならばどの道、自分達だって休暇を楽しんで等いられなくなるし、それに何より。

 ミラベルの側にはセイレーンの本部もあって、そこには今日、総隊長であるオリヴィアを始めとしてエマやクレモンス、ジョセフィーヌにアンナ、ティアーユ達が詰めていた筈である、それだけではない、アンリやノエルだって今現在はそのビルディングに入館している時間であり、特にノエルに至っては身柄を保護されて生活を営んでいるのであったから、もし何かあったのならば彼等もまた、決してただで済む筈が無い。

「・・・・・」

「・・・・・」

(単なる勘違いであってくれれば良いけれど・・・!!!)

(だけど妙だわ?サイレンの音はミラベル本部から来ている訳では無いみたい・・・!!!)

 気力を充実させながらも、蒼太とメリアリアが通りを疾走して行くと、その途中で妙な事に気が付いた、パトカー等が向かっているのはミラベル本部やセイレーンのそれでは決して無くて、それは確かに国家安全保障理事会直轄権力である両者の本部の直ぐ側ではあったけれども直接的には何の関係も無い、“ルテティア第3総合病院”の正面ロビーだったのである。

「・・・・・?」

「なに?これは・・・」

 “何某かの、魔法の匂いがする”ー。

 現場に到着した二人がまず第一番にそう思い至って周囲を警戒すると同時に状況の把握に努めるモノの、そこにいたのは入院患者の集団であろうか、老若貴賎様々な身形をしている夥しい数の老人達だったのであり、彼等或いは彼女達は、外で待機している数十台に上ろうかという救急車へと次々と搬入されていく途中であった。

 その周囲を、これまた夥しい数のパトカーと警官達が封鎖しつつも、警備に当たっていたモノの、一瞬“テロか?”と思った蒼太とメリアリアであったがしかし、それにしては建物や人々、そして何より街の風観に全くと言って良いほどダメージは無かったし、また爆発物や毒物特有の異臭や刺激臭の類いもしない。

 それらが仕掛けられている可能性も、残留思念を探ったりエネルギートレーサーを行ってみた所、完全なまでに否定されたが、ただ一つ、やはり不可思議な“魔法の匂い”、“術式の感性”だけがそこに色濃く残されていたのであるモノの、それに加えてー。

「・・・・・」

「・・・・・っ!!?」

(犯人は女性かしら?でも凄く意地の悪い人だわ、常に自分の事で頭がいっぱいになっていて。あんまり他人様の事を省みる、と言う事をする人ではないみたい・・・)

 現場に残されていた波動を分析しつつもメリアリアが思うがそれは例えるならば傲慢で身勝手な貴婦人の併せ持つ、ヒステリックな残虐性、理不尽な怒りや当て擦りとでも言うべきモノであって、そしてそれ故の、圧倒的なまでの“底意地の悪さ”、それの濃縮された“攻撃的な意思の発露”が成された事が見て取れたのであるモノの、しかしー。

(不思議な感じ。この魔法自体からはそこまでの、攻撃的な意思の発露は見受けられない。と言う事はつまり、この場に残されている“害意”は全て、この魔法を発動させた人のモノなんだ。でもこれって一体・・・!!?)

 そこまで考え倦ねた時に。

 メリアリアはハタと気が付いたのであるモノの、そうなのだ、自分はこの波動の主と前に一度、何処かで出会った事があった筈だったのであり、間違いなく彼女の知っている人間のそれであった。

 しかし。

「レベッカだ・・・!!!」

「・・・・・っ!!?」

 何事かを感じて思案に暮れていたメリアリアがしかし、その答えに辿り着く前に夫が先に言い当てて見せるがそれは紛れもなく、あの晩秋の夕暮れ刻に、その人の記憶を封印させて赤ん坊にまで戻させてしまう伝説の法具である“超人(アートマン)の石精”をメリアリアに対して用いた、“幻惑のエカテリーナ”こと“レベッカ・デ・アラゴン・イ・シシリア”その人のモノだったのであり、メリアリアに向けてあの鋭くも底意地の悪い瞳を向けて来た、張本人の放っている感覚そのものだったのである。

 元々、この“超人(アートマン)の石精”と言うモノは“もう一度人生をやり直したい”、“真剣に生き直したい”と希(こいねが)う人々の為に、あらゆる悩み、苦しみから解き放たれて悟りを開き得た人々、即ち超人(アートマン)達の祈りが形となって現れたとされる、非常に強力なマジックアイテムだったのであり、だから本来ならば間違っても、人を攻撃する為に活用して良い代物等では決して無かった筈であるモノの、にも拘わらずにレベッカはそれを害意に基づいて用いたのであり、その結果としてその悪意と余りに急激なる身体や精神の異変をキャッチしたメリアリアの対呪耐性の浄化能力が発動してアイテムの効能が相殺され、彼女は記憶と人格とを保ったまま、ただ見た目だけが中途半端に変換されたのみで事無きを得たのである。

「間違いない、この人を人とも思わないような底意地の悪さ。ヒステリックな横暴さ、歪み切った凶悪性。紛れもなくレベッカのモノだよ・・・!!!」

「・・・・・」

「君は一度、遭遇していたんだったね?」

「ええ、でもほんの一瞬だったし。何よりその時のアイツには、殺気みたいなのが全く無かったの!!!」

「でも凄く、嫌な予感がしただろう?」

 夫からもたらされたその言葉に、メリアリアは“うんっ!!”と大きく頷いて答えるモノの確かにあの時、メリアリアは直感していたのである、“一刻も早く、コイツを何とかしなさい”と、“さもなければとんでもない事になるから”と。

 そしてそれは間違い等では決して無かった、レベッカのせいでメリアリアは一時、仲間内からも疑われてしまい、危うく嫌疑に掛けられる寸前にまで行ってしまったのであるモノの、一方でそのお陰で地球の反対側まで旅をして蒼太に再会する事が出来たのであるからまさに、人間何がどうなるのかは解ったモノでは無かったのだが、しかし。

(それはそれで良かったけれども・・・っ。全く以て冗談じゃ無いわ、今度会ったら絶対にリベンジしてやるって誓ってたんだからっ!!!)

「アイツはね、昔っからそうだったんだよ・・・!!!」

「あなた・・・?」

 蒼太の言葉に妻(メリアリア)がキョトンと聞き返すモノの、蒼太が言うにはレベッカはどちらかと言えば“人を殺す”と言う行為そのものよりも“叩きのめす”、“打ち倒す”事を何よりの楽しみとしていたのであり、また時には新しい魔法術式やらマジックアイテム等の実験台にする事もあったと言う話であって、要するに凡そ人と言うモノを“愛故に暖かみのある存在”、“慈しむべき者”と認識している訳では決して無かった、むしろ単なる玩具としてしか見ていない、と言うのがその実状だったのである。

 メリアリアが彼女に感じた気味の悪さはそうしたレベッカの持つ醜悪さや危険性そのものだったのであり、情け容赦の無い彼女の残虐的卑劣さを直感で見抜いた瞬間であったと言えるがしかし、一方で、では何故そんなメリアリアがレベッカの波動を判別する事が出来ずにいたのか、と言えばそれは流石にレベッカとの遭遇時間が余りにも短すぎた為であり、またレベッカ自身がメリアリア本人と正面切ってまともに戦う事を避けていたから、と言う理由も加わっての事に他ならなかったのであるモノの、それというのも。

 レベッカはまた自己保身欲の非常に強い少女でもあった、そしてそれは特に異世界線“ガイア・マキナ”においてあちらにいたメリアリアに打ち倒されてからと言うモノますます増大の一途を辿って行ったのであるモノのそれ故、最初からこの“いばら姫”の事を最大限に警戒していた彼女はだから、メリアリアとの接触については必要最低限度に留めようとしていたのであり、目的が確実に果たされた訳でも無かった癖に高笑いしてさっさとその場から離れた、と言うのが事の真相だったのである。

 元々、レベッカはこの“超人(アートマン)の石精”を使ってメリアリアを赤ん坊にまで退化させ、無力化させた上で彼女を抹殺しようと企んでいたのであるモノのしかし、途中でその考えを改めたのである、何故ならば一瞬で始末してしまうよりも、記憶を消させて本来の自分自身を見失わせたまま、蒼太の事も仲間達の事も忘れて別人としての人生を送らせてやるのもまた一興だ、等と思い至るに及んだ為であってそれ故に、当初の予定では乳飲み子にまで戻した彼女をそのまま孤児院にでも置き去りにした挙げ句、もし気が変わったなら殺してしまおう、等と目論んでいたのであったがしかし、事は彼女の思惑通りにはならなかった、メリアリアの持っていた浄化耐性能力が予想を超えて強すぎたのであり、彼女は自分と記憶をしっかりと保ち続けたままで、ただその容姿、形態のみを異国の少女のそれへと成り果てるに留めたのであったのだ。

 これはレベッカにとっては予想を超えて脅威であった、何やら他にも不可思議な能力を宿しているかも知れないし、また如何に伝説のマジックアイテムの効能により本来の10分の1程度しか力が出せなかったとしても、それでも相手はあのメリアリアである、もしかしたなら自分の思いも寄らない戦い方をしてダメージを与えてくるかも知れないのであり、要するに自分が傷付く事が、恐くて恐くて仕方が無かったのであったのだ、だから。

 彼女はあくまで勝ち誇った体で急いで戦闘圏外へと脱出したのであり、表面上は満足した風を装って早めに退避して来た、と言うのがいつわざる実状そのものだった訳であり、彼女の本心だったのであるモノの、しかし一方で、流石の蒼太達にもそこまでの事は解らなかった、ただ前後の言動、態度や雰囲気等の様相からレベッカが本懐を果たした訳では無い事のみは理解していたのであるモノの、彼女の心の内の怖じ気や怯みと言った心理心境までは見通せないでいたのであった。

「しかし一体、何があったんだろうか。レベッカがやったにしては、特に何かが変わったような箇所はどこにも見当たらないんだけれども・・・!!!」

「これだけ濃密に魔法の匂いが残っている、と言う事は。それなりに強力な術式を、それも大々的に展開したって言う事よね?だけど異変は確かに見られないわ、一体何が起きたのかしら・・・?」

「蒼太さん!!!」

「蒼太!!!」

 二人が難しい顔を付き合わせつつも現場検証を行っているとー。

 先程までのそれらとは一転、今度は馴染みのある波動が感じられて、続いて聞き覚えのある声が二つ、彼等の耳へと飛び込んで来るモノの、その方向へと向き直った蒼太達の目には予想通りの人物像達の姿が二つ、飛び込んで来る事となったのである。

 一人は蒼碧の瞳にまるでこの地球の大気を凝縮させたかのような、透き通った青髪をハーフアップロングで束ねている、メリアリアと同じく左右対称(シンメトリー)に整った面持ちの17歳の少女。

 もう一人は美しいアイスブルーの瞳にまるで上質な黒糖蜜を垂らして固めたかのような黒髪を、アップスタイルのポニーテールで纏めている、やはり左右対称(シンメトリー)の整った顔立ちの美女。

 ガリア帝国国家安全保証理事会中枢本部にその名を轟かせるセイレーンの最高戦力、“氷炎の大騎士”にして“漆黒の星の聖輝姫”こと“オリヴィア・フェデラー”と“青き星の祈り姫”こと“アウロラ・オレリア・ド・フォンティーヌ”その人達であったのだが、彼女達も珍しく緊張した様相で現場に立ち入っており、何やらただならぬ事態が起こった事が察せられるが、さて。

「あ、あれえぇぇぇっ!!?」

「オリヴィア。と、アウロラも!?どうして二人が一緒にいるのかしら!!?」

「どうして、と申されましても。私は個人的にオリヴィアさんにお尋ねしたい要件が御座いましたモノですから、それで・・・」

「君達こそ一体、どうしたのと言うのだ?今日は確か、オフの日なのでは無かったのか?」

 思わず質問してしまう蒼太とメリアリアであったモノの、それに応じた彼女達から逆に事の次第を聞き返されて自分達が街の散策をしている最中にこの騒ぎを聞き付けた事と、事件が起きていたのがミラベル本部の方角であった為に捨て置けずにこの場に馳せ参じた事等を説明していった。

「なるほどな。まあ確かに、このミラベル本部やセイレーンのそれらが襲撃されるような事にでもなっていたなら大問題だったからな。君達の焦燥と危惧は、良く解ると言うモノだが・・・」

「全く・・・。だけど本部が無事でホッとしましたよ、ねぇメリー?」

「ええ、本当に。もしミラベルやセイレーン本部に何かあったりしたなら、とんでもない事になる所だったもの!!!」

 “だけど一体”と蒼太が続けた、“何があったのですか?”とそう言って。

「見た所、物凄い数の救急車や警察車両が出動している様子ですけれども・・・。特にこれと言って、変わった箇所や怪我人の類い等は見受けられないのですけれども」

「警官隊や救急隊員達が病院に押し掛けて来ている、と言う事は。病院内で何かがあった、と言うわけね?だけど見た所、特に施設や人々のどこからも、ダメージを負った様子等は感じられないのだけれど・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “君達”とオリヴィアが静かに告げた、“先程から救急車で搬送されている、沢山の老人達の姿が目に写っているだろう?”と。

「・・・・・?」

「ええ、まあ・・・」

「彼等彼女達の服装や身嗜みを見て見たまえ、容姿はすっかり老人のそれだが着ている物や身に付けているそれらは皆、若者達のスタイルの筈だ」

「・・・・・」

「・・・・・」

 そう言われて、蒼太達がもう一度目を凝らして彼等の出で立ちを見てみるとー。

 確かにオリヴィアが指摘した通り、それらの内大多数は若者向けのファッションセンスだったのであり、間違っても年の行った年配の人々が購入したり、興味を示したりするに足り得るモノでは決して無かったのである。

「・・・・・っ!!!」

「言われてみれば、確かに・・・っ!!!」

「信じられないかも知れないが・・・。彼等こそがこの事件の被害者なのだ。彼等は皆、このルテティア第3総合病院に入院、もしくは通院していた患者達及びその友人、知人、家族親族。そして彼等の治療に当たっていた医師や看護師、ナース達でな、それも元々は年若い、青年と淑女達だったと言う訳だ。それが」

 “一瞬にしてあの通りだ”とオリヴィアが続けるモノの、彼女の説明によると事の発端は今日の朝、午前9時30分位に起こったらしくて人々でごった返していた院内が突如として煙のようなモノに包まれたかと思ったらそれが晴れた時にはもう、御覧の有様だった、と言う事であり、関係者各位に事情を聞いても“何が何だか解らない”との説明を、警察に繰り返しているらしかった。

「事態を重く見た警察の上層部達が、我々セイレーンやミラベル等に、出動を要請してね。それで私達がやって来た、と言う訳だよ」

「その時に警察の人々から、これまでの経緯についての説明を受けたのです。私も事態が事態でしたので、こうしてオリヴィアさんと共に現場にお邪魔させていただいた次第、と言う訳ですわ」

 アウロラがお嬢様言葉を交えて優雅に話すがどうやら彼女もまた、蒼太達と同じように今回の事件を重く見ており、休日返上でこの場に馳せ参じたらしい、いずれにせよ話しが早くて助かる。

「僕とメリーが見た所、相手は何らかの魔法術式を発動させて、今回の事態を引き起こさせたようだ。とすれば到底、通常の警察組織や救急隊員では歯が立たないでしょうからね!!!」

「魔法の匂いと言うよりも、感覚がするとは思ったけれども・・・。まさか“敵”がここまで大胆不敵な手を打って来るなんて、思っても見なかったわね、してやられたわ!!!」

「“敵”・・・?」

「・・・・・」

 蒼太達が放ったその言葉に、アウロラとオリヴィアがすかさず鋭く反応した、まだ事件の解明は進んでおらずに何が原因で今回の事が起こったのか、と言う事もについても、まるで説明の道筋も立っていないこの状況下で、蒼太達はこれをハッキリと“敵の仕業”と断定している、何事かを掴んでいるのかも知れない。

「メリアリア、蒼太。君達は今、“敵”、“相手”と言った言葉を使ったな?つまりは君達は今回の事件が偶発的や超自然的なモノでは無くて、何者かの手によって人為的に引き起こされたと、そう考えている訳か?」

「ええ!!」

「そうです!!」

 オリヴィアの言葉に、何の躊躇も無く二人が頷いてみせるモノの、特に蒼太は少しの間だったとは言えども、レベッカと対話をしたり、また何度か戦火を交えたり、と言った事を繰り返していた為に彼女の波動や波長についてはよくよく理解していた訳であり、間違えても読み違える筈が絶対に無いと言っても差し障りの無い状況であった。

「前に少しだけお話ししたでしょう?僕が飛ばされた異世界である、“ガイア・マキナ”の話を。そこで僕や向こうのメリアリア、そして貴女やアウロラが、何度となく相対した相手である、“レベッカ・デ・アラゴン・イ・シシリア”。その波動を現場においてキャッチしたのです!!」

「・・・それはひょっとすると」

 蒼太の言葉にオリヴィアが問い続けた、“このネットリと絡み付くかのような、悪意に満ち溢れた波動がそうか?”と。

「ええ、そうです。これは間違いなくレベッカの、そして“ドラクロワ・カウンシル”主要メンバー特有のモノです!!」

「・・・・・」

「“ドラクロワ・カウンシル”・・・!!」

 その名を聞いて沈黙してしまうメリアリアとオリヴィアの変わりと言うわけでは無いのだろうが、アウロラのみが何やら難しそうな顔を浮かべて蒼太の言葉を復唱するモノの現状、このセイレーンにおいては彼等と相対した事があるのは実質蒼太ただ一人であって、メリアリアは勿論の事、オリヴィアもアウロラも、話を聞いた以上にはその実力の程を知らないでいたのであった。

「心配しなくても良いよ」

 と、そんな彼女達の心境を見て取ったのか、蒼太がやんわりと声を掛けるが彼によると、レベッカを始めとする幹部クラスの実力は、何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も以前、彼女達の戦った相手である“カインの子供達”と同等か、それよりやや劣る程度のモノだ、との事だったのだ。

 ・・・ただ一人、“最高司祭”或いは“大祭祀長”と呼ばれている存在を除いては。

「・・・・・」

「・・・・・」

「“最高司祭”・・・」

「そうだ」

 アウロラの言葉に、蒼太がまた頷くモノの別称を“密儀”とも呼ばれるこの役職に使命される存在と言うのは代々、“彼等の神”もしくはその代理人の右腕とまで言われる程の非常に手強い存在であって、現に“ガイア・マキナ”においての“大祭祀長”であったバルトロメウスは“火の山の決戦”時には“レプティリアン化”して彼等に襲い掛かって来たのである。

 これを迎え討ったのが向こうの蒼太で“大津国流の極意”と“神人化の奥義”を極めていた彼は、その双方を駆使する事で漸くにしてこの難敵を打ち破ったのであり彼をして、“どちらか一方が欠けていたなら決して勝つ事が出来なかっただろう”と言わしめた程の、強敵中の強敵であった。

 ちなみに。

 当時においては現実世界の蒼太は“大津国流の極意”を知らず、また“ガイア・マキナ”の蒼太は逆に“神人化の奥義”を体得していなかったから、二人の邂逅はまさに、“運命に導かれし大いなる意志の発露”と言うべき事が出来ていたのであるモノの、しかし。

「・・・・・」

(今から考えればあれは、必要があって起こされて来た事だったんだろうけれども・・・。だけど当時の僕はそれなりにへこんだからなぁ~、だってやっとの事で“超時空移動”が出来るようになって、“メリーの所へ帰れる”って思っていたなら違う世界線に行ってしまったんだもの。そりゃ泣きたくもなるよ・・・!!!)

「・・・うた、蒼太!!」

「・・・・・っ。は、はいっ!?」

 蒼太がそんな事を考えていた時だった、不意に自分が呼ばれている感じがして慌てて意識を今に戻すが、見るとメリアリアとアウロラとオリヴィアとが、心配そうな面持ちで彼を見ていた。

「すみません。なんでしたっけ?オリヴィア・・・」

「ああ、今の話なのだがな。本当にその、“ドラクロワ・カウンシル”とやらの仕業であるとするのならば、彼等の狙いは一体、何なのか、どこにあるのかが知りたいのだよ。そうするば今回の事件も単発的なモノなのか、それともこれからまだ他の何かが連動して起こってくるのかが、解り易くなると言うものだからね」

「彼等の正体や狙い、と言う事に関しましては、申し訳無いのですけれども僕もまだ、掴み切れてはいないのですよ。何しろ秘密の多いスタッフなので・・・。ただ」

 そう言って蒼太は、前にメリアリアやノエルにした話を二人に語って聞かせ始めた、彼等が“ニムロデ王の子孫”である事や、神々に対して復讐心を抱いている事、そしてー。

 今現在、この世界における“彼等”がレウルーラを始めとした、“エイジャックス連合王国”の国家権力中枢部と密接なまでに結び付き、行動を共にしている可能性がある事、等をである。

「さっき、向こうの世界で彼等のトップであった大祭祀長、“バルトロメウス”の話をしましたけれども・・・。彼等の内、主要メンバーの何人かは、所謂(いわゆる)“魔物”や“デーモン”等とも契約を結んだりしているそうです。その力を使ってこの世を不道徳、無秩序なる混沌の世界に陥れようと企てているのだとか」

「そんなこと・・・!!!」

「何と言う事だ!!!」

 それを聞いたアウロラとオリヴィアとは共に“信じられない”と言った表情を浮かべて戦慄するモノの、それが本当ならば人類史上始まって以来の一大事であり、最大の悪逆に他ならない。

 何故ならば(あくまでも“本来の意味ならば”と言う前置詞が付くモノの)秩序とは正義の事であり、正義とは優しさの事を言うのであるモノの確かに、中にはどうしよう無い輩がいる事もまた、紛れもない事実であるとしてもそれでも、大多数の人々は皆、須(すべから)く善なのであり、より高みへ、高みへと向けて無限に進化し続けて行く存在なのだ、と言う事が出来るがしかし、その進化の途上で傷付き、或いは傷付けられた“善なる人々”の、痛みを以て学び得た“成果”こそが“優しさ”なのであって、それが全体に浸透して“常識”とはなり、今現在にまで至る、“やって良い事”、“悪い事”の判断基準となっているのであったのだ、それを。

 残らず取っ払ってしまう、或いは破逆させる、等と言う事は即ち、人の心そのものを(つまりは魂の持つ光り輝きそのものを)否定して踏み潰す事に他ならないのであって、彼等の目的がそこにこそある、と解った以上はいつまでも手を拱いて見ていられないのが実状であり“人情”とでも言うべきモノであった、と言えるが、さて。

「信じられん、それだけでも十二分な程に驚愕すべき事態であるが・・・。しかしそれならそれでもう一つ、ある疑問が残る事になるのだがな。蒼太?」

「解っていますよ、オリヴィア・・・」

 と、このキレ者な“氷炎の大騎士”の質問にも蒼太は頷くと先手を打って答えてみせた、“どうしてそんな胡散臭い連中を、エイジャックス連合王国がいつまでも側に置いておくのか、と言う事でしょう?”とそう告げて。

「それについては自分も疑問ではありました。何故、謀略に長けている、そしてそれだけ裏社会に精通している筈のエイジャックスがあんな危険極まりない連中を、いつまでも囲っているのか、と・・・。残念ながらその答はまだ、解ってはいません・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「うーむ・・・!!」

「ですけど・・・!!」

 蒼太が続けた、“これはチャンスかも知れません”とそう告げて。

「彼等はずっと闇に潜み、その深淵から数々の謀略、魔術を駆使して歴史の要所要所に関わりを持って来ました。対して我々人類は常にそれに躍らされていた格好であって、要するに常に受け身を強いられて来たのです・・・」

「それは先程の君の説明で良く解ったよ。その“ドラクロワ・カウンシル”と言う組織が如何に国々や人々を欺いて煽動させ、世界に戦乱と混沌の種を撒き散らして来たのか、と言う事についてもな」

 “まあもっとも”、とオリヴィアが続けて言った、“此方側の世界では、まだ何の証拠も出て来てはいないがな”とそう告げて。

「以前、君達が戦って捕縛に成功している“カインの子供達”と言う組織のメンバー達も揃って口を割ろうとしない。中々に厄介な連中ではあるようだがな・・・」

「ですから、これはチャンスです」

 蒼太が語り始めるモノの恐らく、彼の見立てではこの世界における“ドラクロワ・カウンシル”の最も信頼の置ける手足、即ち“最高戦力”こそがあの“カインの子供達”だったのであって、それが打ち破られた以上、もう使える手駒は限られて来ている、と判断して差し支えないと考えていたのであるモノの今回、その証左とも言える出来事が起こったのであって、それこそが“レベッカの襲来”そのものに他ならない。

 これはつまり、どう言う事なのかと言えばそれは、もう他に使える人員が誰も残っては居ないから幹部クラスがわざわざ出張って来た、そう考えられるのですと、蒼太は自らの意見を総隊長であり、女王位達の纏め役であるオリヴィアに上告した訳であるモノの、それは果たして間違ってはいなかった、この世界での“ドラクロワ・カウンシル”、即ち“アンチ・クライスト・オーダーズ”はこの一連の騒動でいきなり、その手足となるべき実行部隊、それも“責め手”の中核たる“主力部隊”を失ってしまったのであり、残っているのはもはや僅かな幹部と中堅、そして多数の雑兵達だけ、と言う有様と化していたのだ。

 ただしそれだって、使える戦力は限られて来ていたのであり、まず第一議的な話としては、“カインの子供達”がやられた、と言う事は即ち、それ以下の“中堅連中”やら“一般兵”達ではとてものこと、セイレーンの誇る“女王位”に対しては、手も足も出せずにやられてしまうのは想像に難く無かったし、否、それどころか。

 先の“フォンティーヌ及びヴァロワ家壊滅作戦”の失敗の結果、セキュリティや警備網は格段に強化されて今日に至っている訳であって、従って今現在、何か下手な動きを見せようモノならば、此方が成果を挙げる以前に立ち所に自分達の存在が明るみにさらけ出される危険性の方が、遥かに高い状況と言えたのである。

 失敗続きの“アンチ・クライスト・オーダーズ”としては、そしてもっと言ってしまえばその“最高司令官”たる“メイヨール・デュマ”としてはそれだけは何としてでも避けなければならない最優先事項だったのであってそれ故、彼は現状、思い切った手を打てずおり、今回の事もだから、本音を言えば出動させたくは無かったのであるモノの、しかし。

「レベッカが、何を企んでいるのかまでは読めませんけれども・・・。彼女は確かにやって来ました、自分でここまで出向いて来たのです。それは取りも直さず、奴らの中枢が直に動き回っている証拠とも取れます。もし彼等を捕縛する事が出来たなら、これまでの謎も謀略も、その全てが解き明かされる事になります、情勢は一気に此方へと傾きますよ?オリヴィア!!!」

「・・・・・」

「それにこれは僕の予想ですけれども。アイツはまた何某かの“マジックアイテム”を使ったのだと思います。何故ならばこれが魔法だったとすると、発動させた際に必ず、あの女の人に対する攻撃的意志が宿る筈だからです、ところが魔法自体には、そう言った害意は少しも宿ってはいませんでした。・・・ねぇ?メリー」

「ええっ!!」

 蒼太から尋ねられて、メリアリアが力強く頷くモノの、その瞳には自分自身に対する強い信頼の光が宿っていて、何か確たる答を持っている事が伺い知れた。

「この人の、夫の言う通りだわ。あれだけの害意を放つ女が、発動させた魔法にはそれを込めない、なんて事は有り得ないもの!!!」

 “それに”とメリアリアは更に続けた、“自分の時と良く似ている”とそう言って。

「私の時は、時を巻き戻して少女にさせられたわ?だけど今度はお爺さんとお婆さんだもの、方向性に違いはあるけれど、やっている根っこの部分は殆ど一緒よ!!?」

「ううーむ・・・!!」

「そう言えば、確かに・・・!!!」

 メリアリアの言葉に、思わずオリヴィアが唸ると同時にアウロラが頷くモノの、もしそう言う事であれば話はさして難しくは無い、そのレベッカとかいう女性の行方を全力で捜し出し、彼女を尋問して何をやったのかを問い質すのである。

 もし本当に、彼女がそのマジックアイテムとやらを使ったのだとしたならば、それも上手いこと入手出来るかも知れないのである、どの道このまま放って置く手は全く無かった。

 ただし。

「現状だと、君の言った事は全て推論に過ぎない。何某かの物的証拠がなければ一般的な警察組織は動く事が出来ないからな、彼等に多くを期待する事は出来ん!!!」

「だけど、オリヴィア・・・!!!」

「解っている、みなまで言うな!!!」

 その言葉を受けて、何事かを言おうとした蒼太の言葉を遮ると、オリヴィアは“しかし我々ならば話は別だ”と続けて言った、“犯人を誰よりも先に見付け出し、検挙する事が出来るかも知れない”と。

「セイレーンの誇る、“波動分析班”を至急呼ぼう。調査結果如何によってはミラベルや“ハイ・ウィザード”の方々の協力を仰ぐ事が出来るかも知れない!!!」

「・・・・・っ!!!」

「ハイ・ウィザードの!!?」

 メリアリアの言葉にオリヴィアは“そうだ”と答えると、改めて蒼太を見る。

「蒼太。正直に言って君の見識や存在は、我々にとって非常に有り難い。今後ともお世話になるとは思うがどうかよろしく頼むよ!!!」

「有り難うオリヴィア、此方こそです!!!」

「ま、まあその。なんだ?我々にもそうなのだけれども。私にとっても、君は非常に・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!!!」

「・・・・・っ!!!!?」

「・・・・・?」

「い、いや、その。なんだ?私としても、君は非常に希有な男性(ひと)と言うか、何と言うか。忘れられない男性(ひと)と言うべきか・・・っ!!!」

「オリヴィアッ!!!」

「どさくさに紛れて何をしているんですかっ!!!」

 オリヴィアが珍しく、顔を真っ赤にしたまま俯き加減となり、照れながらも蒼太に語り掛けるが、その話の内容を聞いたメリアリアとアウロラは躊躇なくこの尊敬すべき先達であり、大切な戦友である黒髪の大騎士へと喰って掛かった。

「い~い?オリヴィアッ、アウロラもだけどっ。この人は私のモノなんだからね!?変な気は起こさないでっ!!!」

「何を言っているんですか?メリアリアさん!!!蒼太さんは私と一緒になる男性(ひと)なんですっ、邪魔をしないで下さい!!!」

「二人とも弛んでいる、気が緩みすぎているんじゃ無いのか!!?蒼太から離れろ、第一二人して蒼太にくっ付き過ぎだろう、蒼太が迷惑しているじゃないかっ!!!」

「迷惑なんてしてないもん、この人は私とラブラブなんだからっ!!!ね~あなた?」

「なにが“あなた”なんですか!!?私の夫に近付かないで下さいっ、蒼太さんこっちです!!!」

「巫山戯た事を言うなっ。君達二人などに蒼太は任せられんっ。そんなんだったら私がもらう、君達は引っ込んでいろっ!!!」

「なんですってっ!!?」

「なんですかっ!!?」

「なんなのだっ!!?」

「・・・・・」

 “始まっちゃった”と蒼太は思った、自分と共にこの三人が顔を合わせると最近、いつもこうである、何とかしなければならないモノの、しかし。

(一体、どうすれば良いんだろう。僕は一体、どうしたいって言うんだろうか・・・)

 人知れず、この生真面目な青年は思いっ切り途方にくれてしまうが、三人の内でメリアリアとは一番最初に出会っただけでなく、その後も守り守られ、一歩一歩ずつではあったけれども確かなる思いの絆を、愛の証を紡ぎ合い、育み合って来たのである。

 アウロラとは二番目に出会ったモノの、その思いの深さ強さはメリアリアに負けたり、劣ったりするモノでは決して無かったし、二人の思い出だって錯散していたモノの、そしてそれはオリヴィアもまた同様である。

 特に異世界線である“ガイア・マキナ”に置ける彼女の、彼方の自分に対する甲斐甲斐しい女房っぷりは見ていて照れてしまうレベルであって、皆一途に真剣な愛を、これ以上無いほどに確かな思いの丈を、その強くて暖かでピュアな気持ちを蒼太に向けて抱いてくれていたのである。

「・・・・・」

 “それに”と蒼太は思った、“特にメリアリアとアウロラには、あの不可思議な奇跡の力で助けてもらった事があったしな・・・”と。

 あの光の正体が、一体全体何だったのか、と言う事については、蒼太は朧気ながら理解していたのであった、即ちー。

 自分に対する真愛と真心の迸りが引き起こさせた、魂の中に宿り有りたる神々しいまでの光り輝きー。

 それが傷付き倒れた蒼太を死の淵から呼び覚まさせてくれたのであり、それは自分に対する紛うこと無き“確かなる気持ち”がなければ決して成し得ない事だったのだ、それを見た時。

 蒼太は人知れずに悩みに悩み抜いて悶絶すらしたのであり、どうすれば良いのかが解らなくなってしまったのだった、勿論の事、メリアリアに対する気持ちを貫き通すのは当然としても、では他の二人を捨て置いて良いのだろうかと言うと、それが許される訳では決して無かったのである。

 何故ならばそれを思う時、これ以上無いほどの悲しみが、そして罪悪感にも似た気持ちが、心の内から絶えず溢れ出して来てしまっていたのであり、その事がますます彼を、苦渋の中へと追い込んでいったのだ。

 蒼太が近頃の交わりで、メリアリアの事を殊更激しく責め立てたのも、一つにはそうした葛藤から来る悩み苦しみから解放して欲しい、全てを忘れて彼女(メリアリア)の事だけ考えていたい、と言う事があっての事であり、そしてそれは確かに、愛妻(メリアリア)を抱いている瞬間だけは成就していたのであったがしかし、事が終わって現(うつつ)に帰ると途端にその思考が襲い掛かって来て、青年を答の見えない泥沼の中へと引きずり込んでいったのであるモノの、本当はー。

 蒼太は答を知っていた、どうしたなら良いのか、と言う“答え”を既に、自分自身で出していたのであったがしかし、事もあろうに自分自身でその答えから目を背けさせていたのであった。

 一方でー。

 メリアリアもまた、そんな夫の苦しみに、気付かないではいられなかった、否、もっと正確に言ってしまうと何事か悩みを抱えている事は知ってはいたモノの、それが自分達三人の事に関するモノだとは思ってはいなかったのだが、実はこの時、メリアリアもまたある事についての思案思考を重ねており、二人は同じ場所同じ時、同じ心の内側において、全く同じ事を考え倦ねていたのである。

 そうだ、メリアリアもまた、蒼太との結婚を考えた時に、アウロラの事を意識しない訳には行かなかったのであるモノの、それは取りも直さずあのウルバンニとの戦闘終了間際の緊迫した瞬間において、自分とアウロラの放った光に由来していたモノだったのだ。

 あの時ー。

 傷付き倒れた蒼太の為に、彼女の発揮したあの光は、自分のそれと全く同質のモノであり、その強さも眩さも、寸分違わぬ代物だった訳であるモノの、その光がなんであるのか、と言う事については蒼太同様、漠然としたモノであったけれどもメリアリアは既に己の答を持っていた、そしてそれが全く互角だったと言う事は即ち、アウロラの中にも自分と同じく蒼太に対する確固たる愛情が芽生えて息吹き、花を咲かせている事に他ならず、それを否定する事は間違っても出来なかった。

 そしてもう一方のアウロラもまた、メリアリアと同じ考え、同じ気持ちを有していたのであってこの時、三人は三人共が、同じ事で時間を使い、同じ事で悩み苦しみ、そして同じ答を既に出していたのであった、即ちー。

 三人で、生きて行くー。

 それであった。

(でも・・・)

 メリアリアはアウロラを意識しつつ、そしてアウロラはメリアリアを意識しつつも尚も深く考えるモノの、“そんな事が可能なのか?”と二人は思慮を増大させる。

 実は“重婚”については方法が無いわけでは決して無かった、何かと言えばそれは、まずは王族か侯爵以上の貴族である事なのだが如何せん、蒼太は一般人である、この時点でこの要件は破綻していたモノのしかし、それに加えてあと2つほど、重婚が認められる方法が、この国は存在していたのであり、それは政府から正式に“英雄”か、もしくは“聖人”と認められれば“超法規的措置”に則って、特別に重婚が許可される、と言う不文律があったのだ。

 当然、この事は蒼太も知っているモノの、しかし。

(だけど本当に大丈夫かしら?確か“英雄”か“聖人”と認められる為には国を救う位の事を、それも公にしてみせなければならないわ!!!)

(正直に言って・・・。“セイレーン”に在籍している段階で既に分が悪いです、私達のお仕事は、あくまで国を裏から支える事だと言うのに・・・!!!)

 そこまで考え至った時に、二人は同時に頭(かぶり)を振った、そうだ、そんな事を考える必要は無いではないか、何故ならば自分は蒼太の事を、この人の事を愛して信じてどこまでもついて行くだけなのだから。

(仮にもし)

 二人はまたも同時に思った、物事が順調に進んで、蒼太が“英雄”と認められた時。

 即ち重婚が許可された時に、もし他の誰がやって来ようとも自分は絶対に負けたりしない、負けるつもりはサラサラ無いし、況んや彼を譲ったりするつもりなど、絶対に、絶対に有りはしない!!!と。

(誰が来たって関係ない、私が一番この人の事を、夫の事を愛してる!!!絶対に負けない、絶対に・・・!!!)

 そう思いつつも蒼太にしがみ付くメリアリアだったがしかし、それを見ていたアウロラもオリヴィアもまた、一斉に蒼太目掛けて抱き着いて行くモノの、彼女達とてそれに負けず劣らずの愛情と熱情を持ち併せていたのであり、結果として蒼太は早くも美女三人からの熱烈にしてこれ以上無いほどの確かなる愛の眼差しと思いとを、向けられる事になるのであった。
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