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ガリア帝国編
メリアリア・カッシーニ編8
しおりを挟む「メリー、待ってよ!!?」
「蒼太、早く早くぅ!!!」
自分の後を追い掛けて来る蒼太を微笑ましそうに見つめつつも、メリアリアは影を飛ばすように前へと向けて走り続けていった、ここはガリア帝国の中でも一際風光明媚な観光スポット、“ロワール渓谷”の真っ只中だ、大小様々な古城が点在しているここは、ガリア帝国の中でも多くの観光客が訪れる名勝であり、中にはそれを改修して利用されている“シャトーホテル”も存在していて1年を通して訪れる旅人に人気の宿泊エリアと化していたのである。
そしてそんなロワール渓谷のこれまた一等地のここ、エトワール・ノイエの古城跡地にと、蒼太とメリアリアは双方の家族共々冬の休暇を利用して三泊四日の行程で訪れていたのだったがそれというのもここはメリアリアの御先祖(と言っても分家筋のモノなのだが)が故国“エトルリア”からこの地に出向した際に建設したモノであり、今現在はカッシーニ家の管理する別荘の一つとなっていたのである。
ただし。
「一応、我々の管理とはなっているがな・・・。我々の一族がこの地を訪れたのは実に400年振りの事で、その間城は手付かずのままだったのだ。・・・一応、現地にある管理会社に頼んで手入れはしてもらっていたのだがな」
ダーヴィデはそう言っていたモノの、古城近くにまでドライバー付きの自動車で移動した彼等はまずは、少し離れた所に建っている、別の古城を改装したシャトーホテルに到着するとそこでチェックインを済ませて後は自由行動、子供達にも“余り遠くまで行かないように”と言い含めるとその日は大人達は地元のワイナリーを巡るテイスティングの旅に出掛けてしまっていったのであった。
「お父さん、エトワール・ノイエに行っても良い?」
「うーん、明日みんなで行こうと思っていたのだけれどな?もしどうしても我慢できないようならば、今日の内に見に行って来ても良いよ?ここからそれ程遠くは無い筈だ」
出発の直前に、メリアリアから問い質されたその言葉にダーヴィデはそう言って許可を出すと“何しろ隣の物件だからな!!?”と応えては“あはははっ!!”と明るく笑い清十郎達に“では行くとしましょうか”と告げては全員でワイナリーへと向かって車で出発していった。
「・・・・・」
「・・・・・」
“行っちゃったね?”と蒼太が言うとメリアリアは瞳を輝かせて言った、“これで二人で探検が出来るね!!?”とそう告げて。
「私、一回で良いから探検ってやって見たかったんだ!!!」
「探検なら、いつもやってるじゃないか。おじさん達に外出を許してもらえた時にルテティアの森に行ったり、街中を見て回ったりとか・・・!!!」
「チッ、チッ、チッ。違うのよ蒼太、い~い?探検にも本物と偽物があるのよ?分かる?」
「ええっ!?な、なにそれ。どう言う事・・・!!?」
ビックリした蒼太が思わず聞き返してしまうモノの、どうやらメリアリアの言う探検と言うのは文字通り前人未到の地を捜索する事を指し示す訳であって、今までのそれは単なる“事前準備”に過ぎなかった、と言う訳であったのだ。
「そうかな?今までだって何度か迷い掛けた事だってあったし、それなりに苦労したと思うけれど・・・」
「あ、あらっ!?」
と、メリアリアは少しだけ強がってみせた、“そんな事は無いわよ?”とそう言って。
「あ、あのね?い~い、蒼太。今までのは単なる練習に過ぎなかったの。今日のが本番なんだから、気を引き締めて行くわよ!!?」
「う、うん。解った、僕頑張るよ・・・!!!」
何を頑張れば良いのかが今一よく分からなかったモノの、それでもくそ真面目な性分の蒼太はそう答えるとメリアリアと共に部屋を抜け出してはエトワール・ノイエの古城を目指すが早いモノで、この時点で既に、彼等が出会ってから1年と8ヶ月余りの月日が過ぎようとしていた、この間、日に日に逞しさを増して来た蒼太はメリアリアとの絆を徐々に深めると少しずつではあったけれども“自我”と言うモノにも目覚めて段々と男の子らしくなって行き、より勇気や責任感と言った、精神的な強さが育ち始めて来ていたのである。
その一方で。
メリアリアもまた、少しずつではあったモノの、ツンツンしている部分が取れて性格に落ち着きと言うか、丸みのようなモノが現れ始めてきたのであるがそれというのも蒼太に対する恋心が為せる業であり、彼への愛情が育つに従ってメリアリア自身にも、“自分は蒼太の花嫁なんだ”、“自分はこの人の為の女なんだ”と言う自覚が出て来たからに他ならなかった。
もっとも確かに、負けん気の強い娘ではあったけれども決して向こう見ずな性分でも無ければ不必要に意地を張って周囲を困惑させるような子供では断じて無かったから、その辺りは両親も友人達も、そして蒼太も安心していたのであるモノのしかし、蒼太自身が思うよりも彼女の中では彼が占めるウェイトが事の他高くて大きく、非常に深いモノがあり、そしてそれは、彼女自身の内面部分に決定的な変化をもたらしてしまうほどの凄まじさを秘めていたのであって、そんな愛娘の変化に戸惑いながらもダーヴィデやベアトリーチェはそれでも、それを“困った事”だとは受け取らなかった、寧ろ今まで夜に出歩いたり、家の中を駆けずり回ったりと元気があり過ぎたメリアリアの態度、雰囲気が幾分、落ち着いたモノになって来ていた為に、一安心していたのである。
「蒼太君と遊ぶようになってから、娘も落ち着いたな?」
「これからも仲良くしてやっておくれよ?蒼太・・・!!」
「はい、おじさん。おばさん。こちらこそよろしくお願い申し上げます!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
蒼太がそう返事をする様子を、メリアリアは照れたように真っ赤になって溜まりこくっていた、現に彼女は喜びと恥じらいとを覚えて俯いてしまっていたのであり、全体的にモジモジとしていたのであるモノの、その中枢部分には彼への淡い恋心があったからに他ならない。
そんな彼と一緒にいられる時が彼女はだから、何よりも幸せであり、本当にただただ彼を見つめているだけで胸が奥から締め付けられ、慕情に鼓動が脈を打つが、一方の蒼太はそんな事はお構いなしに、それまでと変わらない態度のままに毎日のように彼女に接してくれていた、メリアリアはそれが凄く嬉しくてもどかしく、また悲しかった。
“もっと仲良くなれたらいい”、“もっと側に居られたらいい”と切実に願って止まなかったのであるモノの、それをストレートに表現できる程、彼女はまだ素直になれてはいないのであったのだ。
「はあっ、はあっ!!ねえ蒼太!!?」
「・・・・・?」
「あの丘の上まで、競争ね!!?」
「いいよ?メリー、でもまた僕が勝っちゃうよ?」
「むーっ!!?そんな事ないもん、負けないもん。私!!!」
と、蒼太のその言葉にメリアリアが思わずそう反応して返すがここの所、彼女は駆けっこに関しては蒼太に後塵を拝していた、と言うのは確かに、飛んだり跳ねたりするのは彼女の方が上手なのだが、こと体力勝負であったり、直線距離を走り切る勝負であったりした場合には蒼太の方に軍配が上がる事が、多くなって来ていたのである。
弛まぬ鍛錬と、清十郎の厳しい修業から逃げずに真っ向からそれらに挑み続けて来た蒼太は今や本気で走った場合は50メートル走で8・1、100メートル走に至っては17・5と同年代の平均を大きく上回っており、まだ幼年部年長にも関わらずに中学生のそれに近いタイムを叩き出していたのだった。
当然、蒼太は(本人はそれほど気付いてはいなかったモノの)ある一定の女生徒達からは好奇の視線で見られており、この時点でちょっとした興味を持たれるに至っていたのである。
「位置に付いて。・・・よーい、どん!!!」
「・・・・・」
そんな蒼太はメリアリアの掛け声と同時に勢い良く駆けだしていった、風を切り、地面を蹴って疾走して行く。
その足音は力強くて乱れが無く、タッ、タッ、タッ、タッと瞬発力に富んだ衝撃が地面に伝わり、前へと前へと突き進んで行った。
そんな少年の傍らで、メリアリアもまた全力で走り続けるモノの結局蒼太には敵わずに、彼がゴールを決めてから3秒後にようやく自らも終着点に到達しては、“はあはあっ”と荒く白い息を吐く。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ!!!はぁー、はぁーっ。ほ、本当に早いね?蒼太って・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ・・・っ!!そう?メリーも結構早いと思うけど・・・」
「はあっ、はあっ、はあっ。はあ・・・っ!!!ふうぅぅぅ、ふぅ、ふぅ・・・っ!!」
(凄いな、蒼太は。全然、息が切れて無いんだもん!!!)
メリアリアはそう思うとまた感心すると同時に感動してしまっていた、自分の思い人はなんと強い人なんだろう、なんて力のある人なんだろうと思い、それと同時に。
それ程までに厳しい訓練を耐え抜いて来た人なんだと思うと改めてそのガッツと根性とに敬意を覚えて恍惚となるモノの、一方の蒼太も蒼太で毎日の日課を熟している内に自然自然と強くなれてきたのであり、そしてそれを実感も出来て来ていたモノだからやり甲斐を感じてますます、鍛錬に精を出すようになっていたのである。
その為、蒼太の肉体も精神力も日に日に精強なモノになって行っており、この時点でもう、胸筋は発達して腹筋も割れ始めていたし、四肢も全身の骨格、神経節も、飛び抜けて頑健なモノとなっていたのであった。
「ふぅ、ふぅ・・・っ!!あははっ、蒼太凄いねっ。私もう、直線距離と持久走じゃ勝てなくなっちゃったかも!!!」
「うーん?でもメリーも結構、早いと思うよ?だってウチのクラスの女の子って誰も僕に追い付いて来れなかったもん!!!」
「・・・・・?蒼太はクラスの女の子達と駆けっこしたことがあるの?」
「うん、授業であるよ?」
「な、なんだ、そっか。そうだよね、授業で・・・!!!」
「でも時々、休み時間とかに話す事はあるよ?良く褒めてくれる子達がいるんだ。“蒼太早いね”って言って、この前もなんか、僕の前まで来てお話しして来たんだ・・・」
「・・・・・!!?そ、蒼太はその。クラスの女の子達と良くお話しをするの?」
「うーん?うんとね、あんまりしない・・・」
「本当に!!?」
「うん、本当に!!!」
すると蒼太の話を聞いて一瞬、焦ったような表情を見せたメリアリアがその言葉を聞いた途端に思わずホッと胸を撫で下ろした、彼女としてみれば蒼太が自分以外の女の子と仲良く話していることなんて絶対に嫌だった、断じて認められる事では無かったのである。
だから。
「ねぇ蒼太?」
「なにさ?メリー・・・」
「私もね?なるべく他の男子とは話さないようにしているの。だからね?蒼太もあんまり他の女の子とお話ししちゃダメよ?・・・解った?」
「う、うん。解った、メリーがそう言うんだったら・・・!!!」
「・・・・・」
最初、少し悲しそうな、それでいて真剣な面持ちでそう申し伝えたメリアリアは、蒼太の答えを聞くとようやくホッとした顔色を見せては“よろしいわ”とそう告げるモノのこの時、メリアリアはちょっとした嫉妬心を抱いていたのであり、蒼太を僅かと言えども他の女子達に取られる事が、堪らなく嫌だったのだ。
「ねえ蒼太?」
「なにさ?メリー・・・」
「蒼太もね?私が他の男子とお話ししていたら、やっぱり嫌な気持ちになるでしょう・・・?」
「・・・・・っ。うん、正直に言って」
と、恐る恐る尋ねて来たメリアリアに対して“凄く嫌だ”と少しだけ考えた後で蒼太は言った、この時、まだ幼いながらも蒼太は他の男子達に対して一種のヤキモチを覚えたのであり、それと同時に。
メリアリアは自分だけのモノでいて欲しいとハッキリと強く思いを馳せていた、自分だけ見つめて、自分とだけ話して、自分の事だけ考えていて欲しいとつとにそう願っていたのである。
だから。
「えっとね?メリーと一緒にいると、凄く楽しい。メリーに見てもらえているとね?凄く嬉しくてドキドキして来るから、だから・・・」
「・・・・・っ!!!!!」
「ずっと僕と一緒にいて欲しいな!!!」
「・・・・・っ。ほ、本当にっ!!!!?」
「う、うん。本当に・・・!!!」
「・・・・・っ!!!!!嬉しいっっっ❤❤❤❤❤❤❤」
と言ってメリアリアの思いに応えるモノの、それを聞いた少女は思わず蒼太に抱き着いてしまっていた、蒼太が自分の為に、ジェラシーを感じてくれている事が、彼女にとっては堪らない程に嬉しかったのであり、蒼太もまた自分と同じなのだと言う事が理解出来た為に、思わず安心してホッとなってしまったのだ。
(良かったっ、蒼太も同じだったんだ。私の事、そんな風に思ってくれていたんだ!!!)
そう思うと幸せいっぱいな気持ちになってテンションが爆上がりし、自分でも自分を抑えきれなくなってしまうが、メリアリアはこの時点でもう、蒼太以外の男子等は全く以て目に入らなくなっていたし、蒼太も蒼太でメリアリア以外の女子等に興味は微塵も無かったから、二人のお互いに対する心配は全くの杞憂でしか無かったのであったが、そんはこんなでじゃれ合いつつも、二人が尚も大地を踏み締めつつも、歩を進めて行くとー。
少し小高い丘の上に開けた平地に、シャンボール城のような豪華で荘厳な趣のある、古い城が姿を現した、外装は城で屋根の部分だけは濃い青、群青色をしているそれは、その外観も相俟ってまさに“城に来た”と言う満足感を訪れる者全てにもたらしてくれていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
(な、なんだろう?このお城、なんか不思議な感じがする・・・!!!)
(なんて言うか、凄い無邪気な、誰かと遊びたがっている子供のような感じ・・・!!!)
蒼太とメリアリアは共に同じ様な感覚を覚えるとそれでも、互いに頷き合って手と手を取り合い、城の中へと入って行った、鍵はダーヴィデから予定を聞かされていた為だろう、管理会社の人間が開けて行ったらしく、別段掛かってはいなかったのだが、内部は清掃が行き届いており、廊下の天井部分等にも蜘蛛の巣一つ掛かってはいない。
それどころか床に敷かれたカーペットにも、カーテンにもシミはおろか、埃一つも着いてはおらずに往時の繁栄そのままに、保存がしっかりと保たれていたのだ。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
(凄いや、中は豪華絢爛だ・・・!!!)
(家にもシャンデリアはあるけれど・・・。ここのも負けていないほど豪勢で立派なモノだわ!!?)
内部を彼方此方(あちこち)見て回りながら、蒼太とメリアリアはその内装の素晴らしさにも目を見張っていた、幾つもの窓が設置されていた城内は明るくて壁には様々な紋様が掘られており、見る者を飽きさせない。
エントランス部分には巨大なシャンデリアが垂れ下がっており、夜はおそらく、周囲を煌々と照らし出していたのであろう事が伺えたが、しかし何よりかにより二人が度肝を抜かれたのは、恐らくは舞踏会が開催されていたと思しき、大広間へと立ち入った時である、そこにはこれまた華美な装飾の施されているろうそく立てに天上には立派な絵画、そしてそこからは先程とは形状が異なるモノの、やはり巨大なシャンデリアが幾つも垂れ下がっており、夜は嘸や明るかったであろう事が見て取れたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
“ここは?”と蒼太が呟いた、“舞踏会場だったのかな?”と。
「きっと、そうよ・・・!!!」
その言葉にまた、メリアリアも同意をするモノの、この城は正直に行ってかなり広くて奥行きもあり、探検には事欠かなかった、それどころかうっかりすると迷いそうな感覚を覚えた為に、メリアリアは急に心細くなってしまい、蒼太に言った。
「蒼太、ねぇ蒼太ってば!!!」
「・・・・・?なにさ、メリー。どうしたの?」
「手を繋ぎましょう?このお城の中、結構広いもの、迷っちゃったら大変だわ!!?」
「ん・・・。はい!!!」
と蒼太はその言葉に頷くと何の気なしに左手をメリアリアに差し出しては、同じように伸ばされて来た彼女の右手を硬く握り締める。
「これで安心だね!!?」
「・・・・・っ。う、うん。もう大丈夫!!!だけど、蒼太!!?」
「・・・・・?」
「私の手を、離さないでね!!?」
「・・・・・!!!」
少し強がりがらもしかし、心配そうな面持ちで告げるメリアリアの言葉に“解っているよ、メリー!!!”と告げると蒼太はクスりと微笑んで彼女の手を引き、歩き出した、その繋いだ掌の温もりは確かなモノであり、二人を互いに安心させるが、しかし。
やがて二人は、“ある事”が気になり始めた、それはこの城を一目見た瞬間から感じていた事だったのであるモノの、それというのはー。
無邪気に絡み付く視線であり、まるで誰かに見られているかのような気がしてならなかったのであるモノのしかし、さりとてそれは不快であったり邪悪なモノの感じはしなかった為に、暫くの間は“様子見”を決め込んでいたのである、ところが。
「・・・・・!!!」
「・・・・・!!?」
「あなた達は誰?」
蒼太達が大広間を後にして、尚も探索を続けていたその時だ。
ふと気が付くと一人の女の子が自分達の現在位置よりも少し行った所にある階段の影から顔だけを出して此方(こちら)を見ていたかと思えば、トコトコと小走りに駆け寄って来て蒼太達に尋ねて来た。
“彼女”は見たところ年齢が10歳前後で何となくなのだが風貌がメリアリアに似ている気がした、髪型はハーフアップに近い昔のロングヘアのそれであり、着ているドレスも履いている靴も、何となく昔のファッションなのである、それに加えて。
なんだか不思議な感じのする子だった、邪な者では無いのだが、かと行って常世の者でも決して無い、それを理解した瞬間に、蒼太達は一発で気が付いていた、この子が自分達を見ていた存在だったのだと、そこで。
「僕達はここで遊んでいるんだ、君こそ誰なのさ、どうしてここにいるの?」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
“私の名前はキアラよ”とその女の子は教えてくれた、彼女は言った、自分は昔からこの城に住んでいるのだと。
「私、昔家族と一緒にエトルリアからここに来たの。だけど私、病気で死んじゃって。それからずっとここに住んでいるのよ?」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!?」
“ゴーストってことなの?”とメリアリアが尋ねると、キアラは舌をペロッと出して“てへ”ってと言う感じで笑ってみせた。
「あなた達はだあれ?どうしてここで遊んでいるの?時々ここに来る人達はどうしたの?一昨日からみんな引き上げてしまって、ずっと一人ぼっちだったの!!」
「・・・・・?」
「管理会社の人よ?多分・・・」
メリアリアが蒼太に告げると、彼も納得した面持ちで頷いた、そうか、普段は彼等がここに駐在していた為にキアラは恐らくは彼等と遊んでもらっていたのか、はたまた彼等で遊んでいたのか、どちらかであろうと理解する。
「・・・でも。だけどどうして管理会社の人はこの事を黙っていたのかなぁ?」
「そりゃだって、クライアントに“お宅のお城は幽霊が出るんです”、なんて言えないじゃない?だから“仕事が出来ません”とか言ったらお父さんも、流石に契約断っちゃうだろうし・・・!!!」
「うーん、そっか!!!」
と蒼太は納得するモノの、それに確かにキアラからは背筋が凍るような、悪霊のような気配は感じられずに本当にただ、子供のままでこの城に留まり続けて来た、と言う様相を呈していた、だから管理会社の人達も“人畜無害だから”と言うかどで放っておいたのかも知れずに、そうだとしたらキアラは遊び相手が暫くの間姿を見せずにいたために、代わってやって来た自分達に興味を惹かれてやって来たのであろう、多分。
「ねえ教えて?あなた達はだあれ?どうしてこの城に来たのかしら?」
と言う尚も続くキアラからの問い掛けに、蒼太とメリアリアは互いに顔を見合わせると頷き合い、“大丈夫だろう”と確認し合うと自分達がここに来た経緯を語り始めた、“自分達の名前は蒼太とメリアリアであること”、“メリアリアがカッシーニの一族であること”、“二人でこのお城に探検しにやって来たこと”等をである。
「そうなんだ、あなたは私達の一族なのね!?」
“道理で何か不思議な近親感を覚えると思ったわ?”とキアラは言った、“なんだか懐かしい感じがしたの”と。
「あなたは余所の国の男の子なのね?」
「うん、そうだよ?」
続いて問われて蒼太が応えた、“自分は元々、大八洲と言われている、インドや中国よりももっと東の島国から来た人々の子孫である”こと、“先祖は代々、ガリアと大八洲との間を行ったり来たりして生活をしていたこと”、“純血を保つ為に結婚相手は必ず大八洲の民同士で行って来たこと”、等を事細かに説明する。
「す、凄いね?インドや中国よりももっと東に国があるなんて・・・!!!」
「うん、そうだよ?そこは龍神様の国なんだ、神様に愛された民の住む国さ!!!」
「凄いわね。“神様に愛された民”なんて、まるで“失われた10支族”みたい・・・」
「・・・・・?」
「10氏族・・・?」
キアラはそう言うとかつて自分が聞いた話としてある伝説を二人に語って聞かせ始めた、それによると。
今現在はユダヤ人と呼ばれている人々がいるのだが、彼等は元々、12支族いて自分達の事をヘブルの民(ヘブライ人)と呼んでいたのだと。
その容貌は漆黒の髪の毛と瞳を持って肌は浅黒く、皆敬虔で神を敬っていたのだが、ある時バビロニアとの戦いに敗れて国を失い、住んでいた者は全員が捕虜として連行されていった、やがてバビロニアが他の国に討ち滅ぼされた際に解放されたが、気が付いたら2支族を除いてどこにもいなくなってしまっていたのだ、と言うのだ。
「私達はそれを探す事を宿命付けられた一族でもあるのよ?」
「・・・・・?」
「どうしてそんな事をしなければならないの?」
「その10支族の長こそが、この世に光をもたらしてくれる、神の教えを受け継いでいる、とされているからよ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
(“ハトホルの秘儀”の事かな・・・?)
蒼太が密かに思いを馳せるが確かに彼の家には代々伝わっている“秘密の言付け”があった、それによるとー。
大八洲の帝(ミカド)である“天皇家”には“祝之神事(はふりのしんじ)”と呼ばれる、神と一体となれる秘儀が継承されており、そしてそれは古代エジプトにおいてファラオ達が代々受け継いで来た、“ハトホルの秘儀”と呼ばれるそれと同じモノだというのである。
何故それが東の果ての日本に伝わっているのか、と言えばかつて遥か西の彼方より海原を越えて渡来した一族が彼の地に持ち込んで来たため、だとする説があって、詳しい話はまだ、清十郎達から教えられてはいないモノの、それを聞いていた蒼太はしかし、“時が来るまで絶対に誰にも言うな?”、“これは神々との約束だからな?”と念入りに口にフタをされていたために、まだメリアリアにすらも打ち明けていない、まさに秘伝中の秘伝であったのだ。
「私達にはヘブライ人の血も流れているのよ?メリアリア。ほんの僅かとは言えどもね?だからなんとしてでも失われた10支え族を捜し出さなければならないのよ!?」
「そんな事をいきなり言われたって解らないわ!!」
とメリアリアがキアラの言葉を否定するモノの、今現在において彼女が父から聞かされていたのは“自分達の先祖が古代ギリシアやリディアと呼ばれている地域で高位の神官を務めていた事”、“それから時代が下ってエトルリアの王族に宮廷魔術師として仕えていた事”、“父の代になってガリアへと引っ越しして来た事”、それくらいなモノでありいきなりだから、ヘブライ人がどうのこうの、失われた10支族がどうのこうのと言われても、理解が全く追い付いて行かないのが実情であったのだ。
「メリアリアお願いよ、一族の悲願を何とか叶えて欲しいのっ。もしかしたなら私はこの事を貴女に伝える為に、400年の時をこの地で過ごさせられたのかも知れないわ!!」
「そんな事を急に言われたって、私には何の事か解らないわ!!!」
メリアリアが些か困惑しつつもそう述べたが、一方の蒼太は何となく話が飲み込めて来ていた、もし仮に本当に、自分達が“失われた10氏族”だとするのならば、メリアリアとも同族である、と言うことになる、物凄いロマンチックな話であったが、しかし。
(お父さんは、言っていたな。“ハトホルの秘儀”を持ち込んだのは本当はキリスト本人だと。彼は生きて日本までやって来たんだと。そして四国の“コリトリ”で亡くなったって。妻である“マグダラのマリア”と共に・・・!!)
蒼太がそんな事を考えていると。
メリアリアがスクッと“立って帰りましょう?”と言った、“もし本当だったなら、お父さんに聞かなくてはならないし”と告げると、キアラが“明日も来てくれる?”と尋ねて来た、どうやらまだ話したい事があるらしかったがメリアリアはどっちみち、明日は来るつもりだったから、蒼太の顔を見て“良いわよね?”とアイコンタクトでそう合図を送って来る。
勿論、彼自身には異論は無いので頷き返すとそれを見たメリアリアは“解ったわ”とキアラに応えた。
「明日はパパ達もいっしょだけれど、それでも良い?」
「構わないわ。今の本家の当主って、どんな人なのか、気になるもの!!」
「キアラは成仏する気は無いの・・・?」
「うーん・・・」
蒼太の質問に、キアラは難しい顔をした、そして応えた、“自分は今はまだ、取り敢えずは遊んでいたい”と。
だから。
「満足できたら、成仏するかも!?」
「じゃあ僕達が遊んであげたら、満足して成仏する?」
「うう~ん・・・」
そうするとキアラはまた難しそうな表情を浮かべて困ってしまっていた、どうやら彼女は暫くの間は成仏する気は無いらしい。
「でも私も、そろそろ“生まれ変わりたいな”とは思っているんだよね。どうしようか迷っているところ!!!」
“でもまずは”とキアラは言った、“明日、御当主に会ってから決めるわ!!”と。
「だってもし、私達一族の悲願が途中で途絶えて伝わっていないのならば、ここで教えて復活させないといけないし・・・!!もしその為に私がこの地で400年間暮らしていたのならば、私は明日こそ成仏出来るかも知れないんだもの!!」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「・・・・・」
“解ったわ”と暫しの沈黙の後にメリアリアが頷いた、“明日、お父さん達を連れて来る。今夜中に話も聞いてね、それでいい?”とそう告げて。
「それで構わないわ、明日また必ず来て。蒼太も一緒に来てね?必ずよ!?」
「・・・・・」
“解ったよ”とキアラに告げると、蒼太はメリアリアとも頷き合って、その日は二人並んで城を後にした、冗談では無かった、城を探検して帰る筈が、一族の幽霊から懇願されて変なお願い事を聞く事になるなんて。
「でもあの話、何だか少し興味はあるわ?」
「失われた10氏族の話・・・?」
「それもあるけど・・・。自分達のルーツに繋がるお話しって、何だか胸がときめかない?」
「う、うん。自分達の御先祖様の事が解るのって、とっても大切な事だよね・・・?」
蒼太がそう言って応えると、メリアリアも満足げに頷いて蒼太に告げた。
「蒼太のお家にも、何か無いの?伝わっている秘密の教えとか、何か!!?」
「う、う~ん・・・!!」
と、それを聞いた蒼太は流石に黙りこくってしまっていた、無いわけでは無いのだが、それを今はまだ、メリアリアに言う訳には行かないのである。
「な~んてね?冗談よ!!!」
メリアリアがそう告げた、“それに人様の事よりまずは自分のお家の事よね?”とそう言って。
「行きましょう?蒼太。まずはパパ達から話を聞かなくてはならないわ!!!」
「う、うん。そうだね・・・!!!」
蒼太はそれだけ答える事が精一杯だったのだが、正直に言ってメリアリアが自分で納得してくれて良かったと思っていた、そうで無ければ彼女の事だ、自分が口を割るまで“なになに、なんなの?お姉さんに教えなさい!!!”等と捲し立てられる事は明白だったのだから。
「それにしてもあのキアラって子。なんか変な子よね?普通は成仏したがるものなんだけどね?」
「まだまだ遊びたい時に亡くなっちゃったから、その思いが充分に、遂げられて無いんじゃないのかな・・・!!?」
と蒼太は告げるがだとするとホトホト厄介な話になるな、等と彼は頭を悩ましていた、もしキアラにその意志が無いのであれば強制的にあの世に送り込むしかなくなってしまうのであるが、それは本当に最終手段であり、出来ればとりたくはないモノであったのだ。
「どっちみち明日、おじさんに話しを聞いてからまた行ってみなくちゃ解らないね。おじさんが知っている事を少しは話てもらわないと」
「本当よね?だけどお父さんもお父さんだわ。何か言うべき事があるなら早めに言っておいてくれたら良かったのに!!!」
「・・・・・」
幼馴染(ガールフレンド)の怒りの矛先が彼女の父親に向かった事に、幾許かの安堵を覚えつつも蒼太はメリアリア共々、元来た道を直走りに走り始めた、取り敢えずは今夜はダーヴィデのおじさんに、詳しい話を聞かなくてはならない。
それが済まなければ今後の具体的な対応策も検討しようが無かった、キアラは明日も彼処で待っていると言う、対象が動かないでいてくれるのは有り難いが、しかし。
(なんだか壮大な事になって来たな、メリーの御先祖様の話か、うーん・・・!!!)
自分には及びも付かないスケールの話を聞かされてしまい、蒼太は帰りの途次(みちすがら)、些か困惑の只中にあったのである。
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