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ガリア帝国編
アウロラ・フォンティーヌ編8
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「♪♪♪、♪♪♪~っ!!!」
ある晴れた5月の日曜日の早暁(午前七時になるかならないかの時刻である)。
この日、彼女、アウロラ・フォンティーヌは朝から上機嫌でシャワーを浴びていた、今日は彼女にとっては記念すべき、八回目の誕生日を迎えた訳であり家の中では使用人達が朝からその準備に追われていたのだ。
通常は、フォンティーヌ家では、家人の誕生日会程度ではそこまで過度な飾り付けや料理、盛り付けなどは行わない。
アウロラには兄弟、姉妹が5人はいるし、それに加えて両親祖父母、親戚等を含めると、それなりの数に昇るために、その度に一々豪勢なパーティーを開いていては、如何なフォンティーヌ家と言えども財政的に厳しくなるのだが、今回は特例だった。
例の“トワール館事件”の解決と全員が無事に戻って来た事、そして何よりアウロラが、来年から通う事となった修道院、“サン=サヴァン・シュル・ガルタンプ”への入学祝いとを兼ねていたのだ、そんな中で。
貴重品ボタニカル・シャンプーをふんだんに使用しては髪の毛を洗い、また超高級ボディソープをこれまたたっぷりと付着させてはスポンジでアウロラはその白磁器のような肌に磨きを掛けていたのだったが、ちなみに日本人と違ってエウロペ連邦の人々には、浴槽に浸かると言う文化、発想は存在しなかった、そこにはそもそも論としての、“風呂”という物が存在していなかったのだ。
従って全身洗浄の際のスタイルとして用いられるのは専らがシャワーであり、そこにタオルやスポンジを持って行って入っては自らの身体を隅々まで擦り流す、というのが主流であったモノの、それはもっと正確に言ってしまえば。
大昔に、現在のエウロペ連邦から中等の一部地域までをその版図に組み入れた大帝国、“古代ローマ帝国”には風呂に入る、と言う文化があったし、その都市には上下水道が完備されていてその当時としては衛生面にもかなり配慮が為されていたモノの、そう言った文化、思想はローマ帝国が滅んだ際に一度完全に廃れてしまった、それ以来、エウロペ連邦文化圏では実に千年以上に渡って“入浴”、“洗浄”の文化が育つことは無かったのである。
では人々はどうやって身体を綺麗にしていたのか、と言えばそれは本当にたまに川に入って水浴びをし、その際に身を清める、と言う形を取っていたのであった(しかし髪の毛や身体に染み付いた“臭い”は男女共に中々取れずにそれ故、“香水”等というモノが誕生しては貴族を中心として持て囃されて行ったのだ)。
「♪♪♪っ、♪♪♪~っ!!!」
(今日はあの人が来てくれる、蒼太さんが私の為に、プレゼントを持って・・・!!キャーッ!!!)
そう考えるとアウロラは、いてもたってもいられなくなった、蒼太さんはどんな出で立ちで会いに来てくれるんだろう、タキシードかしら、それとも前みたいに燕尾服?いいえ、出で立ちなんてどうでも良いし、プレゼントなんて何も持ってこなくていい、ただ彼が無事にここまで来てくれて、誕生日を共に祝ってくれたのならば、それに勝る幸福は無い。
彼女は心底そう思っていたのであり、そしてそれが故にテンションは爆上がりしていた、ただし本音を言うのならば、正直な話、修道院へと通うことになるのは一抹の不安と寂しさとがあった、いいや、もっとハッキリと言って嫌だったのであるモノの、この“サン=サヴァン・シュル・ガルタンプ”は戒律が厳しい事で有名であり、しかもその上、何よりかによりの理由としては六年間もの間、蒼太と会えなくなってしまうのである、それだけはどうしても受け入れがたい、断固拒否すべき案件だったのであるモノの、しかし。
「アウロラ。君は自分の中にある力を、正しく認識する必要がある、正しく用いる必要がある!!」
“その為に行っておいで?”と父であるエリオットから強く進められたのであった、“素敵なレディになって帰っておいでよ?”とそう言って。
「将来、あなたが出会うであろう、素晴らしい旦那様に相応しい、立派な女性におなりなさい」
「・・・・・」
母であるシャルロットもまた、そう言って娘の背中を押したためにアウロラもそれ以上、嫌とは言えなくなってしまったのである。
(もうっ。お父様もお母様もイジワルですっ。私は蒼太さんと離れたら生きてはいけないと言うのに、1秒だって耐えられないと言うのに、それなのに!!)
とアウロラはシャワーを浴びながら、心の中で1人ごちるが本当は今だって寂しくて嫌なのだ、蒼太にはもっと頻繁に会いに来てもらいたいし、2人で同じ時を過ごしたい、色々な事を話して欲しいしあの人の声を聞いていたい、心の底からそう思い、希(こいねが)っていたのであるモノの、しかし。
蒼太はどうしても忙しい身らしくてやはり、月に一度しか会いには来てくれ無かった、以前のパーティー会場での一件を思い返して何某かの事情を知っているのであろう父に問い質してみても“こればかりは仕方が無いよ”との事だったからどうやら、本当に、これ以上はどうにもならない事側なのは理解できるが、それにしたってもう少し、何とかならないモノなのだろうかと考慮する。
(今は、電話でお話しするしかないですし・・・。本当はもっと、私、私・・・っ!!!)
“もっと触れていたいです!!”とアウロラは蒼太に抱き着いた時の事を考えるモノの、彼の身体は服の上からでは解らない程に熱くてゴツゴツしていて、筋肉質なのが感覚で解った、あの逞しさ、力強さは自分のそれとは大違いであり、思わずもし、本当に恥ずかしいのであるが、それでも“裸で抱き締め合ったなら、どんな感じがするのだろう”と、興味半分、願望半分でついつい、そんな事を考えてしまうのだ。
(は、恥ずかしいっ、滅茶苦茶恥ずかしいですっっっ!!!!!だ、だけど、だけど・・・!!!)
アウロラは思わず考えてしまっていた、蒼太と裸で抱き締め合ったらどんな感じになるのだろう?と。
あの感触、あの温もり、あの匂い、どれをとっても堪らない程に心地好くて胸が高鳴り、どうしよう無い程に求めてしまうがアウロラはこの時、ハッキリとした恋慕の情を抱いており、それと同時に“性”にも目覚め始めてしまっていた、自分の女の子の身体が、蒼太の男の子の肉体に掻き抱かれたらどうなるのだろう、どんなに気持ちいいだろう、どんなにドキドキするだろうと考えると、心の底の底の底、その更に奥深い領域から絶えず沸き上がって来る、自分でも抑えが効かない位にまで自分で自分をどうにかしてしまいそうになる程の、確かで比類無き衝動を覚えて悶絶する。
(はああぁぁぁうっ!!?蒼太さん蒼太さん蒼太さんっ!!!!!)
恥じらいを覚えると同時にゾワゾワと来てしまうモノの、彼との事を考えている内にアウロラは、身体が央芯部分から熱くなり、思わず股間が疼いてエッチな気持ちになって来てしまった、すると感覚がシャープになって刺激に敏感になってしまい、乳首が独りでに勃起して来てしまうモノの最近、いやらしい事を考えるといつもいつでもこうなってしまい、でも蒼太との事は不思議といやな感じがせずにとっても幸せな気分になれた。
自分達が途轍もなく掛け替えの無い事をしているかのような、大切な事をしているかのような気持ちになって心がとっても暖かな、満たされた思いでいっぱいになる。
(い、いけない。そんな事をしては・・・!!)
そう思いつつもアウロラは、自然と自分の股間に手を伸ばしては割れ目のビラビラの内側部分を軽く指でモゾモゾと弄(まさぐ)り、そのやや後ろ側にある、お尻に近い方の穴の中へと中指を、ちょっとだけ入れてみる事にした、すると途端に。
「んん・・・っ!!!」
アウロラから思わずくぐもった声が漏れるがそこはちょっとした圧迫感と言うより痛みがあって、あまり奥まで入れるのは恐かった為にそれ以上の挿入は避けたが、その代わりに今度は割れ目の上の付け根の部分でピンッと屹立しているお豆の部分を指で摘まんで捏ねくってみた。
その瞬間に。
「はああぁぁぁぁぁんっっっ❤❤❤❤❤」
甘い嬌声が少女の口から迸るモノの水に濡れていた事もあって少し痛痒かったけれどもしかし、だけどとっても気持ちの良い、電気ショックのような刺激がそこからは全身に走って行った、それは癖になりそうな快楽であり、アウロラは思わず暫くの間、蒼太の事を考えながらも夢中でそこを弄(いじ)くり回していたのだが、そうしている内にやがてー。
「ーーーっっ!!?・・・・・・・っっっ!!!!!あああっ?あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛・・・っ!!!」
何か大きな快感の波が押し寄せて来たかと思うと目の前がチカチカと明滅して身体が爪先からピンッとなり、頭の中や背筋がジーンと痺れる。
呼吸が徐々に小刻みになって身体がビクビクと震え出し、一頻り、それが続いた後で力が抜けて、気持ちがすっきりと爽やかになった、彼女は初めての拙い自慰で軽めのアクメに昇ったのであり、その衝撃に一人、打ち震えていたのである。
「はあっ、はあっ、はあっ。はあぁぁぁ・・・っ!!!はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
(な、なに?今のフワッとする感じ。蒼太さんの事を考えていて、夢中になっていたなら、それで・・・!!!)
半ば呆然となりながらも、それでも何とか呼吸を整え、もう一度身体を(主に股間を)洗い流すとアウロラはふやけてしまう前にシャワーを止めてバスルームを後にする。
その白くて滑らかな肢体と青色の煌びやかな髪の毛を高級バスタオルで拭き拭うとパンツを穿いてそのままお召し替えようのメイド達を呼び寄せるが、今日は彼女が主役なのである、それに相応しくドレスアップをしなければならなかった。
「あんまり厚くならないように、ナチュラル・メイクを施しますので・・・。勿論、指にもマニキュアを着けて・・・」
メイクアップ・アーティストの提案と指示でアウロラには薄らとした、ほんの僅かなメイクが施されて行き、そのショートボブな髪の毛にもシンプルなデザインのカジュアル・ティアラが装着された。
靴はこれまた、今回のドレスに合わせて新調されたパーティーシューズを履き熟しつつ準備は万端、後はパーティーの開始を待つだけとなった。
「やあ、アウロラ。綺麗だよ今日は。いや、いつもいつも可愛いが今日は飛び切り素敵だ、プリンセスになったかのようだ!!!」
「本当に眩しいわあなたは。太陽のような輝きを放っているわね?」
「お父様、どうも有り難う。お母様も・・・!!」
そんな両親からの賞賛に、アウロラは思わず照れ笑いを浮かべてはにかんだ、正直に言って今回のドレスは胸元が開いており、多少大人向けそれであったがメイクの施された、今の彼女の雰囲気は間違いなくそれにマッチしておりまだ8歳とは言えども見る者を魅了する。
「おわっ!?アウロラか、見違えたなぁっ!!」
「一瞬、お姫様かと思ったよ!!!」
「お兄様方も、どうも有り難う・・・」
続いて兄弟達からも賛美称揚の言葉がもたらされるが、それは確かにそれで嬉しかったのだけれども、しかし彼女が本当に喜んで欲しい人は、褒めて欲しい人は別にいた。
「・・・・・っ!!!!!」
もう直ぐだ、もう直ぐあの人が、蒼太さんが来てくれる、格好よく着飾った服を決め込み、プレゼントを抱えてその玄関から。
そう思うといてもたってもいられなくなってしまった、あの人は褒めてくれるだろうか、“綺麗”と言ってくれるだろうか、自分を認めてくれるであろうか。
一秒一秒が重苦しくて焦れったく、やけに長く感じてしまうしその上、徐々に緊張感と同時に、その小さな胸が高鳴って行った、時計を見ると今は午前8時半ちょうど。
お誕生日会は9時から始まる予定なので、あと30分しか余裕は無いが、しかし。
「・・・・・っ!!!!!」
(あああっ!?蒼太さんっ。蒼太さんは何をしているのかしらっ。今頃は屋敷の前にまで来ているのかしらっ、それとももう、門を潜ったあたりかしら?それとも今、まさに家を出た辺りかも・・・!!!)
アウロラの焦燥と不安と期待、そして緊張は留まる事無く加速して行き、鼓動が早く脈を打つ。
身体にも手にも、変な汗が浮かんできて心を落ち着かせようとするのだけれども、逆に却って気が急いてしまい、落ち着かなくなってしまった。
「ア、アウロラ・・・ッ!?」
「アウロラ、少し落ち着きなさい!!」
「・・・・・っ!!!!!」
高級スーツとパーティードレスに身を包んだ両親や兄弟姉妹達からも窘(たしな)められたり、呆れられたりするモノの、それでもアウロラは気が気でなくて、会場を、廊下を階段を、ウロウロし続けていた、そうこうしている間にも。
パーティーの準備は着々と進められて行った、大広間には家族以外にもヴィクトーやレオ等の親戚一同が集まって来てテーブルには大小様々な料理が並べられ、高級シャンパンやロマネ・コンティ、ピンクドンペリやジュース等が次々と運ばれて来た。
それらに加えてメイド達や執事、警備の者や庭師、そして料理を作ってくれるシェフやコック達自身が食べるモノや飲むモノ等も、これらとは別個に用意されており、要するに今回は全員でアウロラのバースデーを祝うのである。
しかし。
「・・・・・っっっ!!!!!」
(あああっ!!?あと15分!!)
アウロラが時計を見るが蒼太はまだ姿を現さない。
彼は時間に正確である、恐らくは今回も10分前~5分前くらいに来るつもりであろう、それは尊敬できるのであるがしかし。
(あああっ!!?蒼太さん、蒼太さんっ!!!早く会いたいっ、あってこの手を握って欲しいっ!!!)
そう思ってアウロラは思わず、あの“トワール館”での一幕を、思い返していたのであるがあの時、蒼太は何も言わずに黙って自然と自分の手を握り続けていてくれたのであり、その温かさと優しさと、そして何より確かさとが彼女の身に心に、そして魂へと染み渡って行ったのである。
(今日もこの手を取ってあの人は、私と踊ってくれるかしら?)
アウロラがそんな事を考えていると、遂にー。
「失礼致します・・・」
家令のモハメドが、一人の少年を連れてやって来た。
この日のためにと、清十郎達の(要するに庶民の)用意できうる最高級上下キッズスーツとシャツ、タイ、そして本革靴をお揃いで装着していた、綾壁蒼太その人である。
手には恐らくはプレゼントが入っているのであろう、包装紙とリボンで包まれている小箱を持参して来ていた。
「蒼太さんっ!!!」
「・・・・・っ!!?ア、アウロラか?ビックリしたよ!!!」
蒼太は殊更驚いていた、何しろそれだけ、その日の彼女の纏い放つ雰囲気と言うモノは、普段の見慣れているお嬢様と言うか、幼馴染のそれとは全く違っていたモノだったからだ。
ドレスこそ胸元の開いている、ややアダルティンなモノだったのだが化粧も髪飾りもグローブ等の出で立ちも、そして何より、その全体から醸し出されるオーラそのものが非常に気品のある、美しくて高貴なモノであったからだ。
「凄いよ、アウロラ。一瞬、真面目に帝室一家のプリンセスかと思ってしまった。そんな感じを受けるよ!!」
「そ、蒼太さん・・・!!!」
“有り難う”と多大なまでの喜びと同時に照れ臭さを覚えてアウロラは顔を真っ赤にしたまま俯き加減で何とかやっとそう応えた。
手には恐らくはプレゼントが入っているのであろう、包装紙とリボンで包まれている小箱を持参して来ていた。
「蒼太さんっ!!!」
「・・・・・っ!!?ア、アウロラか?ビックリしたよ!!!」
蒼太は殊更驚いていた、何しろそれだけ、その日の彼女の纏い放つ雰囲気と言うモノは、普段の見慣れているお嬢様と言うか、幼馴染のそれとは全く違っていたモノだったからだ。
ドレスこそ胸元の開いている、ややアダルティンなモノだったのだが化粧も髪飾りもグローブ等の出で立ちも、そして何より、その全体から醸し出されるオーラそのものが非常に気品のある、美しくて高貴なモノであったからだ。
「凄いよ、アウロラ。一瞬、真面目に帝室一家のプリンセスかと思ってしまった。そんな感じを受けるよ!!」
「そ、蒼太さん・・・!!!」
“有り難う”と多大なまでの喜びと同時に照れ臭さを覚えてアウロラは顔を真っ赤にしたまま俯き加減で何とかやっとそう応えた。
「今日は誘ってくれて有り難う、でも本当に良かったのかな?僕なんかがお邪魔しちゃっても・・・!!」
「全然、そんなことないです!!!」
とアウロラは慌てて頭(かぶり)を振った、“蒼太さんが来てくれた事が、何より嬉しい事なんですから!!”と、ここは本当の事を臆する事無く言い放つ。
「蒼太さんが来て下さらなければ、私、私っ。誕生日会を開く意味なんて御座いませんものっ!!!!!」
「えええぇぇぇぇぇ?」
“オーバーだよ、アウロラ”と最初は言おうと思っていた蒼太だったがしかし、途中で思い止まった、それだけこの少女の自分を見る目が真剣だったからである。
「・・・・・っっっ!!!!?」
「・・・・・っっっ!!!!!」
「まあまあ!!」
「おおっ!?蒼太君か!!」
”アウロラ、君は・・・!!”と蒼太が何事かを言い掛けた、その時だ、上階から階段を下ってエリオット伯爵本人とその夫人であるシャルロットが姿を現した。
「エリオット伯爵、それにシャルロット夫人!!!」
「堅苦しい挨拶は無しだよ、蒼太君。今日はゆっくりと楽しんで行ってくれたまえ!!!」
「この日のためにと私共の誇るシェフ達が、腕によりを掛けて料理を用意しましたからね、たんと召し上がって行ってね?」
「そうだとも、君には娘と遊んでもらっているばかりか、何度も助けてすらもらっているのだからね。今日はその恩返しも兼ねているのだから、存分に飲み食いしていってくれよ?一緒に娘のバースデーを、祝ってやってくれたまえ!!」
“本日はお招きにあやかりまして大変、光栄で御座います伯爵、夫人!!”と挨拶をして会釈を見せる蒼太に対してエリオット達は笑顔で応じて彼を持て成し、労った、エリオット達からすれば、蒼太には本当に、世話になりっ放しである、こんな時こそ細やかなりとは言えども彼を歓待してやりたかったのである。
「今回はちょっとした舞踏会も兼ねている、君にもし、ダンスの心得があるのであれば、後で気兼ねなくアウロラを誘ってやってくれたまえ、この子もまだそんなには踊れんが一通りは熟(こな)せる筈だ!!」
「正直に言って、まだ“デビュタント”には早すぎると思うのだけれども・・・。多分、聞いているとは思うのだけれども、この子は来年の春から6年の間、“修道院”へと向けて修業に行ってしまうのよ?だからせめて思い出をと思って・・・!!」
「よ、よろしくお願い致します・・・!!」
「・・・・・」
両親の言葉を受けてアウロラが、スッとドレスの裾を掴んで礼儀に則り会釈をするモノの、それを見た蒼太は“僕で良ければ、お相手しますよ”と此方(こちら)も礼節に則って返した、ダンス自体は同じ貴族でもあった(ついでに言えば同じく伯爵位を持っているダーヴィデ夫妻の娘である)メリアリアから、一通りは習っているし、彼女と何度となく踊りを踊っている、出来ない事は無いが、しかし。
(問題はアウロラをエスコート出来るかどうかだな)
と蒼太は思った、実際に彼はアウロラが踊りを舞っている姿を見た事が無かったし、二人の遊びの中でも話題には昇った事があったモノのアウロラが“ダンスは苦手なんです”と言っていた事から“この話題は禁句(タブー)だな”と思い、敢えて避けていたのであった。
だから彼本人としては今回は、隅っこで料理を幾らか啄ませてもらい、頃合いを見計らって帰宅しよう、等と考えていたモノの、こうなると勝手が違って来た、エリオット伯爵夫妻たっての願いとアウロラ本人の希望とあらば、決して無視して良い事柄などでは無い。
「まあもっとも。ダンスが始まるのは宴も酣(たけなわ)の頃に、それも今回はちょっとしたモノだからね、あんまり緊張せずに舞って欲しい」
「今回は、身内だけのバースデー・パーティーですから、何の遠慮も要りません、どうかご緩(ゆる)りと過ごして行ってちょうだいね?」
“その通りだ”とその言葉を受けてエリオットが続けた、“料理もたんとあるからね?”とそう言って。
「ありがとうございます、伯爵、シャルロット夫人・・・」
「うん、では私達はスピーチ等の準備があるから、一旦はこれで失礼するよ?」
「アウロラ?貴女にも後で簡単にスピーチをしてもらいますからね?もう8歳なのだから、それくらいは出来るでしょう?」
「あうぅぅ・・・!!」
とその言葉にアウロラは真っ赤になって俯いてしまい、項垂れてしまっていた、困惑気味に目を泳がせては唇を尖らせるがそれでもシャルロットからは“ダメですよ?”と釘を刺されていた、どうやら両親からの言いつけのようだ。
「アウロラ、頑張って!!」
エリオット達が行ってしまった後で、蒼太がアウロラに何気なく、しかし力強くソッと告げる。
「今の君なら、絶対に出来るよ。僕と喋るように喋れば、たったそれだけでいいんだから・・・!!」
「ううっ。そ、それは・・・!!」
「何なら、僕も一緒に登壇しようか?それなら大丈夫だろ?」
“それが出来たら苦労はしません”とでも言わんばかりの表情と言うか、瞳を見せて訴えて来るアウロラに、些か苦笑しつつも蒼太が告げるが今回のパーティーは身内だけと言うのだから、自分がアウロラの側に立ってもそれほど“なんだ?アイツは・・・”等と言う事にはなるまいと理解する。
それに友達が大の苦手を克服しようとしているのである、それに対して“頑張れ”等と言うのであれば、自分だってそれに見合うだけの応援をしてやらねばなるまいと、蒼太は考えていたのであった。
(勿論、それにだって限度ってモノはあるけれども・・・。側に立ってスピーチを促す位は良いだろう)
“そう言えば”とそこまで思い至った時に蒼太はふと思うことがあってアウロラに“内容は考えてあるの?”と耳打ちをするモノの、そもそも論としてそれが無ければ話にならず、もし“まだ考えられていない”と言うのであれば、今から急いで準備をしなくてはならなかったのだ。
「い、一応は考えてあるんですけれども・・・。だけど、なんて言いますか。その・・・!!」
“は、恥ずかしい、です・・・!!”とアウロラが応えるのを聞いた蒼太は“ちょっと見せて?”と頼み込んで、その原稿用紙を渡してもらうがそこには。
“本日は私(わたくし)の為にわざわざお越しいただきまして誠に有り難う御座います、精一杯のお持て成しをさせていただきますので皆様方におかれましてはどうか心行くまでお楽しみ下さい”と綺麗な字で書かれていた、これならば別に内容的な問題は、8歳の子供が書いたモノとしては全く以て存在しない。
「これをこの通りに言えば、全然問題無いじゃないか!!」
「ううっ。そ、それはそうなんですけれども・・・!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解った、解った!!”と蒼太は言った、“僕も一緒に登壇してあげるよ”と、“スピーチを言うのを手伝うよ”と、彼なりに背中を押してやる事を決意する。
「ほ、本当ですか?それならば・・・!!」
とそれを聞いたアウロラが、些かホッとした表情を見せるがそれを見る限りにおいてはどうやら彼女は真剣にこの問題で悩み抜いている様子であり、彼女にとっては最大の試練の一つだったのだろう、と言う事が、ヒシヒシと伝わって来る事案であるが、そうこうしている間にも。
テーブルには続々と、メインディッシュが運び込まれて来ていた、蒼太が何気なくみてみると、そこには。
シーザーサラダにフレンチポテト、極上フィレ肉のステーキに特製ローストビーフの塊、チキンの丸焼きに、マトンの丸焼き。
それにケーキだけでも焼きリンゴのタルトタタンに木苺のチョコレートケーキ、そしてブルーベリーのレアチーズケーキと3種類が用意されており、豪華絢爛な宴である事が、一発で伺い知れた。
外は太陽がその光りを放って強く眩しく照り付けており、内側ではシャンデリアは煌々と輝いていた、その下で人々は齷齪(あくせく)と動き回っており、期待はいやが上にも高まって行く。
パーティーまではあともう少しである、蒼太は改めて本日の予定を確認していた、その側ではドキドキと胸を高鳴らせながらアウロラが蒼太の腕にソッと腕を絡めて来る、・・・まるで不安で仕方が無い、とでも言うかのように。
「大丈夫さ、アウロラ」
蒼太はワザと明るく言った、“スピーチの時間なんて、実質10秒にも満たないよ”と、“それが終われば君はもう自由の身さ!!”と。
「スケジュールはもう、確認してあるかい?」
「え、ええと、あの。まずは父と母がスピーチをして、続いて私が挨拶をして・・・。それから誕生日会が始まります・・・!!」
「ああ、そうか。やっぱりスピーチから入るのか!!でもさアウロラ」
と蒼太は多分、これは間違いなく真実な事を彼女に告げるが、曰く“スピーチなんて多分、誰も聞いてないだろうから“と、だから“短ければ短いほどに、気が利いているモノなんだよ?”とそう言って彼女を勇気づける。
「校長先生の話なんて、誰も聞いてないだろ?」
「そ、それはそうですけど蒼太さん。ちょっとそれは言葉が過ぎます!!」
「でも事実なんだよ、アウロラだって眠たくなるんじゃないの?何てったってあれは一番、精神に作用する眠りの呪文だからね?」
「そ、それは・・・。まあそうですけど・・・!!」
「だからアウロラ頑張って?それに大事なのは言葉じゃないよ、何よりかにより、君が皆に伝えなきゃならないことは“来てくれて有り難う”、“今日はお祝いして行ってね?”って言う感謝と歓迎の心なんだから!!」
「こ、心・・・!?」
「そうだとも、良いかい?アウロラ。物事の本質って言うのはね?“心”そのものにあるんだよ?だから心が大事なんだから!!」
「心が、大事・・・!!」
「そう。まず気持ちや心がありきだよ、それがあれば言葉は短くても事足りるんだ、だからね?アウロラ。君のスピーチの内容は、言葉よりも心を重視するモノなんだと、僕は思っているよ!!だって君は苦手なスピーチでそれでも、皆をもてなそうとしているんだろ?それって“真心”そのものじゃないか、その現れだと思うんだけど!!」
「・・・・・っっっ!!!!!」
するとそれを聞いたアウロラは、照れたように下を向いて俯いてしまっていた、それを見た蒼太は“しまった”と思った、自分では励ましたつもりだったのが、逆効果になってしまったのかも知れない、等と考えていたのであるモノのしかし、実際にはその心配は杞憂だったのである。
否、それどころか。
「蒼太さんっ!!!」
アウロラはいつかのように感極まって堪らなくなり、蒼太に真正面から抱き着いて来た、自分がドレスアップをしているにも関わらず、人目も憚らずにいきなり飛び付いて来たのである。
「蒼太さん蒼太さん蒼太さんっっっ!!!!!」
「う、うわわわっ!?ち、ちょっとちょっと、アウロラ・・・ッ!!!!?」
蒼太は思わず驚愕した、だってアウロラはただ飛び付いて来ただけではなくて、その身をグイグイッと擦り寄せて来たのである。
「蒼太さん蒼太さん蒼太さんっっっっっ!!!!!!!」
「ア、アウロラちょっと。皆見てるから・・・!!」
「いやですっ、もう絶対に離しません!!!私のなんです、蒼太さんは私だけの男性(ひと)なんですからっっっっっ!!!!!!!」
そう言うとアウロラは、全身で蒼太を“もっと感じていたい”とでも言うかのように、その身を強く押し付けて来るモノの、蒼太はそれを腕を掴んで振り解くと一歩を引いて距離を取った。
「あああっ!?い、嫌あああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
アウロラは悲しそうにそう叫ぶともう一度蒼太に抱き着こうとするモノの、蒼太はそれを許さない。
「嫌ああぁぁぁっ。蒼太さん、蒼太さん蒼太さん蒼太さんっ!!!」
「ア、アウロラまずは落ち着いてっ?ねっ?皆見てるから・・・っ!!!」
迫り来るアウロラを蒼太が必死に宥(なだ)め賺(すか)して落ち着かせつつも彼女の沈静化を図る、と言った事象が二人の間で繰り広げられていたモノの、そんな彼等が衆人達からの注目を集めながらも激しく縺(もつ)れ合っていると。
「皆様方、大変長らくお待たせ致しました!!!」
場内にアナウンスが掛かり、カーテンが閉められて照明が消される。
その直後に照らし出された壇上の上でエリオットとシャルロットとが簡潔に挨拶を行っていった。
「ア、アウロラ、ほら次っ。君の番だよ!?」
「むうううぅぅぅぅぅっ!!!!!」
蒼太からもたらされたその言葉に、アウロラはそれでも不服そうにプクーッと膨れて見せるモノの、流石に自身の熟(こな)すべき役割がある上に、皆の目の前でとあっては蒼太だけに意識を集中する事が出来ない事に加えて、更に言うのならばその結果として思う存分睦事を繰り広げる訳にも行かずにこの青髪の清楚な少女は渋々、登壇する事を決めては壇上へと向けて歩を進めようと意識する。
(もう・・・っ!!!ですが流石にお父様達の目の前でこんな事は出来ませんし、それに皆さんもパーティーを心待ちにして下さっておられるのですっ。自分勝手は出来ません・・・!!)
「蒼太さん・・・!!」
「は、はいっ。なに?」
「この後・・・。よろしければ一緒にダンスを踊っていただけますか?」
「それくらい、構わないよ。僕で良ければ相手になろう!!」
「・・・・・っ。よかった!!!」
とアウロラは思わずホッとした顔を見せて漸(ようや)く表情を綻(ほころ)ばせた、舞踏会で蒼太にダンスの相手をしてもらうことは、彼女の夢の一つであったからである。
「では蒼太さん、壇上までエスコートをお願いします・・・!!」
「うん、解った!!」
“行こう、アウロラ!!”と告げると蒼太は自然と彼女の横に立ち並び、その左手を差し出して来た。
「・・・・・っっっ!!!!!」
その手を取るとアウロラは次に、“これ位は良いでしょう?”とでも言わんばかりに蒼太の腕へとしがみ付き、腕に腕を絡ませるモノの、もう時間も無かった為に蒼太はそのまま彼女を連れたって壇上への道を歩き始めた、パーティーは今、始まったばかりである。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「いーい?蒼太。物事の本質って言うのはね、ズバリ“心”にこそあるんだから!!だから心を強く持ちなさい?常に清く正しい精神を持つの!!」
byメリアリア
そしてそれから3年後。
「良いかい?アウロラ。物事の本質って言うのはね?“心”そのものにあるんだよ?だから心が大事なんだから」
「何よりかにより、君が皆に伝えなきゃならないことは“今日は来てくれて有り難う”、“皆でお祝いして行ってね?”って言う感謝と歓迎の心なんだから!!」
成長したね、蒼太君。
またこれは既に、第50話並びに第58話において、“メリアリアちゃんの蒼太君への気持ち”及び“彼女の持つ凄絶さ、覚悟”の中で言及が為されていますが。
これはアウロラちゃんにも同じ事が言えますけれどもこの時、まだ8歳の彼女は既にハッキリとした恋慕の情を蒼太君に対して抱いています(そしてそれが原因で“性”そのものにも目覚めています)、しかもその上。
更に蒼太君の事を考えるとそれだけで、“自分でも抑えが効かない位にまで自分で自分をどうにかしてしまいそうになる程の、確かで比類無き衝動”と言うのを心の底の底の底、その更に奥深き部分から覚えて悶絶するのですが皆様方、それが何を意味するのかお解りですか?
そうです、まだまだ未熟であり、またそのレベルも“1”と言った所ですけれどもこの時点で彼女は既に、蒼太君に対してハッキリとした“愛情”をも抱き始めているのです。
それは例えるのならば“感情を超えた感情”であり、それと同時に“この人の為ならば”とどんな無茶苦茶な事でも成し遂げてしまう程にまで、実行に移そうとしてしまう程にまで自分を突き動かそうとする、まさに純粋にして比類無き、想像を絶する思いの丈です(例えばメリアリアちゃんはだから、蒼太君が8歳になった春休み直前の時期に“エルヴスヘイム”へと召喚された時に、“彼が行方不明になった”と聞いて心配の余りに大人達に任せるだけにせずに、いつも彼と遊んでいた“ルテティアの森”を自身で捜索したりしました←蒼太君が道に迷ってしまったのかも知れない、そこに居るのかも知れない、と思ったら、いてもたってもいられなくなってしまったんですね)。
メリアリアちゃんもアウロラちゃんも、まだ8、9歳になったばかりの年端も行かない少女の内から彼に対して既にそれらをハッキリと抱いてしまっているのです(女の子って凄いですよね?そしてとっても恐いです←でもね?男の子だって憖(なまじ)っかな事じゃ、生きていけないんですよ、半端な覚悟じゃ務まらないんです)。
敬具。
ハイパーキャノン。
ある晴れた5月の日曜日の早暁(午前七時になるかならないかの時刻である)。
この日、彼女、アウロラ・フォンティーヌは朝から上機嫌でシャワーを浴びていた、今日は彼女にとっては記念すべき、八回目の誕生日を迎えた訳であり家の中では使用人達が朝からその準備に追われていたのだ。
通常は、フォンティーヌ家では、家人の誕生日会程度ではそこまで過度な飾り付けや料理、盛り付けなどは行わない。
アウロラには兄弟、姉妹が5人はいるし、それに加えて両親祖父母、親戚等を含めると、それなりの数に昇るために、その度に一々豪勢なパーティーを開いていては、如何なフォンティーヌ家と言えども財政的に厳しくなるのだが、今回は特例だった。
例の“トワール館事件”の解決と全員が無事に戻って来た事、そして何よりアウロラが、来年から通う事となった修道院、“サン=サヴァン・シュル・ガルタンプ”への入学祝いとを兼ねていたのだ、そんな中で。
貴重品ボタニカル・シャンプーをふんだんに使用しては髪の毛を洗い、また超高級ボディソープをこれまたたっぷりと付着させてはスポンジでアウロラはその白磁器のような肌に磨きを掛けていたのだったが、ちなみに日本人と違ってエウロペ連邦の人々には、浴槽に浸かると言う文化、発想は存在しなかった、そこにはそもそも論としての、“風呂”という物が存在していなかったのだ。
従って全身洗浄の際のスタイルとして用いられるのは専らがシャワーであり、そこにタオルやスポンジを持って行って入っては自らの身体を隅々まで擦り流す、というのが主流であったモノの、それはもっと正確に言ってしまえば。
大昔に、現在のエウロペ連邦から中等の一部地域までをその版図に組み入れた大帝国、“古代ローマ帝国”には風呂に入る、と言う文化があったし、その都市には上下水道が完備されていてその当時としては衛生面にもかなり配慮が為されていたモノの、そう言った文化、思想はローマ帝国が滅んだ際に一度完全に廃れてしまった、それ以来、エウロペ連邦文化圏では実に千年以上に渡って“入浴”、“洗浄”の文化が育つことは無かったのである。
では人々はどうやって身体を綺麗にしていたのか、と言えばそれは本当にたまに川に入って水浴びをし、その際に身を清める、と言う形を取っていたのであった(しかし髪の毛や身体に染み付いた“臭い”は男女共に中々取れずにそれ故、“香水”等というモノが誕生しては貴族を中心として持て囃されて行ったのだ)。
「♪♪♪っ、♪♪♪~っ!!!」
(今日はあの人が来てくれる、蒼太さんが私の為に、プレゼントを持って・・・!!キャーッ!!!)
そう考えるとアウロラは、いてもたってもいられなくなった、蒼太さんはどんな出で立ちで会いに来てくれるんだろう、タキシードかしら、それとも前みたいに燕尾服?いいえ、出で立ちなんてどうでも良いし、プレゼントなんて何も持ってこなくていい、ただ彼が無事にここまで来てくれて、誕生日を共に祝ってくれたのならば、それに勝る幸福は無い。
彼女は心底そう思っていたのであり、そしてそれが故にテンションは爆上がりしていた、ただし本音を言うのならば、正直な話、修道院へと通うことになるのは一抹の不安と寂しさとがあった、いいや、もっとハッキリと言って嫌だったのであるモノの、この“サン=サヴァン・シュル・ガルタンプ”は戒律が厳しい事で有名であり、しかもその上、何よりかによりの理由としては六年間もの間、蒼太と会えなくなってしまうのである、それだけはどうしても受け入れがたい、断固拒否すべき案件だったのであるモノの、しかし。
「アウロラ。君は自分の中にある力を、正しく認識する必要がある、正しく用いる必要がある!!」
“その為に行っておいで?”と父であるエリオットから強く進められたのであった、“素敵なレディになって帰っておいでよ?”とそう言って。
「将来、あなたが出会うであろう、素晴らしい旦那様に相応しい、立派な女性におなりなさい」
「・・・・・」
母であるシャルロットもまた、そう言って娘の背中を押したためにアウロラもそれ以上、嫌とは言えなくなってしまったのである。
(もうっ。お父様もお母様もイジワルですっ。私は蒼太さんと離れたら生きてはいけないと言うのに、1秒だって耐えられないと言うのに、それなのに!!)
とアウロラはシャワーを浴びながら、心の中で1人ごちるが本当は今だって寂しくて嫌なのだ、蒼太にはもっと頻繁に会いに来てもらいたいし、2人で同じ時を過ごしたい、色々な事を話して欲しいしあの人の声を聞いていたい、心の底からそう思い、希(こいねが)っていたのであるモノの、しかし。
蒼太はどうしても忙しい身らしくてやはり、月に一度しか会いには来てくれ無かった、以前のパーティー会場での一件を思い返して何某かの事情を知っているのであろう父に問い質してみても“こればかりは仕方が無いよ”との事だったからどうやら、本当に、これ以上はどうにもならない事側なのは理解できるが、それにしたってもう少し、何とかならないモノなのだろうかと考慮する。
(今は、電話でお話しするしかないですし・・・。本当はもっと、私、私・・・っ!!!)
“もっと触れていたいです!!”とアウロラは蒼太に抱き着いた時の事を考えるモノの、彼の身体は服の上からでは解らない程に熱くてゴツゴツしていて、筋肉質なのが感覚で解った、あの逞しさ、力強さは自分のそれとは大違いであり、思わずもし、本当に恥ずかしいのであるが、それでも“裸で抱き締め合ったなら、どんな感じがするのだろう”と、興味半分、願望半分でついつい、そんな事を考えてしまうのだ。
(は、恥ずかしいっ、滅茶苦茶恥ずかしいですっっっ!!!!!だ、だけど、だけど・・・!!!)
アウロラは思わず考えてしまっていた、蒼太と裸で抱き締め合ったらどんな感じになるのだろう?と。
あの感触、あの温もり、あの匂い、どれをとっても堪らない程に心地好くて胸が高鳴り、どうしよう無い程に求めてしまうがアウロラはこの時、ハッキリとした恋慕の情を抱いており、それと同時に“性”にも目覚め始めてしまっていた、自分の女の子の身体が、蒼太の男の子の肉体に掻き抱かれたらどうなるのだろう、どんなに気持ちいいだろう、どんなにドキドキするだろうと考えると、心の底の底の底、その更に奥深い領域から絶えず沸き上がって来る、自分でも抑えが効かない位にまで自分で自分をどうにかしてしまいそうになる程の、確かで比類無き衝動を覚えて悶絶する。
(はああぁぁぁうっ!!?蒼太さん蒼太さん蒼太さんっ!!!!!)
恥じらいを覚えると同時にゾワゾワと来てしまうモノの、彼との事を考えている内にアウロラは、身体が央芯部分から熱くなり、思わず股間が疼いてエッチな気持ちになって来てしまった、すると感覚がシャープになって刺激に敏感になってしまい、乳首が独りでに勃起して来てしまうモノの最近、いやらしい事を考えるといつもいつでもこうなってしまい、でも蒼太との事は不思議といやな感じがせずにとっても幸せな気分になれた。
自分達が途轍もなく掛け替えの無い事をしているかのような、大切な事をしているかのような気持ちになって心がとっても暖かな、満たされた思いでいっぱいになる。
(い、いけない。そんな事をしては・・・!!)
そう思いつつもアウロラは、自然と自分の股間に手を伸ばしては割れ目のビラビラの内側部分を軽く指でモゾモゾと弄(まさぐ)り、そのやや後ろ側にある、お尻に近い方の穴の中へと中指を、ちょっとだけ入れてみる事にした、すると途端に。
「んん・・・っ!!!」
アウロラから思わずくぐもった声が漏れるがそこはちょっとした圧迫感と言うより痛みがあって、あまり奥まで入れるのは恐かった為にそれ以上の挿入は避けたが、その代わりに今度は割れ目の上の付け根の部分でピンッと屹立しているお豆の部分を指で摘まんで捏ねくってみた。
その瞬間に。
「はああぁぁぁぁぁんっっっ❤❤❤❤❤」
甘い嬌声が少女の口から迸るモノの水に濡れていた事もあって少し痛痒かったけれどもしかし、だけどとっても気持ちの良い、電気ショックのような刺激がそこからは全身に走って行った、それは癖になりそうな快楽であり、アウロラは思わず暫くの間、蒼太の事を考えながらも夢中でそこを弄(いじ)くり回していたのだが、そうしている内にやがてー。
「ーーーっっ!!?・・・・・・・っっっ!!!!!あああっ?あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛・・・っ!!!」
何か大きな快感の波が押し寄せて来たかと思うと目の前がチカチカと明滅して身体が爪先からピンッとなり、頭の中や背筋がジーンと痺れる。
呼吸が徐々に小刻みになって身体がビクビクと震え出し、一頻り、それが続いた後で力が抜けて、気持ちがすっきりと爽やかになった、彼女は初めての拙い自慰で軽めのアクメに昇ったのであり、その衝撃に一人、打ち震えていたのである。
「はあっ、はあっ、はあっ。はあぁぁぁ・・・っ!!!はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
(な、なに?今のフワッとする感じ。蒼太さんの事を考えていて、夢中になっていたなら、それで・・・!!!)
半ば呆然となりながらも、それでも何とか呼吸を整え、もう一度身体を(主に股間を)洗い流すとアウロラはふやけてしまう前にシャワーを止めてバスルームを後にする。
その白くて滑らかな肢体と青色の煌びやかな髪の毛を高級バスタオルで拭き拭うとパンツを穿いてそのままお召し替えようのメイド達を呼び寄せるが、今日は彼女が主役なのである、それに相応しくドレスアップをしなければならなかった。
「あんまり厚くならないように、ナチュラル・メイクを施しますので・・・。勿論、指にもマニキュアを着けて・・・」
メイクアップ・アーティストの提案と指示でアウロラには薄らとした、ほんの僅かなメイクが施されて行き、そのショートボブな髪の毛にもシンプルなデザインのカジュアル・ティアラが装着された。
靴はこれまた、今回のドレスに合わせて新調されたパーティーシューズを履き熟しつつ準備は万端、後はパーティーの開始を待つだけとなった。
「やあ、アウロラ。綺麗だよ今日は。いや、いつもいつも可愛いが今日は飛び切り素敵だ、プリンセスになったかのようだ!!!」
「本当に眩しいわあなたは。太陽のような輝きを放っているわね?」
「お父様、どうも有り難う。お母様も・・・!!」
そんな両親からの賞賛に、アウロラは思わず照れ笑いを浮かべてはにかんだ、正直に言って今回のドレスは胸元が開いており、多少大人向けそれであったがメイクの施された、今の彼女の雰囲気は間違いなくそれにマッチしておりまだ8歳とは言えども見る者を魅了する。
「おわっ!?アウロラか、見違えたなぁっ!!」
「一瞬、お姫様かと思ったよ!!!」
「お兄様方も、どうも有り難う・・・」
続いて兄弟達からも賛美称揚の言葉がもたらされるが、それは確かにそれで嬉しかったのだけれども、しかし彼女が本当に喜んで欲しい人は、褒めて欲しい人は別にいた。
「・・・・・っ!!!!!」
もう直ぐだ、もう直ぐあの人が、蒼太さんが来てくれる、格好よく着飾った服を決め込み、プレゼントを抱えてその玄関から。
そう思うといてもたってもいられなくなってしまった、あの人は褒めてくれるだろうか、“綺麗”と言ってくれるだろうか、自分を認めてくれるであろうか。
一秒一秒が重苦しくて焦れったく、やけに長く感じてしまうしその上、徐々に緊張感と同時に、その小さな胸が高鳴って行った、時計を見ると今は午前8時半ちょうど。
お誕生日会は9時から始まる予定なので、あと30分しか余裕は無いが、しかし。
「・・・・・っ!!!!!」
(あああっ!?蒼太さんっ。蒼太さんは何をしているのかしらっ。今頃は屋敷の前にまで来ているのかしらっ、それとももう、門を潜ったあたりかしら?それとも今、まさに家を出た辺りかも・・・!!!)
アウロラの焦燥と不安と期待、そして緊張は留まる事無く加速して行き、鼓動が早く脈を打つ。
身体にも手にも、変な汗が浮かんできて心を落ち着かせようとするのだけれども、逆に却って気が急いてしまい、落ち着かなくなってしまった。
「ア、アウロラ・・・ッ!?」
「アウロラ、少し落ち着きなさい!!」
「・・・・・っ!!!!!」
高級スーツとパーティードレスに身を包んだ両親や兄弟姉妹達からも窘(たしな)められたり、呆れられたりするモノの、それでもアウロラは気が気でなくて、会場を、廊下を階段を、ウロウロし続けていた、そうこうしている間にも。
パーティーの準備は着々と進められて行った、大広間には家族以外にもヴィクトーやレオ等の親戚一同が集まって来てテーブルには大小様々な料理が並べられ、高級シャンパンやロマネ・コンティ、ピンクドンペリやジュース等が次々と運ばれて来た。
それらに加えてメイド達や執事、警備の者や庭師、そして料理を作ってくれるシェフやコック達自身が食べるモノや飲むモノ等も、これらとは別個に用意されており、要するに今回は全員でアウロラのバースデーを祝うのである。
しかし。
「・・・・・っっっ!!!!!」
(あああっ!!?あと15分!!)
アウロラが時計を見るが蒼太はまだ姿を現さない。
彼は時間に正確である、恐らくは今回も10分前~5分前くらいに来るつもりであろう、それは尊敬できるのであるがしかし。
(あああっ!!?蒼太さん、蒼太さんっ!!!早く会いたいっ、あってこの手を握って欲しいっ!!!)
そう思ってアウロラは思わず、あの“トワール館”での一幕を、思い返していたのであるがあの時、蒼太は何も言わずに黙って自然と自分の手を握り続けていてくれたのであり、その温かさと優しさと、そして何より確かさとが彼女の身に心に、そして魂へと染み渡って行ったのである。
(今日もこの手を取ってあの人は、私と踊ってくれるかしら?)
アウロラがそんな事を考えていると、遂にー。
「失礼致します・・・」
家令のモハメドが、一人の少年を連れてやって来た。
この日のためにと、清十郎達の(要するに庶民の)用意できうる最高級上下キッズスーツとシャツ、タイ、そして本革靴をお揃いで装着していた、綾壁蒼太その人である。
手には恐らくはプレゼントが入っているのであろう、包装紙とリボンで包まれている小箱を持参して来ていた。
「蒼太さんっ!!!」
「・・・・・っ!!?ア、アウロラか?ビックリしたよ!!!」
蒼太は殊更驚いていた、何しろそれだけ、その日の彼女の纏い放つ雰囲気と言うモノは、普段の見慣れているお嬢様と言うか、幼馴染のそれとは全く違っていたモノだったからだ。
ドレスこそ胸元の開いている、ややアダルティンなモノだったのだが化粧も髪飾りもグローブ等の出で立ちも、そして何より、その全体から醸し出されるオーラそのものが非常に気品のある、美しくて高貴なモノであったからだ。
「凄いよ、アウロラ。一瞬、真面目に帝室一家のプリンセスかと思ってしまった。そんな感じを受けるよ!!」
「そ、蒼太さん・・・!!!」
“有り難う”と多大なまでの喜びと同時に照れ臭さを覚えてアウロラは顔を真っ赤にしたまま俯き加減で何とかやっとそう応えた。
手には恐らくはプレゼントが入っているのであろう、包装紙とリボンで包まれている小箱を持参して来ていた。
「蒼太さんっ!!!」
「・・・・・っ!!?ア、アウロラか?ビックリしたよ!!!」
蒼太は殊更驚いていた、何しろそれだけ、その日の彼女の纏い放つ雰囲気と言うモノは、普段の見慣れているお嬢様と言うか、幼馴染のそれとは全く違っていたモノだったからだ。
ドレスこそ胸元の開いている、ややアダルティンなモノだったのだが化粧も髪飾りもグローブ等の出で立ちも、そして何より、その全体から醸し出されるオーラそのものが非常に気品のある、美しくて高貴なモノであったからだ。
「凄いよ、アウロラ。一瞬、真面目に帝室一家のプリンセスかと思ってしまった。そんな感じを受けるよ!!」
「そ、蒼太さん・・・!!!」
“有り難う”と多大なまでの喜びと同時に照れ臭さを覚えてアウロラは顔を真っ赤にしたまま俯き加減で何とかやっとそう応えた。
「今日は誘ってくれて有り難う、でも本当に良かったのかな?僕なんかがお邪魔しちゃっても・・・!!」
「全然、そんなことないです!!!」
とアウロラは慌てて頭(かぶり)を振った、“蒼太さんが来てくれた事が、何より嬉しい事なんですから!!”と、ここは本当の事を臆する事無く言い放つ。
「蒼太さんが来て下さらなければ、私、私っ。誕生日会を開く意味なんて御座いませんものっ!!!!!」
「えええぇぇぇぇぇ?」
“オーバーだよ、アウロラ”と最初は言おうと思っていた蒼太だったがしかし、途中で思い止まった、それだけこの少女の自分を見る目が真剣だったからである。
「・・・・・っっっ!!!!?」
「・・・・・っっっ!!!!!」
「まあまあ!!」
「おおっ!?蒼太君か!!」
”アウロラ、君は・・・!!”と蒼太が何事かを言い掛けた、その時だ、上階から階段を下ってエリオット伯爵本人とその夫人であるシャルロットが姿を現した。
「エリオット伯爵、それにシャルロット夫人!!!」
「堅苦しい挨拶は無しだよ、蒼太君。今日はゆっくりと楽しんで行ってくれたまえ!!!」
「この日のためにと私共の誇るシェフ達が、腕によりを掛けて料理を用意しましたからね、たんと召し上がって行ってね?」
「そうだとも、君には娘と遊んでもらっているばかりか、何度も助けてすらもらっているのだからね。今日はその恩返しも兼ねているのだから、存分に飲み食いしていってくれよ?一緒に娘のバースデーを、祝ってやってくれたまえ!!」
“本日はお招きにあやかりまして大変、光栄で御座います伯爵、夫人!!”と挨拶をして会釈を見せる蒼太に対してエリオット達は笑顔で応じて彼を持て成し、労った、エリオット達からすれば、蒼太には本当に、世話になりっ放しである、こんな時こそ細やかなりとは言えども彼を歓待してやりたかったのである。
「今回はちょっとした舞踏会も兼ねている、君にもし、ダンスの心得があるのであれば、後で気兼ねなくアウロラを誘ってやってくれたまえ、この子もまだそんなには踊れんが一通りは熟(こな)せる筈だ!!」
「正直に言って、まだ“デビュタント”には早すぎると思うのだけれども・・・。多分、聞いているとは思うのだけれども、この子は来年の春から6年の間、“修道院”へと向けて修業に行ってしまうのよ?だからせめて思い出をと思って・・・!!」
「よ、よろしくお願い致します・・・!!」
「・・・・・」
両親の言葉を受けてアウロラが、スッとドレスの裾を掴んで礼儀に則り会釈をするモノの、それを見た蒼太は“僕で良ければ、お相手しますよ”と此方(こちら)も礼節に則って返した、ダンス自体は同じ貴族でもあった(ついでに言えば同じく伯爵位を持っているダーヴィデ夫妻の娘である)メリアリアから、一通りは習っているし、彼女と何度となく踊りを踊っている、出来ない事は無いが、しかし。
(問題はアウロラをエスコート出来るかどうかだな)
と蒼太は思った、実際に彼はアウロラが踊りを舞っている姿を見た事が無かったし、二人の遊びの中でも話題には昇った事があったモノのアウロラが“ダンスは苦手なんです”と言っていた事から“この話題は禁句(タブー)だな”と思い、敢えて避けていたのであった。
だから彼本人としては今回は、隅っこで料理を幾らか啄ませてもらい、頃合いを見計らって帰宅しよう、等と考えていたモノの、こうなると勝手が違って来た、エリオット伯爵夫妻たっての願いとアウロラ本人の希望とあらば、決して無視して良い事柄などでは無い。
「まあもっとも。ダンスが始まるのは宴も酣(たけなわ)の頃に、それも今回はちょっとしたモノだからね、あんまり緊張せずに舞って欲しい」
「今回は、身内だけのバースデー・パーティーですから、何の遠慮も要りません、どうかご緩(ゆる)りと過ごして行ってちょうだいね?」
“その通りだ”とその言葉を受けてエリオットが続けた、“料理もたんとあるからね?”とそう言って。
「ありがとうございます、伯爵、シャルロット夫人・・・」
「うん、では私達はスピーチ等の準備があるから、一旦はこれで失礼するよ?」
「アウロラ?貴女にも後で簡単にスピーチをしてもらいますからね?もう8歳なのだから、それくらいは出来るでしょう?」
「あうぅぅ・・・!!」
とその言葉にアウロラは真っ赤になって俯いてしまい、項垂れてしまっていた、困惑気味に目を泳がせては唇を尖らせるがそれでもシャルロットからは“ダメですよ?”と釘を刺されていた、どうやら両親からの言いつけのようだ。
「アウロラ、頑張って!!」
エリオット達が行ってしまった後で、蒼太がアウロラに何気なく、しかし力強くソッと告げる。
「今の君なら、絶対に出来るよ。僕と喋るように喋れば、たったそれだけでいいんだから・・・!!」
「ううっ。そ、それは・・・!!」
「何なら、僕も一緒に登壇しようか?それなら大丈夫だろ?」
“それが出来たら苦労はしません”とでも言わんばかりの表情と言うか、瞳を見せて訴えて来るアウロラに、些か苦笑しつつも蒼太が告げるが今回のパーティーは身内だけと言うのだから、自分がアウロラの側に立ってもそれほど“なんだ?アイツは・・・”等と言う事にはなるまいと理解する。
それに友達が大の苦手を克服しようとしているのである、それに対して“頑張れ”等と言うのであれば、自分だってそれに見合うだけの応援をしてやらねばなるまいと、蒼太は考えていたのであった。
(勿論、それにだって限度ってモノはあるけれども・・・。側に立ってスピーチを促す位は良いだろう)
“そう言えば”とそこまで思い至った時に蒼太はふと思うことがあってアウロラに“内容は考えてあるの?”と耳打ちをするモノの、そもそも論としてそれが無ければ話にならず、もし“まだ考えられていない”と言うのであれば、今から急いで準備をしなくてはならなかったのだ。
「い、一応は考えてあるんですけれども・・・。だけど、なんて言いますか。その・・・!!」
“は、恥ずかしい、です・・・!!”とアウロラが応えるのを聞いた蒼太は“ちょっと見せて?”と頼み込んで、その原稿用紙を渡してもらうがそこには。
“本日は私(わたくし)の為にわざわざお越しいただきまして誠に有り難う御座います、精一杯のお持て成しをさせていただきますので皆様方におかれましてはどうか心行くまでお楽しみ下さい”と綺麗な字で書かれていた、これならば別に内容的な問題は、8歳の子供が書いたモノとしては全く以て存在しない。
「これをこの通りに言えば、全然問題無いじゃないか!!」
「ううっ。そ、それはそうなんですけれども・・・!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解った、解った!!”と蒼太は言った、“僕も一緒に登壇してあげるよ”と、“スピーチを言うのを手伝うよ”と、彼なりに背中を押してやる事を決意する。
「ほ、本当ですか?それならば・・・!!」
とそれを聞いたアウロラが、些かホッとした表情を見せるがそれを見る限りにおいてはどうやら彼女は真剣にこの問題で悩み抜いている様子であり、彼女にとっては最大の試練の一つだったのだろう、と言う事が、ヒシヒシと伝わって来る事案であるが、そうこうしている間にも。
テーブルには続々と、メインディッシュが運び込まれて来ていた、蒼太が何気なくみてみると、そこには。
シーザーサラダにフレンチポテト、極上フィレ肉のステーキに特製ローストビーフの塊、チキンの丸焼きに、マトンの丸焼き。
それにケーキだけでも焼きリンゴのタルトタタンに木苺のチョコレートケーキ、そしてブルーベリーのレアチーズケーキと3種類が用意されており、豪華絢爛な宴である事が、一発で伺い知れた。
外は太陽がその光りを放って強く眩しく照り付けており、内側ではシャンデリアは煌々と輝いていた、その下で人々は齷齪(あくせく)と動き回っており、期待はいやが上にも高まって行く。
パーティーまではあともう少しである、蒼太は改めて本日の予定を確認していた、その側ではドキドキと胸を高鳴らせながらアウロラが蒼太の腕にソッと腕を絡めて来る、・・・まるで不安で仕方が無い、とでも言うかのように。
「大丈夫さ、アウロラ」
蒼太はワザと明るく言った、“スピーチの時間なんて、実質10秒にも満たないよ”と、“それが終われば君はもう自由の身さ!!”と。
「スケジュールはもう、確認してあるかい?」
「え、ええと、あの。まずは父と母がスピーチをして、続いて私が挨拶をして・・・。それから誕生日会が始まります・・・!!」
「ああ、そうか。やっぱりスピーチから入るのか!!でもさアウロラ」
と蒼太は多分、これは間違いなく真実な事を彼女に告げるが、曰く“スピーチなんて多分、誰も聞いてないだろうから“と、だから“短ければ短いほどに、気が利いているモノなんだよ?”とそう言って彼女を勇気づける。
「校長先生の話なんて、誰も聞いてないだろ?」
「そ、それはそうですけど蒼太さん。ちょっとそれは言葉が過ぎます!!」
「でも事実なんだよ、アウロラだって眠たくなるんじゃないの?何てったってあれは一番、精神に作用する眠りの呪文だからね?」
「そ、それは・・・。まあそうですけど・・・!!」
「だからアウロラ頑張って?それに大事なのは言葉じゃないよ、何よりかにより、君が皆に伝えなきゃならないことは“来てくれて有り難う”、“今日はお祝いして行ってね?”って言う感謝と歓迎の心なんだから!!」
「こ、心・・・!?」
「そうだとも、良いかい?アウロラ。物事の本質って言うのはね?“心”そのものにあるんだよ?だから心が大事なんだから!!」
「心が、大事・・・!!」
「そう。まず気持ちや心がありきだよ、それがあれば言葉は短くても事足りるんだ、だからね?アウロラ。君のスピーチの内容は、言葉よりも心を重視するモノなんだと、僕は思っているよ!!だって君は苦手なスピーチでそれでも、皆をもてなそうとしているんだろ?それって“真心”そのものじゃないか、その現れだと思うんだけど!!」
「・・・・・っっっ!!!!!」
するとそれを聞いたアウロラは、照れたように下を向いて俯いてしまっていた、それを見た蒼太は“しまった”と思った、自分では励ましたつもりだったのが、逆効果になってしまったのかも知れない、等と考えていたのであるモノのしかし、実際にはその心配は杞憂だったのである。
否、それどころか。
「蒼太さんっ!!!」
アウロラはいつかのように感極まって堪らなくなり、蒼太に真正面から抱き着いて来た、自分がドレスアップをしているにも関わらず、人目も憚らずにいきなり飛び付いて来たのである。
「蒼太さん蒼太さん蒼太さんっっっ!!!!!」
「う、うわわわっ!?ち、ちょっとちょっと、アウロラ・・・ッ!!!!?」
蒼太は思わず驚愕した、だってアウロラはただ飛び付いて来ただけではなくて、その身をグイグイッと擦り寄せて来たのである。
「蒼太さん蒼太さん蒼太さんっっっっっ!!!!!!!」
「ア、アウロラちょっと。皆見てるから・・・!!」
「いやですっ、もう絶対に離しません!!!私のなんです、蒼太さんは私だけの男性(ひと)なんですからっっっっっ!!!!!!!」
そう言うとアウロラは、全身で蒼太を“もっと感じていたい”とでも言うかのように、その身を強く押し付けて来るモノの、蒼太はそれを腕を掴んで振り解くと一歩を引いて距離を取った。
「あああっ!?い、嫌あああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
アウロラは悲しそうにそう叫ぶともう一度蒼太に抱き着こうとするモノの、蒼太はそれを許さない。
「嫌ああぁぁぁっ。蒼太さん、蒼太さん蒼太さん蒼太さんっ!!!」
「ア、アウロラまずは落ち着いてっ?ねっ?皆見てるから・・・っ!!!」
迫り来るアウロラを蒼太が必死に宥(なだ)め賺(すか)して落ち着かせつつも彼女の沈静化を図る、と言った事象が二人の間で繰り広げられていたモノの、そんな彼等が衆人達からの注目を集めながらも激しく縺(もつ)れ合っていると。
「皆様方、大変長らくお待たせ致しました!!!」
場内にアナウンスが掛かり、カーテンが閉められて照明が消される。
その直後に照らし出された壇上の上でエリオットとシャルロットとが簡潔に挨拶を行っていった。
「ア、アウロラ、ほら次っ。君の番だよ!?」
「むうううぅぅぅぅぅっ!!!!!」
蒼太からもたらされたその言葉に、アウロラはそれでも不服そうにプクーッと膨れて見せるモノの、流石に自身の熟(こな)すべき役割がある上に、皆の目の前でとあっては蒼太だけに意識を集中する事が出来ない事に加えて、更に言うのならばその結果として思う存分睦事を繰り広げる訳にも行かずにこの青髪の清楚な少女は渋々、登壇する事を決めては壇上へと向けて歩を進めようと意識する。
(もう・・・っ!!!ですが流石にお父様達の目の前でこんな事は出来ませんし、それに皆さんもパーティーを心待ちにして下さっておられるのですっ。自分勝手は出来ません・・・!!)
「蒼太さん・・・!!」
「は、はいっ。なに?」
「この後・・・。よろしければ一緒にダンスを踊っていただけますか?」
「それくらい、構わないよ。僕で良ければ相手になろう!!」
「・・・・・っ。よかった!!!」
とアウロラは思わずホッとした顔を見せて漸(ようや)く表情を綻(ほころ)ばせた、舞踏会で蒼太にダンスの相手をしてもらうことは、彼女の夢の一つであったからである。
「では蒼太さん、壇上までエスコートをお願いします・・・!!」
「うん、解った!!」
“行こう、アウロラ!!”と告げると蒼太は自然と彼女の横に立ち並び、その左手を差し出して来た。
「・・・・・っっっ!!!!!」
その手を取るとアウロラは次に、“これ位は良いでしょう?”とでも言わんばかりに蒼太の腕へとしがみ付き、腕に腕を絡ませるモノの、もう時間も無かった為に蒼太はそのまま彼女を連れたって壇上への道を歩き始めた、パーティーは今、始まったばかりである。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「いーい?蒼太。物事の本質って言うのはね、ズバリ“心”にこそあるんだから!!だから心を強く持ちなさい?常に清く正しい精神を持つの!!」
byメリアリア
そしてそれから3年後。
「良いかい?アウロラ。物事の本質って言うのはね?“心”そのものにあるんだよ?だから心が大事なんだから」
「何よりかにより、君が皆に伝えなきゃならないことは“今日は来てくれて有り難う”、“皆でお祝いして行ってね?”って言う感謝と歓迎の心なんだから!!」
成長したね、蒼太君。
またこれは既に、第50話並びに第58話において、“メリアリアちゃんの蒼太君への気持ち”及び“彼女の持つ凄絶さ、覚悟”の中で言及が為されていますが。
これはアウロラちゃんにも同じ事が言えますけれどもこの時、まだ8歳の彼女は既にハッキリとした恋慕の情を蒼太君に対して抱いています(そしてそれが原因で“性”そのものにも目覚めています)、しかもその上。
更に蒼太君の事を考えるとそれだけで、“自分でも抑えが効かない位にまで自分で自分をどうにかしてしまいそうになる程の、確かで比類無き衝動”と言うのを心の底の底の底、その更に奥深き部分から覚えて悶絶するのですが皆様方、それが何を意味するのかお解りですか?
そうです、まだまだ未熟であり、またそのレベルも“1”と言った所ですけれどもこの時点で彼女は既に、蒼太君に対してハッキリとした“愛情”をも抱き始めているのです。
それは例えるのならば“感情を超えた感情”であり、それと同時に“この人の為ならば”とどんな無茶苦茶な事でも成し遂げてしまう程にまで、実行に移そうとしてしまう程にまで自分を突き動かそうとする、まさに純粋にして比類無き、想像を絶する思いの丈です(例えばメリアリアちゃんはだから、蒼太君が8歳になった春休み直前の時期に“エルヴスヘイム”へと召喚された時に、“彼が行方不明になった”と聞いて心配の余りに大人達に任せるだけにせずに、いつも彼と遊んでいた“ルテティアの森”を自身で捜索したりしました←蒼太君が道に迷ってしまったのかも知れない、そこに居るのかも知れない、と思ったら、いてもたってもいられなくなってしまったんですね)。
メリアリアちゃんもアウロラちゃんも、まだ8、9歳になったばかりの年端も行かない少女の内から彼に対して既にそれらをハッキリと抱いてしまっているのです(女の子って凄いですよね?そしてとっても恐いです←でもね?男の子だって憖(なまじ)っかな事じゃ、生きていけないんですよ、半端な覚悟じゃ務まらないんです)。
敬具。
ハイパーキャノン。
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