星降る国の恋と愛

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ガリア帝国編

アウロラ・フォンティーヌ編4

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 やっぱり幼馴染との冒険モノって、思い出を語る上で鉄板モノじゃ無いですか、皆で協力し合って危険を乗り越える、試練を乗り越える。

 ましてやそれが、気になっている男の子や女の子と一緒だったとしたら、尚更。

 たった一度だけでも物凄いインパクトになりますよね?凄い掛け替えの無いモノになると思うんですよ。

 皆様も小さい時にありませんでしたか?友達や知人や、少し気になっている男の子や女の子と探検ごっこをした記憶が。

 私が育った所は程よく田舎で程よく都会な所でした(ですから、ちょっと歩けば山があり、川がありました。ザリガニ取りや蛍観賞、どんと焼や探検ごっこ、神社での夏祭り等、本当に色んな事をして皆で遊んだモノです←小さな頃って本当に、男性も女性も関係ないんですよ、~君、~ちゃん、ただそれだけの認識なんです)、←他にも男子はゲーム機(“スーパーマリオ”だとか“ドラゴンクエスト”等)で遊んでいましたし、女の子は“セーラームーン”とか“赤頭巾チャチャ”、他には“金魚注意報”なんかを見ていたのですが。

 それにしても小さな頃の記憶って、なんであんなに幻想的なんでしょうかね?(もしかして都会に住んでいた方々には、解っていただけないのかも知れませんが、知り合いの男子なんかに聞くと)例えば“ドラゴンクエスト”なんかをやっている時等はだから、どっかで世界が繋がっているような気がしていたそうです(“幻想の世界”って言うんですか?そう言う意味でも凄いドキドキ感があったそうです)。

 田舎に住んでいると、自然が直ぐ側にあるのです、だから“冒険の世界”が本当に、直ぐ側にあるような気分になって(と言うよりも本当に、直ぐ側にあったのです、ちょっと恐い話をしますと“心霊スポット”なんかもありましたよ←10キロ程離れた所にありました、戦国時代に北条と武田の激戦地だった場所らしいです)、つまりはあの当時の男の子達にとっては“ドラゴンクエスト”の世界と言うのは多分、自分達の現実と地続きだったんです。

 また女の子達も夢を見ていました、“セーラームーン”や“赤頭巾チャチャ”のような、可憐で美しいヒロインになりたいと(で、タキシード仮面様のような華麗にして颯爽と登場しては助けてくれる、クールな男性との出会いに憧れたモノです)。

 後は全体的には、都会に憧れていましたね、きっと皆凄くクールで決まっているんだろうなぁ、綺麗で近代的で美しい街並みが、何処までも広がっているんだろうなぁ、と言うように、何かにつけては夢が見れる場所だったんです。

 今はそう言う所って、もう無いのでしょうか。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 遂に。

 運命の夜はやって来た、居待月の金曜日、夜は10時半である。

 この日ー、蒼太達にとっては待ち焦がれた日であると同時に忘れられない日ともなったが、予(かね)てからの予定通りに夜11時にアウロラを迎えに行った蒼太はその足で二人揃って“ルテティア東駅”の駅前ロータリー、タクシー乗り場へと足を向けた。

 ちなみに出立に当たって蒼太は、今回の事はわざとメリアリアには知らせなかった、何より彼女を危険な目には遭わせたく無かったしそれに、今回の作戦立案から決行までは日が無かった為に“予定が合わないかも知れない”とも思っていたからだったのである。

 もっとも。

(メリーの事だもの。言えば無理をしてでも付いて来てくれたかも知れないけれど・・・)

 無論、アウロラの事だって同様である、“無事に屋敷まで送り届けてあげたい”、“何があっても守り抜くんだ!!!”とは考えていたモノの彼女の場合は今回の事件の当事者として自分の直ぐ側にいて一連の話を聞いており、その中で“自分も行きたい”と言う確固たる意思を持っていた事とエルフ王から授けられた聖剣である“ナレク・アレスフィア”の導きから同行する事を許可したのだが、それは最早彼個人の願いや思惑を大きく超えた場所にある、“運命の奔流の為せる業”であったと言えた。

 一方で。

 そんな事を考えてその為、用心に用心を重ねて準備を整えて来た蒼太の姿を一目見たアウロラは思わずギョッとしてしまっていた、自分はハンカチ、水筒、ティッシュに傷薬、絆創膏と、それとスマートフォンだけだと言うのに蒼太と来たらいつも持ち歩いている特注のベースケースに同じくらい、大きなナップザックを抱えて持って来ていた、中身はハンカチ、ティッシュに傷薬、絆創膏等のエチケット用品に、水筒二つと懐中電灯、汗ふき用のタオル、脂取り紙、そして何に使うのかは知らないけれど、律儀に筆記用具までをも持参して来てしまっている。

 一応、二人でどちらが何を持ってくるのか、と言う事に関しては事前に取り決めをしておいた、にも関わらずに、必需品だけでは飽き足らずに謎の用具までをも取り揃えて持って来てしまう蒼太の用意周到さと言うか、変な生真面目さ言うモノに、流石のアウロラも目を白黒させてしまい、困惑してしまったのだった。

「・・・・・」

「い、いや。ほら、あれさ?何かあった時の為にね・・・?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “ぷ・・・っ!!”とアウロラは思わず、吹き出してしまっていた、“あははははははっ!!”とそう笑って。

「お、おかしいです、蒼太さん。どうしてノートとペンまで持って来るんですか!?」

「い、いやぁっ。なんて言うかほらっ!!こう言う時ってなんだかさ、筆記用具を持ってくるべき的な感じってしない?」

「し、しませんよ!?そんな感じっ!!ぷっくくくくくっ、あっはははははははっ!!!」

 涙が出るまで泣き笑い咽ぶとアウロラはようやく落ち着いて、“本日はよろしくお願いします”と何とか言った、お陰で肩の力を抜くことが出来た、何にせよ物事を始める前に笑顔になった、と言うのは縁起が良いことこの上ない。

「じ、じゃあ、まあ。とにかく行こっか!?」

「は、はいっ!!」

 そう言うと蒼太とアウロラはまずは、タクシーを選ぶ事から始めなくてはならなかった、勿論、もっと言ってしまうのならば、その運転手を選ぶ事から始めなくてはならないのだが、その基準となるのが真面目すぎず、かと言ってあざとすぎずになるたけ人の良さそうな人を選ぶこと、これであったが。

「あ、あれだ・・・!!」

 蒼太は言ってアウロラの手を引いては歩き出した、目指すのはロータリーの三番目に停泊していたタクシーであり、このドライバーの人相や雰囲気等が、蒼太達の探し求めていた人材にピッタリと合う気がしたのである。

「・・・・・?」

「おじさん、“フォンテーヌブロー宮殿”までお願い!!」

 “コンコン”と扉をノックされてはそれを開けて、お客の顔を確認に掛かったその中年ドライバーは度肝を抜かれた、それは無理も無いだろう、まだ年端も行かない少年と少女の子供のペアだったのだから。

「・・・・・っ。こんな時間にか?子供達だけで?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「連れて行ってやっても良いが、何をしに行くんだい?」

「・・・・・っ!!!」

「魔女を、やっつけにいくのさ!!!」

「あっははははははははっ!!!」

 そう言われて、答に窮してしまうアウロラに変わって蒼太が(嘘を付いても仕方が無いので)大真面目に答えると、中年のドライバーは大笑いしてそう応じた。

「ひょっとして“トワールおばさん”かい?おじさんが小さい頃なんかも、良く探検しに行ったなぁっ!!!」

「お願いします!!!どうしても行かなくちゃ行けないんです!!!」

「お、お願い・・・、します・・・!!」

 蒼太に続いてアウロラまでもが、出来る限りに声を振り絞って請願するモノの、ドライバーはいい顔をしない。

「だけどな坊や、お嬢ちゃん。こんな夜更けに子供二人のせて何かあったらおじさん、後悔してもし尽くせねぇや、悪いけど降りて帰りなよ、お父ちゃんやお母ちゃんが待ってるんだろう?」

「おじさん、お願い!!今日じゃ無きゃ行けないんだ、知り合いが魔女に食べられちゃうかも知れないんだ!!」

「お、お願い、します・・・」

「うーん・・・」

 するとドライバーは難しそうな顔をして、聞いで来た、“今幾ら持ってるんだい?”とそう告げて。

「全部で4800ユーロあるよ、これで何とか連れて行って欲しいんだけど!!」

「うーん・・・!!」

 “まあいいか”と暫しの間思考した後、ドライバーはそう答えていた、“普段ならお断りだが、おじさんも今月苦しくてね”とそう告げて。

「良いよ、連れて行ってやる。ただし帰りはどうなるかは解らないぜ?」

「うん、いいよ。取り敢えず行ければ良いから!!」

「よっしゃ、決まりだな!!」

 そう言うとドライバーはサイドブレーキをオフにしてギアをドライブに入れ、ハンドルを操作し始めた、目指すはルテティアの南東65キロの距離にある、フォンテーヌブロー宮殿、その背後に広がる大森林だ、“皇室一家の散策や狩猟の為の庭”としての側面と、自然区域保護の観点からここは普段から立ち入れる時間帯が制限されているために当然、こんな闇夜の時刻に入るためには忍び込むしか方法は無い。

 それについては蒼太には心得があった、とは言ってもあんまり褒められたモノでは無いが、その程度の身体能力とフック付きロープ等の備えはあって、後はアウロラを抱えて鉄製フェンスを攀じ登り、障壁を突破しさえすればそれで事は足りたのだ。

 夜半過ぎの道は空いているかと思ったが、そんな事は決して無かった、彼方此方で鳴り響く、けたたましいクラクションの数々に数え切れないほどのヘッドライトの群れ、群れ、群れ。

 確かにルテティア自体は大都会ではあったけれども、それにしたって一体、この街のどこにこんなに人が居るのか、と思うほどの人並みで街中はごった返していたのであるが、しかし。

 そこから一歩でも足を伸ばすともう、そこは夜の漆黒の闇の中だった、車窓の外は真っ暗であり、まるで墨か何かを被せたみたいにどこまでもどこまでも、夜の帳が垂れ落ちていた。

 やがてー。

「ほら、着いたぞ?坊主、お嬢ちゃん。ここが“フォンテーヌブロー宮殿”だ!!」

 そう言われて蒼太達が窓から外を見るとそこには、夜の闇の中に佇む厳かな宮殿が見えてきた、普段は一般公開されているここはしかし、今でも皇帝一家が避暑や休暇に訪れる城館であり、その警護は極めて厳重である。

 噂によれば、“ハイ・ウィザード達の呪(まじな)い”が掛けられているらしくて、それに違わずこの宮殿全体からは物凄いまでの力を感じる、とても中には入れそうにない。

 しかし。

(“森”の方には。特にそう言うのは無いな・・・!!)

 蒼太が素早く見て取るモノのしかし、宮殿の方には全く感じる事の出来ない不思議な、ともすれば、どこか禍々しい雰囲気が森の奥から漂い溢れて来るのが解り、昼間とは全く様相が違っていた、ハッキリと言って“異界”であり間違っても一般人が足を踏み入れても良い場所等では、断じて無かった。

「じゃあな、坊や。後は気を付けて探せよ!!」

「うん。有り難う、おじさん!!」

「ど、どうも。有り難う御座いました・・・!!」

 そう言ってドライバーに別れを告げると蒼太達は早速にして、フォンテーヌブロー宮殿の後方にある、“フォンテーヌブローの森”へと向かった、出入り口は案の定、完全に閉鎖されており、ロープを使って忍び込むしか無い。

「・・・・・」

(警報装置の類いは・・・。やっぱり付いて無いみたいだな!!)

 蒼太が周囲を見渡してみても、その手の類いのモノは、どうやら設置されてはいない模様である、それはそうだろう、皇帝一家がやって来ている間だけは警備は厳重になるであろうが普段は別に、取られるモノとて何も無い、平凡な森の筈なのだから、わざわざ税金を投入してでも警報装置を付ける理由が、当たり前だが全く以て存在してはいなかったのである。

「・・・行くよ、アウロラ!!」

「は、はい・・・っ!!」

 蒼太はそう言うと、リュックとベースケースを肩に担いで、フック付きロープをヒュンヒュンと片手で回転させるとフェンスの尖っている先端部分に器用に引っ掛けてはアウロラに“おいで?”と合図を送る。

 それに応える形で歩み寄って来たアウロラに“僕に掴まって?”と背中を差し出して背負う学校をすると、アウロラが首筋に手を回しては身体をピッタリと寄せて来た。

(甘い・・・!!)

 蒼太は思わず、そう思ってしまったモノの、先日の昼間も感じた事だが女の子ってどうしてこんなにも、甘ったるい香りがするのだろうか。

 これが男だと、如何にデオドラントに気を遣っている存在であったとしても、どうしても脂っこさと言うべきか、特有の“生臭さ”がしてしまうモノなのであるが、女の子の場合はそうでは無かった、全身が芯から甘い匂いで満たされており、そう言った“身体の臭い”と言うのが全くしないのだ(長時間、汗を掻き続けている場合は流石に話は別だが)。

 その吐く息からしてそうだったモノの、その温もりを背中で感じて吐息が鼻腔を擽った瞬間、蒼太は初めてアウロラの事も“女の子なんだな”と認識した、それと同時に。

 “やっぱり連れてくるべきでは無かったのでは無かろうか”とも思ったのだが、事ここに至ってもう遅かった、今更“一人でここで待ってて”等とはそれこそ不用心すぎて、口が裂けても言えなかったし第一、“ナレク・アレスフィア”は彼女の、アウロラの力を必要としている、それに何よりかによりの話としては、本人が“行きたい”と言っているのである、置いて行く理由は無かった。

「ちゃんと、掴まっててね?」

「は、はい・・・っ!!」

 背中に彼女の体温と、その柔らかな感触とを感じつつも蒼太は平常心を保ったままで、スルスルとロープを昇って行った、そしてー。

 反対側までやって来ると、そのまま事も無げに着地をして森林内への侵入に成功したのである。

「アウロラ、手を離さないで!!」

「は、はい・・・!!」

「それからお互いに、何か異変があったら直ぐに知らせる事。頼りにしてるよ!?アウロラ!!」

「・・・・・っ。は、はい蒼太さん」

 “私、頑張ります!!”と告げるアウロラに笑顔で頷くと蒼太は二人で手を繋いだまま、夜の公園の中を懐中電灯を片手に進み始めて行ったのだ。

「はあっ、はあっ。はあっ、はあ・・・っ!!」

「・・・・・っ!!」

 途中までは、まだ良かった人の手の入っている、整理された森林内の道を歩いているだけで済んだからだ、しかし。

 途中からは様相が違っていた、あの泉に出るためには自然がそのままのこされている、凸凹(でこぼこ)とした場所を通り過ぎなければならないのであり、そこには出っ張った巨木の根っこや剥き出しの大岩、そして地形の段差等が当たり前のように連続していて、アウロラの体力を容赦なく奪っていった。

 特に。

「きゃあっ!!!」

 キーッ、キキッ。キイィィッ!!

 バサバサバサバサ・・・ッ。

 昼間とは違って足下も覚束無いのに加え、夜行性の動物達が彼方此方に出没しては彼女を心底驚かせて行ったのである。

「大丈夫?アウロラ・・・」

「はあっ、はあ・・・っ!!は、はいっ。大丈夫です・・・っ!!」

「本当にそう?少し歩くペース、落とそっか」

「はあっ、はあっ!!そ、そんなこと・・・。大丈夫ですから・・・!!」

「気にしなくて良いって、二人で頑張ろう?ね?」

 そう言うと蒼太は“ちょっと一休みしよっか?”と言っては近くにある、木の根っこに腰を下ろして、“アウロラもおいでよ”と彼女を誘った。

「はあっ、はあ・・・っ!!は、はいっ。ごめんなさい・・・」

 それに応えるようにして、アウロラは荒く息を付きつつも蒼太の横にちょこんと座り、先ず持っては乱れてしまった呼吸を整える事から始めて行った。

「はあっ、はあっ。はあっ、はあぁぁぁ・・・っ!!」

「お水、飲む?アウロラ・・・」

「はあっ、はあ・・・っ!!ご、ごめんなさい。でも私・・・!!」

「大丈夫だよ。僕、こんな時の為にね、水筒二つを持って来て置いたんだ!!」

「そ、そんなっ。それなら・・・っ!!」

「ごめん。でもアウロラのお家で準備してもらったなら、確実に見付かっちゃうと思ったんだ、君のお家ってモハメドさんとかメイドさんとか、いっぱいいるじゃない?だからさ・・・」

 “気にしないで・・・?”と言ってはステンレス製のコンパクトな水筒を差し出してくる蒼太の優しさに感謝をしつつも、アウロラは自分が迂闊だった事を恥じた。

 そうだった、蒼太は既に“実戦”を経験しているのであり、その延長線上として一つの事件を解決に導いているのである、だから準備や気遣い、心配りに抜かりがあろう筈も無かった、それよりもなによりも正直に言って、浮かれていたのは自分の方では無かったか。

 蒼太と一緒に冒険が出来る、二人で夜の森を探検しに行く、と言う事に心を躍らせていたのは自分の方だったのでは無かったかと、ここに来て急に自省と自戒の念が沸き上がって来ると同時にそれと反比例するかのように自信が無くなって来てしまっていた。

(ど、どうしようっ。私、もしかしたら私、蒼太さんにとんでもないお願いをしてしまったんじゃ・・・!!)

 それに、とアウロラは正直に思った、“こんな事ならば、例え父に怒られても良いから素直に話しておくべきだった”と、“そうすれば自分は元よりこの少年の事だって、危険に巻き込まずにすんだのに”と、今更ながら後悔と共に自責の念とが込み上げて来たのだ、それでー。

「ウ、ウウッ。ヒッグ、グスッ。ウエェェ・・・ッ!!」

「ど、どうしたのさ?アウロラ!!」

 突然の事に驚き戸惑う蒼太に対してアウロラは“ごめんなさい、ごめんなさい”と何度も何度も詫び続けた、そして謝罪しながら涙を流して嗚咽を漏らし続けたのである、自分の不注意と軽い気持ちがこの少年を、事もあろうに“自分にとっての大切な人”を後戻りの出来ない危険な世界へと誘う結果となってしまったと言う事実に、堪えようも無いほどの申し訳なさと罪深さを感じてどうしようもなくなってしまったのだ。

「ウエェェ、グスッ、ヒグッ。ご、ごめんな、さいっ。ごめんな、さい・・・っ!!!」

「・・・・・」

 “アウロラ”と、そんな泣きじゃくる少女に対して蒼太は優しく言い放った、“君のせいじゃ、無いんだよ?”とそう告げて。

「君は、何にも悪いことなんてしていないよ、だって僕が勝手でやった事なんだから。君は何にもやっていないじゃないか、だからね?君は何にも泣かなくたって良いんだよ?」

「ウエェェ、グスッ。ウェッ、うええぇぇぇ~んっ!!!!!」

 アウロラは、泣いた、思わず横から蒼太にしっかりと抱き着いたままで、泣いて、泣いて、泣き濡れた。

 蒼太に対する申し訳なさと贖罪の念、そしてー。

 そんな自分をそれでも優しく暖かく、迎えてくれた少年の優しさへの感激と感動。

 それら全てが一緒くたになって襲い掛かって来ては、少女に堪えきれない程の慟哭をもたらして、声を挙げては泣きじゃくらせた。

 やがてー。

「ヒッグ、グスウゥゥッ!!ヒック、ヒック・・・ッ!!!」

「落ち着いた?」

「うう、グス・・・ッ!!は、はいっ。もう、大丈夫、です・・・っ!!!」

「うん、良かった。はい、お水!!」

 何とか自分を落ち着かせるモノの、すると泣いと喉が嗄れたせいもあってかアウロラは余計に渇きを覚えて蒼太が差し出してくれた水筒を“有り難う、御座います”と言いつつ受け取ると、“ゴクゴクゴク・・・”と喉を鳴らして中の水を飲み込み始めた。

 水筒は、冷たく冷えており中には氷が入っているのだろう“カランカラン”と音がする。

「ゴク、ゴク、ゴク、ゴク・・・ッ。ぷはぁっ!!はあ、はあっ!!あ、有り難う御座います蒼太さん、とっても美味しいですっ!!」

「良かった、僕もちょっと、飲もっかな・・・!!」

 そう言うと蒼太は自分ももう一本、持ってきていたステンレス製の水筒の飲み口を開けて中の水を飲み干して行く。

「んぐ、んぐ、んぐ・・・っ。はぁ、やっぱり喉が渇いていると、美味いよね?」

「え、ええっ。凄く美味しかったです!!」

「まだ残ってるでしょ?しまっておくから貸して?」

「い、いいえっ。大丈夫です!!」

 すると水筒を元のバッグに入れようと手を差し出した蒼太に対してアウロラが“自分で、持ちますから!!”と言っては肩からそれを掛けてしまう。

「ええっ?でも・・・」

「平気です、これくらい。私にだって持てます!!」

 アウロラはそう言っては自分でしっかりと水筒を、肩から提(さ)げて見せた、これは、自分の命を繋ぐモノなんだ、だったら何でもかんでも蒼太任せにしてはいけない、自分で出来る事は自分でしなければ、とアウロラは考えたのである。

 蒼太にばかり、何でもかんでもやらせてはいけない、と。

「大丈夫だよ、アウロラ。僕、そんなに弱くないよ?」

「いいえ、平気です。私がちゃんと持ちますから!!」

「いや、でもさ・・・」

「大丈夫です!!

「いや、だけど・・・」

「平気ですから!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “ぷ・・・っ!!”と蒼太は思わず笑ってしまった、アウロラがこんなに強情だとは思わずにおり、それが故に笑みがこぼれてしまったのだ。

(まるで、メリーといるみたいだっ!!!)

「あっはははははははっ!!!!!」

「も、もうっ。何がおかしいんですかっ!!?」

 とアウロラが思わずほっぺたをプクーッと膨らませて怒りを露わにするモノの、その表情がまた可愛くて蒼太はいつまでも笑い続けてしまったのである。

「も、もうっ、蒼太さんたらっ。笑いすぎですっ!!!」

「あっはははっ、ごめんごめん。アウロラも強情なんだな、と思ってさ!!」

「も、もうっ。そんな事ありませんっ!!!」

 “行きますよ!?”とアウロラは告げると憤懣やるかたない、と言う表情でその場でスクッと立ち上がると、泉を目指して歩き出そうとするモノの、そこへー。

「アウロラ」

 蒼太が、声を掛けてきた、その声には明るさと軽快さが混じっており、彼も大分、今の笑いで気分が解れた事を意味していた。

「・・・・っ。何ですか?蒼太さん!!」

「頑張ろう?」

「・・・・・?」

「僕もね、正直に言うと恐いんだよ」

 蒼太が、言った。

「エルヴスヘイムに行って、冒険をして、否応なしに戦闘に巻き込まれて。正直もう、ウンザリだったんだ、冒険なんて、懲り懲りだと思ってた・・・」

「・・・・・」

「でも、君が冒険に誘った。勿論、君はそんなつもりは無かったんだろうけれども、だけどあの時点で君が正直にエリオットさんに話をしていたら、君はきっと滅茶苦茶怒られたと思うよ?」

「ううっ。そ、それは・・・っ。まあ、そうでしょうけど・・・」

「君さ、ひょっとして最初、一人でここに来るつもりだっただろ?」

「・・・・・っ!!!!!」

 蒼太から告げられたその言葉に、アウロラはハッとなった、そうだったのである、いや実際にはその言葉は、間違いなくそうなっていただろう、核心を突かれたモノだったからだ、それというのもー。

 あの時、兄が行方不明になったと聞かされた瞬間、アウロラの頭の中には確かに、その考えが浮かんだ事があった、そして恐らくはー。

 自分だったらその後、結局はいてもたっても居られなくなって多分、兄を捜しに黙ってここまで来ていただろうとアウロラはある程度、予期めいたモノを感じていたのであったがそれを見事に蒼太によって言い当てられてしまっていたのだ。

「あうぅぅ・・・」

「・・・・・」

(やっぱりな・・・!!)

 一方で蒼太は、そんなアウロラの態度を見つつも自分の指摘が間違っていないと知るなや否や、呆れると同時に驚愕していた、全く何と言う芯の強さと言うか、向こう見ずと言うか、とんでもないお転婆なお嬢様である。

「それがあったから、君の事を放っておけなくてね。それで一緒に行く事にしたんだよ・・・!!」

「そ、蒼太さん・・・」

「だからさ、アウロラ。頑張ろうよ」

 蒼太は、言った、“頑張ってお兄さんを助けようよ”とそう言って。

「きっとマクシムも待ってるよ、彼の事だから、こんな時でもお腹を空かせているんだろうね!!」

「・・・・・っ。ぷぷっ、そうですね!!」

「それでさ。僕達の事を見たなら、“有り難う”って言いながら、“腹が減った”とか言うに違いないよ!!!」

「あははっ、お兄様らしいですわ!!!」

「だからさ、あの腹ペコ貴族を救ってあげなきゃ。でもその為には、君の力がいる・・・!!」

「わ、私の・・・っ!!」

「そうだ」

 そう言って頷く蒼太に対して、アウロラは些か以上に困惑していた、正直言って自分などは、いても足手纏いにしかならないのでは無いか?と思っていた、彼女はそれでも、“自分に何か出来る事があれば”、“蒼太の力になりたい!!”と言う一念でここまで来ていたのであるモノの、それなのに。

「君の力が、必要なんだよ。アウロラ!!」

「で、でも私っ。私なんかが・・・っ!!」

「君は。君達は僕に“勇気”をくれる・・・!!」

「・・・・・っ!!!!!」

 “だから力を貸しておくれよ?”と頭を下げる蒼太に対してアウロラは最初、呆然としてしまい、次に立ち竦んだままで、照れ始めてしまっていた、俄(にわか)には信じられなかった、いつも助けてもらっていたのは、勇気をもらって励まされていたのは、寧(むし)ろ自分の方だったのである、それなのに。

「だからこれからもよろしくね?アウロラ・・・!!」

「・・・・・っ!!!!!はいっ!!」

「・・・うん」

 “じゃあ、行こうか!!”と告げる少年に、笑顔で“はいっ!!”と応えると、アウロラは彼の後にくっ付いたまま、例の“泉”を目指して再び歩き出し始めて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 蒼太君に勇気をくれる“君達”とは誰と誰と誰の事でしょう(皆様方ならばもう既に、お解りかと存じますが)?←それは追々、明らかとなって行くと思われます。

                   敬具。

             ハイパーキャノン。
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