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ガリア帝国編
アウロラ・フォンティーヌ編3
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読者の皆様方こんにちは、ハイパーキャノンと申します。
いつもいつも小説を読んで下さいまして、誠に有り難う御座います。
皆様方の御声援、御愛顧、大変励みになっております。
今回私が出て来させていただきましたのには、とある訳が御座います。
それというのはこのお話しに対する説明をさせていただきたい、との思いから一筆認めさせていただきました、どうか最後までお付き合い下さいませ。
今回のお話しなのですが、申し訳御座いません、もしかしたなら読んで下さった皆様方に「???」、「だからなんなの?」と言う内容、仕上がりになってしまっている可能性があるのです(要するに“いまいち盛り上がりに欠けるな”と言う状態になってしまっている可能性がある、と言う事なのです)。
ただこれには、自分自身で制約を課した上で作り上げた物語だった、その上でこう言う形となった、と言う事でございますのを御理解いただきたいのです、それと申しますのは。
まず第一に、アウロラちゃんはまだ、蒼太君に対する自分の恋心、愛情と言うモノをハッキリと自覚しておりません(なんと申せば良いのでしょうか、自分を壊したくなるほどにどうしようもない何か、と申しますか、彼を猛烈に求めてしまう衝動のようなモノはあるのですが、ではそれが一体なんなのか、と言うことがまだ、自分の中で昇華されていないのです)←だから感極まった際に、事ある毎に彼に抱き着いてしまうのです、そう言う風にしか“好き”と言う気持ちを表せないのです(この辺りはメリアリアちゃんも一緒なのですけれども、アウロラちゃんはメリアリアちゃんよりも更に3歳年下なので、まだ自分で自分の思いを理解して、受け止め切れないんですね)。
本来、メリアリアちゃんもアウロラも、物凄い情熱的な女の子です、蒼太君に対する、熱烈なまでの真愛と激情を抱いています(特にメリアリアちゃんは第32話におきまして、蒼太君と再会した時に、人目も憚らずに抱き着いて号泣していましたよね?それだけ深い愛情を、蒼太君へと抱いている子なんです)←第50話と第129話でも同じです、蒼太君への愛が深すぎる故に、そしてその思いが真剣なモノであるが故にその苦悩が一層、凄絶なモノになってしまうんですよ、自分で自分を雁字搦(がんじがら)めにしてしまうというか、許せなくなってしまうんです、それで結果として考え過ぎになってしまうんですね(でも彼女自身は本当に真剣に悩んでいるんです、しかもメリアリアちゃんはそう言った大事な部分で絶対に、妥協や誤魔化しと言ったモノを一切しません、自分自身に対してさえも、許さない子なんです)。
そしてあともう一つなんですが、メリアリアちゃんは本当に真面目で優しい子なんです、だからこそ余計に色々と悩んで苦しんでしまうんです(ちなみにメリアリアちゃんはそんな自分自身の事を“面倒臭い女だ、私は”と思っているんです、だけど一方で、蒼太君はそんな風には感じていません、彼女が凄い純粋で優しくて、そしてそれ故に真面目だからこそそう言う風になってしまうのだ、と言うことを彼は知っているのです、つまりは彼女を完璧に理解して受け入れているのですね、そしてその事をメリアリアちゃんも知っています、だから愛しい人に受け入れてもらえている事が嬉しくて嬉しくて堪らなくなり、有り難くて有り難くてどうしようもなくなって、そしてそう言う彼に対する喜びもあって蒼太君に対しての、これ以上無い程に強固で絶対的なまでの純正なる愛を、凄絶なまでの熱慕の情を魂の底の底から彼に抱いているのです、彼に誓っているのです)。
ちなみにアウロラちゃんも同様です(メリアリアちゃんと100%同一、同質なモノではありませんが、彼女なりの悩み、苦しみはやはり持っているのです)、今後、そう言った葛藤する姿や凄く一途で情熱的な姿が出て来ます←特に結ばれてからは凄いです。
第二点目に、皆様方に蒼太君とアウロラちゃんの会話の様子を見ていただきたかったのです(単に“二人は様々な事柄を話し合った”でお終いにするのでは無く、具体的なやり取りの様子、流れをお届けしたかったのです)、と言うのはこの物語を読んで下さっておられる、読者の皆様方には周知の事実かとは思われますが、アウロラちゃんは元々、凄く引っ込み思案で内気でシャイな女の子でした、だから話す時も“ボソボソッ”と言う感じで、俯き加減で話すような子だったのですが、それが蒼太君と出会って少しずつ変わって行きました、少しずつ自我と言うのが出て来始めて自分の言いたい事を、ハッキリと伝える事が、物怖じしないで伝える事が出来るようになって来たんですね(“物怖じしている場合じゃ無い”と、覚悟を決めて話すようにしている内に、段々と勢いが着いて来て、それでようやく会話にも慣れてきた、と言いますか、自信を持って話せるようになって来た、と言うわけですね)。
だったらもう少し、会話の内容を何とかしろよ、盛り上がるように工夫しろ、と言う皆様方のお叱りが聞こえて来る感じがいたしますが、これについては確かに、反省しなければならないポイントかと思います、もっとテンポ良く、かつダイナミックな会話がお届けできるように、また解りやすくて面白い会話がお届けできるように頑張りたいと思います、大変申し訳御座いませんでした(あともう少し、“アウロラちゃんとのイチャイチャが見たい!!”と思われている方もおらっしゃられるとは思いますが、このパートが終わるまでお待ち下さい)。
第三点目が、このお話が日常パートから冒険パートに移り変わって行く為の、ターニング・ポイントとなるお話しであり、動と静の内で、まさに“静”の極まったお話しであった、と言う事です(つまりは次回の話へと繋げる為の、ちょったとした“謎解きパート”だった訳です)、そんな訳ですので、盛り上がりには欠けるかとは思いますけれども、極めて重要な、どうしても無くてはならないお話しではあったのです(ちなみに物語は次回から一気に動き始めます、またアウロラちゃんの求愛行動もちょっとずつ過激になって行きます)←もう一つ、どうして最初はアウロラちゃんの高い魔法力が検出されなかったのか、と言う事に対する答も出て来ると思います。
敬具。
ハイパーキャノン。
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「マクシムが、消えたって!?」
「ど、どうしようっ。どうしたら良いでしょう!!私・・・っ!!」
「ち、ちょっとアウロラ、落ち着いて。解るように説明して・・・!!」
3月の下旬の月曜日の夜に、泣きじゃくりながらスマートフォンに電話をしてきた青髪の少女の話を聞きながら、蒼太は何とか状況を把握、整理し始めていたのだが、それによると。
実はマクシムはあの後も、何度か“フォンテーヌブロー宮殿の森”にまで、足を運んでいたらしかった、アウロラがハッキリと知っているだけで二回はあったと言い、“もしかしてそうかも”と言うモノまで含めると六回にも昇ると言うが、しかし。
「もしかして、人攫いにでも掠われたのかも!!ああっ!?私は心配で心配で・・・っ!!」
「アウロラ、少し落ち着いて。確かマクシムはフェンシングを習っていたよね?」
「はい、“サーブル”を嗜(たしな)んでおりました。魔法もそれなりに扱えますし、不意打ちをされたのでは無ければ、そうそう簡単にはやられません!!!」
「・・・・・」
(大抵の相手って言うのは、不意打ちをしてくるモノなんだよ。アウロラ・・・!!)
とエルヴスヘイムで曲がり形にも数多の冒険と戦闘とを潜り抜けて来た蒼太は、それを言おうと思ったのだが止めた、流石に罠を仕掛けるだとか、人質を取って待ち伏せをする、等と言った薄汚い手を使うヤツこそいなかったけれども、今後の展開次第ではそう言った事も、出て来るかも知れなかったのだが、しかし。
「取り敢えずは、だよ?つまり真面(まとも)に戦ったのなら、マクシムはそう簡単にはやられたりはしない、そう言う事だよね?アウロラ・・・」
「・・・・・っ。は、はいっ。そうです!!」
その言葉にアウロラが力強く頷いて応えるモノの、そうなると話は三つに搾られる、不意打ちを喰らったのか、それとも相手がマクシムよりも手練れだったのか、或いはその両方かのどれかである。
しかし。
「マクシムは、人やモノの気配を感じることは出来たのかい?」
「え、ええと・・・。それなりに出来たと思います!!」
「じゃあ夜目はどう?つまり暗いところでもちゃんとそれなりに、どこに何があるのかは認識出来たのかな?」
「そ、それは・・・っ。多分、懐中電灯を使えば、何とか・・・!!」
「ううーん・・・」
蒼太は唸ってしまった、それなら夜目が効く、とは言い難い事になるのであり、暗闇の中でライトを翳(かざ)しながら歩いていたのでは、恰好の的になるだけだったであろう事は、容易に想像が付く事態であった。
そうすると例えば、相手が複数であった場合、如何に“サーブル”の心得があったとしても衆寡敵せず、先回りされて待ち伏せを受け、その結果として苦も無く捕らえられてしまったとしても、頷ける話しではあった。
ただし。
「問題は、どこで彼がいなくなったのか、だよなぁ。でも君の話から推測するに、きっと夜中に“フォンテーヌブロー宮殿の森”に探索に行っていたんだろうね」
「ま、まさか・・・っ!!」
それを聞いたアウロラが突然、怯えたような声色で告げた。
「“トワールおばさん”に掴まっちゃったんじゃ・・・」
「ううーん・・・」
とそれを聞いた蒼太はまた、唸り声を挙げてしまった、正直に言って彼には“トワールおばさん”なる存在が現実にいるのかどうかは、現時点では判別が付かないのであるモノの、しかし“エルヴスヘイム”の先例がある以上、それは“無い”とは言い切れないのであったが、それでも。
「現実的にいるかどうか解らない相手よりもまずは、確実性の高い事から焦点を当てて考えようよ、アウロラ・・・」
「うぅ、グス・・・ッ。は、はい。済みません・・・!!」
今や殆ど完全に、どもり癖の直った(と言ってもまだこの時点では、蒼太や身内に対してだけだったが)アウロラは、嗚咽を漏らしながらも何とかそう答えた。
「大事に、なっているだろうね・・・。でもニュースとかで報道は、為されていない様子だけれども・・・!!」
「はい、あの・・・お父様が“内緒にしておけ”って。お母様も・・・!!」
「・・・・・!!」
“そっか、それで!!”と蒼太は唸るが道理で表沙汰にはならない筈である、どうやらエリオット伯爵は内々に手を回しては事件を解決するつもりらしい。
「だけど、でも。こんな話をした所で誰に信じてもらえるんだろう・・・」
蒼太は唸るが、まさか噂の真偽を確かめる為に息子が夜な夜な“フォンテーヌブロー宮殿の森”にまで行っていました、等と知ったらエリオット伯爵はぶっ飛んでしまうだろうし、それに今からそんな事を言ったりしたら、恐らくアウロラは激怒されるだろう、“どうして自分達にもっと早くに相談をしなかったのか!?”と。
「この事を知っているのは、誰と誰?」
「グスッ、ヒグ・・・ッ!!は、はい。私と蒼太さんだけです・・・っ!!」
「・・・・・」
蒼太は、途方に暮れてしまった、本当はもう、冒険なんかしたくなかった、戦闘なんて懲り懲りだった、エルヴスヘイムでのそれは、目を覆いたくなるような悲惨さの連続であり、想像を絶するような苦しみの累積だった、またそんな事をしなければならないのかと思うと思わず背中に悪寒が奔って身震いが起きてしまうが、だけど。
「・・・教えてくれよ、アウロラ。マクシムはあの夜も、いなくなった日の夜も、森へと向かって行ったのか?」
「うぅ・・・。う、うん、はい。多分、そうです・・・。夜中に、屋敷の扉が開く音がしたから・・・!!」
「いなくなったのって、いつだったっけ?」
「はい、あの・・・。今から二日前の。・・・多分夜中、です」
「二日前って言うと、“十三夜”だよなぁ・・・!!」
「・・・・・?」
「“月齢”の事だよ、お月様の形のこと!!」
「十三夜・・・?ああっ!!」
それでアウロラは思い出した、トワールおばさんの、あの歌の事を。
「綺麗な三日月の影の影、それがポッカリ浮かぶ夜。ミミズクの鳴く場所で、魔法の館の扉は開く。・・・でも一昨日は十三夜・・・!!」
「そう、“三日月”じゃあ無いんだよね・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“月は、関係無いのでしょうか?”と口にするアウロラに、蒼太は“違う”と頭(かぶり)を振った、“関係ない事が、流行歌として伝わる訳は無いよ”と。
「どう言う事なのか、一度現地を確認しに行った方が良いな、ただし昼間にだ!!」
「そ、蒼太さん・・・?」
「明後日、水曜日には学校の授業が早くに終わるんだ、そしたら僕は“フォンテーヌブロー宮殿の森”にまで足を伸ばしてみるよ、その日だったら一日、予定は無いしね、久々のオフの日だから・・・!!」
「だ、だったら!!」
「・・・・・?」
「私も、一緒に行きます!!」
「えええっ!!?き、君も・・・?」
「あうぅぅ・・・っ。お、お邪魔でしょうか・・・?」
「い、いやぁ。そんな事は無いけれども・・・。でも危険だよ?もし本当に“トワールおばさん”みたいな存在がいたとしたなら、どうするのさ。それより僕が一人で行って来るから、もし僕に何かあったらその時には皆にこの事を伝えてよ、お願い!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解りました”と蒼太からのその言葉を受けて、アウロラもそれ以上は強くは言えなくなってしまった、それに確かにもし、蒼太に何かあったのならば、事情を知っているのは自分だけになってしまうために、無理を言うことは出来なかった。
「でも、何か解ったら連絡して下さい。それは絶対にお願いします!!」
「ああ、解ったよ。必ずね!!」
そう言うと蒼太は連絡を切って直ちにフォンテーヌブロー宮殿への行き方を調べに掛かった、ルテティアの郊外にあるここへは、電車やバスを使えば一時間もあれば行ける距離であり、オートバイを使えば気軽に行って帰って来る位は造作も無い所である、しかし。
(僕らの足だと、遠いなあ・・・!!)
そう言って蒼太は今現在、自分の財布の中にある金銭を確認し始めるモノの、彼はお小遣いを月に一五〇〇ユーロ程もらっており、そこから差し引いても充分に、行って帰って来る事が出来たのだ。
(でも仕方が無いよね、このままじゃアウロラが、エリオット伯爵に怒られてしまうもの!!)
“それに”と蒼太は思った、“マクシムの事も気掛かりだ”と、“早く何とかしてあげなくてはいけない”と。
“急げ、急ぐんだ!!”と彼の直感が告げていた、すっかりやる気になった蒼太は急いで二階にある、自分の部屋へと向かうとそこに立て掛けてあった秘剣“ナレク・アレスフィア”を鞘から抜き放っては綺麗に掃除し始めるモノの、こうやって真剣を弄くっている間は本当に気が研ぎ澄まされて来て、充実して来るのが感じられて、彼には好きな時間だったのだが、その内にもう一度、スマートフォンが鳴り響いた、今度もアウロラからだったので、何かと思って出てみると、“やはり自分も行きたい”と言う、丁重にお断りしようとすると、“さっきまで軽かったナレク・アレスフィア”が急に重く感じるようになった、普段ならば手に吸い付いて来る感覚なのに、持っているのが億劫と言うか、苦痛に感じられてしまい、気が滅入ってしまうが、ここで蒼太はある一つの事を思い返していた。
それは大賢者団の長老でもある、“生ける伝説”こと“アルヴィン・ノア”から告げられた言葉だったのであるが、彼曰く“どんな時でもこの剣を持ち歩きなさい”、“君を守ってくれるだろう”との事だったのである。
その剣が重くなった、と言うことは、手に吸い付かなくなった、と言うことはつまり、現状を拒否している、と言う事であると、蒼太は見抜いていた、つまりこれはだから、“アウロラを一緒に連れて行け!!”と言う事を意味するのだと、彼は瞬時にそう読み解いたのである。
「私も、その日は学校が早くに終わりますから。“ドライブに行きたい”と言えばフォンテーヌブロー宮殿位にならば、爺やが連れて行ってくれます!!」
「うーん、そっか・・・」
“それに”とアウロラが続けて言った、“万が一の場合に備えて、家に手紙を残しておくので大丈夫です!!”とそう告げて。
「だからお願いします、一緒に連れて行って下さい!!一緒に行きたいんです!!」
「・・・・・」
蒼太は少しの間、逡巡した、正直に言って彼女を連れて行く事が、正解なのは良く解っていた、ただし自分は必ずしも納得が、行っている訳では無かったのだった、いざ戦闘にでもなったらどうするのか、自分にこの子を守って戦えるだけの力なんてあるのだろうかと、それだけが心配なのである。
自分は生きて帰れるか、この子を生かして帰してあげられるのか、と。
しかし。
「解ったよ」
暫しの沈黙の後に、蒼太は結局はそう頷いていた、アルヴィン・ノアの言った通りならば、この剣(ナレク・アレスフィア)が自分を守ってくれるとするのならば。
やはりアウロラの力は必要なのだろう、とそう思った、それにこの剣には“魔を討ち払い、幸運をもたらしてくれる力がある”と言う、もしそうであるとするのならば、自分が不幸になるような事はー即ち、自分が助かったとしてもアウロラにもしもの事が起きるような事は、間違ってもありはしないだろう、と踏んだのである。
「ただし危険な事になるのかも知れないよ?それでも良いかい?」
「はいっ、構いませんっ。その・・・」
「・・・・・?」
「いえ、あの。だから・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“な、なんでもありません”と、何やらゴニョゴニョと曰った後で取り敢えずはそう告げるモノの、本当はこの時、彼女はこう答えていたのである“蒼太さんと、いっしょだったら”と。
「そうなの?じゃあまあ、とにかくよろしく頼むよ!!」
「は、はいっ。どうかよろしくお願い致しますっ!!・・・そ、それでっ。あの・・・」
「・・・・・?」
「どちらで、待ち合わせ致しましょうか?」
「ああっ!!」
蒼太が呻いた、それはそうだろう、待ち合わせ場所を決めておかなければそもそも落ち合える道理は無かった。
「それじゃあ・・・。“ルテティア東駅”はどうかな?ここなら僕らの学校にも近いし、目立つ場所だから迷いようも無いしね。君も解りやすいだろ?」
「は、はいっ。そこなら北駅とならんで良く散歩に言ったりもしますので、良く解っています、安心です!!」
「良かった、それじゃね?そこに2時に待ち合わせでどう?」
「はい、解りました!!それではその時間にお伺いさせていただきますから!!」
「うん、またね。それじゃあ!!」
「はい、また・・・っ!!」
そう言うとその日は電話を切って装備品の確認と荷物の整理に取り掛かった、先程までは違和感を覚える程の重々しさを放っていた秘剣は気が付くと、まるで“それでいいぞ”とでも言うかのように元の軽さと手に馴染む感覚を取り戻しており蒼太を否が応にも勇気付けた。
明けて火曜日は、朝から晩まで鍛錬と勉学に励んで明け暮れ、そしていよいよ水曜日がやって来た、この日は学校が早くに終わる日であり、メリアリアを始めとして、他の人との予定は一切無かったから、彼は一日フリーである、アウロラも予定をキッチリと明けて放課後に備えていたが、果たして。
「蒼太さん!!」
「アウロラ!!」
学校が終わって放課後に、背中に特注のベースケースに入れている、“ナレク・アレスフィア”を背負った彼が約束通りに“ルテティア東駅”へと向かうとそこにはリムジンに乗っている、アウロラの姿があった。
「あ、改めて見ると・・・。良いのかな?僕、こんな凄いのに乗せてもらって・・・!!」
「全然構いません、蒼太さんなら大丈夫ですっ。父も母も、蒼太さんの事は信頼していますからっ!!」
「う、うん。じゃあ・・・!!」
“お邪魔します・・・!!”と言って爺やさんに明けてもらったドアから車内に乗り込むとアウロラが席へと誘ってくれた。
メリアリアもバラの花糖蜜のような甘い高貴な香りがするが、アウロラからは綺麗に咲き乱れる花々の、実にフローラルなそれが漂って来ては蒼太の鼻腔を擽った。
「もし。危なくなったなら、今日はすぐに帰るからね?それでいい?」
「はい、それでいいです!!」
乗り込んでからヒソヒソ声で話していると、車の扉がバタンと閉じられ、爺やが前方にある運転席へと乗り込んだ。
ここからフォンテーヌブロー宮殿までは車で50分~1時間程の距離である、道中は空いており、移り飛んで行く景色を見ながら蒼太はしかし、あることに思いを寄せていた。
それは。
(どうしてだろう?どうしてマクシムは失踪してしまったのだろうか?本当に人攫いなのか?それともまさか、本当に“トワールおばさん”の仕業なのか?だとしても、一体何故だ?一昨日は十三夜で間違っても三日月の日じゃない、それなのにマクシムは連れ去られた、一体、どうして・・・?)
疑問はそれだけでは無かった、あの流行歌にある“綺麗な三日月の影の影がポッカリ浮かぶ、ミミズクの鳴く場所”とは何なのだろうと、彼なりに頭を悩ませた。
(三日月の、影の影?影の影は、光か?いいや、それなら普通に三日月そのモノを歌えば良いはずだ、敢えて“影の影”と謳っているのだから、そこに何かの謎はある・・・)
或いはマクシムは、その謎を解いたのかも知れなかった、そしてそのままー。
“トワールの魔法館”へと迷い込んでしまったのかも知れなかったのである、・・・招かざる、突然の来訪者として。
一体、どう言う事なのだろうかと、考えを巡らせている蒼太の横ではアウロラが、そんな彼の事をウットリとした眼差しで見つめ続けていた、彼女は素直に格好いいと思っていた、窓ガラスに映っている蒼太の顔もだが時々、前を向いて思案に耽る蒼太の真剣そのものの表情は、頼もしくて鋭くて、まさに男のそれだったのだ。
自分とは、たった一つしか違わないのに、本当に強くて凄い人なんだと、本当に勇敢な戦士なんだと意識せずにはいられなくて、それがしてアウロラを余計にドキドキさせる要因となっていたのである。
やがてー。
車はフォンテーヌブロー宮殿へと到着しては、そこの駐車場の一角へと停車した、“なるべく早くに帰って来ますから!!”と告げるとアウロラは蒼太共々、フォンテーヌブロー宮殿の裏手に広がる大森林へと手を繋いで分け入って行ったのであるモノの、そこはわざとそうしているのであろう、殆ど手付かずの原生林が何処までも広がっていて、足下は凸凹(でこぼこ)としていて泥濘んでおり、これでは多少の心得がある程度の腕前でしかないのであるのならば、間違っても心置きなく戦闘が出来る状態等では無いことが、一目瞭然に解ってしまう。
ましてやマクシムが来たであろう時刻は夜中なのだ、辺りは漆黒の闇に包まれており、木々が鬱蒼としていて見通しも悪かったであろうから、尚のことそうだっただろう。
「はあっ、はあ・・・っ!!け、結構大変な森ですね・・・!!」
「うん、足下に気を付けないとね・・・。って言うかアウロラ、大丈夫?疲れているのならば少し、休もうか?」
「はあっ、はあ・・・っ!!だ、大丈夫です、これ位・・・っ!!ああ・・・っ!!」
「おっと!!」
言った側から出っ張っている木の根っこに足を取られて転びそうになる青髪の少女を“大丈夫!?”と言って蒼太が素早く抱き支えるモノの、アウロラは改めて彼の身体に触れてみて、その逞しさに驚いてしまっていた、凄く熱くてゴツゴツしていて硬くって、そこから沸き上がって来るかのような力強い確かさに満ち溢れていたのである。
(こ、これが。男の子の身体なんだ・・・っ!!)
服の上からでもハッキリと解るほどの筋肉の盛り上がりと質量に、アウロラは胸がドキマギとして鼓動が早くなって来るのをハッキリと感じていた。
一方で。
「大丈夫?アウロラ・・・」
「・・・・・っ。は、はい、大丈夫です」
そう尋ねられてアウロラが反射的に応えるモノの、蒼太は超然と言うか、平然としたモノだった、自分と違って長いベースケースを背負っている、と言うのにも関わらず、彼は呼吸が乱れていない所か汗一つとして掻いてはいない。
体力や身体の練り上げの差が、ハッキリと如実に現れて来ていたのだが、しかし。
「ゴメンね、アウロラ。もうちょっと奥まで行ってみたいんだけれども、頑張れる?」
「はあっ、はあ・・・っ!!へ、平気です・・・!!」
「・・・うん、じゃあ頑張ろっか!!」
そう言うとー。
蒼太はスッと手を差し伸べてくれたので、アウロラは一も二も無くそれに掴まった、その手はあの日のように温かくて厚みがあって、握るととっても安らいだのだ。
「もう少し行けば、泉があるよ?そこで少し休憩しよう?」
「はあっ、はあ・・・っ!!ご、ごめんなさい・・・っ!!」
「謝らなくてもいいよ。ってかこんなに自然が深くて険しいなんて、僕だって思わなかったもの!!」
「はあっ、はあ・・・っ!!ひ、人が入る所ならばっ。まだ何とかなっているんですけれどっ!!」
「うん、そう言うところはちゃんと整備がされているからね・・・!!あ、ほら。彼処(あそこ)が泉だよ?あの畔(ほとり)で休もうよ」
「はあっ、はあ・・・っ!!す、すみません・・・!!」
そう言うと蒼太はアウロラを連れたって、その泉の淵へと降り立って行った、そこは水辺なだけあって他と比べて涼しい上に、地形的に木々の間を吹き抜けて行く風がぶつかり合う場所らしくて火照った身体に丁度良い塩梅の風気が保たれていたのだ。
「大丈夫?アウロラ。お水、飲む?」
「はあっ、はあ・・・っ!!で、でも。蒼太さんのは・・・?」
「僕は平気だから、少しだけでも、飲んでおきなよ」
「はあっ、はあ・・・っ!!あ、有り難う御座います、ごめんなさい・・・!!」
そう言うとアウロラは差し出された水筒の水をゴクゴクと喉を鳴らして飲み込んで行く。
蒼太はそれを見て“美味しそうにのむ子だなぁ”と半ば感心してしまうが、それと同時に。
この森の持つ、不思議な気配を感じていた、と言うのはアウロラの言葉では無いモノの、人の手が入っている場所では別段、如何という事は無かったのであるモノの、どうもそこから外れて自然のままに放置されている場所まで来てからずっと、誰かに見られているかのような気がしては、仕方が無かったのである。
それに・・・。
(何だろう?この場所から僅かだけど魔法の気配のようなモノを感じる。それもなんか、別の世界から漏れ溢れて来るかのような。一体、何なんだろう、これは・・・!!)
「あ、あの。蒼太さん・・・!!」
「どうしたの?アウロラ・・・」
「あの・・・。お水、全部飲んじゃって・・・!!」
「ああ、別にいいよそんなの。僕が進めたんだしさ・・・!!!」
「それで、蒼太さん。あの・・・」
「・・・・・?」
「私、恐いです。なんかさっきから、ずっと誰かに見られている気がして・・・!!」
「・・・アウロラもそう言うの、解るの!?」
「ええ・・・っ?じゃあ、蒼太さんもっ!!?」
アウロラが驚くモノの、何の訓練も積んでいないだろうにこの子はそう言う事が解る子なんだ、と。
(多分、一種の“霊感”と言うか。そう言う感性の鋭い子なんだろうな・・・!!)
「それに、なんて言うか。この場所からは不思議な力を感じるんです。何か異世界に通じているかのような力って言うか、感覚って言うか・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!!」
その言葉に蒼太はまた、ビックリとしてしまっていた、自分が今し方感じ取った事をこの子は、ピタリといい当てたからである。
「・・・・・っ。それ、何時から感じていた?」
「あの、その・・・。この森に、入った時から・・・」
「・・・・・っ!!」
蒼太はそれを聞いてまたビックリすると同時にやはり、ここにこそ、何某かのヒントが隠されていると直感した、この場所が“トワールの魔法館”への入り口なのであろうか。
しかし。
「綺麗な三日月の影の影、それがポッカリ浮かぶ夜。ミミズクの鳴く場所で魔法館の扉は開く。ここがその場所なのかなぁ・・・!?」
「・・・・・」
蒼太が呻いて見たモノの、答えが見つかる分けでも無くて、畔に張り出した木の根に座り、宙を仰いで深い息を吐き出すモノの、そんな二人に暫くの間、静寂と休息の時が訪れた、聞こえてくるのは木々のざわめき、小鳥の囀(さえず)り、時折波立つ泉の水音、ただそれだけである。
それらの只中で蒼太はずっと考えていた、三日月の影の影とはなんなのか、それがポッカリ浮かぶ夜とは一体、いつを言うのだろうか、そしてミミズクの鳴く場所とは?
この辺りがどうも焦臭(きなくさ)い、とは思うモノの、ではそれが何故なのか、どうしたら“バーズ・トワールの魔法館”へと至れるのか、と言う事に関してはまだ、答が見出せずにいたのだった、その時だ。
「わあああっ!!!」
「どうしたの?」
アウロラが俄に騒ぎ始めて泉の中央を指差すモノの、そこには天空に昇る太陽の姿が揺れる水面(みなも)に映し出されてゆらゆらと揺らめいていた。
「さっき、凄かったんですよ?水面に風が当たって、掻き乱されて。そしたら太陽の光が辺り一面に散らばって行って・・・」
「ああ、そっか・・・っ。ところでアウロラ」
「・・・・・?」
「今日は一旦、帰ろっか?特に収穫も無かったし・・・」
「えええ・・・っ!!!ど、どう言うことでしょうか・・・!?」
「まあまあ、いいからいいから。取り敢えずちょっとこっちに来て・・・!!」
そう言うと蒼太は何気ない風を装っては起き上がると、アウロラを連れて、いそいそと元来た道を戻り始めた、心なしかその手は汗ばみ、緊張しているのか、先程までと比べると身体には力が入っているように感じられる。
「そ、蒼太さんっ。どうしたんですか!?」
「・・・・・っ!!!」
アウロラの声も気にせず蒼太はただただ、彼女の手を引いては元の場所への道を急ぐが、やがて漸く人の気配がし始めると同時に、あの自分達に纏わり付いていた、“誰かに見られているような感覚”がしなくなった、それを確認すると。
蒼太はアウロラに言い聞かせた、“凄いよアウロラ”と。
「君は、トワール館への道を解く為の、ヒントをくれたんだ!!」
「!?!?!?!?、わ、私が・・・!?」
「うん」
何のことだか良く解らずに、驚きキョトンとするアウロラに対して蒼太が告げるがまずは“三日月の影の影”と言うワードについての説明から彼は入った。
「いいかい?アウロラ。まず“三日月の影の影”って言うのは、あれは三日月そのものを指し示す言葉じゃあ、無いんだよ!!その逆さ!!」
「・・・逆?」
「そう、逆だよ!!」
蒼太は言う、“あれは十三夜の事なんだよ!!”と。
「ええ・・・っ!?で、でも十三夜は三日月でも何でも無くて・・・!!」
「“影の部分”だよ」
蒼太は言った、“十三夜の月の影の部分はちょうど三日月の形になるんだ”とそう告げて。
「“十三夜の月の形”を思い返してごらん?影の部分が三日月の形になっているのが解るでしょ?」
「・・・・・っ。ああっ!?」
“そう言えば”とアウロラが頷くモノの、確かに十三夜の月の影になっている部分はちょうど三日月の形をしており、まさに“三日月の影”のフレーズには当て嵌まる、しかし。
「じゃあでも・・・。その“影”って言うのは、一体全体・・・?」
「水だよ、アウロラ。水面に映った月の事さ!!」
蒼太が説明を続けるモノの、昔から“水面に映る世界”とは“死者の世界である”と言う認識が、世界各国にはあるのであり、それが故に日本でもあの世の事を“泉下”等と呼び現すのである。
即ちそれはこの世の影であり、つまり綺麗な三日月の影の影がポッカリと浮かぶ、と言うのは十三夜の夜に泉に月が浮かぶ様子を示しているのだ。
「ええっ!?で、でもじゃあ。その“泉”って言うのは・・・!!」
「さっきの泉の事さ、多分ね!?ただ問題はそれだけじゃあ無いんだよ!!」
「えと・・・。確か・・・!!」
蒼太の言葉に、アウロラが頷いて応じた。
「歌には確か、“ミミズクの鳴く場所で”ってありましたよね?その場所って言うのは?」
「僕もうっかりしていたんだけど・・・。“ミミズク”って言うのはフクロウの中でも“羽角”がある種類の事なんだよ、ほら。あの眉毛の部分が出っ張っている種類のフクロウっているだろ?アイツらの事なんだ!!」
「・・・・・っ。じゃあ十三夜の夜に、その子達が鳴く場所で待ち構えていれば!!」
「多分、トワール館への道が現れるんだろうね。そしてマクシムはそれを見付けてしまったんだよ、それで中に迷い込んでしまったんだ!!」
「そ、そんな・・・っ。じゃあ兄は・・・っ!!!」
「それはまだ、解らない!!」
“でも!!”と蒼太は力強く言い切った。
「お兄さんは多分、まだ無事だと思うよ?何かされたりはしていないと思う!!」
「どうしてそんな事が・・・!!あの、それよりも。じゃあ何でここまで戻って来たのです?彼処で話してくれていたって・・・!!」
「いいや、ダメだったんだよアウロラ」
「どうしてですかっ!?だって兄が・・・っ!!」
「“トワールおばさん”が、聞いていたからだ!!」
「・・・・・っ!!!!!」
その話に、アウロラは思わずゾッとしてしまった、蒼太はそれを見越した上で、自分達をあの場所から連れて逃げて来てくれたのである。
「さっきから、誰かに見られているような気がしていただろ?多分、あれが“トワールおばさん”本人なんだと思うんだ、僕達が自分達の館の近くにまで来たので“何事か”と思って出て来たんだろうね、危ない所だったよ!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「あのまま彼処で謎解きをしていたのならば、どうなっていたのか解らないよ。いや、もしかしたなら本当は、僕達が近付いた途端に自分達の世界へと連れて行こうとしていたのかも知れないんだ、だけどそれが出来なかった・・・!!」
「・・・・・」
「僕の持っているこの剣はね?“魔を討ち払う霊力”があるんだ、守り刀なんだよ。それに加えて多分、君だ!!」
「えええっ!!?わ、私ですか・・・!!?」
「うん、これも多分なんだけど。アウロラ、君には不思議な力があるんだ、“高い霊力”とでも言えば良いのかも知れないけれども、とにかく何となく、雰囲気や波動の力の高貴さが僕の幼馴染の女の子に似ているんだ、だから多分、手が出せなかったんだと思う!!」
“そしてだからこそ”、と蒼太は続けた、“マクシムはまだ無事でいてくれると思うよ?”とそう告げて。
「君達には何かしら、特別な血の力っていうのかな?強力な守護があるんだろうね、だからマクシムも、手を出されてはいないはずだし、それにだからこそ、その場所に捕らわれて助けを希っている子供達の必死の訴えが、彼に届いたのかも知れないよ?」
「・・・・・」
アウロラはそれを聞くと“そう言えば・・・”と一人思い返していた、今よりももっと幼い時分に父がしてくれていた話を頭の中で反芻していたのでたある、曰く。
“我が家には代々、神様から授けられし秘宝がある”との事だったのであり、それと同時に“神様から一族代々に至るまでの、祝福を賜っているのだよ?”との事だったのである。
・・・そしてそれは“誰にも言ってはいけない”と。
「王子様にも、言っちゃいけないの・・・」
「うん。その王子様が、家に婿養子に来てくれるのならいいんだけどねぇ~!!」
「・・・・・?」
「ううーん、アウロラにはまだ、難しかったかなぁっ!!」
小さな自分を膝に乗せながらも、エリオットがそんな話をしてくれていたのであるが、それがこんな所で意味を持って繋がって来るなんて。
「・・・・・」
「問題は次の十三夜まで、1ヶ月も待たなきゃいけない事なんだけれども・・・。他に何か、方々は無いかなぁ・・・」
1ヶ月。
その時間は途方もなく長く、絶望的に遠い、1週間や2週間程度の短期的な期間ならばともかくとしても、それだけの長い間、兄が無事でいてくれると言う保証は流石に無かった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“ああっ!?”と蒼太は明るい表情で短く叫んだ、“あるよアウロラ!!”とそう告げて。
「アウロラ、“居待月”って知ってる?」
「イマチヅキ?」
「そう、居待月。月齢で十八日のお月様の事さ!!」
蒼太がそう言って、月の画像をスマートフォンでアウロラに見せた、すると。
「ああっ!?」
アウロラも思わず叫んでいた、その月は確かに、影の部分が三日月の形になっており、それは即ち。
「明後日の、金曜日の夜がこの月が出る日なんだけど・・・。この夜は、魔法館への扉が開く、後はミミズクの場所さえ掴めれば、万事解決と言うわけさ!!」
「す、凄いっ!!」
「う、うわっ!?」
そう叫んで次の瞬間、アウロラは思わず蒼太に抱き着いていた、“凄いです蒼太さん、格好良すぎですっ!!”とそう言って。
「ち、ちょっと、アウロラ。ち、近い、近いって・・・!!」
「あ・・・っ!!」
“皆見てるから・・・!!”と告げる蒼太の言葉にハッとなって辺りを見渡すと、そこには家族連れや友達と一緒に森林浴に来ている人々がいて、“クスクス”と笑いながら此方を見ていた。
「あ、あうっ。あうぅ・・・っ!!!」
「コホン・・・ッ!!と、とにかくっ。状況は解ったよね!?そう言うことだから、明後日の夜にもう一度、ここに集まろう?」
“って言うかさ”と蒼太はここで、極めて当たり前の事を口にした“やっぱり、エリオットさんに言ったら怒られるよね?”と。
「うう・・・っ!!」
「でも子供だけで行くのは危険だよ?だって今回は敵の本拠地に乗り込むわけだから、絶対に戦闘は覚悟しないといけないし・・・。正直、アウロラは戦える?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“か、簡単な”とアウロラは告げ始めた、“簡単な魔法ならば、私でも扱えます”とそう言って。
「・・・例えば?」
「フィアマやベローシェの魔法ならば、幼い頃から手解きを受けましたから・・・」
「へえっ!!」
蒼太は素直に驚いた、自分とて漸くにしてオリジナルの術式である“波動真空呪文”を熟(こな)せるようになって来たばかりだと言うのに、この子はセラフィムでも無いにも関わらずに魔法の心得があるという、それも複数の種類のだ。
「凄いね、アウロラ。でも念の為、発動させて見せてくれないか?」
「ええっ!?こ、ここでですか?」
「うん、そう。空に向かって撃ってくれればいいから!!!」
すると。
付近に人がいなくなったのを見計らってアウロラが生成した火炎魔法を虚空へと向けて撃ち放つが、その威力は火力、射程距離共にメリアリアの用いるそれと、何ら遜色の無いモノだったのである。
「・・・・・っ!!!!!?」
「ふうぅぅぅ・・・っ。い、如何でしょうか?一応、ベーシックモデルで放ったんですけれども・・・!!」
「い、今のが基本クラスな訳!?」
「は、はいっ。あれでベーシック・クラスです・・・!!」
「・・・・・」
と言うことは、である、フルパワー・フォースで放てばどれだけの威力になるのかは、解ったモノではないのだが、さて。
(で、でもおかしいな。この子からはそんな物凄いエネルギー総量は、感じ取れないんだけど・・・)
蒼太はそれが良く解らなかったが、例えばこれがメリアリアならば抑えてはいても、凄まじいまでの高炎法力が内部で渦巻いているのが、見て取れるのだが、この子にはそれが無いのである、もっと言ってしまえば虚無なのだ、それなのに。
「・・・・・」
(だ、だけど今見せ付けられた魔法力は紛う事無き本物だ、一体何故・・・!?)
「・・・さん、蒼太さん!!」
「ええ・・・!?あ、うん。なんだっけ?」
「もぅ、蒼太さんっ!!今度の十八夜の話ですっ!!!」
蒼太がそんな事を考えていると、不意にアウロラから呼び掛けられるが、それに少年が慌てて我に返ると青髪の少女がプクーッと膨れて彼に詰め寄って行った。
「一緒に行かせて下さいっ、私も一緒に行きたいんですっ!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「本当に危険な探索になるよ?」
「・・・・・っ!!」
「覚悟は良いね!?」
「・・・・・っ!!!」
蒼太から向けられた、真剣な眼差しとその言葉とに。
アウロラはそれでも真っ直ぐに、真正面から頷いて応えた、その表情は些か強張ってはいるモノの、瞳には決意の光が宿っており、確かな煌めきを覗かせていた。
「・・・・・っ。解ったよ」
“一緒に行こう”と蒼太は頷いた、ただし今度は真夜中の冒険であり、家の者には内緒で行くのであるから自動車の類いは使えない、徒歩か自転車かタクシーかで行くしか方法は無かった。
「アウロラ、貯金て今幾らあるの?」
「ええっ!?ち、貯金ですか?私、お金は持った事が無くて・・・」
「・・・・・」
(僕が払うしか、無いんだな・・・)
蒼太は思った、正直タクシーで行くしか方法は無かった、歩いて行ける距離では無いし、自転車で行ったとしても何時間掛かるか解ったモノではないしその上。
恐らくは途中で路上に配置されているであろうパトロール隊に呼び止められて、家まで送り届けられては家族に激怒される、と言った展開になるのがオチであろう、多分。
(正直に言って。深夜のタクシーもあんまり安全じゃ無いけれども、内緒で事を済ますにはもう、これしか無いもんな・・・!!)
助けた後で、マクシムに移動費をしこたま請求してやろうと硬く誓った春の空だった。
いつもいつも小説を読んで下さいまして、誠に有り難う御座います。
皆様方の御声援、御愛顧、大変励みになっております。
今回私が出て来させていただきましたのには、とある訳が御座います。
それというのはこのお話しに対する説明をさせていただきたい、との思いから一筆認めさせていただきました、どうか最後までお付き合い下さいませ。
今回のお話しなのですが、申し訳御座いません、もしかしたなら読んで下さった皆様方に「???」、「だからなんなの?」と言う内容、仕上がりになってしまっている可能性があるのです(要するに“いまいち盛り上がりに欠けるな”と言う状態になってしまっている可能性がある、と言う事なのです)。
ただこれには、自分自身で制約を課した上で作り上げた物語だった、その上でこう言う形となった、と言う事でございますのを御理解いただきたいのです、それと申しますのは。
まず第一に、アウロラちゃんはまだ、蒼太君に対する自分の恋心、愛情と言うモノをハッキリと自覚しておりません(なんと申せば良いのでしょうか、自分を壊したくなるほどにどうしようもない何か、と申しますか、彼を猛烈に求めてしまう衝動のようなモノはあるのですが、ではそれが一体なんなのか、と言うことがまだ、自分の中で昇華されていないのです)←だから感極まった際に、事ある毎に彼に抱き着いてしまうのです、そう言う風にしか“好き”と言う気持ちを表せないのです(この辺りはメリアリアちゃんも一緒なのですけれども、アウロラちゃんはメリアリアちゃんよりも更に3歳年下なので、まだ自分で自分の思いを理解して、受け止め切れないんですね)。
本来、メリアリアちゃんもアウロラも、物凄い情熱的な女の子です、蒼太君に対する、熱烈なまでの真愛と激情を抱いています(特にメリアリアちゃんは第32話におきまして、蒼太君と再会した時に、人目も憚らずに抱き着いて号泣していましたよね?それだけ深い愛情を、蒼太君へと抱いている子なんです)←第50話と第129話でも同じです、蒼太君への愛が深すぎる故に、そしてその思いが真剣なモノであるが故にその苦悩が一層、凄絶なモノになってしまうんですよ、自分で自分を雁字搦(がんじがら)めにしてしまうというか、許せなくなってしまうんです、それで結果として考え過ぎになってしまうんですね(でも彼女自身は本当に真剣に悩んでいるんです、しかもメリアリアちゃんはそう言った大事な部分で絶対に、妥協や誤魔化しと言ったモノを一切しません、自分自身に対してさえも、許さない子なんです)。
そしてあともう一つなんですが、メリアリアちゃんは本当に真面目で優しい子なんです、だからこそ余計に色々と悩んで苦しんでしまうんです(ちなみにメリアリアちゃんはそんな自分自身の事を“面倒臭い女だ、私は”と思っているんです、だけど一方で、蒼太君はそんな風には感じていません、彼女が凄い純粋で優しくて、そしてそれ故に真面目だからこそそう言う風になってしまうのだ、と言うことを彼は知っているのです、つまりは彼女を完璧に理解して受け入れているのですね、そしてその事をメリアリアちゃんも知っています、だから愛しい人に受け入れてもらえている事が嬉しくて嬉しくて堪らなくなり、有り難くて有り難くてどうしようもなくなって、そしてそう言う彼に対する喜びもあって蒼太君に対しての、これ以上無い程に強固で絶対的なまでの純正なる愛を、凄絶なまでの熱慕の情を魂の底の底から彼に抱いているのです、彼に誓っているのです)。
ちなみにアウロラちゃんも同様です(メリアリアちゃんと100%同一、同質なモノではありませんが、彼女なりの悩み、苦しみはやはり持っているのです)、今後、そう言った葛藤する姿や凄く一途で情熱的な姿が出て来ます←特に結ばれてからは凄いです。
第二点目に、皆様方に蒼太君とアウロラちゃんの会話の様子を見ていただきたかったのです(単に“二人は様々な事柄を話し合った”でお終いにするのでは無く、具体的なやり取りの様子、流れをお届けしたかったのです)、と言うのはこの物語を読んで下さっておられる、読者の皆様方には周知の事実かとは思われますが、アウロラちゃんは元々、凄く引っ込み思案で内気でシャイな女の子でした、だから話す時も“ボソボソッ”と言う感じで、俯き加減で話すような子だったのですが、それが蒼太君と出会って少しずつ変わって行きました、少しずつ自我と言うのが出て来始めて自分の言いたい事を、ハッキリと伝える事が、物怖じしないで伝える事が出来るようになって来たんですね(“物怖じしている場合じゃ無い”と、覚悟を決めて話すようにしている内に、段々と勢いが着いて来て、それでようやく会話にも慣れてきた、と言いますか、自信を持って話せるようになって来た、と言うわけですね)。
だったらもう少し、会話の内容を何とかしろよ、盛り上がるように工夫しろ、と言う皆様方のお叱りが聞こえて来る感じがいたしますが、これについては確かに、反省しなければならないポイントかと思います、もっとテンポ良く、かつダイナミックな会話がお届けできるように、また解りやすくて面白い会話がお届けできるように頑張りたいと思います、大変申し訳御座いませんでした(あともう少し、“アウロラちゃんとのイチャイチャが見たい!!”と思われている方もおらっしゃられるとは思いますが、このパートが終わるまでお待ち下さい)。
第三点目が、このお話が日常パートから冒険パートに移り変わって行く為の、ターニング・ポイントとなるお話しであり、動と静の内で、まさに“静”の極まったお話しであった、と言う事です(つまりは次回の話へと繋げる為の、ちょったとした“謎解きパート”だった訳です)、そんな訳ですので、盛り上がりには欠けるかとは思いますけれども、極めて重要な、どうしても無くてはならないお話しではあったのです(ちなみに物語は次回から一気に動き始めます、またアウロラちゃんの求愛行動もちょっとずつ過激になって行きます)←もう一つ、どうして最初はアウロラちゃんの高い魔法力が検出されなかったのか、と言う事に対する答も出て来ると思います。
敬具。
ハイパーキャノン。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「マクシムが、消えたって!?」
「ど、どうしようっ。どうしたら良いでしょう!!私・・・っ!!」
「ち、ちょっとアウロラ、落ち着いて。解るように説明して・・・!!」
3月の下旬の月曜日の夜に、泣きじゃくりながらスマートフォンに電話をしてきた青髪の少女の話を聞きながら、蒼太は何とか状況を把握、整理し始めていたのだが、それによると。
実はマクシムはあの後も、何度か“フォンテーヌブロー宮殿の森”にまで、足を運んでいたらしかった、アウロラがハッキリと知っているだけで二回はあったと言い、“もしかしてそうかも”と言うモノまで含めると六回にも昇ると言うが、しかし。
「もしかして、人攫いにでも掠われたのかも!!ああっ!?私は心配で心配で・・・っ!!」
「アウロラ、少し落ち着いて。確かマクシムはフェンシングを習っていたよね?」
「はい、“サーブル”を嗜(たしな)んでおりました。魔法もそれなりに扱えますし、不意打ちをされたのでは無ければ、そうそう簡単にはやられません!!!」
「・・・・・」
(大抵の相手って言うのは、不意打ちをしてくるモノなんだよ。アウロラ・・・!!)
とエルヴスヘイムで曲がり形にも数多の冒険と戦闘とを潜り抜けて来た蒼太は、それを言おうと思ったのだが止めた、流石に罠を仕掛けるだとか、人質を取って待ち伏せをする、等と言った薄汚い手を使うヤツこそいなかったけれども、今後の展開次第ではそう言った事も、出て来るかも知れなかったのだが、しかし。
「取り敢えずは、だよ?つまり真面(まとも)に戦ったのなら、マクシムはそう簡単にはやられたりはしない、そう言う事だよね?アウロラ・・・」
「・・・・・っ。は、はいっ。そうです!!」
その言葉にアウロラが力強く頷いて応えるモノの、そうなると話は三つに搾られる、不意打ちを喰らったのか、それとも相手がマクシムよりも手練れだったのか、或いはその両方かのどれかである。
しかし。
「マクシムは、人やモノの気配を感じることは出来たのかい?」
「え、ええと・・・。それなりに出来たと思います!!」
「じゃあ夜目はどう?つまり暗いところでもちゃんとそれなりに、どこに何があるのかは認識出来たのかな?」
「そ、それは・・・っ。多分、懐中電灯を使えば、何とか・・・!!」
「ううーん・・・」
蒼太は唸ってしまった、それなら夜目が効く、とは言い難い事になるのであり、暗闇の中でライトを翳(かざ)しながら歩いていたのでは、恰好の的になるだけだったであろう事は、容易に想像が付く事態であった。
そうすると例えば、相手が複数であった場合、如何に“サーブル”の心得があったとしても衆寡敵せず、先回りされて待ち伏せを受け、その結果として苦も無く捕らえられてしまったとしても、頷ける話しではあった。
ただし。
「問題は、どこで彼がいなくなったのか、だよなぁ。でも君の話から推測するに、きっと夜中に“フォンテーヌブロー宮殿の森”に探索に行っていたんだろうね」
「ま、まさか・・・っ!!」
それを聞いたアウロラが突然、怯えたような声色で告げた。
「“トワールおばさん”に掴まっちゃったんじゃ・・・」
「ううーん・・・」
とそれを聞いた蒼太はまた、唸り声を挙げてしまった、正直に言って彼には“トワールおばさん”なる存在が現実にいるのかどうかは、現時点では判別が付かないのであるモノの、しかし“エルヴスヘイム”の先例がある以上、それは“無い”とは言い切れないのであったが、それでも。
「現実的にいるかどうか解らない相手よりもまずは、確実性の高い事から焦点を当てて考えようよ、アウロラ・・・」
「うぅ、グス・・・ッ。は、はい。済みません・・・!!」
今や殆ど完全に、どもり癖の直った(と言ってもまだこの時点では、蒼太や身内に対してだけだったが)アウロラは、嗚咽を漏らしながらも何とかそう答えた。
「大事に、なっているだろうね・・・。でもニュースとかで報道は、為されていない様子だけれども・・・!!」
「はい、あの・・・お父様が“内緒にしておけ”って。お母様も・・・!!」
「・・・・・!!」
“そっか、それで!!”と蒼太は唸るが道理で表沙汰にはならない筈である、どうやらエリオット伯爵は内々に手を回しては事件を解決するつもりらしい。
「だけど、でも。こんな話をした所で誰に信じてもらえるんだろう・・・」
蒼太は唸るが、まさか噂の真偽を確かめる為に息子が夜な夜な“フォンテーヌブロー宮殿の森”にまで行っていました、等と知ったらエリオット伯爵はぶっ飛んでしまうだろうし、それに今からそんな事を言ったりしたら、恐らくアウロラは激怒されるだろう、“どうして自分達にもっと早くに相談をしなかったのか!?”と。
「この事を知っているのは、誰と誰?」
「グスッ、ヒグ・・・ッ!!は、はい。私と蒼太さんだけです・・・っ!!」
「・・・・・」
蒼太は、途方に暮れてしまった、本当はもう、冒険なんかしたくなかった、戦闘なんて懲り懲りだった、エルヴスヘイムでのそれは、目を覆いたくなるような悲惨さの連続であり、想像を絶するような苦しみの累積だった、またそんな事をしなければならないのかと思うと思わず背中に悪寒が奔って身震いが起きてしまうが、だけど。
「・・・教えてくれよ、アウロラ。マクシムはあの夜も、いなくなった日の夜も、森へと向かって行ったのか?」
「うぅ・・・。う、うん、はい。多分、そうです・・・。夜中に、屋敷の扉が開く音がしたから・・・!!」
「いなくなったのって、いつだったっけ?」
「はい、あの・・・。今から二日前の。・・・多分夜中、です」
「二日前って言うと、“十三夜”だよなぁ・・・!!」
「・・・・・?」
「“月齢”の事だよ、お月様の形のこと!!」
「十三夜・・・?ああっ!!」
それでアウロラは思い出した、トワールおばさんの、あの歌の事を。
「綺麗な三日月の影の影、それがポッカリ浮かぶ夜。ミミズクの鳴く場所で、魔法の館の扉は開く。・・・でも一昨日は十三夜・・・!!」
「そう、“三日月”じゃあ無いんだよね・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“月は、関係無いのでしょうか?”と口にするアウロラに、蒼太は“違う”と頭(かぶり)を振った、“関係ない事が、流行歌として伝わる訳は無いよ”と。
「どう言う事なのか、一度現地を確認しに行った方が良いな、ただし昼間にだ!!」
「そ、蒼太さん・・・?」
「明後日、水曜日には学校の授業が早くに終わるんだ、そしたら僕は“フォンテーヌブロー宮殿の森”にまで足を伸ばしてみるよ、その日だったら一日、予定は無いしね、久々のオフの日だから・・・!!」
「だ、だったら!!」
「・・・・・?」
「私も、一緒に行きます!!」
「えええっ!!?き、君も・・・?」
「あうぅぅ・・・っ。お、お邪魔でしょうか・・・?」
「い、いやぁ。そんな事は無いけれども・・・。でも危険だよ?もし本当に“トワールおばさん”みたいな存在がいたとしたなら、どうするのさ。それより僕が一人で行って来るから、もし僕に何かあったらその時には皆にこの事を伝えてよ、お願い!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解りました”と蒼太からのその言葉を受けて、アウロラもそれ以上は強くは言えなくなってしまった、それに確かにもし、蒼太に何かあったのならば、事情を知っているのは自分だけになってしまうために、無理を言うことは出来なかった。
「でも、何か解ったら連絡して下さい。それは絶対にお願いします!!」
「ああ、解ったよ。必ずね!!」
そう言うと蒼太は連絡を切って直ちにフォンテーヌブロー宮殿への行き方を調べに掛かった、ルテティアの郊外にあるここへは、電車やバスを使えば一時間もあれば行ける距離であり、オートバイを使えば気軽に行って帰って来る位は造作も無い所である、しかし。
(僕らの足だと、遠いなあ・・・!!)
そう言って蒼太は今現在、自分の財布の中にある金銭を確認し始めるモノの、彼はお小遣いを月に一五〇〇ユーロ程もらっており、そこから差し引いても充分に、行って帰って来る事が出来たのだ。
(でも仕方が無いよね、このままじゃアウロラが、エリオット伯爵に怒られてしまうもの!!)
“それに”と蒼太は思った、“マクシムの事も気掛かりだ”と、“早く何とかしてあげなくてはいけない”と。
“急げ、急ぐんだ!!”と彼の直感が告げていた、すっかりやる気になった蒼太は急いで二階にある、自分の部屋へと向かうとそこに立て掛けてあった秘剣“ナレク・アレスフィア”を鞘から抜き放っては綺麗に掃除し始めるモノの、こうやって真剣を弄くっている間は本当に気が研ぎ澄まされて来て、充実して来るのが感じられて、彼には好きな時間だったのだが、その内にもう一度、スマートフォンが鳴り響いた、今度もアウロラからだったので、何かと思って出てみると、“やはり自分も行きたい”と言う、丁重にお断りしようとすると、“さっきまで軽かったナレク・アレスフィア”が急に重く感じるようになった、普段ならば手に吸い付いて来る感覚なのに、持っているのが億劫と言うか、苦痛に感じられてしまい、気が滅入ってしまうが、ここで蒼太はある一つの事を思い返していた。
それは大賢者団の長老でもある、“生ける伝説”こと“アルヴィン・ノア”から告げられた言葉だったのであるが、彼曰く“どんな時でもこの剣を持ち歩きなさい”、“君を守ってくれるだろう”との事だったのである。
その剣が重くなった、と言うことは、手に吸い付かなくなった、と言うことはつまり、現状を拒否している、と言う事であると、蒼太は見抜いていた、つまりこれはだから、“アウロラを一緒に連れて行け!!”と言う事を意味するのだと、彼は瞬時にそう読み解いたのである。
「私も、その日は学校が早くに終わりますから。“ドライブに行きたい”と言えばフォンテーヌブロー宮殿位にならば、爺やが連れて行ってくれます!!」
「うーん、そっか・・・」
“それに”とアウロラが続けて言った、“万が一の場合に備えて、家に手紙を残しておくので大丈夫です!!”とそう告げて。
「だからお願いします、一緒に連れて行って下さい!!一緒に行きたいんです!!」
「・・・・・」
蒼太は少しの間、逡巡した、正直に言って彼女を連れて行く事が、正解なのは良く解っていた、ただし自分は必ずしも納得が、行っている訳では無かったのだった、いざ戦闘にでもなったらどうするのか、自分にこの子を守って戦えるだけの力なんてあるのだろうかと、それだけが心配なのである。
自分は生きて帰れるか、この子を生かして帰してあげられるのか、と。
しかし。
「解ったよ」
暫しの沈黙の後に、蒼太は結局はそう頷いていた、アルヴィン・ノアの言った通りならば、この剣(ナレク・アレスフィア)が自分を守ってくれるとするのならば。
やはりアウロラの力は必要なのだろう、とそう思った、それにこの剣には“魔を討ち払い、幸運をもたらしてくれる力がある”と言う、もしそうであるとするのならば、自分が不幸になるような事はー即ち、自分が助かったとしてもアウロラにもしもの事が起きるような事は、間違ってもありはしないだろう、と踏んだのである。
「ただし危険な事になるのかも知れないよ?それでも良いかい?」
「はいっ、構いませんっ。その・・・」
「・・・・・?」
「いえ、あの。だから・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“な、なんでもありません”と、何やらゴニョゴニョと曰った後で取り敢えずはそう告げるモノの、本当はこの時、彼女はこう答えていたのである“蒼太さんと、いっしょだったら”と。
「そうなの?じゃあまあ、とにかくよろしく頼むよ!!」
「は、はいっ。どうかよろしくお願い致しますっ!!・・・そ、それでっ。あの・・・」
「・・・・・?」
「どちらで、待ち合わせ致しましょうか?」
「ああっ!!」
蒼太が呻いた、それはそうだろう、待ち合わせ場所を決めておかなければそもそも落ち合える道理は無かった。
「それじゃあ・・・。“ルテティア東駅”はどうかな?ここなら僕らの学校にも近いし、目立つ場所だから迷いようも無いしね。君も解りやすいだろ?」
「は、はいっ。そこなら北駅とならんで良く散歩に言ったりもしますので、良く解っています、安心です!!」
「良かった、それじゃね?そこに2時に待ち合わせでどう?」
「はい、解りました!!それではその時間にお伺いさせていただきますから!!」
「うん、またね。それじゃあ!!」
「はい、また・・・っ!!」
そう言うとその日は電話を切って装備品の確認と荷物の整理に取り掛かった、先程までは違和感を覚える程の重々しさを放っていた秘剣は気が付くと、まるで“それでいいぞ”とでも言うかのように元の軽さと手に馴染む感覚を取り戻しており蒼太を否が応にも勇気付けた。
明けて火曜日は、朝から晩まで鍛錬と勉学に励んで明け暮れ、そしていよいよ水曜日がやって来た、この日は学校が早くに終わる日であり、メリアリアを始めとして、他の人との予定は一切無かったから、彼は一日フリーである、アウロラも予定をキッチリと明けて放課後に備えていたが、果たして。
「蒼太さん!!」
「アウロラ!!」
学校が終わって放課後に、背中に特注のベースケースに入れている、“ナレク・アレスフィア”を背負った彼が約束通りに“ルテティア東駅”へと向かうとそこにはリムジンに乗っている、アウロラの姿があった。
「あ、改めて見ると・・・。良いのかな?僕、こんな凄いのに乗せてもらって・・・!!」
「全然構いません、蒼太さんなら大丈夫ですっ。父も母も、蒼太さんの事は信頼していますからっ!!」
「う、うん。じゃあ・・・!!」
“お邪魔します・・・!!”と言って爺やさんに明けてもらったドアから車内に乗り込むとアウロラが席へと誘ってくれた。
メリアリアもバラの花糖蜜のような甘い高貴な香りがするが、アウロラからは綺麗に咲き乱れる花々の、実にフローラルなそれが漂って来ては蒼太の鼻腔を擽った。
「もし。危なくなったなら、今日はすぐに帰るからね?それでいい?」
「はい、それでいいです!!」
乗り込んでからヒソヒソ声で話していると、車の扉がバタンと閉じられ、爺やが前方にある運転席へと乗り込んだ。
ここからフォンテーヌブロー宮殿までは車で50分~1時間程の距離である、道中は空いており、移り飛んで行く景色を見ながら蒼太はしかし、あることに思いを寄せていた。
それは。
(どうしてだろう?どうしてマクシムは失踪してしまったのだろうか?本当に人攫いなのか?それともまさか、本当に“トワールおばさん”の仕業なのか?だとしても、一体何故だ?一昨日は十三夜で間違っても三日月の日じゃない、それなのにマクシムは連れ去られた、一体、どうして・・・?)
疑問はそれだけでは無かった、あの流行歌にある“綺麗な三日月の影の影がポッカリ浮かぶ、ミミズクの鳴く場所”とは何なのだろうと、彼なりに頭を悩ませた。
(三日月の、影の影?影の影は、光か?いいや、それなら普通に三日月そのモノを歌えば良いはずだ、敢えて“影の影”と謳っているのだから、そこに何かの謎はある・・・)
或いはマクシムは、その謎を解いたのかも知れなかった、そしてそのままー。
“トワールの魔法館”へと迷い込んでしまったのかも知れなかったのである、・・・招かざる、突然の来訪者として。
一体、どう言う事なのだろうかと、考えを巡らせている蒼太の横ではアウロラが、そんな彼の事をウットリとした眼差しで見つめ続けていた、彼女は素直に格好いいと思っていた、窓ガラスに映っている蒼太の顔もだが時々、前を向いて思案に耽る蒼太の真剣そのものの表情は、頼もしくて鋭くて、まさに男のそれだったのだ。
自分とは、たった一つしか違わないのに、本当に強くて凄い人なんだと、本当に勇敢な戦士なんだと意識せずにはいられなくて、それがしてアウロラを余計にドキドキさせる要因となっていたのである。
やがてー。
車はフォンテーヌブロー宮殿へと到着しては、そこの駐車場の一角へと停車した、“なるべく早くに帰って来ますから!!”と告げるとアウロラは蒼太共々、フォンテーヌブロー宮殿の裏手に広がる大森林へと手を繋いで分け入って行ったのであるモノの、そこはわざとそうしているのであろう、殆ど手付かずの原生林が何処までも広がっていて、足下は凸凹(でこぼこ)としていて泥濘んでおり、これでは多少の心得がある程度の腕前でしかないのであるのならば、間違っても心置きなく戦闘が出来る状態等では無いことが、一目瞭然に解ってしまう。
ましてやマクシムが来たであろう時刻は夜中なのだ、辺りは漆黒の闇に包まれており、木々が鬱蒼としていて見通しも悪かったであろうから、尚のことそうだっただろう。
「はあっ、はあ・・・っ!!け、結構大変な森ですね・・・!!」
「うん、足下に気を付けないとね・・・。って言うかアウロラ、大丈夫?疲れているのならば少し、休もうか?」
「はあっ、はあ・・・っ!!だ、大丈夫です、これ位・・・っ!!ああ・・・っ!!」
「おっと!!」
言った側から出っ張っている木の根っこに足を取られて転びそうになる青髪の少女を“大丈夫!?”と言って蒼太が素早く抱き支えるモノの、アウロラは改めて彼の身体に触れてみて、その逞しさに驚いてしまっていた、凄く熱くてゴツゴツしていて硬くって、そこから沸き上がって来るかのような力強い確かさに満ち溢れていたのである。
(こ、これが。男の子の身体なんだ・・・っ!!)
服の上からでもハッキリと解るほどの筋肉の盛り上がりと質量に、アウロラは胸がドキマギとして鼓動が早くなって来るのをハッキリと感じていた。
一方で。
「大丈夫?アウロラ・・・」
「・・・・・っ。は、はい、大丈夫です」
そう尋ねられてアウロラが反射的に応えるモノの、蒼太は超然と言うか、平然としたモノだった、自分と違って長いベースケースを背負っている、と言うのにも関わらず、彼は呼吸が乱れていない所か汗一つとして掻いてはいない。
体力や身体の練り上げの差が、ハッキリと如実に現れて来ていたのだが、しかし。
「ゴメンね、アウロラ。もうちょっと奥まで行ってみたいんだけれども、頑張れる?」
「はあっ、はあ・・・っ!!へ、平気です・・・!!」
「・・・うん、じゃあ頑張ろっか!!」
そう言うとー。
蒼太はスッと手を差し伸べてくれたので、アウロラは一も二も無くそれに掴まった、その手はあの日のように温かくて厚みがあって、握るととっても安らいだのだ。
「もう少し行けば、泉があるよ?そこで少し休憩しよう?」
「はあっ、はあ・・・っ!!ご、ごめんなさい・・・っ!!」
「謝らなくてもいいよ。ってかこんなに自然が深くて険しいなんて、僕だって思わなかったもの!!」
「はあっ、はあ・・・っ!!ひ、人が入る所ならばっ。まだ何とかなっているんですけれどっ!!」
「うん、そう言うところはちゃんと整備がされているからね・・・!!あ、ほら。彼処(あそこ)が泉だよ?あの畔(ほとり)で休もうよ」
「はあっ、はあ・・・っ!!す、すみません・・・!!」
そう言うと蒼太はアウロラを連れたって、その泉の淵へと降り立って行った、そこは水辺なだけあって他と比べて涼しい上に、地形的に木々の間を吹き抜けて行く風がぶつかり合う場所らしくて火照った身体に丁度良い塩梅の風気が保たれていたのだ。
「大丈夫?アウロラ。お水、飲む?」
「はあっ、はあ・・・っ!!で、でも。蒼太さんのは・・・?」
「僕は平気だから、少しだけでも、飲んでおきなよ」
「はあっ、はあ・・・っ!!あ、有り難う御座います、ごめんなさい・・・!!」
そう言うとアウロラは差し出された水筒の水をゴクゴクと喉を鳴らして飲み込んで行く。
蒼太はそれを見て“美味しそうにのむ子だなぁ”と半ば感心してしまうが、それと同時に。
この森の持つ、不思議な気配を感じていた、と言うのはアウロラの言葉では無いモノの、人の手が入っている場所では別段、如何という事は無かったのであるモノの、どうもそこから外れて自然のままに放置されている場所まで来てからずっと、誰かに見られているかのような気がしては、仕方が無かったのである。
それに・・・。
(何だろう?この場所から僅かだけど魔法の気配のようなモノを感じる。それもなんか、別の世界から漏れ溢れて来るかのような。一体、何なんだろう、これは・・・!!)
「あ、あの。蒼太さん・・・!!」
「どうしたの?アウロラ・・・」
「あの・・・。お水、全部飲んじゃって・・・!!」
「ああ、別にいいよそんなの。僕が進めたんだしさ・・・!!!」
「それで、蒼太さん。あの・・・」
「・・・・・?」
「私、恐いです。なんかさっきから、ずっと誰かに見られている気がして・・・!!」
「・・・アウロラもそう言うの、解るの!?」
「ええ・・・っ?じゃあ、蒼太さんもっ!!?」
アウロラが驚くモノの、何の訓練も積んでいないだろうにこの子はそう言う事が解る子なんだ、と。
(多分、一種の“霊感”と言うか。そう言う感性の鋭い子なんだろうな・・・!!)
「それに、なんて言うか。この場所からは不思議な力を感じるんです。何か異世界に通じているかのような力って言うか、感覚って言うか・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!!」
その言葉に蒼太はまた、ビックリとしてしまっていた、自分が今し方感じ取った事をこの子は、ピタリといい当てたからである。
「・・・・・っ。それ、何時から感じていた?」
「あの、その・・・。この森に、入った時から・・・」
「・・・・・っ!!」
蒼太はそれを聞いてまたビックリすると同時にやはり、ここにこそ、何某かのヒントが隠されていると直感した、この場所が“トワールの魔法館”への入り口なのであろうか。
しかし。
「綺麗な三日月の影の影、それがポッカリ浮かぶ夜。ミミズクの鳴く場所で魔法館の扉は開く。ここがその場所なのかなぁ・・・!?」
「・・・・・」
蒼太が呻いて見たモノの、答えが見つかる分けでも無くて、畔に張り出した木の根に座り、宙を仰いで深い息を吐き出すモノの、そんな二人に暫くの間、静寂と休息の時が訪れた、聞こえてくるのは木々のざわめき、小鳥の囀(さえず)り、時折波立つ泉の水音、ただそれだけである。
それらの只中で蒼太はずっと考えていた、三日月の影の影とはなんなのか、それがポッカリ浮かぶ夜とは一体、いつを言うのだろうか、そしてミミズクの鳴く場所とは?
この辺りがどうも焦臭(きなくさ)い、とは思うモノの、ではそれが何故なのか、どうしたら“バーズ・トワールの魔法館”へと至れるのか、と言う事に関してはまだ、答が見出せずにいたのだった、その時だ。
「わあああっ!!!」
「どうしたの?」
アウロラが俄に騒ぎ始めて泉の中央を指差すモノの、そこには天空に昇る太陽の姿が揺れる水面(みなも)に映し出されてゆらゆらと揺らめいていた。
「さっき、凄かったんですよ?水面に風が当たって、掻き乱されて。そしたら太陽の光が辺り一面に散らばって行って・・・」
「ああ、そっか・・・っ。ところでアウロラ」
「・・・・・?」
「今日は一旦、帰ろっか?特に収穫も無かったし・・・」
「えええ・・・っ!!!ど、どう言うことでしょうか・・・!?」
「まあまあ、いいからいいから。取り敢えずちょっとこっちに来て・・・!!」
そう言うと蒼太は何気ない風を装っては起き上がると、アウロラを連れて、いそいそと元来た道を戻り始めた、心なしかその手は汗ばみ、緊張しているのか、先程までと比べると身体には力が入っているように感じられる。
「そ、蒼太さんっ。どうしたんですか!?」
「・・・・・っ!!!」
アウロラの声も気にせず蒼太はただただ、彼女の手を引いては元の場所への道を急ぐが、やがて漸く人の気配がし始めると同時に、あの自分達に纏わり付いていた、“誰かに見られているような感覚”がしなくなった、それを確認すると。
蒼太はアウロラに言い聞かせた、“凄いよアウロラ”と。
「君は、トワール館への道を解く為の、ヒントをくれたんだ!!」
「!?!?!?!?、わ、私が・・・!?」
「うん」
何のことだか良く解らずに、驚きキョトンとするアウロラに対して蒼太が告げるがまずは“三日月の影の影”と言うワードについての説明から彼は入った。
「いいかい?アウロラ。まず“三日月の影の影”って言うのは、あれは三日月そのものを指し示す言葉じゃあ、無いんだよ!!その逆さ!!」
「・・・逆?」
「そう、逆だよ!!」
蒼太は言う、“あれは十三夜の事なんだよ!!”と。
「ええ・・・っ!?で、でも十三夜は三日月でも何でも無くて・・・!!」
「“影の部分”だよ」
蒼太は言った、“十三夜の月の影の部分はちょうど三日月の形になるんだ”とそう告げて。
「“十三夜の月の形”を思い返してごらん?影の部分が三日月の形になっているのが解るでしょ?」
「・・・・・っ。ああっ!?」
“そう言えば”とアウロラが頷くモノの、確かに十三夜の月の影になっている部分はちょうど三日月の形をしており、まさに“三日月の影”のフレーズには当て嵌まる、しかし。
「じゃあでも・・・。その“影”って言うのは、一体全体・・・?」
「水だよ、アウロラ。水面に映った月の事さ!!」
蒼太が説明を続けるモノの、昔から“水面に映る世界”とは“死者の世界である”と言う認識が、世界各国にはあるのであり、それが故に日本でもあの世の事を“泉下”等と呼び現すのである。
即ちそれはこの世の影であり、つまり綺麗な三日月の影の影がポッカリと浮かぶ、と言うのは十三夜の夜に泉に月が浮かぶ様子を示しているのだ。
「ええっ!?で、でもじゃあ。その“泉”って言うのは・・・!!」
「さっきの泉の事さ、多分ね!?ただ問題はそれだけじゃあ無いんだよ!!」
「えと・・・。確か・・・!!」
蒼太の言葉に、アウロラが頷いて応じた。
「歌には確か、“ミミズクの鳴く場所で”ってありましたよね?その場所って言うのは?」
「僕もうっかりしていたんだけど・・・。“ミミズク”って言うのはフクロウの中でも“羽角”がある種類の事なんだよ、ほら。あの眉毛の部分が出っ張っている種類のフクロウっているだろ?アイツらの事なんだ!!」
「・・・・・っ。じゃあ十三夜の夜に、その子達が鳴く場所で待ち構えていれば!!」
「多分、トワール館への道が現れるんだろうね。そしてマクシムはそれを見付けてしまったんだよ、それで中に迷い込んでしまったんだ!!」
「そ、そんな・・・っ。じゃあ兄は・・・っ!!!」
「それはまだ、解らない!!」
“でも!!”と蒼太は力強く言い切った。
「お兄さんは多分、まだ無事だと思うよ?何かされたりはしていないと思う!!」
「どうしてそんな事が・・・!!あの、それよりも。じゃあ何でここまで戻って来たのです?彼処で話してくれていたって・・・!!」
「いいや、ダメだったんだよアウロラ」
「どうしてですかっ!?だって兄が・・・っ!!」
「“トワールおばさん”が、聞いていたからだ!!」
「・・・・・っ!!!!!」
その話に、アウロラは思わずゾッとしてしまった、蒼太はそれを見越した上で、自分達をあの場所から連れて逃げて来てくれたのである。
「さっきから、誰かに見られているような気がしていただろ?多分、あれが“トワールおばさん”本人なんだと思うんだ、僕達が自分達の館の近くにまで来たので“何事か”と思って出て来たんだろうね、危ない所だったよ!!」
「・・・・・っ!!!!!」
「あのまま彼処で謎解きをしていたのならば、どうなっていたのか解らないよ。いや、もしかしたなら本当は、僕達が近付いた途端に自分達の世界へと連れて行こうとしていたのかも知れないんだ、だけどそれが出来なかった・・・!!」
「・・・・・」
「僕の持っているこの剣はね?“魔を討ち払う霊力”があるんだ、守り刀なんだよ。それに加えて多分、君だ!!」
「えええっ!!?わ、私ですか・・・!!?」
「うん、これも多分なんだけど。アウロラ、君には不思議な力があるんだ、“高い霊力”とでも言えば良いのかも知れないけれども、とにかく何となく、雰囲気や波動の力の高貴さが僕の幼馴染の女の子に似ているんだ、だから多分、手が出せなかったんだと思う!!」
“そしてだからこそ”、と蒼太は続けた、“マクシムはまだ無事でいてくれると思うよ?”とそう告げて。
「君達には何かしら、特別な血の力っていうのかな?強力な守護があるんだろうね、だからマクシムも、手を出されてはいないはずだし、それにだからこそ、その場所に捕らわれて助けを希っている子供達の必死の訴えが、彼に届いたのかも知れないよ?」
「・・・・・」
アウロラはそれを聞くと“そう言えば・・・”と一人思い返していた、今よりももっと幼い時分に父がしてくれていた話を頭の中で反芻していたのでたある、曰く。
“我が家には代々、神様から授けられし秘宝がある”との事だったのであり、それと同時に“神様から一族代々に至るまでの、祝福を賜っているのだよ?”との事だったのである。
・・・そしてそれは“誰にも言ってはいけない”と。
「王子様にも、言っちゃいけないの・・・」
「うん。その王子様が、家に婿養子に来てくれるのならいいんだけどねぇ~!!」
「・・・・・?」
「ううーん、アウロラにはまだ、難しかったかなぁっ!!」
小さな自分を膝に乗せながらも、エリオットがそんな話をしてくれていたのであるが、それがこんな所で意味を持って繋がって来るなんて。
「・・・・・」
「問題は次の十三夜まで、1ヶ月も待たなきゃいけない事なんだけれども・・・。他に何か、方々は無いかなぁ・・・」
1ヶ月。
その時間は途方もなく長く、絶望的に遠い、1週間や2週間程度の短期的な期間ならばともかくとしても、それだけの長い間、兄が無事でいてくれると言う保証は流石に無かった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“ああっ!?”と蒼太は明るい表情で短く叫んだ、“あるよアウロラ!!”とそう告げて。
「アウロラ、“居待月”って知ってる?」
「イマチヅキ?」
「そう、居待月。月齢で十八日のお月様の事さ!!」
蒼太がそう言って、月の画像をスマートフォンでアウロラに見せた、すると。
「ああっ!?」
アウロラも思わず叫んでいた、その月は確かに、影の部分が三日月の形になっており、それは即ち。
「明後日の、金曜日の夜がこの月が出る日なんだけど・・・。この夜は、魔法館への扉が開く、後はミミズクの場所さえ掴めれば、万事解決と言うわけさ!!」
「す、凄いっ!!」
「う、うわっ!?」
そう叫んで次の瞬間、アウロラは思わず蒼太に抱き着いていた、“凄いです蒼太さん、格好良すぎですっ!!”とそう言って。
「ち、ちょっと、アウロラ。ち、近い、近いって・・・!!」
「あ・・・っ!!」
“皆見てるから・・・!!”と告げる蒼太の言葉にハッとなって辺りを見渡すと、そこには家族連れや友達と一緒に森林浴に来ている人々がいて、“クスクス”と笑いながら此方を見ていた。
「あ、あうっ。あうぅ・・・っ!!!」
「コホン・・・ッ!!と、とにかくっ。状況は解ったよね!?そう言うことだから、明後日の夜にもう一度、ここに集まろう?」
“って言うかさ”と蒼太はここで、極めて当たり前の事を口にした“やっぱり、エリオットさんに言ったら怒られるよね?”と。
「うう・・・っ!!」
「でも子供だけで行くのは危険だよ?だって今回は敵の本拠地に乗り込むわけだから、絶対に戦闘は覚悟しないといけないし・・・。正直、アウロラは戦える?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“か、簡単な”とアウロラは告げ始めた、“簡単な魔法ならば、私でも扱えます”とそう言って。
「・・・例えば?」
「フィアマやベローシェの魔法ならば、幼い頃から手解きを受けましたから・・・」
「へえっ!!」
蒼太は素直に驚いた、自分とて漸くにしてオリジナルの術式である“波動真空呪文”を熟(こな)せるようになって来たばかりだと言うのに、この子はセラフィムでも無いにも関わらずに魔法の心得があるという、それも複数の種類のだ。
「凄いね、アウロラ。でも念の為、発動させて見せてくれないか?」
「ええっ!?こ、ここでですか?」
「うん、そう。空に向かって撃ってくれればいいから!!!」
すると。
付近に人がいなくなったのを見計らってアウロラが生成した火炎魔法を虚空へと向けて撃ち放つが、その威力は火力、射程距離共にメリアリアの用いるそれと、何ら遜色の無いモノだったのである。
「・・・・・っ!!!!!?」
「ふうぅぅぅ・・・っ。い、如何でしょうか?一応、ベーシックモデルで放ったんですけれども・・・!!」
「い、今のが基本クラスな訳!?」
「は、はいっ。あれでベーシック・クラスです・・・!!」
「・・・・・」
と言うことは、である、フルパワー・フォースで放てばどれだけの威力になるのかは、解ったモノではないのだが、さて。
(で、でもおかしいな。この子からはそんな物凄いエネルギー総量は、感じ取れないんだけど・・・)
蒼太はそれが良く解らなかったが、例えばこれがメリアリアならば抑えてはいても、凄まじいまでの高炎法力が内部で渦巻いているのが、見て取れるのだが、この子にはそれが無いのである、もっと言ってしまえば虚無なのだ、それなのに。
「・・・・・」
(だ、だけど今見せ付けられた魔法力は紛う事無き本物だ、一体何故・・・!?)
「・・・さん、蒼太さん!!」
「ええ・・・!?あ、うん。なんだっけ?」
「もぅ、蒼太さんっ!!今度の十八夜の話ですっ!!!」
蒼太がそんな事を考えていると、不意にアウロラから呼び掛けられるが、それに少年が慌てて我に返ると青髪の少女がプクーッと膨れて彼に詰め寄って行った。
「一緒に行かせて下さいっ、私も一緒に行きたいんですっ!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「本当に危険な探索になるよ?」
「・・・・・っ!!」
「覚悟は良いね!?」
「・・・・・っ!!!」
蒼太から向けられた、真剣な眼差しとその言葉とに。
アウロラはそれでも真っ直ぐに、真正面から頷いて応えた、その表情は些か強張ってはいるモノの、瞳には決意の光が宿っており、確かな煌めきを覗かせていた。
「・・・・・っ。解ったよ」
“一緒に行こう”と蒼太は頷いた、ただし今度は真夜中の冒険であり、家の者には内緒で行くのであるから自動車の類いは使えない、徒歩か自転車かタクシーかで行くしか方法は無かった。
「アウロラ、貯金て今幾らあるの?」
「ええっ!?ち、貯金ですか?私、お金は持った事が無くて・・・」
「・・・・・」
(僕が払うしか、無いんだな・・・)
蒼太は思った、正直タクシーで行くしか方法は無かった、歩いて行ける距離では無いし、自転車で行ったとしても何時間掛かるか解ったモノではないしその上。
恐らくは途中で路上に配置されているであろうパトロール隊に呼び止められて、家まで送り届けられては家族に激怒される、と言った展開になるのがオチであろう、多分。
(正直に言って。深夜のタクシーもあんまり安全じゃ無いけれども、内緒で事を済ますにはもう、これしか無いもんな・・・!!)
助けた後で、マクシムに移動費をしこたま請求してやろうと硬く誓った春の空だった。
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