メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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ガリア帝国編

花嫁達の覚醒

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 ウルバンニの体捌き、動体速度と言うモノは“オーバードライヴ”を使用した場合のメリアリアちゃんとほぼ互角です←この状態でオリヴィア、マーガレット両名よりもやや劣る程度です(なので凄く強いです)、また“オーバードライヴ”状態でのメリアリアちゃんとの戦力比較はどんなモノかと言いますと、魔法力やオーラ力ではメリアリアちゃんが勝っており、格闘センスや反射神経、身体の追従性能でウルバンニの方が上回ります(ですが総合すると殆ど互角です)。

 またもう一つ(同調している事の大切さ、愛し合っている事の大切さにつきましては既に述べさせていただきましたけれども)、“ハイラート・ミラクル”の具体的な効能について、より詳しく説明させていただきますと、深く愛し合っている者同士が互いに向け合う愛の光りの照り返しで一瞬の間にお互いのお互いに対する愛おしさ、存在の重み、そして両者の間に存在している波動の力が無限に反復して増幅し、その強さを一気に増して行きます、その結果として互いの結び付き、愛情、そして技の威力と言ったモノが何乗倍にまでも跳ね上がる訳です(強烈無比なる波動エネルギー力場と言うモノは周囲の時空を歪曲させて行き、それはやがては次元すらをも穿てるようになります)。

 即ち、単にお互いの愛の確かさが証明されるだけでなくて、その絆や思いの丈がますます深いモノとなり、より絶対的な領域にまで進化、生成がなされて行く訳なのですが、これこそが、“ハイラート・ミラクル”が真に愛し合っている夫婦にしか出来ないとされる最大の要因であり、単なる合体技等とは違う、“秘儀婚術”とまで呼ばれ称される所以です。
ーーーーーーーーーーーーーー
 物心付いた時。

 “彼女”はもう“カインの子供達”にいた、後で聞いた所によると、両親は事故死だったと言うから別段、捨てられた訳では無いらしかった、そしてそれだけが救いであり、ある意味で彼女を支えると同時に歪ませもした。

(父さんも母さんも呆気なく逝ってしまったらしい、私はそうはならない!!)

 “何がなんでも生き延びてやるんだ!!”と心に決めた彼女はだから、それを心基として鍛錬に精を出して行った、元々、ウルバンニは取り立てて力が強い方では無く、またスタミナがある方では決して無かったが、ただし。

 反射神経と集中力、動作の精密性とそれを熟す速度とが、誰より何より優れていたのであり、そしてそれらに目を付けた“カインの子供達”の養育組織、“理不尽なる捧げ物”の大人達はだから、“これら生まれ持った特殊能力を最大限、活かし切る事が出来るように”と幼い頃から彼女にスペシャルメニューを課すと同時に“能力開発”も行って、彼女のズバ抜けた集中力を更に不動なモノへと進化させて行ったのである、その結果。

 ウルバンニは誰よりも“見切り”と“格闘戦性能”に優れた戦士となり、その速度と体捌きにおいては強者揃いの“カインの子供達”においてすらも並ぶ者のいない、頭一つ抜きん出た存在となっていった、彼女の目に映る世界は、感じる世界はだから常に退屈そのものであり、相手の動作の細かい部分までが映写機のように切り取られたシーンの連続として知覚でき、その予測も反応も容易いものであったのだ。

 他人が一の動作をする間にも二のそれを行う事が出来たウルバンニはそれ故、気が付くと“カインの子供達”の中でも特に優れた者に与えられる“長子”、“長女”の座を欲しいままにしていったのであるモノの、そんな彼女が久方振りに“厄介だ”と感じる相手と相対した、向こうはなんと二十歳前後の一団(パーティー)であり、三十路間近(アラサーチック)な彼女としてみれば、所謂(いわゆる)“ガキ”と“小娘達”にしか感じられない面々であったのであるが、しかし。

(見誤ったわ、とんでもない連中だった!!)

 ウルバンニは内心で思わず臍(ほぞ)を噛んだ、彼等の中でも特に“蒼太”と呼ばれる青年の隠し持っていた力が予想を超えて増大し、自分達を圧倒して行ったからである、それも。

 “メルコット”から全力を託された後のアルフォンソの“メギド裁き”すらをも、一瞬にも満たない間に一刀両断してしまう程の、極めて隔絶された絶対的な力を発揮した彼は、返す刀で自分やエクセルラまでをも瞬殺して行ったのでありもし、彼女自身に“リライズの法”が備わっていなかったのならば、そこまでで勝負は決してしまっていた筈であったが。

(信じられない、あの“蒼太”とか言うヤツ。アイツの力は私達全員の、全力を足したそれよりも遥かに上を行っていやがった!!)

 そう思ったウルバンニが、改めて周囲を見渡すと、そこには蒼太によって打ち倒された“弟”や“妹達”の姿があった、命に別状は無いモノのそれでも、誰も彼もが満身創痍、とてもでは無いが余力など、何一つとして残されていない状況である事が、一目瞭然に伺い知れる。

「・・・・・っ!!」

(やるしか、無いわね・・・っ!!!)

 意を決したウルバンニが心の中でそう呟くと、拳を作って呼吸を整え、突撃用の構えを取る、そうしてー。

「・・・・・っ!!?」

(早い・・・っ!!!)

 その次の瞬間にはもう、宙を飛んで疾走していた、その目指した先にいたのは他ならぬ蒼太、本人であるモノの、ウルバンニはこの一団(パーティー)の中心人物が蒼太であると即座に見抜いて先ずは彼から仕留めようと間髪入れずに吶喊(とっかん)したのだ。

 しかし。

「てやあああああっっっ!!!!!」

「ちいいいいいっっっ!!!!!」

 それを見事に防ぎきった人物がいた、他ならぬメリアリア本人であったモノの元々、剣を構えていた蒼太はだから、更に足を踏ん張らせては全身に力を漲らせ、ウルバンニの攻撃を、真正面から受け止めるつもりであったのであるが、その前衛を務めてくれていた彼女は決して、自身の夫を手を掛けようとする敵の長女を許してはおかなかったのである。

 再び光炎魔法を身に纏ったメリアリアは機先を制して気合い一閃、跳躍しては鞭を撓(しな)らせつつもウルバンニに向けてぶち当て、そのまま彼女と正面切って激突したのであるモノの、その切っ先の鋭さと動きの素早さとは凡そ消耗した人間のそれでは無かった、その体には指先に至るまでに、腹の底から湧き上がり来る精気が満ち溢れていてその気概も、覚悟の程もウルバンニ程の強敵を目の前にしても些かも、見劣りするモノでは間違っても無かったのである。

 その上。

(ちいいぃぃぃっ!!!また魔法を使いやがったな、小娘がっ!!!)

 流石に今度はウルバンニが気付くモノの、見るとその後方ではアウロラが蒼太を中心として再び“命と回復”、そして“攻撃力と素早さ”とを押し上げる呪文を発動させつつ、その効果範囲内における自分達の優位性を確保させようと試みていた。

(ち、ちくしょうっ。コイツら只者じゃないっ!!連携したのも今日が初めてじゃないな、動き方が様になってやがるっ!!!)

 メリアリアの攻撃を何とか躱しつつもそう分析したウルバンニは狙いを変更、先ずは面倒なバフの使い手である青髪の少女から手折(たお)ることにして接近を試みるが、そうはさせじとメリアリアが果敢な攻勢を展開し始め、ウルバンニを逆に追い込んでいった、その狙いの的確さや俊敏さ等は群を抜いて高く鋭く、ウルバンニをして驚愕させるレベルであったがそれに加えて。

「たあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「うおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!?」

 そのオーラ力、魔法力の強大さもまた、比類無きモノがあった、何しろ“太陽の炎熱”をその身に纏っているのである、一瞬でも気を抜けば、立ち所に此方が蒸発させられてしまうのだ。

(ぐうううぅぅぅぅぅっっっ!!!!?く、クソッタレがっ。コイツ、とんでもなくえげつない攻撃を仕掛けて来やがるっ!!触れたら一撃必殺の、あの恐ろしく速く撓る鞭でっ!!!)

 堪らずウルバンニがじわりじわりと後退するモノのそれほどまでにこの時のメリアリアの猛攻は鬼気迫るモノがあった、実際の彼女は既に、その力を六割方消耗してしまっており、全力は出したくても出せない状況にあったのであるがそれでも。

 “蒼太にだけは、手を出させない”、その一念だけで彼女は気力を振り絞っていたのであり、その気迫と凄まじさとがウルバンニをして退かせる要因となっていたのだ。

 そこへー。

「メリーッ!!!」

 蒼太本人もまた、参戦して来るモノの、彼としては気が気でなかった、ただでさえ最愛の女性である彼女を戦わせるのは多大な抵抗があったと言うのに、そこへ持ってきてメリアリアは自分以上に消耗している身上である、それを前面に押し出させるのは他ならぬ彼自身が何より許さなかったのだ。

 ちなみにこの時の、蒼太の狙いもメリアリアのそれも、本質的には一致していた、兎にも角にも時間を稼ぐと同時に相手を消耗させておき、やがて駆け付けてくれるであろう味方の増援の到着を待って一気に撃破殲滅を図る、それであったが。

「メリーッ、一緒に戦おうっ!!!」

「あなた・・・っ!?はいっ!!!」

 一方でそれは、ウルバンニもまた良く理解しているつもりであった、だからこそ彼女は短期決戦に持ち込む腹積もりで真っ先に蒼太を狙ったのであり、そうする以外にウルバンニに術は無かったのであるが、しかし。

「はあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「せやあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「うぐぐぐぐぐぐぐぐ・・・っっっ!!!!!」

 それは結局は、メリアリアによって完膚無きまでに打ち破られてしまったのであり、それによってウルバンニは“突撃衝力”を全く失ってしまった、勢いを無くした彼女の戦場を支配する力は雲散霧消してしまい、戦況は膠着状態に陥ってしまったのである。

 ピシイィィッ!!バシッ、バキッ。バキッ、ガキッ。ガンガンッ!!!と鞭と手甲、剣と脛当てとがぶつかり合う音が響いて彼方此方(あちらこちら)に火花が飛び散る。

 消耗しているとは言っても互いに連携を取り合いながら、しかも補助魔法の援護も受けての蒼太達の積極的なる連続攻撃の前にはさしものウルバンニも中々に、手を出す事が出来ずにいたのだ、そんな中。

 最も余力を残していたのがアウロラだったが彼女自身は取り立てて格闘戦が得意では無かったモノの、然りとて目に見えて不得手と言う訳でも無くて、ただし今の状況下で自身が下手に動けば足手纏いになる事は解っていたから余程の事が無い限りかは手出しをするつもりは無かった。

 しかし。

「はあっ、てやっ。たりゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「・・・・・っ!!!」

(す、凄いっ、三人ともっ。特にメリアリアさんの戦闘能力は・・・っ!!!)

 と思わず仲間の戦い振りに目を見張るがこの戦いにおいてメリアリアは“オーバードライヴ超過活性”を使用しており、それがアウロラをして、メリアリアの戦闘能力を熟知している筈の彼女においても驚愕する程の凄絶さをもたらす事となっていたのだ。

 一方で。

「でやあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

(なんだろう、とても暖かな力っ。凄く嬉しい感覚が心の底から込み上げて来る・・・っ!!!)

 戦っている最中にも関わらずに彼女自身が思わず戸惑いを覚えてしまうが“オーバードライヴ”を使用している筈のメリアリアの体には消耗する所か逆に力が溢れ出して来てしまっていた、それだけではない、心がとても暖かな気持ちになって来て喜びで満ち溢れ、テンションが跳ね上がって来るモノの、その原因は彼女の夫である蒼太自身の行っていた、ある術式的行動にあった、それというのは。

 “ハイラート・ミラクル”を使用した事で魂同士の結び付きが一層、強化された事に気付いた蒼太はその繋がりを最大限に発揮させては自身と彼女の絆の力、即ち“霊性なる根源”同士の“魂光結合”を利用してまだ幾許かは余力のあった自らのスタミナ、体力等を直接、メリアリアの体内へと流し込むと同時に彼女のそれらと混ぜ合わせるようにしていたのである。

「あなた・・・っ。有り難うっ!!」

「メリーッ、一緒に頑張ろうね!!」

 “はいっ!!”とそんな愛しい夫からの言葉と助力にメリアリアは心底頷いて応えるモノの、蒼太のしてくれた事を自身の奥深い部分ではキチンと理解すると同時に気が付けていた彼女はだから、そのエネルギーを受け取る際には自然と喜びと感謝の気持ちが魂の底から迸って来てその結果、自分でも気分が高揚して来てしまい、どうにもならなくなってしまっていたのである。

 気持ちも身体も霊性すらも、何度となくその根源の部分から一つになり尽くして来た相手である、蒼太の波動は彼女の身体に、そして何より魂自体に恐ろしいほどに良く馴染んだ、それ故に。

「はあぁぁぁっ。たぁっ、はっ!!てやあああぁぁぁぁぁっ!!!」

「くうぅぅぅっ!?くそっ、このっ。こんちくしょうどもがああぁぁぁっっっ!!!!!」

 メリアリアの全身は全く無理の掛からない状態のままで、それも自身の扱う“オーバードライヴ”以上に超過活性を果たす事となったのであり、それが彼女をして、普段の何倍もの卓絶した戦闘能力を付与するに至っていたのであるモノの、しかしそれでもウルバンニは何とかその場に踏み留まる事が出来ていた、自身の魔力と波動とを体内において何重にも練り込み、それを神経の、即ち脳と体の隅々にまで行き渡らせて持てる潜在能力を余すこと無く発揮しては、この金髪碧眼のいばら姫から繰り出される華麗なるソニア・ウィップの連撃を、何とか躱して続けていたのだ。

 ちなみに。

 この間、蒼太もまた、メリアリアにエネルギーを供給しつつもウルバンニに対する攻撃に参加しては彼女をヒヤリとさせはしたモノの如何せん、彼では“オーバードライヴ”を使ったとしてもウルバンニの攻撃を防ぐだけで手一杯でありとてもの事、その隙を付いては致命の一撃を与える、等という芸当は不可能に近かったのであった。

 それでももし、蒼太が万全の状態であったのならば、いつかのルクレール戦で見せたように敵の攻撃を凌ぎつつ、また或いは“積極的なる攻勢防御”に打って出てその鋭峰を封じ込めながらも相手の疲労を待って攻撃に転じる、等という手段も残されていたかも知れなかったがしかし、今の段階でのそれは極めて難しい注文であり、彼にしてみればまさしく天地を逆さまに引っ繰り返すのと全くの同義語的要求に他ならなかったのである。

「・・・・・っ!!!」

「ふっ、ふっ。ふうぅぅぅ・・・っ!!はあぁぁっ、せや、てやっ。てりゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「はあっ、はあっ!!うわあぁぁっ!!?このっ、ちいいぃぃぃっ。そりゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 それでも蒼太は戦い続けた、彼にしてみれば自身の可愛い最愛の女性に、“愛してる”と言うのみならずにそれをずっと体現し続けてくれている唯一無二なる愛妻淑女に、この過酷な戦場の全てを背負わせる事など、絶対にあってはならない事だったからだ。

 それに加えて。

 メリアリアとウルバンニは互いに恐ろしい戦闘を繰り広げつつあった、メリアリアは言わずもがな、最上で摂氏2000000度に達するとも言われる太陽の光炎をその身に纏い、片やウルバンニもまた、触れるもの全てを掘削して行く“圧搾力場”とでも言うべきモノを全身から解き放ちながらも互いに火花を散らしていたのであり、そしてー。

 当然の帰結として、そんな二人の間には度重なる激突の際に蓄積して行った、極めて純度の高い高エネルギーの“波動法力粒子帯”の猛烈なる奔流が渦を巻いていたのであり、それが極めて危ういバランスを取って辛うじて均衡を保っていたのであるモノの、この“高エネルギー干渉力場”は最早、いつ決壊してもおかしくない程の衝撃能力の昂りを見せていたのであって、それがもし暴発してしまったのならば、この辺り一帯が吹っ飛び兼ねない程の、超激性的破壊爆力を秘めていたのである。

 しかもその上ー。

「永久(とこしえ)に燃ゆる火の雷よ、大いなる火球の蒼穹(そうきゅう)よ。我が手に宿りて力となれ・・・っ!!」

 事態はそれだけに留まらなかった、彼女達の遥か後方においてはアウロラもまた、新たな呪文の生成に取り掛かっていたのであるモノのこの時、彼女は万が一にも蒼太とメリアリアとが揃って後退して来ても良いようにと、その援護も兼ねて大気中より分離、抽出させたる超高密度かつ大量の圧縮プラズマを敵の頭上で直接炸裂させる事によりその効果を発揮する“爆雷魔法”を顕現させていたのであって、もし二人が回復を要する状況にでも直面してしまった場合においては躊躇う事無く自分が前面に押し出でて行き、この魔法をウルバンニ目掛けて力の限りに叩き付けてやるつもりであったのだ。

 しかし。

「・・・・・っ!!?」

「くうぅぅぅ・・・っ!!!」

(拙いな・・・)

 蒼太が思うがこうも“高エネルギーの暴風雨”が吹き荒れている状況下ではそれすらも危険な大博打になる可能性があって、そしてそれはアウロラにも充分過ぎる程に理解する事が出来ていたから互いに手詰まり状態に陥ってしまっていた、既にそれほどまでに多大な法力と魔力、オーラと波動とがメリアリアとウルバンニの間には充満してしまっており、それは例えるのならば小さな山小屋か何かがあったとして、そこにもう、これ以上入らなくなるまで大量の火薬が詰め込まれるだけ詰め込まれた挙げ句に、そこに更にガソリンか食物油のような“燃焼誘発剤”がぶっ掛けられたような状況だったからである。

「くううぅぅぅ・・・っ!!!」

「ちいいぃぃぃ・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

(ど、どうしようっ。このままじゃ蒼太が、この人が。ううん、この人だけはなんとしてでも・・・っ!!!それに街の皆だって!!)

(ちくしょうがっ。無関係な奴らまでがぶっ飛んじまうってのに・・・っ!!!だけど・・・!!)

(どうしたら、良いのでしょうか。蒼太さんだけは何としてでも無事に帰したいっ。だけど、それをするためには・・・っ!!?)

 この時。

 正直に言って蒼太もメリアリアもアウロラも、そしてウルバンニすらもが自分達の置かれている“危険すぎる極限状態”を意識せずにはいられなかった、もし何某かの切っ掛けで、力の均衡が崩れたらならば、飛び散った火花が凝縮された高エネルギー粒子帯に引火してしまったならば。

 この場から誰一人として生きては帰れないであろう事を、ハッキリとイメージさせられたモノの、さりとてここでこの戦いを止める事は出来なかった、それをやれば結局は均衡は崩れて崩壊し、そこから一気に溜まりに溜まった波動爆力が噴出してしまうからである。

 ではしかし、どうしたらよいのか、と言う良案を、誰も持ち合わせてはいなかった、メリアリアとアウロラは、自分は犠牲になったとしてでも蒼太と街の皆は守りたいと考えており、ウルバンニもまた弟達を庇う意思を明確にしていたのであるモノの、現実問題として誰も彼もが皆、それに対する具体的な手段を講じる事が出来ずにいたのだ。

 そうしている間にも。

 エネルギーは高まり続けて行き、そしてそれは遂にはアウロラの“爆雷魔法”をも取り込んで行ってしまった、下手に力を加えれば干渉力場の炸裂は避けられない、と悟った彼女はだから、切歯しながらも暴走エネルギーの一部と化してしまう己の呪文を見送らざるを得なかったのだが、事ここに及んで最早、メリアリアにもウルバンニにも“後退”と言う選択肢は存在しなかった、二人に残された方法はただ一つ。

 必殺必中なる一撃を放ち合っては相手との決着を着けると同時に勝った方が命を懸けて爆力波動の全てを受け止め、余す事無く押さえ込む、その筈であったがー。

「メリー、アウロラ・・・ッ!!!」

「・・・・・っっっ!!!!!?」

「蒼太さん・・・っっっ!!!!!?」

「二人とも、必ずっ!!」

 “守ってあげるね!!”とそう告げると後戻りの出来ない状況に陥ってしまう前に行動を起こした存在がいた、黒曜石の双眸に、静かなる勇気と決意とを宿したままで“彼”はその一瞬にも満たないタイミングに、万に一つの可能性にその場にいた全員の命運を掛ける事にしたのである。

 即ち。

 自身の波動を極限にまで高めると同時にそれを極一点にまで超集約させ、その一方で最早、“不完全なる時空の連続体”と化してしまっている干渉力場の全エネルギーを“ナレク・アレスフィア”へと向けて纏わり付かせる、そうしておいてー。

 そのままそれを両手で以て宙(そら)へと掲げ、エネルギーが臨界を超えて炸裂する、その刹那にすら満たない閃刻の極瞬に一挙に己の波動を暴発させて起爆剤と化させ、爆力の奔流を天空へと逃がそうと言うのだ。

 勿論、そんな事をすればその中心にいる人物は只では済まない、放出されるエネルギーの総量は現存している蒼太の波動と同等かやや上であるし、それに加えて打ち上げの反動も想像を絶するモノがある筈である。

 しかし。

「・・・・・っ!!!」

(“神威・神風迅雷”の要領で吹き飛ばすようにすれば・・・。上手いこと暴発力だけを逃がせる筈だ・・・!!)

「だめええぇぇぇっっっ!!!!!」

「止めて下さいっ、蒼太さんっ!!!」

「・・・・・っっっ!?!?!?」

(な、何しやがるんだ!?アイツはっ!!!)

 彼の大胆不敵な行動に、決死の覚悟で立ち向かうその勇姿にその場にいた誰もが思わず動きを止めるモノのそれでも。

 “ここはもう、やるしかないっ!!!”と腹を底から固め結ぶと蒼太は自分自身のエネルギーを体内において燃え上がらせると同時にそれを中心へと向けてどこまでもどこまでも、思いっ切り集中させ始めた、その波動法力はやがて煌めき輝く光球となり、それはもういっそ一つの小宇宙(コスモ)とでも呼べる程のモノへと昇華精錬されて行くモノの、それと同時に蒼太は暴走力場の奔流を剣へと向けて纏わせ始めてメリアリアの周辺から、そしてウルバンニのそれらからも、溜まりに溜まった裂帛烈火の全エネルギーを己が身と精神とで余す事無く引き受け切っては引き剥がし続けて行ったのだ、そうしておいてー。

 そのあまりにも荒れ狂う、いっそ重々しいまでに召斂、倍増してしてしまっていた高エネルギー波動帯を球体状に収集させると天空高く掲げ上げ、それと同時にタイミングを見計らって自身の波動光球との間に強大なる反発力を生成して行き、最後の最後でそれらを一方方向へと向けて一気に“バアアアァァァァァンッ!!!!!”と弾けさせた、その瞬間。

 ゴアアアァァァァァッッッ!!!!!と言う轟音と同時に猛烈なまでのエネルギー流が怒濤となって蒼穹の彼方へと向けて疾走して行き、極限まで溜め込まれていた暴走波動はその逃げ道へと向けて殺到、地上は静寂を取り戻したがー。

「・・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!!!」

「・・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!!?」

 やがてその、強大無比なる干渉波の奔流が全て解き放たれ切った時。

 そこには死んだように倒れ込んでいた蒼太の姿があった、着ている物はボロボロに破れ果ており、全身に酷い火傷を負っている。

 切り傷や裂傷は数知れず、彼の周囲は血の海と化してしまっていたのだ。

「い、いや・・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!」

「う、うそ・・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!」

 そんな最愛の夫の姿を、思い人の容態を。

 信じられないような面持ちで凝視していたメリアリアとアウロラだったが次の瞬間。

 二人は恐る恐る、しかし一斉に素早く駆け出していた、一刻も早くに、彼に賭け寄ってあげたかったがしかし、足が鉛のように重くて足下も覚束ない。

 体力の大半を、使い果たしてしまっている上に蒼太の体状を確かめるのが恐くて恐くて下半身に力が入らなかったのだ。

 ・・・それでも。

「あ、なた・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!?」

「蒼太、さん・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!?」

 何とか彼の元まで来ると、青空色のその双眸を、涙でいっぱいに満たし湿らせたまま、力無く膝を付き、倒れ伏している彼へと向けて手を伸ばすが、その平にはー。

 真っ赤な血液が大量にベッチョリと付着していた、それだけではない、彼の体全体が信じられない位に熱くて触った瞬間思わず“ひっ!?”と言う声が漏れてしまうが、しかしー。

「あ、なた?あなた。ね・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!」

「起きて下さい、蒼太さん。嘘でしょう・・・・・・・っっっっっ!!!!!!?」

 それでも二人は構わずに、まるでしがみ付くかのようにして蒼太に触れては揺さ振り続けた、嘘だろう、と心底思った、つい今し方までは元気に生きていてくれたのに、その立派な出で立ちを見せてくれていた、と言うのに今はもう、物言わぬ呈で地面に横たわってしまっている、しかもその上ー。

 こんなにも大量の血潮を流れ出させて揺蕩(たゆた)えたままで、眠るように動かずにいる彼を見た時。

 段々と実感が湧き上がって来た、夫が死んでしまう、蒼太が居なくなってしまう、それだけは嫌だ、絶対に嫌だ!!

「い、いやっ。嫌あぁぁ・・・っ!!」
 
「ダメ、ダメエェェ・・・ッ!!」

 心の底から声を絞り出すと同時にワナワナと震え始めた二人の全身からはしかし、先程までとは打って変わって穏やかで暖かくて、しかし眩いばかりの力強い、白を基調とした七色の光の輝きが溢れ始めて蒼太を包み込んでいった、それは二人の蒼太への純粋なる祈りの証そのものであり混じりっ気の無いどこまでもピュアで一途な真摯なる真愛(まな)の迸りであったのだ、それが。

「いやあああぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!!」

「ダメエエエェェェェェーーーッッッ!!!!!!!!」

 限界を遥かに超えて解き放たれ、蒼太の体をこれ以上無い位にまで真っさらに照らすと同時に。

 奇跡は起きた、二人の魂底からの叫びに反応するかのようにして光が一挙に極大化したかと思うと、何とそれまで倒れ伏したまま、ピクリともしなかった蒼太が“う、う・・・っ!!”と呻いて指先を動かし、眥(まなじり)を震わせて、やがて。

「あなたっ。ああ、あなたっ!!!」

「蒼太さんっ!!!」

 ゆっくりとその両の瞼(まぶた)を開き始めて行くモノの、それを見たメリアリアとアウロラは狂喜乱舞して蒼太の名を呼び、耳元で必死に語り掛け続けて行くモノの、それは先程までの可憐で凛々しい戦士のそれでは決して無かった、どこまでも純朴で清らかな乙女の姿、そのものだったのである。

「メリー、アウロラ・・・っ!!!」

「あなた、あなたっっっ!!!!!!!」

「蒼太さん、蒼太さんっっっ!!!!!!!」

 やがて光が収まった時ー。

 そこには先程までと少しも変わらぬ、五体満足なままの蒼太の姿があった、その身には傷一つとして付いてはおらずに精気も覇気も些かも衰えて等はいなかったのである。

「二人とも、有り難う。本当に有り難う!!」

「ああっ。あなた、あなた・・・っ!!!」

「蒼太さん、良かった。本当に・・・っ!!!」

 立ち上がった蒼太にしっかりとしがみ付きつつも、メリアリアとアウロラとが、涙ながらに口にするがこの時、蒼太の波動も体力も完全なまでに回復しており、その集中力や感覚等は寧ろ、倒れる前より一層、鋭いそれへと変わっていたのだ。

 だから。

「そこの。名前は知らないけれども、まだやる気なのか・・・?」

「・・・・・」

 二人をしっかりと抱擁しつつも蒼太は油断なくウルバンニの気配を探り、張りのある声でそう問い掛けるが、そんな彼からもたらされた言葉にさしものウルバンニも“いいや”と頭(かぶり)を振って応えた、どうやったのかは解らないモノの、あの蒼太と言う青年は万全の状態にまで蘇ってしまっており、それに対して此方は満身創痍な挙げ句に魔力も使い果たしてしまっているのである、到底、勝負にはならなかった。

「今回は、我々の負けだ。引かせてもらう・・・」

「そうか、それなら速いがそうは行かない!!」

「・・・・・っ!!!」

 そう叫ぶや否や、蒼太は一瞬の間にそれまで見たことも無い手印を結んで真言を唱え、ウルバンニをアッサリと拘束して見せたモノの、それがどうやってなされたのか、と言う事については当のウルバンニにすらも全く理解が出来なかった、ただただ“それ”を喰らった瞬間全身から力が抜けて行き、手足の先にまで意思の力が全く伝わらなくなってしまったのだ。

「ちょうど良かった、お前達には聞きたいことが山ほどあるんだ。色々と喋ってもらうぞ!!」

 蒼太の言葉に呼応するかのようにしてそれぞれ、アルフォンソやメルコット、エクセルラの体にも不思議な印字が浮かび上がって来ては彼等の自由が奪われたのが解った、舌を噛み切ろうにもその力すらも入らないためウルバンニはどうする事も出来なかったのである。

「メリー、アウロラ・・・ッ!!」

 再び二人の名前を呼んではもう一度、“有り難う”と感謝の意を顕しつつも、蒼太は深々と頭を下げるがその一方で、心の中の深い部分では“間違いない”と確信していた、メリアリアに助けてもらうのはこれで都合、3度目になるモノのやはり、彼女には何らかの、神代から続く超越的なるパワーが備わっているのであって、それが事ある毎に発揮されては自身を幇助し、導いて来てくれたのだと、思わずにはいられなかったがそれと同時に。

 今回、新たに蒼太を驚愕させた出来事があった、まさかアウロラもまたメリーと同じだったなんて!!!

(信じられない。一体全体どうなっているんだ?何者なんだ、この子達は・・・!!!)

 妻に対する深い愛情と、アウロラに対する大いなる謝思とを抱きつつも蒼太はしかし、彼女達の持つ“神秘的な何か”についての思いを馳せずにはいられなかった、“自分はなんて果報者なんだろう”、“なんて幸せなんだろう!!”と思わずにはいられなかった、このような偉大でピュアな女の子達と出会えた事に、結ばれた事に、思いを紡ぎ出せて行けた事に改めて感動しつつも“行こう”と言って自分達も、先発していた親衛隊の面々を追う形でヴィクトー邸へと突入していったのである。

 目指すは“ヴィクトー・ヤニス・ド・フォンティーヌ”の身柄拘束と“ガイアの青石”の確保である、これらが済んだ暁には、全ての謎が明らかとなり今回の一連の首謀者でもある“エイジャックス連合王国”は“ガリア帝国”の足下へと平伏(ひれふ)す事になるのだ。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

(メリー、アウロラ。この子達は、一体・・・!!)

(でも良かった。本当に良かったわ、蒼太が無事でいてくれて!!でも・・・)

 自身の愛しい夫(ひと)と共にヴィクトー邸へと向けて走り出しつつも、メリアリアは考えていた、“だけどあの一瞬のアウロラが見せた、あの煌めきの正体は!!”と、そして。

(蒼太さん、助かって良かった!!だけどあの時のメリアリアさんから放たれた、あの純粋なる輝きの本質は、まさしく・・・!!)

 蒼太が無事でいてくれた事に、魂の底から安堵しつつも、メリアリアもアウロラも、それぞれ相手が見せた、あの暖かくて確かなる光の意味するモノへと向けて、思いを巡らせ続けていたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
 このお話しの最後の最後で、ようやくメリアリアちゃんもアウロラもそれぞれ、お互いが持っている蒼太君に対する深い思慕と確かなる愛情に気が付きまして、それを少しずつ理解して行く事になります(そしてそれは蒼太君もまた同じです)。

 これでようやく、アウロラが花嫁としてのスタートラインに立てました(即ちメリアリアちゃんと同じ立ち位置に立てた訳です)、もっともまだこの後も二人の間で(そして蒼太君を含めました三人の間で)、色々と葛藤は起きますけれども基本的な所はクリアしました、これも皆様方の御声援のお陰です、本当に有り難う御座いました。

 まだまだ物語は続いて行きますけれども(皆様方の御期待に添えるように、頑張って行く所存です)、どうか今後とも変わらぬ御愛顧、御愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。

                      敬具。

                ハイパーキャノン。

             追伸です。

 今回、アウロラが初めて使用しようとしておりました“爆雷魔法”についてなのですが。

 これは余りにも高火力かつ有効範囲の大なるに過ぎる(そしてついでに言ってしまえば、発動までの時間がかかり過ぎる)“星震魔法”をより“適正威力”、“適正範囲”に設(しつら)え直して通常の戦闘でも使用出来るように組み直した物です。

 ただそうは言ってもこれでも結構な威力になります←アウロラは当初、これをそれなりに上空で破裂させ、その衝撃波と圧力で以てウルバンニにダメージを与えようとしていたのですが、途中で“暴走エネルギー場”に取り込まれてしまい、逆にそこに更なる力を与えてしまう結果となってしまいました。

 なので今回は活躍出来ませんでしたが次回以降でその威力が遺憾なく発揮されるようになると思います(それまでもう暫くお待ち下さい)。
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