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ガリア帝国編
姉妹の矛盾
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蒼太とメリアリアがそれぞれ戦線を展開していた頃、一方でアウロラにもまた、決戦の秋(とき)が近付きつつあった、彼女が蒼太、そしてメリアリアの援護に更に踏み出そうとした折にー。
一人の少女がその前に立ちはだかるがその出で立ち、雰囲気は何処となく自分に通じるモノがあると、アウロラは感じていた、特にー。
そのミディアムヘアの群青色の頭髪は、色素や量が若干違えども、確かに自分の珍しいアイスブルーの青髪と比較して遜色の無い鮮やかさを放っていたのである。
ただ一つ、違っていたのはー。
“艶やかさ”、それであったが向こうの髪の毛はどうしたわけか滑らかさと言うか、光沢が無くて死んでいる感じを受けてしまう。
アウロラの、夕日を浴びて美しく照り返るようなそれとは実に対照的な景観だった。
「初めましてだね」
「・・・・・」
「私は“カインの子供達”の内の一人、“暴水のエクセルラ”。・・・あなたは?」
「セイレーンの女王位が一人、アウロラ・フォンティーヌと申します。ごきげんよう、エクセルラ・・・」
「へえぇぇ・・・」
とその仕草を見たエクセルラは感嘆の声を漏らした、アウロラの見せた礼儀作法が実に上品だった上に、まさに絵に描いたように枠に嵌まっていたからである。
「セイレーンは、お嬢様まで駆り出すんだ。容赦ないのね・・・」
「そうでもありませんわ」
とアウロラは“わざと”お嬢様言葉で相対して見せた。
「セイレーンは優しい所ですわ。皆さんもとても暖かいですし、お仕事もとっても楽しいですし!!苦しい時もありますけれども、皆様と一緒ですと苦にもなりませんわ!!!」
「・・・・・っ!!!」
その言葉遣いが堪に触ったのか、エクセルラがピクリと反応した、彼女は別にお嬢様が嫌いでは無かったが、こう言う場合に悠長優雅な話し言葉で話をされると多少、感情の海に波風が立つ。
「お嬢様ならお嬢様らしく、引っ込んで習い事にでも精を出してなさい。ここは貴女のような女性(ひと)が来るところでは無くってよ?」
「御忠告わざわざどうも有難う御座いますわ、エクセルラ嬢。だけど引くわけには参りません。私の夫が命を懸けてこの場に押し出してきているのですから、妻のする事はただ一つです!!」
「・・・・・」
「どこまでも夫に付き添って共に生き、死ぬ事です。あの人を守る盾となり、あの人の為の剣となって立ちはだかるモノ全てを粉砕する。それこそが妻の妻たる所以であり、私の私たる謂れなのです!!」
「解った解った、もう良いわ!!」
とエクセルラは半ば嘲笑するように言い放った、“貴女の気持ちは良く解ったから”とそう告げて。
「だからね、アウロラ・フォンティーヌ。ここは貴女のようなお金持ちの、世間知らずが来るような場所では無いの、戦士達の居場所なのよ?それがお解りにならないのかしら?」
「ご心配なく」
とそれに対してアウロラは、あくまでも冷静なまでに的確に、かつお上品に対応するモノの、エクセルラは一つ、とんでもない誤解をしていた、今目の前にいる青髪の令嬢が、単なる世間知らずな箱入り娘か何かであると訳も無く思い込んでいたのだ。
確かにアウロラは物腰は柔らかいしお淑やかでお上品な、貴族の令嬢に相応しい気品、嗜みを身に付けていたモノのその実、心の芯は恐ろしい程に強くて一度こうだと思った事は絶対に曲げなかったしその上ー。
向こうっ気が強くて負けず嫌いな、典型的なお転婆娘そのものであったのである。
「私、こう見えましてもそちら方面でも少々、腕に覚えが御座います。気に掛けていただくほどの事は御座いません」
「・・・・・っ!!!」
アウロラがそこまで言い終わった時だった、エクセルラの身に潜む魔力が急速に膨大していき、その華奢な体の中で激しく渦を巻き始める。
「なんなら生かして帰してやろうと思ったけれども・・・。余計な手心だったみたいねアウロラ、死になさいっっっ!!!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?」
そう叫んで次の瞬間、アウロラにはエクセルラから溢れ出したる巨大な魔法力の奔流が、グオオォォォッ!!と言う轟音と共にまるで荒れ狂う大洪水のような怒濤となって襲い掛かっていった、その渦中では火炎、閃光、爆発の三つの呪文が次々と生成されては入滅する、と言った事が繰り返されておりまともに食らえば確かに、その身は一瞬で消滅してしまうであろう事は疑うべくもない事実であったが、しかし。
「・・・・・っ!!!」
そんな強大なる魔法の濁流を目の前にしても、アウロラは少しも慌てる事無く“それ”が生み出す暴風にアイスブルーの美しい頭髪を棚引かせていた、かと思うと。
一瞬にも満たない刹那の間に自身もまた魔法の洪水を精製させては彼女はその流を上に向かって走らせ始めた、ここは都会の一等地であり、しかも狭い範囲に仲間達が密集している、そんな場所でもし、これだけの魔法力を正面衝突させたならどんな被害が出るのか、計り知れないと、本気でそう心配したから行った処置だったのである。
結果はそれは“吉”と出た、アウロラの宙(そら)へと向けて解き放たれている、強大なる光の柱にぶつかった魔法力の洪水はその場で虚空へと四散して行き、後には静寂だけが残される結果となった。
「・・・・・っ!!!!!」
(この子・・・っ!!)
そんなアウロラの咄嗟の反応を見て、エクセルラは内心で思わず驚愕してしまっていたのであるが、それというのも今、目の前で涼しげな顔をして立っているアイスブルーの髪の少女はただ単に類い稀なる魔法力とその才能を有しているのみならずに法術に対する知識、理解力をも半端なく持ち合わせており、おまけに感性も鋭いモノがあるようだ、それに加えて応用力までをも持ち合わせている、戦ったなら意外と苦戦するかも知れない。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“やるじゃない、アウロラ”とエクセルラが告げるがアウロラはそれに対してニッコリと微笑んで見せた。
「・・・・・っ!!!」
(癪に障るわね・・・!!)
エクセルラはそう思うと同時に片手の平に火炎球の術式を精製させるとそれを宙に向かって掲げつつ、徐々に巨大化させて行くが実はエクセルラはその中心部分に爆発呪文のエネルギー光球をコアとして埋め込んでおいたのである。
それをハープーン・ミサイルの要領で一度空中へと向けて射出した後、弾道を描いて落ちてきた所で炸裂、辺り一帯を爆炎で覆い尽くそうとしていたのだ、しかし。
その企みは、アウロラが放った多重閃光呪文の超収束射撃によってあえなく爆散した、“キイイィィィンッッッ!!!!!”と言う音響いて来た為にそちらを見ると、アウロラの頭上にも何やら四つの光の明るく光る球体が菱形の形に並んで浮かび上がっており、そこからー。
極限まで圧縮された、レーザービームの光の束が照射されたかと思うとそれが中央部分で極集約され、一気に一つの巨大な閃光となって宙を疾走、エクセルラの生成していた大火球の中心部分を容赦なく撃ち抜いたのだ。
「・・・・・っ!!!?」
「う、うわっ。ばかっ、危ない!!」
それはエクセルラと同時にその後方で待機していたもう一人の少女、ウルバンニすらも巻き込む形で炸裂し、強い衝撃波が駆け抜けた後で周囲が紅蓮の炎に包まれて行った。
「きゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?」
「うわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
それに飲み込まれた二人が方々の体で吹き飛ばされ、焼き焦がされて行った、魔法や炎に対する耐性が無い一般人であるのならば、一瞬で体はバラバラ、真っ黒焦げの焼死体になる所であるが、しかし。
「う、うぐぐぐぐぐ・・・っ!!!」
「ぐっはああぁぁぁ・・・っ!!!」
エクセルラもウルバンニも、一廉(ひとかど)以上に鍛え上げていたお陰でそれなりには打ち身と火傷を負ったが多少、命を削り落としただけで済んだ、致命傷には至らなかった訳である。
「エ、エクセルラッ。あんたね・・・っ!!」
「ご、ごめんなさい。姉さん・・・」
「・・・・・!!?」
(姉さん・・・?)
それをつい、聞いてしまっていたアウロラは思わず耳を疑った、普通は逆だろうと思った、どう見たって彼方の小さな少女の方が妹でありエクセルラと言う少女の方が姉である気がしてならないのであるが。
(体の成長が、途中で止まってしまった方なのでしょうか・・・?)
アウロラが珍しく困惑を露わにしているとー。
「アウロラさん、やっちゃって下さいっ!!」
「見たか、閃光呪文の威力を!!」
「あんた何もやってないじゃん!!」
「・・・・・」
後ろで親衛隊の面々が騒ぎ出していた、最初はそれを聞き流していたアウロラだったが段々とムカッ腹が立って来ていた、“一体何をやっているんでしょうか、この人達は!!”と彼女にしては珍しく、かなりの激昂がゆっくりと首を擡(もた)げてストレスが溜まり始めて来るモノの、しかし。
「あの・・・。皆さん、盛り上がっているところ、大変申し訳ないのですが」
とアウロラはそれでも自分を抑えて丁寧に、あくまで礼節を保ったままで彼女達に語り掛けた。
「私達が戦線を支えていますから、あなた方は屋敷に突入して叔父様を・・・。ヴィクトー氏の身柄を拘束してきて下さいません?“ガイアの青石”の在処も何処だか探っていただきたいですし・・・!!」
「ああっ、そうだよ!!」
「そうそう、それそれっ。それですよっ!?」
「私達もそう思ってたんですよ!!」
“嘘付けや!!”とその喧騒を、少し離れた場所で聞いていた蒼太が思い、“絶対に嘘だわ!!”とメリアリアもまた同じ思いを抱いていたのであるモノの、どうにも彼女達にはノエルと通じる所があるのであり、戦場を“悪い意味で”引っ掻き回してくれる特殊技能が備わっていたのだ。
(解っているのならば)
とアウロラは思った、“早くやって下されば良いのにっ!!”と、敵よりもむしろ味方にイライラと来てしまう自分のテンションを必死になって捩じ伏せながらも、彼女は“それでは直ちに突入して下さい”と言っては彼女達の背中を押してやろうとするモノの、そこへ。
「そうは行かないわ!!」
とその前にはあの、一番小さな女の子がスックと立ち塞がって道を譲らない構えを見せていた、その全身から立ち上る拒絶と使命感とに裏打ちされた意思の強さは非常な硬さを誇っており、文字通りの“鉄壁”そのものを窺わせる。
「・・・悪いけどね。こっから先は通せないの、弟達がここまで奮戦しているって言うのに、私だけが指を加えて見ている事なんか出来ないわ!!!」
「・・・・・!?」
「はあぁ・・・?」
その言葉に、今度はアウロラのみならずに蒼太も、メリアリアも流石に怪訝そうな顔を見せるが特に蒼太は驚いていた、と言うのはその少女の放つ波動が強さも質も、オリヴィアクラスに近い所にまで膨れ上がって来ていたからである。
「いけない、行くなっ!!」
蒼太が叫んだ、とんでもない誤算だった、アイツを相手にするのならば、自分とメリアリアとアウロラとが本気で連携して一斉攻撃を仕掛けなくてはならないが、とてものこと、今の彼等にはそんな余裕は全く無い。
「行くな、下がれよっ。下がれって!!」
「余所見をしてるとっ!!」
「チイィィ・・・ッ!!!」
叫び続ける蒼太の足下へと、アルフォンソが迫っていた、背を低く落として小走りに駆け、間合いを詰めて素早く接近、彼の太腿に狙いを定めるモノの、蒼太はそれを跳んで交わすとそのまま上段から刃を振りかぶって頭上へと叩き下ろした、しかし。
ガキイィィィンッ!!!と言う激突音と共に刃は止められ、刀と剣が交錯するモノの、二人の実力は全くの互角であってどうにもこのまま決着が着けられそうには甚だ無かった。
「首がもげるぞ?蒼太とやら・・・!!」
「生臭坊主が・・・っ!!」
(くそっ、このままじゃ・・・っ!!!)
鍔迫り合いを演じつつも蒼太が呻くがこのままではどうにも埒が明かずに全員、あの鬼神の如き波動能力を秘めている小さな少女に踏み潰されてしまうだろう、“神人化”出来れば話は別だがこの状況下でおいそれとそれが叶うとは到底、信じられない。
頼みの綱はただ一つ、メリアリアとの間に“ハイラート・ミラクル”を成立させてこの戦況を逆転させ、連中を一網打尽にするしかもう、道は残されていなかった、その為には。
「アウロラッ!!!」
堪りかねて蒼太が叫んだ、今一番、戦線を優位に展開しているのはアウロラだった、ここは彼女に動いてもらう以外に道は無い。
「頼むっ。僕とメリーがコイツらを突破してそちらに着くまでの間、もう少し戦線を支えてくれっ、あの子達を行かせないでくれ!!理由は後で説明するから!!!」
「蒼太さん・・・っ?」
「アウロラ頼むっ、あの子達ともう少しだけ粘ってくれ、必ず加勢に行くからっ!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
“解りましたっ!!!”とアウロラは、元気いっぱいにそう応えた、“私、必ずこの場を持ち堪えさせて見せますっ!!”と。
「あなた達!!」
そう叫ぶとアウロラは、矢継ぎ早に自分を中心とした攻撃力、素早さを増大させる補助呪文系魔方陣を瞬時に展開させ始めた。
「うおおおっ!?なんじゃこりゃっ!!」
「凄いっ。力が漲って来るような・・・!!」
「体が軽いっ、まるで風になったかのように!!!」
「その魔方陣の中にいる限りは、あなた達の力は全てにおいて倍になります、その中で戦って下さいっ!!」
「巫山戯るなよ!?」
するとそれを聞いたウルバンニが忌々しそうに激怒した、そして“エクセルラッ!!!”と傍らでまだ蹲っているままの、妹に呼び掛ける。
「いい加減にシャキッとしなさいっ!!早くこっちにもバフを掛けて!!」
「そ、それが・・・!!」
とエクセルラは困惑した表情で姉に応じた、“魔法が思ったように出せないの”とそう告げて。
「魔力が、集約して行かないの。不思議な力場がこの辺り一帯に張られていて、皆拡散してしまうっ!!!」
「なんですって・・・っ!!?」
「上を、御覧になられたら如何ですか?」
“そんな馬鹿な!!?”と告げて狼狽を露わにするウルバンニに対してアウロラはあくまで冷静に、上空を指差して見せたが、するとー。
そこにはいつの間に展開されたのか、“魔術封じ”の光の術印の刻式がハッキリと浮かび上がっており、そしてそれはエクセルラをその対象の中心に置いていたのだ。
「・・・・・っ!!!?」
「な、に?これは・・・!!」
「一番最初にあなた方の攻撃を受けた際に、魔法の怒濤を上空へと向けて打ち上げたでしょう?あの時に・・・」
“光円陣を展開するように、仕組んでおいたんです”とアウロラはにべも無くそう応えた、“自分と同じ感じのする相手”と戦うことに対する、彼女なりの最大の用心だった訳である。
それがここに来て、戦力の決定的差となって現れて来ていたのであったから、彼女の狙いと目算とは、大まか当たっていた事になる。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・」
(してやられた!!)
ウルバンニは素直にそう思った、涼しい顔をしてとんでもないタクティクスを駆使する女だと正直に思った、まさか最初からこちらの呪文を封じ込める事が目的だったなんてっ!!!
(それをあの一瞬のカウンターでして見せたってのか?こちらの攻撃を防ぐと同時にこちらの呪文を封じ込める算段を整えていたとっ!?だとしたらとんでもない使い手だ、恐ろしい程に強かな相手だっ!!!)
事ここに至ってようやくにしてウルバンニとエクセルラは、目の前の令嬢が、只者では無い事を認めざるを得なくなっていたのである。
「やってくれるな、アウロラとやら・・・」
「懇切丁寧、優しく指導。どんな相手にも礼節を持って応対する事こそが、フォンティーヌのしきたりですから・・・!!!」
あくまでクールに決めるアウロラに対してしかし、二人はもう何も言わなかった、セイレーンの女王位、侮る事は出来ないと思ったし、それに何よりかによりも。
(コイツだけは、間違いなく今ここで倒しておかなければならない!!!)
そう思ってウルバンニが、アウロラに対して喰って掛かろうと身構えた、その時だ。
「させるかよおぉぉぉっ!!!」
気合い一閃、親衛隊の面々が、ウルバンニ目掛けて突っ込んで来た、アウロラが掛けた魔法のお陰で攻撃とスピードに限って言えば、速度が倍になっていた彼女達はまるで乱舞するように、次々とウルバンニ、エクセルラの両名に攻撃を集中させていったのである。
特に。
「ふざけんじゃねーぞ!!小バエ共がっ!!!」
ウルバンニに対してのそれは凄絶を極めた、いつもは(と言うより戦闘の最中すらも)巫山戯まくっている親衛隊員達であったがやはり、本当にやるべき時にはキチンとやってくれるのであり、皆それぞれが真面目な顔をして、或いは薄ら笑いを浮かべながらもその瞳だけは真剣に相手を見据えて突撃しては一撃を加え、直ぐにまたサッと離れる、と言う“ヒットアンドアウェー”を集団で見事に繰り返していた、その連携も的確であり、相手に反撃の隙も逃げ出す隙も与えなかったがしかし。
「うおりゃ、ぬうぅぅぅっ。てやあぁぁぁっ!!!」
ウルバンニはその連続集中攻撃に、見事に耐え凌いでいた、彼女がパーカーを脱ぎ捨てると下には道着と思しき装着具と胸当、手甲とが装備されており、よく見るとジーンズも脛の辺りが膨らんでいる。
どうやら脛当てか何かを装着しているようだが、流石にそこまでは解らなかった、否、関係無かった、と言っても良いが、要はするに相手を戦闘不能にすれば良いだけであって、その為には基本、防具の隙間を狙う事が攻撃の要となる。
しかし。
「うおりゃあぁぁぁぁっ!!?」
「く、くそっ!?コイツ・・・!!!」
「強い・・・!!!」
隊員達が呻くモノの、ウルバンニは攻撃が決まるか決まらないか、と言うギリギリの一瞬を正確に掴んでは隊員達の繰り出す剣や槍等を手甲や胸当てで防いで逸らし、反撃する、と言った事を繰り返していた。
その反応の鋭さと速さ、正確さは強化魔法を掛けられている筈の親衛隊員達から見ても、尚も恐怖心を駆られる程のモノであり、現に何度かはウルバンニの繰り出す手刀や横凪等が決まりそうになった事さえあったのである。
しかもその内。
「ハア、ハア・・・ッ!!」
「く、くそ・・・っ!!」
(息が・・・っ!!)
限界を超えて激しく動き回っていた為に、体力が底を尽き掛けてしまっていたのであるが、それを見たアウロラは更に傷や体力が自動で回復する事の出来る魔方陣を生成しては親衛隊員達全員を、その効果の只中へと置くことに成功するが、その最中ー。
蒼太達にも動きがあった、鍔迫り合いと打ち合いとを何度となく繰り返していた蒼太だったがアウロラが施した魔方陣に気が付くと、気づかれないように時間を掛けてではあったモノの、相手の顔面に小さな真空魔法を発動させてアルフォンソの気を逸らさせ、その隙にー。
彼を力いっぱい蹴り飛ばさせて体勢を崩させた、そうしておいてー。
彼がそれを立て直す、僅かな間に右横やや後方に大きく跳躍してメリアリアと合流する。
一方の彼女もまた、この“魔術封じ”の術式のお陰で戦闘を有利に展開する事が出来ており、出力が思ったように出せなくなったメルコットを相手に五分以上の状態に、持ち込むことが出来ていたのだ。
(アウロラったら、やってくれちゃって・・・!!)
内心で彼女に感謝しつつもメリアリアもまた相手の一瞬の隙を突いて鞭を撓らせ、出力が落ちた関係上、防御に回ったメルコットの左肩を、その冥獄炎の鞭ごと強かに打ち抜いたのだ。
「あああぅっ!!!!?」
「メリーッ!!」
「蒼太っ!!」
そこへ蒼太がやって来た、二人は思わず抱き合って良かったと顔を見合わせあった、それにしてもアウロラは凄いと思った、たった一人でこの戦場を、支配してしまうなんて!!
「お陰で、助かったよ!!」
「本当よね、ビックリしちゃった・・・。って今はそれどころじゃ無いんでしょう!?」
「うん、そう。そうなんだよ、メリー!!」
“ハイラート・ミラクルを使おう!!”と蒼太は言い放った、“この状況を打開する為にはそれしか無い”とそう告げて。
「・・・“ハイラート・ミラクル”?」
「前に一度、言った事があったよね?ほら、異世界の僕達が使ったって言う話を・・・!!」
「・・・ああっ!!」
“聞いたわ!!”とメリアリアが頷くモノの、確かあれは二人で婚約し直後の、エッチの最中での出来事だった、“時の涙滴”を使用して1ヶ月ほど交わっていた折の、休憩していた最中に蒼太からそんな話を聞かされた事があったのだ。
「いつか、君と。“ハイラート・ミラクル”が出来るようになりたいんだ・・・!!」
「素敵ね」
蒼太からの言葉にメリアリアは即座に、本心から応えた、彼女だとてその素晴らしさは良く理解していたつもりであった、“本当に結ばれ合っているモノにしか出来ないとされる、奇跡の婚術”にして“幻の秘技”、それを自分達が使う事が出来たなら。
自分と蒼太は本当に、魂の奥深い領域からすら結ばれ尽くしている事になる、それはとても嬉しくて、愛しくて、幸せな事だったのだ。
「今の僕達になら、それが出来るんだよメリーッ!!君自身はどう思う!?」
「・・・・・」
蒼太に促された彼女が自身も“ハイラート・ミラクル”を使った未来へと向けて、意識を集中させて見た、結果。
暖かくて確かなる絆の波動が、奥底から絶え間なく湧き上がって来る喜びと愛しさとが全身を満たして行くのがハッキリと感じられた、と言う事は!!
「・・・出来る。出来るわ、きっと!!!」
「やろう、メリーッ!!僕らの力を奴らに見せ付けてやろう!!!」
夫からのその言葉に“解ったわ!!!”と言って頷くと、メリアリアは蒼太の手にそっと自らのそれを重ね合わせて行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
メリアリアはどんなにぶち切れたとしても、人に向かって“死になさい”とか“消え失せなさい”等とは絶対に言ったりしません(精々“あっちへ行ってよ!!”ですとか“もう知らないから!!”ですとか、或いは“もう口を聞いてあげないから!!”とかそれ位です)。
もし本当に、怒りが頂点に達したとしても“二度と私達の前に姿を表さないで!!”とかそんな感じの言葉を放つか、もしくはそれに準じる事を行動、態度で表すかのどちらかです。
ですからアウロラに対しても“引っ込んでなさいよ!!”とか“あっちへ行って!!”と言った事はあっても、そう言った汚いスラングを発した事は無かったのですが、ここに来て初めてアウロラは敵から“そう言う事”を言われた訳です。
だけどアウロラは負けません、動じもしません、強い子ですから、ですけど。
強いから、どんな事を言われたって平気な訳では無いんですよ、傷付かない訳では無いんですよ。
蒼太君、アウロラの事も、ちゃんとフォローしてあげておくれよ。
ちなみに“ハイラート・ミラクル”自体はその内、アウロラちゃんとも出来るようになりますけれども先ずはメリアリアちゃんからです。
一人の少女がその前に立ちはだかるがその出で立ち、雰囲気は何処となく自分に通じるモノがあると、アウロラは感じていた、特にー。
そのミディアムヘアの群青色の頭髪は、色素や量が若干違えども、確かに自分の珍しいアイスブルーの青髪と比較して遜色の無い鮮やかさを放っていたのである。
ただ一つ、違っていたのはー。
“艶やかさ”、それであったが向こうの髪の毛はどうしたわけか滑らかさと言うか、光沢が無くて死んでいる感じを受けてしまう。
アウロラの、夕日を浴びて美しく照り返るようなそれとは実に対照的な景観だった。
「初めましてだね」
「・・・・・」
「私は“カインの子供達”の内の一人、“暴水のエクセルラ”。・・・あなたは?」
「セイレーンの女王位が一人、アウロラ・フォンティーヌと申します。ごきげんよう、エクセルラ・・・」
「へえぇぇ・・・」
とその仕草を見たエクセルラは感嘆の声を漏らした、アウロラの見せた礼儀作法が実に上品だった上に、まさに絵に描いたように枠に嵌まっていたからである。
「セイレーンは、お嬢様まで駆り出すんだ。容赦ないのね・・・」
「そうでもありませんわ」
とアウロラは“わざと”お嬢様言葉で相対して見せた。
「セイレーンは優しい所ですわ。皆さんもとても暖かいですし、お仕事もとっても楽しいですし!!苦しい時もありますけれども、皆様と一緒ですと苦にもなりませんわ!!!」
「・・・・・っ!!!」
その言葉遣いが堪に触ったのか、エクセルラがピクリと反応した、彼女は別にお嬢様が嫌いでは無かったが、こう言う場合に悠長優雅な話し言葉で話をされると多少、感情の海に波風が立つ。
「お嬢様ならお嬢様らしく、引っ込んで習い事にでも精を出してなさい。ここは貴女のような女性(ひと)が来るところでは無くってよ?」
「御忠告わざわざどうも有難う御座いますわ、エクセルラ嬢。だけど引くわけには参りません。私の夫が命を懸けてこの場に押し出してきているのですから、妻のする事はただ一つです!!」
「・・・・・」
「どこまでも夫に付き添って共に生き、死ぬ事です。あの人を守る盾となり、あの人の為の剣となって立ちはだかるモノ全てを粉砕する。それこそが妻の妻たる所以であり、私の私たる謂れなのです!!」
「解った解った、もう良いわ!!」
とエクセルラは半ば嘲笑するように言い放った、“貴女の気持ちは良く解ったから”とそう告げて。
「だからね、アウロラ・フォンティーヌ。ここは貴女のようなお金持ちの、世間知らずが来るような場所では無いの、戦士達の居場所なのよ?それがお解りにならないのかしら?」
「ご心配なく」
とそれに対してアウロラは、あくまでも冷静なまでに的確に、かつお上品に対応するモノの、エクセルラは一つ、とんでもない誤解をしていた、今目の前にいる青髪の令嬢が、単なる世間知らずな箱入り娘か何かであると訳も無く思い込んでいたのだ。
確かにアウロラは物腰は柔らかいしお淑やかでお上品な、貴族の令嬢に相応しい気品、嗜みを身に付けていたモノのその実、心の芯は恐ろしい程に強くて一度こうだと思った事は絶対に曲げなかったしその上ー。
向こうっ気が強くて負けず嫌いな、典型的なお転婆娘そのものであったのである。
「私、こう見えましてもそちら方面でも少々、腕に覚えが御座います。気に掛けていただくほどの事は御座いません」
「・・・・・っ!!!」
アウロラがそこまで言い終わった時だった、エクセルラの身に潜む魔力が急速に膨大していき、その華奢な体の中で激しく渦を巻き始める。
「なんなら生かして帰してやろうと思ったけれども・・・。余計な手心だったみたいねアウロラ、死になさいっっっ!!!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?」
そう叫んで次の瞬間、アウロラにはエクセルラから溢れ出したる巨大な魔法力の奔流が、グオオォォォッ!!と言う轟音と共にまるで荒れ狂う大洪水のような怒濤となって襲い掛かっていった、その渦中では火炎、閃光、爆発の三つの呪文が次々と生成されては入滅する、と言った事が繰り返されておりまともに食らえば確かに、その身は一瞬で消滅してしまうであろう事は疑うべくもない事実であったが、しかし。
「・・・・・っ!!!」
そんな強大なる魔法の濁流を目の前にしても、アウロラは少しも慌てる事無く“それ”が生み出す暴風にアイスブルーの美しい頭髪を棚引かせていた、かと思うと。
一瞬にも満たない刹那の間に自身もまた魔法の洪水を精製させては彼女はその流を上に向かって走らせ始めた、ここは都会の一等地であり、しかも狭い範囲に仲間達が密集している、そんな場所でもし、これだけの魔法力を正面衝突させたならどんな被害が出るのか、計り知れないと、本気でそう心配したから行った処置だったのである。
結果はそれは“吉”と出た、アウロラの宙(そら)へと向けて解き放たれている、強大なる光の柱にぶつかった魔法力の洪水はその場で虚空へと四散して行き、後には静寂だけが残される結果となった。
「・・・・・っ!!!!!」
(この子・・・っ!!)
そんなアウロラの咄嗟の反応を見て、エクセルラは内心で思わず驚愕してしまっていたのであるが、それというのも今、目の前で涼しげな顔をして立っているアイスブルーの髪の少女はただ単に類い稀なる魔法力とその才能を有しているのみならずに法術に対する知識、理解力をも半端なく持ち合わせており、おまけに感性も鋭いモノがあるようだ、それに加えて応用力までをも持ち合わせている、戦ったなら意外と苦戦するかも知れない。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“やるじゃない、アウロラ”とエクセルラが告げるがアウロラはそれに対してニッコリと微笑んで見せた。
「・・・・・っ!!!」
(癪に障るわね・・・!!)
エクセルラはそう思うと同時に片手の平に火炎球の術式を精製させるとそれを宙に向かって掲げつつ、徐々に巨大化させて行くが実はエクセルラはその中心部分に爆発呪文のエネルギー光球をコアとして埋め込んでおいたのである。
それをハープーン・ミサイルの要領で一度空中へと向けて射出した後、弾道を描いて落ちてきた所で炸裂、辺り一帯を爆炎で覆い尽くそうとしていたのだ、しかし。
その企みは、アウロラが放った多重閃光呪文の超収束射撃によってあえなく爆散した、“キイイィィィンッッッ!!!!!”と言う音響いて来た為にそちらを見ると、アウロラの頭上にも何やら四つの光の明るく光る球体が菱形の形に並んで浮かび上がっており、そこからー。
極限まで圧縮された、レーザービームの光の束が照射されたかと思うとそれが中央部分で極集約され、一気に一つの巨大な閃光となって宙を疾走、エクセルラの生成していた大火球の中心部分を容赦なく撃ち抜いたのだ。
「・・・・・っ!!!?」
「う、うわっ。ばかっ、危ない!!」
それはエクセルラと同時にその後方で待機していたもう一人の少女、ウルバンニすらも巻き込む形で炸裂し、強い衝撃波が駆け抜けた後で周囲が紅蓮の炎に包まれて行った。
「きゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?」
「うわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
それに飲み込まれた二人が方々の体で吹き飛ばされ、焼き焦がされて行った、魔法や炎に対する耐性が無い一般人であるのならば、一瞬で体はバラバラ、真っ黒焦げの焼死体になる所であるが、しかし。
「う、うぐぐぐぐぐ・・・っ!!!」
「ぐっはああぁぁぁ・・・っ!!!」
エクセルラもウルバンニも、一廉(ひとかど)以上に鍛え上げていたお陰でそれなりには打ち身と火傷を負ったが多少、命を削り落としただけで済んだ、致命傷には至らなかった訳である。
「エ、エクセルラッ。あんたね・・・っ!!」
「ご、ごめんなさい。姉さん・・・」
「・・・・・!!?」
(姉さん・・・?)
それをつい、聞いてしまっていたアウロラは思わず耳を疑った、普通は逆だろうと思った、どう見たって彼方の小さな少女の方が妹でありエクセルラと言う少女の方が姉である気がしてならないのであるが。
(体の成長が、途中で止まってしまった方なのでしょうか・・・?)
アウロラが珍しく困惑を露わにしているとー。
「アウロラさん、やっちゃって下さいっ!!」
「見たか、閃光呪文の威力を!!」
「あんた何もやってないじゃん!!」
「・・・・・」
後ろで親衛隊の面々が騒ぎ出していた、最初はそれを聞き流していたアウロラだったが段々とムカッ腹が立って来ていた、“一体何をやっているんでしょうか、この人達は!!”と彼女にしては珍しく、かなりの激昂がゆっくりと首を擡(もた)げてストレスが溜まり始めて来るモノの、しかし。
「あの・・・。皆さん、盛り上がっているところ、大変申し訳ないのですが」
とアウロラはそれでも自分を抑えて丁寧に、あくまで礼節を保ったままで彼女達に語り掛けた。
「私達が戦線を支えていますから、あなた方は屋敷に突入して叔父様を・・・。ヴィクトー氏の身柄を拘束してきて下さいません?“ガイアの青石”の在処も何処だか探っていただきたいですし・・・!!」
「ああっ、そうだよ!!」
「そうそう、それそれっ。それですよっ!?」
「私達もそう思ってたんですよ!!」
“嘘付けや!!”とその喧騒を、少し離れた場所で聞いていた蒼太が思い、“絶対に嘘だわ!!”とメリアリアもまた同じ思いを抱いていたのであるモノの、どうにも彼女達にはノエルと通じる所があるのであり、戦場を“悪い意味で”引っ掻き回してくれる特殊技能が備わっていたのだ。
(解っているのならば)
とアウロラは思った、“早くやって下されば良いのにっ!!”と、敵よりもむしろ味方にイライラと来てしまう自分のテンションを必死になって捩じ伏せながらも、彼女は“それでは直ちに突入して下さい”と言っては彼女達の背中を押してやろうとするモノの、そこへ。
「そうは行かないわ!!」
とその前にはあの、一番小さな女の子がスックと立ち塞がって道を譲らない構えを見せていた、その全身から立ち上る拒絶と使命感とに裏打ちされた意思の強さは非常な硬さを誇っており、文字通りの“鉄壁”そのものを窺わせる。
「・・・悪いけどね。こっから先は通せないの、弟達がここまで奮戦しているって言うのに、私だけが指を加えて見ている事なんか出来ないわ!!!」
「・・・・・!?」
「はあぁ・・・?」
その言葉に、今度はアウロラのみならずに蒼太も、メリアリアも流石に怪訝そうな顔を見せるが特に蒼太は驚いていた、と言うのはその少女の放つ波動が強さも質も、オリヴィアクラスに近い所にまで膨れ上がって来ていたからである。
「いけない、行くなっ!!」
蒼太が叫んだ、とんでもない誤算だった、アイツを相手にするのならば、自分とメリアリアとアウロラとが本気で連携して一斉攻撃を仕掛けなくてはならないが、とてものこと、今の彼等にはそんな余裕は全く無い。
「行くな、下がれよっ。下がれって!!」
「余所見をしてるとっ!!」
「チイィィ・・・ッ!!!」
叫び続ける蒼太の足下へと、アルフォンソが迫っていた、背を低く落として小走りに駆け、間合いを詰めて素早く接近、彼の太腿に狙いを定めるモノの、蒼太はそれを跳んで交わすとそのまま上段から刃を振りかぶって頭上へと叩き下ろした、しかし。
ガキイィィィンッ!!!と言う激突音と共に刃は止められ、刀と剣が交錯するモノの、二人の実力は全くの互角であってどうにもこのまま決着が着けられそうには甚だ無かった。
「首がもげるぞ?蒼太とやら・・・!!」
「生臭坊主が・・・っ!!」
(くそっ、このままじゃ・・・っ!!!)
鍔迫り合いを演じつつも蒼太が呻くがこのままではどうにも埒が明かずに全員、あの鬼神の如き波動能力を秘めている小さな少女に踏み潰されてしまうだろう、“神人化”出来れば話は別だがこの状況下でおいそれとそれが叶うとは到底、信じられない。
頼みの綱はただ一つ、メリアリアとの間に“ハイラート・ミラクル”を成立させてこの戦況を逆転させ、連中を一網打尽にするしかもう、道は残されていなかった、その為には。
「アウロラッ!!!」
堪りかねて蒼太が叫んだ、今一番、戦線を優位に展開しているのはアウロラだった、ここは彼女に動いてもらう以外に道は無い。
「頼むっ。僕とメリーがコイツらを突破してそちらに着くまでの間、もう少し戦線を支えてくれっ、あの子達を行かせないでくれ!!理由は後で説明するから!!!」
「蒼太さん・・・っ?」
「アウロラ頼むっ、あの子達ともう少しだけ粘ってくれ、必ず加勢に行くからっ!!!」
「・・・・・っ!!!!!」
“解りましたっ!!!”とアウロラは、元気いっぱいにそう応えた、“私、必ずこの場を持ち堪えさせて見せますっ!!”と。
「あなた達!!」
そう叫ぶとアウロラは、矢継ぎ早に自分を中心とした攻撃力、素早さを増大させる補助呪文系魔方陣を瞬時に展開させ始めた。
「うおおおっ!?なんじゃこりゃっ!!」
「凄いっ。力が漲って来るような・・・!!」
「体が軽いっ、まるで風になったかのように!!!」
「その魔方陣の中にいる限りは、あなた達の力は全てにおいて倍になります、その中で戦って下さいっ!!」
「巫山戯るなよ!?」
するとそれを聞いたウルバンニが忌々しそうに激怒した、そして“エクセルラッ!!!”と傍らでまだ蹲っているままの、妹に呼び掛ける。
「いい加減にシャキッとしなさいっ!!早くこっちにもバフを掛けて!!」
「そ、それが・・・!!」
とエクセルラは困惑した表情で姉に応じた、“魔法が思ったように出せないの”とそう告げて。
「魔力が、集約して行かないの。不思議な力場がこの辺り一帯に張られていて、皆拡散してしまうっ!!!」
「なんですって・・・っ!!?」
「上を、御覧になられたら如何ですか?」
“そんな馬鹿な!!?”と告げて狼狽を露わにするウルバンニに対してアウロラはあくまで冷静に、上空を指差して見せたが、するとー。
そこにはいつの間に展開されたのか、“魔術封じ”の光の術印の刻式がハッキリと浮かび上がっており、そしてそれはエクセルラをその対象の中心に置いていたのだ。
「・・・・・っ!!!?」
「な、に?これは・・・!!」
「一番最初にあなた方の攻撃を受けた際に、魔法の怒濤を上空へと向けて打ち上げたでしょう?あの時に・・・」
“光円陣を展開するように、仕組んでおいたんです”とアウロラはにべも無くそう応えた、“自分と同じ感じのする相手”と戦うことに対する、彼女なりの最大の用心だった訳である。
それがここに来て、戦力の決定的差となって現れて来ていたのであったから、彼女の狙いと目算とは、大まか当たっていた事になる。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・」
(してやられた!!)
ウルバンニは素直にそう思った、涼しい顔をしてとんでもないタクティクスを駆使する女だと正直に思った、まさか最初からこちらの呪文を封じ込める事が目的だったなんてっ!!!
(それをあの一瞬のカウンターでして見せたってのか?こちらの攻撃を防ぐと同時にこちらの呪文を封じ込める算段を整えていたとっ!?だとしたらとんでもない使い手だ、恐ろしい程に強かな相手だっ!!!)
事ここに至ってようやくにしてウルバンニとエクセルラは、目の前の令嬢が、只者では無い事を認めざるを得なくなっていたのである。
「やってくれるな、アウロラとやら・・・」
「懇切丁寧、優しく指導。どんな相手にも礼節を持って応対する事こそが、フォンティーヌのしきたりですから・・・!!!」
あくまでクールに決めるアウロラに対してしかし、二人はもう何も言わなかった、セイレーンの女王位、侮る事は出来ないと思ったし、それに何よりかによりも。
(コイツだけは、間違いなく今ここで倒しておかなければならない!!!)
そう思ってウルバンニが、アウロラに対して喰って掛かろうと身構えた、その時だ。
「させるかよおぉぉぉっ!!!」
気合い一閃、親衛隊の面々が、ウルバンニ目掛けて突っ込んで来た、アウロラが掛けた魔法のお陰で攻撃とスピードに限って言えば、速度が倍になっていた彼女達はまるで乱舞するように、次々とウルバンニ、エクセルラの両名に攻撃を集中させていったのである。
特に。
「ふざけんじゃねーぞ!!小バエ共がっ!!!」
ウルバンニに対してのそれは凄絶を極めた、いつもは(と言うより戦闘の最中すらも)巫山戯まくっている親衛隊員達であったがやはり、本当にやるべき時にはキチンとやってくれるのであり、皆それぞれが真面目な顔をして、或いは薄ら笑いを浮かべながらもその瞳だけは真剣に相手を見据えて突撃しては一撃を加え、直ぐにまたサッと離れる、と言う“ヒットアンドアウェー”を集団で見事に繰り返していた、その連携も的確であり、相手に反撃の隙も逃げ出す隙も与えなかったがしかし。
「うおりゃ、ぬうぅぅぅっ。てやあぁぁぁっ!!!」
ウルバンニはその連続集中攻撃に、見事に耐え凌いでいた、彼女がパーカーを脱ぎ捨てると下には道着と思しき装着具と胸当、手甲とが装備されており、よく見るとジーンズも脛の辺りが膨らんでいる。
どうやら脛当てか何かを装着しているようだが、流石にそこまでは解らなかった、否、関係無かった、と言っても良いが、要はするに相手を戦闘不能にすれば良いだけであって、その為には基本、防具の隙間を狙う事が攻撃の要となる。
しかし。
「うおりゃあぁぁぁぁっ!!?」
「く、くそっ!?コイツ・・・!!!」
「強い・・・!!!」
隊員達が呻くモノの、ウルバンニは攻撃が決まるか決まらないか、と言うギリギリの一瞬を正確に掴んでは隊員達の繰り出す剣や槍等を手甲や胸当てで防いで逸らし、反撃する、と言った事を繰り返していた。
その反応の鋭さと速さ、正確さは強化魔法を掛けられている筈の親衛隊員達から見ても、尚も恐怖心を駆られる程のモノであり、現に何度かはウルバンニの繰り出す手刀や横凪等が決まりそうになった事さえあったのである。
しかもその内。
「ハア、ハア・・・ッ!!」
「く、くそ・・・っ!!」
(息が・・・っ!!)
限界を超えて激しく動き回っていた為に、体力が底を尽き掛けてしまっていたのであるが、それを見たアウロラは更に傷や体力が自動で回復する事の出来る魔方陣を生成しては親衛隊員達全員を、その効果の只中へと置くことに成功するが、その最中ー。
蒼太達にも動きがあった、鍔迫り合いと打ち合いとを何度となく繰り返していた蒼太だったがアウロラが施した魔方陣に気が付くと、気づかれないように時間を掛けてではあったモノの、相手の顔面に小さな真空魔法を発動させてアルフォンソの気を逸らさせ、その隙にー。
彼を力いっぱい蹴り飛ばさせて体勢を崩させた、そうしておいてー。
彼がそれを立て直す、僅かな間に右横やや後方に大きく跳躍してメリアリアと合流する。
一方の彼女もまた、この“魔術封じ”の術式のお陰で戦闘を有利に展開する事が出来ており、出力が思ったように出せなくなったメルコットを相手に五分以上の状態に、持ち込むことが出来ていたのだ。
(アウロラったら、やってくれちゃって・・・!!)
内心で彼女に感謝しつつもメリアリアもまた相手の一瞬の隙を突いて鞭を撓らせ、出力が落ちた関係上、防御に回ったメルコットの左肩を、その冥獄炎の鞭ごと強かに打ち抜いたのだ。
「あああぅっ!!!!?」
「メリーッ!!」
「蒼太っ!!」
そこへ蒼太がやって来た、二人は思わず抱き合って良かったと顔を見合わせあった、それにしてもアウロラは凄いと思った、たった一人でこの戦場を、支配してしまうなんて!!
「お陰で、助かったよ!!」
「本当よね、ビックリしちゃった・・・。って今はそれどころじゃ無いんでしょう!?」
「うん、そう。そうなんだよ、メリー!!」
“ハイラート・ミラクルを使おう!!”と蒼太は言い放った、“この状況を打開する為にはそれしか無い”とそう告げて。
「・・・“ハイラート・ミラクル”?」
「前に一度、言った事があったよね?ほら、異世界の僕達が使ったって言う話を・・・!!」
「・・・ああっ!!」
“聞いたわ!!”とメリアリアが頷くモノの、確かあれは二人で婚約し直後の、エッチの最中での出来事だった、“時の涙滴”を使用して1ヶ月ほど交わっていた折の、休憩していた最中に蒼太からそんな話を聞かされた事があったのだ。
「いつか、君と。“ハイラート・ミラクル”が出来るようになりたいんだ・・・!!」
「素敵ね」
蒼太からの言葉にメリアリアは即座に、本心から応えた、彼女だとてその素晴らしさは良く理解していたつもりであった、“本当に結ばれ合っているモノにしか出来ないとされる、奇跡の婚術”にして“幻の秘技”、それを自分達が使う事が出来たなら。
自分と蒼太は本当に、魂の奥深い領域からすら結ばれ尽くしている事になる、それはとても嬉しくて、愛しくて、幸せな事だったのだ。
「今の僕達になら、それが出来るんだよメリーッ!!君自身はどう思う!?」
「・・・・・」
蒼太に促された彼女が自身も“ハイラート・ミラクル”を使った未来へと向けて、意識を集中させて見た、結果。
暖かくて確かなる絆の波動が、奥底から絶え間なく湧き上がって来る喜びと愛しさとが全身を満たして行くのがハッキリと感じられた、と言う事は!!
「・・・出来る。出来るわ、きっと!!!」
「やろう、メリーッ!!僕らの力を奴らに見せ付けてやろう!!!」
夫からのその言葉に“解ったわ!!!”と言って頷くと、メリアリアは蒼太の手にそっと自らのそれを重ね合わせて行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
メリアリアはどんなにぶち切れたとしても、人に向かって“死になさい”とか“消え失せなさい”等とは絶対に言ったりしません(精々“あっちへ行ってよ!!”ですとか“もう知らないから!!”ですとか、或いは“もう口を聞いてあげないから!!”とかそれ位です)。
もし本当に、怒りが頂点に達したとしても“二度と私達の前に姿を表さないで!!”とかそんな感じの言葉を放つか、もしくはそれに準じる事を行動、態度で表すかのどちらかです。
ですからアウロラに対しても“引っ込んでなさいよ!!”とか“あっちへ行って!!”と言った事はあっても、そう言った汚いスラングを発した事は無かったのですが、ここに来て初めてアウロラは敵から“そう言う事”を言われた訳です。
だけどアウロラは負けません、動じもしません、強い子ですから、ですけど。
強いから、どんな事を言われたって平気な訳では無いんですよ、傷付かない訳では無いんですよ。
蒼太君、アウロラの事も、ちゃんとフォローしてあげておくれよ。
ちなみに“ハイラート・ミラクル”自体はその内、アウロラちゃんとも出来るようになりますけれども先ずはメリアリアちゃんからです。
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