メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

蒼太の報告

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「そうか、なるほどな」

 一頻り、蒼太との間に思い出話の花を咲かせたオリヴィアは、それから後に為され始めた彼のこれまでの人生や生き様を聞いて思わず、頷かずにはいられなかった。

「そうか、異世界にな。どうりでこの世界からは波動を感じ取れなかった筈だ!!」

「・・・・・?」

「オリヴィア・・・?」

 その言葉を聞いて怪訝そうな表情を浮かべる蒼太とメリアリアに対してオリヴィアは、少し自嘲するかのような笑みを浮かべて俯いてしまうが、実はあの後オリヴィアは、メリアリアとアウロラの様子や言っている事(“蒼太は生きている”、“死んだ気がしない”と言う言葉)が気になった為に密かにハイウィザード達の長である、“アルヴィン・ノア”に半ば無理矢理頼み込んでその生死の行方を探って貰っていたのである、その結果。

「蒼太君は確かに、生きているとは思う。ただ・・・」

「ただ・・・?」

 “波動が何処からも感じられない”との事であり、その事についてはノアは何も言わなかったが今にして思えば恐らくはこの事を予期していたか、もしくは“或いは?”と思っていたのかも知れず、いずれにしてもオリヴィア達にそれ以上の事は何一つとして伝わる事は、無かったのであった。

「ただな。彼は死んだ気はしないな、確かにな。だからその内に帰って来るかもしれんぞ?私には死んだ姿が見えないのでな・・・」

 それだけ告げるとノアは後は瞑想に耽ってしまい、言葉を交わしてはくれなくなってしまったモノの、そう言った経緯もあってだから、オリヴィアとしても確たる情報が無いままに、メリアリア達に“こうだった”と言うことは出来ないでいたのであるが、とにもかくにもこれで確かに、あの日の過去に為された彼に関する予言はまさに、今日、この日この時この瞬間に見事に成就された訳なのであって、現に彼は自分達の前に再び姿を現した、それも逞しく成長を遂げた、立派な大人の男性となってー。

「メリアリアの時もそうだったが。やはり“ノア博士”は凄いお方だな、“東に運命が待っている”と言う君への見立ても見事に的中させたじゃないか」

「ええ、本当にね・・・!!」

 と、これにはメリアリアは素直に頷いて見せるモノの、本心を言えばあの時、エカテリーナの持っていた不思議なマジックアイテムによって少女へと変えられてしまった際にも自分の正体も見抜いてちゃんと皆に説明して欲しかったのであり、そこだけがどうにも残念と言うよりも彼女の中では汚点であって、それがメリアリアをしてオリヴィア達のような評価をノア博士へと下させる事が出来ない要因となっていたのだ。

(蒼太は、一発で気付いてくれていたのに・・・っ!!もうっ、どうして肝心要の部分で黙っちゃうのかしら、ノア博士ったら!!)

 と内心でプリプリ怒るモノの、ただし彼女は同時にノアに感謝もしていた、あの日もし、彼が来てくれなかったら、そして自分に“予言”を始めとする物品を、貸し与えてくれていなかったとしたら。

 自分は間違いなく、ここに来る事は出来なかったのであり、そしてその結果として、蒼太に会うことも出来なかった、それどころか事もあろうにセイレーンの本部において仲間達に取り押さえられてしまう所だったのであり、それだけでも充分に、ノアには謝意を抱いていたのだ。

(だけどどうして肝心要の事は言ってくれないのかしら。“賢者”には“人を直接助けてはいけない”って言う決まりでもあるのかしらね・・・!!?)

 そこまで思い至っていた時だった、不意に。

「メリー、メリーッ!!」

「あ、はいっ!!」

 夫から呼ばれて我に返ると直ぐに自分がオリヴィアから呼ばれている事に気が付いた。

「メリアリア、一体どうしてしまったのだ?最近君はボーッとし過ぎだぞ!?」

「ごめんなさい、オリヴィア!!」

 慌てて謝罪をするモノの、そうだった、まだ報告は終わってはいないのであり、今度は自分の事について彼女達に伝えなければならなかったのである。

「・・・それで?事の次第を聞こうか。どうやって元に戻れたのだ?」

「い、いやそれは・・・っ!!」

「この子の場合は相手の持つマジックアイテムとメリーの中に眠っている、魔法なんかに対する耐性がぶつかり合ってしまった結果、その効力が変えられてしまったモノだと思われます」

「うん・・・!?」

 流石に“セックスをしたら元に戻った”等と言うことは出来ずに困り果てていたメリアリアだったがそこへすかさず蒼太がフォローを入れるモノの、彼は続けて言った、「その“干渉変動”とでも言うべきモノを浄化、中和してやることで状態は安定しました」とそう告げて。

「ちょっと波動を調整してあげれば良かったのです、コツさえ掴めば簡単な事でした・・・!!」

「ふむ、そうか。とにもかくにもよくやってくれたな蒼太、改めて礼を言いたい!!」

「良いんですよ、オリヴィア。僕達は仲間じゃ無いですか、それに僕もメリーの役に立てて嬉しいですし・・・。って、ちょっと待って下さい!!」

「?」

「蒼太・・・?」

 画面の中ではオリヴィアが“何事だ?”と言う顔をして、自分の横ではメリアリアがキョトンとしたそれを彼へと向けるが、一つ、大切な事を確認するのを忘れてしまっていた、急いでそれを為さなくてはならないが、さて。

「オリヴィア、ちょっとお聞きしたいのですけれども、僕の死亡通知書はもう、ミラベル等には出してしまいましたか?」

「ああ」

 “そんなことか”とでも言うかのような面持ちとなってオリヴィアが応えた、“まだ出していないよ”とそう言って。

「ノア博士から君が帰って来るかも知れない、と言う話を聞いていたのでな。君は現在、“生死不明状態”のままだよ、直ちに現役に復帰してもらって構わん!!」

「左様ですか」

「ああ、左様だよ」

 と、オリヴィアはフッと笑いながらそう応えた、“現状、我々も厳しくてな”と。

「“隊員証”はまだ持っているな?正直に言ってこちらは常に慢性的な人手不足だ、猫の手も借りたい位だ!!」

「了解致しました」

 “氷炎の大騎士”からの“有り難い言葉”にそう応えると蒼太はメリアリア共々頷き合い、そしてー。

「“疾風(はやて)の導き手”の蒼太っ、並びに“光輝玉のいばら姫”メリアリアッ。本日より役職に復務致します!!」

「うん!!」

 二人で敬礼しつつそう告げるとオリヴィアもまた、不敵な笑みを浮かべてゆっくりと頷いて見せた。

「復帰を歓迎するよ、二人とも。所で早速で悪いのだが君達には是非とも帰って来て欲しいのだがね?」

「その事について、少しご相談があります」

 再びメリアリアと頷き合うと蒼太はこれまで自分達の身に起きた事を話し始めた、“エカテリーナ”と言う異世界人のこと、彼女がメリアリアを弱体化させると同時にその情報を“レウルーラ”へと持って行ったこと、それを聞き付けて来たクロードとルキナを返り討ちにして始末したこと、そしてー。

 その結果として“レウルーラ”に目を付けられてしまい、つい2ヶ月ほど前にその最高戦力たる“超新星”達とやり合ったこと等をー。

「・・・・・・・・っ!!!!!」

「超新星だと・・・っ!!!!?」

「私達“女王位”と互角と呼ばれている、あの・・・!!!!!」

「どうだった?」

 エマやクレモンス達がザワつく中で一人、冷静さを保っていたオリヴィアが、それでもやや興奮気味に尋ねて来た、“超新星達の感想は”とそう言って。

「強いです、正直に言って。それもただ単に体術や身体のキレ、反応などが鋭いだけではありません。とんでもない底力を隠しています!!」

「一人一人が、変わった“特殊能力”を持っているみたいなのよ。それに戦い方がいやらしいって言うか、禁じ手を平気で使って来るの!!」

「・・・・・」

「・・・・・?」

 まだ何も知らない同僚達に対してメリアリアが詳しく説明した、此方の攻撃が決まりそうになってくると目や顔に目掛けて土の塊やら小石の礫を投げ付けて来たり、動きにフェイントを織り交ぜて多角的な攻撃を、それも連続して仕掛けて来たり。

「蒼太の話だと、髪の毛やコートのインバネスを引っ張ったり、唾を掛けて来たりもするらしいの。もうやんなっちゃうわ!!」

「ううーん・・・」

「唾って・・・っ!!」

 その話を聞いて流石に、女王位達は皆一様に口を閉ざしてしまっていた、程度の差こそあれドン引きしてしまっている彼女達を見てそれ故に、蒼太は危機感を募らせるが、このやり方は確かにセコくて小狡賢いモノなのではあるけれども、実際にやられてみるとその面倒臭さは本物であり、現にメリアリアも何度となく一撃を入れようとしたタイミングでこれをやられてしまったが為に、その都度身体を逸らさなければならず、そしてその結果として全ての攻撃の機会を逸してしまった、との事であった。

(やられる方は面倒臭い事この上ないモノがあるんだけれども。やる方には大して労力は必要無いからね、しかも誰でもどこでもする事が出来るし・・・!!)

「蒼太」

 蒼太が尚も思考に注力していると、そんな彼の態度から何か感じるモノがあったのだろうオリヴィアが口を挟んで来るモノの、彼女としても逆に興味があった、と言うのはそれまでこの氷炎の大騎士は、そんな戦いを経験して来た事など殆どと言って良いほど皆無であったし、確かに追い詰められて自棄っぱちになった相手からモノを投げ付けられた事位はあるにはあったがそれでも、そう言った事を戦いの最中にわざとやって来る、等と言う話しは全く以て聞いた事が無かったからだ。

 もっとも。

 これにはもう一つの理由もあったがそれというのがそもそも論として“女王位”と“超新星”とが真面にやり合うと言う状況自体が異常なのであって、通常ではそんな事は、全く起こり得なかった為である。

 何故かと言えばそれは、これは“女王位”も“超新星”も基本的には同じであったが彼女達の役割と言うのは相手を攻め落とすのでは無くて、あくまで“侵入してきた賊を討ち果たす”事をその主眼に据えているからであり、だから例えば対剣、対槍、対弓、対銃、対魔弾戦の訓練等は平地や山岳、沼地や水中に至るまでどのような自然環境においてでも対応する事が出来るようにと、それも一対一から一対多数までを想定していやと言うほど積んではいるモノの、まさか泥を投げたり唾を飛ばしたり、髪の毛を掴んで引き摺り倒したり、等と言った事、物、現象については“各自で対応して行く”としか定められておらずにそれ専用の訓練などは為された事が、一度たりとも無かったのであった。

 だからこそー。

 オリヴィアは興味を持ったのであり、そもそも論として“今の蒼太とメリアリアは”だから、“そう言った意味においても”極めて貴重な存在であった、と言わざるを得なかった、即ちー。

 他所の秘密呪術機関の、それも“最高戦力”との間に一戦を交えて生き残り、挙げ句に相手の正体や戦い方等を逐一現実的に体験している、と言うそれにおいてであったがしかし。

 その情報はどうしても欲しいのだがしかし、逆に相手からは凄まじいまでの妨害があるであろう事は、全く疑う余地のない事であって、つまりこのまま二人を放置しておいたのではそう遠くない未来に彼等の身に危険が及ぶであろう事はほぼ間違いのない事象であった。

「君達は急いでそこを離れた方が良いな」

 オリヴィアが告げた。

「取り敢えずそのまま一度此方にまで来てくれ、荷物は必要最低限でな。それから間違っても大八洲にある“ガリア帝国大使館”にはもう寄るな、恐らくは手を打たれて見張られている筈だ」

 “君達のアパートメントは”とこの氷炎の大騎士は続けて言った“我々で解約の手続きを取る”と。

「先ずは君達が此方に来て、こっちで住む場所を見つけたまえ。メリアリアは宿舎がそのままにしてあるから良いとして、蒼太。君だよ」

「はい・・・」

 と蒼太が少し緊張した面持ちで頷くと、オリヴィアは直ぐに笑って話を続けた“そんなに緊張しなくても大丈夫だ”とそう言って。

「事務処理は全て此方でやっておくから、君も暫くは宿舎で暮らせ。待遇やセキュリティは万全だぞ?」

「有り難う御座います、オリヴィア・・・」

「オリヴィア・・・ッ!!」

 そう言って二人がオリヴィアに頭を下げるとオリヴィアは照れたように“よせ”と言う。

「ルートは任せるよ、航空機(エア・バス)でも船(クルーザー)でも何でも良い、とにかくなるべく早く、かつ安全に此方にやって来てくれ。・・・君達を待っている、君達がそこを出て一週間程経ってから、大使館に連絡を入れてエージェントをその部屋に行かせる。・・・貴重品は余さず此方に持って来るように。それともう一つ、確認して起きたいのだが・・・」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「“クロードとルキナの件”は間違いないか?」

「間違い、ありません!!」

「蒼太が倒したわ、間違いなくね!!」

「了解した」

 オリヴィアはそう言って、最終的に頷いた、“それなら良い”とそう告げて。

「とにもかくにもまだまだ聞きたい事は山ほどあるが・・・詳しい話しは此方についてからだな、待っているぞ?二人とも、必ず無事に来てくれよ・・・。それでは」

「蒼太さん、お待ちしていますっ。どうかご無事でっ!!」

 最後にアウロラが出て来て叫んだ所で通信が切れてしまった、もう猶予は有り得ない。

「“傍受”されていると思う・・・?」

「間違いなくね。だけど・・・!!」

 “多少は持つでしょ?”と心配そうな面持ちで尋ねて来る夫に大して妻が応えるモノの正直に言ってパソコンや通信機器に関する事ならば彼女の方が上である、“愛しているから”と言うのは勿論であるけれども、一方でそう言った意味でも安心して信頼を置くことが出来た。

「でもやっぱり、急いだ方が良いわね。“暗号”だっていつ破れるのか解らないし・・・」

「そうなると飛行機よりも船の方が安全かな、これは・・・」

 とメリアリアからの言葉を受けて蒼太が思案顔で応えるモノの、万が一にも飛行機だった場合は何かをやられてしまったらもう、出来る手立ては限られて来る、確かに早いことは早いが、だからと言って決してお勧めは出来ない。

「船で行くしか、無いかなやっぱり・・・」

「でも確かに、飛行機はね・・・。でも船かぁ、う~ん・・・!!!」

「確かさ。前は飛行機で来たんだろ?この国まで・・・」

「うん!!」

 と蒼太からの質問にメリアリアが応えるモノの確かに、メリアリアがまだメリーニと名乗っていた時にはタクシーから航空機へと乗り継いで、ガリア帝国のルテティア郊外にある“ルテティア国際空港”から大八洲にある羽田空港へと向けて、凡そ20時間掛けてやって来ていたのであるが、これが船旅となると掛かる時間も費用も比較にならない程に多くて正直な話、全く現実的では有り得なかった。

 しかし。

(あの時とはもう、状況が違う!!)

 蒼太が思うが当時はまだ、メリアリアの事は勿論自分に付いても情報が出回っておらずに警戒もされていなかったから、飛行機に乗ったとしても別段、不都合は無かったのであったが今現在は話が別だ、どこで“レウルーラ”やその上部組織である“M16”の目が光っているのかも知れずに危険な事はこの上無かった。

 そうなるともう、答えは一つしか無い。

「ちょうど来週の月曜日に、横浜埠頭からガリア帝国のマルセイユに行くクルーズが出る筈なんだ、今からでも申し込めると思うんだけれど・・・」

「うわっ、高いっ!!二人で一番お安い船室で300万ちょっと掛かるわよっ!?」

「うう、う~ん・・・!!」

 メリアリアのその言葉に、流石の蒼太も唸ってしまうが今現在、貯金は1700万ある訳であり、背に腹はかえられない、命はお金で買えないのである。

「お金は大丈夫、何とかするよ。それより早速・・・」

 と、そこまで蒼太が言い掛けた時だった、彼が突然“ハアァ~ッ!!”と溜息を付いて頭を抱える。

「もう嫌・・・」

(こんな時にかよ・・・!!)

「・・・蒼太?蒼太、どうしたの?どこか痛いの・・・?ああっ!?」

 と、項垂れてしまう夫に大してメリアリアが心配して声を掛けていると、その直後に。

 ピンポーン、ピンポン、ピンポーンッ!!

 彼女もまた、“その気配”を察して思わず扉の方を振り向くモノの、するとそれと殆ど同時にチャイムが押され、“こんにちは~(*^▽^*)(*^▽^*)(*^▽^*)”と言う極めて呑気と言うより無邪気な声がインターホン越しに響き渡って来る。

 ピンポーン、ピンポンピンポン、ピンポーンッ!!

「ソーくん、開けてーっ。遊びましょー。じゃなかった、今日はちょっとお話があるの~(^◇^;)(^◇^;)(^◇^;)」

「・・・・・」

「そ、蒼太・・・!!」

 自分に寄り添うようにして抱き着き、見るからに“どうしようっ!?”と言う顔を覗かせる愛妻に対して蒼太はその肩を抱き抱えながら“大丈夫だからっ!!”と力強く応えた、そしてー。

「・・・もしもし?」

「あーっ!?ソーくんだ、ヤッホー( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)」

「はいはい、ヤッホー・・・!!」

 半ば呆れると同時に“このクソ忙しい時に!!”と思ってしまった蒼太は若干、いつもより対応がおざなりになってしまうが、それでも。

「ノエルさん、ごめんなさい。今日は、と言うよりもう暫くは、一緒に遊んであげられません。申し訳無いんですけど・・・」

「うん、知ってるよ~。向こうに帰るんでしょー(o´∀`)b(o´∀`)b(o´∀`)b」

「はあああぁぁぁぁぁ・・・っっっ!!!!!!!?」

「・・・・・・・っっっ!?!?!?!?!?」

「あっははははは~、大丈夫よぉ~っ。バッチしちゃんと聞いていたからぁ~o(^▽^)oo(^▽^)oo(^▽^)o」

「全然大丈夫じゃねぇっ!!!」

 蒼太が堪らず突っ込みを入れるがどこの世界に自分が通信を傍受していた事を、よりにもよって傍受先の相手に(しかも秘密工作員に)暴露する輩がいると言うのであろうか。

「お前、傍受してただろっ!?思いっ切り傍受してたよなっ!!!?」

「うん、してた~(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」

「うん、してた~(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)bじゃねぇっ!!!!!」

 相手の余りの警戒感の無さと言うか、天然っぷりに思わずズッコケそうになりながらも、それでも必死に自分を保ちつつ蒼太が言葉を返すモノの、まあ、それでも。

(まあこのやり取りも、今後暫く無いと思えば。いっそ懐かしさも・・・。いやダメだ、全然湧かない!!)

 と蒼太は半ば呆れつつも、このインターホンの画面の向こうで呑気に微笑んでいる年上ハーフの友人を見るモノの、それでも彼女を嫌いになれないのはやはり、ノエルの持つ底無しの明るさ故の人徳と言った所か。

「あのね?ノエルさん。この前は助けていただいて、本当に感謝しています。ですけどねぇ、もうこう言う事は辞めて、普通に一般人として暮らしていただいた方が・・・っ!!」

「いやぁ~っ、あっはっはっ。それがねえぇ~っ(^0^;)(^0^;)(^0^;)」

「・・・・・っ!!」

「・・・・・っ!?」

((まさか・・・っ!!?))

「いやぁ~、あのねぇ。まだ見付かってはいないんだけどぉ・・・。ちょっとやばいって言うか、それでさぁ~・・・」

 二人が一瞬、いやな予感を覚えて顔を見合わせるが、一方のノエルは“そこまでは行って無いんだけどぉ・・・”としつつもそれでも、珍しく困ったような笑顔を見せていた。

「出来たらソーくん達に、私を保護して欲しいのぉ~(^◇^;)(^◇^;)(^◇^;)」

「・・・・・」

「・・・・・」

(そう言う事か・・・!!)

(そう言う事ね・・・!?)

 と、ノエルからの言葉を聞いた際には二人は妙に納得してしまっていた、つまりノエルは恐らくは、ルクセンブルクに帰ろうとしているのであり、その道中の護衛をしてくれ、と言う事をお願いに来た、と言う次第であろう。

「本当は、セイレーンで保護して欲しいんだけどぉ~。何とかならないかしら~(o;ω;o)(o;ω;o)(o;ω;o)」

「・・・・・っ!!」

「そんな事言われても・・・!!」

 “ねぇっ!?”とメリアリアが蒼太に告げるが流石の蒼太もこれには即答する事が出来なかった、事が事なだけに一旦、オリヴィアに連絡を入れて許可を得なければならない。

「・・・・・」

「・・・・・」

「ソーくん、メリアリアちゃん。お願い、助けてえぇぇ~。:゜(;´∩`;)゜:。。:゜(;´∩`;)゜:。。:゜(;´∩`;)゜:。」

「・・・・・」

「・・・・・っ!!」

 もう今にも泣き出しそうになっている(って言うよりももう既に半ベソを掻き始めていた)この年上ハーフの友人に対して蒼太もメリアリアもいたたまれなくなり“ハアァァ~ッ!!!”ともう一度、今度はさっきよりも更に大きな溜息を付いた、それでも他に“しょうが無い”と思った、まさか見捨てる訳にもいかないのである。

「・・・通信を傍受していた事は報告させてもらいますからね?それでいいですね?」

「ううっ、グスッ。グスン・・・ッ!!うん、いい・・・」

 それを聞いた蒼太は今一度、メリアリアと目と目を合わせて頷き合うと、オリヴィアに連絡を入れてノエルの正体や彼女との関わり、そして今現在、レウルーラから追われている事等を悉(つぶさ)に訴え、そして言った“保護をしてあげて欲しい”と。

「彼女の持っている我々の情報がレウルーラに知れればその分だけ不利になります!!」

「それに、ルクセンブルク大公家との関係もあるし。お願いオリヴィア、助けてあげて!?」

「・・・・・」

 オリヴィアは暫しの間、目を瞑って考え込んでいたモノの、結局は頷いて了承した、“よかろう”とそう言って。

「ただし、姫君には公国にお帰りになられる前に、此方で少々、質問に答えていただきたい事がある。それは了承していただけるのかな?」

 今度はそれをノエルに聞くと、ノエルからは“はい、構いません”との事だったので話はそこで終了となった、これでやるべき事は全て決まった、後は善は急げ、だ。

「一応、僕達も気を付けてますけど・・・。ノエルさんもパソコンで、監視カメラにアクセスして変なのが入って来ないかどうかをチェックしておいて下さい。その間に僕達は部屋の荷物を纏めますから・・・!!」

「その間だけ、お願いね?ノエル・・・」

「イエッサー、カーネル大佐ッ!!」

「・・・・・?」

「!?!?!?」

((なんで、“大佐”・・・?))

 と、心の中でとは言えども一々律儀に突っ込みを入れる二人であったが直ぐ様“今はそんな場合じゃない!!”と気を取り直すと急いでキャリーバッグを引っ張り出して来ては、必要最低限の貴重品だけ持ち出すようにして早速荷造りを開始した。

「あ、そうだ。ねぇ、ソーくん・・・」

「・・・はい、なんですか?誰か来ました?」

「ううん、別に誰も来ないけど・・・」

「じゃあ、別にどうでも良いです!!」

「いや、あのさ?」

 持って行く物と残す物、両者の判別が大体終わって蒼太達が必死になってキャリーに荷物を詰め込んでいると、ノエルが思い返したように“どっちで行くの?”と質問を投げ掛けてきた、それは至極真っ当なモノであり即ち、“船と飛行機のどちらで行くのか”と言う判断を蒼太達へと向けて迫って来たのだ。

「もしさー、ジェットで行くんだったら。私達の“プライベート・ジェット”があるから・・・!!」

「そんなのあんのっ!?」

「凄いわね、ノエルッ!!」

 とこの時ばかりは流石の蒼太もメリアリアも驚愕の表情を浮かべるモノの、問題はパイロットである、もし彼等が既に、レウルーラの手の者となっているのならば、蒼太達はまさに“飛んで火に入る夏の虫”である、それだけは絶対に避けなくてはならなかった。

「いや、ノエルさん。せっかくなんですけどね・・・」

「もし飛行機で空を飛んでいる時に何かされたら一巻の終わりなのよ、解っているのっ!?」

「あははは~っ、大丈夫よぉ~っ(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

 やや引き気味の二人を目の前にして、ノエルはそれでも構わず話し続けた。

「私達の家はねぇ~、欧州でも指折りの情報戦略国家なんだってばぁ~っ(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)bだからねぇ~、そう言った人々の身元調査はご先祖様にまで遡ってやっているから大丈夫なの~っ。それに一応、定期的にその人達の心や身体のチェックなんかもしてるしねぇ~(*'▽'*)(*'▽'*)(*'▽'*)」

「・・・・・」

「いや、でも・・・」

「絶対に平気だからぁ~っ!!ねっ、ねっ?」

「うう~ん・・・」

「・・・・・」

「ねっ?ソーくん、大丈夫だから・・・。それにその方が早いよ?絶対!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 ノエルからの提案に、蒼太は考え込んでしまっていたモノの、確かに船旅ならば絶対に安全なのか?と言われれば、そんな事は決して無く、例えば横浜からマルセイユにまで行くクルーズであっても途中で何度となく、幾つもの国や埠頭に寄港しながら行く訳であって、そこから暗殺者なりエージェントなりに入り込まれる可能性は正直かなり高かった。

「・・・・・」

「・・・・・」

(しかし飛行機で何かされたら“逃げ場”がない、それだけは絶対に避けたい!!かと言って、確かに・・・!!)

(それに比べれば安全とは言えども・・・。船では時間が掛かりすぎるのも事実。それにもし、例えば超新星数人掛かりで来られたりしたのならば、船内では全力で戦えない、やられるしかない!!)

 暫くの間、思案していた二人であったが蒼太はハタと思い出したかのようにメリアリアに言葉を掛けた、「メリーも“空挺”の授業を受けていたよね?」とそう言って。

「やったわ」

 最愛の夫からの質問にメリアリアが頷くモノの、“空挺”とは所謂(いわゆる)“空挺団”の実地訓練のことであり、そこではパラシュートを使った“落下傘攻撃”等も嫌でも経験させられる。

 蒼太もメリアリアも子供の内からこれを50回近くもやらされているのであり、裏を返せばそれくらい、セラフィム(セイレーン)の授業は過酷でキツいモノだったのだが、それがこんな所で役に立ってくれるとは思わなかった。

「・・・ノエルさん」

「はいな~( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)どーしたの、ソーくん。決めた~?」

「疑ってしまって申し訳無いのですが・・・。乗る前に、パイロットと機体、そしてパラシュートの確認をさせて下さい。それで問題が無いようでしたら、お言葉に甘えさせていただきます!!」

「もし、何某かの細工が為されていた場合は、仮に物的証拠が出なくともそこに付いている“波動”で解るわ。精神を集中させればその人の意識の状態までもね」

 二人は再び頷き合うと、改めてノエルへと向き直り、そう告げるが、もしこれで直近3ヶ月以内にパラシュートに誰かが触れていたり、パイロット達の内面部分に以上が見えたり、はたまた機体の普段は触らないような場所にまで何らかの手を加えたような形跡が見られた場合は絶対に航空機は避けて船で行こうと決めたのである。

「ではノエルさん、僕達は荷造りをしてしまいますから、もう暫くは“見張り”の方をお願いします・・・」

「何かあったら直ぐに言ってね?変わった人が来たりだとか・・・!!」

「解ってるよぉ~っ!!大丈夫、大丈夫。任せて~っ(o´∀`)b(o´∀`)b(o´∀`)b」

 天然癒やし系(と言うよりもいやらし系)で緊張感皆無なノエルの返答に、些かやる気をそがれつつも、それでも蒼太とメリアリアは協力し合って荷造りを進め、それらを完全に纏め終わるとそれまで暮らしてきた部屋や置いて行く荷物等に“有難う御座いました”と感謝と別れを告げた後で、急いでノエルを連れてタクシーに乗り込み、住み慣れた千歳烏山の街を後にした。

 目指すのは勿論、羽田(空港)であるモノのもし、寄れるのならばどこかの銀行に寄ってから行きたかった、そこで預金を降ろしてこなければならないのであり、空の玄関口へと向けて吶喊(とっかん)するのはその後である。

 問題はノエルの言っていた、“プライベートジェット”だが、さて。

(正直焦っても仕方が無いが・・・。しかしこればかりは現場で実物を、見てみない事には始まらないからな!!)

 “だけど”と蒼太は思った、“何があってもメリーだけは、メリーだけは守らなければ”と。

(こんな可愛い女性(ひと)の事を、例え他の誰にだって、どんなヤツにだって、傷付けさせやしないっ。絶対にっ!!!)

(まだ“レウルーラ”の手が回って無ければいいけれど・・・。でもいいの、何があっても。蒼太と一緒だったなら、この男性(ひと)と一緒だったなら、私・・・っ!!!)

(はあぁぁぁ~っ。梓ちゃん、このみちゃん、舞香ちゃん。もっとオマンコしたかったなぁ~っ!!あんなに気持ちいいプニプニロリマンコッ、味わった事無かったのにいぃぃ~っ(>o<)(>o<)(>o<)かああぁぁぁっ!!!!?やりてぇ、やりてぇっ。やりてぇよおおおぉぉぉぉぉーーー・・・・・・・・・・っっっ!!!!!!!)

 現実と真正面から向き合おうとする二人と妄想の世界に全力運転(ハイパードライヴ)をキメ込んでいる一人とを乗せたまま、タクシーは運命と言う名の道程を、空港へと向けて一気に直走(ひたはし)って行ったのだった。
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