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運命の舵輪編
メリアリア・レポート
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ガリア帝国首都、“ルテティア”。
“パリ”の異称でも親しまれているこの一大近代城塞都市の、そのまた更に内郭部分に“それ”はあった。
ガリア帝国を裏から支える、この国の誇る精鋭中の精鋭部隊、魔法剣技特殊銃士隊。
通称を“セイレーン”と呼ばれるこの部隊は管轄上は国家高等秘密警察組織“ミラベル”の下に位置していながらその実、地上7階、地下17階層からなる本部ビルを別個に与えられており事実上、独立した運営を上層部より許可されていたのだ。
一見すると、真新しい一般的なビルディングにしか見えない本部楼閣はその実、極度に要塞化された城郭であってそのセキュリティは勿論、建築手法、材質、防火防音防電設備などあらゆる最新鋭技術が惜しみなく投入されて建設が為されていたのである。
隊員は現在、予備や補欠まで合わせて347名おり、その内で異名が与えられている者27名、その更にトップに君臨している8名の強者達こそが所謂(いわゆる)“女王位”と呼ばれる存在だった。
彼等は基本的には地下11階~12階に掛けて広がっている“女王の間”と呼ばれる空間に待機しているのであって、そこでは様々な議題についての話し合いが、連日のように為されていたのだが、その一つにー。
“メリアリア”の事があったがこの時、彼女が姿を消してから実に1年と3ヶ月が経過しようとしており、流石に女王各位は焦り始めていた、一応、自分を“メリアリア”だと名乗っていた、あの不思議な黒髪の少女を送り出してからと言うもの彼女達は来る日も来る日も報告を待ち続けていたのであるが、一向に梨の礫である、如何したものかと考え倦ねていた所にー。
つい先日、ようやくにして第一報が入った、彼女達の居る“女王の間”にはエアーコンディショナーやスプリンクラー、そして“女王の繭”と呼ばれている、特殊な戦闘用呪術魔方陣の他にも“暗号映像送受信システム”が完備されていて、居ながらにして外の様子や遠く離れた場所の現状を把握すると同時に現地に赴いている隊員との間にも、暗号化されている特殊な通信手段を用いたやり取りを行う事が出来るようになっていたのだ。
「ザー、ザー、・・・こえ・・・か?こち・・・リア。繰り返します、こちらメリアリア!!」
「・・・・・っ!!」
「なにっ!?」
「なんだとっ!?」
「メリアリアだって・・・っ!!!」
それは“投影装置”から照射された光を壁で反射して画像を形作ってはその辺り一帯に、映画のように映し出す、と言う仕組みであったが当然、マイクも併存されていて、喋れば普通に声も聞こえるし、また逆にこちらから音声を送る事も可能であった、そしてー。
そんなシステムを通して響き渡って来た第一声に、流石の女王位達も驚きの余りにザワついているとー。
通信の状態が安定したのか、画面の向こう側には紛う事無きメリアリアの姿が映し出されていた、心なしか、此方にいた時よりも全体的に活力に溢れており、艶やかさが増したように感じられるが、はて。
「遅いぞ!?」
それが彼女達“女王位”の中でも最高の位に位置している指導者にして総元締めたる氷炎の大騎士“オリヴィア・フェデラー”から漏れ出てしまった第一声となってしまった。
「一体、何をやっていたのだ?今までどこに居たのだ、此方は随分と心配をしたと言うのに・・・!!」
「ごめんなさい!!」
思わずメリアリアが謝るモノの正直、彼女は報告を入れる前に怖がっていた、ずーっと連絡を入れて居なかったのであるから当然と言えば当然であるが、“もしかしたなら怒られるかも”等と考えていたのだ。
しかし。
「ごめんなさい、オリヴィア。そしてみんな!!私、こっちに来てようやく元の姿に戻れたわ、蒼太のお陰で助かったの!!」
「ええ・・・っ!?」
「蒼太っ!?」
「蒼太だって!?」
「蒼太さんっ!?」
その言葉に再び場内が、特にアウロラが著しく反応するモノの正直、その場にた大多数の人間は“やはり”、と言うよりもむしろ“まさか!?”と思っていたのでありあの日、遥か100メートル以上も下を流れているセーヌの濁流に叩き落とされた挙げ句に生きていた等とは誰もが(少なくとも彼女達の内の過半数以上の人間達は)考えもしない出来事だったのである。
「ま、待てっ!!」
“待て待て”と、尚も何か言の葉を、紡ぎ出そうとするメリアリアをオリヴィアが堪らず制止するモノの、如何な人並み外れた冷静さと精神力を誇っている女王位達の中核であり、彼女達の裁定者たる彼女と言えどもこれは流石に予想外であり、思わず喜びと懐かしさとが心の内から込み上げて来た。
「蒼太が、そこに居るのか?蒼太と話をしたいのだが・・・」
「・・・・・っ。ええ、いいわ。ちょっと待ってて・・・。蒼太、蒼太っ!!」
「・・・・・」
“オリヴィアよ”と告げるメリアリアの言葉に促されるようにして、画面が変わり、一人の精悍な顔立ちの、落ち着いた感じの青年が画面の中に現れた。
「お久しぶりです。オリヴィア・・・」
「蒼太っ!!」
「蒼太さんっ!!」
驚きと感動の余りに、思わず目を見開いたままの状態で彼を見つめるオリヴィアの前に、一人の少女が割って入って来るモノの、それは愛らしくて小綺麗で、よく整った左右対称(シンメトリー)な面持ちに情熱的な光を放つ青空色の瞳。
まるでこの地球の大気を凝縮させて、それでその色に染め上げたかのように真っ青な、ハーフアップロングの美しい髪の毛。
蒼太はその少女を知っていた、それはそうだろう、メリアリアと同じように、幼い頃からの面影が彼女にもしっかりと残っていたのだから。
「蒼太さん、私です!!覚えていますか?アウロラです!!」
「知っているよ!!」
蒼太は思わず笑ってしまった、忘れよう筈が無かった、メリアリアと並んでかつての自分に思いを致してくれていた、青髪の少女、アウロラ。
今や一人の立派なレディとなった彼女であったがその美しさ、お淑やかな気品と言うモノは些かも損なわされる事無く内包されており、寧ろますます、その輝きを増していたのだ。
「そうです、アウロラですっ。蒼太さん、生きていて下さったんですね!?崖から落ちたって聞いたけど、私、私・・・っ!!」
その後はもう、アウロラは言葉に直すことが出来なかった、感極まった彼女はその自らの余りに巨大な思いの丈に両手で顔を覆うとその場において堪らず大粒の涙を流し始めてしまっていた、しゃくり上げながら嗚咽を漏らす彼女をしかし、何千マイルも遠くに座していた蒼太はどうしてやることも出来ずにただただ画面の向こう側から困ったような顔を向けては“ごめん”、“ごめん”と謝り続ける他、どうにもならなかったのである。
「うわあああーんっ!!!うえぇぇっ、グスッ、グスッ!!うええぇぇぇーん・・・っ!!!」
「アウロラ・・・」
「暫くは・・・」
いつ果てるともなく泣きじゃくる戦友の背中を、エマやクレモンス達は優しく何度も擦ってやったがその間にもオリヴィアは画面を自分に戻すと尚も蒼太へと向けて話しを続ける。
「すまないな、だが彼女の気持ちも解ってやってくれ」
「解っているつもりです、オリヴィア・・・」
「メリアリアだけでは、無かったのだよ」
と、そんな蒼太にオリヴィアは語り始めるモノの、あの日、蒼太が旧市街地の崩落に巻き込まれた日にアウロラは任務で3週間程ルテティアを留守にしており、事の詳細は帰って来てから聞かされたモノの、それを知らされた瞬間、彼女の頭の中は真っ白くなってしまい、暫くは誰の声も、誰の姿も目にも耳にも入っては来なくなってしまっていたのである。
ようやくにして、反応が帰って来たと思ったら、その時にはもう、彼女はそのままそこでワァワァと、大声を挙げては泣き出し始めてしまっていた、それもただ激しい慟哭の只中にあったのでは無い、狂ったように喚き散らしつつもいつまでもいつまでも、大粒の涙を流し続けていたのである。
「アウロラ、ご飯が出来たから・・・」
「少しは食べないと、身体に毒よ?」
「・・・・・」
その後のアウロラの生活態度や習慣と言ったモノは、まさに最底辺のそれへと激変してしまっていた、何しろ最初の1週間は、ろくに食べ物も喉を通らずにおり水さえも満足に飲めなかった、居なくなってしまった思い人の事を偲んではただただただただ咽び泣き続ける毎日を過ごしていたのであり、朝から晩まで涙を流し続けていたのだ。
心配した両親から“何か食べなさい”と言われても口に入れる事が出来ずにそもそも“生きる気力”自体が湧いて来なかった、“もういや”、“殺して”、“死なせて”と言った言葉を何度となく繰り返しては、起きている時は慟哭に明け暮れ、それに疲れたなら落ちるように眠る、と言った一日を、送り続けていたのであるが、やがて。
それから更に一週間が過ぎた頃、そんなアウロラにも転機が訪れる事となった、彼女の両親達即ちフォンティーヌ財閥現当主である“エリオット・アミン・ド・フォンティーヌ”とその妻“シャルロット・アリーヌ・シモン・ド・フォンティーヌ”が娘の身を案ずるの余りにありとあらゆる手段を用いて国の中枢に働き掛けては、その裏側に密かに席を与えられていた“ハイウィザード”の集団から“ある処置”を施してもらう事になったのである、それはー。
“魂意発動呪法”とでも言うべきモノであり、彼等“ハイウィザード”達に伝わる秘承秘儀の一つであったがこれは一言で言うならば、本人の“人間としての意識”である“顕在意識”を飛び越えて直接、潜在系に働き掛けては、その秘めたる意志の力を顕現させる、と言った術式であった。
これはつまり、どう言う事なのかと言えばそれは、基本的には“人の魂”と言うモノは皆、誰も彼もが“必要があってこの世に生まれて来ている”訳であって、そこには“自分は生まれて来たならこう言う事をやってみたい”、“こう言う風に生きてみたい”と言う意志、願い、人生の生きる目的そのものが併存されているモノのなのである。
そしてそう言った自己の欲求に基づいて、それに“一番適している人間の人生”と言うモノを選び抜いてはあの世からこの世へと向けて、生まれ落ちて来るのであるが、そんな自然の成り行きとしてはだから、魂としては人間に、途中で勝手に死なれたりするのはとても困る事なのであり、もっとハッキリと言ってしまえば“とんでもない事”なのであった、何故ならば。
それをやる、と言う事は即ち“自分がその人として一生懸命に生きる”、“寿命を全うする”、“生き切る”と言う生まれてくる前に交わされる、とされる宇宙や神々との約束を、反故にする事になる訳であり、そして更に言えばもう一つ、“その人としての人生”を与えてくれた高次元の存在の愛、真心と言ったモノを台無しにして踏み躙る行為そのものに他ならなかったからであるが当然、そういう事情であったから、魂としてはその人が寿命を迎えるその時までは“何が何でも生きていて欲しい”し、または“何が何でも活かさなければならない”と思っている訳であって、つまりアウロラの場合はそれを無理矢理に顕現させる呪術的処置を施してもらった次第であった。
「・・・・・」
正直に言って、これは一種の“賭け”であった、と言うのはアウロラ達のフォンティーヌ財閥と言うのも元を糺せばメリアリアのそれと同じように、その先祖が古代世界において非常に高位な神官や強力な法力を操る魔術師を務めていた家柄であって、それ故にー。
その血の中に、非常に強い対毒、対呪術用の浄化耐性が備わっていた訳であって、下手をすればだから、術式の最中にそれが発動してしまいその結果として、呪(まじな)いの力が変な風に働いてしまう恐れすらもまた、多分に内包されていたのであるが、しかし。
一方で彼等には、ある“可能性”についての希望もあった、それが先に挙げた“魂の意志”にも関係してくる事なのであるが今回、彼等がやろうとしている事は“アウロラを救う”目的で行われる事象であって、間違っても危害を加えるような“それ”では無かったのである。
そんな訳であったから、仮に術式が施されてもその身を守るための力である“浄化耐性”が発動する事は無いのでは無いか、と考えたのであるモノの果たして、結果は大成功でありアウロラは辛うじて、死の一歩手前でその命を繋ぎ止める事が出来たのであって、その日から少しずつ少しずつ、食事や水分を取って行くようになっていきはしたのだがー。
問題はその先にあった、と言うのはこの術式は、半ば無理矢理に魂の中に宿っている“生きようとする意志”を肉体に顕現させて発揮させるモノであるから対象者へと掛かる心理的、肉体的な負担がバカにならない位に大きなモノで、連続でも1週間以上は掛けてはいられないのが弱点であった、要するにその間に何か、有益なる次の手を打つことが出来なければ結局の所、アウロラは死ぬか、下手をすれば廃人になる可能性すらあったのであって、そしてそんな状況下であったから一心地着いた筈のエリオット達はまたしても、苦悩の連続の只中へと叩き込まれる結果となってしまったのである。
「やあいらっしゃい。よく来てくれたね、メリアリア・・・」
「娘からお話しは伺っているわ、とても頼りになる先達だと。だけど本当に素敵なレディね」
しかし結局の所ー。
エリオット達は、何ら有効な手立てを見付ける事が出来ぬままにとうとう術式が解けてしまう1週間が過ぎて行ってしまい、ようやくにして多少の改善が見られたアウロラが、また元の生活に戻ってしまうかも知れないと言う絶望感と恐怖とが、彼等の頭を掠め始めていた、まさにそんな時だった。
極めて意外な人物が、フォンティーヌの邸宅の門を叩いたのであるモノの、その人物とは誰なのか、と言えばそれは他ならぬ“メリアリア・カッシーニ”その人だったのである。
「お紅茶を、どうもありがとうございました。とっても美味しかったです・・・」
「あはは、礼儀正しい子だねぇ・・・!!」
「良いのよ?そんなに畏まらなくっても。もっとゆっくりと寛いでらして?」
応接間に通されたメリアリアはそこで高級紅茶の一種である“ベッジュマン&バートン”を出され、二人から心ばかりの歓迎を受けた。
一応、事前にアポイントメントは取っておいたにせよ、それでも本当は娘の事でいっぱいいっぱいな状況下にあるにも関わらずにこの急な来訪者に対して嫌な顔一つせずに応対してくれる二人の姿、心配りを見てアウロラの高潔さは然(さ)もありなんと、メリアリアは思わず納得してしまうモノの勿論、彼女は自分の両親を世界で一番素晴らしい人々だと自負しているし、とっても優しくて暖かなその人柄はこの金髪碧眼のいばら姫をして多分に敬意を抱かせるのに十二分な程の優しさと良心とを併せ持っていたのは事実であったがしかし。
何も決してそれだけではない、彼等は例えば我が子可愛さに正義を無視したり、道を踏み外すような事は絶対にやらなかったし、仮に間違っている事や至らない所があるとメリアリアであってもキチンと注意してくれていた、そう言った意味での厳しさや判断力、要するに威厳をも持ち合わせていたのであって、そしてそんな凄い人達をメリアリアは現状で、たった6人しか知らなかった。
一組目は言わずと知れた彼女の両親達であり、二組目は今は亡き蒼太の両親達である。
そしてー。
三組目こそが、今目の前にいるアウロラの両親達だったのであり、その雰囲気や立ち振る舞いから発せられる穏やかにして荘厳なる波動は自分の両親達や蒼太のご両親にも勝るとも劣らないモノであると理解する。
「せっかく来てもらったのに、すまないね。あの娘は今、ちょっとね・・・」
「ごめんなさいね、メリアリア。本来であればお客様にはちゃんと挨拶をさせる所なのだけれど・・・」
「いいえ。私の事は、どうかお気になさらずに・・・。それより」
控えていたメイドの一人がティーカップを下げるのを待ってから、メリアリアは切り出したのである、“アウロラはどうしていますか?”と、すると。
「・・・・・っ!!」
「ああ・・・っ!!」
なんとその言葉を聞いた途端にエリオット達からはそれまでの穏やかな笑みが失われて行ってしまい、変わって深い悲しみの表情と憂慮に満ちたそれとが二人の顔を覆い尽くして行くモノの、それを見たメリアリアは改めて事態がただ事でない事を思い知らされた、二人の様子から察するに、状況は一刻を争うモノなのであろう、もはや猶予は何処にも無い。
その証拠にー。
この館に着いた時から、メリアリアは感じ続けていたのである、アウロラの命の灯火がどんどんと小さく萎(しぼ)んで行ってしまっているのを、それはまるで息を吹きかけられただけで消えてしまうほどの、弱々しさしか保てていないのを。
「アウロラに、会わせて下さい!!」
「いや、しかし。それはな・・・」
「ごめんなさいね、メリアリア。とてもでは無いけれども、あの娘は今・・・」
メリアリアからの必死の言葉にも、尚も両親達は躊躇する構えを見せるモノの、するとメリアリアはそれを最後まで聞くこともなくソファからスクッと立ち上がると、ジッと天井の一角を見つめ続けてその直後に。
「ああっ!?い、いかん!!」
「待ちなさい、メリアリアッ。お願いだから・・・っ!!」
「・・・・・っ!!」
そのまま応接間を飛び出してはアウロラがいると思しき3階へと向けて階段を駆け上がって行くモノの、その挙動、所作共に颯爽としているそれであり、後から必死になって引き止めようとする両親達の叫び声も空しく宙を切るだけであった、アウロラの気配を感じ取りつつメリアリアは迷い無く突き進んで行き、やがては3階中央部分にある、一際立派な彫刻が彫り込まれている扉の部屋の前で立ち止まると、そこをコンコン、コンコンとノックした、そしてー。
「・・・アウロラ?」
“入るわ!!”と声を掛けると扉開いて中へと歩を進めて行くモノの、するとー。
「アウロラ・・・」
「・・・・・」
そこにはカーテン付きの巨大なクイーンサイズベッドの上でシーツにくるまりながら泣き咽び、ザンバラな髪と充血した目を此方へと向けるアウロラの姿があった。
その直ぐ側には化粧台が設置されていてその上には水の入っているウォーターポットとグラス、そして食事の乗っかっている、銀で出来ている高級トレーが運び込まれて来ていた。
「ヒッグ、グスウゥゥ・・・ッ!!」
「アウロラ・・・」
それを見たメリアリアが尚も彼女の名前を呼びつつ、ゆっくりと近付こうとした、その時だ。
「来ないでっ!!」
アウロラが鋭い叫び声を挙げた、その声は掠れてはいたモノの、それでも弱っている人間のそれとは思えない程の威勢と怒気とを含んでおり、強い拒絶の念が彼女にある事を窺わせる。
「貴女になんか、来て欲しくないっ!!」
「・・・・・」
アウロラから向けられる、敵意と憎しみの籠もった視線を受けて、メリアリアは黙って俯いてしまう。
「一体、どう言う事なんですか?」
アウロラは尚も続ける。
「蒼太さんが落ちた時、貴女は何をしていたんですかっ!?どうして助けてあげなかったんですかっ!!」
「・・・・・」
「私だったら、私だったら・・・っ。ウウ・・・ッ、ウウウウッ。うえええぇぇぇぇぇ~んっ!!!!!うわあああああぁぁぁぁぁぁ~~~んっっっ!!!!!!!蒼太さんが、蒼太さんがあぁぁっ!!!」
“蒼太さんが、いなくなっちゃったよぅっ!!”と嗚咽と共に無念をも吐き出し尚もアウロラが泣きじゃくるモノの、その事に対してはメリアリアは一言も口をきかなかった、決してアウロラから逃げたのではない、この場で何を言ったとしても、それは単なる自己弁論、言い訳にしか過ぎない事を、彼女は良く良く知っていたのである。
ただ。
「アウロラ・・・」
「ウ、ウゥゥッ。ウッ、グスッ、グシュ・・・ッ!!」
「アウロラ」
大粒の涙をこぼし続けていたアウロラが泣き止むのを待ってから、“生きて”と、メリアリアは意を決してそう告げた、“このままでは死んでしまうわ”とそう続けて。
「お願いアウロラ、生きて。生き延びてちょうだい、あなたのご両親の為にも・・・!!」
「巫山戯(ふざけ)ないで!!」
メリアリアから告げられるその言葉に対して、アウロラがいっそヒステリックなまでに叫び返すモノの、そこには徹底的なまでの拒絶と否定の意志が込められていた。
「一体何を言っているの!?誰のせいだと思っているのっ!?みんな貴女のせいじゃない!!全部貴女が悪いのっ、私の気持ちも、何もかもっ。本当は何にも知らないくせにっ!!」
“返してよ!!”とアウロラは続けた“蒼太さんを返せ、返してっ!!”とそう続けて、しかし。
「・・・・・」
「ヒック、ヒクッ。グスッ、グジュリ・・・」
メリアリアはそれについては最初、沈黙したまま応えなかった、ただアウロラの気持ちが落ち着くのを待ってからこう答えたのである、“返せないわ”とー。
「・・・・・っ!!!!?」
「蒼太は、私のモノなの、貴女のモノではないの。だから返せないわ!!」
「・・・・・っ!!」
“なんですって!?”とアウロラがその言葉にゆっくりと起き上がった、その小さな身体に似合わない程の怒りを全身から漲らせながら。
「今、何て言ったの?」
「蒼太は私のモノなの。だから貴女に返せないし、返す必要も無いわ!!」
「巫山戯(ふざけ)るなあぁぁぁっ!!!」
メリアリアから発せられる、毅然とした態度とその言葉とにアウロラが遂に切れ始めた、手当たり次第に近くのモノを掴んではメリアリアへと投げ付けて行き、終いにはベッドから起き上がっては彼女に殴り掛かって行く。
しかし。
「アウゥゥッ!?」
「どうしたの?こっちよ、アウロラ!!」
パシンッ、ポカポカと言うその攻撃を、最初の5、6発は黙って受け続けていたメリアリアであったが7発目が届こうかと言う状況下になった時点で初めて本格的な反応を示した、身体の位置を素早く逸らしてずらさせた挙げ句に、それ以降はアウロラの動き、勢いと言ったモノを綺麗に躱して受け流してしまう。
「はあはあっ。クソ、この!!」
「どうしたの?もう終わりなの!?全然届いて無いじゃない!!」
「ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッッッ!!!!!」
メリアリアのその言葉に思わず癇癪(かんしゃく)を起こしてしまったアウロラであったがしかし、それ以上はもうどうする事も出来なくなってしまい、ヨロヨロと蹌踉(よろ)けてはその場にへたり込んでしまうモノの、それも無理からぬ事であってただでさえ、ろくな休養も睡眠も、満足に取れていなかったその身体には体力も精神力も充分なまでに戻って来てはおらずにそれどころか、この3週間余りの間にすっかりとそれらを磨り減らしてしまっていたのである。
そんな状況であったから。
「ウウゥゥゥッ!!!うえぇぇっ!?うぇっ、グスッ。うえええぇぇぇぇぇんっ!!!」
今の彼女にメリアリアの動きを捉える事は、どう逆立ちしたって不可能な事だったのであり、それを悟ったアウロラはだから、それでもいたたまれなくなって、一頻り乱闘がすんだ後で、またしても大きな声で泣き出してしまっていた、今の彼女にはもう、泣き続ける事しか出来なくなってしまっていた、次々と涙滴を零しつつも“苦しい”、“辛い”、“耐えられない”、“誰か殺して”、“もう死にたい”と、そんな言葉を延々と繰り返して行く。
そしてまるでそれらに触発されるかのようにして悲しみのドン底に沈み込んでしまっている自分から再びの、大量の涙が溢れ出でて来るモノの、そんなサイクルを何度か繰り返したのちようやく少し落ち着いて来たのか、アウロラがヒック、ヒックとしゃくり上げ始めた。
「ヒック、ヒック。ウッ、ウウッ。グスッ、ウッ、ウウウウ・・・ッ!!!」
「・・・・・っ!!」
その間中。
メリアリアはずっと黙って俯きながら、ただただひたすら彼女が泣き止むのを待ち続けていた、時折顔を上げて様子を見つつも、何事かを言おうとするモノの、しかし。
「うぅぅーっ、ヒック。グスッ、ウッ、ヒック。グス・・・ッ!!」
「・・・アウロラ!!」
“生きなさい、アウロラ!!”とやがて幾分、冷静さを取り戻していたアウロラに対してメリアリアが再び告げた、“生き切るのよ!?”とそう続けて。
「何があっても生きて、生き抜くのよ、アウロラ・・・ッ!!」
「・・・・・っ!!!」
すると“巫山戯るなあぁぁぁっ!!!”とまたもや怒りを爆発させそうになる彼女に対して一瞬早くにメリアリアがそれを制した、“聞きなさい”とそう告げて。
「これは私の言葉では無いの、蒼太の言葉なのよ!?」
「ううっ、グスッ、ヒック。・・・・・っ!?」
するとその言葉に一瞬、アウロラの瞳から放たれていた怒気が揺らいだ、怒りの発動を、必死になって食い止めているようだ、聞いてもらうなら今しかない。
「アウロラ」
とそれを見たメリアリアも自身も幾分、声のトーンを落として落ち着き、その状態のまま、アウロラに話して聞かせるようにした。
「私がずっと、蒼太と一緒にいたのは知っているわよね?」
「・・・・・」
「蒼太がね、その時に私に言ったのよ?“もし僕に何かあった場合は”、“それでも君は生き続けろ”って。“何があっても生きて行くんだ”って・・・!!」
そう言ってメリアリアは蒼太に言われた事を一つずつ一つずつ、アウロラに伝えて言った、“何があってもいい”、“どんな姿になっても良いから最後の最後までしっかりと生きろ”と、“生き抜け”と。
「蒼太は私に、それを伝えてくれていたわ。“もし僕に何かあったらそれでも必ず生きてくれ”って・・・。私にそう言ってくれていたのよ・・・」
「・・・・・」
「・・・だからね?アウロラ。だからもし。今蒼太がここにいてくれたならば。貴女にも、同じ事を言ってくれていたんじゃ無いかしら!?」
「・・・・・・・・っっっ!!!!!!!」
“それを無視するの?”とメリアリアは続けた、“あの人の思いを、気持ちを踏み躙るような事をするの!?”とそう告げて。
「そんなの絶対に間違ってる!!蒼太は“生きろ”と言ってくれていた、“どんなに辛いことがあっても生きろ”って。だったら生きなきゃ、絶対に生きなきゃ!!生きて生きて、生き続けなければいけないのっ。そうでしょう?アウロラ・・・!!」
「・・・・・」
そう語るメリアリアの瞳には真剣な輝きがあり、一方でそれを聞くアウロラの眼にも熱い煌めきが宿り始めていた、顔は憔悴していても、今までのような弱々しさは微塵も無い、逆に生きようとする力強さに満ち溢れて来ていたのである。
「だから、アウロラ・・・!!」
「もう、良いです・・・!!」
「・・・・・?」
尚も何事かを告げようとするメリアリアに対してアウロラは、この青髪のショートボブな少女はハアァァッと息を吐き、今度は静かに、しかし華麗にちょこんと立った。
「お腹、空いちゃいました・・・」
「・・・・・!!!」
「顔も、洗わなければいけませんし・・・。すみませんが一人にしていただけますか?」
「・・・・・」
その言葉に正直、メリアリアはまだ少し不安にならない訳では無かったモノの、それでも。
彼女の様子、雰囲気等から“もう、大丈夫だよね?”とも思った、何より自分の中の自分が告げてくれていたのである、“もう大丈夫だよ”とー。
だからー。
「解ったわ」
そう告げるとメリアリアは2、3歩ゆっくりと後ずさると、そのまま彼女に背を向けて来た時と同じように扉を開けて出て行った、するとー。
そこにはエリオットを始めとしてシャルロットやメイド達、果ては家令や執事までもが詰め掛けて来ており、事の成り行きを見守っていたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
メリアリアは無言で彼等に一礼をすると、後はエリオット達と共に、アウロラの部屋の扉が開け放たれるのを待った、そしてー。
ギイイイィィィィ・・・ッ!!
「・・・・・っ!!」
「おおっ!?」
「アウロラッ!?」
「お嬢様っ!!」
それから10分と少しが過ぎた頃、重々しい扉の開く音がして、そこにはー。
幼いながらも気品のある、愛らしい顔立ちの青光色の髪の毛と瞳をした、フォンティーヌの令嬢が立っていたのである。
「アウロラ・・・ッ!!」
「ご心配を、お掛けしました・・・っ!!」
堪らず近寄る両親達や家の面々に落ち着いた笑顔で会釈をすると、アウロラはそのままメリアリアの元へと近付いて行った。
「有り難う御座いました、メリアリアさん。お世話をお掛けしてしまい、大変申し訳御座いません」
「ううん、いいの・・・」
いつも通りの礼儀正しさでペコリとお辞儀をするアウロラに対してメリアリアは多少、俯き加減でそう応えると“良かった”と少しだけホッとしたかのように、ニッコリと笑って応じるモノの、しかし。
その笑顔は何処か寂しそうであり、それどころか弱々しくてぎこちなく、見る者が見れば明らかに無理して笑っているのが見え見えだったのであってとてもの事、直視に耐えられたモノでは決して無かったのである。
「・・・ごめんなさい、メリアリアさん。私」
「いいの・・・」
そのまま沈んだ顔になり、謝罪の言葉を口にしたアウロラに対してメリアリアは今度は静かな表情を作りつつ、頭(かぶり)を振ってそう応えるモノの、それを見たアウロラは今度こそ本格的にショックを受けた、彼女はこの時初めて理解したのである、本当に今、一番辛いのはメリアリアなのだと言う事を。
蒼太の事故の件について、誰に責められるまでもなく一番彼女を責めているのは彼女自身なのだと言う事を。
そしてー。
「メ、メリアリアさんっ、私・・・っ!!!」
「んん?どうしたの。アウロラ・・・」
それでも尚、蒼太からの言葉を守って苦しみながらも生き延びようとしているのだ、と言う事も。
だから。
それに気付いてしまった時に、堪らなくなって彼女に詫びようとしたモノの、アウロラの口からはその先の言葉が出て来る事はなかった、そんな彼女(メリアリア)に対して先程自分がしでかしてしまった事の、その余りにも大きな申し訳なさに何も言えなくなってしまっていたのであるが、そうだ。
アウロラは知っていたのである、蒼太の崩落が事故に拠るモノである事も、そしてそこに至ってしまった経緯までをもこの3週間の間に詳細な話を聞かされていたのであり、そして本心では解りきっていた事だったのだ、メリアリアが悪いのではない事も、彼女が直後に後を追って死のうとした事も、それを仲間達総出で辛うじて食い止め、その後の“蒼太”の言葉と名前を使ったオリヴィア達の説得によってようやく何とか自分自身を保つと同時に今現在の立ち位置に踏み留まっていられる事が出来ていたのだ、と言う事までもー。
アウロラは全部知っていたのである、そして知っていても尚、それでも彼女の事を許せないでいたのであるが、それはもっと言ってしまえばこの類い稀なる素質を持っていた魔法少女な令嬢の放つ、心の叫びそのものに他ならなかった、彼女のその時の心情や思いと言ったモノを、より正確に綴るとすれば彼女は、メリアリアの事が許せなかったと言う訳では断じて無かった、それよりもー。
むしろ許せなかったのは、そう言った蒼太の事故に見られるような、自分の大切に思っている人間の命をもあっさりと奪い去って行ってしまう“世間や世界の理不尽さ”そのものであって、そしてそれはある意味、無理からぬ事だと言えた。
それはそうだろう、いかに芯が強くて聞き分けが良いとは言えどもアウロラはまだ11歳になったばかりの一人の女の子なのだ、そんな少女が間違ってもこの世の中の全ての真理を解き明かして理解し、起こる事全てを受け止め切る事が出来るかのような、そんな聖人君子のような底知れない程の心の広さ、度量を誇っている訳では間違っても無かったのである。
ましてや彼女は非常に無垢で情熱的な少女だったのであって、そう言った事も手伝ってだからこそ余計に、それらのもたらす怒り、悲しみ、辛さと言った、所謂(いわゆる)“負の感情”とでも言うべきモノが、想像を絶して余りある程の強さで蓄積して行ってしまったのであり、そしてそれ故に尚更そう言った、自分の抱えている鬱屈、憤懣、やるせなさと言ったモノをぶち当てる事が出来る人をー。
即ち、“自分自身を受け止めた挙げ句に救い出してくれる人”を捜し求めていただけだったのであったが、一方でー。
メリアリアもそれは十二分に理解していた、理解していてその上で、敢えてその役割を自分自身に課したのであるモノの、それはそうする事がせめてもの罪滅ぼしであり己に対する“罰だ”と思い続けていたからに他ならなかった、メリアリア自身もそうであった、決して人前では見せることをしなかったけれどもそれでも、彼女だって色々と悩み、苦しみ、もがき続けながらもそれでも、必死になって生き抜いてきたのであって、そしてー。
そんな少女であったからこそ、メリアリアにはアウロラのどうしようも無い程にいたたまれなさ過ぎる思いや気持ち、無念さと言ったモノが痛い程良く解っていたのであり、そう言った事も手伝ってだから、わざわざ彼女の元を訪ねて来た次第であった。
果たして。
「・・・・・」
(蒼太・・・っ!!)
果たしてその願いは成就される事となった、何とかして生きる気力を取り戻してくれたアウロラを見た瞬間、メリアリアはホッとなって瞳を瞑(つむ)り、天を仰ぐようにする。
心の中で恋人の事をどこまでもどこまでも強く思い求めるモノの実はこの時、アウロラの両親達がそうであったようにメリアリアもまた一種の、“伸(の)るか反(そ)るかの大博打”を行ったのであって、そしてその中心にあったモノこそが、蒼太が自分にかけてくれた言葉そのものに他ならなかった、即ちー。
“何があっても必ず生き抜け”と言うそれであったが“もし”とメリアリアは思っていた、“今のアウロラを立ち直させる事が出来るとすれば、それは自分の言葉では間違っても無い”とー。
だけど。
(“蒼太の言葉”であれば、あの子は聞いてくれるかも知れない!!)
そう感じ取ったのであり、そしてその考えに一縷の望みを託して彼女は今日、この日この時この瞬間に、急いでアウロラの元へと赴いて来たのであった。
そしてこの事を切っ掛けとしてー。
アウロラの中にあった、メリアリアへの蟠(わだかま)りは完全に氷解していった、正直に言ってそれでもまだ、蒼太との事で完全に納得し切れてしていない部分もあるにはあったがそれすらも、彼女達の仲をギクシャクさせる程のモノでは無かったし、良き仲間、良きライバルとして同じ組織の中においてもお互いに切磋琢磨し合いながら、そして時には協力しながら任務をこなし続けては、安寧の中にある街や人々や草花の事を陰ながら守り支えていったのである。
それにー。
(蒼太さん・・・っ!!)
メリアリアがそうであったように、アウロラもまた蒼太が死んだ気がしなかった、なんだか何処かで生きていてくれるかのような、その内に帰って来てくれるかのような、そんな気がしてならなかったのである。
だからこそー。
アウロラはメリアリアからの言葉を受け入れたのであり、そしてその後はもう、彼女は二度と、命を粗末にしようとはしなかった、そんな事をすれば、いずれ再会した時に蒼太を悲しませる事になるだろうし、それになによりかによりそれ以前の話としては蒼太に怒られ、嫌われてしまう事になってしまうかも知れなかったからだ。
(そんなの、絶対に良くないです、あってはいけない事だもの・・・っ!!)
そう思ったアウロラはだから、“いつか蒼太と再会出来る時”を夢見て、信じて、そしてー。
その日を目指してただひたすらに、どこまでもどこまでも生き抜いていったのである。
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正直に言ってこのお話は、書いていて些かに気が滅入るモノでしたが、それでも物語の都合上、どうしても書かない訳にはいきませんでした(さもないと物語の流れ的におかしくなってしまうと言いますか、アウロラの性格や性質、そしてメリアリアとの兼ね合い的に見ても不自然な感じになってしまいますから。それに読者の皆様方に対して誤魔化しをする訳にはいきませんでした、だから自分の気持ちになるべく正直に書かせていただきました所存です)。
自分の中にある“メリアリアだったらこうするんじゃないか”ですとか、また或いは“アウロラだったらこう言う事を言ったりやったりするんじゃないかな”と言うのを素直に表現してみたつもりです(アグレッシブなアウロラですとか、それに対する毅然としたメリアリア等をです)。
ちなみに本人達はまだ、ハッキリとは気が付いてはいないのですけれども、メリアリアちゃんとアウロラは似ています(と言うよりも根っこの部分が同じなんです)、蒼太君に対してはとてもピュアで真摯で一途な思いを抱いています(それらを普段は“秘している”のです)、そしてー。
二人っきりになると途端に、“もう我慢出来ない”とでも言わんばかりに一気にそれらを爆発させて甘えて来ます、だから凄く情熱的かつ積極的になるのです(流石に細かい仕草や発揮の仕方なんかは違って来ますが)。
そしてだからこそー。
メリアリアちゃんにはアウロラの苦悩が解ったのですね(メリアリアちゃんも色々と悩んで苦しんで来た子なので・・・)、それに作中でも言及されておりましたが、如何に天才的な魔法少女とは言えどもまだ11歳の少女が全てを正確に理解できる訳がありません(それは無理と言うモノです)。
だから(“自分がいけなかったんだ”と、自分自身を責めている事も手伝って)メリアリアちゃんはアウロラの元へとやって来たんですね、そして何とかアウロラに生きる気力を取り戻させようとするのです(それがせめてもの“罪滅ぼし”であると、“自分の義務”だと思ったんです。ちなみに説明させていただきますと、アウロラの探し求めていた“自分自身を受け止めた挙げ句に救い出してくれる人”と言うのは実は蒼太君の事です。これはメリアリアちゃんが逆の立場であっても同じ事だったのですけれども要するに、アウロラが最終的に立ち直れたのは“蒼太君の存在、言葉があったから”であって正直、メリアリアちゃんだけのそれらでは、些かに厳しい部分がありました←これはメリアリアちゃんの気持ちの部分をよく読んでいただければ解っていただけるかと思いますけれども要するに彼女は“蒼太君の肩代わり”をしたのですね、それが出来るのはこの時点においてはメリアリアちゃんしかいませんでしたし。それに先述の通り、彼女は自分自身の事を責めていましたので)。
後は書かれている通りです、メリアリアちゃんもアウロラも、キチンと蒼太君の思いを受け止めて、そして自身の中で昇華して、“生きる”と言う未来を選択してくれました(ちなみにどうしてアウロラの方が回復するまで時間が掛かったのか、と言いますと、彼女には蒼太君からの言葉が何も無かったからなのです。それをメリアリアちゃんが与えてくれたのでした、それで最終的には彼女と同じように立ち直る事が出来たんです。勿論、二人ともそれに加えて“蒼太が生きているんじゃないか”と言う予感じみたモノを、自らの中で感じていたから、と言うのもありましたけど←要するに“生きる希望”が持てたから、と言うのも理由としては大きいのです)。
ちなみに実際には蒼太君のあれは、間違いなく“事故”です、正直に言って誰のせいでもありません(強いて言うならば世界をそう言う風に構築していった私のせいです)、ただやっぱり、物語の登場人物達からみれば、理不尽でやるせないなと、思われたと思っています(正直に言って悪い事をしたと思っています)、申し訳御座いません。
“パリ”の異称でも親しまれているこの一大近代城塞都市の、そのまた更に内郭部分に“それ”はあった。
ガリア帝国を裏から支える、この国の誇る精鋭中の精鋭部隊、魔法剣技特殊銃士隊。
通称を“セイレーン”と呼ばれるこの部隊は管轄上は国家高等秘密警察組織“ミラベル”の下に位置していながらその実、地上7階、地下17階層からなる本部ビルを別個に与えられており事実上、独立した運営を上層部より許可されていたのだ。
一見すると、真新しい一般的なビルディングにしか見えない本部楼閣はその実、極度に要塞化された城郭であってそのセキュリティは勿論、建築手法、材質、防火防音防電設備などあらゆる最新鋭技術が惜しみなく投入されて建設が為されていたのである。
隊員は現在、予備や補欠まで合わせて347名おり、その内で異名が与えられている者27名、その更にトップに君臨している8名の強者達こそが所謂(いわゆる)“女王位”と呼ばれる存在だった。
彼等は基本的には地下11階~12階に掛けて広がっている“女王の間”と呼ばれる空間に待機しているのであって、そこでは様々な議題についての話し合いが、連日のように為されていたのだが、その一つにー。
“メリアリア”の事があったがこの時、彼女が姿を消してから実に1年と3ヶ月が経過しようとしており、流石に女王各位は焦り始めていた、一応、自分を“メリアリア”だと名乗っていた、あの不思議な黒髪の少女を送り出してからと言うもの彼女達は来る日も来る日も報告を待ち続けていたのであるが、一向に梨の礫である、如何したものかと考え倦ねていた所にー。
つい先日、ようやくにして第一報が入った、彼女達の居る“女王の間”にはエアーコンディショナーやスプリンクラー、そして“女王の繭”と呼ばれている、特殊な戦闘用呪術魔方陣の他にも“暗号映像送受信システム”が完備されていて、居ながらにして外の様子や遠く離れた場所の現状を把握すると同時に現地に赴いている隊員との間にも、暗号化されている特殊な通信手段を用いたやり取りを行う事が出来るようになっていたのだ。
「ザー、ザー、・・・こえ・・・か?こち・・・リア。繰り返します、こちらメリアリア!!」
「・・・・・っ!!」
「なにっ!?」
「なんだとっ!?」
「メリアリアだって・・・っ!!!」
それは“投影装置”から照射された光を壁で反射して画像を形作ってはその辺り一帯に、映画のように映し出す、と言う仕組みであったが当然、マイクも併存されていて、喋れば普通に声も聞こえるし、また逆にこちらから音声を送る事も可能であった、そしてー。
そんなシステムを通して響き渡って来た第一声に、流石の女王位達も驚きの余りにザワついているとー。
通信の状態が安定したのか、画面の向こう側には紛う事無きメリアリアの姿が映し出されていた、心なしか、此方にいた時よりも全体的に活力に溢れており、艶やかさが増したように感じられるが、はて。
「遅いぞ!?」
それが彼女達“女王位”の中でも最高の位に位置している指導者にして総元締めたる氷炎の大騎士“オリヴィア・フェデラー”から漏れ出てしまった第一声となってしまった。
「一体、何をやっていたのだ?今までどこに居たのだ、此方は随分と心配をしたと言うのに・・・!!」
「ごめんなさい!!」
思わずメリアリアが謝るモノの正直、彼女は報告を入れる前に怖がっていた、ずーっと連絡を入れて居なかったのであるから当然と言えば当然であるが、“もしかしたなら怒られるかも”等と考えていたのだ。
しかし。
「ごめんなさい、オリヴィア。そしてみんな!!私、こっちに来てようやく元の姿に戻れたわ、蒼太のお陰で助かったの!!」
「ええ・・・っ!?」
「蒼太っ!?」
「蒼太だって!?」
「蒼太さんっ!?」
その言葉に再び場内が、特にアウロラが著しく反応するモノの正直、その場にた大多数の人間は“やはり”、と言うよりもむしろ“まさか!?”と思っていたのでありあの日、遥か100メートル以上も下を流れているセーヌの濁流に叩き落とされた挙げ句に生きていた等とは誰もが(少なくとも彼女達の内の過半数以上の人間達は)考えもしない出来事だったのである。
「ま、待てっ!!」
“待て待て”と、尚も何か言の葉を、紡ぎ出そうとするメリアリアをオリヴィアが堪らず制止するモノの、如何な人並み外れた冷静さと精神力を誇っている女王位達の中核であり、彼女達の裁定者たる彼女と言えどもこれは流石に予想外であり、思わず喜びと懐かしさとが心の内から込み上げて来た。
「蒼太が、そこに居るのか?蒼太と話をしたいのだが・・・」
「・・・・・っ。ええ、いいわ。ちょっと待ってて・・・。蒼太、蒼太っ!!」
「・・・・・」
“オリヴィアよ”と告げるメリアリアの言葉に促されるようにして、画面が変わり、一人の精悍な顔立ちの、落ち着いた感じの青年が画面の中に現れた。
「お久しぶりです。オリヴィア・・・」
「蒼太っ!!」
「蒼太さんっ!!」
驚きと感動の余りに、思わず目を見開いたままの状態で彼を見つめるオリヴィアの前に、一人の少女が割って入って来るモノの、それは愛らしくて小綺麗で、よく整った左右対称(シンメトリー)な面持ちに情熱的な光を放つ青空色の瞳。
まるでこの地球の大気を凝縮させて、それでその色に染め上げたかのように真っ青な、ハーフアップロングの美しい髪の毛。
蒼太はその少女を知っていた、それはそうだろう、メリアリアと同じように、幼い頃からの面影が彼女にもしっかりと残っていたのだから。
「蒼太さん、私です!!覚えていますか?アウロラです!!」
「知っているよ!!」
蒼太は思わず笑ってしまった、忘れよう筈が無かった、メリアリアと並んでかつての自分に思いを致してくれていた、青髪の少女、アウロラ。
今や一人の立派なレディとなった彼女であったがその美しさ、お淑やかな気品と言うモノは些かも損なわされる事無く内包されており、寧ろますます、その輝きを増していたのだ。
「そうです、アウロラですっ。蒼太さん、生きていて下さったんですね!?崖から落ちたって聞いたけど、私、私・・・っ!!」
その後はもう、アウロラは言葉に直すことが出来なかった、感極まった彼女はその自らの余りに巨大な思いの丈に両手で顔を覆うとその場において堪らず大粒の涙を流し始めてしまっていた、しゃくり上げながら嗚咽を漏らす彼女をしかし、何千マイルも遠くに座していた蒼太はどうしてやることも出来ずにただただ画面の向こう側から困ったような顔を向けては“ごめん”、“ごめん”と謝り続ける他、どうにもならなかったのである。
「うわあああーんっ!!!うえぇぇっ、グスッ、グスッ!!うええぇぇぇーん・・・っ!!!」
「アウロラ・・・」
「暫くは・・・」
いつ果てるともなく泣きじゃくる戦友の背中を、エマやクレモンス達は優しく何度も擦ってやったがその間にもオリヴィアは画面を自分に戻すと尚も蒼太へと向けて話しを続ける。
「すまないな、だが彼女の気持ちも解ってやってくれ」
「解っているつもりです、オリヴィア・・・」
「メリアリアだけでは、無かったのだよ」
と、そんな蒼太にオリヴィアは語り始めるモノの、あの日、蒼太が旧市街地の崩落に巻き込まれた日にアウロラは任務で3週間程ルテティアを留守にしており、事の詳細は帰って来てから聞かされたモノの、それを知らされた瞬間、彼女の頭の中は真っ白くなってしまい、暫くは誰の声も、誰の姿も目にも耳にも入っては来なくなってしまっていたのである。
ようやくにして、反応が帰って来たと思ったら、その時にはもう、彼女はそのままそこでワァワァと、大声を挙げては泣き出し始めてしまっていた、それもただ激しい慟哭の只中にあったのでは無い、狂ったように喚き散らしつつもいつまでもいつまでも、大粒の涙を流し続けていたのである。
「アウロラ、ご飯が出来たから・・・」
「少しは食べないと、身体に毒よ?」
「・・・・・」
その後のアウロラの生活態度や習慣と言ったモノは、まさに最底辺のそれへと激変してしまっていた、何しろ最初の1週間は、ろくに食べ物も喉を通らずにおり水さえも満足に飲めなかった、居なくなってしまった思い人の事を偲んではただただただただ咽び泣き続ける毎日を過ごしていたのであり、朝から晩まで涙を流し続けていたのだ。
心配した両親から“何か食べなさい”と言われても口に入れる事が出来ずにそもそも“生きる気力”自体が湧いて来なかった、“もういや”、“殺して”、“死なせて”と言った言葉を何度となく繰り返しては、起きている時は慟哭に明け暮れ、それに疲れたなら落ちるように眠る、と言った一日を、送り続けていたのであるが、やがて。
それから更に一週間が過ぎた頃、そんなアウロラにも転機が訪れる事となった、彼女の両親達即ちフォンティーヌ財閥現当主である“エリオット・アミン・ド・フォンティーヌ”とその妻“シャルロット・アリーヌ・シモン・ド・フォンティーヌ”が娘の身を案ずるの余りにありとあらゆる手段を用いて国の中枢に働き掛けては、その裏側に密かに席を与えられていた“ハイウィザード”の集団から“ある処置”を施してもらう事になったのである、それはー。
“魂意発動呪法”とでも言うべきモノであり、彼等“ハイウィザード”達に伝わる秘承秘儀の一つであったがこれは一言で言うならば、本人の“人間としての意識”である“顕在意識”を飛び越えて直接、潜在系に働き掛けては、その秘めたる意志の力を顕現させる、と言った術式であった。
これはつまり、どう言う事なのかと言えばそれは、基本的には“人の魂”と言うモノは皆、誰も彼もが“必要があってこの世に生まれて来ている”訳であって、そこには“自分は生まれて来たならこう言う事をやってみたい”、“こう言う風に生きてみたい”と言う意志、願い、人生の生きる目的そのものが併存されているモノのなのである。
そしてそう言った自己の欲求に基づいて、それに“一番適している人間の人生”と言うモノを選び抜いてはあの世からこの世へと向けて、生まれ落ちて来るのであるが、そんな自然の成り行きとしてはだから、魂としては人間に、途中で勝手に死なれたりするのはとても困る事なのであり、もっとハッキリと言ってしまえば“とんでもない事”なのであった、何故ならば。
それをやる、と言う事は即ち“自分がその人として一生懸命に生きる”、“寿命を全うする”、“生き切る”と言う生まれてくる前に交わされる、とされる宇宙や神々との約束を、反故にする事になる訳であり、そして更に言えばもう一つ、“その人としての人生”を与えてくれた高次元の存在の愛、真心と言ったモノを台無しにして踏み躙る行為そのものに他ならなかったからであるが当然、そういう事情であったから、魂としてはその人が寿命を迎えるその時までは“何が何でも生きていて欲しい”し、または“何が何でも活かさなければならない”と思っている訳であって、つまりアウロラの場合はそれを無理矢理に顕現させる呪術的処置を施してもらった次第であった。
「・・・・・」
正直に言って、これは一種の“賭け”であった、と言うのはアウロラ達のフォンティーヌ財閥と言うのも元を糺せばメリアリアのそれと同じように、その先祖が古代世界において非常に高位な神官や強力な法力を操る魔術師を務めていた家柄であって、それ故にー。
その血の中に、非常に強い対毒、対呪術用の浄化耐性が備わっていた訳であって、下手をすればだから、術式の最中にそれが発動してしまいその結果として、呪(まじな)いの力が変な風に働いてしまう恐れすらもまた、多分に内包されていたのであるが、しかし。
一方で彼等には、ある“可能性”についての希望もあった、それが先に挙げた“魂の意志”にも関係してくる事なのであるが今回、彼等がやろうとしている事は“アウロラを救う”目的で行われる事象であって、間違っても危害を加えるような“それ”では無かったのである。
そんな訳であったから、仮に術式が施されてもその身を守るための力である“浄化耐性”が発動する事は無いのでは無いか、と考えたのであるモノの果たして、結果は大成功でありアウロラは辛うじて、死の一歩手前でその命を繋ぎ止める事が出来たのであって、その日から少しずつ少しずつ、食事や水分を取って行くようになっていきはしたのだがー。
問題はその先にあった、と言うのはこの術式は、半ば無理矢理に魂の中に宿っている“生きようとする意志”を肉体に顕現させて発揮させるモノであるから対象者へと掛かる心理的、肉体的な負担がバカにならない位に大きなモノで、連続でも1週間以上は掛けてはいられないのが弱点であった、要するにその間に何か、有益なる次の手を打つことが出来なければ結局の所、アウロラは死ぬか、下手をすれば廃人になる可能性すらあったのであって、そしてそんな状況下であったから一心地着いた筈のエリオット達はまたしても、苦悩の連続の只中へと叩き込まれる結果となってしまったのである。
「やあいらっしゃい。よく来てくれたね、メリアリア・・・」
「娘からお話しは伺っているわ、とても頼りになる先達だと。だけど本当に素敵なレディね」
しかし結局の所ー。
エリオット達は、何ら有効な手立てを見付ける事が出来ぬままにとうとう術式が解けてしまう1週間が過ぎて行ってしまい、ようやくにして多少の改善が見られたアウロラが、また元の生活に戻ってしまうかも知れないと言う絶望感と恐怖とが、彼等の頭を掠め始めていた、まさにそんな時だった。
極めて意外な人物が、フォンティーヌの邸宅の門を叩いたのであるモノの、その人物とは誰なのか、と言えばそれは他ならぬ“メリアリア・カッシーニ”その人だったのである。
「お紅茶を、どうもありがとうございました。とっても美味しかったです・・・」
「あはは、礼儀正しい子だねぇ・・・!!」
「良いのよ?そんなに畏まらなくっても。もっとゆっくりと寛いでらして?」
応接間に通されたメリアリアはそこで高級紅茶の一種である“ベッジュマン&バートン”を出され、二人から心ばかりの歓迎を受けた。
一応、事前にアポイントメントは取っておいたにせよ、それでも本当は娘の事でいっぱいいっぱいな状況下にあるにも関わらずにこの急な来訪者に対して嫌な顔一つせずに応対してくれる二人の姿、心配りを見てアウロラの高潔さは然(さ)もありなんと、メリアリアは思わず納得してしまうモノの勿論、彼女は自分の両親を世界で一番素晴らしい人々だと自負しているし、とっても優しくて暖かなその人柄はこの金髪碧眼のいばら姫をして多分に敬意を抱かせるのに十二分な程の優しさと良心とを併せ持っていたのは事実であったがしかし。
何も決してそれだけではない、彼等は例えば我が子可愛さに正義を無視したり、道を踏み外すような事は絶対にやらなかったし、仮に間違っている事や至らない所があるとメリアリアであってもキチンと注意してくれていた、そう言った意味での厳しさや判断力、要するに威厳をも持ち合わせていたのであって、そしてそんな凄い人達をメリアリアは現状で、たった6人しか知らなかった。
一組目は言わずと知れた彼女の両親達であり、二組目は今は亡き蒼太の両親達である。
そしてー。
三組目こそが、今目の前にいるアウロラの両親達だったのであり、その雰囲気や立ち振る舞いから発せられる穏やかにして荘厳なる波動は自分の両親達や蒼太のご両親にも勝るとも劣らないモノであると理解する。
「せっかく来てもらったのに、すまないね。あの娘は今、ちょっとね・・・」
「ごめんなさいね、メリアリア。本来であればお客様にはちゃんと挨拶をさせる所なのだけれど・・・」
「いいえ。私の事は、どうかお気になさらずに・・・。それより」
控えていたメイドの一人がティーカップを下げるのを待ってから、メリアリアは切り出したのである、“アウロラはどうしていますか?”と、すると。
「・・・・・っ!!」
「ああ・・・っ!!」
なんとその言葉を聞いた途端にエリオット達からはそれまでの穏やかな笑みが失われて行ってしまい、変わって深い悲しみの表情と憂慮に満ちたそれとが二人の顔を覆い尽くして行くモノの、それを見たメリアリアは改めて事態がただ事でない事を思い知らされた、二人の様子から察するに、状況は一刻を争うモノなのであろう、もはや猶予は何処にも無い。
その証拠にー。
この館に着いた時から、メリアリアは感じ続けていたのである、アウロラの命の灯火がどんどんと小さく萎(しぼ)んで行ってしまっているのを、それはまるで息を吹きかけられただけで消えてしまうほどの、弱々しさしか保てていないのを。
「アウロラに、会わせて下さい!!」
「いや、しかし。それはな・・・」
「ごめんなさいね、メリアリア。とてもでは無いけれども、あの娘は今・・・」
メリアリアからの必死の言葉にも、尚も両親達は躊躇する構えを見せるモノの、するとメリアリアはそれを最後まで聞くこともなくソファからスクッと立ち上がると、ジッと天井の一角を見つめ続けてその直後に。
「ああっ!?い、いかん!!」
「待ちなさい、メリアリアッ。お願いだから・・・っ!!」
「・・・・・っ!!」
そのまま応接間を飛び出してはアウロラがいると思しき3階へと向けて階段を駆け上がって行くモノの、その挙動、所作共に颯爽としているそれであり、後から必死になって引き止めようとする両親達の叫び声も空しく宙を切るだけであった、アウロラの気配を感じ取りつつメリアリアは迷い無く突き進んで行き、やがては3階中央部分にある、一際立派な彫刻が彫り込まれている扉の部屋の前で立ち止まると、そこをコンコン、コンコンとノックした、そしてー。
「・・・アウロラ?」
“入るわ!!”と声を掛けると扉開いて中へと歩を進めて行くモノの、するとー。
「アウロラ・・・」
「・・・・・」
そこにはカーテン付きの巨大なクイーンサイズベッドの上でシーツにくるまりながら泣き咽び、ザンバラな髪と充血した目を此方へと向けるアウロラの姿があった。
その直ぐ側には化粧台が設置されていてその上には水の入っているウォーターポットとグラス、そして食事の乗っかっている、銀で出来ている高級トレーが運び込まれて来ていた。
「ヒッグ、グスウゥゥ・・・ッ!!」
「アウロラ・・・」
それを見たメリアリアが尚も彼女の名前を呼びつつ、ゆっくりと近付こうとした、その時だ。
「来ないでっ!!」
アウロラが鋭い叫び声を挙げた、その声は掠れてはいたモノの、それでも弱っている人間のそれとは思えない程の威勢と怒気とを含んでおり、強い拒絶の念が彼女にある事を窺わせる。
「貴女になんか、来て欲しくないっ!!」
「・・・・・」
アウロラから向けられる、敵意と憎しみの籠もった視線を受けて、メリアリアは黙って俯いてしまう。
「一体、どう言う事なんですか?」
アウロラは尚も続ける。
「蒼太さんが落ちた時、貴女は何をしていたんですかっ!?どうして助けてあげなかったんですかっ!!」
「・・・・・」
「私だったら、私だったら・・・っ。ウウ・・・ッ、ウウウウッ。うえええぇぇぇぇぇ~んっ!!!!!うわあああああぁぁぁぁぁぁ~~~んっっっ!!!!!!!蒼太さんが、蒼太さんがあぁぁっ!!!」
“蒼太さんが、いなくなっちゃったよぅっ!!”と嗚咽と共に無念をも吐き出し尚もアウロラが泣きじゃくるモノの、その事に対してはメリアリアは一言も口をきかなかった、決してアウロラから逃げたのではない、この場で何を言ったとしても、それは単なる自己弁論、言い訳にしか過ぎない事を、彼女は良く良く知っていたのである。
ただ。
「アウロラ・・・」
「ウ、ウゥゥッ。ウッ、グスッ、グシュ・・・ッ!!」
「アウロラ」
大粒の涙をこぼし続けていたアウロラが泣き止むのを待ってから、“生きて”と、メリアリアは意を決してそう告げた、“このままでは死んでしまうわ”とそう続けて。
「お願いアウロラ、生きて。生き延びてちょうだい、あなたのご両親の為にも・・・!!」
「巫山戯(ふざけ)ないで!!」
メリアリアから告げられるその言葉に対して、アウロラがいっそヒステリックなまでに叫び返すモノの、そこには徹底的なまでの拒絶と否定の意志が込められていた。
「一体何を言っているの!?誰のせいだと思っているのっ!?みんな貴女のせいじゃない!!全部貴女が悪いのっ、私の気持ちも、何もかもっ。本当は何にも知らないくせにっ!!」
“返してよ!!”とアウロラは続けた“蒼太さんを返せ、返してっ!!”とそう続けて、しかし。
「・・・・・」
「ヒック、ヒクッ。グスッ、グジュリ・・・」
メリアリアはそれについては最初、沈黙したまま応えなかった、ただアウロラの気持ちが落ち着くのを待ってからこう答えたのである、“返せないわ”とー。
「・・・・・っ!!!!?」
「蒼太は、私のモノなの、貴女のモノではないの。だから返せないわ!!」
「・・・・・っ!!」
“なんですって!?”とアウロラがその言葉にゆっくりと起き上がった、その小さな身体に似合わない程の怒りを全身から漲らせながら。
「今、何て言ったの?」
「蒼太は私のモノなの。だから貴女に返せないし、返す必要も無いわ!!」
「巫山戯(ふざけ)るなあぁぁぁっ!!!」
メリアリアから発せられる、毅然とした態度とその言葉とにアウロラが遂に切れ始めた、手当たり次第に近くのモノを掴んではメリアリアへと投げ付けて行き、終いにはベッドから起き上がっては彼女に殴り掛かって行く。
しかし。
「アウゥゥッ!?」
「どうしたの?こっちよ、アウロラ!!」
パシンッ、ポカポカと言うその攻撃を、最初の5、6発は黙って受け続けていたメリアリアであったが7発目が届こうかと言う状況下になった時点で初めて本格的な反応を示した、身体の位置を素早く逸らしてずらさせた挙げ句に、それ以降はアウロラの動き、勢いと言ったモノを綺麗に躱して受け流してしまう。
「はあはあっ。クソ、この!!」
「どうしたの?もう終わりなの!?全然届いて無いじゃない!!」
「ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッッッ!!!!!」
メリアリアのその言葉に思わず癇癪(かんしゃく)を起こしてしまったアウロラであったがしかし、それ以上はもうどうする事も出来なくなってしまい、ヨロヨロと蹌踉(よろ)けてはその場にへたり込んでしまうモノの、それも無理からぬ事であってただでさえ、ろくな休養も睡眠も、満足に取れていなかったその身体には体力も精神力も充分なまでに戻って来てはおらずにそれどころか、この3週間余りの間にすっかりとそれらを磨り減らしてしまっていたのである。
そんな状況であったから。
「ウウゥゥゥッ!!!うえぇぇっ!?うぇっ、グスッ。うえええぇぇぇぇぇんっ!!!」
今の彼女にメリアリアの動きを捉える事は、どう逆立ちしたって不可能な事だったのであり、それを悟ったアウロラはだから、それでもいたたまれなくなって、一頻り乱闘がすんだ後で、またしても大きな声で泣き出してしまっていた、今の彼女にはもう、泣き続ける事しか出来なくなってしまっていた、次々と涙滴を零しつつも“苦しい”、“辛い”、“耐えられない”、“誰か殺して”、“もう死にたい”と、そんな言葉を延々と繰り返して行く。
そしてまるでそれらに触発されるかのようにして悲しみのドン底に沈み込んでしまっている自分から再びの、大量の涙が溢れ出でて来るモノの、そんなサイクルを何度か繰り返したのちようやく少し落ち着いて来たのか、アウロラがヒック、ヒックとしゃくり上げ始めた。
「ヒック、ヒック。ウッ、ウウッ。グスッ、ウッ、ウウウウ・・・ッ!!!」
「・・・・・っ!!」
その間中。
メリアリアはずっと黙って俯きながら、ただただひたすら彼女が泣き止むのを待ち続けていた、時折顔を上げて様子を見つつも、何事かを言おうとするモノの、しかし。
「うぅぅーっ、ヒック。グスッ、ウッ、ヒック。グス・・・ッ!!」
「・・・アウロラ!!」
“生きなさい、アウロラ!!”とやがて幾分、冷静さを取り戻していたアウロラに対してメリアリアが再び告げた、“生き切るのよ!?”とそう続けて。
「何があっても生きて、生き抜くのよ、アウロラ・・・ッ!!」
「・・・・・っ!!!」
すると“巫山戯るなあぁぁぁっ!!!”とまたもや怒りを爆発させそうになる彼女に対して一瞬早くにメリアリアがそれを制した、“聞きなさい”とそう告げて。
「これは私の言葉では無いの、蒼太の言葉なのよ!?」
「ううっ、グスッ、ヒック。・・・・・っ!?」
するとその言葉に一瞬、アウロラの瞳から放たれていた怒気が揺らいだ、怒りの発動を、必死になって食い止めているようだ、聞いてもらうなら今しかない。
「アウロラ」
とそれを見たメリアリアも自身も幾分、声のトーンを落として落ち着き、その状態のまま、アウロラに話して聞かせるようにした。
「私がずっと、蒼太と一緒にいたのは知っているわよね?」
「・・・・・」
「蒼太がね、その時に私に言ったのよ?“もし僕に何かあった場合は”、“それでも君は生き続けろ”って。“何があっても生きて行くんだ”って・・・!!」
そう言ってメリアリアは蒼太に言われた事を一つずつ一つずつ、アウロラに伝えて言った、“何があってもいい”、“どんな姿になっても良いから最後の最後までしっかりと生きろ”と、“生き抜け”と。
「蒼太は私に、それを伝えてくれていたわ。“もし僕に何かあったらそれでも必ず生きてくれ”って・・・。私にそう言ってくれていたのよ・・・」
「・・・・・」
「・・・だからね?アウロラ。だからもし。今蒼太がここにいてくれたならば。貴女にも、同じ事を言ってくれていたんじゃ無いかしら!?」
「・・・・・・・・っっっ!!!!!!!」
“それを無視するの?”とメリアリアは続けた、“あの人の思いを、気持ちを踏み躙るような事をするの!?”とそう告げて。
「そんなの絶対に間違ってる!!蒼太は“生きろ”と言ってくれていた、“どんなに辛いことがあっても生きろ”って。だったら生きなきゃ、絶対に生きなきゃ!!生きて生きて、生き続けなければいけないのっ。そうでしょう?アウロラ・・・!!」
「・・・・・」
そう語るメリアリアの瞳には真剣な輝きがあり、一方でそれを聞くアウロラの眼にも熱い煌めきが宿り始めていた、顔は憔悴していても、今までのような弱々しさは微塵も無い、逆に生きようとする力強さに満ち溢れて来ていたのである。
「だから、アウロラ・・・!!」
「もう、良いです・・・!!」
「・・・・・?」
尚も何事かを告げようとするメリアリアに対してアウロラは、この青髪のショートボブな少女はハアァァッと息を吐き、今度は静かに、しかし華麗にちょこんと立った。
「お腹、空いちゃいました・・・」
「・・・・・!!!」
「顔も、洗わなければいけませんし・・・。すみませんが一人にしていただけますか?」
「・・・・・」
その言葉に正直、メリアリアはまだ少し不安にならない訳では無かったモノの、それでも。
彼女の様子、雰囲気等から“もう、大丈夫だよね?”とも思った、何より自分の中の自分が告げてくれていたのである、“もう大丈夫だよ”とー。
だからー。
「解ったわ」
そう告げるとメリアリアは2、3歩ゆっくりと後ずさると、そのまま彼女に背を向けて来た時と同じように扉を開けて出て行った、するとー。
そこにはエリオットを始めとしてシャルロットやメイド達、果ては家令や執事までもが詰め掛けて来ており、事の成り行きを見守っていたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
メリアリアは無言で彼等に一礼をすると、後はエリオット達と共に、アウロラの部屋の扉が開け放たれるのを待った、そしてー。
ギイイイィィィィ・・・ッ!!
「・・・・・っ!!」
「おおっ!?」
「アウロラッ!?」
「お嬢様っ!!」
それから10分と少しが過ぎた頃、重々しい扉の開く音がして、そこにはー。
幼いながらも気品のある、愛らしい顔立ちの青光色の髪の毛と瞳をした、フォンティーヌの令嬢が立っていたのである。
「アウロラ・・・ッ!!」
「ご心配を、お掛けしました・・・っ!!」
堪らず近寄る両親達や家の面々に落ち着いた笑顔で会釈をすると、アウロラはそのままメリアリアの元へと近付いて行った。
「有り難う御座いました、メリアリアさん。お世話をお掛けしてしまい、大変申し訳御座いません」
「ううん、いいの・・・」
いつも通りの礼儀正しさでペコリとお辞儀をするアウロラに対してメリアリアは多少、俯き加減でそう応えると“良かった”と少しだけホッとしたかのように、ニッコリと笑って応じるモノの、しかし。
その笑顔は何処か寂しそうであり、それどころか弱々しくてぎこちなく、見る者が見れば明らかに無理して笑っているのが見え見えだったのであってとてもの事、直視に耐えられたモノでは決して無かったのである。
「・・・ごめんなさい、メリアリアさん。私」
「いいの・・・」
そのまま沈んだ顔になり、謝罪の言葉を口にしたアウロラに対してメリアリアは今度は静かな表情を作りつつ、頭(かぶり)を振ってそう応えるモノの、それを見たアウロラは今度こそ本格的にショックを受けた、彼女はこの時初めて理解したのである、本当に今、一番辛いのはメリアリアなのだと言う事を。
蒼太の事故の件について、誰に責められるまでもなく一番彼女を責めているのは彼女自身なのだと言う事を。
そしてー。
「メ、メリアリアさんっ、私・・・っ!!!」
「んん?どうしたの。アウロラ・・・」
それでも尚、蒼太からの言葉を守って苦しみながらも生き延びようとしているのだ、と言う事も。
だから。
それに気付いてしまった時に、堪らなくなって彼女に詫びようとしたモノの、アウロラの口からはその先の言葉が出て来る事はなかった、そんな彼女(メリアリア)に対して先程自分がしでかしてしまった事の、その余りにも大きな申し訳なさに何も言えなくなってしまっていたのであるが、そうだ。
アウロラは知っていたのである、蒼太の崩落が事故に拠るモノである事も、そしてそこに至ってしまった経緯までをもこの3週間の間に詳細な話を聞かされていたのであり、そして本心では解りきっていた事だったのだ、メリアリアが悪いのではない事も、彼女が直後に後を追って死のうとした事も、それを仲間達総出で辛うじて食い止め、その後の“蒼太”の言葉と名前を使ったオリヴィア達の説得によってようやく何とか自分自身を保つと同時に今現在の立ち位置に踏み留まっていられる事が出来ていたのだ、と言う事までもー。
アウロラは全部知っていたのである、そして知っていても尚、それでも彼女の事を許せないでいたのであるが、それはもっと言ってしまえばこの類い稀なる素質を持っていた魔法少女な令嬢の放つ、心の叫びそのものに他ならなかった、彼女のその時の心情や思いと言ったモノを、より正確に綴るとすれば彼女は、メリアリアの事が許せなかったと言う訳では断じて無かった、それよりもー。
むしろ許せなかったのは、そう言った蒼太の事故に見られるような、自分の大切に思っている人間の命をもあっさりと奪い去って行ってしまう“世間や世界の理不尽さ”そのものであって、そしてそれはある意味、無理からぬ事だと言えた。
それはそうだろう、いかに芯が強くて聞き分けが良いとは言えどもアウロラはまだ11歳になったばかりの一人の女の子なのだ、そんな少女が間違ってもこの世の中の全ての真理を解き明かして理解し、起こる事全てを受け止め切る事が出来るかのような、そんな聖人君子のような底知れない程の心の広さ、度量を誇っている訳では間違っても無かったのである。
ましてや彼女は非常に無垢で情熱的な少女だったのであって、そう言った事も手伝ってだからこそ余計に、それらのもたらす怒り、悲しみ、辛さと言った、所謂(いわゆる)“負の感情”とでも言うべきモノが、想像を絶して余りある程の強さで蓄積して行ってしまったのであり、そしてそれ故に尚更そう言った、自分の抱えている鬱屈、憤懣、やるせなさと言ったモノをぶち当てる事が出来る人をー。
即ち、“自分自身を受け止めた挙げ句に救い出してくれる人”を捜し求めていただけだったのであったが、一方でー。
メリアリアもそれは十二分に理解していた、理解していてその上で、敢えてその役割を自分自身に課したのであるモノの、それはそうする事がせめてもの罪滅ぼしであり己に対する“罰だ”と思い続けていたからに他ならなかった、メリアリア自身もそうであった、決して人前では見せることをしなかったけれどもそれでも、彼女だって色々と悩み、苦しみ、もがき続けながらもそれでも、必死になって生き抜いてきたのであって、そしてー。
そんな少女であったからこそ、メリアリアにはアウロラのどうしようも無い程にいたたまれなさ過ぎる思いや気持ち、無念さと言ったモノが痛い程良く解っていたのであり、そう言った事も手伝ってだから、わざわざ彼女の元を訪ねて来た次第であった。
果たして。
「・・・・・」
(蒼太・・・っ!!)
果たしてその願いは成就される事となった、何とかして生きる気力を取り戻してくれたアウロラを見た瞬間、メリアリアはホッとなって瞳を瞑(つむ)り、天を仰ぐようにする。
心の中で恋人の事をどこまでもどこまでも強く思い求めるモノの実はこの時、アウロラの両親達がそうであったようにメリアリアもまた一種の、“伸(の)るか反(そ)るかの大博打”を行ったのであって、そしてその中心にあったモノこそが、蒼太が自分にかけてくれた言葉そのものに他ならなかった、即ちー。
“何があっても必ず生き抜け”と言うそれであったが“もし”とメリアリアは思っていた、“今のアウロラを立ち直させる事が出来るとすれば、それは自分の言葉では間違っても無い”とー。
だけど。
(“蒼太の言葉”であれば、あの子は聞いてくれるかも知れない!!)
そう感じ取ったのであり、そしてその考えに一縷の望みを託して彼女は今日、この日この時この瞬間に、急いでアウロラの元へと赴いて来たのであった。
そしてこの事を切っ掛けとしてー。
アウロラの中にあった、メリアリアへの蟠(わだかま)りは完全に氷解していった、正直に言ってそれでもまだ、蒼太との事で完全に納得し切れてしていない部分もあるにはあったがそれすらも、彼女達の仲をギクシャクさせる程のモノでは無かったし、良き仲間、良きライバルとして同じ組織の中においてもお互いに切磋琢磨し合いながら、そして時には協力しながら任務をこなし続けては、安寧の中にある街や人々や草花の事を陰ながら守り支えていったのである。
それにー。
(蒼太さん・・・っ!!)
メリアリアがそうであったように、アウロラもまた蒼太が死んだ気がしなかった、なんだか何処かで生きていてくれるかのような、その内に帰って来てくれるかのような、そんな気がしてならなかったのである。
だからこそー。
アウロラはメリアリアからの言葉を受け入れたのであり、そしてその後はもう、彼女は二度と、命を粗末にしようとはしなかった、そんな事をすれば、いずれ再会した時に蒼太を悲しませる事になるだろうし、それになによりかによりそれ以前の話としては蒼太に怒られ、嫌われてしまう事になってしまうかも知れなかったからだ。
(そんなの、絶対に良くないです、あってはいけない事だもの・・・っ!!)
そう思ったアウロラはだから、“いつか蒼太と再会出来る時”を夢見て、信じて、そしてー。
その日を目指してただひたすらに、どこまでもどこまでも生き抜いていったのである。
ーーーーーーーーーーーーーー
正直に言ってこのお話は、書いていて些かに気が滅入るモノでしたが、それでも物語の都合上、どうしても書かない訳にはいきませんでした(さもないと物語の流れ的におかしくなってしまうと言いますか、アウロラの性格や性質、そしてメリアリアとの兼ね合い的に見ても不自然な感じになってしまいますから。それに読者の皆様方に対して誤魔化しをする訳にはいきませんでした、だから自分の気持ちになるべく正直に書かせていただきました所存です)。
自分の中にある“メリアリアだったらこうするんじゃないか”ですとか、また或いは“アウロラだったらこう言う事を言ったりやったりするんじゃないかな”と言うのを素直に表現してみたつもりです(アグレッシブなアウロラですとか、それに対する毅然としたメリアリア等をです)。
ちなみに本人達はまだ、ハッキリとは気が付いてはいないのですけれども、メリアリアちゃんとアウロラは似ています(と言うよりも根っこの部分が同じなんです)、蒼太君に対してはとてもピュアで真摯で一途な思いを抱いています(それらを普段は“秘している”のです)、そしてー。
二人っきりになると途端に、“もう我慢出来ない”とでも言わんばかりに一気にそれらを爆発させて甘えて来ます、だから凄く情熱的かつ積極的になるのです(流石に細かい仕草や発揮の仕方なんかは違って来ますが)。
そしてだからこそー。
メリアリアちゃんにはアウロラの苦悩が解ったのですね(メリアリアちゃんも色々と悩んで苦しんで来た子なので・・・)、それに作中でも言及されておりましたが、如何に天才的な魔法少女とは言えどもまだ11歳の少女が全てを正確に理解できる訳がありません(それは無理と言うモノです)。
だから(“自分がいけなかったんだ”と、自分自身を責めている事も手伝って)メリアリアちゃんはアウロラの元へとやって来たんですね、そして何とかアウロラに生きる気力を取り戻させようとするのです(それがせめてもの“罪滅ぼし”であると、“自分の義務”だと思ったんです。ちなみに説明させていただきますと、アウロラの探し求めていた“自分自身を受け止めた挙げ句に救い出してくれる人”と言うのは実は蒼太君の事です。これはメリアリアちゃんが逆の立場であっても同じ事だったのですけれども要するに、アウロラが最終的に立ち直れたのは“蒼太君の存在、言葉があったから”であって正直、メリアリアちゃんだけのそれらでは、些かに厳しい部分がありました←これはメリアリアちゃんの気持ちの部分をよく読んでいただければ解っていただけるかと思いますけれども要するに彼女は“蒼太君の肩代わり”をしたのですね、それが出来るのはこの時点においてはメリアリアちゃんしかいませんでしたし。それに先述の通り、彼女は自分自身の事を責めていましたので)。
後は書かれている通りです、メリアリアちゃんもアウロラも、キチンと蒼太君の思いを受け止めて、そして自身の中で昇華して、“生きる”と言う未来を選択してくれました(ちなみにどうしてアウロラの方が回復するまで時間が掛かったのか、と言いますと、彼女には蒼太君からの言葉が何も無かったからなのです。それをメリアリアちゃんが与えてくれたのでした、それで最終的には彼女と同じように立ち直る事が出来たんです。勿論、二人ともそれに加えて“蒼太が生きているんじゃないか”と言う予感じみたモノを、自らの中で感じていたから、と言うのもありましたけど←要するに“生きる希望”が持てたから、と言うのも理由としては大きいのです)。
ちなみに実際には蒼太君のあれは、間違いなく“事故”です、正直に言って誰のせいでもありません(強いて言うならば世界をそう言う風に構築していった私のせいです)、ただやっぱり、物語の登場人物達からみれば、理不尽でやるせないなと、思われたと思っています(正直に言って悪い事をしたと思っています)、申し訳御座いません。
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