119 / 476
運命の舵輪編
初雪のプロポーズ
しおりを挟む
「・・・・・・・っ!!!!!!?」
「う、うう・・・っ!!!!!!!」
「・・・・・?」
(蒼太・・・?)
それまで落ち着いた風体で対峙していたルクレールとエヴァリナの表情が明らかに驚愕と怯えに歪み、その場で硬直してしまうモノの、それを彼氏のやや後ろから見ていたメリアリアはキョトンとした面持ちで眺めていた。
ただし彼女も周囲の空気が一変した事は感じ取っており、多少ハラハラしながら恋人へと目を向けるモノの、そんな彼女の視線に気が付いていながらも蒼太は少しの間、それに応える事無く自身の心の央芯から迸って来る、エカテリーナへの凄まじいまでの怒りと憎悪を燃やさせては、それを瞳に込めてルクレールとエヴァリナへとぶち当て続けていたのだった。
「・・・・・」
“帰んなよ”と、一頻り二人を睨み付けた後で蒼太はややぶっきら棒な口調でそう告げるが、するとそれと同時に辺りに張り詰めていた重苦しい緊張感が徐々に薄和らいで行き、それらが完全に収まった後でー。
“残心”を取りつつも、蒼太はメリアリアへと向き直るがその時の彼の顔は普段と変わらない、落ち着いた感じのする精悍な、それでいて何処か幼さを残しているそれだった。
「帰ろう?メリー・・・」
「蒼太・・・?ええっ!!」
いつもは大人しい彼氏の見せた、比類無き程までの怒りの波動ー。
それに触れてしまった後だった為に一瞬、ドキリとしてしまったが、それでもメリアリアは迷うこと無く彼氏に駆け寄るとその腕に腕を絡めて抱き着き、二人はそのまま外へと向けて、連れたって歩いて行った。
ルクレールもエヴァリナも、それに対して何の反応も示す事が出来なかった、ただただ彼の見せた強烈なまでの怒気と鬼神の如き形相とに固まってしまい、思考までもが停止してしまっていたのだ。
「・・・・・」
「・・・・・?」
“もう帰るんだろ?”とそんな彼女達に対して蒼太は途中で足を止め、背中越しに言葉を掛けるがその口調はやはり、普段の蒼太そのままであり、柔らかくて暖かみのあるハスキーボイスなそれだった。
「君達もさ」
と蒼太が続けた。
「“全力”はまだ、出せていなかったみたいだけれども・・・。それでも現時点では一応は、勝負は着いたみたいだし・・・。取り敢えず“マーガレット”に報告も入れなきゃならない筈だしね?ちなみにもう、解っているとは思うけれども・・・。“カインとメイル”は死んだよ、僕達が倒したんでね」
「・・・・・っ!?」
(こいつ・・・っ!!)
「ええ、知っています・・・!!」
落ち着いた雰囲気と、やや低めなアルトテイストな声質から紡ぎ出される話の内容に、ようやく我に返ったルクレールとエヴァリナがそれぞれ、身構えながらも反応するが正直に言って“カインとメイル”の事については彼女達にとっても想定内の事だったから、特に驚くには値しなかった、それより。
「先程の、“全力を出せていない”とはどう言った意味なのでしょうか・・・?」
「“底力”を、押さえながら戦っていただろ?こっちが解らないとでも思っていたなら相手が悪いよ・・・。ねえメリー?」
「ええっ!!」
するとそれを聞いたメリアリアは一旦、彼氏に巻き付けた腕を解き、ルクレール達に向き直る。
「・・・あなた達。“力”を抑えながら戦っていたでしょ!?解ってるんだから!!」
「酷いなめられようだとは、思ったけれどね・・・。だけどようやく合点が行ったよ、今回の事は本格的な戦闘よりも、“威力偵察”を兼ねた自己紹介、そんなところなんだろう?」
「・・・・・っ!!」
「・・・・・」
(バレたか・・・!!)
と、自身も恋人に倣って振り返りつつも、改めて二人と対峙する形となった蒼太が告げるが、するとそれを聞いたルクレールとエヴァリナは少しバツが悪そうな、それでいて悪戯っぽい笑みを浮かべて応じるモノの、実際は彼等の言った通りで本来であればこの任務こそが、“カインとメイル”の二人組に宛てられていた仕事だったのであるが。
(突っ走った挙げ句に勝手にやられちゃうなんて・・・っ。お陰でこちらの手間が増えたわ、忌々しい!!)
(面倒臭さ倍増です、迷惑も良いとこです!!)
と内心で二人は先日、既に弔いを済ませてきたかつての仲間にブーブーと文句を言うが兎にも角にも済んでしまった事は仕方が無い、これ以上、彼等を責めても始まらないのだ。
「まあでも君達が今回、本気にならなくて良かったよ、こちらとしても“慣らし運転”をしておきたかったし・・・。それに流石に、こんな場所で“お互いに本気でやりあったならば”、一般の方々を、巻き添えにしてしまう可能性が高まるからね・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
(なるほどね・・・)
とルクレールもエヴァリナも得心したように微笑むモノの、“やはり向こうもそうだった”のでありどうやら自分達と同じように出したくても全力は、出すことが出来ずにいたようだった。
(まあ、確かに。いくら広いとは言えども、こんな住宅街の真ん中ではね・・・)
(通行人や住民の方々に、被害がでないとも限りませんから・・・!!)
そう考えると二人は今度こそ本格的に相好を崩した、今現時点においてもう“戦いはない”と確信した二人はもう一方の任務である、“情報収集”に務める事に舵を切った。
「もう一つ。教えていただけますでしょうか・・・」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「先程チラッと言葉に出されておりましたけれども・・・。エカテリーナ嬢に対するお話は、一体どう言う事なのでしょう・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
(蒼太・・・!!)
エヴァリナから発せられた、その言葉を聞いた時にメリアリアは何かを訴え掛けるかのような静かに、それでいて強い光を込めた眼差しを彼氏に向けるが、一方でー。
そんな恋人の気持ちを見て取った蒼太は“解った”とでも言うかのようにゆっくりと頷くと“ハァッ”と短めな溜息をついてから、ルクレールとエヴァリナの両名に一つずつ説明し始めた、エカテリーナが“レベッカ”と言う名称の異世界人であること、“ドラクロワ・カウンシル”と呼ばれている超国家間ネットワークを誇る完全秘密制のクラブに属していたこと、欧州各国のありとあらゆる戦争に関係している人間であること、等を。
「・・・・・っ。そんな、ばかなっ!?」
「聞いたこと、無いです。そんな話は・・・!!」
「全て事実だ」
蒼太は語った。
「“ドラクロワ・カウンシル”自体がまだ全貌の掴めていない組織だけれども・・・。恐らくはこの世界にも、同じようなクラブが存在しているはずだ、そしてそれすらも裏から操っている“黒幕達”も必ずね!!」
“何処かに隠れていると思うよ”と蒼太は続けるモノの、彼としてみれば現状、レベッカとレウルーラを切り離しておくにしくはなく、そう言った意味もあって情報を提供したのである。
「君達も、いつまでもいつまでもあんな意味不明な女なんかに関わっていないで、通常の任務を再開すべきなんじゃないのかい?情報収集に要人の護衛、後継者の育成と、やらなければならないことは山積みになっている筈だ。そう言う風に・・・」
“マーガレットに伝えておいてよ”と告げると“それじゃあね”と続けて蒼太は今度こそ本当に、メリアリアを引き連れたままでそこの“公団開発予定地”を後にしていった。
戦闘の終わったその場所にはルクレールとエヴァリナだけが取り残されており、二人の周囲をヒュウヒュウと、風が吹き抜け続けていく。
「・・・・・」
「どうします?ルクレールさん・・・」
「どうもこうもないわ」
と、相方(バディ)からの問いにルクレールは即答した、“一応、これまでに手に入れた情報を、本部に送信しなければならない”とー。
「その為には面倒だけれども・・・。“大使館”に赴くしか無いわね」
「しょうがありませんね・・・」
二人は“ハアァァ・・・ッ!!”と溜息を漏らすがハッキリと言って今回の戦闘は終始、向こうのペースで事が進んでしまっており、挙げ句の果てには自分達の身の上までもがバレている、と言う驚愕の事案も発生している、あの“エカテリーナ”の事も含めてまずは本国にこの事を伝え、改めて指示を仰がなければならなかった。
「・・・・・」
「マーガレットさん、怒るでしょうね・・・」
「仕方が無いわ」
それに付いてはルクレールはある種の諦観と言うか、覚悟を滲ませるが“こればかりはどうしようもない”と、彼女は思っていた、相手の実際の戦闘能力等と言うモノは、直接的に相対してみなければ解らないモノではあったし、それになにより。
「こちらの予想以上にあの二人は強い、正直に言って強すぎる!!」
“それに”とルクレールは続けた、“あの両名に対するサポート体制も随分と整っているようだしね”と。
「それらの事を、まずは本国に送信しなければならないわ。これだって私達だから成し得た任務よ?例えばメイジーやイヴリン達だったならば、悪いけど相手にもならなかったでしょうし・・・」
「それは・・・っ!!まあ、そうですが・・・」
「それに」
とルクレールは言う、“確かに私達もまだ、全力は出してはいなかったからね”と。
「悪いけれど・・・。あの程度の敷地面積しかない場所で“極超新星(ハイパーノヴァ)”にはなれないからね」
「ええ」
とこれにはエヴァリナまでもが釣られて頷くモノの確かに、今回の目的はあくまでも相手の実力を見るための“前哨戦”に過ぎず、本気を出して戦うレベルに達してはいなかったのだ、何故ならば。
彼女達が“それをやる”時というのは基本的に相手に止めを刺すときであり、そしてそれはもっと言ってしまえば相手の戦い方や癖、動きなどが全て丸裸にされた時だからである。
そう言う意味では今回の戦闘は、実に有意義なモノだった、残念ながら相手の実力の底を、見抜く事は出来なかったがしかし、絶対に油断してはいけない相手だと言うことは感覚的に理解することが出来たのであり、これは今後も続くであろう彼等“セイレーン”との戦いにおいては非常に大きな財産となるである事は、想像に難くない事実であった。
「私達も、行きましょう?エヴァリナ。大使館へは明日行くとして、先ずは今日の買い物を済ませなければね」
「はい、ルクレールさん。それに私もまだ、この前見ていたアニメのDVDを見終わってはいませんし・・・」
「またなの!?」
とルクレールは半ば、呆れ半分に言い放った、“あなたは本当に、アニメが好きなのねぇっ!!”とそう告げて。
「アニメばっかり見ていて・・・。その内二次元に、毒されなければ良いけれど・・・」
「“美少女ゲーム”に入れ込んでしまっているルクレールさんに、言われたくは無いですが・・・」
そう言ってエヴァリナは自身のスマートフォンを取り出すと、画面をタップして操作し、PCからダウンロードさせた動画を見せる。
「これ、今私が一番熱中しているアニメなんですけど・・・。“回復術者のやり直し”ってアニメなんです、凄いクオリティが高いんですよ!?悪いですけどそんじょそこらのアダルトアニメよりも遥かに凄いんです!!」
「・・・・・?」
“これって一般でしょ?”とルクレールは呟いた、“この子は一体、何を言ってるんだろう”と思った、なんで一般の作品とアダルトのそれとが比較対象になるのであろうか。
しかし。
「・・・っ。・・・・・っっ!!!・・・・・・・・・っっっ!!!!!!?」
“なんなの、これ!!”と視聴を続けて行く内に、ルクレールは思わず叫びだしてしまっていた、“これ一般でしょ?一般だよね!?”とそう問い質して。
「そうですよ?一般です・・・」
「何をサラッと言っているのっ!?」
ルクレールには時々、この相方の感性が良く解らなくなる事があるのであるが(もっともエヴァリナも言わないだけで逆もまた然りであったが)、今、自分が見ているモノは明らかにアダルトアニメ以外の何物でも無くて、これを公共の電波に乗っけちゃ流石にアカンやろ、と内心で突っ込みを入れてしまった。
「ええっ!?ちょっと待・・・っ。これ、これっ。なにこれなにこれっ。殆ど公然わいせつだよこれっ!?」
「あははっ。ルクレールさんたらオーバーですね。今時のアニメはこんな程度序の口なんですよ?」
まるで子供をあやして見守るかのような暖かな笑みを浮かべる相方に対して、ルクレールはどこまでも驚愕の表情を浮かべ続けていた。
「あ、あのね!?エヴァリナッ。前々から言おうと思っていたんだけど、あなたちょっと、と言うか、大分・・・っ!?」
「あら・・・っ!!」
ルクレールが何事かを言おうとした、まさにその時だった、彼女の頬に、遥かな天空より舞い降りし白い氷の結晶が触れて、その冷たさに気持ちが思わず宙に向き、顔を上げて空を仰いだ。
「これは・・・っ!?」
「雪(スノウ)・・・っ!!」
二人の叫びに呼応するかのようにして、雪は段々とその強さを増して行き、終いには本降りとなってしまった、そう言えば天気予報では夜半から明日、明後日に掛けて“雪が降る”って言っていたっけ。
「久し振りですね、雪なんて!!いつも降り積もった後に、任務で駆り出される事はありましたけれども、降っている最中の空の下に来たのは何年ぶりでしょうか!!」
「そうだね・・・!!」
若干、興奮気味のエヴァリナに対してルクレールがそう応えるモノの、彼女とて粉雪の舞う空模様と言うのは久々の体験であり、テンションは上がりっ放しであった。
「・・・エヴァリナ」
「はい?」
「今日は帰ってさ。部屋で温々していようよ、パーティーしようっ!?アニメとか美しょゲーしながら!!」
「・・・・・っ!!」
ルクレールの言葉に“そうですね”とエヴァリナはニッコリと微笑んで応えるモノの、それは見たルクレールは“行きましょう?”と告げて、エヴァリナを連れたって街へと向けて歩き出して行った。
一方で。
「わあぁぁっ!?」
「・・・・・っ!!」
買い物を終えて帰る途次(みちすがら)、“蒼太、雪よっ!?”とメリアリアは天空を仰ぎ見つつも燥ぎ叫んだ、彼女からしてみれば1年ぶりの白銀であり、これから世界がそれに染まるのが嬉しくってしょうが無い。
「綺麗だねーっ、蒼太!!うんと綺麗でドキドキしちゃうぅぅ~っ!!!!!」
メリアリアのテンションは高まる一方だったのであるが、それはただ単に雪が降って来たから、と言うだけでは決して無かった、降りしきる雪の中、一つ屋根の下で恋人と寄り添って過ごす一日と言うモノが、メリアリアは堪らなく好きだったのである。
いいや、雪なんて降っていなくたって良い、蒼太さえいてくれたらそれで良い、蒼太が側にいて、自分を抱き締めてくれていたのなら、それだけで自分は凍て付く寒さも灼熱の熱さも全てを忘れている事が出来る。
彼に己の全てを捧げ尽くして、夢中になり切る事が出来る、蕩け切る事が出来る。
だけど。
「・・・ねえメリー」
「ん?なぁに、蒼太・・・」
「君と一緒に見る雪って、特別な感じがして僕は好きだな!!」
「・・・・・っっっ!!!!!!!」
手を恋人繋ぎでしっかりと繋ぎつつも、少し照れたように俯きながらそう告げた自身の運命の伴侶に、メリアリアは。
堪らなくなってその場で抱き着き、熱い熱い口付けを交わした。
「ん、んちゅっ。ちゅむ、ちゅぷっ。ちゅる、ちゅる。じゅる、じゅるっ。んちゅ、じゅるっ。しゅきっ、しゅきいぃぃ~・・・っ❤❤❤ん、んむっ。ちゅむ、ちゅるっ。ちゅむむむ~っ、じゅるるる~っ。レロ、クチュッ、レロレロ、クチュクチュクチュクチュ~・・・ッ❤❤❤❤❤ぷふうぅぅぅっ!?ぷふぅーっ、ぷふぅーっ、ぷふぅーっ、ぷふうぅぅぅ・・・っ!!!ん、ちゅぷ、じゅるっ。しゅき、しょうら、しょうらあぁぁ~・・・っ❤❤❤ん、んむっ!?ちゅぷ、じゅるっ。じゅるじゅるっ、じゅるるるっ。じゅるるる、じゅるるるるるるるるるる~・・・・・・っっっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」
「ん、んちゅ、ちゅぷっ、じゅるっ。じゅぞぞぞ、ちゅぷちゅぷっ、クチュクチュッ、レロレロレロレロ・・・ッ!!!ちゅ、ちゅぱっ。じゅるじゅる、じゅるるる、じゅるるるるるるる・・・っっ!!!!!」
口の周りを涎塗れにしつつも舌を絡めて口内を舐め合い、いつまでもいつまでも相手を求めて貪り続ける。
今夜はちょっとしたパーティーの予定だ、“雪が降る”とは聞いてはいたから、それに相応しく鍋をする予定である。
中でもメリアリアが好きなのが“トマトとチーズの鍋ソース”をふんだんに使った欧風鍋だ、この“鍋”と言うのは本当に不思議な食べ方であり、ムール貝やお肉、ニラ、エシャレット、キャベツ、ネギ、タマネギ等々、何でも入れて美味しく食べられる上に〆はリゾットで決めることが出来る程の、まさに1つでオードブルからメインディッシュまでお任せな、極上の一品であった、そこに。
更にシャンパンも添えて付けるが多少、値は張ってしまったモノの、今日くらいは良いだろうと蒼太もメリアリアも考える。
「ねえメリー・・・」
「・・・・・?」
「大好きだよ、メリー。愛してる・・・」
「・・・・・っ!!!」
恋人からなされたその言葉に“私も”と応えて彼氏の肩におでこをチョンとくっ付けると同時に幸せそうに微笑みながら、メリアリアは蒼太の顔を見つめるモノの、その瞳は甘く蕩けて優しい光を湛えつつ、頬は赤く紅潮して心音はドキドキと、その高鳴りを増していた。
「ねえ蒼太・・・っ!!」
「なんだい?メリー・・・」
「ずっと一緒にいよう?約束して、ずっと一緒にいるって!!私の事を、離さないって・・・!!」
「そんなの」
“当たり前じゃないか”と蒼太が返した、“僕はずっと一緒にいる、メリーとずっと一緒にいるよ”、とそう言って。
「メリーのこと、離さないよ、何があってもずっと一緒にいる、ずっと一緒に暮らそう、メリー。僕と・・・。僕と結婚して下さい、メリアリア・カッシーニ!!」
「・・・・・っっっ!!!!!!!は、はいっ。はいぃぃっ!!メリーは、メリアリア・カッシーニはっ。綾壁蒼太と結婚しますっ!!!」
「・・・本当にっ!?」
「ええ、本当にっ。本当だよ、嘘じゃないもんっ!!」
「・・・良かった!!」
青空色の双眸から喜びの熱い涙を流して泣きじゃくるメリアリアを、蒼太は優しく抱き締めながら微笑みつつもそう呟いた。
本当は、告白(プロポーズ)はもう少し待つ筈だった、もう少し待って彼女の誕生日(バースデー)に既に買っておいてあった婚約指輪のサプライズを差し出すと同時に愛の告白を行う、その筈だったのだけれども。
(ど、どうしよう。勢いで言ってしまった)
“だけど”と蒼太は思った、“後悔はしていない”と。
(メリー、受けてくれて。泣きながら喜んでくれているんだもん、言って良かったな・・・!!)
心の底からそう感じた蒼太は恐いくらいの幸せと、恋人への尽きる事の無い純正なる愛の爆発とでその両の眼から涙滴を際限なく溢れさせ続けるメリアリアの事をしっかりと抱擁しつつも自身もその温もりに満たされ続けていた。
満天の雪の降りしきる中、二人は暫くの間その場でしっかりと抱き合いつつも、“今、この瞬間が永遠に続けば良い”と、魂の底から願い続けていた。
「う、うう・・・っ!!!!!!!」
「・・・・・?」
(蒼太・・・?)
それまで落ち着いた風体で対峙していたルクレールとエヴァリナの表情が明らかに驚愕と怯えに歪み、その場で硬直してしまうモノの、それを彼氏のやや後ろから見ていたメリアリアはキョトンとした面持ちで眺めていた。
ただし彼女も周囲の空気が一変した事は感じ取っており、多少ハラハラしながら恋人へと目を向けるモノの、そんな彼女の視線に気が付いていながらも蒼太は少しの間、それに応える事無く自身の心の央芯から迸って来る、エカテリーナへの凄まじいまでの怒りと憎悪を燃やさせては、それを瞳に込めてルクレールとエヴァリナへとぶち当て続けていたのだった。
「・・・・・」
“帰んなよ”と、一頻り二人を睨み付けた後で蒼太はややぶっきら棒な口調でそう告げるが、するとそれと同時に辺りに張り詰めていた重苦しい緊張感が徐々に薄和らいで行き、それらが完全に収まった後でー。
“残心”を取りつつも、蒼太はメリアリアへと向き直るがその時の彼の顔は普段と変わらない、落ち着いた感じのする精悍な、それでいて何処か幼さを残しているそれだった。
「帰ろう?メリー・・・」
「蒼太・・・?ええっ!!」
いつもは大人しい彼氏の見せた、比類無き程までの怒りの波動ー。
それに触れてしまった後だった為に一瞬、ドキリとしてしまったが、それでもメリアリアは迷うこと無く彼氏に駆け寄るとその腕に腕を絡めて抱き着き、二人はそのまま外へと向けて、連れたって歩いて行った。
ルクレールもエヴァリナも、それに対して何の反応も示す事が出来なかった、ただただ彼の見せた強烈なまでの怒気と鬼神の如き形相とに固まってしまい、思考までもが停止してしまっていたのだ。
「・・・・・」
「・・・・・?」
“もう帰るんだろ?”とそんな彼女達に対して蒼太は途中で足を止め、背中越しに言葉を掛けるがその口調はやはり、普段の蒼太そのままであり、柔らかくて暖かみのあるハスキーボイスなそれだった。
「君達もさ」
と蒼太が続けた。
「“全力”はまだ、出せていなかったみたいだけれども・・・。それでも現時点では一応は、勝負は着いたみたいだし・・・。取り敢えず“マーガレット”に報告も入れなきゃならない筈だしね?ちなみにもう、解っているとは思うけれども・・・。“カインとメイル”は死んだよ、僕達が倒したんでね」
「・・・・・っ!?」
(こいつ・・・っ!!)
「ええ、知っています・・・!!」
落ち着いた雰囲気と、やや低めなアルトテイストな声質から紡ぎ出される話の内容に、ようやく我に返ったルクレールとエヴァリナがそれぞれ、身構えながらも反応するが正直に言って“カインとメイル”の事については彼女達にとっても想定内の事だったから、特に驚くには値しなかった、それより。
「先程の、“全力を出せていない”とはどう言った意味なのでしょうか・・・?」
「“底力”を、押さえながら戦っていただろ?こっちが解らないとでも思っていたなら相手が悪いよ・・・。ねえメリー?」
「ええっ!!」
するとそれを聞いたメリアリアは一旦、彼氏に巻き付けた腕を解き、ルクレール達に向き直る。
「・・・あなた達。“力”を抑えながら戦っていたでしょ!?解ってるんだから!!」
「酷いなめられようだとは、思ったけれどね・・・。だけどようやく合点が行ったよ、今回の事は本格的な戦闘よりも、“威力偵察”を兼ねた自己紹介、そんなところなんだろう?」
「・・・・・っ!!」
「・・・・・」
(バレたか・・・!!)
と、自身も恋人に倣って振り返りつつも、改めて二人と対峙する形となった蒼太が告げるが、するとそれを聞いたルクレールとエヴァリナは少しバツが悪そうな、それでいて悪戯っぽい笑みを浮かべて応じるモノの、実際は彼等の言った通りで本来であればこの任務こそが、“カインとメイル”の二人組に宛てられていた仕事だったのであるが。
(突っ走った挙げ句に勝手にやられちゃうなんて・・・っ。お陰でこちらの手間が増えたわ、忌々しい!!)
(面倒臭さ倍増です、迷惑も良いとこです!!)
と内心で二人は先日、既に弔いを済ませてきたかつての仲間にブーブーと文句を言うが兎にも角にも済んでしまった事は仕方が無い、これ以上、彼等を責めても始まらないのだ。
「まあでも君達が今回、本気にならなくて良かったよ、こちらとしても“慣らし運転”をしておきたかったし・・・。それに流石に、こんな場所で“お互いに本気でやりあったならば”、一般の方々を、巻き添えにしてしまう可能性が高まるからね・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
(なるほどね・・・)
とルクレールもエヴァリナも得心したように微笑むモノの、“やはり向こうもそうだった”のでありどうやら自分達と同じように出したくても全力は、出すことが出来ずにいたようだった。
(まあ、確かに。いくら広いとは言えども、こんな住宅街の真ん中ではね・・・)
(通行人や住民の方々に、被害がでないとも限りませんから・・・!!)
そう考えると二人は今度こそ本格的に相好を崩した、今現時点においてもう“戦いはない”と確信した二人はもう一方の任務である、“情報収集”に務める事に舵を切った。
「もう一つ。教えていただけますでしょうか・・・」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「先程チラッと言葉に出されておりましたけれども・・・。エカテリーナ嬢に対するお話は、一体どう言う事なのでしょう・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
(蒼太・・・!!)
エヴァリナから発せられた、その言葉を聞いた時にメリアリアは何かを訴え掛けるかのような静かに、それでいて強い光を込めた眼差しを彼氏に向けるが、一方でー。
そんな恋人の気持ちを見て取った蒼太は“解った”とでも言うかのようにゆっくりと頷くと“ハァッ”と短めな溜息をついてから、ルクレールとエヴァリナの両名に一つずつ説明し始めた、エカテリーナが“レベッカ”と言う名称の異世界人であること、“ドラクロワ・カウンシル”と呼ばれている超国家間ネットワークを誇る完全秘密制のクラブに属していたこと、欧州各国のありとあらゆる戦争に関係している人間であること、等を。
「・・・・・っ。そんな、ばかなっ!?」
「聞いたこと、無いです。そんな話は・・・!!」
「全て事実だ」
蒼太は語った。
「“ドラクロワ・カウンシル”自体がまだ全貌の掴めていない組織だけれども・・・。恐らくはこの世界にも、同じようなクラブが存在しているはずだ、そしてそれすらも裏から操っている“黒幕達”も必ずね!!」
“何処かに隠れていると思うよ”と蒼太は続けるモノの、彼としてみれば現状、レベッカとレウルーラを切り離しておくにしくはなく、そう言った意味もあって情報を提供したのである。
「君達も、いつまでもいつまでもあんな意味不明な女なんかに関わっていないで、通常の任務を再開すべきなんじゃないのかい?情報収集に要人の護衛、後継者の育成と、やらなければならないことは山積みになっている筈だ。そう言う風に・・・」
“マーガレットに伝えておいてよ”と告げると“それじゃあね”と続けて蒼太は今度こそ本当に、メリアリアを引き連れたままでそこの“公団開発予定地”を後にしていった。
戦闘の終わったその場所にはルクレールとエヴァリナだけが取り残されており、二人の周囲をヒュウヒュウと、風が吹き抜け続けていく。
「・・・・・」
「どうします?ルクレールさん・・・」
「どうもこうもないわ」
と、相方(バディ)からの問いにルクレールは即答した、“一応、これまでに手に入れた情報を、本部に送信しなければならない”とー。
「その為には面倒だけれども・・・。“大使館”に赴くしか無いわね」
「しょうがありませんね・・・」
二人は“ハアァァ・・・ッ!!”と溜息を漏らすがハッキリと言って今回の戦闘は終始、向こうのペースで事が進んでしまっており、挙げ句の果てには自分達の身の上までもがバレている、と言う驚愕の事案も発生している、あの“エカテリーナ”の事も含めてまずは本国にこの事を伝え、改めて指示を仰がなければならなかった。
「・・・・・」
「マーガレットさん、怒るでしょうね・・・」
「仕方が無いわ」
それに付いてはルクレールはある種の諦観と言うか、覚悟を滲ませるが“こればかりはどうしようもない”と、彼女は思っていた、相手の実際の戦闘能力等と言うモノは、直接的に相対してみなければ解らないモノではあったし、それになにより。
「こちらの予想以上にあの二人は強い、正直に言って強すぎる!!」
“それに”とルクレールは続けた、“あの両名に対するサポート体制も随分と整っているようだしね”と。
「それらの事を、まずは本国に送信しなければならないわ。これだって私達だから成し得た任務よ?例えばメイジーやイヴリン達だったならば、悪いけど相手にもならなかったでしょうし・・・」
「それは・・・っ!!まあ、そうですが・・・」
「それに」
とルクレールは言う、“確かに私達もまだ、全力は出してはいなかったからね”と。
「悪いけれど・・・。あの程度の敷地面積しかない場所で“極超新星(ハイパーノヴァ)”にはなれないからね」
「ええ」
とこれにはエヴァリナまでもが釣られて頷くモノの確かに、今回の目的はあくまでも相手の実力を見るための“前哨戦”に過ぎず、本気を出して戦うレベルに達してはいなかったのだ、何故ならば。
彼女達が“それをやる”時というのは基本的に相手に止めを刺すときであり、そしてそれはもっと言ってしまえば相手の戦い方や癖、動きなどが全て丸裸にされた時だからである。
そう言う意味では今回の戦闘は、実に有意義なモノだった、残念ながら相手の実力の底を、見抜く事は出来なかったがしかし、絶対に油断してはいけない相手だと言うことは感覚的に理解することが出来たのであり、これは今後も続くであろう彼等“セイレーン”との戦いにおいては非常に大きな財産となるである事は、想像に難くない事実であった。
「私達も、行きましょう?エヴァリナ。大使館へは明日行くとして、先ずは今日の買い物を済ませなければね」
「はい、ルクレールさん。それに私もまだ、この前見ていたアニメのDVDを見終わってはいませんし・・・」
「またなの!?」
とルクレールは半ば、呆れ半分に言い放った、“あなたは本当に、アニメが好きなのねぇっ!!”とそう告げて。
「アニメばっかり見ていて・・・。その内二次元に、毒されなければ良いけれど・・・」
「“美少女ゲーム”に入れ込んでしまっているルクレールさんに、言われたくは無いですが・・・」
そう言ってエヴァリナは自身のスマートフォンを取り出すと、画面をタップして操作し、PCからダウンロードさせた動画を見せる。
「これ、今私が一番熱中しているアニメなんですけど・・・。“回復術者のやり直し”ってアニメなんです、凄いクオリティが高いんですよ!?悪いですけどそんじょそこらのアダルトアニメよりも遥かに凄いんです!!」
「・・・・・?」
“これって一般でしょ?”とルクレールは呟いた、“この子は一体、何を言ってるんだろう”と思った、なんで一般の作品とアダルトのそれとが比較対象になるのであろうか。
しかし。
「・・・っ。・・・・・っっ!!!・・・・・・・・・っっっ!!!!!!?」
“なんなの、これ!!”と視聴を続けて行く内に、ルクレールは思わず叫びだしてしまっていた、“これ一般でしょ?一般だよね!?”とそう問い質して。
「そうですよ?一般です・・・」
「何をサラッと言っているのっ!?」
ルクレールには時々、この相方の感性が良く解らなくなる事があるのであるが(もっともエヴァリナも言わないだけで逆もまた然りであったが)、今、自分が見ているモノは明らかにアダルトアニメ以外の何物でも無くて、これを公共の電波に乗っけちゃ流石にアカンやろ、と内心で突っ込みを入れてしまった。
「ええっ!?ちょっと待・・・っ。これ、これっ。なにこれなにこれっ。殆ど公然わいせつだよこれっ!?」
「あははっ。ルクレールさんたらオーバーですね。今時のアニメはこんな程度序の口なんですよ?」
まるで子供をあやして見守るかのような暖かな笑みを浮かべる相方に対して、ルクレールはどこまでも驚愕の表情を浮かべ続けていた。
「あ、あのね!?エヴァリナッ。前々から言おうと思っていたんだけど、あなたちょっと、と言うか、大分・・・っ!?」
「あら・・・っ!!」
ルクレールが何事かを言おうとした、まさにその時だった、彼女の頬に、遥かな天空より舞い降りし白い氷の結晶が触れて、その冷たさに気持ちが思わず宙に向き、顔を上げて空を仰いだ。
「これは・・・っ!?」
「雪(スノウ)・・・っ!!」
二人の叫びに呼応するかのようにして、雪は段々とその強さを増して行き、終いには本降りとなってしまった、そう言えば天気予報では夜半から明日、明後日に掛けて“雪が降る”って言っていたっけ。
「久し振りですね、雪なんて!!いつも降り積もった後に、任務で駆り出される事はありましたけれども、降っている最中の空の下に来たのは何年ぶりでしょうか!!」
「そうだね・・・!!」
若干、興奮気味のエヴァリナに対してルクレールがそう応えるモノの、彼女とて粉雪の舞う空模様と言うのは久々の体験であり、テンションは上がりっ放しであった。
「・・・エヴァリナ」
「はい?」
「今日は帰ってさ。部屋で温々していようよ、パーティーしようっ!?アニメとか美しょゲーしながら!!」
「・・・・・っ!!」
ルクレールの言葉に“そうですね”とエヴァリナはニッコリと微笑んで応えるモノの、それは見たルクレールは“行きましょう?”と告げて、エヴァリナを連れたって街へと向けて歩き出して行った。
一方で。
「わあぁぁっ!?」
「・・・・・っ!!」
買い物を終えて帰る途次(みちすがら)、“蒼太、雪よっ!?”とメリアリアは天空を仰ぎ見つつも燥ぎ叫んだ、彼女からしてみれば1年ぶりの白銀であり、これから世界がそれに染まるのが嬉しくってしょうが無い。
「綺麗だねーっ、蒼太!!うんと綺麗でドキドキしちゃうぅぅ~っ!!!!!」
メリアリアのテンションは高まる一方だったのであるが、それはただ単に雪が降って来たから、と言うだけでは決して無かった、降りしきる雪の中、一つ屋根の下で恋人と寄り添って過ごす一日と言うモノが、メリアリアは堪らなく好きだったのである。
いいや、雪なんて降っていなくたって良い、蒼太さえいてくれたらそれで良い、蒼太が側にいて、自分を抱き締めてくれていたのなら、それだけで自分は凍て付く寒さも灼熱の熱さも全てを忘れている事が出来る。
彼に己の全てを捧げ尽くして、夢中になり切る事が出来る、蕩け切る事が出来る。
だけど。
「・・・ねえメリー」
「ん?なぁに、蒼太・・・」
「君と一緒に見る雪って、特別な感じがして僕は好きだな!!」
「・・・・・っっっ!!!!!!!」
手を恋人繋ぎでしっかりと繋ぎつつも、少し照れたように俯きながらそう告げた自身の運命の伴侶に、メリアリアは。
堪らなくなってその場で抱き着き、熱い熱い口付けを交わした。
「ん、んちゅっ。ちゅむ、ちゅぷっ。ちゅる、ちゅる。じゅる、じゅるっ。んちゅ、じゅるっ。しゅきっ、しゅきいぃぃ~・・・っ❤❤❤ん、んむっ。ちゅむ、ちゅるっ。ちゅむむむ~っ、じゅるるる~っ。レロ、クチュッ、レロレロ、クチュクチュクチュクチュ~・・・ッ❤❤❤❤❤ぷふうぅぅぅっ!?ぷふぅーっ、ぷふぅーっ、ぷふぅーっ、ぷふうぅぅぅ・・・っ!!!ん、ちゅぷ、じゅるっ。しゅき、しょうら、しょうらあぁぁ~・・・っ❤❤❤ん、んむっ!?ちゅぷ、じゅるっ。じゅるじゅるっ、じゅるるるっ。じゅるるる、じゅるるるるるるるるるる~・・・・・・っっっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」
「ん、んちゅ、ちゅぷっ、じゅるっ。じゅぞぞぞ、ちゅぷちゅぷっ、クチュクチュッ、レロレロレロレロ・・・ッ!!!ちゅ、ちゅぱっ。じゅるじゅる、じゅるるる、じゅるるるるるるる・・・っっ!!!!!」
口の周りを涎塗れにしつつも舌を絡めて口内を舐め合い、いつまでもいつまでも相手を求めて貪り続ける。
今夜はちょっとしたパーティーの予定だ、“雪が降る”とは聞いてはいたから、それに相応しく鍋をする予定である。
中でもメリアリアが好きなのが“トマトとチーズの鍋ソース”をふんだんに使った欧風鍋だ、この“鍋”と言うのは本当に不思議な食べ方であり、ムール貝やお肉、ニラ、エシャレット、キャベツ、ネギ、タマネギ等々、何でも入れて美味しく食べられる上に〆はリゾットで決めることが出来る程の、まさに1つでオードブルからメインディッシュまでお任せな、極上の一品であった、そこに。
更にシャンパンも添えて付けるが多少、値は張ってしまったモノの、今日くらいは良いだろうと蒼太もメリアリアも考える。
「ねえメリー・・・」
「・・・・・?」
「大好きだよ、メリー。愛してる・・・」
「・・・・・っ!!!」
恋人からなされたその言葉に“私も”と応えて彼氏の肩におでこをチョンとくっ付けると同時に幸せそうに微笑みながら、メリアリアは蒼太の顔を見つめるモノの、その瞳は甘く蕩けて優しい光を湛えつつ、頬は赤く紅潮して心音はドキドキと、その高鳴りを増していた。
「ねえ蒼太・・・っ!!」
「なんだい?メリー・・・」
「ずっと一緒にいよう?約束して、ずっと一緒にいるって!!私の事を、離さないって・・・!!」
「そんなの」
“当たり前じゃないか”と蒼太が返した、“僕はずっと一緒にいる、メリーとずっと一緒にいるよ”、とそう言って。
「メリーのこと、離さないよ、何があってもずっと一緒にいる、ずっと一緒に暮らそう、メリー。僕と・・・。僕と結婚して下さい、メリアリア・カッシーニ!!」
「・・・・・っっっ!!!!!!!は、はいっ。はいぃぃっ!!メリーは、メリアリア・カッシーニはっ。綾壁蒼太と結婚しますっ!!!」
「・・・本当にっ!?」
「ええ、本当にっ。本当だよ、嘘じゃないもんっ!!」
「・・・良かった!!」
青空色の双眸から喜びの熱い涙を流して泣きじゃくるメリアリアを、蒼太は優しく抱き締めながら微笑みつつもそう呟いた。
本当は、告白(プロポーズ)はもう少し待つ筈だった、もう少し待って彼女の誕生日(バースデー)に既に買っておいてあった婚約指輪のサプライズを差し出すと同時に愛の告白を行う、その筈だったのだけれども。
(ど、どうしよう。勢いで言ってしまった)
“だけど”と蒼太は思った、“後悔はしていない”と。
(メリー、受けてくれて。泣きながら喜んでくれているんだもん、言って良かったな・・・!!)
心の底からそう感じた蒼太は恐いくらいの幸せと、恋人への尽きる事の無い純正なる愛の爆発とでその両の眼から涙滴を際限なく溢れさせ続けるメリアリアの事をしっかりと抱擁しつつも自身もその温もりに満たされ続けていた。
満天の雪の降りしきる中、二人は暫くの間その場でしっかりと抱き合いつつも、“今、この瞬間が永遠に続けば良い”と、魂の底から願い続けていた。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる