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運命の舵輪編
蛇の道は蛇
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読者の皆様こんにちは、いつもいつも小説をお読み下さいまして大変、有難う御座います。
実は今回は、112話と114話の中で語らせていただきました、“愛し合う”と言うことに対しての捕捉をさせていただきたく、筆を執らせていただきました、どうぞ暫くの間だけ、お付き合い下さいませ(この手の話題がしつこくなってしまいまして、申し訳御座いません)。
実は話を読み返して気が付いたのですが、読者の皆様に「じゃあ喧嘩とかはどうなるんだよ?」と言った疑問を持たれてはしていないだろうか、と感じ取ったと言いますか、考えに至りましてその答えをここに記させていただこうと考えました次第です。
結論から申し上げますと、喧嘩や戦いと言うのも確かに“愛”ではありますが、ただし。
それは本当の意味での愛の形からは掛け離れてしまっている、不完全な愛、不毛な愛、所謂(いわゆる)“報われない愛の形”と言うことが出来るでしょう。
これは例えを出して解りやすく説明させていただきますと、“憎しみ合い”、“いがみ合い”、“殺し合う”その先に“愛”、もっと言ってしまいますと“合い”は無くなってしまいます(相手を打ち倒して破滅させてしまうからです、殺してどこにも居なくさせてしまうからです)。
一方通行的な愛も単なる独り善がり、所謂(いわゆる)“独善”でしかありませんが、そう言う訳でして戦いの果てには“愛”は(“合い”は)ありません、合い手(相手)が消えてしまうからです、つまり“し合うこと”が出来なくなる事を意味します、それはもう、愛ではありません。
それに愛と言うのは無限の未来を得て、どこまでもどこまでも報われ合って行くものなのですが、その観点からも途中で消滅してしまう“愛”(即ち“合い”)と言うのは不完全な幻、泡沫(うたかた)の夢でしかありません。
ではどうして愛とは“無限の未来を得て、どこまでもどこまでも報われ合って行くモノ”なのでしょう。
愛を育み合っている方々の間では“愛の共鳴現象”とでも言うべきモノが発生しますがこれがお互いの間で為されると、その輝きの照り返しを受けて愛の煌めきと言うモノは二人の間で無限に反復、増幅を繰り返しては、どこまでもどこまでも崇高で強固で確かなモノへと進化、発展して行きます。
ましてやそれが、お互いにお互いを受け入れ合っている夫婦の間では尚更です(物凄い事になります)。
そう言う事で御座います。
またもう一つ、“神人化”する際の説明についてで御座いますが、あれは要するに、祈りに集中して行くと深いトランス状態となりその結果、様々な誘惑の想念ですとか“自分は~~だ”、“自分とはこう言うヤツだ、こうあるべきだ”、“こうでなければならないんだ”と言ったような、所謂(いわゆる)“意識の縛り”から解放されます(そう言うのが凄く希薄になって行くんです)、そうすると自我の状態が顕在系から純然たる潜在系へと移り変わって行く訳なのですがこの時に、自分の中に秘められている“神の部分”を感じてそれと繋がっている事を、もっと言ってしまえば“一体である事”を自分自身の心の底から、そして何より魂の底から本当に素直に納得させて、自覚させる事が出来れば良いのです(思い込むのでは無くて“自覚”するのです)。
それが書きたかったのです(ゴチャゴチャと解りにくくなってしまい、申し訳ありません)。
敬具。
ハイパーキャノン。
申し訳ございません、追伸なのですが基本的に人間というのは生まれて来る前に肉体や家柄、人生を選べるモノらしいのですが(人は誰もが生まれて来る前には神様から“この人間として生まれた場合はこう言う一生を送り、最後はこうなるぞ?”と言う事を見せられる、それで納得した者にのみ、その人間としての人生が与えられる、と言われています)それ故に、やはりその人その人の持つ“魂”と同調している(もしくは実力にあった)肉体や人生、家系を選択して生まれて来る事が多いようです(当たり前と言えば当たり前な事なのかも知れませんが)。
長文駄文、失礼いたしました、取り急ぎの捕捉説明でございます。
ーーーーーーーーーーーーーー
ガキイィィィンッと金属と金属とがぶつかり合う音が響いて周囲に火花が飛び散って行く。
もうこれで何度目だろうか、自分が動こうとした先へと向けて、それよりも一瞬早くに振り下ろされる蒼太の刃をエクセリオンとアレクシオンとで慌てて防いで身を守ったのは。
「ふうっ、ふう・・・っ!!」
「・・・・・」
必死に呼吸のリズムを保ちつつもルクレールは未だかつて遭遇した事の無い難敵を目の前にして、流石に攻め倦(あぐ)ねてしまっていた、こんな筈では間違いなく無かった、本来であれば彼女は二本のレイピアと柔らかな関節、そしてしなやかな筋肉から生み出される“高機動刺突戦法”を用いて蒼太を翻弄して消耗させ、隙を付いて一気に止めを刺す、その筈であったのだが。
実際の戦闘は彼女の思惑通りには進まなかった、理由は相手の動きと戦い方にあったのだが何故か蒼太は此方が動こうとする未来位置を一瞬、早くに予測してはそこへと向けて強引に割り込んできたり、白銀に輝く刀剣の鋭い一撃を加えてはこちらの動きを踏み留まらせ、そこへの進出を断念させる、と言った戦法を繰り返し続けてルクレールに一度たりとも“好きに動かさせる”と言う事を、させないようにしていたのである。
その結果、ルクレールは開始から既に、10分近くが経とうとしているにも関わらずに未だに主導権を握ることが出来ずにおりただただただただ肉体的、或いは精神的な疲労だけが蓄積して行ったのであるが、実は彼女達“超新星”、もしくはメリアリア達“女王位”にはそれぞれ強敵と戦う際の、ある共通する戦法があった。
それは“自身の奥底に眠る力を自在に発揮する為の呼吸法”と“身体能力そのものを一定時間向上させる魔法”とを用いてその限界稼働時間と機動力、攻撃能力と言ったモノを最大以上に発揮しては“ヒット&アウェイ”を繰り返しつつ、最後は“決め手”で止めを刺す、と言うモノだったのであるがしかし、それがこの青年には通用しなかった、蒼太には恐ろしい程にまで隙が無く、あったとしてもそれにつけ込もうとする前に一瞬、早く気付かれては反応されてこちらの動きを封殺されてしまい、挙げ句にそこから逆襲(カウンター・アタック)までされて来る、と言う状況であり、酷いときには熾烈なまでのその攻撃を、一定時間以上も連続して叩き込まれる事すらあったのだ。
「ふうっ、ふう・・・っ!!」
「・・・・・」
蒼太と対峙していたルクレールは気が付くと、既に汗だくになっており口で呼吸を繰り返していた、一応リズムは保ち続けているモノの、このままではいずれ“タイムリミット”を迎えてしまうだろう、その前に急いで決着(けり)を着けなくてはならない。
「ふうっ、ふう・・・っ!!」
ルクレールは逸る気持ちを抑えつつも、務めて冷静に蒼太へと向き直るが一応、彼女にだってまだまだ余力があったのであり、その証拠として呼吸が乱れてはいなかった。
呼吸は血液の流れ、脈拍に直結しておりこれが乱されると即ち、精神までもが乱されてしまい、そしてその結果として心身のバランスが崩されて行き、そこから更なる無駄な疲労の蓄積と隙を生み出す事となる。
要するに“負のスパイラル”に陥ってしまうのであるが現状、そこまで切迫した状態には無く、まだあと10分から15分程度は“黄昏のルクレール”として戦い続ける事が出来たのだ。
一方で。
蒼太は少しも息を切らしておらず、焦燥も何も見受けられないでいたモノのしかし、例え自分が“女王位”と同格の存在に対して優勢に事を進めているとは言えどもこの黒髪の青年は、全く油断すること無く、冷静に事を進めていった。
それというのも実は、蒼太の戦法は単純かつ明快なモノであり、彼自身はそれを徹底しているに過ぎなかったのであるがそれは偏(ひとえ)に“女王位の自滅を待つ”と言うモノに他ならなかったのである。
正直に言って、体力や腕力、瞬発力。
そして持久力や直線的なスピードと言ったモノならば、間違いなく蒼太の方に軍配が挙がるのであり、現に最初の一撃においてはルクレールはそれを真正面から受けてしまった為にそれ以上、何も出来ずにただただ押されっ放しとなってしまい、あわやと言う寸前までいってしまった訳であった(で、堪りかねてラフプレーに突入。サッカーであればこの時点で間違いなく一発アウトな訳であり、レッドカード退場である)が、しかし。
勿論、ただそれだけで勝てる程に実際の戦闘は甘くはなくて、現に勝利を得るためにはそれ以外にも様々な要素が必要になって来る訳であるが、その内の一つが“反射神経”、或いは“体裁き”に端を発する“機動力”と言われるものであり、そしてもう一つが“見切り”や“隙を突く”事にも関係してくる“機転”と呼ばれる能力であった、そしてー。
それらの能力においてメリアリアとルクレールの二人は特に、他の並み居る“女王位”、もしくは“超新星”達の中においても他の戦士達よりも一歩も二歩も先をいっていたのであり、しかもそれらを“呼吸法”と“魔法力”とで更に限界以上にまで強化して襲い掛かって来る訳であるからその動きを捉える事も、容易な事では決して無く、真面(まとも)に戦っても歯が立たずに、やられてしまう公算の方が遥かに高い状況だったのだ。
それだけ彼女達の動きは速くて鋭く、連続的なモノであったのであるが、そんなルクレールに対して蒼太が取った戦法と言うのが何の事は無い、“持久戦”に持ち込むことであり、要するに彼女達の“過活動状態”が過ぎ去るまで待つ、と言うそれであったが蒼太はよくよく、メリアリアとの数度に渡る模擬戦を通して“人間の状態”では、彼女達“女王位”に打ち勝つ事は至難の業である事をハッキリと自覚していた訳であり、それならばー。
“勝てないならばせめて、負けなければ良い”と言う戦い方へと思考を切り替えた次第であったが勿論、その為にはただ単に“彼女達の攻撃を防いでいればそれでいい”と言うようなモノでは決して無かった。
否、もっと正確に言うのならばー。
“彼女達の攻撃に耐えられるように”、“その圧倒的なまでの高速機動に対応して行けるように”、様々な手を打つ必要があったのであるが、その内の1つが“動きの先読み”であった、蒼太は知っていた、現実世界でのメリアリアとの模擬戦や、“ガイア・マキナ”での本格的な練習試合を通して女王達にはある“癖”があるのだと言う事を。
それは動く前に必ず、その周辺の状況を確認する為にそちらへと向けて瞳を動かす事であり、そしてその仕草を、蒼太はキチンと観察する事にしていたのであるモノの、これについては蒼太はある一つの推論を持ち合わせていた。
それというのは彼女達女王位と言うのは機動力が高い分、周囲の状況を常に気に掛けていなければ思わぬ所で転倒したり、躓いたりして体勢を崩してしまう可能性が非常に高く、それを避ける為の処置としてその様な動作、反応を見せるのであろう、と言うのがそれだったのであるが、これは概ね当たっていて現にメリアリアもルクレールも位置を変えたり飛んだりする場合は必ず、この手順を踏んでから行うようにしていたのである。
それに気付いた蒼太はだから、密かに自身で練習を重ねると同時にメリアリアとの模擬戦で何度となく試し、更に技に磨きを掛けて今回の戦いに応用した訳であった。
「ちいぃぃ・・・っ!?はあっ、はあっ。はあっ、はあぁぁ・・・っ!!」
「ふぅ、ふぅ・・・」
遂にルクレールがハッキリと息を切らし始めるモノの、それに対して蒼太はまだまだ余裕であり既にして勝敗の趨勢は明らかになりつつあったが元々、持久力に関してならば彼の方が遥かに高く、それに加えて耐久力や筋力なども、段違いに大きかった、その上更にー。
“神人化”の奥義、極意をも修めていた蒼太はだから、それ故に人間の状態のままであってもある程度以上にまで感性や直感力が働くようになっており、それらを駆使する事によって容易に相手の考え、行動と言ったモノが、先読みする事が出来ていたからその結果、ルクレールは一度たりとも自分らしさを発揮することが出来ずに終わりなき消耗戦の中へと突入させられてしまっていたのだ。
「はあっ、はあっ。はあっ、はあっ。はあぁぁぁ・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ・・・」
(メリアリアも、そうなのだけれど・・・。彼女達“女王位”にその能力を発揮させられてしまったのならば、“普通の状態”では歯が立たない。それならば・・・)
彼女達に“女王としての能力”を、或いは“超新星としての能力”を、一瞬たりとも発揮させずに終わらせる、ほんの僅かな時間と言えども主導権を握らせない、それが今回、蒼太の取った“対ルクレール戦用”の戦い方であり、奥の手そのものだったのだ。
ルクレールはそれに嵌まってしまい、だからこれ以上無いほどに戦い辛くてイライラしていた、攻撃は悉(ことごと)く弾かれた挙げ句に少しも自分が思ったように動くことが出来ず、それどころか気付けば防戦一方になってしまって全身は疲労でガタガタである。
何度となく繰り返される、蒼太からの素早くて鋭い打ち込みの数々にもはやレイピアを持つ手も痺れて力が入らなくなってしまっており、正直に言って柄を握っている事が億劫になってきてしまっていた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。はあっ、はあっ、はあぁぁぁ・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ・・・!!」
(・・・行ける!!)
蒼太は思うが事ここに至って彼はもはや確信していた、女王位や超新星にはこの戦法が恐ろしい程にまで有効であること、今の自分の能力を持ってすれば、彼女達の動きについて行くのは決して不可能では無いこと等をー。
そしてそれは、確かなまでの自信となり彼をして始めて、それまでの守勢から本格的な攻勢へと、転じさせようとしていた、その時だ。
「ルクレールさん!!」
「あっ、こらっ!!」
“待ちなさい!!”と彼等から見て右舷後方で戦いを繰り広げていたメリアリアが叫ぶモノの、なんどエヴァリナが彼女との戦闘を放棄してまで蒼太達のいる戦場へと向けて直走りに走り始めて突進して来たのである。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあ・・・っ!!・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!」
せっかく“さあこれからだ!!”となっていた情勢に水を差された格好となった蒼太は一旦、エヴァリナへと目をやるとそのまま大きく退いて後方へと跳躍し、その後を追うようにしてこちらへと向けて駆け出し始めていた恋人へと寄り添うが、如何に消耗しつつあった、とは言えどもルクレールはまだまだ力は持っており、このまま超新星二人を同時に相手をするのは危険である、と判断を下した故の処置であった。
それに。
正直に言って彼だってパートナーの事は気掛かりだったのであり、彼女からエヴァリナについての話を聞きたかった事もあって、一度仕切り直す為にもメリアリアの元へと向かったのである。
「はあ、はあ・・・」
「大丈夫?メリー・・・」
「はあ、はあ・・・っ。うん平気。大丈夫!!」
呼吸を整えつつも恋人からの問いにそう答えると、メリアリアは今度は些か無念そうな、それでいて申し訳なさそうな表情を見せて蒼太に“ごめんなさい”と謝罪をした。
「逃がしちゃってごめんね、せっかく勝てる所だったのに・・・!!」
「いや、いいよ。そこは気にしなくて良いんだけど・・・。それよりも」
“泥だらけだね?”と蒼太は苦笑しつつもメリアリアに語り掛けるが彼女の着ていた白のハイネックニットもパール色のロングダウンも、テーパードシルエットのデニムパンツも皆泥というか土が所々に付着しており、何があったのかが一発で解る仕様となっていた。
「あっはははっ、さてはやられたね?目潰し攻撃・・・」
「頭にきちゃうわ、あの子ったら!!こちらが一歩踏み込もうとすると一々土の塊を投げ付けて来るの、嫌になっちゃう!!」
プンスカ怒るメリアリアだったがそんな彼女もまた、“可愛い”と思いつつも蒼太はその姿が面白くてつい、クスクスと笑ってしまった。
「もうっ、本当になんなのっ!?“超新星(スーパーノヴァ)”って・・・!!“スーパーノヴァ”なんて言うからどんなモノかと思ってたけれど・・・。こんな事をやって来る人達だなんて思わなかったわ、ある意味、“エカテリーナ”よりも厄介だわ!!」
「あははははは・・・」
(“ヤツ”もやって来るけどね・・・!!)
と蒼太は苦笑いをうかべつつもそう思ったモノの、それを彼女に言う事は避けた、今それを言ってしまえばメリアリアは余計に腹立たしさの余りに燃え上がってしまい、大変な事になるであろう事は、想像に難くない事態である。
それに。
「はあ、はあ・・・っ!!」
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあぁぁぁ・・・っ。ふうぅぅぅ・・・っ!!」
正直に言って今現在は、そんな事を気にしている場合では決して無かった、撃破すべき大物である、“超新星”の二人がそのまま、健在な状態のままで残ってしまっていたからである。
「凄いわね、“ソウタ・アヤカベ”、そして“メリアリア・カッシーニ”。正直に言って予想以上の相手だったわ・・・」
「ええ。まさか私とルクレールさんの二人掛かりで逆に劣勢に追い込まれるとは思ってもみませんでしたよ・・・!!」
「・・・・・」
「“泥”を跳ね飛ばした件については・・・?」
蒼太が問うた、“円卓の騎士団の誇りと騎士道とは、一体どこに行ってしまったのか?”と。
「アーサー王がこの事を知られたならば、それこそお嘆きになるんじゃないのか?ルクレール、エヴァリナ・・・」
「・・・・・」
「・・・他人様の国の伝説上の人物を、勝手に“女体化”するような国の人に言われたくないんですけど」
それについて黙りこくってしまうルクレールに成り代わって、エヴァリナがすかさず突っ込みを入れるが、どうやら彼女達はここ数カ月間の内にすっかりと日本の文化に嵌まり込んでしまったようであり、故国に帰ってやっていけるのか、と言う事が実に心配な状況である。
「あくまでも“調査の一環として”ですけれども・・・。私達も“ソーシャルゲーム”や“美少女ゲーム”と言うのを幾つかプレイした事もあります。勿論、アニメなんかにも目を通しましたよ、それで思ったんですけれど。どうしてあなた方日本人と言うのは、何でもかんでも“女性”にしたがるモノなんですか?理解に苦しみます!!」
「“ジャパニーズ・ファンタジー”という奴だよ、一種のね。“オタク・マジック”と言い換えても良いかもだけど」
“君達だって嵌まってたんだろ?”と蒼太は再び、彼女達へと事実を突き付けるモノの、実際にはその通りでルクレールとエヴァリナはこの二ヶ月足らずで(より正確に言えば“ソシャゲ”や“美しょゲー”を知ってから一ヶ月程度の間に)100万円近くをつぎ込んでしまっており、重度の“重課金ドランカー”と化してしまっていたのである。
「でも少なくともそれだって、戦いの最中に土を投げ付けたりするよりは、遥かに“フェアプレー”の精神に溢れてないか?正々堂々と戦っている最中に、あれは無くないか・・・?」
「・・・・・」
「・・・アーサー王の」
すると蒼太のその言葉に対して今度はルクレールが反応した、“崇高なる精神を、十全に反映出来る程に我々は強くはない”とー。
「人員も能力も限られている中で、それでも必死にやりくりしていかなければならないのよ?そんな“西洋風ファンタジー”をいつまでもやっている余裕なんて、何処も彼処もありわしないわ・・・」
“あなた達だってそうでしょ?”とルクレールが告げると蒼太とメリアリアは思わずクスッと苦笑しつつも周囲に気を配ったままでお互いを見つめ合い、“そうだね”と頷き合う。
「だけど今回の事は、良い勉強になったわ、“ソウタ・アヤカベ”。まさかあなたが私と戦うなんて、それもこんな戦い方をしてくるとは、思わなかったもの!!」
「お互いに、良い経験になりましたね、メリアリアさん・・・!!」
「ええ、本当にね・・・!!」
エヴァリナからのその言葉に頷きつつも、続けて“クリーニング代は、どこに請求すれば良いのかしら?”とメリアリアが問うと“それは自己責任ですから”と、本人からは返されてしまう。
「まあ、そう言う戦い方もあるって事ですよ!!良い勉強になったでしょ!?」
「ええ、本当にね・・・!!」
“高い授業料になったけど”とメリアリアが更にブツブツと文句を言うが、一方の蒼太は実はもう一つ、気になっている事があった、“エカテリーナ”と呼ばれている存在のことである。
「君達に、言っておきたいのだけれど・・・。“エカテリーナ”の事はあんまり信用しない方が良いと思うよ?利用されるだけ利用されて、最後はポイ捨てされるのがオチだ!!」
「・・・・・っ!!」
「随分、詳しく御存知ですのね・・・」
蒼太からのその言葉に一瞬、ギクリとしながらも、それでも直ぐにルクレールとエヴァリナは元の冷静さを取り戻しつつも彼等に相対していった。
「“マーガレット”にも、伝えておくんだな。エカテリーナを、いや。“レベッカ”をあんまり信用するなって・・・」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
その言葉に二人は再び同様するが、今度もまた、素早く自身の感情の波を収めると、涼しい顔で蒼太に返した。
「・・・意外だったわね」
「マーガレットさんの事までも、御存知でいらっしゃるんですか・・・」
「まあね」
蒼太がにべも無くそう応えるモノの、実は彼とメリアリアは先日の、ノエルが自宅に押し掛けて来た際にマーガレットに限らずレウルーラに関する主要な情報は殆ど全て入手しており、その辺りの精密さにおいてはだから、国家機関レベルのそれと照らし合わせても遜色が無かった。
「・・・なんで、そこまで詳しく私達の事を知っているかしら?」
「言っただろう?“情報網がある”って。ま、“蛇の道は蛇”ってヤツだよ」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「同類の者のすることは、同じ仲間なら容易に推測ができるという事の例え。 また、その道の専門家は、その道をよく知っているという事の例えさ」
「へえぇぇぇ・・・っ!?」
「そんな“諺”が、あったのですね・・・っ!!」
それを聞いた二人は感心しながら頷いた後で“中々に気に入ったわ”と告げて返した、“今度からは私達も使わせてもらうわ”とそう言って。
「意外だな。てっきり“煩い”とか言われるのかと思ってたけど・・・」
「私達は基本的に“アリだな”と思ったなら、それがどんな境遇、身分にいる人の言葉であっても“教え”として受け入れるようにしているの。・・・勿論、それがちゃんと受け入れるに足るモノであり、尚かつ相手が余りに卑劣で唾棄すべき輩じゃ無い限りかはね」
「“尊敬すべき部分があるならば”って事ですよ、もっともらしい事を言ってその実、やっている事と言ったら卑怯卑劣な奴らって多いでしょ?そう言う存在からは教えてもらうような事は、一切何もありません。それに所詮、この世は“学んだ者勝ち”、そう言う意味で“やった者勝ち”ですからね。目の前にある勉強のチャンスを、むざむざ無駄には出来ませんから」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!」
(意外と、真面目なんだ・・・!!)
と、その言葉にちょっと感心した二人であったが程なくして一度、軽く咳払いをすると蒼太はメリアリアよりも、少しだけ前に出た。
「・・・まあ、君達にとっては、とんだとばっちりかも知れないけどさ。一応、“レベッカ”に、伝えておいてよ。“あんまり他人様に迷惑を掛けるな”ってね、蒼太が言ってたって。・・・それと」
「・・・・・・・・・っっっ!!!!!?」
「・・・・・っっっ!?!?!?!?!?」
そう言って蒼太が続けた言葉と何より、彼から瞬時に放たれた、例えようが無い程の深くて激しい憎悪にー。
ルクレールとエヴァリナは、始めて表情を崩して硬直してしまっていた、その時の彼女達はまさしく、“蛇に睨まれた蛙”であり身動きが全く持って、取れなくなってしまっていたのである。
「よくもメリーをやってくれたな、この仕返しは必ずする、と。今度は俺が直々に行ってやる、とー・・・!!」
実は今回は、112話と114話の中で語らせていただきました、“愛し合う”と言うことに対しての捕捉をさせていただきたく、筆を執らせていただきました、どうぞ暫くの間だけ、お付き合い下さいませ(この手の話題がしつこくなってしまいまして、申し訳御座いません)。
実は話を読み返して気が付いたのですが、読者の皆様に「じゃあ喧嘩とかはどうなるんだよ?」と言った疑問を持たれてはしていないだろうか、と感じ取ったと言いますか、考えに至りましてその答えをここに記させていただこうと考えました次第です。
結論から申し上げますと、喧嘩や戦いと言うのも確かに“愛”ではありますが、ただし。
それは本当の意味での愛の形からは掛け離れてしまっている、不完全な愛、不毛な愛、所謂(いわゆる)“報われない愛の形”と言うことが出来るでしょう。
これは例えを出して解りやすく説明させていただきますと、“憎しみ合い”、“いがみ合い”、“殺し合う”その先に“愛”、もっと言ってしまいますと“合い”は無くなってしまいます(相手を打ち倒して破滅させてしまうからです、殺してどこにも居なくさせてしまうからです)。
一方通行的な愛も単なる独り善がり、所謂(いわゆる)“独善”でしかありませんが、そう言う訳でして戦いの果てには“愛”は(“合い”は)ありません、合い手(相手)が消えてしまうからです、つまり“し合うこと”が出来なくなる事を意味します、それはもう、愛ではありません。
それに愛と言うのは無限の未来を得て、どこまでもどこまでも報われ合って行くものなのですが、その観点からも途中で消滅してしまう“愛”(即ち“合い”)と言うのは不完全な幻、泡沫(うたかた)の夢でしかありません。
ではどうして愛とは“無限の未来を得て、どこまでもどこまでも報われ合って行くモノ”なのでしょう。
愛を育み合っている方々の間では“愛の共鳴現象”とでも言うべきモノが発生しますがこれがお互いの間で為されると、その輝きの照り返しを受けて愛の煌めきと言うモノは二人の間で無限に反復、増幅を繰り返しては、どこまでもどこまでも崇高で強固で確かなモノへと進化、発展して行きます。
ましてやそれが、お互いにお互いを受け入れ合っている夫婦の間では尚更です(物凄い事になります)。
そう言う事で御座います。
またもう一つ、“神人化”する際の説明についてで御座いますが、あれは要するに、祈りに集中して行くと深いトランス状態となりその結果、様々な誘惑の想念ですとか“自分は~~だ”、“自分とはこう言うヤツだ、こうあるべきだ”、“こうでなければならないんだ”と言ったような、所謂(いわゆる)“意識の縛り”から解放されます(そう言うのが凄く希薄になって行くんです)、そうすると自我の状態が顕在系から純然たる潜在系へと移り変わって行く訳なのですがこの時に、自分の中に秘められている“神の部分”を感じてそれと繋がっている事を、もっと言ってしまえば“一体である事”を自分自身の心の底から、そして何より魂の底から本当に素直に納得させて、自覚させる事が出来れば良いのです(思い込むのでは無くて“自覚”するのです)。
それが書きたかったのです(ゴチャゴチャと解りにくくなってしまい、申し訳ありません)。
敬具。
ハイパーキャノン。
申し訳ございません、追伸なのですが基本的に人間というのは生まれて来る前に肉体や家柄、人生を選べるモノらしいのですが(人は誰もが生まれて来る前には神様から“この人間として生まれた場合はこう言う一生を送り、最後はこうなるぞ?”と言う事を見せられる、それで納得した者にのみ、その人間としての人生が与えられる、と言われています)それ故に、やはりその人その人の持つ“魂”と同調している(もしくは実力にあった)肉体や人生、家系を選択して生まれて来る事が多いようです(当たり前と言えば当たり前な事なのかも知れませんが)。
長文駄文、失礼いたしました、取り急ぎの捕捉説明でございます。
ーーーーーーーーーーーーーー
ガキイィィィンッと金属と金属とがぶつかり合う音が響いて周囲に火花が飛び散って行く。
もうこれで何度目だろうか、自分が動こうとした先へと向けて、それよりも一瞬早くに振り下ろされる蒼太の刃をエクセリオンとアレクシオンとで慌てて防いで身を守ったのは。
「ふうっ、ふう・・・っ!!」
「・・・・・」
必死に呼吸のリズムを保ちつつもルクレールは未だかつて遭遇した事の無い難敵を目の前にして、流石に攻め倦(あぐ)ねてしまっていた、こんな筈では間違いなく無かった、本来であれば彼女は二本のレイピアと柔らかな関節、そしてしなやかな筋肉から生み出される“高機動刺突戦法”を用いて蒼太を翻弄して消耗させ、隙を付いて一気に止めを刺す、その筈であったのだが。
実際の戦闘は彼女の思惑通りには進まなかった、理由は相手の動きと戦い方にあったのだが何故か蒼太は此方が動こうとする未来位置を一瞬、早くに予測してはそこへと向けて強引に割り込んできたり、白銀に輝く刀剣の鋭い一撃を加えてはこちらの動きを踏み留まらせ、そこへの進出を断念させる、と言った戦法を繰り返し続けてルクレールに一度たりとも“好きに動かさせる”と言う事を、させないようにしていたのである。
その結果、ルクレールは開始から既に、10分近くが経とうとしているにも関わらずに未だに主導権を握ることが出来ずにおりただただただただ肉体的、或いは精神的な疲労だけが蓄積して行ったのであるが、実は彼女達“超新星”、もしくはメリアリア達“女王位”にはそれぞれ強敵と戦う際の、ある共通する戦法があった。
それは“自身の奥底に眠る力を自在に発揮する為の呼吸法”と“身体能力そのものを一定時間向上させる魔法”とを用いてその限界稼働時間と機動力、攻撃能力と言ったモノを最大以上に発揮しては“ヒット&アウェイ”を繰り返しつつ、最後は“決め手”で止めを刺す、と言うモノだったのであるがしかし、それがこの青年には通用しなかった、蒼太には恐ろしい程にまで隙が無く、あったとしてもそれにつけ込もうとする前に一瞬、早く気付かれては反応されてこちらの動きを封殺されてしまい、挙げ句にそこから逆襲(カウンター・アタック)までされて来る、と言う状況であり、酷いときには熾烈なまでのその攻撃を、一定時間以上も連続して叩き込まれる事すらあったのだ。
「ふうっ、ふう・・・っ!!」
「・・・・・」
蒼太と対峙していたルクレールは気が付くと、既に汗だくになっており口で呼吸を繰り返していた、一応リズムは保ち続けているモノの、このままではいずれ“タイムリミット”を迎えてしまうだろう、その前に急いで決着(けり)を着けなくてはならない。
「ふうっ、ふう・・・っ!!」
ルクレールは逸る気持ちを抑えつつも、務めて冷静に蒼太へと向き直るが一応、彼女にだってまだまだ余力があったのであり、その証拠として呼吸が乱れてはいなかった。
呼吸は血液の流れ、脈拍に直結しておりこれが乱されると即ち、精神までもが乱されてしまい、そしてその結果として心身のバランスが崩されて行き、そこから更なる無駄な疲労の蓄積と隙を生み出す事となる。
要するに“負のスパイラル”に陥ってしまうのであるが現状、そこまで切迫した状態には無く、まだあと10分から15分程度は“黄昏のルクレール”として戦い続ける事が出来たのだ。
一方で。
蒼太は少しも息を切らしておらず、焦燥も何も見受けられないでいたモノのしかし、例え自分が“女王位”と同格の存在に対して優勢に事を進めているとは言えどもこの黒髪の青年は、全く油断すること無く、冷静に事を進めていった。
それというのも実は、蒼太の戦法は単純かつ明快なモノであり、彼自身はそれを徹底しているに過ぎなかったのであるがそれは偏(ひとえ)に“女王位の自滅を待つ”と言うモノに他ならなかったのである。
正直に言って、体力や腕力、瞬発力。
そして持久力や直線的なスピードと言ったモノならば、間違いなく蒼太の方に軍配が挙がるのであり、現に最初の一撃においてはルクレールはそれを真正面から受けてしまった為にそれ以上、何も出来ずにただただ押されっ放しとなってしまい、あわやと言う寸前までいってしまった訳であった(で、堪りかねてラフプレーに突入。サッカーであればこの時点で間違いなく一発アウトな訳であり、レッドカード退場である)が、しかし。
勿論、ただそれだけで勝てる程に実際の戦闘は甘くはなくて、現に勝利を得るためにはそれ以外にも様々な要素が必要になって来る訳であるが、その内の一つが“反射神経”、或いは“体裁き”に端を発する“機動力”と言われるものであり、そしてもう一つが“見切り”や“隙を突く”事にも関係してくる“機転”と呼ばれる能力であった、そしてー。
それらの能力においてメリアリアとルクレールの二人は特に、他の並み居る“女王位”、もしくは“超新星”達の中においても他の戦士達よりも一歩も二歩も先をいっていたのであり、しかもそれらを“呼吸法”と“魔法力”とで更に限界以上にまで強化して襲い掛かって来る訳であるからその動きを捉える事も、容易な事では決して無く、真面(まとも)に戦っても歯が立たずに、やられてしまう公算の方が遥かに高い状況だったのだ。
それだけ彼女達の動きは速くて鋭く、連続的なモノであったのであるが、そんなルクレールに対して蒼太が取った戦法と言うのが何の事は無い、“持久戦”に持ち込むことであり、要するに彼女達の“過活動状態”が過ぎ去るまで待つ、と言うそれであったが蒼太はよくよく、メリアリアとの数度に渡る模擬戦を通して“人間の状態”では、彼女達“女王位”に打ち勝つ事は至難の業である事をハッキリと自覚していた訳であり、それならばー。
“勝てないならばせめて、負けなければ良い”と言う戦い方へと思考を切り替えた次第であったが勿論、その為にはただ単に“彼女達の攻撃を防いでいればそれでいい”と言うようなモノでは決して無かった。
否、もっと正確に言うのならばー。
“彼女達の攻撃に耐えられるように”、“その圧倒的なまでの高速機動に対応して行けるように”、様々な手を打つ必要があったのであるが、その内の1つが“動きの先読み”であった、蒼太は知っていた、現実世界でのメリアリアとの模擬戦や、“ガイア・マキナ”での本格的な練習試合を通して女王達にはある“癖”があるのだと言う事を。
それは動く前に必ず、その周辺の状況を確認する為にそちらへと向けて瞳を動かす事であり、そしてその仕草を、蒼太はキチンと観察する事にしていたのであるモノの、これについては蒼太はある一つの推論を持ち合わせていた。
それというのは彼女達女王位と言うのは機動力が高い分、周囲の状況を常に気に掛けていなければ思わぬ所で転倒したり、躓いたりして体勢を崩してしまう可能性が非常に高く、それを避ける為の処置としてその様な動作、反応を見せるのであろう、と言うのがそれだったのであるが、これは概ね当たっていて現にメリアリアもルクレールも位置を変えたり飛んだりする場合は必ず、この手順を踏んでから行うようにしていたのである。
それに気付いた蒼太はだから、密かに自身で練習を重ねると同時にメリアリアとの模擬戦で何度となく試し、更に技に磨きを掛けて今回の戦いに応用した訳であった。
「ちいぃぃ・・・っ!?はあっ、はあっ。はあっ、はあぁぁ・・・っ!!」
「ふぅ、ふぅ・・・」
遂にルクレールがハッキリと息を切らし始めるモノの、それに対して蒼太はまだまだ余裕であり既にして勝敗の趨勢は明らかになりつつあったが元々、持久力に関してならば彼の方が遥かに高く、それに加えて耐久力や筋力なども、段違いに大きかった、その上更にー。
“神人化”の奥義、極意をも修めていた蒼太はだから、それ故に人間の状態のままであってもある程度以上にまで感性や直感力が働くようになっており、それらを駆使する事によって容易に相手の考え、行動と言ったモノが、先読みする事が出来ていたからその結果、ルクレールは一度たりとも自分らしさを発揮することが出来ずに終わりなき消耗戦の中へと突入させられてしまっていたのだ。
「はあっ、はあっ。はあっ、はあっ。はあぁぁぁ・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ・・・」
(メリアリアも、そうなのだけれど・・・。彼女達“女王位”にその能力を発揮させられてしまったのならば、“普通の状態”では歯が立たない。それならば・・・)
彼女達に“女王としての能力”を、或いは“超新星としての能力”を、一瞬たりとも発揮させずに終わらせる、ほんの僅かな時間と言えども主導権を握らせない、それが今回、蒼太の取った“対ルクレール戦用”の戦い方であり、奥の手そのものだったのだ。
ルクレールはそれに嵌まってしまい、だからこれ以上無いほどに戦い辛くてイライラしていた、攻撃は悉(ことごと)く弾かれた挙げ句に少しも自分が思ったように動くことが出来ず、それどころか気付けば防戦一方になってしまって全身は疲労でガタガタである。
何度となく繰り返される、蒼太からの素早くて鋭い打ち込みの数々にもはやレイピアを持つ手も痺れて力が入らなくなってしまっており、正直に言って柄を握っている事が億劫になってきてしまっていた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。はあっ、はあっ、はあぁぁぁ・・・っ!!!」
「ふぅ、ふぅ・・・!!」
(・・・行ける!!)
蒼太は思うが事ここに至って彼はもはや確信していた、女王位や超新星にはこの戦法が恐ろしい程にまで有効であること、今の自分の能力を持ってすれば、彼女達の動きについて行くのは決して不可能では無いこと等をー。
そしてそれは、確かなまでの自信となり彼をして始めて、それまでの守勢から本格的な攻勢へと、転じさせようとしていた、その時だ。
「ルクレールさん!!」
「あっ、こらっ!!」
“待ちなさい!!”と彼等から見て右舷後方で戦いを繰り広げていたメリアリアが叫ぶモノの、なんどエヴァリナが彼女との戦闘を放棄してまで蒼太達のいる戦場へと向けて直走りに走り始めて突進して来たのである。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあ・・・っ!!・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!」
せっかく“さあこれからだ!!”となっていた情勢に水を差された格好となった蒼太は一旦、エヴァリナへと目をやるとそのまま大きく退いて後方へと跳躍し、その後を追うようにしてこちらへと向けて駆け出し始めていた恋人へと寄り添うが、如何に消耗しつつあった、とは言えどもルクレールはまだまだ力は持っており、このまま超新星二人を同時に相手をするのは危険である、と判断を下した故の処置であった。
それに。
正直に言って彼だってパートナーの事は気掛かりだったのであり、彼女からエヴァリナについての話を聞きたかった事もあって、一度仕切り直す為にもメリアリアの元へと向かったのである。
「はあ、はあ・・・」
「大丈夫?メリー・・・」
「はあ、はあ・・・っ。うん平気。大丈夫!!」
呼吸を整えつつも恋人からの問いにそう答えると、メリアリアは今度は些か無念そうな、それでいて申し訳なさそうな表情を見せて蒼太に“ごめんなさい”と謝罪をした。
「逃がしちゃってごめんね、せっかく勝てる所だったのに・・・!!」
「いや、いいよ。そこは気にしなくて良いんだけど・・・。それよりも」
“泥だらけだね?”と蒼太は苦笑しつつもメリアリアに語り掛けるが彼女の着ていた白のハイネックニットもパール色のロングダウンも、テーパードシルエットのデニムパンツも皆泥というか土が所々に付着しており、何があったのかが一発で解る仕様となっていた。
「あっはははっ、さてはやられたね?目潰し攻撃・・・」
「頭にきちゃうわ、あの子ったら!!こちらが一歩踏み込もうとすると一々土の塊を投げ付けて来るの、嫌になっちゃう!!」
プンスカ怒るメリアリアだったがそんな彼女もまた、“可愛い”と思いつつも蒼太はその姿が面白くてつい、クスクスと笑ってしまった。
「もうっ、本当になんなのっ!?“超新星(スーパーノヴァ)”って・・・!!“スーパーノヴァ”なんて言うからどんなモノかと思ってたけれど・・・。こんな事をやって来る人達だなんて思わなかったわ、ある意味、“エカテリーナ”よりも厄介だわ!!」
「あははははは・・・」
(“ヤツ”もやって来るけどね・・・!!)
と蒼太は苦笑いをうかべつつもそう思ったモノの、それを彼女に言う事は避けた、今それを言ってしまえばメリアリアは余計に腹立たしさの余りに燃え上がってしまい、大変な事になるであろう事は、想像に難くない事態である。
それに。
「はあ、はあ・・・っ!!」
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあぁぁぁ・・・っ。ふうぅぅぅ・・・っ!!」
正直に言って今現在は、そんな事を気にしている場合では決して無かった、撃破すべき大物である、“超新星”の二人がそのまま、健在な状態のままで残ってしまっていたからである。
「凄いわね、“ソウタ・アヤカベ”、そして“メリアリア・カッシーニ”。正直に言って予想以上の相手だったわ・・・」
「ええ。まさか私とルクレールさんの二人掛かりで逆に劣勢に追い込まれるとは思ってもみませんでしたよ・・・!!」
「・・・・・」
「“泥”を跳ね飛ばした件については・・・?」
蒼太が問うた、“円卓の騎士団の誇りと騎士道とは、一体どこに行ってしまったのか?”と。
「アーサー王がこの事を知られたならば、それこそお嘆きになるんじゃないのか?ルクレール、エヴァリナ・・・」
「・・・・・」
「・・・他人様の国の伝説上の人物を、勝手に“女体化”するような国の人に言われたくないんですけど」
それについて黙りこくってしまうルクレールに成り代わって、エヴァリナがすかさず突っ込みを入れるが、どうやら彼女達はここ数カ月間の内にすっかりと日本の文化に嵌まり込んでしまったようであり、故国に帰ってやっていけるのか、と言う事が実に心配な状況である。
「あくまでも“調査の一環として”ですけれども・・・。私達も“ソーシャルゲーム”や“美少女ゲーム”と言うのを幾つかプレイした事もあります。勿論、アニメなんかにも目を通しましたよ、それで思ったんですけれど。どうしてあなた方日本人と言うのは、何でもかんでも“女性”にしたがるモノなんですか?理解に苦しみます!!」
「“ジャパニーズ・ファンタジー”という奴だよ、一種のね。“オタク・マジック”と言い換えても良いかもだけど」
“君達だって嵌まってたんだろ?”と蒼太は再び、彼女達へと事実を突き付けるモノの、実際にはその通りでルクレールとエヴァリナはこの二ヶ月足らずで(より正確に言えば“ソシャゲ”や“美しょゲー”を知ってから一ヶ月程度の間に)100万円近くをつぎ込んでしまっており、重度の“重課金ドランカー”と化してしまっていたのである。
「でも少なくともそれだって、戦いの最中に土を投げ付けたりするよりは、遥かに“フェアプレー”の精神に溢れてないか?正々堂々と戦っている最中に、あれは無くないか・・・?」
「・・・・・」
「・・・アーサー王の」
すると蒼太のその言葉に対して今度はルクレールが反応した、“崇高なる精神を、十全に反映出来る程に我々は強くはない”とー。
「人員も能力も限られている中で、それでも必死にやりくりしていかなければならないのよ?そんな“西洋風ファンタジー”をいつまでもやっている余裕なんて、何処も彼処もありわしないわ・・・」
“あなた達だってそうでしょ?”とルクレールが告げると蒼太とメリアリアは思わずクスッと苦笑しつつも周囲に気を配ったままでお互いを見つめ合い、“そうだね”と頷き合う。
「だけど今回の事は、良い勉強になったわ、“ソウタ・アヤカベ”。まさかあなたが私と戦うなんて、それもこんな戦い方をしてくるとは、思わなかったもの!!」
「お互いに、良い経験になりましたね、メリアリアさん・・・!!」
「ええ、本当にね・・・!!」
エヴァリナからのその言葉に頷きつつも、続けて“クリーニング代は、どこに請求すれば良いのかしら?”とメリアリアが問うと“それは自己責任ですから”と、本人からは返されてしまう。
「まあ、そう言う戦い方もあるって事ですよ!!良い勉強になったでしょ!?」
「ええ、本当にね・・・!!」
“高い授業料になったけど”とメリアリアが更にブツブツと文句を言うが、一方の蒼太は実はもう一つ、気になっている事があった、“エカテリーナ”と呼ばれている存在のことである。
「君達に、言っておきたいのだけれど・・・。“エカテリーナ”の事はあんまり信用しない方が良いと思うよ?利用されるだけ利用されて、最後はポイ捨てされるのがオチだ!!」
「・・・・・っ!!」
「随分、詳しく御存知ですのね・・・」
蒼太からのその言葉に一瞬、ギクリとしながらも、それでも直ぐにルクレールとエヴァリナは元の冷静さを取り戻しつつも彼等に相対していった。
「“マーガレット”にも、伝えておくんだな。エカテリーナを、いや。“レベッカ”をあんまり信用するなって・・・」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
その言葉に二人は再び同様するが、今度もまた、素早く自身の感情の波を収めると、涼しい顔で蒼太に返した。
「・・・意外だったわね」
「マーガレットさんの事までも、御存知でいらっしゃるんですか・・・」
「まあね」
蒼太がにべも無くそう応えるモノの、実は彼とメリアリアは先日の、ノエルが自宅に押し掛けて来た際にマーガレットに限らずレウルーラに関する主要な情報は殆ど全て入手しており、その辺りの精密さにおいてはだから、国家機関レベルのそれと照らし合わせても遜色が無かった。
「・・・なんで、そこまで詳しく私達の事を知っているかしら?」
「言っただろう?“情報網がある”って。ま、“蛇の道は蛇”ってヤツだよ」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「同類の者のすることは、同じ仲間なら容易に推測ができるという事の例え。 また、その道の専門家は、その道をよく知っているという事の例えさ」
「へえぇぇぇ・・・っ!?」
「そんな“諺”が、あったのですね・・・っ!!」
それを聞いた二人は感心しながら頷いた後で“中々に気に入ったわ”と告げて返した、“今度からは私達も使わせてもらうわ”とそう言って。
「意外だな。てっきり“煩い”とか言われるのかと思ってたけど・・・」
「私達は基本的に“アリだな”と思ったなら、それがどんな境遇、身分にいる人の言葉であっても“教え”として受け入れるようにしているの。・・・勿論、それがちゃんと受け入れるに足るモノであり、尚かつ相手が余りに卑劣で唾棄すべき輩じゃ無い限りかはね」
「“尊敬すべき部分があるならば”って事ですよ、もっともらしい事を言ってその実、やっている事と言ったら卑怯卑劣な奴らって多いでしょ?そう言う存在からは教えてもらうような事は、一切何もありません。それに所詮、この世は“学んだ者勝ち”、そう言う意味で“やった者勝ち”ですからね。目の前にある勉強のチャンスを、むざむざ無駄には出来ませんから」
「・・・・・」
「・・・・・っ!!」
(意外と、真面目なんだ・・・!!)
と、その言葉にちょっと感心した二人であったが程なくして一度、軽く咳払いをすると蒼太はメリアリアよりも、少しだけ前に出た。
「・・・まあ、君達にとっては、とんだとばっちりかも知れないけどさ。一応、“レベッカ”に、伝えておいてよ。“あんまり他人様に迷惑を掛けるな”ってね、蒼太が言ってたって。・・・それと」
「・・・・・・・・・っっっ!!!!!?」
「・・・・・っっっ!?!?!?!?!?」
そう言って蒼太が続けた言葉と何より、彼から瞬時に放たれた、例えようが無い程の深くて激しい憎悪にー。
ルクレールとエヴァリナは、始めて表情を崩して硬直してしまっていた、その時の彼女達はまさしく、“蛇に睨まれた蛙”であり身動きが全く持って、取れなくなってしまっていたのである。
「よくもメリーをやってくれたな、この仕返しは必ずする、と。今度は俺が直々に行ってやる、とー・・・!!」
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