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運命の舵輪編
幻惑のエカテリーナ
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「・・・・・」
「そんな事が、あったんだぁ~・・・!!」
説明を最後まで聞き終えたメリアリアはようやくにして肩の力を抜いてはその溜飲を下ろし、ノエルに至っては“うんうん”と頷きつつもシミジミと感想を口にする。
「大変だったのねぇ~。でもそれなら尚更疑問よねぇ~・・・」
「ええ、そうなんですよ」
ノエルの言葉に蒼太が頷いて見せるモノの、あの時確かに死んでいた筈のレベッカが生き抜いており、しかも年齢や姿形までもが大きく変わってしまっているのはどうしたことか。
(他にもまだ疑問はある、奴がメリーに対して使ったと言う、その“黒い玉”だ。恐らくは何某かのマジックアイテムなのだろうが、だけど・・・)
蒼太は尚も考えるモノのその血統によるモノだろうがメリアリアには本来、あらゆる呪術や毒素に対しての、非常に強い浄化耐性が存在していてそれ故に、そんじょそこらの魔物等は言うに及ばず、仮に悪魔の力を用いたとしても、その力が及ぶ範囲は表面的なそれであり極めて限定的なモノでしかなかった。
それに加えて。
(何より。“そう言った”モノを使われる際には“負の波動”の影響で多かれ少なかれ、ある種の“緊張感”とでも言うべきか、必ず悪寒のようなモノを感じる筈なんだ。これは僕もそうだったし、メリーを何度か“現場”に連れて行った際にも同じような反応を示していたから良く解るんだけれども、だけどレベッカにそのアイテムを使われた際には、メリーは“特にそう言った感覚は抱かなかった”と言っている、“そのアイテムが危険だって言う予感はあった”って言っているけれど・・・)
と言うことは、と己の中で結論を纏めた“そのアイテムはやはり、伝説の法具か神宝(かんたから)の一種だったのかも知れない”と。
(“神の力”のようなモノを感じた訳では無かったみたいだし・・・。やはり伝説のアイテムか何かなのだろうな、だけど姿形に加えて波長が変わってしまったのは、一体・・・?)
「・・・そうか!!」
「・・・・・?」
「どうしたの?ソーくん・・・」
不思議そうに自分を見つめる恋人と友人とに、蒼太は得心したように微笑んだ、“なんでメリーの姿形や波長が変わってしまったのかが解った”とそう告げて。
「これは多分、だけれども・・・。本来はそのアイテムは、もっと別の作用をする筈だったんだ、レベッカが君に言った言葉からも、それは明らかだと思う」
「言われてみれば・・・」
彼氏から告げられたその言葉に、メリアリアもまた当時の状況を思い返してみるモノのあの時、確かにエカテリーナは自分を見て“おかしいわね?”、“私が解るの?”とそう言った、いいや、ただ単に言っただけでは無い、明らかに動揺してすらいたのだ。
「それってつまり・・・!!」
「そうだ」
メリアリアからのその言葉に、蒼太が頷いて応えるモノの恐らくはそのマジックアイテムは、対象者の身体を別の形質に変化させると同時に記憶や認識に関する阻害を行うモノだったのだろう事が伺えるが、しかし。
「エカテリーナの意に反してそうはならなかった。何故かと言えば君の血の力、“抵抗力”があったからだ!!」
「・・・・・っ!!?」
「え~と、つまり・・・?」
「つまりは、こう言う事です」
蒼太が続けるモノの彼の見立てでは多分、その力自体は本来は決して“人を呪い殺す”だとか“人を零落させる”といった、所謂(いわゆる)“攻撃的意志”の元に作り出されたモノでは決してなく、もっと別の何かの為に生み出されたアイテムだったのであろうが、しかし。
そんな作り手側の願いとは裏腹に、アイテムは実際にはメリアリアへの攻撃と足枷の為に用いられたのであり、そしてその際に生じた彼女の身体への負荷とエカテリーナの発する“害意”に反応する形でメリアリアの中に眠っていた“抵抗力”が発揮され、そしてその結果ー。
マジックアイテム本来の効能は弱体化されてその威を失い、彼女は少女の姿へと変えられた挙げ句にその最中にメリアリア自身に宿っている霊力と、マジックアイテムの放つ法力とがぶつかり合って干渉波が巻き起こされ、そしてその影響で彼女は波長すらもが変質してしまった、と言うのが事の真相であろうと結論する。
「・・・じゃあ、つまり。私が異国の少女になってしまったのも、身体の波長が変化してしまったのも、そのマジックアイテムと私自身の力がぶつかり合った結果、っていうこと?」
「そう言う事だろうね」
蒼太が告げるがこれならば何故自分とのセックスで呪いが解かれたのか、と言う事に対する説明もする事が出来るようになると言うモノの心底、相手の事が好きで好きで仕方が無かった二人はだから、常にお互いに意識を向け合い、求め合い続けており、そしてその結果としてまだ本格的な成長期を迎える前から激しい性交を繰り返し行っては、彼女の中に何度となく中出しをキメ込み続けて行ったのだ。
それだけではない、生気と生気とを混ぜ合わせては奥を“これでもか”と言うくらいにまで、ただひたすらに突き上げ続けていった彼等は遂には子宮でのセックスすらも可能としていたのであるモノの、そんな二人の身体やオーラにはお互いのエネルギーや魂の波動と言ったモノが底の底まで幾重にも重なり合った状態のままで混ざり尽くしてしまっており、それは彼等自身の根幹にも作用して今や蒼太もメリアリアもそれぞれが、相手の分身とでも言って良い立場、存在へと変質してしまっていたのだ。
そしてそれ故にー。
蒼太と交わる度にメリアリアの胎内には、彼に蓄積されていた“己の波動”が流し込まれる結果となり、しかもそれに加えてメリアリア自身も蒼太の波動と解け合っていた為に、彼の波動を受け入れやすくなっていたこと、その上更には“神人化”する事が出来るようになっていた蒼太の精液にはその“神力”が込められており、その力によって歪みが矯正されたこと等の要因が重なって、蒼太の精液を流し込まれた時だけは、彼女は“真実なる自分”を取り戻す事が出来たのである。
「恐らくは、それが真相だと思うけれど・・・。どうりで聞いたことが無かった筈だよ、だって本来のアイテムの効能と君の霊力とのぶつかり合い、干渉波によるモノだったんだから」
「・・・・・」
その言葉に思わず“ハアァァ~・・・ッ!!”と深い溜息を付くメリアリアだったが事象の真相を知って幾許かは納得が行ったのだろう、得心したように何度も何度も頷くモノの、少なくとも彼女としてみればようやく、胸の閊(つか)えの一つが取れた訳であり、それについては僅かとは言えどもホッと出来た瞬間であった。
「そう、そこまでは良かったのだけれども・・・」
蒼太が三度、神妙そうな顔と声とで話を続けて行くモノの問題は、これをエカテリーナ即ちレベッカがいつまでも見過ごしておくはずが無い、と言う事であり、必ずや何某かの手段を講じて来る事は、疑いようの無い事実であった。
それと言うのも。
彼女のメリアリアに対する害意と言うより“底意地の悪さ”は異常なまでのモノがあり、そしてそれはまだ、エカテリーナの正体がレベッカである事を知る前から蒼太が感じていたモノだったのだが当初、メリアリア本人から聞かされていた話によれば、呪(まじな)いを掛けた後で明らかに狼狽していたエカテリーナはしかし、すぐに冷たい笑みを浮かべると同時に“まあいい”と言い放ち、“貴女はもう、メリアリアには戻れない、異国の少女になってしまったのだから!!”と宣(のたま)ったそうなのであり、それはつまり本来の目的が遂げ切れなかった事を意味していたのであって、それでも一応は満足の行く結果を得たから“まあいい”と言ったのだ。
そしてー。
別れ際にまで、まるで今後、また会うことがあるかのように自己紹介を挟んでいる、“私の名前はエカテリーナだ”と、そう告げてー。
「覚えておいてね?」
そうやって来た時と同じように静かに去って行ったと言うのであるが通常、あれだけの事をやっておきながらわざわざそんな事をしていったのは一種の挑発行為であり、メリアリアに対して“機会があったらキチンと決着を着けましょうね、出来ればだけどね?”と言う皮肉交じりの優位的意識の表れ以外の何物でも無かった。
(恐らくは、“エカテリーナ”と言う存在はまだ、メリーに対する“本懐”を遂げていない。それが何なのかは、解らないけれども・・・。いずれにしても、絶対に許せない、メリーにこんな事をするなんて!!)
メリアリアが寝静まった後で物思いに耽る事が多かった蒼太は一人、リビングのソファに腰掛けながらも思わず“エカテリーナ”と言う女性魔術師に対する怒りを露わにするモノの、特に彼の逆鱗に触れたのは恐らくはこれで、エカテリーナからのメリアリアに対する手出しが終わりでは無い、と言うことであり、それはつまり今後もまた、何らかの手段で彼女を攻撃してくる可能性が極めて高い、と言う事を示唆していた。
(腹が立つほど忌々しいけれど・・・。でも冷静にならなきゃ、今が正念場だぞ?蒼太・・・!!)
必死に“怒りの想念”を受け流しつつも冷静さを保とうとするモノのやはり、状況や手口から察するに、この“エカテリーナ”と言う女性の持つ、メリアリアへの迫害、或いは排斥的意思と言うモノは非常に粘着性の高い、極めて嫌味ったらしいモノであって、そしてそんな女性がもし、メリアリアが無事に極東にいる自分の元へと辿り着いて曲がり形にも呪(まじな)いを解いた事、幸せに暮らしている事等を知った時に果たして何もせずにいるのだろうか、と言った事を考えずにはいられなかったのである。
(恐らくだけど・・・。いいや、もう間違いない、コイツは明らかにメリーが不幸になる事を望んでいる。そしてそれを邪魔する輩は例えそれが誰であろうとも不倶戴天の敵となる、と言う事か・・・!!)
そこまで思いが至った時に、蒼太は初めて女性に対して腹の底から迸るような殺意を抱いた、“絶対にメリーに手を出させるもんか”、“その前に俺が見つけ出して殺してやる!!”そこまで真面目に考えると同時に何度も激昂しそうになるモノの、それをー。
「蒼太・・・?」
「んん・・・?」
「どうしたの?」
気分がどうしようもなく昂ぶってしまい、眠れなくなってリビングのソファに深く腰掛けてはまだ見ぬ相手への憎悪を膨らませていた彼氏の元を、ベッドにいないことに気付いたメリアリアがローブを羽織って追い掛けて来るモノの、そんな彼女に心配を掛けまいとして蒼太は無理に明るい笑顔を取り繕っては精一杯、恋人に優しく語り掛けるがそんな時、メリアリアは決まって“一人にしないで”と言っては蒼太に抱き着きその全身を、愛しそうに擦り寄せて来る。
そんな彼女の事が可愛くて堪らなくなり一層、深く“守ってやりたい”、“傷一つ負わせたくない”と思うと同時にその両腕をメリアリアの華奢な白い肢体へと回して自身へとしっかりと抱き寄せるモノの、そんな毎日を送っていた蒼太にとってはだから、“エカテリーナ”の動向と言うのは実はもっとも神経を尖らせていた事の一つであった。
無論、自分達の周囲には幾つもの“結界”を張り巡らせておいたし、意識も常に行き届かせて悪意や害意を持っているような輩が近付いて来ないかどうかはキチンと判別するようにしていたのだがしかし、それだけでは如何せん不十分であり確かに“守ること”は出来ても攻めることが出来ず、なによりかによりの話として肝心要の“エカテリーナ”に関する情報は全くと言って良いほどに入って来る事は無かったのである。
そしてそれは今現在において、蒼太が密かに使用している“自身の裏の情報網(コミュニケーション・ネットワーク)”をもってしても同様であり結局は、ターゲットについての具体的な情報は何ら得られる事は無く、そしてそれ故に、絶えず煮え湯を飲まされっ放しであったのであるが、それもその筈でそもそも“エカテリーナ”が活動しているのはあくまでも西方の外れにある“エウロペ連邦国家群”なのであって極東の日本では決して無く、また蒼太自身も向こうでは“行方不明扱い”されている身であった為に、あまり大っぴらな調査は行えないでいたのだ。
そんな時にー。
カインとメイルがやって来て、戦闘状態となってしまうモノのこの時、蒼太は思わず首を傾げてしまっていた、自分達は向こうでは“生死不明”の状態になっている筈であり、ここでこうして生きている事など、誰もが思ってもみなかっただろう、それなのにー。
彼等は正確にやって来た、そりゃ流石に幾らかは探し回った事だろうがそれでも、普通なら有り得ない事が起こったのであり、そしてそれこそが蒼太をして、ずっと抱き続けて来た“懸念”を“確信”へと変わらせるに至っていたのであるモノの、それと言うのはー。
“エカテリーナが関わっているのではないか?”と言うモノだったのであり“彼女がレウルーラの連中に、情報を提供していたのでは無いのか?”と踏んでいたのであるモノの、そもそも論として確かに、エカテリーナはメリアリアが生きている事を知っていて尚かつ、その姿形はおろか、波長までもが変わってしまっている、と言う事を理解している殆ど唯一の人間だったのであり、しかもその底意地の悪さと言うか、彼女に対する徹底的なまでの排撃的思念から恐らく、その後もことある毎にメリアリアの様子を伺うためにルテティアの街に留まり続けていたであろう事は、想像に難くない事象であった。
ところが。
メリアリアと言う人は、エカテリーナが思うよりも遥かに強い人であり、そういつまでもいつまでも、無駄な悲しみに暮れてばかりいるような、柔な女性では決して無かった、現に“嘸(さぞ)や打ち拉がれている事だろう”と思っていた筈のメリアリアは“そんな暇は無い”とばかりに直ぐさま行動を起こしては東の果てを目指してー即ち蒼太のいる大八洲皇国を目指してー旅立って行ってしまっていたのであり、そうとは知らずにエカテリーナはブラブラと数ヶ月もの間中、遊び半分でルテティアの街を散策し続けていた、と言う訳であったのだ。
そうして時折、もはやその近辺には居る事の無かったメリアリアへと意識を飛ばしては“気配が無いわね?”、“死んじゃったのかしら?”等と宣(のたま)いながらもその度に“クスクス”と嘲笑し続けていたのであるが、そんな彼女がハッキリと“異変”に気が付いたのはそれから実に四ヶ月も経った後の、ある日の午後の事だった。
その前後一ヶ月程前から“いくら何でもおかしいわね?”と気を揉み始めていたエカテリーナはその日はいつもより念入りに神経を研ぎ澄まさせて精神を集中させ、改めてメリアリアの動向について探りを入れてみたモノの、それでも彼女の存在を感知する事は全くもって不可能だったのであり、そしてそれは意識の範囲を拡大させてみても同様だった、慌てたエカテリーナが情報を収集し始めた時には既に、当のメリアリアはとっくに蒼太との再開を果たしていた挙げ句にその愛の力によって断片的にとは言えども呪(まじな)いまでもが無力化されてしまっていたのであり、事ここに至ってようやくにしてエカテリーナは自分が迂闊だった事に気が付かされた訳である。
(やってくれたわね、メリアリアッ!!)
思わずその場で地団駄を踏みならし、顔まで歪めて悔しがっていたエカテリーナであったが彼女とていつまでもいつまでも無駄に腹を立て続ける、等と言う事は、決してしない女性であった、自身の探査と相俟って、集まってきた情報を分析した結果、“どうやらメリアリアは東へと向けて旅立ったようだ”と言う事を理解したエカテリーナはそれを直ちに、メリアリア達の所属している秘密組織“セイレーン”と戦闘状態に陥っていた“エイジャックス連合王国”の誇る、王宮直属魔導騎士団“レウルーラ”へと持ち込んでは“彼女及び関係者の抹殺”を願い出たのである。
「今のメリアリアはセイレーンを離れており、しかも東の果てで単独行動をしている、叩きのめすのはいましか無い!!」
そんなエカテリーナの主張はしかし、当初は中々に受け入れられなかった、“足下の火事もまだ鎮火できていないと言うのに、なんでわざわざそんな遠くにいる相手を撃たなければならぬのか”、“大体こいつは何者なのか”、“信用の置ける人間なのか?”等と言った、メリアリアへと向かうそれよりも、エカテリーナ自身に対する疑惑と嫌悪が大勢を占めており、レウルーラが動き出すような気配は一向に見えて来なかったのである。
事態が動いたのはそれをレウルーラの実質的指導者である“玉泉のマーガレット”が聞き付けて本格的な議論が持たれた事と、そこに退避していた“カインとメイル”の二人組によって“積極的な討伐を行うべし”との強硬論が展開されていった為だったのだが、いわく“セイレーンは強大であり討てる時に討った方がいい”、“最近、東方も何かと焦臭(きなくさ)い事が多い為に、これを機会に本格的な調査を入れてみてはどうか”という意見が出されており、それにレウルーラの上部組織である“M16”が乗っかる形でGOサインが出たのだ、そしてー。
その結果に、エカテリーナはほくそ笑んでいた、これでいい、これでメリアリアを抹殺する事が出来る筈だ、と。
(“レウルーラ”の魔導騎士達ならば、万に一つの間違いもあるまい・・・!!)
そう考えていたのだがしかし、流石の彼女もメリアリアの直ぐ側に蒼太がおり、旧来よりも二人が更に関係を発展させていた事、そしてー。
“お互いにお互いを庇い合い、支え合っていた”事を、これっぽっちも知る由も無かったモノの、何にせよエカテリーナの行った提案と言うのは今のところ、レウルーラにとっては完全に裏目に出た、と言わざるを得ずにその結果も“0戦1敗”で負け越していた、その上ー。
カインとメイルが返り討ちにあってしまった事で今回、用意されていた戦力の内の過半数が既に喪失させられてしまっている訳であり、残りの二人は大使館経由で情報を収集、発信しなければならなくなってしまったのだ。
それだけではない、エカテリーナはもう二つほど愚かな事をした、一つは“今回の事件に自分が関わっている事を蒼太に見付かってしまった事”、もう一つはー。
蒼太を本気で怒らせてしまった事であったがそもそも論な話として色々な世界の理(ことわり)を知ると同時に物事を多角的な角度から観測する事が出来た彼はそれ故に、警戒心が非常に強くて感性も鋭く、滅多な事では心を底まで開く事は無かったモノの、しかし。
一方で根が素直で純情な性質であり思い込んだら一直線な人間でもあった蒼太はだから、自分が心から許して繋がり合えた相手に対しては絶大なまでの信頼を置くのであり、ましてやそれが“愛する人”ともなればその秘めたる思いの凄まじさは殆ど“無限”とでも言って良いほどの確かさと強烈さを誇っていた。
それだけではない、表面上はかなり柔軟な対応をするモノのその実、自分が本当に大切だと思っている事柄に付いては絶対に譲らないと言うか、妥協しない芯の強さ、頑固さをも持ち合わせていたのであって、そしてそれ故にー。
自分の大切な人に対して手を出そうとする輩を、どんな理由があったとしても彼は許す事を決してしなかったし、また見逃すことも無かった、事実として以前、まだ彼が子供の時分にカインがメリアリアを連れ去ろうとした際には怒りのあまりに我を忘れて攻撃を繰り返し、そしてその結果として、メリアリアの助けがあったとは言えども彼に致命的な傷を与えて撃退する事に成功していたのであり、もしあの時に。
カインにメイルがいてくれなかったら恐らく(と言うよりまず間違いなく)あの日、カインは蒼太によって絶命させられていた筈であった、蒼太と言う男は要するに、子供の時からいざの際には腹を決める事が出来るだけの勇気と度胸とを兼ね備えていた、と言う訳であって、そんな彼をー。
エカテリーナは怒らせたのだ、それも“頭に来る”等と言う軽いモノでは無い、“腸(はらわた)が底から煮えくり返る”程の、凄まじいモノであり相手に対する徹底的なまでの拒否拒絶の念を帯びていたそれは蒼太をして、一縷の情も無いほどにエカテリーナの抹殺を誓わせたのである。
「でもソーくん、なんで“エカテリーナ”が関わっているって気付いたの?」
「簡単な事ですよ、消去法です」
ノエルの提示してくれた3D画像からエカテリーナがレベッカである事を突き止めた蒼太は自身と彼女の関係をメリアリア達に説明していたモノの、その最中にノエルが思い出したかのように尋ねて来たのだ。
「あの時点でメリアリアが生存していて、尚かつ姿や波長が変わってしまっている事を知っていたのは、メリー本人を除けばエカテリーナ自身しかいませんでしたからね。それ以外の存在で、彼女に気が付けたのは誰もいなかったそうです。ハイウィザードの眼力をもってしても見抜けなかった、と言うのですから他の魔導師集団でもメリーの事を認識出来た人と言うのは、いなかったと思いますよ?現にメリーはここに来るまで、いや来てからも、この前の一件まではただの一度たりともレウルーラやその他の組織の妨害や襲撃を受けてはいませんでしたから。そうだろ?メリー」
「ええ!!」
彼から話を受け渡されたメリアリアは頷くと同時に、少し難しそうな顔で応えるモノの、いわく“誰も気が付いてくれなかったし、装備品等のマジックアイテムすらも全く反応してくれなくなった”、との事だった。
「・・・そんな状況だったから。仲間達も私だって解ってくれなくて。危うく憲兵隊に引き渡されそうになったわ!!」
「だけどそれが却って良かったのかもね」
と蒼太が再び口を開くがもしも彼女が“メリアリアである”との証拠品を、装備したままの状態で旅を続けていたのならば、もしかして少女となったメリアリアは絶えず命を狙われる羽目に陥ってしまっていたかも知れずに、そうなればとてもの事、呪いを解く所の話では無くなっていただろうからである。
「そっかぁ~・・・」
そこまで話を聞いていたノエルが呟くモノの、流石に才女なだけあって彼女は、すぐに蒼太の言いたいことを理解した、要するに。
「メリアリアちゃんが生きていて、尚かつ東に向かったって事が解りそうな人って言うのがエカテリーナしかいなかったって言う事なのねぇ~?」
「ええ」
と蒼太がノエルに応じるモノの基本的に、セイレーンは“超”が幾つか着くほどの裏方組織であり、かつ厳選された超能力者集団でもあった、その上。
カインとメイル、即ちクロードとルキナの一件があって以降は更に情報統制や内部監査、更には隊員達に対する警護セキュリティーが厳しいモノとなっており、その結果として如何にレウルーラを始めとする魔導師集団が侵入を試みようとした所で必ず発見されるのがオチと言って良いほどの、非常に堅固な秘密保持と組織防衛の体勢とが整えられていたのである。
それ故。
「あの時点で外部の情報機関がセイレーンの内部情報を手に入れることは殆ど不可能になっていた筈です。事実としてカインとメイルがいたにも関わらずにレウルーラはこの子に関する事を、最近まで何一つとして掴んではいませんでした。つまりそれは、カインとメイルをもってしてもセイレーンの内部情報やメリーの事を感知する事が出来なかった、と言う事です」
“にも関わらずに”、と蒼太は続けた、“最近になってそれに気が付いたのは事情を知っている誰かが入れ知恵したからに違いありません”と。
そしてそんな人物と言うのは現状、一人しか思い当たるフシは無かった、即ち“エカテリーナ”である。
「だからあなたから、“レウルーラに接触した人物がいた”と聞かされた時にピンと来たんです、“ああ、ソイツがエカテリーナなんだな”って」
「大した推理ね、名探偵・・・」
その話を聞き終わった際に、ノエルは些か脱帽したかのような表情を蒼太へと向ける。
「・・・“波動法術師”を廃業してさ。“探偵事務所”でも開いたらどう?」
「“初歩(エレメンタリィ)”だよ、ワトソン君。って言うよりも、自分としては将来は探偵業よりも“外国語教師”として食っていきたいんですけどね?」
「あはは~(*'▽'*)(*'▽'*)(*'▽'*)」
ノエルが笑った、“先生をしているソーくんって考えられないな~”と、そう言って。
「言う事を聞かない生徒さんとかが来たなら、どうやって応対するつもりなの~?」
「ああ、そんなの」
“帰ってもらいます”と蒼太はにべも無く言い放って見せるモノのそう言うときの為にこそ“能力”があるのであり、そして蒼太はそんな人間が来たときには遺憾なくそれらを発揮して、極めて“自主的に”お帰り願おうと考えていたのである。
「まっ、本人が授業中、気分が悪くなったりだとか。何やら急用を思い出して帰らざるを得ない事なんかはよくある話ですからね。ちなみに僕自身は暴力は振るいません、あくまで懇切丁寧、お口で指導です」
「あははははっ。とんだエセ教師ねぇ~、絶対に子供を預けたく無いわぁ~(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」
「いやいや、あんたには負けるよ、絶対!!」
“ねぇ?メリー”と言葉を紡いで恋人を見ると、メリアリアもまた何の躊躇も躊躇いも無いままに、“うん”と頭を前後に揺らすが正直に言ってノエルほど、ぶっ飛んだ人間に今までメリアリアは会ったためしがなくて(と言うよりも会いたくもなかったのだが)、そう言った意味において彼女との出会いは貴重であり、まさしく今後二度と無い(起きて欲しくもない)モノになるであろう事は、想像に難くない事実であった。
「本人の前で、本当に申し訳無いのだけれど・・・。私、貴女ほどぶっ飛んだ女性(ひと)って今まで見たことが無いわ!!」
「同感だね、僕も無い!!」
“そしてこれからも一生無いだろう!!”と蒼太は続けて断言するモノの、どうやら彼氏は自分と同じ思い、感慨を抱いてくれていたようであり、メリアリアにとってはとても嬉しくて暖かくて、勇気の出る言葉であった。
「あはははっ。も~、やだな~っ。ソーくんもメリーちゃんも~。皆私を褒めすぎだよ~(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」
「褒めてへんよーっ!?」
「全っ然、褒めて無いから!!」
「ええっ!?だっていま、“ぶっ飛んでる”って・・・っ!!」
「意味が違うわ、全然っ!!」
「なにをどうしたら、そう言う解釈になるわけっ!?」
二人揃って突っ込みを入れるモノの、正直に言ってこのノエルと言う人にはもう、なにをどう言って良いのかが解らずに、蒼太とメリアリアは揃って途方に暮れてしまうが、しかし。
「でもさぁ~、ソーくん。本当にこれからどうするの~っ!?」
「そうですねぇ・・・」
まるで仕切り直すかのようにしてノエルから放たれたその言葉に、蒼太は改めて一呼吸置いて考えるとそれでも、少し何処か困ったかのような表情を浮かべて唸るように呟いた。
「せめて今回、ここにやって来ている残りの二人組の正体でも解れば。まだやりようもあるのですが・・・。何しろ“波動”を感じ取れたのは、殆ど一瞬だったからなぁ~・・・!!」
「女性の二人組だったのは、解ったのだけれど・・・。そこから先は、向こうに気配を消されてしまったから探査が出来なくなってしまったの・・・」
「んん~・・・」
蒼太の言を受けてメリアリアもまた、口を開くがそんな二人の言葉にノエルは、今度はバスケットの一番底をあさり始めてタブレットを取り出すとディスプレイをタッチして画面を浮かび上がらせる、そうしておいてー。
「気になって調べてみたのだけれど~。はいこれ、羽田空港(エアポート)の入国窓口の映像よぉ~、ちなみに約3週間前のやつだけどぉ~( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)」
「・・・・・」
「どれどれ・・・?」
慣れた手つきでパネルを操作し、ダウンロードしてきた動画から、彼等と思しき4人組の映っている箇所を見付けるとそこで静止させて、顔の部分を拡大させるが、するとそこには。
カインとメイルのすぐ横に、まるで彼等を監視するかのようにして立ち並んでいる、二人の女性の姿があった。
一人はややメッシュブラウンに近い軽めのダークブロンドのストレートロングにアイスブルーの瞳をした、所謂いわゆる“北欧系美人”な顔立ちをしている女性であり、もう一人の方はフェミニンなゆるウェーブの長い黒髪に黒い瞳、そして優しい感じのする美少女だ。
「・・・・・っ!?」
「こいつらは・・・っ!!」
「見覚えが、あるのぉ~・・・?」
ノエルの言葉に蒼太とメリアリアは互いに顔を見合わせつつも頷き合うモノの、そこに映し出されていたのは確かに、カイン達と戦った直後に自分達に向かって意識を飛ばして来た二人組と非常に良く似た風貌、背格好をした女性達であり、全体の雰囲気や特徴等は紛れもなく本人達のそれであったがー。
本音を言えばもう少し精密な、顔などの映像が欲しい所でありそれ故に、蒼太はノエルに再びの、その事に対する注文を付けようとしていたのであるが、既にそれある事を予測していたノエルは手早くパネルを操作しては先程と同じように画像を精密化して顔をテクスチャー処理をした、3D写真を作り出した。
「ノエルさん・・・」
「はいな~・・・。はいこれね!!」
「これが・・・っ!?ああ、でも!!」
「そうそう、こんな感じだったわ。顔とかもチラッと見れた程度だったんだけど!!」
それを見て二人が思わず驚愕の表情を浮かべるモノの、彼等の前に現れたのは。
紛れもなくレウルーラが誇る“超新星”と呼ばれている最高戦力、“黄昏のルクレール”と“青天のエヴァリナ”であった。
「そんな事が、あったんだぁ~・・・!!」
説明を最後まで聞き終えたメリアリアはようやくにして肩の力を抜いてはその溜飲を下ろし、ノエルに至っては“うんうん”と頷きつつもシミジミと感想を口にする。
「大変だったのねぇ~。でもそれなら尚更疑問よねぇ~・・・」
「ええ、そうなんですよ」
ノエルの言葉に蒼太が頷いて見せるモノの、あの時確かに死んでいた筈のレベッカが生き抜いており、しかも年齢や姿形までもが大きく変わってしまっているのはどうしたことか。
(他にもまだ疑問はある、奴がメリーに対して使ったと言う、その“黒い玉”だ。恐らくは何某かのマジックアイテムなのだろうが、だけど・・・)
蒼太は尚も考えるモノのその血統によるモノだろうがメリアリアには本来、あらゆる呪術や毒素に対しての、非常に強い浄化耐性が存在していてそれ故に、そんじょそこらの魔物等は言うに及ばず、仮に悪魔の力を用いたとしても、その力が及ぶ範囲は表面的なそれであり極めて限定的なモノでしかなかった。
それに加えて。
(何より。“そう言った”モノを使われる際には“負の波動”の影響で多かれ少なかれ、ある種の“緊張感”とでも言うべきか、必ず悪寒のようなモノを感じる筈なんだ。これは僕もそうだったし、メリーを何度か“現場”に連れて行った際にも同じような反応を示していたから良く解るんだけれども、だけどレベッカにそのアイテムを使われた際には、メリーは“特にそう言った感覚は抱かなかった”と言っている、“そのアイテムが危険だって言う予感はあった”って言っているけれど・・・)
と言うことは、と己の中で結論を纏めた“そのアイテムはやはり、伝説の法具か神宝(かんたから)の一種だったのかも知れない”と。
(“神の力”のようなモノを感じた訳では無かったみたいだし・・・。やはり伝説のアイテムか何かなのだろうな、だけど姿形に加えて波長が変わってしまったのは、一体・・・?)
「・・・そうか!!」
「・・・・・?」
「どうしたの?ソーくん・・・」
不思議そうに自分を見つめる恋人と友人とに、蒼太は得心したように微笑んだ、“なんでメリーの姿形や波長が変わってしまったのかが解った”とそう告げて。
「これは多分、だけれども・・・。本来はそのアイテムは、もっと別の作用をする筈だったんだ、レベッカが君に言った言葉からも、それは明らかだと思う」
「言われてみれば・・・」
彼氏から告げられたその言葉に、メリアリアもまた当時の状況を思い返してみるモノのあの時、確かにエカテリーナは自分を見て“おかしいわね?”、“私が解るの?”とそう言った、いいや、ただ単に言っただけでは無い、明らかに動揺してすらいたのだ。
「それってつまり・・・!!」
「そうだ」
メリアリアからのその言葉に、蒼太が頷いて応えるモノの恐らくはそのマジックアイテムは、対象者の身体を別の形質に変化させると同時に記憶や認識に関する阻害を行うモノだったのだろう事が伺えるが、しかし。
「エカテリーナの意に反してそうはならなかった。何故かと言えば君の血の力、“抵抗力”があったからだ!!」
「・・・・・っ!!?」
「え~と、つまり・・・?」
「つまりは、こう言う事です」
蒼太が続けるモノの彼の見立てでは多分、その力自体は本来は決して“人を呪い殺す”だとか“人を零落させる”といった、所謂(いわゆる)“攻撃的意志”の元に作り出されたモノでは決してなく、もっと別の何かの為に生み出されたアイテムだったのであろうが、しかし。
そんな作り手側の願いとは裏腹に、アイテムは実際にはメリアリアへの攻撃と足枷の為に用いられたのであり、そしてその際に生じた彼女の身体への負荷とエカテリーナの発する“害意”に反応する形でメリアリアの中に眠っていた“抵抗力”が発揮され、そしてその結果ー。
マジックアイテム本来の効能は弱体化されてその威を失い、彼女は少女の姿へと変えられた挙げ句にその最中にメリアリア自身に宿っている霊力と、マジックアイテムの放つ法力とがぶつかり合って干渉波が巻き起こされ、そしてその影響で彼女は波長すらもが変質してしまった、と言うのが事の真相であろうと結論する。
「・・・じゃあ、つまり。私が異国の少女になってしまったのも、身体の波長が変化してしまったのも、そのマジックアイテムと私自身の力がぶつかり合った結果、っていうこと?」
「そう言う事だろうね」
蒼太が告げるがこれならば何故自分とのセックスで呪いが解かれたのか、と言う事に対する説明もする事が出来るようになると言うモノの心底、相手の事が好きで好きで仕方が無かった二人はだから、常にお互いに意識を向け合い、求め合い続けており、そしてその結果としてまだ本格的な成長期を迎える前から激しい性交を繰り返し行っては、彼女の中に何度となく中出しをキメ込み続けて行ったのだ。
それだけではない、生気と生気とを混ぜ合わせては奥を“これでもか”と言うくらいにまで、ただひたすらに突き上げ続けていった彼等は遂には子宮でのセックスすらも可能としていたのであるモノの、そんな二人の身体やオーラにはお互いのエネルギーや魂の波動と言ったモノが底の底まで幾重にも重なり合った状態のままで混ざり尽くしてしまっており、それは彼等自身の根幹にも作用して今や蒼太もメリアリアもそれぞれが、相手の分身とでも言って良い立場、存在へと変質してしまっていたのだ。
そしてそれ故にー。
蒼太と交わる度にメリアリアの胎内には、彼に蓄積されていた“己の波動”が流し込まれる結果となり、しかもそれに加えてメリアリア自身も蒼太の波動と解け合っていた為に、彼の波動を受け入れやすくなっていたこと、その上更には“神人化”する事が出来るようになっていた蒼太の精液にはその“神力”が込められており、その力によって歪みが矯正されたこと等の要因が重なって、蒼太の精液を流し込まれた時だけは、彼女は“真実なる自分”を取り戻す事が出来たのである。
「恐らくは、それが真相だと思うけれど・・・。どうりで聞いたことが無かった筈だよ、だって本来のアイテムの効能と君の霊力とのぶつかり合い、干渉波によるモノだったんだから」
「・・・・・」
その言葉に思わず“ハアァァ~・・・ッ!!”と深い溜息を付くメリアリアだったが事象の真相を知って幾許かは納得が行ったのだろう、得心したように何度も何度も頷くモノの、少なくとも彼女としてみればようやく、胸の閊(つか)えの一つが取れた訳であり、それについては僅かとは言えどもホッと出来た瞬間であった。
「そう、そこまでは良かったのだけれども・・・」
蒼太が三度、神妙そうな顔と声とで話を続けて行くモノの問題は、これをエカテリーナ即ちレベッカがいつまでも見過ごしておくはずが無い、と言う事であり、必ずや何某かの手段を講じて来る事は、疑いようの無い事実であった。
それと言うのも。
彼女のメリアリアに対する害意と言うより“底意地の悪さ”は異常なまでのモノがあり、そしてそれはまだ、エカテリーナの正体がレベッカである事を知る前から蒼太が感じていたモノだったのだが当初、メリアリア本人から聞かされていた話によれば、呪(まじな)いを掛けた後で明らかに狼狽していたエカテリーナはしかし、すぐに冷たい笑みを浮かべると同時に“まあいい”と言い放ち、“貴女はもう、メリアリアには戻れない、異国の少女になってしまったのだから!!”と宣(のたま)ったそうなのであり、それはつまり本来の目的が遂げ切れなかった事を意味していたのであって、それでも一応は満足の行く結果を得たから“まあいい”と言ったのだ。
そしてー。
別れ際にまで、まるで今後、また会うことがあるかのように自己紹介を挟んでいる、“私の名前はエカテリーナだ”と、そう告げてー。
「覚えておいてね?」
そうやって来た時と同じように静かに去って行ったと言うのであるが通常、あれだけの事をやっておきながらわざわざそんな事をしていったのは一種の挑発行為であり、メリアリアに対して“機会があったらキチンと決着を着けましょうね、出来ればだけどね?”と言う皮肉交じりの優位的意識の表れ以外の何物でも無かった。
(恐らくは、“エカテリーナ”と言う存在はまだ、メリーに対する“本懐”を遂げていない。それが何なのかは、解らないけれども・・・。いずれにしても、絶対に許せない、メリーにこんな事をするなんて!!)
メリアリアが寝静まった後で物思いに耽る事が多かった蒼太は一人、リビングのソファに腰掛けながらも思わず“エカテリーナ”と言う女性魔術師に対する怒りを露わにするモノの、特に彼の逆鱗に触れたのは恐らくはこれで、エカテリーナからのメリアリアに対する手出しが終わりでは無い、と言うことであり、それはつまり今後もまた、何らかの手段で彼女を攻撃してくる可能性が極めて高い、と言う事を示唆していた。
(腹が立つほど忌々しいけれど・・・。でも冷静にならなきゃ、今が正念場だぞ?蒼太・・・!!)
必死に“怒りの想念”を受け流しつつも冷静さを保とうとするモノのやはり、状況や手口から察するに、この“エカテリーナ”と言う女性の持つ、メリアリアへの迫害、或いは排斥的意思と言うモノは非常に粘着性の高い、極めて嫌味ったらしいモノであって、そしてそんな女性がもし、メリアリアが無事に極東にいる自分の元へと辿り着いて曲がり形にも呪(まじな)いを解いた事、幸せに暮らしている事等を知った時に果たして何もせずにいるのだろうか、と言った事を考えずにはいられなかったのである。
(恐らくだけど・・・。いいや、もう間違いない、コイツは明らかにメリーが不幸になる事を望んでいる。そしてそれを邪魔する輩は例えそれが誰であろうとも不倶戴天の敵となる、と言う事か・・・!!)
そこまで思いが至った時に、蒼太は初めて女性に対して腹の底から迸るような殺意を抱いた、“絶対にメリーに手を出させるもんか”、“その前に俺が見つけ出して殺してやる!!”そこまで真面目に考えると同時に何度も激昂しそうになるモノの、それをー。
「蒼太・・・?」
「んん・・・?」
「どうしたの?」
気分がどうしようもなく昂ぶってしまい、眠れなくなってリビングのソファに深く腰掛けてはまだ見ぬ相手への憎悪を膨らませていた彼氏の元を、ベッドにいないことに気付いたメリアリアがローブを羽織って追い掛けて来るモノの、そんな彼女に心配を掛けまいとして蒼太は無理に明るい笑顔を取り繕っては精一杯、恋人に優しく語り掛けるがそんな時、メリアリアは決まって“一人にしないで”と言っては蒼太に抱き着きその全身を、愛しそうに擦り寄せて来る。
そんな彼女の事が可愛くて堪らなくなり一層、深く“守ってやりたい”、“傷一つ負わせたくない”と思うと同時にその両腕をメリアリアの華奢な白い肢体へと回して自身へとしっかりと抱き寄せるモノの、そんな毎日を送っていた蒼太にとってはだから、“エカテリーナ”の動向と言うのは実はもっとも神経を尖らせていた事の一つであった。
無論、自分達の周囲には幾つもの“結界”を張り巡らせておいたし、意識も常に行き届かせて悪意や害意を持っているような輩が近付いて来ないかどうかはキチンと判別するようにしていたのだがしかし、それだけでは如何せん不十分であり確かに“守ること”は出来ても攻めることが出来ず、なによりかによりの話として肝心要の“エカテリーナ”に関する情報は全くと言って良いほどに入って来る事は無かったのである。
そしてそれは今現在において、蒼太が密かに使用している“自身の裏の情報網(コミュニケーション・ネットワーク)”をもってしても同様であり結局は、ターゲットについての具体的な情報は何ら得られる事は無く、そしてそれ故に、絶えず煮え湯を飲まされっ放しであったのであるが、それもその筈でそもそも“エカテリーナ”が活動しているのはあくまでも西方の外れにある“エウロペ連邦国家群”なのであって極東の日本では決して無く、また蒼太自身も向こうでは“行方不明扱い”されている身であった為に、あまり大っぴらな調査は行えないでいたのだ。
そんな時にー。
カインとメイルがやって来て、戦闘状態となってしまうモノのこの時、蒼太は思わず首を傾げてしまっていた、自分達は向こうでは“生死不明”の状態になっている筈であり、ここでこうして生きている事など、誰もが思ってもみなかっただろう、それなのにー。
彼等は正確にやって来た、そりゃ流石に幾らかは探し回った事だろうがそれでも、普通なら有り得ない事が起こったのであり、そしてそれこそが蒼太をして、ずっと抱き続けて来た“懸念”を“確信”へと変わらせるに至っていたのであるモノの、それと言うのはー。
“エカテリーナが関わっているのではないか?”と言うモノだったのであり“彼女がレウルーラの連中に、情報を提供していたのでは無いのか?”と踏んでいたのであるモノの、そもそも論として確かに、エカテリーナはメリアリアが生きている事を知っていて尚かつ、その姿形はおろか、波長までもが変わってしまっている、と言う事を理解している殆ど唯一の人間だったのであり、しかもその底意地の悪さと言うか、彼女に対する徹底的なまでの排撃的思念から恐らく、その後もことある毎にメリアリアの様子を伺うためにルテティアの街に留まり続けていたであろう事は、想像に難くない事象であった。
ところが。
メリアリアと言う人は、エカテリーナが思うよりも遥かに強い人であり、そういつまでもいつまでも、無駄な悲しみに暮れてばかりいるような、柔な女性では決して無かった、現に“嘸(さぞ)や打ち拉がれている事だろう”と思っていた筈のメリアリアは“そんな暇は無い”とばかりに直ぐさま行動を起こしては東の果てを目指してー即ち蒼太のいる大八洲皇国を目指してー旅立って行ってしまっていたのであり、そうとは知らずにエカテリーナはブラブラと数ヶ月もの間中、遊び半分でルテティアの街を散策し続けていた、と言う訳であったのだ。
そうして時折、もはやその近辺には居る事の無かったメリアリアへと意識を飛ばしては“気配が無いわね?”、“死んじゃったのかしら?”等と宣(のたま)いながらもその度に“クスクス”と嘲笑し続けていたのであるが、そんな彼女がハッキリと“異変”に気が付いたのはそれから実に四ヶ月も経った後の、ある日の午後の事だった。
その前後一ヶ月程前から“いくら何でもおかしいわね?”と気を揉み始めていたエカテリーナはその日はいつもより念入りに神経を研ぎ澄まさせて精神を集中させ、改めてメリアリアの動向について探りを入れてみたモノの、それでも彼女の存在を感知する事は全くもって不可能だったのであり、そしてそれは意識の範囲を拡大させてみても同様だった、慌てたエカテリーナが情報を収集し始めた時には既に、当のメリアリアはとっくに蒼太との再開を果たしていた挙げ句にその愛の力によって断片的にとは言えども呪(まじな)いまでもが無力化されてしまっていたのであり、事ここに至ってようやくにしてエカテリーナは自分が迂闊だった事に気が付かされた訳である。
(やってくれたわね、メリアリアッ!!)
思わずその場で地団駄を踏みならし、顔まで歪めて悔しがっていたエカテリーナであったが彼女とていつまでもいつまでも無駄に腹を立て続ける、等と言う事は、決してしない女性であった、自身の探査と相俟って、集まってきた情報を分析した結果、“どうやらメリアリアは東へと向けて旅立ったようだ”と言う事を理解したエカテリーナはそれを直ちに、メリアリア達の所属している秘密組織“セイレーン”と戦闘状態に陥っていた“エイジャックス連合王国”の誇る、王宮直属魔導騎士団“レウルーラ”へと持ち込んでは“彼女及び関係者の抹殺”を願い出たのである。
「今のメリアリアはセイレーンを離れており、しかも東の果てで単独行動をしている、叩きのめすのはいましか無い!!」
そんなエカテリーナの主張はしかし、当初は中々に受け入れられなかった、“足下の火事もまだ鎮火できていないと言うのに、なんでわざわざそんな遠くにいる相手を撃たなければならぬのか”、“大体こいつは何者なのか”、“信用の置ける人間なのか?”等と言った、メリアリアへと向かうそれよりも、エカテリーナ自身に対する疑惑と嫌悪が大勢を占めており、レウルーラが動き出すような気配は一向に見えて来なかったのである。
事態が動いたのはそれをレウルーラの実質的指導者である“玉泉のマーガレット”が聞き付けて本格的な議論が持たれた事と、そこに退避していた“カインとメイル”の二人組によって“積極的な討伐を行うべし”との強硬論が展開されていった為だったのだが、いわく“セイレーンは強大であり討てる時に討った方がいい”、“最近、東方も何かと焦臭(きなくさ)い事が多い為に、これを機会に本格的な調査を入れてみてはどうか”という意見が出されており、それにレウルーラの上部組織である“M16”が乗っかる形でGOサインが出たのだ、そしてー。
その結果に、エカテリーナはほくそ笑んでいた、これでいい、これでメリアリアを抹殺する事が出来る筈だ、と。
(“レウルーラ”の魔導騎士達ならば、万に一つの間違いもあるまい・・・!!)
そう考えていたのだがしかし、流石の彼女もメリアリアの直ぐ側に蒼太がおり、旧来よりも二人が更に関係を発展させていた事、そしてー。
“お互いにお互いを庇い合い、支え合っていた”事を、これっぽっちも知る由も無かったモノの、何にせよエカテリーナの行った提案と言うのは今のところ、レウルーラにとっては完全に裏目に出た、と言わざるを得ずにその結果も“0戦1敗”で負け越していた、その上ー。
カインとメイルが返り討ちにあってしまった事で今回、用意されていた戦力の内の過半数が既に喪失させられてしまっている訳であり、残りの二人は大使館経由で情報を収集、発信しなければならなくなってしまったのだ。
それだけではない、エカテリーナはもう二つほど愚かな事をした、一つは“今回の事件に自分が関わっている事を蒼太に見付かってしまった事”、もう一つはー。
蒼太を本気で怒らせてしまった事であったがそもそも論な話として色々な世界の理(ことわり)を知ると同時に物事を多角的な角度から観測する事が出来た彼はそれ故に、警戒心が非常に強くて感性も鋭く、滅多な事では心を底まで開く事は無かったモノの、しかし。
一方で根が素直で純情な性質であり思い込んだら一直線な人間でもあった蒼太はだから、自分が心から許して繋がり合えた相手に対しては絶大なまでの信頼を置くのであり、ましてやそれが“愛する人”ともなればその秘めたる思いの凄まじさは殆ど“無限”とでも言って良いほどの確かさと強烈さを誇っていた。
それだけではない、表面上はかなり柔軟な対応をするモノのその実、自分が本当に大切だと思っている事柄に付いては絶対に譲らないと言うか、妥協しない芯の強さ、頑固さをも持ち合わせていたのであって、そしてそれ故にー。
自分の大切な人に対して手を出そうとする輩を、どんな理由があったとしても彼は許す事を決してしなかったし、また見逃すことも無かった、事実として以前、まだ彼が子供の時分にカインがメリアリアを連れ去ろうとした際には怒りのあまりに我を忘れて攻撃を繰り返し、そしてその結果として、メリアリアの助けがあったとは言えども彼に致命的な傷を与えて撃退する事に成功していたのであり、もしあの時に。
カインにメイルがいてくれなかったら恐らく(と言うよりまず間違いなく)あの日、カインは蒼太によって絶命させられていた筈であった、蒼太と言う男は要するに、子供の時からいざの際には腹を決める事が出来るだけの勇気と度胸とを兼ね備えていた、と言う訳であって、そんな彼をー。
エカテリーナは怒らせたのだ、それも“頭に来る”等と言う軽いモノでは無い、“腸(はらわた)が底から煮えくり返る”程の、凄まじいモノであり相手に対する徹底的なまでの拒否拒絶の念を帯びていたそれは蒼太をして、一縷の情も無いほどにエカテリーナの抹殺を誓わせたのである。
「でもソーくん、なんで“エカテリーナ”が関わっているって気付いたの?」
「簡単な事ですよ、消去法です」
ノエルの提示してくれた3D画像からエカテリーナがレベッカである事を突き止めた蒼太は自身と彼女の関係をメリアリア達に説明していたモノの、その最中にノエルが思い出したかのように尋ねて来たのだ。
「あの時点でメリアリアが生存していて、尚かつ姿や波長が変わってしまっている事を知っていたのは、メリー本人を除けばエカテリーナ自身しかいませんでしたからね。それ以外の存在で、彼女に気が付けたのは誰もいなかったそうです。ハイウィザードの眼力をもってしても見抜けなかった、と言うのですから他の魔導師集団でもメリーの事を認識出来た人と言うのは、いなかったと思いますよ?現にメリーはここに来るまで、いや来てからも、この前の一件まではただの一度たりともレウルーラやその他の組織の妨害や襲撃を受けてはいませんでしたから。そうだろ?メリー」
「ええ!!」
彼から話を受け渡されたメリアリアは頷くと同時に、少し難しそうな顔で応えるモノの、いわく“誰も気が付いてくれなかったし、装備品等のマジックアイテムすらも全く反応してくれなくなった”、との事だった。
「・・・そんな状況だったから。仲間達も私だって解ってくれなくて。危うく憲兵隊に引き渡されそうになったわ!!」
「だけどそれが却って良かったのかもね」
と蒼太が再び口を開くがもしも彼女が“メリアリアである”との証拠品を、装備したままの状態で旅を続けていたのならば、もしかして少女となったメリアリアは絶えず命を狙われる羽目に陥ってしまっていたかも知れずに、そうなればとてもの事、呪いを解く所の話では無くなっていただろうからである。
「そっかぁ~・・・」
そこまで話を聞いていたノエルが呟くモノの、流石に才女なだけあって彼女は、すぐに蒼太の言いたいことを理解した、要するに。
「メリアリアちゃんが生きていて、尚かつ東に向かったって事が解りそうな人って言うのがエカテリーナしかいなかったって言う事なのねぇ~?」
「ええ」
と蒼太がノエルに応じるモノの基本的に、セイレーンは“超”が幾つか着くほどの裏方組織であり、かつ厳選された超能力者集団でもあった、その上。
カインとメイル、即ちクロードとルキナの一件があって以降は更に情報統制や内部監査、更には隊員達に対する警護セキュリティーが厳しいモノとなっており、その結果として如何にレウルーラを始めとする魔導師集団が侵入を試みようとした所で必ず発見されるのがオチと言って良いほどの、非常に堅固な秘密保持と組織防衛の体勢とが整えられていたのである。
それ故。
「あの時点で外部の情報機関がセイレーンの内部情報を手に入れることは殆ど不可能になっていた筈です。事実としてカインとメイルがいたにも関わらずにレウルーラはこの子に関する事を、最近まで何一つとして掴んではいませんでした。つまりそれは、カインとメイルをもってしてもセイレーンの内部情報やメリーの事を感知する事が出来なかった、と言う事です」
“にも関わらずに”、と蒼太は続けた、“最近になってそれに気が付いたのは事情を知っている誰かが入れ知恵したからに違いありません”と。
そしてそんな人物と言うのは現状、一人しか思い当たるフシは無かった、即ち“エカテリーナ”である。
「だからあなたから、“レウルーラに接触した人物がいた”と聞かされた時にピンと来たんです、“ああ、ソイツがエカテリーナなんだな”って」
「大した推理ね、名探偵・・・」
その話を聞き終わった際に、ノエルは些か脱帽したかのような表情を蒼太へと向ける。
「・・・“波動法術師”を廃業してさ。“探偵事務所”でも開いたらどう?」
「“初歩(エレメンタリィ)”だよ、ワトソン君。って言うよりも、自分としては将来は探偵業よりも“外国語教師”として食っていきたいんですけどね?」
「あはは~(*'▽'*)(*'▽'*)(*'▽'*)」
ノエルが笑った、“先生をしているソーくんって考えられないな~”と、そう言って。
「言う事を聞かない生徒さんとかが来たなら、どうやって応対するつもりなの~?」
「ああ、そんなの」
“帰ってもらいます”と蒼太はにべも無く言い放って見せるモノのそう言うときの為にこそ“能力”があるのであり、そして蒼太はそんな人間が来たときには遺憾なくそれらを発揮して、極めて“自主的に”お帰り願おうと考えていたのである。
「まっ、本人が授業中、気分が悪くなったりだとか。何やら急用を思い出して帰らざるを得ない事なんかはよくある話ですからね。ちなみに僕自身は暴力は振るいません、あくまで懇切丁寧、お口で指導です」
「あははははっ。とんだエセ教師ねぇ~、絶対に子供を預けたく無いわぁ~(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」
「いやいや、あんたには負けるよ、絶対!!」
“ねぇ?メリー”と言葉を紡いで恋人を見ると、メリアリアもまた何の躊躇も躊躇いも無いままに、“うん”と頭を前後に揺らすが正直に言ってノエルほど、ぶっ飛んだ人間に今までメリアリアは会ったためしがなくて(と言うよりも会いたくもなかったのだが)、そう言った意味において彼女との出会いは貴重であり、まさしく今後二度と無い(起きて欲しくもない)モノになるであろう事は、想像に難くない事実であった。
「本人の前で、本当に申し訳無いのだけれど・・・。私、貴女ほどぶっ飛んだ女性(ひと)って今まで見たことが無いわ!!」
「同感だね、僕も無い!!」
“そしてこれからも一生無いだろう!!”と蒼太は続けて断言するモノの、どうやら彼氏は自分と同じ思い、感慨を抱いてくれていたようであり、メリアリアにとってはとても嬉しくて暖かくて、勇気の出る言葉であった。
「あはははっ。も~、やだな~っ。ソーくんもメリーちゃんも~。皆私を褒めすぎだよ~(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」
「褒めてへんよーっ!?」
「全っ然、褒めて無いから!!」
「ええっ!?だっていま、“ぶっ飛んでる”って・・・っ!!」
「意味が違うわ、全然っ!!」
「なにをどうしたら、そう言う解釈になるわけっ!?」
二人揃って突っ込みを入れるモノの、正直に言ってこのノエルと言う人にはもう、なにをどう言って良いのかが解らずに、蒼太とメリアリアは揃って途方に暮れてしまうが、しかし。
「でもさぁ~、ソーくん。本当にこれからどうするの~っ!?」
「そうですねぇ・・・」
まるで仕切り直すかのようにしてノエルから放たれたその言葉に、蒼太は改めて一呼吸置いて考えるとそれでも、少し何処か困ったかのような表情を浮かべて唸るように呟いた。
「せめて今回、ここにやって来ている残りの二人組の正体でも解れば。まだやりようもあるのですが・・・。何しろ“波動”を感じ取れたのは、殆ど一瞬だったからなぁ~・・・!!」
「女性の二人組だったのは、解ったのだけれど・・・。そこから先は、向こうに気配を消されてしまったから探査が出来なくなってしまったの・・・」
「んん~・・・」
蒼太の言を受けてメリアリアもまた、口を開くがそんな二人の言葉にノエルは、今度はバスケットの一番底をあさり始めてタブレットを取り出すとディスプレイをタッチして画面を浮かび上がらせる、そうしておいてー。
「気になって調べてみたのだけれど~。はいこれ、羽田空港(エアポート)の入国窓口の映像よぉ~、ちなみに約3週間前のやつだけどぉ~( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)」
「・・・・・」
「どれどれ・・・?」
慣れた手つきでパネルを操作し、ダウンロードしてきた動画から、彼等と思しき4人組の映っている箇所を見付けるとそこで静止させて、顔の部分を拡大させるが、するとそこには。
カインとメイルのすぐ横に、まるで彼等を監視するかのようにして立ち並んでいる、二人の女性の姿があった。
一人はややメッシュブラウンに近い軽めのダークブロンドのストレートロングにアイスブルーの瞳をした、所謂いわゆる“北欧系美人”な顔立ちをしている女性であり、もう一人の方はフェミニンなゆるウェーブの長い黒髪に黒い瞳、そして優しい感じのする美少女だ。
「・・・・・っ!?」
「こいつらは・・・っ!!」
「見覚えが、あるのぉ~・・・?」
ノエルの言葉に蒼太とメリアリアは互いに顔を見合わせつつも頷き合うモノの、そこに映し出されていたのは確かに、カイン達と戦った直後に自分達に向かって意識を飛ばして来た二人組と非常に良く似た風貌、背格好をした女性達であり、全体の雰囲気や特徴等は紛れもなく本人達のそれであったがー。
本音を言えばもう少し精密な、顔などの映像が欲しい所でありそれ故に、蒼太はノエルに再びの、その事に対する注文を付けようとしていたのであるが、既にそれある事を予測していたノエルは手早くパネルを操作しては先程と同じように画像を精密化して顔をテクスチャー処理をした、3D写真を作り出した。
「ノエルさん・・・」
「はいな~・・・。はいこれね!!」
「これが・・・っ!?ああ、でも!!」
「そうそう、こんな感じだったわ。顔とかもチラッと見れた程度だったんだけど!!」
それを見て二人が思わず驚愕の表情を浮かべるモノの、彼等の前に現れたのは。
紛れもなくレウルーラが誇る“超新星”と呼ばれている最高戦力、“黄昏のルクレール”と“青天のエヴァリナ”であった。
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