メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

狂乱のレベッカ

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 エカテリーナ。

 本名“レベッカ・デ・アラゴン・イ・シシリア”。

 蒼太の恋人であるメリアリアに対して呪(まじな)いを掛け、その姿と波動を変えさせると同時に能力を封じ込めては仲間達の元から放逐させた張本人であり、その正体はかつての蒼太の知己にしてヒスパニア王国の名門中の名門“バルセロナ家”の中でも歴代屈指の実力を誇る、凄腕の女性魔法剣士であった。

 もっとも。

 “知己”とは言えども彼女が(即ちレベッカが)蒼太の仲間であった時期はそんなに長いものでは無かったし、それにそもそも論的な話としては、彼女との出会い自体がこの“世界”において為されたモノでは決して無く、それは幾重にも重なり合って存在しているパラレルワールド、所謂(いわゆる)“平行世界”においてであって、蒼太は一時期、そこに飛ばされていた事があったのだ。

「前に、教えてくれたわよね?この世界に帰って来たのは、私と再会する1年位前だって・・・」

「えっ?そうなの、ソーくん・・・」

「ええ・・・」

 蒼太は頷くモノの、彼が異世界へと招待、もしくは飛ばされたのは人生で三度あった、1回目は“エルヴスヘイム”、2回目は“神界”、そして3回目こそがレベッカと出会った“ガイア・マキナ”と呼ばれている別の地球の世界線だったのだ。

 “ガイア・マキナ”。

 そこは所謂(いわゆる)“戦乱の世界線”であり各国は常時戦闘状態であって、人々はその中においてそれでも、図太くて逞しく、そして汚らしく暮らしいていた、相次ぐ戦闘によって街や村々の建物やインフラ(中でも国境線沿いにあるそれらのモノは特にであったが)は直しても直しても破壊し、破壊され、人々は灰色の空の下でボロボロになりながらもその日その日を懸命に生き抜いていたのである。

 男も女もその顔は煤(すす)に汚れて髪の毛はチリヂリになり、美しくとかされた、上から下までキチンとブラッシュアップのされているストレートロング等は滅多に存在していなかった、人心は荒れ狂い、毎日の生活と繰り返される暴力、先の見えない諦観とですっかり草臥れ果ててしまっており、希望と人間らしさを保ったままで生きているのは本当に強くてしっかりとしている、一部の人々のみだったのだ。

「・・・・・」

「そんな世界が、あったのねぇ~・・・」

「メリーには、前に一度話したね?」

「うん!!」

 蒼太のその言葉に、メリアリアが頷くモノの、実は以前、二人でイチャついている最中に不意に蒼太が真面目な顔になったかと思うと暫くの間、何かを考え込むような面持ちとなり、そしてー。

 彼はメリアリアに、自身の身に起きた事を、伝え始めていったのである、セーヌの濁流へと落下して行く最中にそこに開いていた“次元の裂け目”へと飲み込まれてしまい“神界”に行った事、そこで神々に修業を付けてもらった事、元の世界に戻ろうとしたら次元断層の歪みに巻き込まれてしまい、それらが躱し切れなくなった為にやむを得ずに近くの“平行世界”に落着した事、そしてー。

 そここそが“ガイア・マキナ”でありそこで初めて本格的な“戦闘訓練”を受けた事等をー。

「“ガイア・マキナ”で戦闘訓練を受けたって事は・・・。じゃあ“神様の世界”では、なにを習ったの?」

「神様が僕に施してくれたのは、凄い基礎的な事だったんだよ。感覚を極限まで研ぎ澄ませたり、限界を超えて集中力を高める訓練だとか、どんな想念が襲って来ても、決してそれに飲み込まれないようにする為の、“受け流し”と呼ばれているやり方の極意だとか、精神の奥底に眠っている、本当の自分自身と繋がる為の修法だとか・・・。他にも身体の底力を自在に発揮できるようにするモノだとか、後は色んな能力の、底上げの修業が主だったな。それは本当に、執拗なくらいに徹底的にやらされたよ、“必ずお主の役に立つだろう”って言われてね。それで生命力とか精神力とか、体力、筋力、持久力、持続力。反射神経を鍛えたり、術の精製速度を上げたり精度を上げたり・・・。そう言った事を3年間、みっちりと教わったんだ」

「じゃあ戦闘に関する訓練とかを、受けた訳では無いのね?」

「それがさぁ、最後にとんでもない試練が待ち構えていたんだよ」

「・・・“試練”?」

 メリアリアの言葉に蒼太は“うん・・・”と頷いたままで、少し難しそうな顔をして黙りこくってしまうモノの、しかし暫くしてから顔を上げて“だけど・・・”と再び話を始めた。

「そのお陰で、僕は“秘儀”って言うか・・・。“奥義”を使えるようになったんだよ」

「・・・“オウギ”?」

「ウルトラミラクルな術のことさ、西洋では何というかな、“エッセンシャル”、“ミステリー”かな?取り敢えずは“秘儀”で良いと思うんだけど、兎に角それが使えるようになったんだ!!」

 そこまで話して一瞬の間は悪戯っぽく笑っていた蒼太だったがしかし、すぐにまた真剣な表情となり、口を開いては続きを聞かせる。

「だけどその試練が終わって神界から下界に戻る時に、うっかり“超時空乱舞”に巻き込まれそうになっちゃってね・・・。神様からも“くれぐれも気を付けるのだぞ?”って念を押されていたのに、僕は迂闊だったんだ!!」

「蒼太・・・」

 と珍しく、負の感情を隠そうともしないで表に出し続けている恋人を、メリアリアは気遣うようにしてソッと抱き締め、その身に寄り添うようにするモノの、そんな彼女に。

「・・・ありがとう」

 “ごめんね”と告げると蒼太は再び言葉を紡ぎ始めるたのだが当初こそは“それ”から生み出されてくる奔流をいなして躱し、受け流し続けて来た蒼太だったがしかし、強さを増す波動の乱流に抗しきれなくなって遂にはそれらを避ける為に、現実世界(ここ)とは別の、平行世界の一つに突入せざるを得なくなり、一番近くにあった中でも最もまともな感じのする入口を選んで飛び込んだのだ。

 その着いた先こそが戦乱の世界線である“ガイア・マキナ”だったのであり、そこで蒼太は“ある人物達”と出会う事となるが、それこそがー。

 “その世界でのメリアリア”を始めとする“あちら側のセイレーン”の面々であり、そしてー。

 “レベッカ・デ・アラゴン・イ・シシリア”その人であったのだ。

「と言っても彼女は別に、“セイレーン”に所属していたわけじゃあ無いんだ」

 蒼太が語る所に拠ると、レベッカは元々はヒスパニア王国の誇る呪術諜報防衛組織、通称“魔女の囁き”と呼ばれている国家機関に所属しており、そこはガリアとヒスパニアとが同族国家であり、尚かつ両国が軍事同盟までをも締結していた為に、“セイレーン”とは共闘関係にあって、その情報も、かなりの部分を共有し合っていたのだ。

 しかし。

 それは彼女の“表の顔”でしか無かった、本当のレベッカは欧州一帯を股にかけて活動している“フリー・ピープルズ”と言う名称の、石工達の秘密結社の構成員であると同時にそれらを影で操っている“ニムロデ王の系譜”と呼ばれる、超国家間ネットワークを誇る秘儀秘承呪術師集団の一員であり、更にはそれらの大元にして自分達にとって都合の良い“世界統一ワン・ワールド政府・オーダー”の樹立を目指している、“ドラクロワ・ドラクロワのカウンシル評議会”にも籍を置いている程の、極めて危険な主義思想の持ち主にして欧州各地で卑劣で残忍な犯行を繰り返していた、SSS級(エクストラクラス)の最重要指名手配犯だったのだ。

 それに気が付いた蒼太達“セイレーン”と“魔女の囁き”の“有志連盟”は上部組織と協力しつつも“彼女達”を追討して捕縛し、その結果ついに、エトルリアのベスビオス火山の頂上付近の戦闘火の山の決戦においてレベッカ本人を含む“ドラクロワ・ドラクロワのカウンシル評議会”の主要メンバーのうちの何名かを討ち果たす事に成功したのである。

 その時。

 レベッカの相手をした人物こそが“向こうの世界のメリアリア”だったのであり、火口近くの一騎打ちにおいて彼女に敗れたレベッカはそのまま、煮え滾るマグマの中へと落下していったのだった。

「ここまでは、メリーには話しておいたんですが・・・」

「ええ。蒼太からちゃんと聞かせてもらったわ」

「へえぇぇ~・・・」

 “ところが”、と感心したかのように頷くノエルに対してやや俯き加減となりつつも、蒼太は続けた、“彼女は死んではいなかったのですね”、と呟くようにそう告げて。

「だけどその“レベッカ”ちゃん、だっけ~?どうして助かったのかしら~?」

「恐らくは・・・。たぶん、ですけれども僕の時と同じようにマグマの上空に“時空の断裂”があったのでしょう。レベッカはそこに吸い込まれた事で、命を永らえる事が出来た。そしてこの世界へと流れ着き、再び活動を開始したのでしょうけれど・・・。いや、だけどしかし・・・」

 有り得ない、と蒼太は頭を振りつつ続けるモノの確かに、彼は“向こうの世界のメリアリア”がレベッカにとどめの一撃をくれている所を目撃しているのであり、仮にいくら、マグマ溜まりへの落着だけは免れ得たにせよ、あれだけの重傷を負っていたのであればまず、助かる見込みなどは無いはずである、一体、どう言うことなのであろうか。

「前にも、話したと思うけど・・・。ハッキリ言って、あっちのメリーは君よりも魔法は劣るが体術で勝っていた、その彼女の攻撃が首と心臓に一撃ずつ、確かに入っていたんだよ、あれじゃ助かる訳が無い・・・!!」

「うう~ん・・・」

「・・・・・」

 それを聞いてメリアリアも腕組みしながら思案顔を浮かべ、己の中で考えを纏めて行くモノの、そんな二人を側で見ていたノエルもまた、彼女なりに幾つか有用な回答を用意して、次々に彼等にお披露目して行った いわく。

「“転移した先が病院だった”、“実はアンドロイド”、“キョンシーとなって蘇った”の3本です!!」

「・・・・・」

「あのね、ノエル・・・」

 珍しく真面目に考え込んでいるな、等と思っていたなら、出て来た答えがこれである、蒼太はもういっそ、なんと言っていいのか解らなくなりメリアリアもついには呆れ果ててしまっていた。

「・・・なんで“サザエさん”?ってかなんで“キョンシー”なんですか?」

「えっ?だってキョンシーって、中統の“ゾンビ”じゃん、“来々キョンシーズ”を知らないの?」

「・・・だったら普通に“ゾンビ”って言えばいいじゃん。あとなんだよ“来々キョンシーズ”って。天々か?天々の出てたヤツだよな?それ」

「やん。ソーくんは“スイカ頭”を知らないの?それに私はフツーなんかじゃつまんないわ、面白い方が絶対にいいもの!!」

「今は貴女の面白さなんてどうだって良いの!!」

 ノエルの言動にすっかり脱力してしまった蒼太がそれでも、ボソボソと突っ込みを入れていると、見ていられなくなったメリアリアが横から口を出して来る。

「もうっ。ちょっとノエル、あなた“真面目に考える”って事が出来ないの!?蒼太がこんなにも苦しんで、一生懸命に考えているのに!!」

「はあぁぁ~・・・」

 自分に代わってこの“超ド級天然才女”とまともにやり合ってくれている恋人に感謝しつつも、蒼太は尚も思案を続けて行くモノの、やはりどう考えても納得が行かない、彼女は明らかにあの場所で致命傷を負っていた筈なのであり、そしてその傷は間違いなく、どうあがいても助かるような見込みのあるような、軽いモノでは無かった筈なのだ、それなのに・・・。

「・・・気になることはまだある」

 蒼太が続けて言った台詞に、メリアリア達の困惑は更に深まる事となった、それは。

「年が、合わないんだ」

「・・・・・?」

「どーゆーこと?」

「うん・・・」

 二人の疑問に答えようと、蒼太が更に説明を続けて行くモノの、いわく“年が合わないし髪の毛の色も違う”との事でありその言葉に流石のメリアリアもノエルもギョッとしてしまった、蒼太は言う、“同一人物とは思えない”と。

「確かに顔や容姿の身体的特徴なんかは、レベッカそのものなんだけれど・・・。でもどうしても、年が違うんだよ。このエカテリーナと言う女性は、どう見ても二十歳かそこらだろ?“向こうのメリー”にやられた時には、レベッカはまだ12才だったんだ!!」

「ええっ!?」

「12才っ!?」

 これには流石の二人もビックリしてしまっていたのだが確かに、“貴族の出の魔法剣士”とは聞かされていたモノの、まさかまだ年端もいかない子供だったとは。

「ち、ちょっと待って!?」

 更に何事かを続けようとした恋人に対してメリアリアが制止を試みるモノの、蒼太の話を総合してみるとつまり、この“レベッカ”と言う少女はまだ12才にも関わらずに国家の呪術秘密機関に所属しており尚かつ、“凄腕”として周囲から認知されていた事になる。

「それに加えて、えーと・・・」

「“フリー・ピープルズ”かい?」

「そうそれ!!」

 “そんなのに入会を許されていたって言うの!?”とメリアリアが尚も続けて言葉を紡ぐがそれに対して蒼太は“うん”と頷くと、再び難しそうな顔を見せた。

「実はこの“フリー・ピープルズ”自体への加入はさして難しい訳じゃない、提示されている月々の会員費、要するに“上納金”を、誰の力も借りずに自身でキチンと支払い続けられる経済力と善悪是非を判断できる責任能力とがあれば、誰でも気軽に入会する事が出来るんだ・・・。ただし」

 蒼太は続けるモノの、“幾つか守らなければならない規約も存在しているみたいなんだ”とそう告げて。

「例えばその中に。“自身及び他人が入会している事を周囲に知らせてはならない”と言うのがある」

「・・・・・?」

「どうして・・・?」

「解んないよ」

 “訳が分からない”と言った表情を覗かせる二人に対して蒼太が応じるモノの確かに、他の入会者についての情報を勝手に漏らすのはアレだとしても、なんで自分が入っているのかどうか、と言う事を告げてはならないのかは疑問であり、それは確かに“おかしいな?”等と思う部分ではあった。

(・・・まあ、そこら辺が、“フリー・ピープルズ”の秘密結社たる所以なのだろうけれども。どうもそれだけじゃない気がする、何かありそうな気がするんだよな、あそこって)

 “叩けばいくらでも埃が出て来そうだな”、等と思いつつも蒼太はメリアリア達への説明を再開させた。

「・・・まあ、“フリー・ピープルズ”についてはそれほど重要じゃないんだけれども。問題はここからなんだ、先述した通り、その上部組織である“ニムロデ王の系譜”、そして」

 蒼太が続けた、“ドラクロワ・カウンシル”だ、と。

「・・・・・」

「・・・ドラクロワ・カウンシル?」

「ああ」

 二人の言葉に蒼太がまたもや頷くモノの、この“ニムロデ王の系譜”ならびに“ドラクロワ・カウンシル”は完全秘密制の同志社であり、一説によると世界中のセレブ達や実力者集団、著名な研究者グループでさえもが籍を置いている、と言う噂があった。

 彼等の目的は、ただ一つ。

 “バベルの塔”を現代に蘇らせた上でニムロデ王の意思を継ぎ、5000年前に成し遂げられなかった“神々への反抗”を完遂させる、これである。

「・・・・・?」

「“神々への反抗”・・・?」

「具体的な事は、良く解らないけれども・・・。いま現在判明している限りでは彼等は要するに、“人の世”を終わらせる事が目的らしい。なんでも“神々が作りし最高かつ最愛の傑作であり、その願いと分身分霊との宿る人間達を霊的に堕落させて自分が何者なのかを見失わせ、純粋なる愛を忘れさせる”、要するに人間達の中から“愛”とか“己”と言ったモノを消してしまおうとしているんだよ、そうしておいて・・・」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「“自分達”が神々や人に代わってこの世を支配しようとしているのさ」

 蒼太は続けた、“かつて神様は人間達に言われた”と、“お前達で天国のような世界を創りなさい”と、“愛の光と確かさとを遍(あまね)く隅々にまで広げなさい”と。

「そして“霊的に己を導きなさい”って。・・・真実の愛を体現しながらね、それを」

 “連中は打ち消そうとしているんだよ”と蒼太は続けた、“何故ならばそれをする事が一番、神々に対する反抗になるからだ”、と。

「神々が自身の分霊を分け与えた挙げ句に、そのありったけの愛情と願いとを注いで作り上げた人間と言う種族を堕落させて、世の中を無法と無秩序とで満たし尽くせば、それは神々に対して“あなた方の創ったモノは失敗作だった”と言う何よりのメッセージになるんだよ、彼等はそれをしようとしている。その上で自分達をこそ最高権力者に押し頂くようにした、新たなる世界秩序、即ち“世界統一政府(ワン・ワールド・オーダー)”を樹立させようとしているらしいんだ。・・・全ての人間達を自分達の意のままに操る事の出来る家畜、奴隷としてね。・・・そしてその為には、“悪魔の力”すらをも借りている、とも言われている」

「・・・・・っ!!?」

「悪魔(デーモン)ですって!?」

 蒼太から告げられたその言葉に、メリアリアのみならず流石のノエルも驚愕してしまうモノの、彼女達はよくよく理解して知っているのである、蒼太がこんな大切な話をしている時に、決して嘘や冗談、大事を宣(のたま)う人間では無いのだ、と言う事を。

 だからこそ彼女達は驚いたのであるモノの、それというのも“悪魔(デーモン)”と言うのはそれ程強大な力を持った、厄介極まりない存在だったからである。

 ちなみに蒼太はこの“悪魔”は勿論の事としてもう一つ、日本における同意義同格の存在であった“鬼”ともまた何度か戦った事があるモノの、そもそも論として現在においては“妖怪”やら“魔物”やらと同一視され、一括りにされてしまっているこの両者は本来、それらとは全くと言って良い程に別物であり完全に掛け離れていた存在であった。

 と言うのは“妖怪”や“魔物”と言うモノはその大半が、“人間によって勝手に生み出されてしまった”存在である為に、実はそれほど大した力(妖力、魔力)を持ち合わせてはおらずに精々、“どこにでもいる普通の悪霊”に毛が生えた程度の力量でしかなかった(そのため、それなりに力のある霊能力者達であれば十二分に打ち払う事が可能であり別段、専門職である神官、修験者、陰陽師等の手を煩わせる程のモノでは無かった)のに対してこの“鬼”や“悪魔”と言った輩についてはただ東洋西洋で呼び名や容姿、在り方が違っているだけで基本的にはどちらも同じであり、恐ろしいまでの力(鬼力、呪力)を持っていてその為、多少、霊感のある程度の呪い師風情が間違っても太刀打ち出来る相手では、決して無かったのである。

 それはよく、“心霊スポット”と呼ばれている場所に屯(たむろ)している、人を呪い殺す事もある程に“性質(たち)の悪い悪霊達”が、それも100体前後の集団が束になって掛かって行っても逆に返り討ちにされてしまう程のモノでありそれどころか、下手をすれば逆に取り込まれて食われ、彼等の一部にされてしまう事すらあったのだが当然、そんな連中にも打ち勝って行かねばならない蒼太達呪術戦士と言うのはだから、誰もが皆、己の中に眠っている高い霊力や神性を極限まで進化、増幅させる為に子供の頃から親や教師達によって“これでもか”と言う位にまで厳しい修業や鍛錬を、それも次々と課される訳であり、特に蒼太とメリアリアはその上更に自主練にも励み続けていたから、その底力や法力の向上は著しいモノがあった。

 特に蒼太に至っては“神界”において神々から直接、それも凄まじいまでの指導を受けたためにその秘めたる波動の輝きや意識力と言ったモノは、見る人が見ると段違いに強烈であり、いっそ眩しい程だったのである。

「酷い、酷すぎるわ!!」

 メリアリアが絶叫した、“いくらなんでも酷すぎるわ!!”とそう言って。

「信じられないわ、神様に逆らおうなんて。そしてその為に人々から愛や輝きを奪い取ろうだなんて!!あんまりだわ、酷すぎるわ!!こんな素晴らしくて大切なモノを取り上げられたら。人間は、人間は・・・」

「“魂の抜け殻”となるだろうね、間違いなく」

 蒼太もそれに同調するモノのそもそも論として、自身の根幹から迸り出ずる自身や相手に対する“確かなる暖かさ”、“無限の気持ち”とでも言うべきモノを失ってしまえば人はもはや、“生きる気力”そのものを失い尽くしてしまうだろうし、そうなれば考える事自体を完全に止めてしまうだろう。

 “己が何者であるのか”と言った事を何も考えようともしないどころか自身の行動それ自体を省みる事すらしなくなり、そしてそれは=で霊性さ(冷静さ)の欠片すらも無くしてそれを体現する事をしなくなる、出来なくなる事を意味するのであるが、そうなってしまった人間はもはや、人間ではなくなってしまうのであり、ただただただただ与えられる刺激に対して反応するだけの、“ロボット”と化してしまうだろう、そしてそうなってしまえば。

「・・・最終的にはその者は“人間の魂、人間の姿”を保っている事が出来なくなる”。これは考えてもらえば当たり前の話なんだけども、宇宙や神々は一つの種族を生成なされる際に、その存在に最も相応しい愛の形、愛のバランスを感じ取ってイメージし、それに則(のっと)った形で創造を行ってゆくのだそうだ、それはつまり人間は人間としての役割、存在意義に相応しい容姿、魂を与えられている、必要があって今の形になってるって事なんだよね?でもそれって逆に言い換えれば、人間で無い者がいつまでもいつまでも人間の姿を取っている必要は全く無い事を意味するんだよ、恐らくはそんなに時間を掛けずにその状態でいるのに相応しいそれらへと改変されて行くだろうね」

 “そして”と蒼太は続ける、“どんな理由があったにせよ、そんな存在の行き着く果てに待っているのは全くの虚無であり、何の報われ合う事の無い、暗黒の未来そのものだ”と。

「愛って言うのはね?=で“合い”なんだよ、愛し合い、支え合い、助け合う。即ち“共にある”事こそが“愛”なんだ、そしてそれは必ず“報われ合うモノ”なんだ、“無限の未来を得てどこまでもどこまでも限りなく、進化発展し続けて行くモノ”なんだよ。ちょっと話が飛んでしまって申し訳ないのだけれども“夫婦(めおと)”って言うのは本来であれば、その最たるモノなんだ。お互いにお互いの人生や存在の重みを半分ずつ背負い合って、つまり相手の半分を受け入れ合って、文字通り“自分の半身”として共に歩んで行く、と言うのだから、憖(なまじ)っかな思いと信頼、覚悟の上に成り立つ関係では決して無いんだよ」

「解るわ」

 メリアリアが頷いた、“私だって全てを知る者じゃない”と、そう断りを入れた上で、“それでも”と彼女は続ける。

「それがどれ程凄い事なのか、大切な事なのかが解る、感じる!!」

「そうだ」

 その言葉を受けて蒼太もまた頷き返すが我々は誰も彼もが皆、一様に“エゴ”と呼ばれるモノを持っている。

 もっとも最近では“我欲”や“身勝手さ”を指して使われがちなこの言葉は本来、“自我”そのものを指し示すモノだったのであり、そしてその大半を占めていたのは“性欲”でもなければ“夢”や“希望”、“絶望”でもない、“自己防衛本能”であったのだ。

「これは肉体的には先祖代々に渡って受け継がれて来た遺伝子、即ち“DNA”に基づくモノとされているんだけれども・・・。実際はそれだけじゃないんだ、何回も何回も輪廻転生を繰り返す中で積み重なって来た、その人その人の軌跡、即ち“魂の経験”って言うのが大元になって生み出されているんだけれども・・・。当然、中にはあまり好ましくない、悲しくて非道な体験なんかもあるわけだよね?すると何かあった場合に、それらに基づいて“自己防衛本能”が作用するんだよ、“こう言う時に、こう言う風にするとこうなる、だからこうしよう”ってね。だからどちらかと言えば、どうしても物事に対する“否定的見解”や“否定的要素”の方が強く出るんだ、あくまでも“自己を防衛する為の本能”、要するに“物事に対する反射現象”だからね。そう言う訳で人によってこのエゴ(自我)の形、もしくは“大きさ”って言うのは千差万別なんだけれども。・・・それでもそれらを乗り越えて、相手を受け入れる、相手と共にあるって言うことが、どれ程凄い事なのかってことがまざまざと痛感させられるよね?何せ過去生における自分自身の失敗談、トラウマがあっても尚、それらを差し置いて“それでもこの人と一緒にいたい”、“一生、側にあって添い遂げたい”と言う強烈なまでの“確かなる思い”。それがどれほど有り難いモノなのかって事が、よく解るってもんだ」

 蒼太の言葉にメリアリアも、そしてノエルまでもが優しい顔をして頷くモノの“真の意味”で捉えるのならば確かに、それらはとても真剣で、誠実さに満ち溢れている、大切なモノなのだ。

「誰も彼もが心の奥底に秘めている、幼くて無防備で、だけどそれ故に一番、純粋無垢で真っ直ぐで、混じりっ気のない魂の輝き。それらが思いと化して具現化したモノ、それこそが愛だ。・・・まあもっと言ってしまえば感情としての愛、気持ちとしての愛。即ち“愛情”だけどね?」

 蒼太が続けるモノの基本的に程度の差や限界はあるけれども、人間は誰も彼もが皆“自分は自分でいたい”と考えているモノであり、そしてそれ故に誰にも踏み込まれたく無い“自分だけの領域”と言うモノを持っているモノなのである、それをー。

 差し置いてでも相手の魂の輝き、波動を受け入れて、即ち相手の本質を受け入れて自分自身を根底から変質させて行く、互いに同調し合い、影響を及ぼし合って相手のモノになって行く、と言うことがどれ程凄い事なのか、有り難い事なのかが良く解るよね、と。

「さっきもチラッと言ったけれども・・・。“夫婦(めおと)”になる、って言うのはそう言う事なんだよ、本来であればね。そしてそれこそが、受け入れて許す事が“愛”って言われている所以なんだ」

「それも解る」

「私にも、解るわ・・・」

 メリアリアもノエルも真剣に聞いてくれているのだろう、そして理解しているのだろう、心の底から頷いてくれている事が、蒼太にも伝わって来た。

「だけど彼等はそれを、壊そうとしていた、いやもしかすると、今も壊そうとしているのかも知れない。何しろあの連中のしつこさ、執念深さと来たら爬虫類もかくやと言うモノだからなぁ・・・」

「うわ~、最悪・・・」

「あんまり、相手にはしたくない連中よね、本当に・・・」

「全くだよ」

 蒼太は頷きつつも、“だけど”と言葉を紡ぎ続けた、“そう言う訳にもいかなかったんだよ”と、そう言って。

「アイツらはそれに基づいて、世界各国で暗躍していた、主に“金”と“物流”、“エネルギー”の流れを変えては利害関係を提起させて、彼方此方(あちらこちら)に戦争を引き起こさせていたんだよ。それどころじゃない、仮にも和平が結ばれそうになるとそれをぶち壊すために新たな陰謀計画を練っては絶えず抗争を繰り返させて、人々の心に疑心暗鬼と諍(いさか)いの種とを植え付け続けていったんだ!!」

「とんでもない話だわ!!」

「いくら何でも酷すぎるわね・・・!!」

 そこまで話を聞いていた二人が打って変わって激昂するモノの正直、彼女達の気持ちは蒼太にも良く解るつもりであり、とにかく彼等はあまりにもそのやり方が卑劣に過ぎたのだ。

「本当に、人間のやる事なの?それが・・・!!そんなの、悪魔と何も変わらないじゃない、人でなしだわ!!」

「私が言うのもなんだけど・・・。本当にぶっ飛んだ連中だったのね、ソイツら・・・!!」

「・・・・・」

(一応、自覚はあったんだ・・・!!)

 と、メリアリアの言葉に共感を覚えると同時にこの年上ハーフの友人に対して半ば感心しつつも心の中でキチンと突っ込みを入れた上で蒼太は続けた。

「・・・まあ、とにかく。そんな危険な連中を放ってはおけない、と言うので事実に気付いた僕達は決戦を試みたんだ。・・・勿論、万全な状態を期してね。結果はさっきも言ったけれども一応は、成功したんだ。彼等の計画は頓挫して主要メンバーの過半数を喪失、組織の実態や思惑が明るみに出た事で人々もようやく正気に返ってくれてね。長い間繰り返され続けられていた“勝者なき世界大戦”とでも言うべきモノも集結したんだよ、その世界ではね」

 “それで”と蒼太は締め括った、“戦闘が終わった僕はようやく安定して来ていた時空間を切り開いてこの世界に返って来る事が出来たんだよ”と。

「まだ“次元乱舞”は収まりきってはいなかったんだけれど・・・。もうしょうがないから、“神人化”して“神威”を使ってね、時空間を無理矢理に切り開いて押し渡って来たんだよ」
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