星降る国の恋と愛

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運命の舵輪編

ルクレールとエヴァリナ

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「“シャーロット”より“メリー・ジェーン”へ。“飼い犬が死んだ”、繰り返す。“飼い犬は死んだ”」

「・・・・・」

「“メリー・ジェーン”?」

「・・・・・」

 “了解した”と、“彼女”は耳に当てたスマートフォンの“向こう側”で呟いた、その声はややアルトでハスキーな感じのそれであるがしかし、普段は落ち着いて重々しい感じのする彼女の言葉には今は、ともすれば一種の“動揺”が含まれていた。

 信じられなかった、まさかあの二人が、高い魔力と人間以上に魔法や妖術と言ったモノへの特性を誇るダークエルフ族の戦士、カインとメイルがやられるなんで。

(“妖精王”の力を付与されたにも関わらずか?それほどまでに相手が手練れだったのか、或いは・・・)

 “彼等が無能だったのか”、と声の主は密かに嘆息と同時にある種の“呻き声”を挙げるがこんなことならばもう少しだけ、“慣らし運転”をさせてから指令を与えるべきだったのか、成熟させてから放出させるべきだったのかも知れないが、しかし。

(あの連中の凶暴さとせっかちさは、他に類を見ない程だったからなぁ。このままここに置いておいても単なる荷物へと成り下がっただけだっただろう・・・)

 そう考えるのならば、と彼女は改めて考え直した、“ちょうど良い厄介払いが出来たと言った所だっただろう”と。

(奴らのもたらしてくれた魔法の特性やダークエルフ族特有の感性、とでも言うべきモノは、既に十二分にデータとして取らせてもらっている。“投資した分の働き”は、為してくれたと言っても構わないだろう)

 “それに”と彼女は考えるモノの“奴らも死に場所を得たのだ”とそう胸の内で納得するとそのまま、“メリー・ジェーン”は改めて“妹達”へと指示を出した。

「・・・今は“ジャパン”の“トーキョー”か?」

「そうよ」

「“ベイビー”も一緒にいるのだな?」

「勿論。ずっと一緒に行動してるわ」

「ならいい。所で“ペットの亡骸”はどうしたのだ?」

「無かったわ」

 “影も形も無かったの”と、“シャーロット”は“メリー・ジェーン”の質問に対してそう応えるモノの、それは決して嘘偽りでも無かければ彼女達の見落としでも無かった、と言うのは元々、“彼等”の援護(とついでに言えば“監視”)を任されていた二人は今回、何が起きても良いようにとあくまでもカインとメイルの別動部隊として彼等よりも500メートル程離れた位置で待機していたのだがこの時、予想外の出来事が起きた。

 それと言うのは突如として二人が“トワイライトゾーン”への扉を開いてその中に、“ターゲット”と思しき男女のカップルを閉じ込め、挙げ句の果てにはその中において、本格的な戦闘を開始してしまった事だったのだがこれには流石のシャーロット達も心底慌てふためいた、と言うのは当初の予定ではカイン達はあくまでも、“ターゲット達”に対しての軽めの接触、もしくは“暗殺”を試みる事から開始する予定だったからである。

 もっともそれは別に、“戦果を確実に挙げる”事を目的としていたモノでは決して無かった、一応、“カインとメイル”の二人組から今回の最有力撃滅候補である“蒼太”と“メリアリア”と呼ばれる戦士のペアに対するある程度の説明は、事前にレクチャーされていたモノのそれによると“彼等”は幼い頃から既にかなり実力及び感性を持ち合わせており恐らくはだから、何某かの“攻撃”を行ったとしても結局は、此方の殺気や気配を素早く感じて回避されてしまうであろう事はシャーロット達においても容易に想像の付く事態であったが、しかし。

 それでもやはり、“緊急排除対象”として名の挙がっている二人の事は詳しく知っておく必要があった、特に実際の彼等の“今現在”の実力や戦法と言った事柄に付いては、シャーロット達はその答えとなるべき“最適解”を全く正確には持ち合わせておらずに正直、このまま戦った場合は予期せぬ事態が巻き起こる可能性の方が、非常に高いと判断されていた為だ。

 そしてそれ故に先ずは、本格的な戦闘に入る前に軽めの挨拶と様子見を兼ねて、カイン達を行かせてみる事にしたのだが結果は何一つ、得る物が無いままに終わってしまった、カイン達は敗北してその肉体の欠片すらも残ってはいなかった、そしてそれは現実世界のみならず、“トワイライトゾーン”の中においても同様だったのである。

「その死亡と最後とを、ハッキリと確認した訳では無いけれど。それでも後で潜入したトワイライトゾーンの彼方此方には戦闘の形跡が、ハッキリとした形で残されていたわ。物凄い大きな穴や、何か強烈な力によって、地面を抉ったような跡が幾つもね。そしてその世界のどこからも、二人の姿も波動も確認され無かった、それはここ、現実世界においても一緒。しかも敵である筈の、“蒼太”と“メリアリア”は無事だった、これだけでも簡単に結論は出たわ」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・二人を、確認したのか?」

「“遠隔透視”を使ってね。それも一瞬でバレて防がれたけど、それでも大まかな彼等の特徴は捉えたつもり」

 “もっとも”とシャーロットは続けた、“代わりに此方の存在を、教える事にもなったけど”と。

「どうするの?“メリー・ジェーン”・・・」

 シャーロット達のその言葉にメリー・ジェーンは告げた、“そのままそこで待機せよ”と。

「もし本当に、そこにいるのがメリアリアであるとするのならば。これは願ってもない大チャンスだ、怨敵でもあるセイレーンの主戦力を撃滅することの出来る千載一遇の、な。必要とあらば此方からも増援を出させる」

 “お前達は”と彼女は続けた、“そのままそこに留まったままで情報収集に努めるのだ”と。

「それ以外の事は好きにしていい。解ったか?シャーロット・・・」

「・・・・・」

 “解りました”と、一瞬の沈黙の後に“シャーロット”はそう応えた、それが“彼女”の意思ならば、それに従うことは吝(やぶさ)かではない。

「それでは今回の定時連絡を終わります」

「ご苦労だったな、シャーロット。まあ心行くまでゆっくりと“クールジャパン”を楽しんでおけ。ただ一応、断らせてはもらうがくれぐれも事件だけは起こしてくれるなよ?一般人は巻き込む等とはもっての外だがなにより。最近は官僚共が神経を尖らせていてな、特にアジアの一層の市場開拓の為にジャパン主導の“TPP”に参加したいのだそうだ」

「“EU”を離脱してしまいましたからね、代わりが必要なのでしょう。それに確かに中途半端に近代化が進んでその結果、歩調と意見の噛み合わないヨーロッパ諸国よりも、アジアの方が与し易しと踏んだのでしょうし・・・」

 “まあな”とシャーロットの放ったその言葉にメリー・ジェーンは応じるモノの正直な所、エイジャックスとしてみれば、いつ“金融危機”を迎えて共倒れするかも知れない“EU”の中にいるよりも目下の所急成長を遂げているアジア諸国に今の内からツバを付けておいた方が、将来何かと金になるだろうと予測しているのに加え、万が一にも雲行きが怪しくなって来た場合は再び、“TPP”からもさっさと離脱してしまえば良いのであって、いずれにしてもこのまま、“経済混乱”と言う名の“EU内でのゴタゴタ”に付き合わされているよりも遥かにマシな選択と言えた。

「何かあったら“大使館経由”で情報を入れてくれ。ただし“皇居”や“議事堂”には近付くなよ?さっきも言った通り余計なゴタゴタは引き起こしたくは無いからな、お前達はあくまで、与えられた任務だけ遂行してくれればそれでいい。では引き続き、良い休日と任務を。・・・Over!!」

 そう告げると今度こそ本当に“メリー・ジェーン”は通話そのものを打ち切ってしまい、凡そ五分ほど続いた本国との意思疎通の為の交信はここに、その完全なる終了を迎えるに至った、後に残されたのは“プーッ、プーッ”と言う無機質な音だけでありそれを何度か中耳内部から三半規管にまで谺(こだま)させた後で、“シャーロット”もまたスマートフォンを耳から離して下に履いていたハイウェスト・スキニー・デニムの右ポケットの中へと押し込む。

「知っています?ルクレールさん。ジャパンの女子達はこう言う場合、バックの中へとスマートフォンをしまうそうですよ?」

「それを言ったらエヴァリナ、世界中の女子達はそうしてるんじゃない?私だって普通はそうしてるし・・・」

 そう返すと“ルクレール”と呼ばれた女性は長い金髪を風に棚引かせながらそれを少しだけ掻き上げるような仕草を見せるが、そんな彼女の事を、“エヴァリナ”と言う名の少女はクスリと微笑みつつも、それでも穏やかな眼差しで見つめていた。

 二人の背丈は、白人にしては(と言うよりもエイジャックス王国人としては)それほど高い方では無くてルクレールは162・5cm、エヴァリナに至っては157・5cmと、正直な所日本人女性のそれとそれほど大差の無いモノではあったがしかし、それでも二人ともメリアリアとほぼ同じか、それ以上の大きさを誇っていた。

 ルクレールはややメッシュブラウンに近い軽めのダークブロンドのストレートロングにアイスブルーの瞳をした、所謂(いわゆる)“北欧系美人”な顔立ちをしている女性であり、一方のエヴァリナはフェミニンなゆるウェーブの長い黒髪に黒い瞳、そして優しい感じのする美少女だった。

 二人とも日本の事は諸外国の中でもお気に入りの一つであり、しかもその中においても行ってみたい国ベスト3に入るほどの熱意と憧れを持っていたのだ。

「せっかくジャパンにまで来たんですもの、少しはこの国の“オタク文化”と言うモノを満喫しなくてはね」

「食べ物とかコスメなんかもです、ルクレールさん」

「そう、それ!!」

 とエヴァリナの言葉に対してルクレールはやや興奮したような面持ちで彼女へと向き直る。

「日本のファッションやブランドって、とってもキュートでクールなモノが多いの、本国では買えないようなオシャレなバックとか服とか。いっぱい見て回りたいな!!」

「もう、ルクレールさんてば・・・!!」

 先輩の見せるその表情に少しだけ呆れながらもエヴァリナはそれでも自身も高揚しているのだろう、少しだけ興奮気味に応える。

「私達は仕事で来ているんですよ?それを忘れないで下さいね・・・」

「大丈夫よ、エヴァリナ。“マーガレット”からもちゃんと許可を得ているから。だからさ、ね?」

 “行きましょう?”と告げるとルクレールはスタスタと、一番近場にある駅である京王線の、“千歳烏山駅”へと向かって歩を進ませ始めた、ちなみに彼女の本日の行き先は“渋谷”、“原宿”でありそこでファッションブランドやスイーツを堪能するつもりである。

「はあぁ~・・・」

(もう・・・っ!!)

 与えられた任務を果たすより先にまず、オシャレと食べ物へとその矛先を向けまくっている先輩の後ろ姿に思わず溜息を漏らしながらも、それでも自身も逸る気持ちを抑えきれずにいたエヴァリナは、足早にその後を追っていった。
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