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運命の舵輪編
因縁との対決
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読者の皆様、こんにちは。
いつもいつも小説を読んで下さいまして誠に有難う御座います、ハイパーキャノンと申します。
今日は皆様方に少しだけ、お話がありまして筆を執らせていただきました、どうか最後までお付き合い下さいませ。
皆様方は“妖精”と言う存在を御存知ですか?
そうです、よく西洋のファンタジーな小説や世界等で登場する、ファンシーな存在のアレです(一般的には“ピーターパン”に出て参ります、“ティンカー・ベル”等がお馴染みなのかな、等と思います)、ただし。
ちょっと調べさせていただきました所、面白い事が解って参りました、と申しますのは実際の妖精と言うモノは、日本で言う所の“妖怪”に近い存在なのだそうです(皆様方が一般的に描く妖精、即ち“ティンカー・ベル”のイメージはどちらかというと、“シルフ”や“ニンフ”、“ウンディーネ”等に近いそうで、こちらはそれぞれシルフが“風の精”、ニンフが“木々や花、岩や水等に宿る自然の精霊”、そしてウンディーネが“水の精”となっております)。
今回のお話しでは、そうした“妖精”の中でも取り分け強力な力(妖気、妖力)を持った存在が登場(と言うよりも顕現)するのですが。
良い機会ですのでもう少しだけ、話を進ませていただきたいと思っております、どうかもう少しだけ、御容赦下さいませ。
改めまして皆様方にお聞きしたいのですがよく、“RPG”や“アニメーション”の世界等では“妖怪”ですとか“モンスター”、あるいは“魔物”と呼ばれる存在がウジャウジャと出て来ますけれども(もっともその大半が、可愛らしくデフォルメされてはいますけれども)そもそも論として、皆様方は“妖怪”とか“魔物”とはなんなのかを御存知でいらっしゃいますか?
結論から先に申しましょうか、彼等は自分の“本当の親”を、なによりその親から延々と迸り続ける無限の愛の有り難みを、更に言わせてもらえば自分がその親の祈り、願い、思いを最大限に凝縮されて生み出された愛の結晶である、と言う事を見失ってしまった、もしくは“忘れてしまった”存在のなれの果て、行き着く先の姿なのだそうです。
ちょっと広大すぎる話になってしまいますけれどもそもそも、この世もあの世も含めて“存在している全てのモノ”は、その大元たる宇宙の根源(ごめんなさい、皆様方。これについてはこう言う風にしか申し上げる事が出来ないのです、それは例えるのならば、“神々を超えた神々をも生み出した、全ての始原にして根源なる神”、または“確かなる愛の大元”であり“尽きる事無き光の根源”。そう言う風にしか、呼び表す事が出来ないのです。ちなみに地球の科学者達はその存在を“サムシング・グレート”即ち“偉大なる何か”と呼んでいるそうですがこれは、決して宗教やオカルトの話ではありません、と申しますのは量子力学や物理学の研究者達の中には、“超絶なるマクロの宇宙、または逆に恐ろしい程に緻密で精妙な世界においては、観測すればするほど、真理が明かされれば明かされて行く程に、宇宙全体を通して何か、“偉大なる法則”が存在しており一見、自由乱雑に動き回っている量子や素粒子等はその実、精密にそれに従って振動、回転を繰り返しており、そして更に言ってしまえばそれらを束ねている、もしくはそれらを創造して全てを縛り、倫理と区別を構築させた“何か”が存在しているとしか思えない、と言う発言、発想をしておられる方々が多いようです。また中には“やや哲学的な表現だな”と思われる方も、いらっしゃられるかも知れませんが元々、科学と哲学とは表裏一体の関係でした、その当時はですから、そう言った学問の一環として様々な“魔法”や“錬金術”等も真剣に議論、研究の対象となっていたようです)によって創造された、と言われています。
宇宙は命を吹き込む際に、例えば犬なら犬、猫なら猫、と言った具合に、その存在にもっとも相応しい形をイメージして、己の持てる能力と愛と思いの全てを込めて創造をおこないました、つまり形在るもの、また霊なる者と言うのは全て、宇宙からの愛の顕現、その愛の結晶なのです(それもそのものにもっとも相応しいとされる、バランスの取れた愛の形が選ばれている訳です)。
そしてその最たるモノが人間でした、強すぎず弱すぎず、早すぎず遅すぎず、しかし鍛えれば鍛えるほど、進歩すればするほどに無限の力を発揮して行ける存在であり、可能性の光を放つ事が出来る存在、そしてなによりかにより“宇宙の大元”の分身である“不滅なる霊性”、即ち“魂”からの受信装置である“脳みそ”を、他の存在に比べてフレキシブルに活用する事が出来る存在なのです(特に神経伝達系や大脳新皮質系は人間の方が断然に複雑で進化しているようです。これについては科学者達の見解は一致しており、ただしそれから先の細かい部分についてはある人は“全く違う、人間の方が複雑で完全に進化している”と言う方もいらっしゃいますし、または“ほんの0.2%とか0.3%程度の違いでしか無い”と言う方もいらっしゃられるようですがしかし、いずれにしても“動物に比べて人間の方が脳の働きや形態が確かに進化しており複雑である”との認識、事実で間違い無いようです。そしてこの僅かな差こそが、ただ本能にのみ従って生きる“動物”と、愛を識り、己の内外に存在している様々な感覚を受け止めて行動できる人間との、決定的な“差”なのです。つまりは人間はより高い霊性を兼ね備えている、“霊的”に進化した存在だと言うことです)、つまり霊的な意識やエネルギーを受け止めてそれを己の糧にし学び、この世に広めて顕現して行くことが出来る存在として生み出されたのが人間だったのです(それは例えば“芸術”ですとか“造形”、または“武術”等に見られる、己を磨いて高め合う“求道精神”等がそうですし、その他にも“恥じらい”や“勇気”と言った感情、概念、特に“許し合う”と言う行為がその最たるモノと思われますが、いずれにしてもそう言った精妙かつ精密な感性を働かせ、更にはその創造性を肉体を通して表現する事は、存分に表現し切る事は他の動物には決して出来ません)。
またこれは、宗教の話になってしまうのですけれども、皆様は“旧約聖書”を御存知ですか?そこには“人間は神の姿を模して創られた”とハッキリと書かれています、即ち人間とは本来、他の動物とは一線を画している、まさに“神”と言う究極の愛の顕現そのものに他ならないのです。
そしてだからこそ、なのですが。
それを乱す、と言うことは即ち、愛そのものを乱す、もっとハッキリと言ってしまえば宇宙から定められた愛の形を、そのバランスを崩す、と言うことになるのです、それらを否定すると言うことになるのです。
神、あるいは宇宙が創ってくれた“愛”を、そしてその際に迸らせてくれたであろう愛の波動を自分勝手に改変して傷付け、無くしてしまう、と言う事なのです(ちなみにここの所、最新の研究の結果として“ダーウィンの進化論”に付いても様々な憶測や意見が出されるようになってきているのです、曰く、“進化論にはそもそも無駄と矛盾が存在しており完璧な論理ではない”とか“あれはそもそもが盗作論文であって、決してダーウィンが自ら調べて纏めたモノでは無いのだ”、との事です)。
そしてそんな事を続けていった人はどうなるのか、と申しますと、やがては己を見失い、愛を見失い、忘れてしまう、と言うことに繋がるのです(もっともこれに付きましては、他にも理由が御座います、例えば明らかに度を超えた、それも我を忘れてしまう程の怒りや憎悪に長い間取り込まれ続けて最後には自分を見失ってしまう、ですとか、或いはもう、怒りや憎しみばかりになってしまい、“自分が何者であったのかも思い出せなくなってしまう”と言う事もあるそうです)。
そしてそれこそが“妖怪”、“魔物”と言われている存在の、真なる姿なのです(だから彼等の多くは、人間の形をしておりません。また中には一応、人間に近い形状をしている者もいるようなのですがしかし、それとて所詮はまやかしに過ぎません。何故ならばどんなに人間らしく“見せてはいても”、その姿は結局は獣だったり異形だったり。酷いものになるとそもそもの、原型すらも止めていない場合すら存在していますがそれは、要するにそう言うことなのです)、そしてそんな連中が、“愛”について理解していると思いますか?それについて語り合えると思いますか?
そう言う事でございます。
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蒼太とメリアリアが再会してから九ヶ月が経過しようとしていた、晩秋の暮れ頃に、ある一つの事件が起きた、それは過去からの挑戦状であり、もしくは因縁の清算そのものであった、と言って良かった。
その日。
久方振りのオフだった二人はいつものように、昼の少し前に近所のスーパーにまで、買い物へと出向いていたモノの、その帰り道で。
「・・・・・っ!?」
「・・・どうしたの?蒼太」
「・・・いいや、何でも無い」
「・・・そう?それなら良いのだけれど」
それまで心底楽しそうに、恋人との会話に楽しそうに花を咲かせていた蒼太が突然、立ち止まると怪訝そうな面持ちとなり、周囲を見渡し始めるモノの一瞬、彼は何かの“気配”というより“視線”のようなモノを感じてそれに反応したのだ、しかし。
「・・・・・?」
(おかしいな・・・)
「・・・蒼太?」
「ごめんね、何でも無いよ・・・」
キョトンとした表情を向けて尋ねて来るメリアリアの言葉にそう応えると、蒼太は訝しがりながらも再び彼女と連れたって、その場から歩き始めるモノの、それでも。
「・・・・・っ!?」
「・・・蒼太?」
そこから少し離れた場所まで歩を進めると、その場で再び立ち止まっては周囲を注意深く見渡して行くモノの、しかしその目の前にはいつもと同じ様な、コンクリートの無機質なビル群が、あるいは少し年季の入った個々の家々が建ち並んでいるだけであり別段、普段と変わりがあるようには決して見受けられなかった、だけど。
「・・・・・」
(おかしい、何かがおかしいな・・・)
「・・・蒼太!!」
その普段と同じ日常に彼は、並々ならぬ違和感を感じていたのであり、そしてそれはメリアリアもまた同様であった、ここに来て彼女も何かを感じ取り始めたらしく、買い物袋を手に持ったままでそれでも、周囲に向けて油断無く身構えるが、すると。
「・・・・・っ!!」
「お前は・・・っ!?」
「・・・こんにちは、お二人さん」
「久しいな小僧、そして小娘!!」
周辺の空が暗転すると同時にその辺り一帯が“異空間”へと変貌を遂げて行き、街からは車の音も、人々の喧騒も、そしてなにより彼等によって放たれる活気そのものが、全く感じられなくなってしまった、代わりに。
二人の目の前に現れたのは忘れもしない難敵であり、少年の頃に何度か矛を交えた相手、カインとメイルの二人組であったのだ。
「・・・・・」
「こんなところまで、追ってくるなんて・・・っ!!」
少し戸惑いのような表情を浮かべるメリアリアに対して蒼太はあくまでも冷静なままで、ただし何かあった場合、直ぐにそれに対応できるように全身と周囲とに神経を張り巡らせながら、彼等に対峙していた。
「こっちの世界で六年ぶりくらいか?随分とデカくなったな、小僧」
「あなたも、綺麗になったわねメリアリア。見違えたわ」
「・・・・・」
「・・・そちらこそ。というよりも」
と沈黙を守ったままで、二人を睨み付けているメリアリアに代わって蒼太が口を開いた。
「“生きていらしてたんですね”、お変わり無さそうで何よりですよ“クロードさん”、そして“ルキナさん”・・・」
「・・・・・っ!!」
「なんですって・・・っ!?」
「ええ・・・っ!?」
“蒼太!?”と恋人からのその言葉に流石に驚きの表情を浮かべてその眼差しを顔ごと、恋人へと向けるメリアリアであったが蒼太はあくまでも無表情のままで、カインとメイル、否、“クロード”と“ルキナ”へと、その肉体ごと対峙していた。
「クロードと、ルキナ・・・ッ!?」
「へえぇ・・・」
「よく見破ったな小僧、やるじゃないか・・・」
そう言ってどこか悪戯っぽくも懐かしそうに自嘲する二人だったが確かに、彼等こそはかつて、蒼太とメリアリアとが揃って所属していた帝室直属の高等呪術戦士隊“セイレーン”を一連の苦悩と混乱の只中へと陥れた張本人達であり、そして尚かつ、蒼太とメリアリアが一時とは言えども離れ離れになってしまう、その“遠因”を創った中心人物であったのだ。
「・・・でも確か、クロードさんは」
「・・・毒を飲んだんじゃ、無かったの?」
「まあ、それはね?」
「飲んださ、確かにな」
蒼太とメリアリアからの問い掛けに対してメイルはさらりと渇いた笑いを浮かべ、一方のカインは“それも明らかに致死量のやつをな”と瞳を閉じ、やや俯き加減となりつつも静かに語り始めるモノの実はその時、彼が飲んだ“毒”と言うのはかつてカインが“エルヴスヘイム”の戦闘において格闘少女ミリスによってその肉体に流し込まれたモノと“基本的には”同種であったため、それに対するある程度の“抗体反応”が出来上がっていたのである、そしてそれ故に。
一時確かに、仮死状態となり心臓は何度か停止したモノの、その後に息を吹き返したのであり、そしてその事がカインをして、彼を生き長らえさせる結果となった、“彼の死体”を確認したセイレーンの捕縛班はそれを直ちに“司令室”へと報告すると同時に回収して更には、こちらは生きたままで捕縛に成功していた“ルキナ”共々、連絡を受けて迎えに来ていた彼等の上部組織に当たる“ミラベル”の、その警護回収係へと確かに引き渡しを完了させていたのであるが、しかし。
問題はその途上で起きた、クロードとメイルの二人から、この日の為にと予め協力要請を受けていた、彼等の受け入れ先の組織、“レウルーラ”の幹部達数名が護送車を襲撃して二人を奪い去ってしまったのだ、そしてそのまま。
用意していた自分達の車に乗せると猛スピードで本拠地のある、“エイジャックス連合王国”、その首都“ロンディニウム”へと向けて、決死の逃亡劇をスタートさせた訳であるがその途上、ルキナ(メイル)は悲しくていたたまれなくなり何度となくクロード(カイン)の遺体に泣き付いたり、涙ながらに揺さ振ったりしていたモノの、その際の衝撃と自動車の車内の振動とが彼の息を吹き返させる結果となって、そのまま。
レウルーラの本部にまで護送されたクロードはそこで蘇生の為の緊急手術と大々的な回復魔法の儀式とを受けさせられる事となり、そしてその結果として彼はギリギリの所でこの世に踏み留まる事が出来たのである。
「お陰様でなんとか、一命は取り留めてな。その後は身体の復調を見ながらもう一度、自分を一から鍛え直していた、と言うわけさ」
「レウルーラの拠点内には、かなり本格的な魔法や剣術のトレーニングが出来る設備が整っているのよ?そこには優れた魔法使い(ハイウィザード)や“マスター・ナイト”の称号を持つ猛者達もいて刺激と鍛錬には事欠かなかったわ」
そう言うと二人は一気に、己の内側に秘めたる力を解放して見せるがその途端、彼等を中心として周囲に剛風が吹き抜けて行き、力強い活力に漲っているカインとメイルの姿が顕現されていた。
「・・・・・」
「く・・・っ!!」
「ふふふ・・・っ!!」
「どうだ?小僧、小娘。お前達も確かに、あの頃から相当成長しているようだが・・・。それでも今の我々とは比ぶべくも無いぞ?」
「・・・力の差は歴然ね」
カインとメイルは、ハッキリと余裕の表情を浮かべながらもそう告げるモノのそれでも、だからと言って見逃してくれる意思などは微塵も無い様子であり、カインは利き腕に剣を、そしてメイルは同じく利き腕にメイスを握り締めて装着し、戦闘準備を整える。
「どうする?小僧、小娘・・・」
「撤退したいのならば、お好きにすればよいけれども・・・。勿論それを指をくわえて見ているつもりは無いわ」
そう言いつつも二人は一歩、また一歩と徐々に距離を詰めて来るモノの、対して。
蒼太とメリアリアは、その場から微塵も動こうとはしなかった、それどころかこちらも、どこか他人事と言うか、ある種の余裕の表情を浮かべたままで相変わらずに、彼等に向けて対峙していたモノの、遂に。
「メリー・・・」
「ん・・・」
とようやくにして蒼太がハァッと溜息を付きながらも口を開くがその顔にはやや自嘲気味と言うか、何やらうんざりしたかのような色が浮かび上がっており、それを見ていたメリアリアも思わず“クスり”となってしまう。
「ようやくにして、買い物が終わった所だって言うのにね・・・。でも良いか!!」
“決着を着けよう、因縁に!!”と言う彼の言葉に“ええ”と不敵な笑みを浮かべて頷くと、二人も自分達の持ち合わせている能力を、“戦闘モード”で解放して見せた、すると。
「うおぉぉっ!?」
「きゃあぁぁっ!!」
思わずカインとメイルが衝撃に対して身構えつつも叫ぶがその瞬間に、蒼太とメリアリアの全身からは猛烈なオーラの突風が発生して刹那の間に二人の間を駆け抜けて行った、その波動の強さと密度の濃さとは圧倒的なモノであり到底、カイン達が敵する所では、間違い無く無かったのである。
「うう・・・っ!!」
「バ、バカな・・・っ!?」
「“力の解放”は、終わったけれども・・・」
「・・・まだ続けるつもり?」
思わずたじろぐカイン達に対して蒼太とメリアリアはゆっくりと、それでいて力強い足取りで逆に二人へと向けて歩を進ませて行くモノの、その全身からは強力なオーラのみならず、己自身に対する絶対的な信頼に裏打ちされた、非常に強固な安心感と落ち着いた闘気とが迸しっており、その双眸にも確かな光が宿っていた。
「あうぅぅ・・・っ!?」
「こ、これほどとは・・・っ!!」
「気圧されてますね、“クロードさん”・・・」
「“女王位”を、余り舐めないでくれる・・・?」
確実に距離を縮める蒼太とメリアリアに対してカインとルキナは堪らずに、後方に大きく跳躍して間合いを取り直し、改めて二人に向き直るモノのその顔には対照的に動揺が広がっており、呼吸も多少、乱れ気味であり全身もやや萎縮してしまっていたのだが、しかし。
「・・・やるじゃないか、小僧、小娘。正直言って侮っていたぞ」
「ここまでの力を、身に付けているとはね・・・」
その表情にはまだ、どこか余裕があり、眼差しも死んではいなかった、それどころか。
「・・・・・っ!!」
「・・・・・っ!?」
蒼太とメリアリアが、ここに来て初めて警戒の色を滲ませるが何と二人の全身からは、それまでとは明らかに感覚の異なる異質なオーラが発現し始めており、そしてそれは徐々に強いモノとなってみるみる内に彼等の波動と同調して行く。
やがてー。
それは一種の“力場”を形成して行き、そしてその中心点に存在していたカインとメイルの姿が怪しい光に包まれながらも変貌して行った、そしてそれが収まった時にはー。
そこには見たことも無い異国の、いいやもっとハッキリと言ってしまえば“異世界風の”高貴なローブと装束とに身を包んでいる、カインとメイルの姿があった。
「・・・・・っ!!」
「それは・・・っ!!」
「ふうぅぅ・・・っ。待たせたな」
「申し訳無いのだけれども・・・。何しろ“模擬戦”を除いたら、“この姿”で闘うのは今回が初めてなモノだからね・・・」
そう告げると二人は改めて、蒼太とメリアリアとに向き直るモノのその時の二人から発せられる気配は、今まで蒼太達が感じて来た、どの気配とも異なっていた。
否、正確に言うのならば蒼太には何度か覚えがあった、それは彼が相手にしてきた“人外の化生”、所謂(いわゆる)妖怪、“モノノケ”と呼ばれる存在の放つ波動に酷似したモノだったのだ。
「・・・・・」
「その姿は、一体・・・?」
「まあ解らなくとも無理は無いわな」
「あなた達には余り馴染みの無い存在の力を借りたモノだからね・・・」
少し得意気に笑いながらもそう告げると、カインとメイルは一息付いてから自分達の姿に付いての説明を開始した。
「まず言っておくが・・・。俺のこの姿は“オーベロン”、妖精王オーベロンだ」
「そして私はその妻にして対となる存在、“タイターニア”よ」
「妖精王・・・?」
「聞いた事があるわ・・・」
訝しがる蒼太に対してメリアリアが補足的な説明を施してくれたがそれによると、オーベロンはガリア帝国の源流ともなった、かの伝説的な王朝である“メロヴィング朝”の名祖“メロヴィクス”の、そのまた“異世界での兄弟”である“アルベリヒ”の事だと言い、更に言うのならばその正体は非常に優れた魔術師だった、と言うことであった。
このオーベロンは普段は森の奥深くに住んでいて時折、人々の前に姿を現しては奇々怪々な妖術や魔法を駆使してある時は彼等を惑わし、またある時は助け、その正体も心根も良く解らない、ハッキリと言ってしまえば謎の存在であった。
そんな彼には“妻”がいた、それがタイターニアであり、彼等は強い魔力を持っていてその気になれば気象をある程度までは、操る事が出来た、とされているモノの、そんな存在の力を借りる事が出来るまでに己を高めていようとは。
「なるほどね、“妖精王”か・・・」
「ちょっと厄介に、なっちゃったかも・・・」
蒼太とメリアリアが、それでもこちらを油断無く見据えつつも話しをしていると、不意に蒼太が彼女を抱えてその場から跳躍した、次の瞬間。
ドゴオォォッと音がして爆発が起き、見ると直前にまで二人が立っていた場所が大きく抉れているではないか。
「・・・・・っ!!」
「な・・・っ!!」
「へぇ・・・っ!?」
「んん・・・っ!?」
(早い・・・っ!!)
蒼太とメリアリアは驚きの表情を浮かべ、それとは対照的にカインとメイルは興味深そうなモノを見るようなそれを向けるが相手側の内、特に蒼太と言われる青年が、一瞬の間に見せた動作は、“妖精王化”している筈の二人に取っても予想外のモノだったのであり、注目に値する。
(“身のこなし”が素早くて動作を知覚し切れなかった、が)
(決して、追えない速さでは無いわ。だけど・・・)
めいめいに、カインとメイルは考え込むモノの二人の気に掛かったのはむしろ、その無駄の無い素早さそのものよりも蒼太の見せた、自分達の攻撃が放たれる直前の一連の反応だった、と言うのはあの時、彼はこちらが行おうとしていた攻撃を一瞬早く、それも正確に予測して回避運動に移っていたかのように見受けられたからだ。
「なんなんだよ、ありゃ・・・」
「そう言えばあの坊や。私達が“この世界”へと連れ込む前にも、何かを感付いていたみたいだったけれども・・・っ!?」
二人の会話が途中で途切れ、今度は彼等が地を蹴ってその場から己を離れさせるがカイン達が言葉を交わしている内に着地した蒼太はそれと同時に反撃を行ったのであり、その正体は不明であるが、とにかく恐ろしい程の速さと勢いとを持った“何か”を、彼等目掛けて撃ち放って来たのだ。
「うおぉぉっ!?」
「ひゃあっ!!」
とやや驚愕の声を挙げつつも、それでも二人はそれを事も無げに回避して見せると再び、カインはさっきと同じ“攻撃”を繰り出して見せたがそれは、自身の持てる力場の一部を両目の眼前に集約させて、それを更に“裂破の気合い”で撃ち出しては相手へと叩き付ける、と言う非常にシンプルかつ、実用的な技だった、何しろ発射されるまでのタイムラグが殆ど無い上に、その動作も極めて限定的なモノでしかなく、攻撃の際の見極めが、非常に難しい技だったからだ。
それを蒼太はメリアリアを抱えたままで高速移動と跳躍とでまたもやキッチリと回避して見せたのだがやはり、その時もカインがエネルギーと気合いとを集約させる僅かな時間の内に彼はその場からの移動を開始していたのであり、もはや蒼太が攻撃を事前に読み切っては素早くて隙の無いその身のこなしで対応している事は、疑いの無い事実であった、しかもその上。
「ぐわっ!?」
「ちょっと、大丈夫?」
再び自分達へと向けて放たれた“それ”を寸での所で避ける事には成功したモノの、それでも多少の狼狽えが出てしまった恋人の事をメイルが心配して声を掛けるがその時は、蒼太はただ単に攻撃を避けるだけでは無くて、回避と同時にカウンターを放っていたのでありそれがカインの至近距離を掠(かす)めたのだ。
「なんて攻撃を、放って来やがる・・・!!」
「えげつない坊やね・・・」
カインとメイルが呻いている所へ持って来て再び、蒼太がエネルギー波を撃ち放って来るモノの、3発目にしてようやく、その正体がカイン達にも理解出来るようになってきたのだがそれは、自分自身の掌(てのひら)の中に球体状に極限まで圧縮された極大の“真空呪文”を、それまた“光速”に近い速度で打ち出すのであって確かに、これならば例え初級の真空呪文であってもその貫通力と破壊力(より正確には“法撃初速”と“殺傷力”と言い換えても良いが)は極限まで高いモノへと跳ね上がる訳であってこちらも、そのスピード等から回避は極めて困難だった。
「ちいぃぃ・・・っ!?」
「あの坊や、いけない大人になっちゃったわね・・・っ!!」
カインとメイルはお互いにそう声を掛け合いつつも、蒼太から二人へと向けて次々と放たれてくる“光速真空呪文”の圧縮された砲撃を、必死に回避して行くモノの気が付けば彼等はまだ、何もしていない内からいきなり劣勢に追いやられてしまっているのであり、これでは変身をした意味が全く無かった。
「このままじゃ、不味いわね・・・っ!!」
「・・・小僧っ!!」
“いい加減にしておけよ”と、カインは激昂すると同時に回避を続けて徐々に徐々に、蒼太とメリアリアから距離を取っていったのだ、そしてー。
それと同時に、二人に気付かれ無いようにと注意をしつつも、自身の周囲の空中へと向けてその不可思議な魔法力(もうこの時の、“オーベロン”と化していた彼の力はいっそ“妖気”、“妖力”と言った方が良いのかも知れないのだが)を拡散、充満させて行った、やがて。
それはその辺り一帯の天球を覆い尽くす、妖力で出来た無数の剣となって、しかもその切っ先は全てが、蒼太とメリアリアとに向けられたままの状態で空中に静止していたモノの、一方で。
「・・・・・?」
「あれは・・・・っ!!」
13発目の攻撃を撃ち放った時点で蒼太は、自分達を取り囲むように充満している、空気中の妖気に気が付き、カイン達に意識を向けながらも上空へと視線を移すがそこには今まさに撃ち放たれようとしている濃厚なる妖気の集約されて出来た無数の剣の姿があって、それは恐らくは鉄でも岩でも貫通する程の鋭さを持っている事が感じられた。
「見たか小僧っ、お前の快進撃もここまでだっ!!」
「その上更にっ!!」
とカインに続いてメイルが叫ぶと、彼女もまた空中へと向けて熱波の塊の様な、“燃える妖気”を迸らせるがするとそれは天球へと至った瞬間、幾重にも渦を巻きながら、全体へと拡散して行き、そしてそれが姿を消す頃には、妖気で出来た剣全体が激しく燃えあがるような炎をその身に纏っていたのだ。
「どうかしら?私達の“合体妖術”は!!」
「合体技はな、何もお前達だけの専売特許じゃねーんだよ!!」
天球を見上げる蒼太達に対してカインとメイルはそう告げると、二人はバッと上空目掛けて手を翳してそのままー。
それを一気に、二人目掛けて振り下ろした、瞬間。
それまで遙かな上空で滞空していた無数の燃える炎の妖剣が、一斉に蒼太とメリアリアへと向けて、一直線に殺到し始めたのであり如何に蒼太が素早く動こうとも、またメリアリアが自身の扱う“純潔の証たる茨と刺の聖鞭”へと無限に煌めく太陽の、その高く激しく燃え盛る光炎を伝わらせて打ち撓(しな)らせようとも、その全てを叩き落とす事は甚だに困難であった、と言う他無かったモノの、しかし。
「・・・・・」
「ふ・・・っ!!」
メリアリアは全く動じておらずにその瞳はどこか冷たいままであり、蒼太に至っては些か自嘲気味と言うか“やれやれ困ったな”と言うかのような、余裕の笑みすら溢していたのだが次の瞬間、彼はー蒼太は右手に幾つかの小さな“光弾”を出現させると、それを空へと向けて投げ放った、するとー。
それは1秒と経たない間に数百メートルを疾走してそこで一気に“パアァッ”と弾け、それと同時にその場所には黄金色に光り輝く、“法力の膜”のようなモノが展開して行き、二人の頭上を完全に覆い尽くした、やがてー。
“妖炎の剣”達がそこへと激突した瞬間に無数の爆発と音と光が彼方此方から巻き起こってはその輝きが二人を、そしてカインとメイルを照らし出すモノのそれは“光風の繭”と呼ばれる、防御用に開発された蒼太の新たなる法術であり自分達に向かって放たれて来る数多の魔法や弾丸を、全て纏めて防ぐことが可能な非常に優れたモノであった、しかも。
「・・・・・っ!!?」
「な、なんだよ。ありゃ・・・っ!?」
それは蒼太の意思一つでいつでも攻撃用に転換させる事が出来る代物であって、現にその時も蒼太は“妖炎の剣”が殆ど無くなるのを見て取ると、それでもまだ後方に停滞していた百本近いそれらに向けて一挙に、“光の法術”で出来たその膜を叩き付けて見せたのでありその結果、カイン達が苦労して出現させた妖気の剣と炎とは、何の成果も為さぬままに一つ残らず消滅し尽くしてしまったのである。
「・・・・・っ!!?」
「うそでしょ・・・っ!?」
これには流石のこと、カインもメイルも思わず呆気にとられてしまっていた、まさかこんな防御方法があるだなんて、そしてこんな防御方法を蒼太が持っていただなんて、予想だにしていなかったのだ。
「・・・やってくれるな、小僧」
「物凄いレベルアップを遂げたようね」
カインとメイルは改めて、蒼太とメリアリアへと向き直るがそこにはしかし、些かも“追い詰められたモノの放つ焦燥感”は感じられない、それよりも。
「ぬふうううぅぅぅぅぅぅ・・・っ!!!」
「ふあああぁぁぁぁぁ・・・っ!!!」
二人は更に妖気を高めてその姿をより本物のオーベロンとタイターニアへと変貌させて行くモノの、するとそんな彼等の変化に対応するかのようにして異世界そのものがより、その異質さを増していった。
空は赤と緑色の入り交じった不思議な紋様の波長で覆われ、それと同時に世界や景観から色彩が全て消え失せていった、遠くに見えるビル群や其処此処に佇んでいた家屋の連なりは、その全てが漆黒に覆われて行き、ただでさえ無機質だったそれらは今や、無秩序に立ち並ぶ卒塔婆塔の様な、一種の不気味さを放っていた。
大地からはその力強い確かさが失われ、木々や草花もその輝きを曇らせてしまい、心なしかグッタリとしてしまったような印象を受けるが、しかし。
「・・・・・」
(まだだ。まだ本物の“あれ”には遠いな・・・)
と蒼太はかつて、自分が飲み込まれてしまった異次元空間の事を思い出して来ていたモノのしかし、ここにはまだ天地の区別が有る上に上下の概念や運動の法則も一応は働いている、“トワイライトゾーン”そのもの、と言う訳では無さそうだ、と言う事は、つまり。
(・・・なるほど。“奴ら”は完全には、“妖精王”と“妖精女王”へと成り切る事は出来ないらしいな。あくまでもその身に妖気を纏わせて戦うのが主目的らしい)
“しかし”と、それでも蒼太は思ったモノの、確かにここはトワイライトゾーンそのものでは無いにしても相当に、そこに近い場所まで落とされてしまった事は間違い無いようだ。
今までは恐らく、異世界に包み込まれたとしても所謂(いわゆる)“表層部分”、もっと言ってしまえば“現実に近い局所的異空間”とでも言うべき場所で戦っていたのだろうし、それが故に連中を(例えばヴェルキナやカイン達のような)撃退する事に成功した場合は、その影響下から逃れる事が出来ていたモノと考えられる、しかし。
(ここは恐らく、底の底。いやもっとハッキリと言ってしまえば“トワイライトゾーンの表層”とでも言うべき場所なのだろうな。だとすると仮に彼等を討ち果たしたとしても、この世界から現実へと帰還する事は・・・)
“甚だ困難だ”と、蒼太は結論付けるモノの、現に先程まではそれでも、薄ぼんやりと感じることが出来ていた現実世界の雰囲気や波長が今や完全に断ち切られてしまっており、その気配や人々の、あるいは動植物の放つ活気を感じ取る事が出来なくなってしまっていた。
(この世界から帰還する方法はただ一つ。奴らを撃退した上で以前のように“神の力”を使う以外になさそうだけど、それをするには・・・)
「待たせたな小僧、小娘!!」
「これが私達の最終闘法、“妖精の世界”よ!!」
とそこまで考えた時にどうやら、限界までのパアーアップを終えたらしい二人が蒼太とメリアリアへと向けて声を掛けて来るモノの彼等は自信満々に言い放った、“お前達はもう終わりだ”と。
「確かに、お前達の力は素晴らしかった、ハッキリ言って想像以上のレベルだったよ、しかしな」
「この世界へと誘い込まれた段階で、貴方達はもう詰んだわ。だってもう、現実世界へと帰還する道筋が断ち切られてしまったんですもの!!」
「・・・・・っ!!」
「・・・・・」
(やっぱりね・・・)
カイン達が声高に叫ぶのを聞いて蒼太は、それでもやはり驚かなかった、その隣ではメリアリアが流石に、この状況下に唇を少し噛んではいるモノのやはり彼女も絶望はしていない。
ハッキリと言うモノの今、目の前にいる二人の放つ全力の妖力は自分達の本気の波動と殆どトントンと言った所だ、つまりこのまま戦えば、下手をすれば相打ちに持ち込まれてしまうかも知れず、そうなっては全く意味が無い、それに。
「・・・・・」
(守ってあげたい、メリーの事を!!)
“メリーだけは助けてあげたい”と蒼太は思うがその為には勿論、目の前の二人を撃破して尚かつ、この世界から無事に脱出してみせなければならなかったのである、そして。
現状、その為には方法は一つしか残されていなかった、自らの中に眠る神の部分と直結する事、所謂(いわゆる)“神人化”する事でありその能力である“神威”を発動させる事に他ならなかった、ただその為には。
「・・・メリー」
「ん・・・?」
「お願いがある・・・」
「・・・・・っ!!」
そう言うと蒼太はいつかのような覚悟を決めた凄絶な瞳と表情とを彼女に向けるがそれを受けたメリアリアは瞬時に彼の気持ちと真剣さを察した、つまり彼は自分にその存在と未来と命運の全てを託す、絶対に必要不可欠な“何か”を伝えようとしていたのだ。
「・・・いいよ蒼太、何でも言って。私、なんでも言うこと聞くから」
「・・・ありがとう」
その青空色の双眸に覚悟の光を宿しつつも、それでも尚も優しく微笑みながらも“もう他人じゃないのよ”、と心の底から言葉を掛けて来てくれる自身の最愛の恋人に、決死の思いを受け止めつつも、その願いに全身全霊で応えようとしてくれている魂の伴侶へと向けて、己の真幹から誠深たる感謝の意を表すと同時に蒼太は改めて彼女に事の次第と本題とを述べる事にした。
「“神人化”・・・?」
「そうだ、そしてその為には深く深く瞑想して祈りを捧げ、自分自身と対話をしなければならない、全感覚を、全集注力を注約させて“神の部分”と直結しなければならないんだけど、そのために」
“時間を稼いで欲しいんだ”と蒼太は紡いだ、つまり暫くの間、蒼太は殺気をギンギンに放っている難敵二人の目の前で完全に無防備になってしまうのであり、そしてそこを突かれてしまえば一巻の終わりである、そうなるのを避けるために。
“メリアリアに護衛をお願いしたい”と言う事であったのだが話を聞いたメリアリアは“なんだ、そんなこと”とニッコリと笑って彼氏に応えた、“幾らでも、やってあげるわ”とそう告げて。
「私が、貴方を守ってあげるわ。絶対に、絶対に・・・っ!!」
「・・・ありがとう」
とそれを聞いた蒼太はその場で思わず、メリアリアの事を抱き締めてしまった、自分の恋人はなんて可愛らしくて健気で優しい人なんだろう、なんて美しくていじらしくて、揺るがない人なんだろう!!
それはメリアリアの見せた、蒼太に対する絶対的な愛情の輝きそのものであり、そしてー。
決してブレる事のない、彼女の強さと確かさの顕現そのものであった。
「・・・・・」
「ん・・・」
そのまま蒼太は、メリアリアにソッと口付けを交わすと再び彼女と見つめ合い、微笑み合った、そうしてー。
“後は頼むよ”とそう告げると自らは後方に跳躍してそのままそこで立ち竦みつつ、両手を胸の前で合わせて静かにソッと目を瞑る。
「・・・・・」
(始まったのね・・・)
精神を集中させて己の中へと埋没して行き、一心不乱に祈り始めるモノの一方で、それを確認した彼女は自身はカインとメイルへと向き直り、その手に“純潔の証たる茨と刺の聖鞭”を握り締める。
「・・・・・?」
「小僧は、どうした・・・」
蒼太の思惑が理解できないカインとメイルは訝しがりつつも、それでも取り敢えず、メリアリアへの迎撃態勢を展開して行くモノのその時。
改めて彼女の姿を、その表情を確認した二人は思わずゾッとしてしまうモノの、それは全てを射貫くような、メリアリアの放つ恐ろしい程に冷たい輝き。
覚悟と決意を秘めた彼女の、その心根から迸りたる“有無を言わさぬ凄絶さ”、そのものの気迫であったのだが、特にメリアリアの場合は彼女が稀にみる、絶世の美女だった事がその強烈さに一層、拍車を掛けた、“美人の見せる底知れぬ凄み”とでも言えば良いのかも知れないのだが、それは一瞬、確実にカインとメイルの動きを封じてその心を、そしてなにより魂そのものを根底部分から凍り付かせたのだ。
「・・・・・っ!!」
「こ、小娘っ!?お前、一体・・・っ!!」
「・・・・・」
(お父さん、お母さん。ごめんなさい。私は“言いつけ”を破るわ、だって一番大切な人を、最愛の人を守る為だもの!!)
そう思うとメリアリアは自らに気合いを入れ直すと同時にその持ち合わせた呪文の中でも最大級の秘術を、否、もっとハッキリと言ってしまえば“余程の事が無い限り、決して使ってはならない”と両親からキツく言い含められていた、終の終たる終局奥義を発動させる事にした、即ち。
“絶対熱の極意”である。
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このお話の最後にちょこっとだけ出て来る“絶対熱”とはなんなのか。
それは所謂(いわゆる)“ビッグバン”によって宇宙が誕生した瞬間に(実際はそれよりも遥かに短い、“1プランク時間”と言う刹那の刹那のそのまた刹那の、本当に僅かな合間の時間に)、ちょこっとだけ顕現した温度である、とされています、ところが。
その温度は実に“14溝2000穣度”と言う凄まじい高温であり、しかもこの温度になると、物質を構成している最小の単位である原子や分子が、その余りの熱量の為に崩壊してしまいます。
即ち“絶対熱”とは単に物体を、“焼き尽くす”等と言う生易しいモノではありません、その存在ごと“消滅させてしまう”温度なのです。
実はこれは、かなり前から考えていた、メリアリアちゃん用のパワーアッププランでした、それが実装されるに至ったのにはやはり、“大人になって真の力に覚醒した蒼太君がとんでもなく強くなっている以上、彼と対の存在であるメリアリアちゃんもまたレベルアップさせなければならない”と感じたのと、もう一つが“アウロラ”の存在でした。
と申しますのは、彼女が使う“星震魔法”は発動されますと一気に“太陽が十万年~二十五万年掛けて放出するエネルギーとほぼ同等のそれを、僅か一瞬の間に放出し尽くす”ほどに強力なモノだからです。
元々、彼女に星震魔法を付加した理由は一つが“兵器や事件、事故等のいわくや暗い影の付いていない魔法を使わせてあげたい”と言うのともう一つ、“メリアリアちゃんが宇宙の力(光炎魔法、即ち“太陽の力”ですね)を使えるのならば、もう一人のヒロインである彼女もそうでなければおかしい”と言う風に考えたからです。
要するにヒロイン同士で見比べた場合のバランスを取るための処置だったのですが、ここに来てアウロラの方が、強くなり過ぎてしまいました、これではいけない、と言う事でもう一度バランスを取らせる為に、メリアリアちゃんにその最終奥義たる“絶対熱の極意”を身に付けさせた次第です。
メリアリアちゃんは次回でめちゃくちゃ活躍します(ハッキリ言って“無双”します)が、それは読者の皆様に、これを機会にメリアリアちゃんの本当の強さ(と言うよりも本気になった時の彼女の怖さ、恐ろしさ)を存分にお見せ致したく(今のままではまだ、読者の皆様方は、本気になったメリアリアちゃんがどれ程強いのかが解らないだろう、と思いまして)、それで今回の話の流れとなった訳です(勿論、蒼太君に付いても同様ですが、要するに成長した二人の強さや底力を、先ずは皆様に存分に見ていただきたいと思いまして、それで今回、その比較対象と致しましてもう一度カインとメイルをパワーアップさせて出させていただいた次第です)。
と言う訳で次回予告です、“灼熱”を遥かに超えた、“絶対熱”の世界を。
君は今、体験する!!(かも知れない)
いつもいつも小説を読んで下さいまして誠に有難う御座います、ハイパーキャノンと申します。
今日は皆様方に少しだけ、お話がありまして筆を執らせていただきました、どうか最後までお付き合い下さいませ。
皆様方は“妖精”と言う存在を御存知ですか?
そうです、よく西洋のファンタジーな小説や世界等で登場する、ファンシーな存在のアレです(一般的には“ピーターパン”に出て参ります、“ティンカー・ベル”等がお馴染みなのかな、等と思います)、ただし。
ちょっと調べさせていただきました所、面白い事が解って参りました、と申しますのは実際の妖精と言うモノは、日本で言う所の“妖怪”に近い存在なのだそうです(皆様方が一般的に描く妖精、即ち“ティンカー・ベル”のイメージはどちらかというと、“シルフ”や“ニンフ”、“ウンディーネ”等に近いそうで、こちらはそれぞれシルフが“風の精”、ニンフが“木々や花、岩や水等に宿る自然の精霊”、そしてウンディーネが“水の精”となっております)。
今回のお話しでは、そうした“妖精”の中でも取り分け強力な力(妖気、妖力)を持った存在が登場(と言うよりも顕現)するのですが。
良い機会ですのでもう少しだけ、話を進ませていただきたいと思っております、どうかもう少しだけ、御容赦下さいませ。
改めまして皆様方にお聞きしたいのですがよく、“RPG”や“アニメーション”の世界等では“妖怪”ですとか“モンスター”、あるいは“魔物”と呼ばれる存在がウジャウジャと出て来ますけれども(もっともその大半が、可愛らしくデフォルメされてはいますけれども)そもそも論として、皆様方は“妖怪”とか“魔物”とはなんなのかを御存知でいらっしゃいますか?
結論から先に申しましょうか、彼等は自分の“本当の親”を、なによりその親から延々と迸り続ける無限の愛の有り難みを、更に言わせてもらえば自分がその親の祈り、願い、思いを最大限に凝縮されて生み出された愛の結晶である、と言う事を見失ってしまった、もしくは“忘れてしまった”存在のなれの果て、行き着く先の姿なのだそうです。
ちょっと広大すぎる話になってしまいますけれどもそもそも、この世もあの世も含めて“存在している全てのモノ”は、その大元たる宇宙の根源(ごめんなさい、皆様方。これについてはこう言う風にしか申し上げる事が出来ないのです、それは例えるのならば、“神々を超えた神々をも生み出した、全ての始原にして根源なる神”、または“確かなる愛の大元”であり“尽きる事無き光の根源”。そう言う風にしか、呼び表す事が出来ないのです。ちなみに地球の科学者達はその存在を“サムシング・グレート”即ち“偉大なる何か”と呼んでいるそうですがこれは、決して宗教やオカルトの話ではありません、と申しますのは量子力学や物理学の研究者達の中には、“超絶なるマクロの宇宙、または逆に恐ろしい程に緻密で精妙な世界においては、観測すればするほど、真理が明かされれば明かされて行く程に、宇宙全体を通して何か、“偉大なる法則”が存在しており一見、自由乱雑に動き回っている量子や素粒子等はその実、精密にそれに従って振動、回転を繰り返しており、そして更に言ってしまえばそれらを束ねている、もしくはそれらを創造して全てを縛り、倫理と区別を構築させた“何か”が存在しているとしか思えない、と言う発言、発想をしておられる方々が多いようです。また中には“やや哲学的な表現だな”と思われる方も、いらっしゃられるかも知れませんが元々、科学と哲学とは表裏一体の関係でした、その当時はですから、そう言った学問の一環として様々な“魔法”や“錬金術”等も真剣に議論、研究の対象となっていたようです)によって創造された、と言われています。
宇宙は命を吹き込む際に、例えば犬なら犬、猫なら猫、と言った具合に、その存在にもっとも相応しい形をイメージして、己の持てる能力と愛と思いの全てを込めて創造をおこないました、つまり形在るもの、また霊なる者と言うのは全て、宇宙からの愛の顕現、その愛の結晶なのです(それもそのものにもっとも相応しいとされる、バランスの取れた愛の形が選ばれている訳です)。
そしてその最たるモノが人間でした、強すぎず弱すぎず、早すぎず遅すぎず、しかし鍛えれば鍛えるほど、進歩すればするほどに無限の力を発揮して行ける存在であり、可能性の光を放つ事が出来る存在、そしてなによりかにより“宇宙の大元”の分身である“不滅なる霊性”、即ち“魂”からの受信装置である“脳みそ”を、他の存在に比べてフレキシブルに活用する事が出来る存在なのです(特に神経伝達系や大脳新皮質系は人間の方が断然に複雑で進化しているようです。これについては科学者達の見解は一致しており、ただしそれから先の細かい部分についてはある人は“全く違う、人間の方が複雑で完全に進化している”と言う方もいらっしゃいますし、または“ほんの0.2%とか0.3%程度の違いでしか無い”と言う方もいらっしゃられるようですがしかし、いずれにしても“動物に比べて人間の方が脳の働きや形態が確かに進化しており複雑である”との認識、事実で間違い無いようです。そしてこの僅かな差こそが、ただ本能にのみ従って生きる“動物”と、愛を識り、己の内外に存在している様々な感覚を受け止めて行動できる人間との、決定的な“差”なのです。つまりは人間はより高い霊性を兼ね備えている、“霊的”に進化した存在だと言うことです)、つまり霊的な意識やエネルギーを受け止めてそれを己の糧にし学び、この世に広めて顕現して行くことが出来る存在として生み出されたのが人間だったのです(それは例えば“芸術”ですとか“造形”、または“武術”等に見られる、己を磨いて高め合う“求道精神”等がそうですし、その他にも“恥じらい”や“勇気”と言った感情、概念、特に“許し合う”と言う行為がその最たるモノと思われますが、いずれにしてもそう言った精妙かつ精密な感性を働かせ、更にはその創造性を肉体を通して表現する事は、存分に表現し切る事は他の動物には決して出来ません)。
またこれは、宗教の話になってしまうのですけれども、皆様は“旧約聖書”を御存知ですか?そこには“人間は神の姿を模して創られた”とハッキリと書かれています、即ち人間とは本来、他の動物とは一線を画している、まさに“神”と言う究極の愛の顕現そのものに他ならないのです。
そしてだからこそ、なのですが。
それを乱す、と言うことは即ち、愛そのものを乱す、もっとハッキリと言ってしまえば宇宙から定められた愛の形を、そのバランスを崩す、と言うことになるのです、それらを否定すると言うことになるのです。
神、あるいは宇宙が創ってくれた“愛”を、そしてその際に迸らせてくれたであろう愛の波動を自分勝手に改変して傷付け、無くしてしまう、と言う事なのです(ちなみにここの所、最新の研究の結果として“ダーウィンの進化論”に付いても様々な憶測や意見が出されるようになってきているのです、曰く、“進化論にはそもそも無駄と矛盾が存在しており完璧な論理ではない”とか“あれはそもそもが盗作論文であって、決してダーウィンが自ら調べて纏めたモノでは無いのだ”、との事です)。
そしてそんな事を続けていった人はどうなるのか、と申しますと、やがては己を見失い、愛を見失い、忘れてしまう、と言うことに繋がるのです(もっともこれに付きましては、他にも理由が御座います、例えば明らかに度を超えた、それも我を忘れてしまう程の怒りや憎悪に長い間取り込まれ続けて最後には自分を見失ってしまう、ですとか、或いはもう、怒りや憎しみばかりになってしまい、“自分が何者であったのかも思い出せなくなってしまう”と言う事もあるそうです)。
そしてそれこそが“妖怪”、“魔物”と言われている存在の、真なる姿なのです(だから彼等の多くは、人間の形をしておりません。また中には一応、人間に近い形状をしている者もいるようなのですがしかし、それとて所詮はまやかしに過ぎません。何故ならばどんなに人間らしく“見せてはいても”、その姿は結局は獣だったり異形だったり。酷いものになるとそもそもの、原型すらも止めていない場合すら存在していますがそれは、要するにそう言うことなのです)、そしてそんな連中が、“愛”について理解していると思いますか?それについて語り合えると思いますか?
そう言う事でございます。
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蒼太とメリアリアが再会してから九ヶ月が経過しようとしていた、晩秋の暮れ頃に、ある一つの事件が起きた、それは過去からの挑戦状であり、もしくは因縁の清算そのものであった、と言って良かった。
その日。
久方振りのオフだった二人はいつものように、昼の少し前に近所のスーパーにまで、買い物へと出向いていたモノの、その帰り道で。
「・・・・・っ!?」
「・・・どうしたの?蒼太」
「・・・いいや、何でも無い」
「・・・そう?それなら良いのだけれど」
それまで心底楽しそうに、恋人との会話に楽しそうに花を咲かせていた蒼太が突然、立ち止まると怪訝そうな面持ちとなり、周囲を見渡し始めるモノの一瞬、彼は何かの“気配”というより“視線”のようなモノを感じてそれに反応したのだ、しかし。
「・・・・・?」
(おかしいな・・・)
「・・・蒼太?」
「ごめんね、何でも無いよ・・・」
キョトンとした表情を向けて尋ねて来るメリアリアの言葉にそう応えると、蒼太は訝しがりながらも再び彼女と連れたって、その場から歩き始めるモノの、それでも。
「・・・・・っ!?」
「・・・蒼太?」
そこから少し離れた場所まで歩を進めると、その場で再び立ち止まっては周囲を注意深く見渡して行くモノの、しかしその目の前にはいつもと同じ様な、コンクリートの無機質なビル群が、あるいは少し年季の入った個々の家々が建ち並んでいるだけであり別段、普段と変わりがあるようには決して見受けられなかった、だけど。
「・・・・・」
(おかしい、何かがおかしいな・・・)
「・・・蒼太!!」
その普段と同じ日常に彼は、並々ならぬ違和感を感じていたのであり、そしてそれはメリアリアもまた同様であった、ここに来て彼女も何かを感じ取り始めたらしく、買い物袋を手に持ったままでそれでも、周囲に向けて油断無く身構えるが、すると。
「・・・・・っ!!」
「お前は・・・っ!?」
「・・・こんにちは、お二人さん」
「久しいな小僧、そして小娘!!」
周辺の空が暗転すると同時にその辺り一帯が“異空間”へと変貌を遂げて行き、街からは車の音も、人々の喧騒も、そしてなにより彼等によって放たれる活気そのものが、全く感じられなくなってしまった、代わりに。
二人の目の前に現れたのは忘れもしない難敵であり、少年の頃に何度か矛を交えた相手、カインとメイルの二人組であったのだ。
「・・・・・」
「こんなところまで、追ってくるなんて・・・っ!!」
少し戸惑いのような表情を浮かべるメリアリアに対して蒼太はあくまでも冷静なままで、ただし何かあった場合、直ぐにそれに対応できるように全身と周囲とに神経を張り巡らせながら、彼等に対峙していた。
「こっちの世界で六年ぶりくらいか?随分とデカくなったな、小僧」
「あなたも、綺麗になったわねメリアリア。見違えたわ」
「・・・・・」
「・・・そちらこそ。というよりも」
と沈黙を守ったままで、二人を睨み付けているメリアリアに代わって蒼太が口を開いた。
「“生きていらしてたんですね”、お変わり無さそうで何よりですよ“クロードさん”、そして“ルキナさん”・・・」
「・・・・・っ!!」
「なんですって・・・っ!?」
「ええ・・・っ!?」
“蒼太!?”と恋人からのその言葉に流石に驚きの表情を浮かべてその眼差しを顔ごと、恋人へと向けるメリアリアであったが蒼太はあくまでも無表情のままで、カインとメイル、否、“クロード”と“ルキナ”へと、その肉体ごと対峙していた。
「クロードと、ルキナ・・・ッ!?」
「へえぇ・・・」
「よく見破ったな小僧、やるじゃないか・・・」
そう言ってどこか悪戯っぽくも懐かしそうに自嘲する二人だったが確かに、彼等こそはかつて、蒼太とメリアリアとが揃って所属していた帝室直属の高等呪術戦士隊“セイレーン”を一連の苦悩と混乱の只中へと陥れた張本人達であり、そして尚かつ、蒼太とメリアリアが一時とは言えども離れ離れになってしまう、その“遠因”を創った中心人物であったのだ。
「・・・でも確か、クロードさんは」
「・・・毒を飲んだんじゃ、無かったの?」
「まあ、それはね?」
「飲んださ、確かにな」
蒼太とメリアリアからの問い掛けに対してメイルはさらりと渇いた笑いを浮かべ、一方のカインは“それも明らかに致死量のやつをな”と瞳を閉じ、やや俯き加減となりつつも静かに語り始めるモノの実はその時、彼が飲んだ“毒”と言うのはかつてカインが“エルヴスヘイム”の戦闘において格闘少女ミリスによってその肉体に流し込まれたモノと“基本的には”同種であったため、それに対するある程度の“抗体反応”が出来上がっていたのである、そしてそれ故に。
一時確かに、仮死状態となり心臓は何度か停止したモノの、その後に息を吹き返したのであり、そしてその事がカインをして、彼を生き長らえさせる結果となった、“彼の死体”を確認したセイレーンの捕縛班はそれを直ちに“司令室”へと報告すると同時に回収して更には、こちらは生きたままで捕縛に成功していた“ルキナ”共々、連絡を受けて迎えに来ていた彼等の上部組織に当たる“ミラベル”の、その警護回収係へと確かに引き渡しを完了させていたのであるが、しかし。
問題はその途上で起きた、クロードとメイルの二人から、この日の為にと予め協力要請を受けていた、彼等の受け入れ先の組織、“レウルーラ”の幹部達数名が護送車を襲撃して二人を奪い去ってしまったのだ、そしてそのまま。
用意していた自分達の車に乗せると猛スピードで本拠地のある、“エイジャックス連合王国”、その首都“ロンディニウム”へと向けて、決死の逃亡劇をスタートさせた訳であるがその途上、ルキナ(メイル)は悲しくていたたまれなくなり何度となくクロード(カイン)の遺体に泣き付いたり、涙ながらに揺さ振ったりしていたモノの、その際の衝撃と自動車の車内の振動とが彼の息を吹き返させる結果となって、そのまま。
レウルーラの本部にまで護送されたクロードはそこで蘇生の為の緊急手術と大々的な回復魔法の儀式とを受けさせられる事となり、そしてその結果として彼はギリギリの所でこの世に踏み留まる事が出来たのである。
「お陰様でなんとか、一命は取り留めてな。その後は身体の復調を見ながらもう一度、自分を一から鍛え直していた、と言うわけさ」
「レウルーラの拠点内には、かなり本格的な魔法や剣術のトレーニングが出来る設備が整っているのよ?そこには優れた魔法使い(ハイウィザード)や“マスター・ナイト”の称号を持つ猛者達もいて刺激と鍛錬には事欠かなかったわ」
そう言うと二人は一気に、己の内側に秘めたる力を解放して見せるがその途端、彼等を中心として周囲に剛風が吹き抜けて行き、力強い活力に漲っているカインとメイルの姿が顕現されていた。
「・・・・・」
「く・・・っ!!」
「ふふふ・・・っ!!」
「どうだ?小僧、小娘。お前達も確かに、あの頃から相当成長しているようだが・・・。それでも今の我々とは比ぶべくも無いぞ?」
「・・・力の差は歴然ね」
カインとメイルは、ハッキリと余裕の表情を浮かべながらもそう告げるモノのそれでも、だからと言って見逃してくれる意思などは微塵も無い様子であり、カインは利き腕に剣を、そしてメイルは同じく利き腕にメイスを握り締めて装着し、戦闘準備を整える。
「どうする?小僧、小娘・・・」
「撤退したいのならば、お好きにすればよいけれども・・・。勿論それを指をくわえて見ているつもりは無いわ」
そう言いつつも二人は一歩、また一歩と徐々に距離を詰めて来るモノの、対して。
蒼太とメリアリアは、その場から微塵も動こうとはしなかった、それどころかこちらも、どこか他人事と言うか、ある種の余裕の表情を浮かべたままで相変わらずに、彼等に向けて対峙していたモノの、遂に。
「メリー・・・」
「ん・・・」
とようやくにして蒼太がハァッと溜息を付きながらも口を開くがその顔にはやや自嘲気味と言うか、何やらうんざりしたかのような色が浮かび上がっており、それを見ていたメリアリアも思わず“クスり”となってしまう。
「ようやくにして、買い物が終わった所だって言うのにね・・・。でも良いか!!」
“決着を着けよう、因縁に!!”と言う彼の言葉に“ええ”と不敵な笑みを浮かべて頷くと、二人も自分達の持ち合わせている能力を、“戦闘モード”で解放して見せた、すると。
「うおぉぉっ!?」
「きゃあぁぁっ!!」
思わずカインとメイルが衝撃に対して身構えつつも叫ぶがその瞬間に、蒼太とメリアリアの全身からは猛烈なオーラの突風が発生して刹那の間に二人の間を駆け抜けて行った、その波動の強さと密度の濃さとは圧倒的なモノであり到底、カイン達が敵する所では、間違い無く無かったのである。
「うう・・・っ!!」
「バ、バカな・・・っ!?」
「“力の解放”は、終わったけれども・・・」
「・・・まだ続けるつもり?」
思わずたじろぐカイン達に対して蒼太とメリアリアはゆっくりと、それでいて力強い足取りで逆に二人へと向けて歩を進ませて行くモノの、その全身からは強力なオーラのみならず、己自身に対する絶対的な信頼に裏打ちされた、非常に強固な安心感と落ち着いた闘気とが迸しっており、その双眸にも確かな光が宿っていた。
「あうぅぅ・・・っ!?」
「こ、これほどとは・・・っ!!」
「気圧されてますね、“クロードさん”・・・」
「“女王位”を、余り舐めないでくれる・・・?」
確実に距離を縮める蒼太とメリアリアに対してカインとルキナは堪らずに、後方に大きく跳躍して間合いを取り直し、改めて二人に向き直るモノのその顔には対照的に動揺が広がっており、呼吸も多少、乱れ気味であり全身もやや萎縮してしまっていたのだが、しかし。
「・・・やるじゃないか、小僧、小娘。正直言って侮っていたぞ」
「ここまでの力を、身に付けているとはね・・・」
その表情にはまだ、どこか余裕があり、眼差しも死んではいなかった、それどころか。
「・・・・・っ!!」
「・・・・・っ!?」
蒼太とメリアリアが、ここに来て初めて警戒の色を滲ませるが何と二人の全身からは、それまでとは明らかに感覚の異なる異質なオーラが発現し始めており、そしてそれは徐々に強いモノとなってみるみる内に彼等の波動と同調して行く。
やがてー。
それは一種の“力場”を形成して行き、そしてその中心点に存在していたカインとメイルの姿が怪しい光に包まれながらも変貌して行った、そしてそれが収まった時にはー。
そこには見たことも無い異国の、いいやもっとハッキリと言ってしまえば“異世界風の”高貴なローブと装束とに身を包んでいる、カインとメイルの姿があった。
「・・・・・っ!!」
「それは・・・っ!!」
「ふうぅぅ・・・っ。待たせたな」
「申し訳無いのだけれども・・・。何しろ“模擬戦”を除いたら、“この姿”で闘うのは今回が初めてなモノだからね・・・」
そう告げると二人は改めて、蒼太とメリアリアとに向き直るモノのその時の二人から発せられる気配は、今まで蒼太達が感じて来た、どの気配とも異なっていた。
否、正確に言うのならば蒼太には何度か覚えがあった、それは彼が相手にしてきた“人外の化生”、所謂(いわゆる)妖怪、“モノノケ”と呼ばれる存在の放つ波動に酷似したモノだったのだ。
「・・・・・」
「その姿は、一体・・・?」
「まあ解らなくとも無理は無いわな」
「あなた達には余り馴染みの無い存在の力を借りたモノだからね・・・」
少し得意気に笑いながらもそう告げると、カインとメイルは一息付いてから自分達の姿に付いての説明を開始した。
「まず言っておくが・・・。俺のこの姿は“オーベロン”、妖精王オーベロンだ」
「そして私はその妻にして対となる存在、“タイターニア”よ」
「妖精王・・・?」
「聞いた事があるわ・・・」
訝しがる蒼太に対してメリアリアが補足的な説明を施してくれたがそれによると、オーベロンはガリア帝国の源流ともなった、かの伝説的な王朝である“メロヴィング朝”の名祖“メロヴィクス”の、そのまた“異世界での兄弟”である“アルベリヒ”の事だと言い、更に言うのならばその正体は非常に優れた魔術師だった、と言うことであった。
このオーベロンは普段は森の奥深くに住んでいて時折、人々の前に姿を現しては奇々怪々な妖術や魔法を駆使してある時は彼等を惑わし、またある時は助け、その正体も心根も良く解らない、ハッキリと言ってしまえば謎の存在であった。
そんな彼には“妻”がいた、それがタイターニアであり、彼等は強い魔力を持っていてその気になれば気象をある程度までは、操る事が出来た、とされているモノの、そんな存在の力を借りる事が出来るまでに己を高めていようとは。
「なるほどね、“妖精王”か・・・」
「ちょっと厄介に、なっちゃったかも・・・」
蒼太とメリアリアが、それでもこちらを油断無く見据えつつも話しをしていると、不意に蒼太が彼女を抱えてその場から跳躍した、次の瞬間。
ドゴオォォッと音がして爆発が起き、見ると直前にまで二人が立っていた場所が大きく抉れているではないか。
「・・・・・っ!!」
「な・・・っ!!」
「へぇ・・・っ!?」
「んん・・・っ!?」
(早い・・・っ!!)
蒼太とメリアリアは驚きの表情を浮かべ、それとは対照的にカインとメイルは興味深そうなモノを見るようなそれを向けるが相手側の内、特に蒼太と言われる青年が、一瞬の間に見せた動作は、“妖精王化”している筈の二人に取っても予想外のモノだったのであり、注目に値する。
(“身のこなし”が素早くて動作を知覚し切れなかった、が)
(決して、追えない速さでは無いわ。だけど・・・)
めいめいに、カインとメイルは考え込むモノの二人の気に掛かったのはむしろ、その無駄の無い素早さそのものよりも蒼太の見せた、自分達の攻撃が放たれる直前の一連の反応だった、と言うのはあの時、彼はこちらが行おうとしていた攻撃を一瞬早く、それも正確に予測して回避運動に移っていたかのように見受けられたからだ。
「なんなんだよ、ありゃ・・・」
「そう言えばあの坊や。私達が“この世界”へと連れ込む前にも、何かを感付いていたみたいだったけれども・・・っ!?」
二人の会話が途中で途切れ、今度は彼等が地を蹴ってその場から己を離れさせるがカイン達が言葉を交わしている内に着地した蒼太はそれと同時に反撃を行ったのであり、その正体は不明であるが、とにかく恐ろしい程の速さと勢いとを持った“何か”を、彼等目掛けて撃ち放って来たのだ。
「うおぉぉっ!?」
「ひゃあっ!!」
とやや驚愕の声を挙げつつも、それでも二人はそれを事も無げに回避して見せると再び、カインはさっきと同じ“攻撃”を繰り出して見せたがそれは、自身の持てる力場の一部を両目の眼前に集約させて、それを更に“裂破の気合い”で撃ち出しては相手へと叩き付ける、と言う非常にシンプルかつ、実用的な技だった、何しろ発射されるまでのタイムラグが殆ど無い上に、その動作も極めて限定的なモノでしかなく、攻撃の際の見極めが、非常に難しい技だったからだ。
それを蒼太はメリアリアを抱えたままで高速移動と跳躍とでまたもやキッチリと回避して見せたのだがやはり、その時もカインがエネルギーと気合いとを集約させる僅かな時間の内に彼はその場からの移動を開始していたのであり、もはや蒼太が攻撃を事前に読み切っては素早くて隙の無いその身のこなしで対応している事は、疑いの無い事実であった、しかもその上。
「ぐわっ!?」
「ちょっと、大丈夫?」
再び自分達へと向けて放たれた“それ”を寸での所で避ける事には成功したモノの、それでも多少の狼狽えが出てしまった恋人の事をメイルが心配して声を掛けるがその時は、蒼太はただ単に攻撃を避けるだけでは無くて、回避と同時にカウンターを放っていたのでありそれがカインの至近距離を掠(かす)めたのだ。
「なんて攻撃を、放って来やがる・・・!!」
「えげつない坊やね・・・」
カインとメイルが呻いている所へ持って来て再び、蒼太がエネルギー波を撃ち放って来るモノの、3発目にしてようやく、その正体がカイン達にも理解出来るようになってきたのだがそれは、自分自身の掌(てのひら)の中に球体状に極限まで圧縮された極大の“真空呪文”を、それまた“光速”に近い速度で打ち出すのであって確かに、これならば例え初級の真空呪文であってもその貫通力と破壊力(より正確には“法撃初速”と“殺傷力”と言い換えても良いが)は極限まで高いモノへと跳ね上がる訳であってこちらも、そのスピード等から回避は極めて困難だった。
「ちいぃぃ・・・っ!?」
「あの坊や、いけない大人になっちゃったわね・・・っ!!」
カインとメイルはお互いにそう声を掛け合いつつも、蒼太から二人へと向けて次々と放たれてくる“光速真空呪文”の圧縮された砲撃を、必死に回避して行くモノの気が付けば彼等はまだ、何もしていない内からいきなり劣勢に追いやられてしまっているのであり、これでは変身をした意味が全く無かった。
「このままじゃ、不味いわね・・・っ!!」
「・・・小僧っ!!」
“いい加減にしておけよ”と、カインは激昂すると同時に回避を続けて徐々に徐々に、蒼太とメリアリアから距離を取っていったのだ、そしてー。
それと同時に、二人に気付かれ無いようにと注意をしつつも、自身の周囲の空中へと向けてその不可思議な魔法力(もうこの時の、“オーベロン”と化していた彼の力はいっそ“妖気”、“妖力”と言った方が良いのかも知れないのだが)を拡散、充満させて行った、やがて。
それはその辺り一帯の天球を覆い尽くす、妖力で出来た無数の剣となって、しかもその切っ先は全てが、蒼太とメリアリアとに向けられたままの状態で空中に静止していたモノの、一方で。
「・・・・・?」
「あれは・・・・っ!!」
13発目の攻撃を撃ち放った時点で蒼太は、自分達を取り囲むように充満している、空気中の妖気に気が付き、カイン達に意識を向けながらも上空へと視線を移すがそこには今まさに撃ち放たれようとしている濃厚なる妖気の集約されて出来た無数の剣の姿があって、それは恐らくは鉄でも岩でも貫通する程の鋭さを持っている事が感じられた。
「見たか小僧っ、お前の快進撃もここまでだっ!!」
「その上更にっ!!」
とカインに続いてメイルが叫ぶと、彼女もまた空中へと向けて熱波の塊の様な、“燃える妖気”を迸らせるがするとそれは天球へと至った瞬間、幾重にも渦を巻きながら、全体へと拡散して行き、そしてそれが姿を消す頃には、妖気で出来た剣全体が激しく燃えあがるような炎をその身に纏っていたのだ。
「どうかしら?私達の“合体妖術”は!!」
「合体技はな、何もお前達だけの専売特許じゃねーんだよ!!」
天球を見上げる蒼太達に対してカインとメイルはそう告げると、二人はバッと上空目掛けて手を翳してそのままー。
それを一気に、二人目掛けて振り下ろした、瞬間。
それまで遙かな上空で滞空していた無数の燃える炎の妖剣が、一斉に蒼太とメリアリアへと向けて、一直線に殺到し始めたのであり如何に蒼太が素早く動こうとも、またメリアリアが自身の扱う“純潔の証たる茨と刺の聖鞭”へと無限に煌めく太陽の、その高く激しく燃え盛る光炎を伝わらせて打ち撓(しな)らせようとも、その全てを叩き落とす事は甚だに困難であった、と言う他無かったモノの、しかし。
「・・・・・」
「ふ・・・っ!!」
メリアリアは全く動じておらずにその瞳はどこか冷たいままであり、蒼太に至っては些か自嘲気味と言うか“やれやれ困ったな”と言うかのような、余裕の笑みすら溢していたのだが次の瞬間、彼はー蒼太は右手に幾つかの小さな“光弾”を出現させると、それを空へと向けて投げ放った、するとー。
それは1秒と経たない間に数百メートルを疾走してそこで一気に“パアァッ”と弾け、それと同時にその場所には黄金色に光り輝く、“法力の膜”のようなモノが展開して行き、二人の頭上を完全に覆い尽くした、やがてー。
“妖炎の剣”達がそこへと激突した瞬間に無数の爆発と音と光が彼方此方から巻き起こってはその輝きが二人を、そしてカインとメイルを照らし出すモノのそれは“光風の繭”と呼ばれる、防御用に開発された蒼太の新たなる法術であり自分達に向かって放たれて来る数多の魔法や弾丸を、全て纏めて防ぐことが可能な非常に優れたモノであった、しかも。
「・・・・・っ!!?」
「な、なんだよ。ありゃ・・・っ!?」
それは蒼太の意思一つでいつでも攻撃用に転換させる事が出来る代物であって、現にその時も蒼太は“妖炎の剣”が殆ど無くなるのを見て取ると、それでもまだ後方に停滞していた百本近いそれらに向けて一挙に、“光の法術”で出来たその膜を叩き付けて見せたのでありその結果、カイン達が苦労して出現させた妖気の剣と炎とは、何の成果も為さぬままに一つ残らず消滅し尽くしてしまったのである。
「・・・・・っ!!?」
「うそでしょ・・・っ!?」
これには流石のこと、カインもメイルも思わず呆気にとられてしまっていた、まさかこんな防御方法があるだなんて、そしてこんな防御方法を蒼太が持っていただなんて、予想だにしていなかったのだ。
「・・・やってくれるな、小僧」
「物凄いレベルアップを遂げたようね」
カインとメイルは改めて、蒼太とメリアリアへと向き直るがそこにはしかし、些かも“追い詰められたモノの放つ焦燥感”は感じられない、それよりも。
「ぬふうううぅぅぅぅぅぅ・・・っ!!!」
「ふあああぁぁぁぁぁ・・・っ!!!」
二人は更に妖気を高めてその姿をより本物のオーベロンとタイターニアへと変貌させて行くモノの、するとそんな彼等の変化に対応するかのようにして異世界そのものがより、その異質さを増していった。
空は赤と緑色の入り交じった不思議な紋様の波長で覆われ、それと同時に世界や景観から色彩が全て消え失せていった、遠くに見えるビル群や其処此処に佇んでいた家屋の連なりは、その全てが漆黒に覆われて行き、ただでさえ無機質だったそれらは今や、無秩序に立ち並ぶ卒塔婆塔の様な、一種の不気味さを放っていた。
大地からはその力強い確かさが失われ、木々や草花もその輝きを曇らせてしまい、心なしかグッタリとしてしまったような印象を受けるが、しかし。
「・・・・・」
(まだだ。まだ本物の“あれ”には遠いな・・・)
と蒼太はかつて、自分が飲み込まれてしまった異次元空間の事を思い出して来ていたモノのしかし、ここにはまだ天地の区別が有る上に上下の概念や運動の法則も一応は働いている、“トワイライトゾーン”そのもの、と言う訳では無さそうだ、と言う事は、つまり。
(・・・なるほど。“奴ら”は完全には、“妖精王”と“妖精女王”へと成り切る事は出来ないらしいな。あくまでもその身に妖気を纏わせて戦うのが主目的らしい)
“しかし”と、それでも蒼太は思ったモノの、確かにここはトワイライトゾーンそのものでは無いにしても相当に、そこに近い場所まで落とされてしまった事は間違い無いようだ。
今までは恐らく、異世界に包み込まれたとしても所謂(いわゆる)“表層部分”、もっと言ってしまえば“現実に近い局所的異空間”とでも言うべき場所で戦っていたのだろうし、それが故に連中を(例えばヴェルキナやカイン達のような)撃退する事に成功した場合は、その影響下から逃れる事が出来ていたモノと考えられる、しかし。
(ここは恐らく、底の底。いやもっとハッキリと言ってしまえば“トワイライトゾーンの表層”とでも言うべき場所なのだろうな。だとすると仮に彼等を討ち果たしたとしても、この世界から現実へと帰還する事は・・・)
“甚だ困難だ”と、蒼太は結論付けるモノの、現に先程まではそれでも、薄ぼんやりと感じることが出来ていた現実世界の雰囲気や波長が今や完全に断ち切られてしまっており、その気配や人々の、あるいは動植物の放つ活気を感じ取る事が出来なくなってしまっていた。
(この世界から帰還する方法はただ一つ。奴らを撃退した上で以前のように“神の力”を使う以外になさそうだけど、それをするには・・・)
「待たせたな小僧、小娘!!」
「これが私達の最終闘法、“妖精の世界”よ!!」
とそこまで考えた時にどうやら、限界までのパアーアップを終えたらしい二人が蒼太とメリアリアへと向けて声を掛けて来るモノの彼等は自信満々に言い放った、“お前達はもう終わりだ”と。
「確かに、お前達の力は素晴らしかった、ハッキリ言って想像以上のレベルだったよ、しかしな」
「この世界へと誘い込まれた段階で、貴方達はもう詰んだわ。だってもう、現実世界へと帰還する道筋が断ち切られてしまったんですもの!!」
「・・・・・っ!!」
「・・・・・」
(やっぱりね・・・)
カイン達が声高に叫ぶのを聞いて蒼太は、それでもやはり驚かなかった、その隣ではメリアリアが流石に、この状況下に唇を少し噛んではいるモノのやはり彼女も絶望はしていない。
ハッキリと言うモノの今、目の前にいる二人の放つ全力の妖力は自分達の本気の波動と殆どトントンと言った所だ、つまりこのまま戦えば、下手をすれば相打ちに持ち込まれてしまうかも知れず、そうなっては全く意味が無い、それに。
「・・・・・」
(守ってあげたい、メリーの事を!!)
“メリーだけは助けてあげたい”と蒼太は思うがその為には勿論、目の前の二人を撃破して尚かつ、この世界から無事に脱出してみせなければならなかったのである、そして。
現状、その為には方法は一つしか残されていなかった、自らの中に眠る神の部分と直結する事、所謂(いわゆる)“神人化”する事でありその能力である“神威”を発動させる事に他ならなかった、ただその為には。
「・・・メリー」
「ん・・・?」
「お願いがある・・・」
「・・・・・っ!!」
そう言うと蒼太はいつかのような覚悟を決めた凄絶な瞳と表情とを彼女に向けるがそれを受けたメリアリアは瞬時に彼の気持ちと真剣さを察した、つまり彼は自分にその存在と未来と命運の全てを託す、絶対に必要不可欠な“何か”を伝えようとしていたのだ。
「・・・いいよ蒼太、何でも言って。私、なんでも言うこと聞くから」
「・・・ありがとう」
その青空色の双眸に覚悟の光を宿しつつも、それでも尚も優しく微笑みながらも“もう他人じゃないのよ”、と心の底から言葉を掛けて来てくれる自身の最愛の恋人に、決死の思いを受け止めつつも、その願いに全身全霊で応えようとしてくれている魂の伴侶へと向けて、己の真幹から誠深たる感謝の意を表すと同時に蒼太は改めて彼女に事の次第と本題とを述べる事にした。
「“神人化”・・・?」
「そうだ、そしてその為には深く深く瞑想して祈りを捧げ、自分自身と対話をしなければならない、全感覚を、全集注力を注約させて“神の部分”と直結しなければならないんだけど、そのために」
“時間を稼いで欲しいんだ”と蒼太は紡いだ、つまり暫くの間、蒼太は殺気をギンギンに放っている難敵二人の目の前で完全に無防備になってしまうのであり、そしてそこを突かれてしまえば一巻の終わりである、そうなるのを避けるために。
“メリアリアに護衛をお願いしたい”と言う事であったのだが話を聞いたメリアリアは“なんだ、そんなこと”とニッコリと笑って彼氏に応えた、“幾らでも、やってあげるわ”とそう告げて。
「私が、貴方を守ってあげるわ。絶対に、絶対に・・・っ!!」
「・・・ありがとう」
とそれを聞いた蒼太はその場で思わず、メリアリアの事を抱き締めてしまった、自分の恋人はなんて可愛らしくて健気で優しい人なんだろう、なんて美しくていじらしくて、揺るがない人なんだろう!!
それはメリアリアの見せた、蒼太に対する絶対的な愛情の輝きそのものであり、そしてー。
決してブレる事のない、彼女の強さと確かさの顕現そのものであった。
「・・・・・」
「ん・・・」
そのまま蒼太は、メリアリアにソッと口付けを交わすと再び彼女と見つめ合い、微笑み合った、そうしてー。
“後は頼むよ”とそう告げると自らは後方に跳躍してそのままそこで立ち竦みつつ、両手を胸の前で合わせて静かにソッと目を瞑る。
「・・・・・」
(始まったのね・・・)
精神を集中させて己の中へと埋没して行き、一心不乱に祈り始めるモノの一方で、それを確認した彼女は自身はカインとメイルへと向き直り、その手に“純潔の証たる茨と刺の聖鞭”を握り締める。
「・・・・・?」
「小僧は、どうした・・・」
蒼太の思惑が理解できないカインとメイルは訝しがりつつも、それでも取り敢えず、メリアリアへの迎撃態勢を展開して行くモノのその時。
改めて彼女の姿を、その表情を確認した二人は思わずゾッとしてしまうモノの、それは全てを射貫くような、メリアリアの放つ恐ろしい程に冷たい輝き。
覚悟と決意を秘めた彼女の、その心根から迸りたる“有無を言わさぬ凄絶さ”、そのものの気迫であったのだが、特にメリアリアの場合は彼女が稀にみる、絶世の美女だった事がその強烈さに一層、拍車を掛けた、“美人の見せる底知れぬ凄み”とでも言えば良いのかも知れないのだが、それは一瞬、確実にカインとメイルの動きを封じてその心を、そしてなにより魂そのものを根底部分から凍り付かせたのだ。
「・・・・・っ!!」
「こ、小娘っ!?お前、一体・・・っ!!」
「・・・・・」
(お父さん、お母さん。ごめんなさい。私は“言いつけ”を破るわ、だって一番大切な人を、最愛の人を守る為だもの!!)
そう思うとメリアリアは自らに気合いを入れ直すと同時にその持ち合わせた呪文の中でも最大級の秘術を、否、もっとハッキリと言ってしまえば“余程の事が無い限り、決して使ってはならない”と両親からキツく言い含められていた、終の終たる終局奥義を発動させる事にした、即ち。
“絶対熱の極意”である。
ーーーーーーーーーーーーーー
このお話の最後にちょこっとだけ出て来る“絶対熱”とはなんなのか。
それは所謂(いわゆる)“ビッグバン”によって宇宙が誕生した瞬間に(実際はそれよりも遥かに短い、“1プランク時間”と言う刹那の刹那のそのまた刹那の、本当に僅かな合間の時間に)、ちょこっとだけ顕現した温度である、とされています、ところが。
その温度は実に“14溝2000穣度”と言う凄まじい高温であり、しかもこの温度になると、物質を構成している最小の単位である原子や分子が、その余りの熱量の為に崩壊してしまいます。
即ち“絶対熱”とは単に物体を、“焼き尽くす”等と言う生易しいモノではありません、その存在ごと“消滅させてしまう”温度なのです。
実はこれは、かなり前から考えていた、メリアリアちゃん用のパワーアッププランでした、それが実装されるに至ったのにはやはり、“大人になって真の力に覚醒した蒼太君がとんでもなく強くなっている以上、彼と対の存在であるメリアリアちゃんもまたレベルアップさせなければならない”と感じたのと、もう一つが“アウロラ”の存在でした。
と申しますのは、彼女が使う“星震魔法”は発動されますと一気に“太陽が十万年~二十五万年掛けて放出するエネルギーとほぼ同等のそれを、僅か一瞬の間に放出し尽くす”ほどに強力なモノだからです。
元々、彼女に星震魔法を付加した理由は一つが“兵器や事件、事故等のいわくや暗い影の付いていない魔法を使わせてあげたい”と言うのともう一つ、“メリアリアちゃんが宇宙の力(光炎魔法、即ち“太陽の力”ですね)を使えるのならば、もう一人のヒロインである彼女もそうでなければおかしい”と言う風に考えたからです。
要するにヒロイン同士で見比べた場合のバランスを取るための処置だったのですが、ここに来てアウロラの方が、強くなり過ぎてしまいました、これではいけない、と言う事でもう一度バランスを取らせる為に、メリアリアちゃんにその最終奥義たる“絶対熱の極意”を身に付けさせた次第です。
メリアリアちゃんは次回でめちゃくちゃ活躍します(ハッキリ言って“無双”します)が、それは読者の皆様に、これを機会にメリアリアちゃんの本当の強さ(と言うよりも本気になった時の彼女の怖さ、恐ろしさ)を存分にお見せ致したく(今のままではまだ、読者の皆様方は、本気になったメリアリアちゃんがどれ程強いのかが解らないだろう、と思いまして)、それで今回の話の流れとなった訳です(勿論、蒼太君に付いても同様ですが、要するに成長した二人の強さや底力を、先ずは皆様に存分に見ていただきたいと思いまして、それで今回、その比較対象と致しましてもう一度カインとメイルをパワーアップさせて出させていただいた次第です)。
と言う訳で次回予告です、“灼熱”を遥かに超えた、“絶対熱”の世界を。
君は今、体験する!!(かも知れない)
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