星降る国の恋と愛

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運命の舵輪編

セイレーン編19

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 二月も既に、半ばに差し掛かろうとしていた、この月は本当に忙しくて蒼太もメリアリアも毎日のように任務に引っ張りだこになっていたのだ。

「最近、忙しいよね?」

「本部から招集が、よく掛かるようになって来ているからね・・・」

 ようやくにして手に入れる事が出来た、久方振りのオフを二人は、心行くまで満喫していた、恋人繋ぎで手をつないだまま、ブラブラと外を散策したり、色々なお喋りをしたり、公園で休んだりー。

 お互いと一緒に過ごす、そう言った何気ない日常が少年と少女にとっては堪らないほどに貴重で大切な時間だったのである、特にそれは、メリアリアにとってはそうだった、恋人と一緒にいられる事が、こんなにも幸せな事だったなんてとデートの度にそう思った、もうこの時にはハッキリと、メリアリアは蒼太の事を愛していた、彼女の持っていた純粋なまでの一途さは極大点を超えて燃え上がってしまっておりそれらはもう、止まることを知らなかった、そこへ持ってきてー。

 蒼太から彼女へと向けられる熱情もまた、それに一層、拍車を掛けた、それは決して、鬱屈した意志の発露でも無ければ欲望に塗れた思いでも無かった、保身も打算も駆け引きも無く、ましてや憐憫の情等でも決して無い、ただただひたすら純粋で直向きな、彼の心の奥の奥の奥の底、魂から溢れ出る純然たる愛の迸りである、それを受けた時に。

 メリアリアもまた、魂の底から喜びで打ち震えた、そんなお互いの、お互いに対する深い愛情の相乗効果により少女の心はもはや完全に蒼太の事でいっぱいになってしまっていた、すっかり彼に狂い切ってしまっていた少女はだから、それを全身で表そうとするかのように彼の腕へとしっかりとしがみ付き、頬や全身を、擦り付けるようにする。

「ねえ蒼太?」

「ん、なに?」

「うん、あのね。大きくなったら、私と、その・・・」

「・・・・・」

「結婚して、欲しいの・・・」

「・・・いいよ」

 良いよ、と蒼太は告げた、彼女の瞳を見ながら、真っ直ぐとしたその視線で。

「・・・・・っ。本当っ!?」

「うん、本当に」

「嬉しい・・・っ❤❤❤」

 そう言うとメリアリアは、思わず蒼太に抱き着いた、心の中は、彼への思いと暖かさとでいっぱいになっていた、青空色のその瞳はキラキラと輝いており、その中にはもはや、蒼太しか映っていなかった。

「蒼太ああぁぁぁっ。蒼太、蒼太、蒼太あああぁぁぁぁぁっっっ❤❤❤❤❤❤❤」

 “大好きっ”とメリアリアは告げた、彼にしがみ付いてはその肉体に頬や全身を、こすり付けるようにしする。

「蒼太っ❤❤❤」

「んっ!?」

「ん・・・っ」

 メリアリアに呼ばれた蒼太が彼女の方を見ると、少女が彼氏に真正面から抱き着いたままで瞳を閉じ、唇を突き出してキスを強請る体勢を取って来る。

「・・・ちゅっ」

 それに応えて唇に唇を触れ合わさせると人通りがあるにも関わらずにメリアリアは舌に舌を絡めて来た。

「んちゅ、ちゅるっ。ちゅるちゅぷっ。ぷはっ、メ、メリー・・・ッ!!」

「ああん、ダメェッ。止めちゃダメ・・・ッ❤❤❤んちゅ、ちゅぱっ。ちゅるちゅるっ。レロレロ、レロレロッ。クチュクチュクチュクチュ~ッ!!!ちゅ、ちゅぱっ。じゅるるる、じゅるじゅるっ。じゅるるる、じゅるるるるるるる~っっっ❤❤❤❤❤❤❤」

 人目も憚らずにディープなキスを行うメリアリアに内心で驚きながらも蒼太はそれでも彼女に応えて自らも深い口付けを交わす。

 正直、通行人の何人かには見られたモノのそれでも二人は暫くの間キスを交わすとやがてようやくにして満足したかのようにどちらともなく唇を離した。

「うふふふ、うふふふふふふっ。蒼太っ。蒼太ああぁぁぁっ❤❤❤」

「・・・・・」

 頬を赤らめたままメリアリアは、ウットリとした表情で再び蒼太にしがみ付いた、もう、誰に見られていようと彼女には関係なかった、ただただひたすら、その情熱の赴くままに蒼太の事を求めて彼の体へと自らのそれを密着させては全身を、擦り付けるようにする。

「ねえ蒼太」

「なにさ、メリー」

「私、早く大人になりたい。早く大人になって、そして・・・」

 一瞬、モジモジとした後で、メリアリアは蒼太へと向けて、ハッキリと言い放った、“あなたの、お嫁さんになりたいな”と。

「・・・僕も」

「えっ!?」

「僕も早く、大人になりたい。早く大人になって、うんと強くなって。そしたら・・・」

「・・・・・?」

「君を、守ってあげられるのに・・・」

「・・・・・っっ!!!!!」

 “好きっ”とメリアリアは蒼太へと向けて言い放った、“蒼太好きっ、大好きっ!!”とそう言って。

「ずっとずっと、一緒だよ?」

「うん、ずっと・・・っ!!」

 そう言って二人は再びキスを交わし始めるモノのその瞬間に、メリアリアはハッキリとした“永遠”を感じた、周囲の時が止まって見えて、二人だけの時が動き始めた、この中で生きているのは自分達だけだとメリアリアは思った、もう、彼と一緒にいられるのならばそれだけでいい、他に何も要らない、とー。

「んちゅ、んむっ。ちゅる、ちゅぱっ。じゅるじゅる、レロレロ、レロレロッ。クチュクチュクチュクチュ~・・・ッ♪♪♪♪♪ちゅ、ちゅぱっ。じゅるじゅるじゅるじゅるっ。じゅるるる、じゅるるるるるるるるるる~っっっ❤❤❤❤❤❤❤」

「ちゅる、ちゅぷっ。じゅるじゅる、じゅるるる、じゅるるる~っ。レロレロ、ちゅぱ、ちゅぱっ。クチュクチュクチュクチュッ!!!ちゅ、ちゅぱっ。じゅるるる、じゅるるるるるるるるるる~っ!!!」

 正面から抱き合った二人が、尚も情熱的なキスをし続けていた、その時だ、蒼太とメリアリアのスマートフォンが、ヴヴヴヴヴヴヴッと音を立てて振動し始めた、何事かと思ってでで見ると、本部からの非常緊急招集が掛けられている。

「なんだ?一体・・・?」

「もうっ。良いところだったのに・・・っ!!」

 蒼太は困惑し、メリアリアは激怒するがこればかりはやむを得なかった、取り敢えずは本部に向かうしか無い。

「折角だったのに。しょうが無いね・・・」

「うん、本当にもうっ。折角一緒にいられたのに・・・。でも蒼太」

 “約束よ?”とメリアリアは念を押した、“必ず、私と結婚して?”とそう言って。

「絶対だからね?」

「うん、絶対に。約束する!!」

「・・・良かった」

 その言葉に安堵したメリアリアは“行きましょ?”と告げると彼氏と腕を組みながらセイレーンの本部へと向かった。

 その場所から本部まではさして離れていなかったから移動はそれほど苦では無かった、彼等が到着した時には既に何名かの隊員達が会議室に集められ、皆それぞれに椅子に座っては寛いでいる。

 見るとアンリとマリアの姿もあったモノの、その外にも数名の、女王位の姿も見受けられている、これはやはりただ事では無い。

「蒼太・・・」

「何か、大事みたいだね。これは・・・」

 まだ半分、デート気分が抜けなかった蒼太とメリアリアも思わず気持ちが引き締まるのを感じていた、精神が高揚して意識が今、この瞬間へと向けて集約されて行く。

「だけど一体、なんだろうね。君も知らないんだろ・・・?」

「うん、私もそんな話は、全然聞いていないの。一体何があったのかしらね・・・」

「みんな着到したか?」

 隣り合って座った二人がヒソヒソ声で話していると、会議室のドアが開け放たれて外からはオリヴィアとアウロラ達が入室してきた、その面持ちは心なしか緊張しておりやはり、相当な事が起こったのであろう事が伺えた。

「中にはオフの者もいたようだな、急に呼び出してしまって誠に申し訳なく思っている、だが」

 とオリヴィアは続けた、“極めて緊急の要件なのだ”、と。

「実は昨夜、より正確に言えば本日の未明なのだが、本部のコンピューターに、外部からのハッキングを受けた形跡が見受けられた」

「はあぁぁっ!?」

「なにぃっ?」

「なんだとっ?」

 途端に周囲からざわめきが起きるがそれを“静かに”と言って沈静化させた後、オリヴィアは再び淡々と、しかし心なしかいつもより強い口調で話を続ける。

「そこには今までセイレーンが入手した機密情報やら敵性兵器の開発状況やらが保管されていたのだが・・・。それらがゴッソリと抜き取られてしまっていたのだ、しかも」

 とオリヴィアは続けた、事態はそれだけに止まらない”と。

「その中には君達隊員の名簿も、入っていたのだ。・・・その詳しいプロフィールも、顔写真付きでな」

 再び会場からザワめきが起きた、それはそうだろう、もしそれらが公開されてしまえばもう、自分達は任務に就く事が今後一切出来なくなる。

 それだけではない、日常生活だって送れなくなるだろう、常に命の危険に晒されながら生きて行かねばならなくなってしまうからだ。

「皆も感じていると思うが・・・。事態は一刻を争うのだ、このままでは国家の安全が脅かされる上に我々も無事では済まない」

 そこで、とオリヴィアは告げた、“今から犯人達の追跡を開始する”と。

「ホシは、割れているんですか?」

「・・・・・」

 蒼太から発せられたその言葉に、オリヴィアは黙って頷いた。

「・・・皆に今から説明する、先ずはこれを見て欲しい」

 そう言うとオリヴィアは室内の電気を消して正面のスクリーンに映像を投影し始めるモノの、するとそこにはルテティアの街中にある“インターネット・カフェ”から出て来る、黒いリュックを背負っている一人の男の姿があった。

「これは今朝の午前3時頃、ハッキングが明らかになった直後に逆探知を行って犯人の足取りを追っていた際の映像なのだが。それでハッキング元となったのが、このインターネットカフェだと解った、だが問題はこの男の持っているリュックに入っている持ち物にある。こちらからの逆ハッキングとエージェントを現地に向かわせて調査した結果、男の使っていたパソコンからは一度だけ、“USBメモリー”が接続された形跡が見付かっている、恐らくはそこに情報が記憶されているに違いない」

 “幸いなことにして”とオリヴィアは続けた、“彼の足取りは掴めている”、と。

「ここだ」

 そう言ってオリヴィアは、更に画像を展開して行くモノの、そこには古い石造りのアパートメントが映し出されており、男がその中へと入って行くのが伺える。

「これらの映像は皆、近くに設置されていた、防犯カメラに写っていたモノだが・・・。それから男の身元が割れた、マルタン・ガルニエ、28歳、逮捕歴無し。調査の結果、正真正銘の一般人だと解った、恐らくは金で買収されたのだろう」

 “ただし”とオリヴィアは付け加えた、“この男はルテティア大学でコンピューター学科及び、電子工学科を専攻していた”と。

「それだけではない、大のパソコン愛好家でな。それも自分で独自に部品を調達してきては、1から組み立てる事が出来る程に精通している。その上ソフトウェアの開発にも相当、長けていたようだ、それで目を付けられたのだろう」

 “まあ要するに”と彼女は最終的に結論付けた、“彼は実行犯と言った所だ”と。

「正直に言って彼だけならば、大して問題では無かった、無理矢理にでも押し入ってUSBを押収してしまえば、それで事は足りたのだ」

 “ところが”、とそこまで言った時にオリヴィアは“ハァッ”と溜息を付いて続けた、“強力な助っ人が付いていたのだ”とそう言って。

「これを見ろ」

 そう言って次に映し出された画像には、アパートメントから出て来る三人の男の姿があった、一人は勿論、マルタンであるが、後の二人に付いては正直、よくわかっていない。

「一人はマルタンで間違いないが、後の二人は厄介だ。先ずは一人の目の男から紹介する。名前は“ジェイク・ヤング”、22歳、エイジャックス連合王国の誇る、凄腕のエージェントだ、戦歴も豊富で任務の成功率もずば抜けて高い。現に」

 と彼女は続けた、“過去の対戦では我々、セイレーンのエージェントも何名か、討ち果たされてしまっている”、と。

「次にこの男だ、名前は“ライリー・クーパー”、25歳、彼はどちらかと言えば後方支援担当だが決して戦闘が出来ない訳じゃない、現に彼との戦いでも我々、セイレーンは何度となく煮え湯を飲まされて来た」

 片手でコンピューターを操作しながらオリヴィアは続けるモノの、ジェイクは確かに気骨のある男の顔をしているモノの正直、ライリーの方はそれほどでも無さそうだった、どちらかと言うと、人畜無害なタイプに見えるが、意外である。

「その3人が、一緒に行動している。正直に言って手を出すのは中々に厄介だ、しかもその上もう一つ、厄介極まりない事がある、それがこの少女だ」

 そう言ってオリヴィアが、コンソールを再び叩くとまた画面が変わってそこには一人の少女の姿が映し出されていた、無表情なその顔はしかし、幼さを残しながらも可愛らしく整っており、臀部にまで伸びたストレートロングの銀髪と同色の、銀色に輝く瞳をしている。

「・・・・・っ!?」

「こいつは・・・っ!!」

「そうだな、君達は戦った事があるのだったな。彼女の名前はヴェルキナ。通称“ヒュドラのヴェルキナ”と呼ばれているそうだ、本名は不明だ」

「・・・・・」

「ヴェルキナ・・・」

 メリアリアが呟いた言葉に頷くと、オリヴィアはまた話を始めた、“彼女を含めて数名の、所謂(いわゆる)“ウィッチ”と呼ばれている少女達がこの国へと潜伏して来ているようなのだ”とそう続ける。

「だがなんとしてでも、情報は取り返さなくてはならない。さもないとこの国は、立ち居かなくなってしまう。そこで今回は、我々の総力を結集させてこれを奪還、もしくは破壊する。目的はあくまでも相手の持っているUSBだ、それさえ何とかしてしまえば事は足りるのだ」

「バックアップを、取られている可能性は?」

「それは無い、既にセイレーンのエージェント達がマルタンのアパートメントへと向かい、彼の部屋にあるコンピューターを調べたのだが・・・。ここ数日の間にUSB機器等が接続された形跡は無かった、つまり今、情報が入っているのはマルタンがインターネットカフェで接続したもの、一つだけだ」

 オリヴィアがもう一度、確認をするかのように言い放った、“我々の任務はあくまでUSBなのだ”と。

「それ故に、必ずしも彼等と戦って制圧する必要は無い、そこに我々の有利さがある」

「・・・・・」

「なるほど・・・」

「しかしな、オリヴィアさん。実際問題として戦闘は避けられないのだろう?どう見てもただでは渡してくれそうに無いぞ?」

「勿論、それは考慮している。だから総力を尽くす、と言った」

 そう告げるとオリヴィアは、班編制と役割を発表した、それによると今回はどうやら、3人ひと組で組ませられるらしい。

「今ここには、私達を含めて15人が集まっている。その内本部には6人が残る。つまり実働部隊は9人と言うわけだ」

 “断っておくが”、とオリヴィアは更に続けた、“この9名は、セイレーンの隊員の中から選ばれたトップ部隊だと言っていい”と。

「では班編成を読み上げる、第一班、オリヴィア、クララ、マノン、第二班、アンリ、マリア、クレモンス・・・」

 次々と発表されて行く編成であったが当然、その中には蒼太とメリアリアの名前もあった、ただし。

「第五班、蒼太、メリアリア、アウロラ。以上だ!!」

「・・・・・っ!!」

(え・・・っ!?)

 それを聞いた時に蒼太は内心、ギョッとしてしまった、メリアリアとアウロラを組ませる、と言うのは戦力的には悪い考えでは無い、悪い考えでは無いが、しかし。

「・・・・・」

「・・・・・」

 その場にはこれから、戦いに赴く者が放つモノとはまた別の、一種の緊張感と気まずさが充満するのを、蒼太はハッキリと感じていた、メリアリアもアウロラも外方を向いたままで一言も口をきかなかった。
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