星降る国の恋と愛

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運命の舵輪編

セイレーン編17

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 季節は二月に変わったがこの間、特筆すべき変化は殆ど無くて、世間は取り敢えずは安定した日常を、送っているかのよう見えていたモノの、しかし。

「メリーッ、決めるよっ!?」

「解ってる!!」

 その裏では蒼太達、セイレーンの過酷な任務は続いていた、その日もエイジャックス連合王国から送り込まれて来ていたエージェント達を相手取り、五分以上の戦いを繰り広げていたのである。

 「そこっ!!」

 いつものように少年とペアを組みつつも、その内の一人、“ウィリアム・アシュリー”と言う男を追っていたメリアリアは相手を建物の隙間へと追い込んで掌に豪火球を出現させる。

「ぐあぁっ!?」

「蒼太、いまよっ!!」

「・・・・・っ!!」

 それを一気に加速させた状態でわざと相手の前面へと投げ付けてはその足を止めさせるモノの、それが功を奏して怯んだ相手の様子を見たメリアリアが蒼太に向けて叫ぶのと、少年が地面を蹴って跳躍したのは殆ど同時であった。

「かは・・・っ!!」

 そのまま、建物の壁も使って三角飛びの要領で瞬時にウィリアムの背後へと回り込んだ蒼太はすかさず、その後頭部を強かに殴打するモノの、まだ子供だと侮っていた事もあり、ウィリアムは一瞬、呻き声を発したかと思うとそのままその場へと膝から崩れ落ち、倒れ伏してしまった。

「・・・・・っ!!」

「やった・・・っ!!」

 そのまま油断無く相手に駆け寄ると手にした二つの電子錠をその両の手首と足首へと掛けて拘束し、暫く残心を取って様子を伺った後で、ようやくホッとして一息付いた。

「今回は、楽勝だったわね!!」

「うん・・・。本部、本部応答願います、こちらα、繰り返します、こちらα。相手の男の拘束に成功しました、至急応援を願います。繰り返します、こちらα・・・」

 メリアリアからの言葉にそう応えると同時に蒼太は耳に装着していた超小型無線機でセイレーンの本部と連絡を取る。

 通信の結果、本部から2名の増援が送られる事となった、ウィリアムの身柄は彼等へと託された後に本部へと移され、そこで尋問を受ける事となるだろう。

「ふう・・・っ!!」

「今回も、終わったわね・・・」

「うん、無事に済んでなによりだよ。怪我は無かったかい?メリー・・・」

「全然、平気よ!!」

 と、それでも周囲を警戒しながらも自らを気遣ってくれる少年に対してメリアリアが殊更明るく応じてみせる。

「蒼太が、サポートしてくれていたし・・・。それにこの人、新人さんだったのかな?ちょっと経験不足だったみたいだし・・・」

「そっか・・・」

 そう答えて思わず安堵の溜息を漏らすが蒼太はメリアリアの持つこう言った、やんわりとした優しい感じの暖かさも大好きだった、相手に対して辛辣な言葉を決して吐かずにあくまでオブラートに包むのであるが、一方で。

 メリアリアもまた、蒼太が自分に向けて来てくれる優しさに対して胸を躍らせていた、“蒼太が自分を見てくれている”、“こんなに思ってくれているんだ”と思うと嬉しさのあまりに心の底から不思議と勇気と気力とが際限なく湧き上がって来る。

 それはなにがあっても決してへし折れる事の無い、強くて確かな絆の証だ、そしてそれが一体なんなのか、と言うことについては少女は既に、ハッキリとした答えを持つに至っていた。

「だけど今回の任務が本部の近くで助かったわ。これがもし、遠い所だったとしたなら、応援の人が来てくれるまでずっと待っていなければならないもの!!」

「本当だよね」

 と、それについても蒼太は即答するが彼としてもこの時間は本当に緊張する。

 もしかしたなら他にも仲間がいるかも知れず、そうなった場合救助にやって来た相手の増援との間で戦闘が再会されるかも知れないからである、とてもじゃないが気を抜くことは出来なかった。

「だけど本部の人って・・・。一体、誰が来てくれるのかしら?」

「誰が来るかまでは、言っていなかったけれど・・・。とにかく、もう少しの辛抱だね、そこまて行けば今回の任務も無事終了だよ。ただ・・・」

「・・・ただ?」

「ちょっと、気になることがある」

 そこまで話すと蒼太は急に、難しそうな顔をする。

「気になること・・・?なぁに?」

「この人達が、外国のエージェント達が本部の側に屯(たむろ)し始めているって事だ」

「・・・・・っ!!」

 “言われてみれば”、とメリアリアも思った、確かに最近、本部の側で任務に就くことが篦棒(べらぼう)に多くなった、自分もそれに対して何も、思わない訳では無かったけれどもどうやら、それについては蒼太もまた、同様の考えを持っていたらしい。

「本来であれば、ここは秘密の場所の筈なんだ、それなのに・・・」

「・・・・・っ!!」

 何やら考え込んでしまう蒼太に対してメリアリアもまた、単なる偶然とは思えなかった、本部の場所が、外国のエージェント達に知れ渡ってしまっている可能性があり、だとしたら最近になってこの付近での戦闘が、急増している訳も頷ける。

「蒼太・・・っ!!」

「もしかしたなら、僕の気にしすぎかも知れないけれど・・・。もし今度、オリヴィアさん達に会うことがあったら、伝えておいてくれるかい?」

「解ったわ」

 とメリアリアは即座に応じた、ちょうど次の火曜日に、定時の“クイーンズ・カウンシル”が予定されているため、その場で彼女達に相談すると、メリアリアは蒼太に告げる。

「でも。だとしたらただ事ではないわ、セイレーンの本部の場所は、原則として隊員達にしか、知らされていない筈なのだから・・・」

「本当だよね、一体、どこから漏れたんだろう・・・?」

「待たせた」

 二人がそんな事を話していると。

 通路の出入り口の所に車が止まり、そこからはオリヴィアともう一人、肩の高さで切り揃えられた水色の髪を揺らしながら可憐な少女が降りてきた。

「蒼太さん・・・!!」

「アウロラッ!?」

「・・・・・っ!!」

 その場に現れたアウロラに対して蒼太は意外そうな顔を見せ、メリアリアは警戒心を剥き出しにする。

「任務ご苦労様です、本部からターゲットの身柄を受け取って来い、との指令を受けて参りました!!」

「ありがとう、まさか“女王位”が来てくれるとは思わなかったよ。彼がウィリアムだ、既に拘束は完了している」

 と蒼太は未だに意識を回復させないターゲットに対して顔を向けるが自身達もそれを確認したオリヴィアは“そのようだな”と頷くと素早く対象の側に歩み寄り、ヒョイッと肩に担ぎ上げる。

 男性の体は女性のそれよりも重いと言うのに、流石にオリヴィアはよく鍛えられていただけあって動作になんの躊躇いも無く、身のこなしも素早かった。

「あとは我々に任せて。君達はここまま帰還したまえ、報告は私達から入れておく」

「はい解りました、それでは・・・」

「それでは蒼太さん、また・・・」

 アウロラの言葉に蒼太は“う、うん”と気まずげに告げるとメリアリアをチラッと見る。

 案の定、彼女はやや不機嫌そうにしていたモノの、それでも必死になって自分を堪えているのだろう、ジリジリとした焦燥感と緊迫感が伝わって来る。

「・・・・・」

「・・・・・」

 ちなみにメリアリアとアウロラは、最後まで口を聞くことが無かった、二人の間には無言の圧力が充満しておりとてものこと、割って入れるような雰囲気では無い。

 どうやらあの時の事が尾を引いているらしく、仲は未だに修復されてはいないようだ、蒼太は些かビックリしてしまったモノの、自身もまた当事者の一人となってしまっている身である、迂闊な事は言えなかった、だから。

「メリー・・・」

「・・・なんでもないわ」

 そう言う事もあって、蒼太は何も言えなかった、確かに外でするべきような話では無い、と思ったから自粛した、と言う側面もあるにはあったがしかし、それでもせっかくわざわざオリヴィアが来てくれたのである、今現在、彼等が抱えている懸念に付いてあの長い黒髪の女王に直訴をしてみても良かったのであるが、しかし。

 今の蒼太はそれどころでは無かった、恋人(メリアリア)の事が気になって仕方が無く、他の事は取り敢えずは後回しとなった、何よりもかによりも結局は、彼女と寄り添う方を選んだのである。

「行きましょ?」

 そう告げるとメリアリアは、半ば強引に蒼太の手を取って二人で一緒に歩き出した、途中からはその腕に腕を絡めてしがみ付くようにし、肩に頬を擦り付けるようにする。

 この頃、少年の背丈は完全に彼女を追い抜いてしまっており、その身長も額分くらい、蒼太の方が大きくなっていたのである。

「・・・ねえ蒼太」

「ん?」

「なんか、食べよ・・・?」

「う、うん。じゃあ・・・」

 そう言うと蒼太は“何処へ行こうか”と続けると、彼女は“カフェに行きたい”と言う、蒼太はその言葉のままに、よく行く行きつけの店へとメリアリアを案内した。
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