星降る国の恋と愛

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運命の舵輪編

セイレーン編14

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 ガリア帝国の誇る、超秘密組織であるセイレーン。

 その頂点として君臨しているのは男性では決して無かった、その全員が女性で構成されている、“女王の評議会”(クイーンズ・カウンシル)それこそが、セイレーンの事実上の意志決定機関とも言うべき存在であった、そこにー。

 “彼女”は名を連ねていた、“光輝玉のいばら姫”、“炎の聖女メリアリア”。

 それが少女へと向けて与えられた異名であり、尚かつ多大なる功績を挙げ続けて来た彼女に対して贈られた、最大級の賞賛の言葉であった、一方で。

 男性には、そのような組織は存在していなかった、ただし男性に実力者が存在していなかったのか、と言えば、そんな事は決して無かった、女王達のような、纏まった組織として運用されていなかっただけで男性にも凄腕の存在は、それなりにはいたのだ、そんな中に。

 “綾壁蒼太”の名前があった、彼にもまた異名が付けられていた、“疾風の迷走者”、“風の導き手の蒼太”と言う二つがそれだ。

 彼は風を操る真空の魔法を使う事ができ、尚かつ独自の“波動真空呪文”を持っていた、その上。

 かつてエルフの世界を救ったと言う話が、誰ともなくまことしやかに語られるようになっておりその事から名付けられたモノだったのであるが彼はそれについては特に、何を言うものでは無かった、ただ。

(あんまり、有名になって良いことはないな・・・)

 それが彼のいつわざる心境だった、例えば任務で誰かと組ませられた際に、“君がそうか!!”と言われて持ち上げられるし、変な期待もされてしまう。

 それとは真逆に“自分と勝負しろ!!”と、興味本位で決闘を持ちかけられた事も多々あって、そんな時は大抵、一緒にいてくれたメリアリアが制してくれたり、“行きましょ?”と言って連れ出したりしてくれていたので事無きを得ていたのだが時折、どうしても断り切れない事があり、本当は組織の規程で勝手な私闘は禁じられていたのであるが、仕方なしに何度か受けてしまった事があったのだ。

 結果は蒼太の全勝だった、彼はこの時にはもう、それなりに頭角を現し始めて来ており、上層部からも注目をされるほどになっていたのだ、だから。

 当然、そんな彼の事はメリアリア達女王位の間でも何度が話題に昇った事があった、勿論、中にはクロード絡みで議論の中心になった事もあったのであるが、メリアリアの必死の説得と訴えによって蒼太は取り敢えず、クロードと距離を取ってくれることになり、その報告を受けたオリヴィア達他の女王位各位も、取り敢えずは納得してくれたようだったが、そんな彼女達の中にこの冬に、新たな女王が入閣して来た。

 彼女はまだ、10歳になったばかりの初等部生であり、メリアリアよりも3歳年下の大人しい感じの少女だったのだ。

 名を“アウロラ・フォンティーヌ”と言う彼女は有名な財閥である“フォンティーヌ家”の令嬢であり、その可愛らしさと礼儀正しさ、そしてー。

 誰彼構わず優しく接する博愛精神はセラフィム入学当初からクラス中の話題を掻っ攫っていったモノの、中でも特に衆目を集めたのが彼女の髪だ、首の所で切り揃えられたショートの頭髪は、地球の大気を凝縮したかのように真っ青であり、瞳もメリアリアと同じように、透き通った青空色のそれだった、顔は整った可愛らしさとお淑やかな美しさとを醸し出しており、将来美人になることが伺える、だが。

 勿論、ただそれだけならばミラベルの上層部の目に止まる訳は無かった、彼女が認められたのは人格の高潔さと同時に“高い演算能力”と“空間認識能力”、そしてー。

「流石だな、アウロラ。大したモノだ」

「オリヴィアさん・・・」

 数種類の魔法を扱う事が出来る、ずば抜けていた“魔法操作能力”であったのだが、何と最初の任務から既に、アウロラはその高い能力を遺憾なく発揮して見せた、ターゲットは隠密術を操り、更にはゾンビ化させた多数の鳥たちを自在に使役する禁術を扱う隣国、プロイセン帝国の誇る、凄腕のエージェントだったのだ、それを。

 オリヴィアと組んだアウロラは、その能力を発揮させて一瞬で、とはいかなかったモノの、最終的には見事にその男の身柄を拘束する事に成功したのである。

 現場はかつて蒼太やメリアリア達が出動したのと同じ、“フォンテーヌブロー宮殿”である、ここはルテティア郊外にある、森の中に佇んでいる、歴代のガリア帝国皇帝達に愛された、歴史ある場所だった、そこに。

 彼、“バルドゥル・シュナイダー”は潜伏していた、それを察知したオリヴィア達は直ちに現場に急行してその拿捕に向かったのだ。

 バルドゥルは、エージェントとしての戦歴は長い方だ、その活動範囲はガリア帝国を始めとしてエイジャックス連合王国、エトルリア王国、ウィーン・ハンガリー帝国など多岐に渡るが彼自身はそれほどに、戦闘が強い訳では決して無かった、だから。

「オリヴィアさん、次の木陰に気を付けて。罠が仕掛けられています!!」

「解った!!」

 自らが、面と向かって戦うことは殆ど無かった、基本的に彼が姿を現すのは敵が力尽きた後か、止めを刺す場合のみに極限されており、その戦法も、正々堂々としたモノよりも、どちらかと言えば姑息なそれを好んで使うが多かったのだ。

 そんな彼は実に逃げ足が速かった、それにこの森について熟知しているらしく、オリヴィア達は何度も何度も行ったり来たりさせられて、てんてこ舞いをさせられてしまっていたのである。

 挙げ句に。

「その木の根元には窪みがありますから、足下を取られないように気を付けて下さい!!」

「了解!!」

「はあはあっ。ち、畜生が。何なんだ、あの小娘は!!」

 彼女達を引っ掻き回しつつも、バルドゥルは鳥ゾンビによる妨害共々物陰に罠を仕掛けたり、わざと泥濘みに誘導したりと様々な手を打って来たのだ、それを。

「いや、本当に助かったよ。君の“空間認識能力”と“地磁気魔法”には随分と助けられた」

「そんな、褒めすぎです」

 アウロラは悉く粉砕していった、基本的に彼女は一度足を踏み入れた場所の感覚は知覚できるタイプである、だから異変があれば直ぐに気付けるし、何処に何があるのかも大体、把握が出来ていたのだ。

 加えて。

ジェノマギネティック地磁気魔法!!」

「ギャアギャアッ!!」

 鳥ゾンビ達もまた、彼女達に殺到して来ては残らず蹴散らされていた、アウロラの放つ地磁気魔法によって感覚方位を狂わされた鳥ゾンビ達は、続いて放射されていった火炎魔法によって残らず浄化されて行く。

 僅か10歳のアウロラは、それを一人で成し遂げて行ったのである、そして遂に。

「はあはあっ。わ、解った、大人しくする。だから命だけは・・・」

「・・・やれやれ」

 “それでも戦歴を重ねたエージェントか”とオリヴィア達は半ば呆れるモノの、とにもかくにもこうしてアウロラの初任務は大成功に終わった、そしてこの事をもって。

 彼女は名実共に、女王位の仲間入りを果たしたのである、しかし。

「いやはや、少し擦り剥いただけなのに、悪いな」

「良いんです、この位しか・・・」

 “私には出来ませんから”とアウロラはそう応えると、中堅の回復呪文をオリヴィアの肘に向けて発動させるが、そうした彼女の魔法の才能は女王達の誰よりも、メリアリアよりも高かった、と言って良く、現に少女の時分からアウロラは、様々な種類のそれらを操り、使い熟す事が出来ていたのだ。

「しかしアウロラよ。多彩な君であっても唯一、“爆発魔法”だけは使えないのだな」

「・・・・・」

「・・・すまん、気を悪くしたのなら」

「良いんです」

 “だってあれ”とアウロラは続けた、“人殺しの魔法でしょ?”と。

「私は、そんなの使いたくない・・・」

「・・・アウロラ」

 そう答えて寂しそうに微笑みながら呪文を続ける少女の姿を、オリヴィアは複雑そうな面持ちで見つめ続けていた。
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