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運命の舵輪編
セイレーン編3
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蒼太とメリアリアが恋仲となってから更に一年と半年が過ぎようとしていた。
この間、メリアリアの様子は一応は安定していた、時折、それでも草臥(くたび)れ果てたように項垂れていたり、今にも泣き出しそうな雰囲気を漂わせたままで座り込んでいたり、と言った事は何度かあったがそれでも酷く落ち込んだ様子でいるときは無くなって、顔の表情にも幾分、生気と言うか活気が蘇って来ていたのである。
また蒼太とお付き合いするようになってからは、徐々にオシャレにも気を使い始めるようになっていった、と言ってもセラフィムでは必要以上に過度の装飾や化粧等は禁止されていたから余り大っぴらな事は出来なかったがそれでも服を新調してみせたり、髪型を三つ編みに変えて見たり、バッグ等の小物入れを可愛い系からややシックなイメージのそれにしたりと、少しずつ大人を意識した、しかし流行を取り入れたファッションやコーデへと身の回りのモノを進化させて行ったのだ。
それらを蒼太に見せ付けては“どう?、どう?”と尋ねて来た、幸いにして大抵のモノは蒼太は受け入れてくれたけれども時には“う~ん”と唸ったり、“前の方が良かった”と言われる事があって勿論、そう言った場合は元に戻した、メリアリアは蒼太の趣味に合わなければそれを着用したりはしなかったし、そう言う意味で彼女は確実に、蒼太の趣味や感性の影響を受けて行ったのだ。
もっとも、影響を受けて居たのはメリアリアだけでは決して無かった、蒼太もまた身嗜みに気を使うようになり、身形も小綺麗さを保つようにした、一緒にいてメリアリアが恥ずかしく無いようにと心掛けたのだ。
二人の交際は順調だった、付き合っていることは周囲には内緒だったけれど、それでもいつかは、お互いの両親に事の次第を告げてキチンとした形でお付き合いが出来たらと、蒼太もメリアリアも願って止まなかった、しかし。
そんな二人に、もっと言ってしまえば特に蒼太に“青天の霹靂”とでも言う事態が襲い掛かって来た、なんと彼の父、清十郎が任務の最中に戦死してしまい、その後を追うかのように母である楓までもが身罷ってしまった為である。
一人残された蒼太は、自分で自分の食い扶持を稼ぎ出さざるを得なくなり結果、“セイレーンに入ってはどうか?”と言う上からの勧誘を、断ることが出来なくなってしまったのだ。
それは2年前に起きた“エルヴスヘイム事件”を解決した為に為された大抜擢だったのであるが、ちなみに。
一応、“自分自身で判断を見極める為に”1ヶ月間の猶予期間は与えられているモノの、この勧誘は事実上、断れない仕組みとなっていた、上層部の思惑としては将来的に有望な人材を一カ所に集めて管理教育し、国の為に働く若者達を作り上げる目的でセイレーンを創設、運用していたのでありだからこそ、と言うべきか、それに逆らう事は“国是に逆らう”事と同義語だと見做されていたのだ。
その為、もしこの誘いを断るような輩がいた場合は、彼の者はセラフィム卒業後もミラベルや各種協力機関に進ませる事は決してせずに、そのまま市中へと放り出される事となっていた、要するにそれ以上の教育を受けさせず、また国家の機密情報等に触れる機会を与えないようにするのである。
“そのような身勝手な人物は必要ない、国の為の役には立たない”、だからそれ以上、大切にしてやる必要もない、と言う訳だったがそれのみならず、彼等はその後も国の中枢はおろか、著名な研究機関、魔法魔術院への出入りもすらも禁じられる。
そればかりかセラフィムの同志、仲間達に会うことすらも不可とされてしまい、それまで培って来た人脈や関係までもが一切合切絶たれるのであるが、これには彼等への処罰と同時にもう一つ、“見せしめ”の意味もあった。
つまり学生達に対して“去就は自由”としつつもその一方で、“断ったらどうなるか、解っているだろうな?”と言うことをまざまざと見せ付ける訳である。
これが、ガリア帝国の国家権力中枢部の様相であり実態であったのだが、それでも当初は蒼太は断ろうと思っていた、彼はそれ程冒険というモノが(もっと言ってしまえば“戦闘”そのものが)嫌だったのだ。
それはそうだろう、何か使命があってやむを得ず、と言うのならばともかく、よっぽどの事が無い限りかは、誰だって自分の命を危険に晒したい輩など、この世界の何処にも居るわけが無かった。
ところがー。
蒼太はそれを引き受けざるを得なかった、両親が他界してしまった状況下において、頼るべき身寄りの無い蒼太が今後もこの国で生きていくためには国家権力を向こうに回してとてもの事、やっていける訳が無かった。
それに。
エルヴスヘイムの冒険が終わって帰って来た時に、彼は大賢者アルヴィンからこう告げられたのである、“君はいずれ大いなる選択の時を迎えるだろうが先ずはそれまで生きる事だ”と。
(はあぁ・・・)
そう言うことも手伝って、父と母とを一遍になくしてしまった、その悲しみと痛みとを引きずりながら、蒼太は心の中で半ば諦観しつつもミラベル本部にある、“執行役員室”のドアを叩いて中に入る。
するとそこには既に、3名の役員達が詰めており、皆一様に、彼の顔を見つめて来た。
「どうするかね?蒼太君・・・」
「答えは、決まったかな・・・?」
「はい・・・」
蒼太は言った、“お引き受けしようと思います”と。
「そうかね・・・!!」
「よかった・・・」
「いや、断られたならどうしようかと思っていたよ・・・」
彼等は口々にそう言って微笑んだ後で、しかし突如としてやや険しい顔付きになりこう続けた、“幾つか、決まり事は守ってもらうよ”と。
「まず、我々の存在や熟す任務は極秘が前提となっているんだ、解っているね?」
「はい・・・」
「ここに入っている事を、そして与えられた任務の内容を例え親や兄弟、そしているかどうかは解らないが恋人等に他言しないようにな?勿論、友人や他人などには言語道断だ」
「仮にそれを破った場合、君には厳しい処罰が科される事となる。当然秘密を知ってしまった当人達にも累は及ぶ事になるだろう、覚悟しておくことだ」
“如何に”と彼等は続けた、“君がアルヴィン博士のお眼鏡にかなった少年だからと言っても、我々は特別扱いはしない”と。
「良く覚えておきたまえ」
「・・・はい、解っています」
「・・・よろしい!!」
そこまで告げた役員達の表情が再び緩んだ、どうやら今のは所謂(いわゆる)一つの“通過儀礼”だったようだ、もっとも。
それがただの脅しでは無いことは、まだ少年だった蒼太にも充分過ぎる位に解っていた、恐らく、彼等の言う“秘密”を守る為ならば、彼等は“それ”をするだろう、・・・それも恐らく、一切の容赦なく、徹底的にだ。
(誰にも、言ってはいけない・・・!!)
それはつまり、メリアリアにすらも言えないと言う事だ、ただでさえ、自分の運命がどうなるかも解らない世界に身を置く重圧はバカにならないモノがあると言うのに、挙げ句に大切な恋人に対して隠し事までするのは心が捻じ切れる程の悲しさと言うか後ろめたさを感じて流石の蒼太も些か気が滅入る。
“まただ”と彼は思った、“またメリーに内緒で、僕は・・・”と思わず暗い気持ちになるが、そんな少年の心の内を知ってか知らずか、役員達は何処か他人事感全開と言うか、脳天気さすら感じる明るさで“ならば君にパートナーを紹介しよう”と告げて、“彼女”を部屋へと招き入れるが、その姿を見た瞬間、蒼太は驚愕してしまった。
入って来たのは、蒼太が良く知る人物だったのだ。
「メリアリア・カッシーニ君だ。君の事を聞いてな、自らパートナーに志願してくれたのだよ」
「彼女は君より2歳年上だ、まあ日本人なら大丈夫だと思うが・・・。くれぐれも先輩を立てるようにな」
そんな役員達の言葉も、蒼太の耳には入っては来なかった。
信じられなかった、なんで、どうしてメリーが居るんだ、どうなってるんだ、一体・・・っ!!
それがその時の蒼太の思いであり、いつわざる心境だった。
一方で。
思わず狼狽してしまう蒼太とは対照的に、メリアリアの瞳は落ち着いた、それでも何処か悲しそうな輝きを放っており、唇をクッと結んだままで身動ぐ事無く彼をジッと凝視し続けていた。
この間、メリアリアの様子は一応は安定していた、時折、それでも草臥(くたび)れ果てたように項垂れていたり、今にも泣き出しそうな雰囲気を漂わせたままで座り込んでいたり、と言った事は何度かあったがそれでも酷く落ち込んだ様子でいるときは無くなって、顔の表情にも幾分、生気と言うか活気が蘇って来ていたのである。
また蒼太とお付き合いするようになってからは、徐々にオシャレにも気を使い始めるようになっていった、と言ってもセラフィムでは必要以上に過度の装飾や化粧等は禁止されていたから余り大っぴらな事は出来なかったがそれでも服を新調してみせたり、髪型を三つ編みに変えて見たり、バッグ等の小物入れを可愛い系からややシックなイメージのそれにしたりと、少しずつ大人を意識した、しかし流行を取り入れたファッションやコーデへと身の回りのモノを進化させて行ったのだ。
それらを蒼太に見せ付けては“どう?、どう?”と尋ねて来た、幸いにして大抵のモノは蒼太は受け入れてくれたけれども時には“う~ん”と唸ったり、“前の方が良かった”と言われる事があって勿論、そう言った場合は元に戻した、メリアリアは蒼太の趣味に合わなければそれを着用したりはしなかったし、そう言う意味で彼女は確実に、蒼太の趣味や感性の影響を受けて行ったのだ。
もっとも、影響を受けて居たのはメリアリアだけでは決して無かった、蒼太もまた身嗜みに気を使うようになり、身形も小綺麗さを保つようにした、一緒にいてメリアリアが恥ずかしく無いようにと心掛けたのだ。
二人の交際は順調だった、付き合っていることは周囲には内緒だったけれど、それでもいつかは、お互いの両親に事の次第を告げてキチンとした形でお付き合いが出来たらと、蒼太もメリアリアも願って止まなかった、しかし。
そんな二人に、もっと言ってしまえば特に蒼太に“青天の霹靂”とでも言う事態が襲い掛かって来た、なんと彼の父、清十郎が任務の最中に戦死してしまい、その後を追うかのように母である楓までもが身罷ってしまった為である。
一人残された蒼太は、自分で自分の食い扶持を稼ぎ出さざるを得なくなり結果、“セイレーンに入ってはどうか?”と言う上からの勧誘を、断ることが出来なくなってしまったのだ。
それは2年前に起きた“エルヴスヘイム事件”を解決した為に為された大抜擢だったのであるが、ちなみに。
一応、“自分自身で判断を見極める為に”1ヶ月間の猶予期間は与えられているモノの、この勧誘は事実上、断れない仕組みとなっていた、上層部の思惑としては将来的に有望な人材を一カ所に集めて管理教育し、国の為に働く若者達を作り上げる目的でセイレーンを創設、運用していたのでありだからこそ、と言うべきか、それに逆らう事は“国是に逆らう”事と同義語だと見做されていたのだ。
その為、もしこの誘いを断るような輩がいた場合は、彼の者はセラフィム卒業後もミラベルや各種協力機関に進ませる事は決してせずに、そのまま市中へと放り出される事となっていた、要するにそれ以上の教育を受けさせず、また国家の機密情報等に触れる機会を与えないようにするのである。
“そのような身勝手な人物は必要ない、国の為の役には立たない”、だからそれ以上、大切にしてやる必要もない、と言う訳だったがそれのみならず、彼等はその後も国の中枢はおろか、著名な研究機関、魔法魔術院への出入りもすらも禁じられる。
そればかりかセラフィムの同志、仲間達に会うことすらも不可とされてしまい、それまで培って来た人脈や関係までもが一切合切絶たれるのであるが、これには彼等への処罰と同時にもう一つ、“見せしめ”の意味もあった。
つまり学生達に対して“去就は自由”としつつもその一方で、“断ったらどうなるか、解っているだろうな?”と言うことをまざまざと見せ付ける訳である。
これが、ガリア帝国の国家権力中枢部の様相であり実態であったのだが、それでも当初は蒼太は断ろうと思っていた、彼はそれ程冒険というモノが(もっと言ってしまえば“戦闘”そのものが)嫌だったのだ。
それはそうだろう、何か使命があってやむを得ず、と言うのならばともかく、よっぽどの事が無い限りかは、誰だって自分の命を危険に晒したい輩など、この世界の何処にも居るわけが無かった。
ところがー。
蒼太はそれを引き受けざるを得なかった、両親が他界してしまった状況下において、頼るべき身寄りの無い蒼太が今後もこの国で生きていくためには国家権力を向こうに回してとてもの事、やっていける訳が無かった。
それに。
エルヴスヘイムの冒険が終わって帰って来た時に、彼は大賢者アルヴィンからこう告げられたのである、“君はいずれ大いなる選択の時を迎えるだろうが先ずはそれまで生きる事だ”と。
(はあぁ・・・)
そう言うことも手伝って、父と母とを一遍になくしてしまった、その悲しみと痛みとを引きずりながら、蒼太は心の中で半ば諦観しつつもミラベル本部にある、“執行役員室”のドアを叩いて中に入る。
するとそこには既に、3名の役員達が詰めており、皆一様に、彼の顔を見つめて来た。
「どうするかね?蒼太君・・・」
「答えは、決まったかな・・・?」
「はい・・・」
蒼太は言った、“お引き受けしようと思います”と。
「そうかね・・・!!」
「よかった・・・」
「いや、断られたならどうしようかと思っていたよ・・・」
彼等は口々にそう言って微笑んだ後で、しかし突如としてやや険しい顔付きになりこう続けた、“幾つか、決まり事は守ってもらうよ”と。
「まず、我々の存在や熟す任務は極秘が前提となっているんだ、解っているね?」
「はい・・・」
「ここに入っている事を、そして与えられた任務の内容を例え親や兄弟、そしているかどうかは解らないが恋人等に他言しないようにな?勿論、友人や他人などには言語道断だ」
「仮にそれを破った場合、君には厳しい処罰が科される事となる。当然秘密を知ってしまった当人達にも累は及ぶ事になるだろう、覚悟しておくことだ」
“如何に”と彼等は続けた、“君がアルヴィン博士のお眼鏡にかなった少年だからと言っても、我々は特別扱いはしない”と。
「良く覚えておきたまえ」
「・・・はい、解っています」
「・・・よろしい!!」
そこまで告げた役員達の表情が再び緩んだ、どうやら今のは所謂(いわゆる)一つの“通過儀礼”だったようだ、もっとも。
それがただの脅しでは無いことは、まだ少年だった蒼太にも充分過ぎる位に解っていた、恐らく、彼等の言う“秘密”を守る為ならば、彼等は“それ”をするだろう、・・・それも恐らく、一切の容赦なく、徹底的にだ。
(誰にも、言ってはいけない・・・!!)
それはつまり、メリアリアにすらも言えないと言う事だ、ただでさえ、自分の運命がどうなるかも解らない世界に身を置く重圧はバカにならないモノがあると言うのに、挙げ句に大切な恋人に対して隠し事までするのは心が捻じ切れる程の悲しさと言うか後ろめたさを感じて流石の蒼太も些か気が滅入る。
“まただ”と彼は思った、“またメリーに内緒で、僕は・・・”と思わず暗い気持ちになるが、そんな少年の心の内を知ってか知らずか、役員達は何処か他人事感全開と言うか、脳天気さすら感じる明るさで“ならば君にパートナーを紹介しよう”と告げて、“彼女”を部屋へと招き入れるが、その姿を見た瞬間、蒼太は驚愕してしまった。
入って来たのは、蒼太が良く知る人物だったのだ。
「メリアリア・カッシーニ君だ。君の事を聞いてな、自らパートナーに志願してくれたのだよ」
「彼女は君より2歳年上だ、まあ日本人なら大丈夫だと思うが・・・。くれぐれも先輩を立てるようにな」
そんな役員達の言葉も、蒼太の耳には入っては来なかった。
信じられなかった、なんで、どうしてメリーが居るんだ、どうなってるんだ、一体・・・っ!!
それがその時の蒼太の思いであり、いつわざる心境だった。
一方で。
思わず狼狽してしまう蒼太とは対照的に、メリアリアの瞳は落ち着いた、それでも何処か悲しそうな輝きを放っており、唇をクッと結んだままで身動ぐ事無く彼をジッと凝視し続けていた。
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