星降る国の恋と愛

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運命の舵輪編

エルヴスヘイム事件8

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「は、8歳?まだ8歳なのっ!?」

「え、ええ。そうです・・・」

 オウンガルズの街を出てから、更に3日。

 蒼太達は漸くにして目的地である“イェレベスタ大山脈”の麓に広がる大森林“アストライア”に到達した。

 その中枢部にあるエルフの隠れ里で情報収集と山岳地帯への装備を充実させた蒼太達は早速次の日の朝、日の出と共に山登りを開始するが平地と違い、中々思った様に進めない。

 しかも山道は勾配に緩急が付いており、曲がりくねってもいて直進できなかった、地面は固かったり、泥濘んでいたりと安定せずに足下が覚束ない事も何度かあった、それでも。

「はあ、はあ、はあ・・・っ!!」

「ふう、ふう・・・っ。大丈夫か、みんな!!」

「はあ、はあっ。まあね、なんとか!!」

「こっちは全然、平気だよっ!!」

「蒼太は、無事か?」

「はあ、はあ・・・っ!!は、はい。大丈夫です」

 蒼太達は誰一人欠ける事無く、そのキツい斜面を走る道を、目的の鍾乳洞目掛けて一歩一歩ずつ登って行った、途中で何度か休憩を取って汗を拭い、呼吸を整えて足を労(いたわ)る。

 流石に心配になったのか、実質的なリーダーでもあるアイリスが皆を気遣う場面もあったがレアーナもミリスも、やや呼吸を荒げつつもそれにしっかりと応え、蒼太もまた、息を整えつつもそれに応じる。

 流石にケロリと言う訳では無いが、それでも彼の全身には精力が漲り、声にも張りがある、まだまだ余裕そうだと、アイリスは内心で安心すると、更に先へと歩を進めて行く。

 景色は何度か移り変わり、森林だったかと思えば岩肌だらけになったり、かと思えば今度は川が流れていたりと目だけは楽しませてくれる。

 天気もまた、負けず劣らずコロコロと変わり、晴れていたのが曇りになり、雨になってはまた晴れる、と言うことを繰り返していた。

「だけど蒼太は偉いよね?まだ8歳でここまで戦えるなんて・・・!!」

「ごめんね、最初はビックリしたでしょ?」

「そ、そんなこと。全然平気ですよ!!」

 山登りの途中でレアーナ達がそう声を掛けてくるモノの蒼太はそれに対して蒼太は敢えて明るい笑顔を作り、なるべくハキハキと言葉を返した、この3日間でレアーナとミリスとも大分打ち解ける事が出来た、それはアイリスとも同じ事であり、良い関係を築けていたから人間関係、と言う事に関するならば正直ホッとしているところだ。

(だけど疑問だなぁ。どうして最初、アイリスさんは一人で居たんだろう・・・)

 と蒼太は思うがあの時の彼女は確実に金銭的に困っていた、それこそ次の日の食事にすら頭を悩ませる程に。

(ギルドに、入って無いんだろうか。でも異世界に出稼ぎに行っていた事があるって言っていたし・・・)

 こう言ってはなんだが彼女は冒険者としては、中々に頼り甲斐のある人だと、蒼太は思っており、それに腕も確かだと彼は感じていた、弓矢以外でも短剣を扱える上に、多少なりとも魔法も熟すことが出来る存在である、まさにオールラウンダーだ。

 年齢だってこのパーティーの中では1番上だろうし、姉貴分としての資質もある、またこれはレアーナとミリスも同様の事が言えたが、こと戦闘になった場合の彼女達の勇猛果敢さは、まだ子供の蒼太をして“これが戦士としての気構えなんだ”と自覚させるのに充分だった。

(だけどなんでかな?本当になんで僕なんだろう。“皆を和合させる存在”って一体・・・)

 そこまで考えた時に、不意に蒼太は魔物の気配を感じて身構えるがそう言った精神の研ぎ澄まし方はもう、一流の冒険者のそれと比べても遜色が無かった。

「・・・・・っ!?」

「全くもう、ただでさえ坂がキツいって言うのに!!」

 他の面々も、それを感じ取った様子であり瞬く間に戦闘準備を完了させた、そこへ。

 “グゴオォォォアッ”と言う雄叫びと同時に大地が揺れて、木々の間から巨大な人型の魔獣が姿を現した。

「なにっ!?」

「うそっ!!」

「バカな!!」

 “トロルだと”と、驚愕の表情で全員が告げるが、蒼太だけはピンと来なかった、ただし。

 その場にいた皆の反応と空気から“不味い奴が来た”と直感していた、その体躯は人間やエルフを遥かに超えて大きく、力もその分強そうだった、あんなのの攻撃を受けたなら、自分など一溜まりも無く潰されてしまうだろう事は、幼い彼にも容易に想像出来る。

 しかし。

 厄災は、それだけでは終わらなかった、“ゲッ、ギャッ。グワッ!!”と言う意味不明な鳴き声と同時にそれまで出て来た連中とは段違いに大きな身体を持つゴブリンと、まるで豚と人間とを掛け合わせて魔獣化させたような化け物までが現れて、周囲に数を増やして行く。

「ゴブリンの成体に、オークか・・・!!」

「ちょっとマジ!?討伐ランク凄い上がってんじゃん!!」

「・・・それでもっ!!」

 “やるしか、無いわね!!”と短く叫んでそう告げると、先ずはレアーナがオークの群れへと突っ込んで行き、そしてー。

 その戦闘態勢が整い切る前に距離を詰めると装備したヌンチャクを振り回して先ずは先頭にいたオークの頭に一撃喰らわせた後で透かさず二撃目を放ち、右手に持っていた腐った槍を叩き落とさせた、その上で。

 更に後頭部へと一撃を叩き込んで卒倒させるとそのまま勢いに乗ってオークの群れを相手に大立ち回りを演じ始めた。

 “ゲガオオオォォォォッッ!!”とそれを見て激高したのか、他のオーク達が一斉に行動を開始してレアーナと此方に向かってくるのが見えた。

 それに向かって透かさずアイリスが弓矢を構え、次々と射倒して行く。

 彼女の弓は百発百中で、狙いはあまたずオーク達の眉間に命中してはその命を奪い去って行った。

 一方のミリスはゴブリンの成体へと飛び掛かると先ずはそのまま顎に蹴りを入れてのたうち回らせ、その隙に手にした釵(さい)を首めがけて突き刺して相手を絶命させてゆく。

 姉妹達が使う武器の先端や刃物の部分には猛毒が仕込まれており、狙った場所も相俟って相手に確実な死をもたらすように工夫されていたのだ、そんな過熱して行く戦場にあってー。

 最初の内は蒼太はただ、見ているだけしか出来なかった、流石の彼もどうして良いのか解らなかったのだ、無理もないだろう、これほどの大軍を相手に闘った経験など少年にはまだ無かったし、自分自身の戦い方のスタイルもまだ、確立されていなかった。

 しかも相手はただ数が多いと言うだけでは無い、一体一体の体格が自分よりも上であり、何よりも此方を殺す気満々で迫ってくるのだ、ただ“あの波に飲まれたら終わりだ”と、それだけは思ったが、じゃあどうすれば良いかという、具体的な対策を打ち出す事が出来なかった。

 しかし。

 “いけない!!”と彼は思った、自分も何かやらなきゃいけない、このパーティーのメンバーであり戦力なのだ、役に立たなければならない。

 第一に。

 この極限の状態で何もしない、と言うのは自殺行為であると、それだけはハッキリと自覚していた、このままでは確実にやられてしまうし、仲間たちだって力尽きてしまうだろう、死んでしまう事は何としても避けたかった、だから。

「・・・・・・っ!!!」

 彼はここで初めての、“魔法”を使うことにした、その修練自体は既に母親からみっちりと叩き込まれていたし、セラフィムに入ってからだって、初歩的な威力でならば何度となく発動させている、問題は全くない。

 そこに更に練り上げた、自身の波動を混ぜ込んで発動させる“波動真空呪文”、それを。

 今現在、自分が放てるマックスパワーで放つことにした。

「深淵から湧き出る命の流れ、永久(とこしえ)の宇宙(そら)の大いなる息吹よ、我が手に集いて力となれ・・・」

 呪文を詠唱すると同時に意識を思いっ切り研ぎ澄ませて今、この瞬間に集中してゆく。

 全身を使って山々を吹き抜けて行く自然の大いなる“気”の流れを、即ち“風”を感じ取り、それと一体化して行った。

 やがてー。

 蒼太の周りに風が渦を巻き始めてパリパリとした放電現象がそこかしこで発生する。

 それは“エーテルのプラズマ化”であり、魔法がこの世界に顕現し始めた証拠であった、やがてその渦は限界を超えて加速して行き、周囲に強烈な真空刃を生み出させてそこにあるモノを容赦なく切り刻み始めた。

「・・・・・っ!?」

「!?!?」

「そう、た・・・?」

「・・・・・!!!」

 驚愕の表情でそれを見つめる仲間達を尻目に“出来た”と蒼太は確信した、これで準備は整った、後は呪文の名を叫んでー、つまりは命を吹き込んで思いっ切り解き放つだけー。

「みんな、避けて!!」

「・・・・・っ!!」

 エルフの耳は、人間よりも遥かに良い、その言葉を聞き届けたアイリスも、レアーナも、ミリスも皆思い思いの方角へと飛び退いて、木陰や岩陰に身を潜める。

「“インフィニテッツァ・ブリージア”!!」

 その直後に。

 蒼太は遂に、引き金を引いた、するとそこからは猛烈な勢いで荒れ狂う複数の竜巻が次々と発生しては消えて行き、その爪痕を大地へと刻み込んでいった、それに飲み込まれた魔物の群れはみな容赦なく消し飛んで行き、光の粒子となって忽ちの内に宇宙(おおぞら)へと帰って行った、そしてー。

 やがて、その風と大気と大地の怒りが収まった時に、そこにもはや、生命は存在していなかった、ただ荒れ果てた荒野がどこまでも広がっているだけだった、大軍の姿も無かったし、トロルすらも何処に行ったか、影も形も無くなっていた。

「・・・・・」

「蒼太・・・」

「すっごい・・・」

 流石のアイリスもレアーナもミリスも、みな一様に驚いて固まってしまっていた、まさかこの年端も行かない少年が、その実これほどの力を隠し持っていたとは夢にも思わなかったのである。

「ち、ちょっと、ちょっと!!」

「やるじゃん、蒼太!!」

 透かさず、レアーナ達が少年に駆け寄って行くが当の本人はまるで信じられないモノを見るかのようにただ呆然としてそこに立ち尽くしてしまっている。

「・・・・・」

「蒼太ったら、どうしたのさ?」

「まさか力を使い果たしちゃったとか!?」

「蒼太・・・」

 ワイのワイの騒ぐ二人の背後から、アイリスがそっと近付くと優しく彼を抱き締めた、そして“忘れろ”と言った、“君のせいでは無い”と付け加えた。

 そうしてやることが、この心の優しい少年へのせめてもの情けだと思った、彼女は蒼太が自分が仕出かした事の衝撃と悔恨の余りに呆けてしまったのだと考えたのである。

「蒼太・・・?」

「・・・いいえ、大丈夫です」

 あくまで自分を気遣ってくれる冒険者の先達にそう応えると、蒼太は水筒を取り出して思いっ切り水を飲んだ。

 “しっかりしなきゃ”と思った、まだ戦いは始まったばかりだと気合いを入れ直すがこの日、エルヴスヘイムで青銅の月、27の日。

 蒼太は生まれて初めて生の、そしてガチの殺し合いを、もっとハッキリと言ってしまえば“戦争”を経験した、それだけに留まらず多くの存在の命を奪った、ある意味では大量殺戮だった。

 一応、述べておくと“戦果”はオークが17匹、ゴブリン8匹、そしてトロルが一匹だった、残ったモノは散り散りとなって何処かへと姿を消した。

「・・・行きましょう!!」

「解った」

 “僕なら大丈夫です”と告げる蒼太に“当てにしているぞ”と返すとアイリスはまたも前衛を引き受けてくれた、4人は再び隊列を組み直して山奥目指して歩を進めて行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
 蒼太君の用いた“波動真空呪文”には、初級だとか最上級だとかの、いわゆる“クラス”は存在しません。

 あれはただ、使い手のレベルによって威力が上下するために、子供の頃の蒼太君ではこれが精一杯の威力だったのです(一応、その他の、つまり一般的な呪文に付いては4段階あります、“初級”、“中級”、“上級”、そして“最上位”です。ちなみに皆様方の想像に寄せて応えるならば、今現在の蒼太君の実力では威力は“中堅クラスの魔法+α”と言ったところでしょうか。)、まだ8才の蒼太君がこれクラスの魔法を発動させられる事は充分に驚愕すべき事です。

 ちなみにこのお話で蒼太君は初めて(相手は魔物ですけどね)少なくとも存在の命を奪いました、それも大量にです。

 その是非については、皆様方の判断に委ねたいと思います。
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