メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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闇夜の如き城山城趾

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 現場に到着すると、そこはもうすでに禍々しい空気に覆われていた。

 それは圧倒的な邪気であり弱い者ならば触れただけで死ぬか、気が狂ってしまうだろう事は、その場にいた誰もが簡単に想像できた、それほどまでに強烈な邪気だったのである。

「これは凄いな・・・」

「ここまでの圧を掛けてくるとは・・・」

 先輩や兄達が驚愕する中で、蒼太は身が竦む思いに駆られていた、後方待機を命じられているとは言えども大丈夫だろうかと、ある種の不安が頭を過る。

「行くぞ」

 気圧されている面々に対して流石に清十郎は冷静だった、油断無く辺りを見渡すと先頭に立って歩き始める。

「大丈夫だ、もっと強大な鬼と対峙した事があるのを忘れたか?我らは強い、第一毎日死ぬような訓練をしてきているだろうに」

 その言葉に全員、ハッと我に返った、そうだ、自分達とてそれだけの底力を秘めているのだ、それに結界を通してではあるが、それでも清十郎の言う通り、伝説級の鬼とだって対峙した経験がある、負けるわけが無い。

 各自、そう思い直すと落ち着きを取り戻した門下生一同は、それでも慎重に周囲を警戒しながら清十郎の後に付いて歩き出した、目指すは山頂である城山城趾公園中心部。

 そこに鬼は居るという清十郎の直感だった。

 季節は夏とは言えども夜の漆黒は来る者を飲み込もうとするかのように深く、また山道は険しかった、すぐ脇は切り立った崖であり注意して進まなければ底へと真っ逆さまに転げ落ちてしまうだろう。

 そんな中で、蒼太は自身の心に流れて来る不安と恐怖とを“受け流して”いた、一つの思考に染まらる事無く常に第三者の視点から自身を見つめ、思考すら受け流す。

 そう言ったいわゆる想念とか思念に飲み込まれないようにするための訓練も彼は受けていたのでありそれらを駆使して恐怖や疑心暗鬼のもたらす荒々しい波動に染まらないようにしていたのだ。

 とは言えどもこの時間の山歩きと言うモノは中々に厳しいモノがあった、夜目を利かせる鍛錬も受けていた蒼太を始め、一族の者達は皆、漆黒の闇夜であっても周囲になにがあるのか、どうなっているのかが一目瞭然に視認出来た。

 が、一般人ならば話は別だろう。

 おそらくは懐中電灯でも無ければ周囲の状況を確認できまい。

 ましてや夜の山は異界だ、鬼以外にも其処此処に妖の気配が立ち込めており、絶えず誰かに見つめられている感覚がして改めて自分達が今、常ならぬ場所にいるのだ、と言う事を再認識させられる。

(兄さん達は、そう言った訓練も既に受けているらしいけど、僕の場合はまだだからな。来年には確か、一人でこういう所に来させられると思うけど・・・)

「・・・・・っ!!!」

 そんな事を考えていると突然、清十郎が足を止めて周囲を見渡し、視線をそのまま山頂へと移した。

 その直後。

 そこからは強烈な豪風が吹き下ろされてその場にいた全員の体を通り過ぎて言った、蒼太にはそれがまるで何かの雄叫びのようにも聞こえたのだが、果たして。

「・・・今のを“聞いた”か?」

 その直後に父である清十郎が後ろを振り向いて確認する。

 どうやら思い過ごしなどでは無かったようで今のが鬼の放つ雄叫びだったようだ。

「相手は相当に御立腹らしいな。皆、気を引き締めて行け!!」

 そう言うと清十郎は無言で前を見据えて歩き出した、それに続く一族の者達ももう、無駄口を利くおちゃらけた気分は一掃されたらしく、皆精悍な戦士のそれになっていた。

「蒼太」

「はい父さん」

「お前はここに残っていなさい、これ以上は危険過ぎる」

「一緒に、連れて行くべきでは無いですか?父上」

「いや、今の状況を察するに、鬼は真っ先に蒼太を狙ってくる可能性が高い。これ以上進むと向こうの探知圏内に入り込む恐れがある、とすればどこにいても蒼太は危険だろう。ここから先に入らなければ大丈夫だ」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・解りました、気を付けて」

「うん、お前もな。とにかく油断するな」

 そう告げると清十郎はまた頂上への道を歩き始めた。

「蒼太、充分に気を付けろよ?相手は鬼だ、何をするのか解ったもんじゃない」

「うん、兄さんも・・・」

「ああ、じゃあ行ってくる」

 そう告げると晴児や行成達もまた、清十郎にくっ付いて頂上へと向かっていった。
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