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家の事情
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蒼太の実家は代々続く忍者の家系だ、それも特殊部隊に入るなどして成果を挙げる、いわゆる“表忍”とは違う完全なる裏方、いわゆる“裏忍”の家系だった。
その技術や生き方は秘中の秘とされており外に不用意に漏らすことは無いようにと、何かにつけて両親から言い聞かされていた。
その朝も早くて午前4時から起こされては走り込みをやらされ兄弟達と乱取り稽古、教育機関から帰ってくれば今度は筋トレと術の稽古が夜まで続き、平日は休み無く扱かれる。
休日は僅か一日だけ、日曜日だけが完全休業日でありその日は朝からメリアリアと共に遊ぶと言う日常を、蒼太は幼稚園の頃からずっと繰り返していた。
「蒼太、また傷が付いてるね・・・」
「うん、この前父さんにやられたんだ。これくらい防げるようにしろって言われた」
「そっか・・・」
年中組に上がってまだ間もない頃、二人で遊んでいる時にメリアリアが心配そうな表情で幼馴染みの少年の顔や体を覗き込むようにするモノの、そう言う彼女もまた幼少の砌より毎日家で同じような修行三昧の日々を送っていたのでありこの少年と過ごすときが唯一の心の安らぎでもあった。
もっともメリアリアの場合は魔法や薬学に秀でていたからそれほど苦痛では無かったが蒼太の場合は違っていた、物凄い力を持って生まれてきていたのに、それにちっとも気付いていないと、父である清十郎と母である楓から徹頭徹尾指導されて毎日をヘロヘロになりながら過ごしていたのだ。
「おじさんもおばさんも、厳しいんだ」
「厳しいなんてもんじゃないよ、鬼だよ鬼、悪魔だよ、悪魔人間だよ!!」
「あはははははっ。なにそれ酷いよ!!」
実の父親をデビルマン(と母親をデビルマンレディー)呼ばわりしてしまう、ちょっとかわいそうな子、綾壁蒼太。
だけど。
「どこもいっしょだよ、家も厳しいよ?指導される時は甘えなんて許されないもん」
「アルベルトさんが?」
「ううん、お母さんも」
「イレーネさんも、厳しいんだ」
少し意外そうな顔をする蒼太だったがそんな彼と過ごす時間が、メリアリアにとってはとても貴重だった、彼とお話していると楽しくて、不思議と元気をもらえるのだ。
それに蒼太は一々メリアリアの言うことを否定しなかった、昔から感性の人一倍鋭いメリアリアは他の子供達が見えないモノが見えたり、また気付けない事にも気が付いたりしたのだ。
ところがそんな時に他の子に何か言っても“うそだろ!?”とか“信じらんなーい”とか言われて酷い時は相手にされない場合だってあった、それなのに。
「そっか、メリーのお家もそうなんだ」
「うん、もう指導する時はスパルタだよ、スパルタ」
「この前話してた、ギリシアの都市でしょ!?」
「覚えていてくれたんだ!!」
そこからまた、二人の会話に花が咲くがメリアリアの両親の内アルベルトは温和な人柄の名士、イレーネは豪快な性格をしていて二人ともどちらかというと宮廷魔術師と元神官長と言うよりも中小企業の社長さんと女将さんと言った方が正しい風貌をしていた。
一方の蒼太の両親はと言えば一族しか入門出来ない道場の主と修験者の娘であり、メリアリアの両親に比べればその社会的地位は決して高いモノでは無かったが、しかしアルベルトとイレーネはそんな事にはお構いなく綾壁家に接してくれていた。
それは嬉しい反面蒼太にはずっと疑問だった、小さな頃の彼にはまだ、自身の両親の実力や人格が他の人から信用されるどころか、一目置かれる程のモノである、と言う事が理解できずにいたのだ。
しかしともあれ、そんな両親達のお陰で確かに彼等二人の実力はメキメキと伸びて行った、特にメリアリアは魔法力と魔法操作能力、薬学の調合に関するセンスが、そして。
蒼太は腕力と体力、生命力の面で同年代の誰よりも一歩も二歩も先んじていたのだ。
その技術や生き方は秘中の秘とされており外に不用意に漏らすことは無いようにと、何かにつけて両親から言い聞かされていた。
その朝も早くて午前4時から起こされては走り込みをやらされ兄弟達と乱取り稽古、教育機関から帰ってくれば今度は筋トレと術の稽古が夜まで続き、平日は休み無く扱かれる。
休日は僅か一日だけ、日曜日だけが完全休業日でありその日は朝からメリアリアと共に遊ぶと言う日常を、蒼太は幼稚園の頃からずっと繰り返していた。
「蒼太、また傷が付いてるね・・・」
「うん、この前父さんにやられたんだ。これくらい防げるようにしろって言われた」
「そっか・・・」
年中組に上がってまだ間もない頃、二人で遊んでいる時にメリアリアが心配そうな表情で幼馴染みの少年の顔や体を覗き込むようにするモノの、そう言う彼女もまた幼少の砌より毎日家で同じような修行三昧の日々を送っていたのでありこの少年と過ごすときが唯一の心の安らぎでもあった。
もっともメリアリアの場合は魔法や薬学に秀でていたからそれほど苦痛では無かったが蒼太の場合は違っていた、物凄い力を持って生まれてきていたのに、それにちっとも気付いていないと、父である清十郎と母である楓から徹頭徹尾指導されて毎日をヘロヘロになりながら過ごしていたのだ。
「おじさんもおばさんも、厳しいんだ」
「厳しいなんてもんじゃないよ、鬼だよ鬼、悪魔だよ、悪魔人間だよ!!」
「あはははははっ。なにそれ酷いよ!!」
実の父親をデビルマン(と母親をデビルマンレディー)呼ばわりしてしまう、ちょっとかわいそうな子、綾壁蒼太。
だけど。
「どこもいっしょだよ、家も厳しいよ?指導される時は甘えなんて許されないもん」
「アルベルトさんが?」
「ううん、お母さんも」
「イレーネさんも、厳しいんだ」
少し意外そうな顔をする蒼太だったがそんな彼と過ごす時間が、メリアリアにとってはとても貴重だった、彼とお話していると楽しくて、不思議と元気をもらえるのだ。
それに蒼太は一々メリアリアの言うことを否定しなかった、昔から感性の人一倍鋭いメリアリアは他の子供達が見えないモノが見えたり、また気付けない事にも気が付いたりしたのだ。
ところがそんな時に他の子に何か言っても“うそだろ!?”とか“信じらんなーい”とか言われて酷い時は相手にされない場合だってあった、それなのに。
「そっか、メリーのお家もそうなんだ」
「うん、もう指導する時はスパルタだよ、スパルタ」
「この前話してた、ギリシアの都市でしょ!?」
「覚えていてくれたんだ!!」
そこからまた、二人の会話に花が咲くがメリアリアの両親の内アルベルトは温和な人柄の名士、イレーネは豪快な性格をしていて二人ともどちらかというと宮廷魔術師と元神官長と言うよりも中小企業の社長さんと女将さんと言った方が正しい風貌をしていた。
一方の蒼太の両親はと言えば一族しか入門出来ない道場の主と修験者の娘であり、メリアリアの両親に比べればその社会的地位は決して高いモノでは無かったが、しかしアルベルトとイレーネはそんな事にはお構いなく綾壁家に接してくれていた。
それは嬉しい反面蒼太にはずっと疑問だった、小さな頃の彼にはまだ、自身の両親の実力や人格が他の人から信用されるどころか、一目置かれる程のモノである、と言う事が理解できずにいたのだ。
しかしともあれ、そんな両親達のお陰で確かに彼等二人の実力はメキメキと伸びて行った、特にメリアリアは魔法力と魔法操作能力、薬学の調合に関するセンスが、そして。
蒼太は腕力と体力、生命力の面で同年代の誰よりも一歩も二歩も先んじていたのだ。
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