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06.【異能】
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「…んっ…………」
「ふっ…………」
黴臭い閉鎖空間にアンナの押し殺した呻き声と、何処からか漏れ落ちる漏水が石畳に跳ねる音が飽和していく。
(何のつもりなの…)
口角を緩め、渇いた唇を時折舌でなぞるユウはアンナから数歩退いた所で傍観者に徹している。
自身の貞操などあっという間に奪われるのかと思いきや、改めてアンナの秘部に例の異能で触れたのを最後にまるで手を出してくる様子がないのだ。
(ユウの目的は?補給路の情報?それとも報復?何でこんなに回りくどい事をするの?)
ユウの着衣は帝国製の物で間違いない。この牢獄もそうだろう。ただユウ一人で尋問に応っている事も不可思議だ。長く見積もってもユウが帝国に下ったのは春頃の筈だ。その短期間で超越者の尋問を一任されるだけの信頼を得ているとは思えない。何か裏がある。そう考えながらも冷たい汗が首筋を撫でる。
「…ぅ……」
「さっきから随分ともどかしそうだなぁ?」
「う、うるさい!」
おそらくユウの異能のせいだ。アンナの意思に背き、腰が一定の間隔を置きピクリと座板から浮き上がる。陰核がどうしようもなく疼いているせいだ。何に触られるわけでもなく、微弱な刺激を断続的に送り込んでくるのだ。それは刺激と呼ぶにはあまりに頼りない、薄い手拭いを幾枚重ねた上から円いペン先で擦るような儚い摩擦に過ぎない。だだ二人きりの静謐な空間では嫌でも敏感な性器へのタッチが主役になってしまい、臀部や腹筋までか弱い電気刺激が伝播してしまう。
「今までイったことは?」
「…知らない」
下劣な会話であっても、幾分か気は紛れる。もちろん気を遣るという意味は知識としては知っている。ただ実経験としては以前の世界では無かったし、転生後は尚更の事だった。
「あんたこそロクに経験無いんでしょ?そうやって眺めてるだけ?」
挑発。
「そうなんだよ、だから加減がわからなくってさぁ。とりあえず弱めにしてやったから、せいぜいゆっくりイキな」
「馬鹿にして……んっ……こんなのでそうなるわけ、無い。くすぐったいだけよ」
半分嘘だ。筋肉は微弱ながらも性的な反応を返し、脱力した両の脚に代わり腰が上下に震え始めている。ただ、気を遣るにしてはとても刺激が足りない気がした。
「どうかな。案外じっくり責められた方が深くイケるもんだぜ?徐々に身体に教え込んでやるよ」
「…ぅ……どうかしらね、試してみれば?」
長期戦はアンナの方に利がある筈だ。力さえ戻れば、ユウはもちろん何人掛かりで襲われようが素手で充分に制圧出来る。今はユウのペースに便乗すべきだと、燻る下半身からの官能に抗いつつ、アンナは弱った握力で拳を握りしめた。震えはもう止まっていた。
「んっ……い、いつまで続けるつもり……」
時間の感覚を手放してしまったアンナには、この責め苦に一刻は経ったのか、まだ半刻なのか、それとも更に半分なのか検討が付かない。ただ未だ変わらぬ陰核への刺激に反して、腰は官能への抵抗力を既に無くし、引き締まった腹部は芋虫のように波立ちながら甘波に震えている。
「くっ………ふっ♡………」
実際に擦られているわけでない粘膜が長時間の摩擦による痛みや荒れをきたすことは無く、いつまでも清新な甘い官能が続く。
(あぁ…だめ…だめっ……何か……きちゃう…)
頭の中が薄紅色の靄に占拠されていく。堪らず頬を左右に揺すり官能を振り払おうとするも、所詮は一時の気慰みの域を出ず、暫くもすればより濃く深い靄が下腹部から頭頂部へ再び湧き上がる。未だ力の入らない脚ではもがくことも叶わず、アンナの意思に反して腰が前へと突き出し、腹部は肋骨が浮かびは凹み大袈裟な膨張と収縮を行き来する。
幾層にも積もり積もった矮小な甘波が後続を巻き込んだ官能の津波となり、アンナの肢体を弧に弦に波打たせ、絶頂へと追いやる。拘束された両腕はアンナの側頭部を自らギリギリと締め上げていて、それが初めてのオーガズムへの抵抗なのか、それとも長時間の絶頂留保に耐えかね官能波を逃すまいとしているのかアンナにはわからなかった。
「あっ………くっ………だ、っめっ………ふ…………ぅっ!!」
遂に迎えた女の悦びに全身の筋肉が硬直から弛緩へと放り出され、陸に攫われた魚のように酸素を求めながらアンナは絶頂に晒された。
下半身は力無く投げ出され、重くのしかかる瞼で蕩けた視線は天井を彷徨う。ユウのしたり顔が狭まった視界を掠めるが、体裁に気を配る思考力が一時的に麻痺していた。捲し立てるは羞恥心では無く脱力感で、絶頂余韻に尚も打ち震える四肢、キュウキュウと断続的に収縮する下腹部、身体を襲う官能痙攣の余震は、脆弱な刺激をたっぷりと溜め込んだ絶頂の爆発力を誇示していた。
「はぁ……は…ぁっ……はぁ…」
「ようやくイッたか。どうだ。良かったろ?ん?」
未だ甘い名残痙攣が残り、靄で鈍ったアンナの思考では回答に窮する。沈黙してしまえば気持ちが良かったと肯定してしまうし、ここで悪態を付けば尚更惨めになる気もした。
「そう睨むなよ。別に恥ずかしがる事じゃねぇさ。無敵の剣聖様も敵国に捕虜にされてイッちまう所詮はただのオンナってだけだ」
「はぁ……んっ…よく回る口ね…」
幾許かの思考力が回復した頭でユウの態度を詮索するも、どうにもユウや帝国の目的がわからない。補給路を吐かせたいのであれば痛みで屈伏させる方が早い筈だ。帝国であれば身の毛がよだつようなその道の専門を抱えているだろう。一方でユウ自身の欲求を満たしたいのであればこれは余りに回りくどい。
(そういう趣味なの…?見ているだけで興奮するとか。あとは、その…不能、なのだとか?)
性的に不能になった雄は倒錯した性癖に陥りやすいと聞いたことがある。不能になった雄が若けば若いほど溜まる欲求が行き場を失い、あらぬ方向から噴出してしまうのだろう。特にユウの性格であればその鬱憤を雌側に責任転嫁しそうなきらいがある。ただ真偽を確かめるのは得策ではない気がした。籔を突けば何が飛び出してくるかわかったものではない。それに時間が味方になる以上、今は大人しくチャンスを伺うべきだ。
「…んっ…こんなこといつまで続ける気なの?」
ユウへの探りでもあり、未だ陰核への刺激は収まっておらず異能の影響の方もアンナは確認しておきたかった。
「そうだなぁ。とりあえずはもっとお前の身体がイク感覚に馴染むまで…そうだな、ちゃんと自分の口で"イク"って言えるまでだな。そしたら休ませてやるよ」
「なに、それ?くだらないわ。それともなに?何なら今から言ってあげましょうか?いくー、いくーって。満足?これで」
しまったと思いながらの挑発。様子見に徹するつもりではあったが、人死にに関わる重要機密を聞き出すには余りに稚拙な要求に口が先に動いてしまう。
ただユウは挑発に乗って青白い相貌を赤らめることはなく、むしろ幼児の癇癪を宥める大人のように憐憫の形相さえ現している。その落ち着きと余裕がアンナには不気味であり、思惑の最奥に潜ませている何か別の意図を感じさせた。
「そんなことを言ってられるのも今のうちさ。お前、自分が超越者だからってどうも感覚が麻痺してると思うわ。想像してみろよ。鈍った想像力では出来ないか?理を外れた力の前に一介の人間一人がどんだけ無力かを」
「ぅ……くっ………んっ…………は、……ぁ……」
一度目の絶頂からもうどれだけの時間が経ったのだろうか。陽の当たらない牢獄では検討も付かず、重ねる陰核刺激での絶頂は五度目辺りから数えるのを辞めていた。恐ろしい事に、気を遣る度に白濁とした浮遊感と薄紅の閃光のコントラストに晒され鈍重になる思考に反して、身体の方には疲労が溜まっていない。後ろ手に拘束された姿勢は腕と腰にある程度の気怠さを訴えてはいるのだが、疲れは身体の何処にも蓄積せず、首から下はまるでたっぷりと眠る事ができた朝のように健康そのものなのだ。
(肉体強化の異能…多分そのせいだ。こんな使い方をするなんて…)
眠気も、疲労感も一向に姿を見せないアンナの身体は思考だけを置き去りにして性感を鋭敏に受け入れてしまっている。
(あの間隔も…どんどん狭まってる。同じくらいの刺激なのに身体の方が順応しちゃってるんだ)
初めの絶頂までに要した時間を十とするなら、今は五や六を数える前には簡単に白濁世界へ追い遣られてしまっている。積層する絶頂が脳内に新たな枝道が焼き入れてしまったかのようだ。これまで存在しなかった、官能刺激がオーガズムへと駆ける道筋。陰核への甘い粘膜刺激が腰から正中線を駆け、喉を通り電位となって脳を犯すその道筋。当初迷い迷いに行き場を探っていた性感電位が今や最短経路でナビゲーションされ、そして脳は一度作られた道を忘れることは無い。酒や薬物の類が持つ依存性がそうさせるように。
(あぁ…だめ…またきちゃう)
トラック内を何度も回るロングラン競技のようだ。一周を終えたと同時に次の周回が始まり、何周も何周も繰り返される。
「んっ………ん…」
男を悦ばせるような嬌声だけは漏らして堪るかと喉や腹筋を強張らせても、陰核から送られてくる柔波に簡単に懐柔され、甘い吐息と共に溢れてしまう。
「あっ♡……ふっ……く、くっ…ぐ……ぅ!」
もう何度目かもわからない。
下腹部へ落ちる官能雫が波紋となってアンナへ拡がり、性に豊潤になりつつある身体は勿論のこと、身体の司令塔である筈の頭までもが性感帯に隷属してしまう。今アンナを支配しているのは性感なのであって、脳は断続的に送り込まれる官能の波にただただ受動的に流されるだけの器官に成り下がっている。
(ホントにダメ。これ以上は…ホントにダメ…おかしくなっちゃう…)
多分、人間の身体には安全装置が何種も備わっている。休まずに働こうとしても何処かで眠気や不調をきたすように、多大なエネルギーを要する絶頂官能も何処かで脱力感や懈怠感によって限界を迎える筈だ。ただユウの手により今のアンナには官能電位に対するブレーカーが取り払われている状態で、ショートした電線がブレーカー無しではやがて装置そのものを焼き切ってしまうように、アンナの頭を占拠する官能靄は濃度を増しながら、正常な理性を犯してしまうのではとアンナは戦慄した。
そしてユウに言われた通り、超越者に相対する畏れを初めて覚えることになる。今までアンナが剣聖として帝国兵に与えていた畏怖が、今まさに自らに返ってきているのだ。
「大丈夫か?そんなに目を潤ませて。辛いなら口にするだけで良いんだ、"イク"って。それでもうお仕舞いになるんだからさ。なに、誰を困らせるわけでもないだろ、ん?」
煉瓦壁に体重を預けながら傍観者に徹していたユウの相貌がズイとアンナの鼻先に寄る。一転してユウの演技がかった親身な態度にさえ靡いてしまい、限界を超えているアンナの意地に遂に亀裂が入る。
「わ、わかった、から……んっ…ゆ…ゆう、から……」
誰が困るわけではない。その一言を反芻し、残った理性で思い馳せる。ここで口先だけ降参しても、何が変わるわけじゃないと。そのくらいなら大丈夫だろうと。
「じゃあ手伝ってやるからな」
「ひっ♡やっ……あぁ!」
とうの前に投げ出され、露わになった秘部にユウの指が伸びる。一直線に熱を帯びた女の入口を目指し、腿に届くまで漏れ溢れた愛液は容易く異物の侵入を許す。骨張った細い指が二本一緒にアンナの中へと押し入るが、幾度もの絶頂にふやけた粘膜では拒む事叶わず、多少の圧迫感と共に身体は受け入れてしまう。
「あっ…くっ…ぅ…」
ある程度の深度に達した双指が、中からアンナの前庭を押し上げるように屈折するのがわかる。押し込まれた先端が探るような動作を見せ、アンナがより大きく悶える箇所に当たりを付けると緩やかな圧迫を与えてきた。
「はぁっ♡」
異能を使ったのかはわからない。ただ前庭を押し込まれた分だけ喘ぎが溢れ、予期せぬ強い官能に潔い嬌声が牢内に響く。
陰核を震わす刺激はそのままに、膣内からも弱味を押し上げられ挟み打ちされては堪らない。
「あっ!はっ♡…はっ…あっ…」
「ほら、ちゃんと俺の目を見ろ」
「えっ…あっ、はぁっ♡」
言われて初めて自分が瞼を硬く閉じながらよがっていた事に気付く。新たな性感帯により増水した官能濁流が二箇所から勢いよく決壊しアンナの身体を襲う。とうに飲み込まれた理性では抵抗する目的すら見失い、言われるがままに精一杯に瞼に力を入れ、ユウの黒い瞳に焦点を合わせる。
「あっ、あっ、あっ…」
「閉じるなよ。ほら頑張って目を開けろ。そうだ。イク時はちゃんと自分で言うんだぞ」
ユウの指遣いはアンナの絶頂気配を察し、すんでの所でアンナの中にある双指の力を調整しながら辱めを促す。
「あっ、はっ、わかっ…てる…からぁ…」
「どこを責められてるかわかるか?」
「やっ…そんなのっ…はぁ♡は、はずかし…ぃ…」
「ちゃんと言えるよな?」
「やっ…ぁ…く、クリ……と……な、なか…せめられてっ…あっ、あっ…あっ…」
「ほら、イキそうなんだろ?ちゃんと目を見て言え」
「あっ…あっ……ぃ……いきそ…なの……あっ!あっ!いくっ…いっ…ぐ…ぅ…♡」
忌み敵の両眼に視線さえも奪われ、アンナの身体は強烈なオーガズムに咆哮し、思考は官能に追い出され幽体化したかのように浮き上がる。遂に発した恥辱の台詞は知性を麻痺させた上に性本能を曝け出し、剝き出しになった官能はこの上ない絶頂をアンナにもたらし、筋肉は緊迫と脱力に震え戦慄く。
アンナが絶頂の荒波に悶える最中も、アンナの側頭部をガッシリと掴むユウは視線を外すことを許さず、アンナの瞳の奥を探るように凝視する。官能余韻に翻弄され瞳を震わせながらも、アンナはそこにユウの愉悦が滾っていることを見逃さなかった。
「ふっ…………」
黴臭い閉鎖空間にアンナの押し殺した呻き声と、何処からか漏れ落ちる漏水が石畳に跳ねる音が飽和していく。
(何のつもりなの…)
口角を緩め、渇いた唇を時折舌でなぞるユウはアンナから数歩退いた所で傍観者に徹している。
自身の貞操などあっという間に奪われるのかと思いきや、改めてアンナの秘部に例の異能で触れたのを最後にまるで手を出してくる様子がないのだ。
(ユウの目的は?補給路の情報?それとも報復?何でこんなに回りくどい事をするの?)
ユウの着衣は帝国製の物で間違いない。この牢獄もそうだろう。ただユウ一人で尋問に応っている事も不可思議だ。長く見積もってもユウが帝国に下ったのは春頃の筈だ。その短期間で超越者の尋問を一任されるだけの信頼を得ているとは思えない。何か裏がある。そう考えながらも冷たい汗が首筋を撫でる。
「…ぅ……」
「さっきから随分ともどかしそうだなぁ?」
「う、うるさい!」
おそらくユウの異能のせいだ。アンナの意思に背き、腰が一定の間隔を置きピクリと座板から浮き上がる。陰核がどうしようもなく疼いているせいだ。何に触られるわけでもなく、微弱な刺激を断続的に送り込んでくるのだ。それは刺激と呼ぶにはあまりに頼りない、薄い手拭いを幾枚重ねた上から円いペン先で擦るような儚い摩擦に過ぎない。だだ二人きりの静謐な空間では嫌でも敏感な性器へのタッチが主役になってしまい、臀部や腹筋までか弱い電気刺激が伝播してしまう。
「今までイったことは?」
「…知らない」
下劣な会話であっても、幾分か気は紛れる。もちろん気を遣るという意味は知識としては知っている。ただ実経験としては以前の世界では無かったし、転生後は尚更の事だった。
「あんたこそロクに経験無いんでしょ?そうやって眺めてるだけ?」
挑発。
「そうなんだよ、だから加減がわからなくってさぁ。とりあえず弱めにしてやったから、せいぜいゆっくりイキな」
「馬鹿にして……んっ……こんなのでそうなるわけ、無い。くすぐったいだけよ」
半分嘘だ。筋肉は微弱ながらも性的な反応を返し、脱力した両の脚に代わり腰が上下に震え始めている。ただ、気を遣るにしてはとても刺激が足りない気がした。
「どうかな。案外じっくり責められた方が深くイケるもんだぜ?徐々に身体に教え込んでやるよ」
「…ぅ……どうかしらね、試してみれば?」
長期戦はアンナの方に利がある筈だ。力さえ戻れば、ユウはもちろん何人掛かりで襲われようが素手で充分に制圧出来る。今はユウのペースに便乗すべきだと、燻る下半身からの官能に抗いつつ、アンナは弱った握力で拳を握りしめた。震えはもう止まっていた。
「んっ……い、いつまで続けるつもり……」
時間の感覚を手放してしまったアンナには、この責め苦に一刻は経ったのか、まだ半刻なのか、それとも更に半分なのか検討が付かない。ただ未だ変わらぬ陰核への刺激に反して、腰は官能への抵抗力を既に無くし、引き締まった腹部は芋虫のように波立ちながら甘波に震えている。
「くっ………ふっ♡………」
実際に擦られているわけでない粘膜が長時間の摩擦による痛みや荒れをきたすことは無く、いつまでも清新な甘い官能が続く。
(あぁ…だめ…だめっ……何か……きちゃう…)
頭の中が薄紅色の靄に占拠されていく。堪らず頬を左右に揺すり官能を振り払おうとするも、所詮は一時の気慰みの域を出ず、暫くもすればより濃く深い靄が下腹部から頭頂部へ再び湧き上がる。未だ力の入らない脚ではもがくことも叶わず、アンナの意思に反して腰が前へと突き出し、腹部は肋骨が浮かびは凹み大袈裟な膨張と収縮を行き来する。
幾層にも積もり積もった矮小な甘波が後続を巻き込んだ官能の津波となり、アンナの肢体を弧に弦に波打たせ、絶頂へと追いやる。拘束された両腕はアンナの側頭部を自らギリギリと締め上げていて、それが初めてのオーガズムへの抵抗なのか、それとも長時間の絶頂留保に耐えかね官能波を逃すまいとしているのかアンナにはわからなかった。
「あっ………くっ………だ、っめっ………ふ…………ぅっ!!」
遂に迎えた女の悦びに全身の筋肉が硬直から弛緩へと放り出され、陸に攫われた魚のように酸素を求めながらアンナは絶頂に晒された。
下半身は力無く投げ出され、重くのしかかる瞼で蕩けた視線は天井を彷徨う。ユウのしたり顔が狭まった視界を掠めるが、体裁に気を配る思考力が一時的に麻痺していた。捲し立てるは羞恥心では無く脱力感で、絶頂余韻に尚も打ち震える四肢、キュウキュウと断続的に収縮する下腹部、身体を襲う官能痙攣の余震は、脆弱な刺激をたっぷりと溜め込んだ絶頂の爆発力を誇示していた。
「はぁ……は…ぁっ……はぁ…」
「ようやくイッたか。どうだ。良かったろ?ん?」
未だ甘い名残痙攣が残り、靄で鈍ったアンナの思考では回答に窮する。沈黙してしまえば気持ちが良かったと肯定してしまうし、ここで悪態を付けば尚更惨めになる気もした。
「そう睨むなよ。別に恥ずかしがる事じゃねぇさ。無敵の剣聖様も敵国に捕虜にされてイッちまう所詮はただのオンナってだけだ」
「はぁ……んっ…よく回る口ね…」
幾許かの思考力が回復した頭でユウの態度を詮索するも、どうにもユウや帝国の目的がわからない。補給路を吐かせたいのであれば痛みで屈伏させる方が早い筈だ。帝国であれば身の毛がよだつようなその道の専門を抱えているだろう。一方でユウ自身の欲求を満たしたいのであればこれは余りに回りくどい。
(そういう趣味なの…?見ているだけで興奮するとか。あとは、その…不能、なのだとか?)
性的に不能になった雄は倒錯した性癖に陥りやすいと聞いたことがある。不能になった雄が若けば若いほど溜まる欲求が行き場を失い、あらぬ方向から噴出してしまうのだろう。特にユウの性格であればその鬱憤を雌側に責任転嫁しそうなきらいがある。ただ真偽を確かめるのは得策ではない気がした。籔を突けば何が飛び出してくるかわかったものではない。それに時間が味方になる以上、今は大人しくチャンスを伺うべきだ。
「…んっ…こんなこといつまで続ける気なの?」
ユウへの探りでもあり、未だ陰核への刺激は収まっておらず異能の影響の方もアンナは確認しておきたかった。
「そうだなぁ。とりあえずはもっとお前の身体がイク感覚に馴染むまで…そうだな、ちゃんと自分の口で"イク"って言えるまでだな。そしたら休ませてやるよ」
「なに、それ?くだらないわ。それともなに?何なら今から言ってあげましょうか?いくー、いくーって。満足?これで」
しまったと思いながらの挑発。様子見に徹するつもりではあったが、人死にに関わる重要機密を聞き出すには余りに稚拙な要求に口が先に動いてしまう。
ただユウは挑発に乗って青白い相貌を赤らめることはなく、むしろ幼児の癇癪を宥める大人のように憐憫の形相さえ現している。その落ち着きと余裕がアンナには不気味であり、思惑の最奥に潜ませている何か別の意図を感じさせた。
「そんなことを言ってられるのも今のうちさ。お前、自分が超越者だからってどうも感覚が麻痺してると思うわ。想像してみろよ。鈍った想像力では出来ないか?理を外れた力の前に一介の人間一人がどんだけ無力かを」
「ぅ……くっ………んっ…………は、……ぁ……」
一度目の絶頂からもうどれだけの時間が経ったのだろうか。陽の当たらない牢獄では検討も付かず、重ねる陰核刺激での絶頂は五度目辺りから数えるのを辞めていた。恐ろしい事に、気を遣る度に白濁とした浮遊感と薄紅の閃光のコントラストに晒され鈍重になる思考に反して、身体の方には疲労が溜まっていない。後ろ手に拘束された姿勢は腕と腰にある程度の気怠さを訴えてはいるのだが、疲れは身体の何処にも蓄積せず、首から下はまるでたっぷりと眠る事ができた朝のように健康そのものなのだ。
(肉体強化の異能…多分そのせいだ。こんな使い方をするなんて…)
眠気も、疲労感も一向に姿を見せないアンナの身体は思考だけを置き去りにして性感を鋭敏に受け入れてしまっている。
(あの間隔も…どんどん狭まってる。同じくらいの刺激なのに身体の方が順応しちゃってるんだ)
初めの絶頂までに要した時間を十とするなら、今は五や六を数える前には簡単に白濁世界へ追い遣られてしまっている。積層する絶頂が脳内に新たな枝道が焼き入れてしまったかのようだ。これまで存在しなかった、官能刺激がオーガズムへと駆ける道筋。陰核への甘い粘膜刺激が腰から正中線を駆け、喉を通り電位となって脳を犯すその道筋。当初迷い迷いに行き場を探っていた性感電位が今や最短経路でナビゲーションされ、そして脳は一度作られた道を忘れることは無い。酒や薬物の類が持つ依存性がそうさせるように。
(あぁ…だめ…またきちゃう)
トラック内を何度も回るロングラン競技のようだ。一周を終えたと同時に次の周回が始まり、何周も何周も繰り返される。
「んっ………ん…」
男を悦ばせるような嬌声だけは漏らして堪るかと喉や腹筋を強張らせても、陰核から送られてくる柔波に簡単に懐柔され、甘い吐息と共に溢れてしまう。
「あっ♡……ふっ……く、くっ…ぐ……ぅ!」
もう何度目かもわからない。
下腹部へ落ちる官能雫が波紋となってアンナへ拡がり、性に豊潤になりつつある身体は勿論のこと、身体の司令塔である筈の頭までもが性感帯に隷属してしまう。今アンナを支配しているのは性感なのであって、脳は断続的に送り込まれる官能の波にただただ受動的に流されるだけの器官に成り下がっている。
(ホントにダメ。これ以上は…ホントにダメ…おかしくなっちゃう…)
多分、人間の身体には安全装置が何種も備わっている。休まずに働こうとしても何処かで眠気や不調をきたすように、多大なエネルギーを要する絶頂官能も何処かで脱力感や懈怠感によって限界を迎える筈だ。ただユウの手により今のアンナには官能電位に対するブレーカーが取り払われている状態で、ショートした電線がブレーカー無しではやがて装置そのものを焼き切ってしまうように、アンナの頭を占拠する官能靄は濃度を増しながら、正常な理性を犯してしまうのではとアンナは戦慄した。
そしてユウに言われた通り、超越者に相対する畏れを初めて覚えることになる。今までアンナが剣聖として帝国兵に与えていた畏怖が、今まさに自らに返ってきているのだ。
「大丈夫か?そんなに目を潤ませて。辛いなら口にするだけで良いんだ、"イク"って。それでもうお仕舞いになるんだからさ。なに、誰を困らせるわけでもないだろ、ん?」
煉瓦壁に体重を預けながら傍観者に徹していたユウの相貌がズイとアンナの鼻先に寄る。一転してユウの演技がかった親身な態度にさえ靡いてしまい、限界を超えているアンナの意地に遂に亀裂が入る。
「わ、わかった、から……んっ…ゆ…ゆう、から……」
誰が困るわけではない。その一言を反芻し、残った理性で思い馳せる。ここで口先だけ降参しても、何が変わるわけじゃないと。そのくらいなら大丈夫だろうと。
「じゃあ手伝ってやるからな」
「ひっ♡やっ……あぁ!」
とうの前に投げ出され、露わになった秘部にユウの指が伸びる。一直線に熱を帯びた女の入口を目指し、腿に届くまで漏れ溢れた愛液は容易く異物の侵入を許す。骨張った細い指が二本一緒にアンナの中へと押し入るが、幾度もの絶頂にふやけた粘膜では拒む事叶わず、多少の圧迫感と共に身体は受け入れてしまう。
「あっ…くっ…ぅ…」
ある程度の深度に達した双指が、中からアンナの前庭を押し上げるように屈折するのがわかる。押し込まれた先端が探るような動作を見せ、アンナがより大きく悶える箇所に当たりを付けると緩やかな圧迫を与えてきた。
「はぁっ♡」
異能を使ったのかはわからない。ただ前庭を押し込まれた分だけ喘ぎが溢れ、予期せぬ強い官能に潔い嬌声が牢内に響く。
陰核を震わす刺激はそのままに、膣内からも弱味を押し上げられ挟み打ちされては堪らない。
「あっ!はっ♡…はっ…あっ…」
「ほら、ちゃんと俺の目を見ろ」
「えっ…あっ、はぁっ♡」
言われて初めて自分が瞼を硬く閉じながらよがっていた事に気付く。新たな性感帯により増水した官能濁流が二箇所から勢いよく決壊しアンナの身体を襲う。とうに飲み込まれた理性では抵抗する目的すら見失い、言われるがままに精一杯に瞼に力を入れ、ユウの黒い瞳に焦点を合わせる。
「あっ、あっ、あっ…」
「閉じるなよ。ほら頑張って目を開けろ。そうだ。イク時はちゃんと自分で言うんだぞ」
ユウの指遣いはアンナの絶頂気配を察し、すんでの所でアンナの中にある双指の力を調整しながら辱めを促す。
「あっ、はっ、わかっ…てる…からぁ…」
「どこを責められてるかわかるか?」
「やっ…そんなのっ…はぁ♡は、はずかし…ぃ…」
「ちゃんと言えるよな?」
「やっ…ぁ…く、クリ……と……な、なか…せめられてっ…あっ、あっ…あっ…」
「ほら、イキそうなんだろ?ちゃんと目を見て言え」
「あっ…あっ……ぃ……いきそ…なの……あっ!あっ!いくっ…いっ…ぐ…ぅ…♡」
忌み敵の両眼に視線さえも奪われ、アンナの身体は強烈なオーガズムに咆哮し、思考は官能に追い出され幽体化したかのように浮き上がる。遂に発した恥辱の台詞は知性を麻痺させた上に性本能を曝け出し、剝き出しになった官能はこの上ない絶頂をアンナにもたらし、筋肉は緊迫と脱力に震え戦慄く。
アンナが絶頂の荒波に悶える最中も、アンナの側頭部をガッシリと掴むユウは視線を外すことを許さず、アンナの瞳の奥を探るように凝視する。官能余韻に翻弄され瞳を震わせながらも、アンナはそこにユウの愉悦が滾っていることを見逃さなかった。
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