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5.幾層にも絶頂を重ねる

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「んっ…そ、それは?」

浴室で再開された愛撫に身をよじらせながら、馨は賢人の持ち込んだ物を訪ねた。

「何かドイツで開発されたらしいよ、あと防水らしいから大丈夫」

開発国を聞いたわけでも、耐水性を心配したわけでもないと薫は口を尖らせた。こう敢えて説明を省略する時、賢人は意地でも詳細を教えてくれないのだと分かっていた。

(多分、そういう玩具だよね…)

性玩具に疎い薫であっても、それが女性を悦ばせる為の道具であることは容易に見て取れた。ただ丸いと思っていた半分は蓋だったようで、中身が露出したそれは初めて見る不思議な形状をしていた。

賢人の掌に丁度収まるサイズのそれは、亀の甲羅にひょっとこの口を取り付けたような独特の形状で、飛び出たシリコンの口部分はまさに尖らせた口のようにくり貫かれており、その口部分が何らか動くのだろうと予想できた。

「んっ…」

立ったまま賢人に唇を奪われ、躊躇なく太い舌が薫の口内へ侵入する。薫もいつの間にか舌愛撫に応えることが当たり前になり、ヌラヌラと濡れた舌を巻き付けるように絡ませる。収まりきらない生温い唾液が薫のバストへ零れ落ちる。

「っふ…んっ…」

(もうキスだけで気持ちいい…)

激しい接吻の官能に浸るのも束の間、賢人の腕が下腹部へ下り、太い指が一直線に秘部へと伸びる。もう随分と前から挿入準備を終えていたそこはクチュリと異物を受け入れ、薫は陰核への刺激に備えて身体を強張らせたが、腰付近でカチッとプラスチック音が鳴った。

「う…んんっ…」

眼で確認しようにも賢人の舌がそれを許さず、少しの間を経て、もう一度カチッと、今度は何かの蓋が閉まるような音が聞こえる。

「…ひっ!」

突然秘部へ振れたひんやりとした刺激に薫の身体がピクリと跳ねる。薫の体温と愛液で次第に人肌温度に近づいたそれは、賢人の指先によってあっという間に塗布面積を広げる。小気味の良い粘性を備えたそれがローションだと気づいたときには、陰核を中心に粘液をたっぷりと塗り付けられていた。

(これ…なんだか、全然…ちがっ…)

体液よりも遥かにぬめりを与えられたローションは、不要な摩擦を吸収し、悩ましい指愛撫の甘い部分だけを陰核へと練り込んでくる。

「あっ…う…だ、だめっ♡」

少し擦られただけで、ヌルヌルとした甘美な電気刺激が脳髄へ走り、唯一身体を支えている両膝がガクガクと笑う。とても接吻を続けられず、馨は賢人の肩へ掴まり体重を預ける。

「足、滑らないように気を付けて」

「んっ…そ、そんな…こと…いったって…ひうっ!」

座り込みを許すつもりは賢人に無いらしく、腰を逃がさないよう左手で薫を支え、右手の愛撫を加速させる。

ビリビリと駆ける性感に喉が上向き、意識が天井に吸い上げられていく錯覚を覚える。視界が淵から解像度を失っていき、オーガズムが手前まで迫っていることがわかったが、それよりも先に脚に限界が来ていた。

(む、むり…立って…られない)

絶えずこみ上げる頭を痺れさせる刺激に、思考は鈍り、膝はさらに弱弱しく内を向く。腿を狭めてしまったことが尚の事賢人の指を陰核へ押し付ける形になってしまい、摩擦を緩めない賢人に動きに薫はついに膝を付かされる。

「大丈夫?」

寸でのところで賢人に支えられたおかげで、倒れ込まずに済み、痛む部位も無かった。ただ腿は絶頂手前の硬直に脱力し、届きえた筈の官能極地のお預けに、肛門付近がもどかしさにキュウと締まる。

「だ、大丈夫…だけど…」

座り込んでしまった薫を後ろから支える賢人が何やらゴソゴソと腕を動かすと、背後から空気を押し出すようなポポポッという不思議な音が連続する。

(さっきの玩具だ…)

遂に動力を入れられたそれは、口部分を形作るシリコンが内部からピンクに光っている。賢人がようやく白状するにはクリトリスの吸引器らしい。不思議な空気音の出所はその差込口部分からだった。

賢人がゆっくりと目的地に向かって吸引器を当てがう。

「うぅ…んんっ!!!」

シリコン口が陰核を捉えた瞬間、空気音がブブブッと鈍く変化し、恐ろしくソフトで緻密な空気圧が陰核をフルフルと吸い上げた。

(なにっ…これっ!?…す、吸われてる…)

直接何かで擦られているわけでもないのに、陰核全体を複数人の口で同時に吸われているような今までにない官能が下腹部から脳髄へ駆け上がる。

「だ…めっ…ぇ♡これ…これ……すぐ…ぃ、っちゃ……んんっ!!」

先程絶頂寸前まで既に高められていた薫の身体は、ものの数秒で一気にオーガズムへ導かれる。そんな大波を受容する体勢がまるで整っておらず、薫は立ち上る鮮烈な絶頂を大きく顎を仰け反らせながら浴び、浴室の照明がチカチカと視界の中で点滅する。

「ぁ………く……ぅ…」

肺に溜まった空気を胸筋の伸縮で何とか押し出し、呼吸を整えようと薫は肩で息をする。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

ようやく呼吸が落ち着いてきたところに、賢人が耳元で囁く。吸引器は今ので最弱だよ、と。あれだけ鮮烈な刺激を与えてきたにも関わらず最も弱い吸引だったことにも驚いたが、薫を慄かせたのはまだ吸引愛撫を続けるという宣言の方であった。

「えっ…そうな、の……ひぅ!ま、まって…ぇ…あっ…ふ…」

賢人によってカチカチと吸引器のスイッチが押し込まれ、空気音がさらに強くなった状態で再び陰核へ吸い付く。

「うぁぁ…ぁ…」

さっきのお返し、と賢人に煽られるが、直近の絶頂で敏感になった陰核への吸引が薫の思考能力の大半を奪い、ただただその振動に身を任せるしかない。

「かっ…ぁ…ぁ…ぁ…」

あくまでソフトな、痛みも何もない柔らかな刺激にも関わらず、与えられる快感は強く、薫は額に大粒の汗を浮かべる。人間とは違う機械的な官能は有無を言わさず最短距離でオーガズムへと導く。

「あっ…あ゛っ…あ゛ぁぁ♡」

二度目の絶頂に薫の腹部は波打ち、指令を失った手足二十指がザワザワと震えあがる。情けない野性的な嬌声と一緒に薫の意識は白濁し、発汗した全身を情けなく震わせた後に、やがて脱力した。


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「ん…チュッ…ウムッ…」

浴室から上がった後も、お互い身体を拭くのをそこそこに、腰を抱き合いながら舌を絡ませる。激しい絶頂の余韻は薫の全身に倦怠感を訴えかけていたが、発情により分泌されたアドレナリンが混濁した意識の中でも性交を促す。

(もうダメ…むちゃくちゃにしてほしい…)

薫の熱欲に混濁した瞳は賢人をも狂わせ、薫は洗面台に両手を付くよう促され、尻を突き上げさせられる。未だ余韻の引かない身体は言われるがままに恥辱的な姿勢を取り、まるで言う事を聞かない膝はユラユラと左右に舞い、賢人を誘うように双臀を振る。

「は…はずかし…あんっ♡」

賢人の両手が臀へ食い込んだと思うと、すぐに熱い肉棒がトロトロにふやけた膣肉を搔き分け侵入して来る。

(だめっ…奥まで…いっきに入って…あたってるっ…)

背中から聞こえる賢人の鼻息は猛々しく、これまでにない激しいピストンが薫を狂奔させる。ズチュズチュと膣内は賢人の太いペニスに蹂躙され、カリにヒダを持っていかれたかと思えば、亀頭が最奥へと打ち込まれる。

「うっ、うっ、うっ…あぁっ♡…お、おくあたって…るっ♡あっ…くっ…っふ…だめっ…だめぇ!」

「くっ…かおる…あぁ…」

ペニスから送られる官能の波が徐々に間隔を狭め、摩擦刺激に肢体が悦びの悲鳴を上げる。バックで突かれる度に腰は砕けそうに脱力し、賢人のペニスに体重を支えられている気さえする。

気を遣るのも時間の問題で、薫は悲鳴を溢しながら襲い来る絶頂に備えた。

「あっ、あっ、あっ、いっ…いぐっ…う……いくっ…♡」

官能に支配された思考の前に理性は溶かされ、ただ動物の雌としてエクスタシーを告げる。陰核からのオーガズムとは違い、膣奥から湧き上がる絶頂は薫の思考を爛れさせ、視界の色味を白一色に上書きした。

「うっ、うぅ、うっ…けん、と…も…けんとも…ぉ…」

「くぅ…で、でるよ…うっく!」

残された力で両脚を踏ん張り、賢人の最後のピストンを受け入れる。しどろもどろになった意識の中でも膣内で膨張するペニスの吐精はハッキリと感じられ、遅れて賢人の腰が慄く。

「はぁ、はぁ…」

いよいよ薫は膝を付き、ペニスがズリュンと抜け落ちるが、空になったはずの膣内は激しいピストンの余波で震え悦んだまま収縮を続けていた。今までにない多幸感が薫を包み、同時に麻痺していた重い疲労感が四肢で蠢き出す。

「賢人…好き、愛してる。とっても…」

「俺もだよ」

夫婦は硬い脱衣所に身体を投げ出し、ひどく硬い床の上で強く抱き合った。

やっとのことで交換した恵愛の言葉が、生活感という潮流に引き離されていく二人をようやく紡いだ。


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