【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー

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2.忘れていた情欲に

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「ただいま」
「あっ、パパ!」

明日の土曜日に台風七号が最接近するらしい。生温い湿気を帯びた強風がマンションのドアへ重く吹き付ける。髪もボサボサにようやく仕事から帰宅した賢人を出迎えたのは愛娘の夏美だった。

ご機嫌な日にはこうして笑顔いっぱいに玄関まで飛び出してくるのだ。機嫌が斜めの時こそ背中で挨拶することもあったが、どちらにしても賢人からすれば何とも可愛らしい光景であった。

「パパ、てあらってきな。きゅうきゅうしゃつくろ、きゅうきゅうしゃ!」

「おかえりなさい」

「ただいま」

大人の口ぶりを真似た夏美に手洗い場へ促されながら、キッチンに立つ妻の薫へ返事を返す。

「マンションの組合の議事録、ポストに入ってたよ。また管理費未納の人が…「パパ!はやくてをあらわないとだめでしょ!」

「はいはい、洗ってくるから」

四歳児の自己主張は強い。薫の話を遮り、賢人の足元で漫画のように頬を膨らませた夏美がグイグイとスラックスを引っ張る。最近特に顕著なのだが、自分が会話の中心にならないと気が済まないらしい。

「パパ!ぶろっくできゅうきゅうしゃつくろ」

「先に洗濯するから今は無理だよ」

「いやっ!」

「足をどんどんするのはやめなさい。下に響くから…」

不満を全身で露わにする夏美をたしなめながら、洗濯機に液体洗剤を流し込む。仕事は早めに片づけてきたとはいえ、洗濯に子供服の手洗い、来週に控える夏美の健康診断の準備等の家事はまだまだ残っている。それらを夏美の寝かしつけまでに片付けねばならず、ゆっくりネットを見る時間すら確保が難しい毎日だった。当然薫と落ち着いて話す機会も減っていた。

(下手したら今週ろくに会話していないんじゃないか?)

あながち大袈裟とも言えない。平日はこんな調子であるし、休日も手放しにゆっくり過ごせるわけではない。どうしても目の前のタスクと子供の世話を優先してしまい、それは賢人だけではなく薫の方も同様だった。

決して夫婦仲が悪いわけではない。

ただ次から次へ溢れてくる生活感に夫婦の関係性を後手後手にされ、胸中の隅っこにある違和感は日々存在感を増している。かといって改めて互いの距離を接近させるには体力と気力が足りない、という表現が適切な気がした。互いに感謝と敬意は持っているはずなのだが、そんなものは毎日の家事育児に比べれば粗末な扱いとなっていた。

(最近あっちの方も全くだしなぁ)

最後に薫と身体を重ねたのはいつだったか思い出せないくらいだ。さすがに一年は経っていない筈で、確か酷く寒い時期だったように思う。分厚い羽毛布団の感触は思い出せるのに、薫の肌に触れた感覚は思い出せない。これもまた喫緊の課題だと思う反面、優先順位は低いとも思う。

(ろくに一人の好きな時間も確保出来てないだろうし、夫婦の時間を作るよりは、薫を一日自由にしてあげた方が喜びそうだ)

少なくとも賢人は薫への欲求があるし、月に何回かはムラムラした気分になる。

ただ数年前、いざ挿入となった際に薫の中があまり濡れておらず、妊活中に使っていたローションを取り出す羽目になったことがあった。元々性に積極的ではない薫の性格も相まり、あまり乗り気でないのではと考えが拭えず、極端に頻度が下がっていた。

賢人の方も心身疲れている事が多く、自分を奮い立たせてまでアプローチしようとは思えないまま今に至っている。

お茶でも飲もうかとキッチンに入った際に、ふと夕食を用意する薫を横目に眺める。

賢人の帰宅前に夏美と入浴を済ませていた身体からは仄かに石鹸の香りが漂う。目尻が少し垂れた睫の長い目はボストン型の眼鏡越しにも大きく映り、ボブカットに切り揃えた前髪から覗くすらりと伸びた鼻筋と形の整った唇は何年も連れ添った間柄でもつい見惚れてしまう程に綺麗だと思う。

(寝間着、新しくしたのか)



産後の体重管理には気を掛けたようで、ウェストは以前と変わらないように見えるが、一回り大きくなったヒップラインは扇情的な丸みを帯び、ルームウェアであるショートパンツを押し上げている。

艶のあるポリエステル生地が尚のこと十代には無い臀部の柔らかさを強調し、程よい肉感を携えた脚がスラリと伸びる。産後暫くは行き届いていなかった脚に今は無駄な体毛は無く、ハリある腿の白肌は乾ききっていないボディクリームで妖しく光っている。

「ゴクリ…」

賢人の生唾が喉を押しのける。久しく忘れていた情欲が喉元から心臓、心臓から四肢神経にピリピリと伝搬し、視線が薫の肢体に絡まる。白いトップスの生地は薄く、時折背中に下着のラインが浮いている。

(久しぶりに普通の下着を見た気がする。ずっとブラトップを着てたのに)

夏美がまだ小さい頃は授乳の手間もあってか、値段と質を売りにしているブランドで買ったインナーを着ていて、夏美の卒乳後もその延長線を辿っていた薫の出で立ちだったのだが、今日の様相はいつもと違っていた。

欲求我慢が日常化していた反動か、並々ならぬ血流が下半身に集まってくるのを感じながら、代わりに血液を失い鈍ってきた思考で賢人は邪推する。

(浮気…?いや、お互い外で発散する時間も無いし…)

この状況で外にパートナーを作れるものであれば、それはそれで尋常ならざる精力だとむしろ感服するくらいだ。

そういえばこの間、霊的な代物に全く興味のない薫が珍しくパワーストーンをリビングに飾っていた。あれも何かの心境変化だろうかと勘繰っている間に、賢人の視線に気付き、顔だけ振り返った薫と目が合った。

「なぁに?」

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「なぁに?」

自分の熱視線に気付かれていないと思っていたのか、薫が声を掛けるとハッと驚いたように、賢人が自分の身体から顔の方へ急いで視線を移した。

冷蔵庫の扉も締めずに佇んでいる夫に気が付かないわけないでしょ、とからかいを入れようかと思ったものの、賢人の綺麗な二重に収まる眼は明らかに情欲の色味が混ざり込んでおり、その瞳は内から滾る紅い熱に揺れている。

薫は慌てて口を噤む。

件のガーネットの購入を決めた時、薫は思い切って下着やルームウェア、スキンケア用品等を一挙に購入していた。いっそ賢人から迫ってくれればという下心も否めないが、産後の多忙さから、手足のチクチクとした感触に怠惰になって数年経っていることは以前から気になっていたし、身だしなみ水準を元に戻す良い機会だとも思ったからだ。

腿が露わになる短めのショートパンツに、胸元の緩い薄手のトップス。それに久方ぶりの上下揃った下着。

勇気を出してややセクシーめのルームウェアを選んだ効果か、それともあのパワーストーンの効果なのか、尚も賢人の熱情は収まっていない様子で、互いの視線が交差したまま分かたれない。

その引力を解いてしまわないように、薫は横目で夏美を探す。幸い今立っているコンロ前は夏美の遊ぶリビングから死角になっている。カチャカチャとプラスチックの重なる音だけが聞こえ、声が聞こえないところを見るにブロック遊びに夢中になっているのだろう。

互いの視線をゆったりと辿って、そのまま相貌が重なるのは自然な流れだった。

「んっ…」

久方振りの口唇の柔らかさをお互いに確かめながら唇が触れる。それを何度か繰り返す内に少しずつ紅唇が開いていく。漏れ出す唾液が唇の皺を伝い、フニフニと渇いていた接触摩擦が、ヌルヌルと湿り気を帯びたものへと変遷していく。

薫は手探りでコンロのスイッチを見つけそっと火を止め、メガネを乱雑に外す。その音に気が付いた賢人が薫の下唇を優しく食む。軽いキスではなく性的な接吻を求められているのだと理解した薫もそれに応える。

「んっ…ふっ…」

これより先は駄目だと情欲に犯されかけた理性が警告している。これまでと比べ物にならない程の欲求が脳髄と下半身双方から迫る。無茶苦茶にされたい。雄に求められたいという強烈な官能欲望だった。

「ふっ…ぅ…♡ら…めっ…」

何とか粘膜接触の隙間から押し出した抵抗の声は淫靡なリップ音に飲み込まれ、言葉とは裏腹に薫の唇は大きく開き口内姦をねだる。

「んっ…♡…はぁっ!んむっ…♡」

賢人の太い舌がヌルリと官能の口内へ押し入って来る。飲み込めずに溢れかけていた唾液が口角から漏れ落ち、ツゥーと頬を伝う。賢人の舌を迎え入れようと薫も舌先の伸ばし、二人の舌が絡み、グチュグチュと卑猥な水音がキッチンに響く。

(あぁ…力抜けちゃう…)

「んんっ!」

二人の口内で薫のくぐもった喘ぎ声が沈む。賢人の手が乱暴にヒップに伸び、その大きな掌で鷲掴みにされる。昂った身体は臀に触れられただけでも大袈裟な反応を示し、ツゥーと生地越しにパンティーラインを撫でられる度にビクンと下半身が跳ねる。

その間も唾液交換は絶えず、ヒップの愛撫分だけ口元への意識が乱れ、混ざった二人の唾液が隙間から唇全体へ溢れてくる。唇を舌が這えば集まった神経が悦びに震え、塞がれた口内は息苦しさと圧迫感で被虐心を煽る。

浮遊感を伴ったオーガズムさえ覚えかねない刺激だった。何より賢人に女として苛烈に求められている充足感が、精神的な性感を最大限に高めている。

「はぁ…はぁ…」

普段は冷静な賢人の息遣いも取り繕えない程に荒く、ヒップに夢中になっていた右手が腰を通り下腹部に伸びる。嫌なら止めるけど、と言わんばかりの緩慢な動きでショートパンツの中へ潜り込んでくる指先を、腰をよじって受け入れる薫は恥ずかしさで耳が熱く火照るのを感じた。

賢人の指先が恥毛に触れた辺りで、窮屈さを覚えたのか空いた左手でショートパンツの腰紐が解かれる。途端に自由になった右手がショーツに潜り込み、遂に膣口へ触れた。

ヌチッ…

(うそ…)

薫の秘部はベッタリと広範囲に愛液が溢れ、クロッチ全体が濡れている。キスと少しの愛撫だけでこんなに感じてしまったのかと、薫の顔は真っ赤になってしまう。

漏らしてしまったかのように濡れたショーツに当然賢人も気付いた筈で、自分の淫らさに羞恥心がザワザワと揺れる。しかし賢人の指は攻勢を緩めず、中指に愛液をふんだんに纏わせ、迫り上がって来る。

(だめっ、そんなヌルヌルの指でクリ触られたら…)

「ひぅっ!」

指腹が包皮を剥き、露わになった陰核に触れた瞬間だった。

背後からけたたましい電子音が鳴り、賢人がハッと密着していた薫の背中から離れた。

「ママーなにかうるさいおとなってるよ!」

ピーピーと不安を煽る音の出元は冷蔵庫からだった。賢人が開けっ放しにしていた事でセンサーが反応したようだ。パタパタと走り寄ってくる夏美の足音が聞こえ、解けた腰紐を急いで戻し着衣を整える。

「ごめんごめん。冷蔵庫空けたままだったよ」

駆け寄る夏美を賢人が抱き上げる。

「…後でちゃんとしたい」

去り際に小さな声で賢人が言う。その震えた瞳は小動物のような愛くるしさと、獣のような猛々しさが共存していた。

薫は大きく二度頷き、夕食の支度を再開する。

ただいつまで経っても、背中にずっと当たっていた賢人の肉棒熱と、ヒンヤリと冷えつつも未だ濡れたままのショーツは薫を調理に集中させてくれなかった。
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