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第四章 旅行準備編
クイーンの血筋
しおりを挟む「一つ目の質問だけど、君はどう見ても小さい子供だろう? それがなんでクイーンなんて名乗っているんだ?」
そもそもの質問、根本的な質問である。
こいつは本物のクイーンなのか?
「ふむ、やはりお主は何も知らぬのか。ルーシーよ、弟子の教育はちゃんとしておるのか?」
少しだけ鋭い目をして、クイーンがルシルを睨む。
だが、全く迫力がないので睨もうとしている、という表現が的確なのかもしれないが。
「も、申し訳ないです。でもムゲンくんはどれだけ詳しく説明しても聞いてくれないし、例え聞いてくれてもすぐに忘れてしまうんです」
「……本当に弟子なのか?甘やかすにも程があるぞ」
「すみません……」
ルシルはどんどんと小さくなっていく。全く、もう少ししっかりしてほしいものだ。
「なら一から説明するべきじゃな。そもそもこの国のクイーンの家系は初代からずっと魔法使いなのじゃよ」
「へえ」
だから、ルシルとの縁もあるのだろうか。
ぼくは今までの人生を普通に生きてきて、魔法使いなんて言う胡散臭いものが実在するなんて知らなかった。
せいぜいが、漫画や映画などの存在という認識だ。
それを身近な存在にして、当たり前のような存在として扱っているその理由は自分たちも魔法使いだったからだという。
……納得がいく理由だな。それは信用するに値する理由だ。
「そして、初代クイーンが死ぬ直前に決めた隠された法があり、その内容はこの国を治める本物のクイーンは必ず魔法使いにならなければならないというものだった」
わからないこともない。行ってしまえば一つの国の支配者が凡人ではいけないということだろう。
魔法を使える、一種の超人だからこそ国を治めるに相応しい存在だ。
……みたいなことを初代クイーンが考えたのではないか。
それはやはり選民意識のようなものから現れた思想なのだろう。
魔法使いは一般人より格上の存在だ、ぐらいに思っていたのかもしれない。
まあ、否定できない部分はたくさんあるとも思う。
「成程ね。でもそれは質問の答えになっていないな。別に君の親や兄弟だっているだろう?」
「確かにそうじゃな。だが、わらわの血縁は全員、五年ほど前に他界しておるのだ」
「そうなの? でもそんなニュースは聞いたこともない」
「それはそうじゃろう。偽物のクイーンの一族は全員無事に生きておるからな」
「ああ」
成程、言われてみれば当然だ。
でも皮肉な話だな。本物が死に、偽物が生き残ったというわけだ。
「なんで死んだんだ?」
「ム、ムゲンくん! 踏み込みすぎですよ、クイーンの気持ちを考えてください!」
「気持ち?」
何かあるのだろうか。家族が死んだのはもう五年も前の話であり、心の整理なんてとっくについているのだろう?
「ふふっ、お主の弟子はよくわからないという顔をしているな。心の機微というものに疎いようじゃな」
「す、すみません!」
「まあ、疎いのかな? ぼくも家族ってものに恵まれていなくてね、例え目の前で全員が誰かに皆殺しにされたとしても悲しくもならないような関係なんだ」
最も、何が問題でそうなったかは今となってもあやふやだ。
家庭環境か、あるいはぼくの心が感情というものを理解できないのか。
「そうか、お主も複雑なんじゃな……」
六歳の少女に同情されるぼくであった。
「まあ、そんなわけでわらわはこの世に残った唯一のクイーンの血族じゃった。だから去年お主の通っている学院に通っていたのじゃよ、そして魔法使いになりクイーンになった」
「凄い簡単だねえ、まあこうやって会話をしていても君が頭が良さそうなのは感じる。魔法使いになるのもクイーンの仕事をこなすのも簡単なんだね」
「もちろん、それにも秘密がある」
「ク、クイーン。いいのですか、話してしまっても?」
「よいよい。わらわはこやつが気に入った。それにこれだけ弟子を甘やかしているルーシーのことだ。わらわが黙っていても話してしまうだろう?」
「そ、そんなことはないですよ?」
ルシルは思いっきり視線を逸らしながら、そう答えるがそんなものは誰でもわかるぐらいの簡単な嘘だろう。
「まあよい。わらわの家系にはずっと伝わるオリジナル魔法が一つあってな。偉大なる記憶の継承という魔法じゃ」
「名前だけで効果がわかりそうだな」
「この魔法を使った人間の記憶や才能が、次に魔法を使った人間に受け継がれる。これはそれだけの魔法じゃ」
記憶だけではなく、才能まで継げるのかそれはなかなかにすごい魔法じゃないのか。
「まあ、血族しか使えない魔法じゃがな。赤の他人がこの魔法を使うと拒絶反応で死ぬ。それは才能とは全く関係ない理由でな」
なんだつまらない。どうやら一生ぼくとは関係ないものらしい。
「初代からの約千年に渡る記憶が全てわらわの中に入ってきたせいで、精神年齢は年寄り並みになったし、
口調も変わってしまった、去年まではわらわはもっと普通の子供じゃったよ」
少しだけ寂しそうに、クイーンはそう言った。
初代クイーンは、子孫たちに何を望んでいたのだろう。
ただ能力だけを残してやりたかっただけで、それが精神まで影響を及ぼしたことは想像の範囲外だったのか。
それとも、計画通りであり自分のコピーを未来に残すことが目的だったのか。
「さて、質問の答えはこんなところじゃな。次は何かのう?」
うむ、このあまりにも闇が深い一族の末裔に今度はなんの質問をすればいいのだろうか。
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