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第二章 呪いからの解放編

破壊と

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 完全に心を破壊しないようにしないといけないので気を遣う。

 まずは、魔剣の子の意見を一つずつ論破していくことにしよう。

「君が何に絶望しているのか、ぼくにはよくわからないな」

 ぼくは小さくつぶやいた。

 当然魔剣の子にはぼくの声が聞こえていたようで、大きく反応を返してくれる。

「何故、わからない! 人間は理由もなく他の命を奪うような悪だぞ!」

 そうだな、手始めにここから反論していこう。

 あくまでも、魔剣の少年の土俵で会話をしなければ意味がない。

「君はたくさんの本を読んできたみたいだけど、ペットを飼ったこともないのか?」

「なに?」

「別に、他の動物や昆虫なんかを観察してもいいけどね。あのね、この世に存在する全ての生物は理由もなく自分以外の生物を殺すよ?」

 やはり知らなかったか。

「……は?」

「猫がネズミなどの小動物をいたぶっている姿とか、食べもしないのに攻撃している虫とか。知らないのか?」

「な、んだと?」

「お腹が一杯になると攻撃をしない? そんなわけないでしょ、全ての生物はただ楽しくて、自分より小さいものを攻撃する」

 余裕は、何かを傷つけるものだ。

「むしろ人間以外の方が単純だ。目の前で動いていて気になったからとか、いつか食べるために、保存するために殺したくせに死体をそのまま放置していくとか? 自然界ではよくあるよ」

「そんなわけがない!」

「そう思うなら、どこかの森にでも入って生物を研究してみればいいさ。もちろん全ての生物がそんなことをするなんて言わないよ」

 でも、全ての種類はそんなことをする。

「でも、その理屈で言うなら人間だってそうだろう? ベジタリアンで動物を殺さない人間とか、私財を投じて動物や自然を保護するような善性を発揮する行動も存在する」

 それも、全ての種類に対して。

「逆に言えば、人間以外の生物はそんなことしないよね? 君の理屈とは真逆の、全ての生物の中で人間しか行わない正義だ」

「そんなことは知らなかった!」

 そうだろう。

 だが知らなかったは、言い訳にならない。

 知らなかったのが悪いのだ。

「でも今、ぼくから話を聞いているだろう? もっと言ってしまえば生物ではなく、自然現象だってきまぐれで生物を殺す。家事、地震、雷、地割れ、まあなんでもいいけどさ」

 別に生物が特別なんかじゃない。

「それらは実際に起こる頻度は少なくても、とてつもない数の生物を殺す。別に人間に限らないよね。確かにある程度それらの発生原因は解明されているけど、解明されてない理由もたくさんある」

 災害とはそういうものだから。

「それに人間的視点で言えば、きまぐれで起こっている発生原因もたくさん存在する。ならばやっぱり自然現象はきまぐれで生物を殺している」

「それは、人間が低レベルだから理由がわからないだけできまぐれではないんじゃないか?」

「確かにね。でもその通りなら人間が気まぐれだと、理由がないということも、本人の未熟さや知能の低さが対象を理解してあげることができないだけで、実際は同情できる理由や、どうしようもない理由なのかもしれないだろう? わからない、というのはそういうことだ」

「そうかも、しれないが」

「ぼくが知っているのはこのぐらいだけど、君は色々なことを知らなかった。だけど、ぼくに聞かされて色々なことを知っただろう? それでも君は人間だけが生きていてはいけないような悪だと思うのかな?」

「確かに、人間だけが悪ではないかもしれないが、それでも人間が悪ではない根拠にはならないだろう」

 それは当たり前だ。だがそれほどこだわるところでもないだろう。

「一つ、どうしても気になることがあるんだけど、質問してもいいかな?」

「……なんだよ」

「君はなぜ人間が悪だと絶望してしまうんだい?」

「……だと?」

「最初の君の理屈が全て正しいとして、人間が悪で救いようがなくて生きている価値がないとする。でも、何故それが絶望する理由になったり、人間を殺さなければいけない理由になるんだよ?」

 そこがよくわからない。

「当たり前だろう! そんな存在に生きている価値などない!」

「だから? 別に価値がなくても生きていていいだろう? 生まれてから死ぬまで他の存在に迷惑をかける存在だったとしても、自分が生きていたいと思っているならそれだけで問題はないはずだ。悪だったり迷惑をかけることのなにがいけないんだ?」

「お前の、言っていることがわからない」

「全ての生物は迷惑をかけるものだよ。例え完全な善の存在だって、他者の迷惑になる。子供は親に迷惑をかけるし、生徒は教師に迷惑をかけるし、部下は上司に迷惑をかける」

 それが成長と呼ばれるものの一つだ。

「友人にだって恋人にだって、迷惑をかけずには生きていけないだろう。君だって今、ここでほとんど自分とは無関係なぼくに迷惑をかけている。その全てを気にしたってしょうがない。問題は相手が迷惑だと思うかどうかさ」

 事実と現実は、ズレが生まれるものだ。
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