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第二章 呪いからの解放編
生きるためには美味しいものを
しおりを挟む笑顔の子が食堂で働くことを希望している子供だったのでその職場に押し掛け、オルトに提供させた様々な情報の資料を吟味する。
「クルギスくんは、料理作れるの?」
笑顔の子がぼくに尋ねる。
「無理だ。何らかの方法で学べば当然出来るがぼくは忙しい、そんな時間はない」
「本当かな?」
ぼくを疑う笑顔の子の頭をぐりぐりして涙目にすると、オルトからの書類に目を通す。
どうやらぼくの王子としての立場を利用して、王室御用達のコックや、超高級食材などを使い放題したらしい。
だが、その全ての料理を白い子は一口程度しか食べていないらしいのだ。いや、それすら出来なかった料理も数多くある。
「国王の気に入っている店もダメなんだ」
あの男は時々、変装して街に遊びに行く。
その時に絶対に行く店でも口に会わなかったらしい。国王以上のグルメとは驚きだ。
よく見たら第一のお気に入りの店もダメらしい。あいつは結構なグルメだったのに。
「ねえ、クルギスくんはどうするの? オルトくんは色々な店に連れてってくれたし、いろんな料理を作ってくれたよ。クルギスくんのお気に入りの店に私たちを連れてってくれるんじゃないの?」
「基本的にぼくは食べ物に興味がない。おススメの店なんてないんだ」
正直に言うと、ぼくは食事という行為が大嫌いだ。
それにその時間がもったいない。
「そうなんだ、じゃああたしの働いている店を気に入ってくれると嬉しいな」
「見習いが何を言う」
これだけの情報があるんだ、新しく何かをする必要などないだろう。白い子の好む食べ物の傾向を調べるべきだ。
白い子が一口以上食べた料理はオルトに連れられた店で、三十二件目のグラタンらしい。
これのどこがグルメだ。
「君は何がおいしかった?」
笑顔の子に聞いてみる。
「なにかのサラダかな」
もう一度言おう。どこがグルメだ。
確かにこだわろうと思えばどこまでもこだわれる料理らしいが、これらは一般家庭でも作られている大衆料理だぞ。
ともかく好みの味に共通点はないだろう。グラタンとサラダのどこに共通点があるというのだ。考え方の視点を変えよう。
「オルトは何をしたんだ?」
「ええっと? 流れで言うと授業の初日にあたしとアンナちゃんで食べ物をなんとかしてってお願いに行ったんだよ。オルトくんもアサヒ様に私たちの話を聞かされてたみたいで色々と協力してくれたんだ。たくさんの店に食べに連れて行ってくれたし、オルトくんが自分でいろんな料理を作ってくれたよ。でも駄目だったんだ」
「君はどのぐらい食べれたの?」
「結構食べれたよ。三分の一ぐらいの料理は少し食べれた」
「なら君は子供たちの中で、どのぐらい強いの?」
トール村の人間の味覚は、強さに比例していると聞いたから。
「三番目だよ。アンナちゃん、ヒイラギくん、あたしの順に強いんだ。私たちの強さは四人目から途端に弱くなっちゃうんだよね。ヒイラギくんがよく嘆いてたなあ」
「じゃあ君は、そんなに強いのに何で戦いを嫌がるの?」
そう尋ねると、彼女は笑顔を消して悲しそうに語る。
「あたしは戦うのは好きだけど、殺すのは嫌いなんだよね。でもトール村の人間は全員戦ったら殺すって教育されてるんだ。どれだけ嫌でも本気になったら絶対にとどめを刺しちゃうんだよね。だから、戦うのが嫌いになったの」
戦闘狂と殺人狂の違いだろうか。
「どれだけ殺すのを止めようと思っても、殺しちゃうんだ。絶対に止められないってよくわかったから色々と諦めた。アンナちゃんとかヒイラギ君みたいにあたしよりも強い人とか、五人とか六人であたしを止めてくれればなんとかなるんだけど、やっぱり戦うなら一対一だしね。それが一番楽しい」
「そっか」
悩み事は人それぞれだ。
どれだけ何かに好きなのかということも、人それぞれだ。
ぼくにとっては、ぼくに役立てばそれでいいし。
「なるほど」
なんとなくヒントが見えた。
全てのことは人それぞれだ。だが、それでは世界は回らない。ある程度の基準と言うものがなければならない。
つまり、美味しい料理とはこういうものだという基準が存在するだろう。彼女たちにとって高い料理が美味しいということはわかっている。そして高い料理はこの書類にいくらでも乗っている。
「協力してね」
「……へ?」
「書類に乗っている全てのデータを比較してみるから」
「ええええええええ!この山を!」
☆
脅かしておいてなんだが、ほとんど自分で何とかした。
ぼくの場合、本一冊に数秒しかかからないからどれだけの山があっても数分で終わった。
「なんだ、そういうことか」
共通点や、類似点などを比較すると色々と推測が出来る。
「わかったの!?」
「ああ、重要なのは時間だ」
「時間?」
「味そのものは当たり前としても、料理を作るのにかかる時間が重要なんだよ」
グラタンのベシャメルソースや、笑顔の子が美味しいと言ったサラダも決して普通の作り方とは言えない。
資料に乗っている情報を見ると、二つの料理とも出しているのは老舗で納得できるものが完成するまでに、有り得ないほどの時間と手間がかかっているらしいのだ。
他にも高級店の料理は大体が時間がかかるものだし、笑顔の子の感想を合わせても、メニューが膨大過ぎて確定的な共通点はそのぐらいだろう。
「そ、それならアンナちゃんが美味しく食べれる料理が作れるの?」
「この情報からは無理だな」
料理に時間をかけれない。ぼくは忙しいのだ。
手間もかけられない。毎回何年もかけている材料を毎回使っていては、あっと言う間に国からなくなってしまうだろう。
だったら。
「圧倒的に美味い料理を作ればいいということだ」
「いや、だからそれが出来ないからどういう料理が美味しいかを調べてたわけだし、無理なんだよね?」
「出来る。三日もいらなかったな、明日の朝に白い子をオルトの教室に呼んどいてくれ」
「え? え? どうするの?」
「じゃあな」
ぼくは常日頃から料理と言うものに対して一つの理屈を持っていた、おそらくそれが実証されることになるだろう。
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