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第一章 子供たちの救い編
歴史の生き証人
しおりを挟む目的地の地下深くには大きな鏡があった。
……とても曇っていてぼくの顔すらわからないが。
「これがあの人の門なの」
「門?入り方は?」
「同じよ。持ち主が許可するしかない。通信手段はないけど中からは察知できているはずだから、あの人に門を開ける気があるならば……」
そのとき、ピキッという音がして鏡がとても透明になり、中にいる人間の姿がよく見えた。
「悪魔では、ないようですね。あなたは誰ですか?」
似てる。凄く似てる。
初代の妹と隣にいる白い子は、その姿がほぼ同じだ。
違いがあるとした二か所、初代の妹は髪が黒いことと、まともな体型をしていることだ。白い子は肉というものが体の全てになく、がりがりなのである。それは生きているのが不思議なほどだ。
「クルギスと言う、一応は皇子でね。国王からの要請でこの村の生き残りを回収に来たんだ」
「回収、ですか?でもあなたが村の仇をとってくれたのですね?心から感謝します」
「いや、一人逃げたからな。でも、まあ村から追い払ったのは間違いないな。でもよくわかったね」
「私はこの時代の人間には使えない魔法がいくつか使えますので」
「そうなんだ」
何千年前に廃れてしまった、魔法という文化。
理由は世に出回っているアイテムがあまりにも効果が高く、魔法で使える効果の全てが何の努力もなく使えてしまうからだ。
結果として、今では魔法を学ぶことすら、ほとんど不可能だと言ってもいいぐらいに世の中からなくなった。まあ人間の中での話だが。
多種族の事情はそこまで詳しくは知らない。でも人間ほどアイテムを使う種族は存在しないので少しはましではないかとは思う。
「自己紹介が遅れました。私はこの村の副村長でアサヒといいます。一応この村ができたときからずっと副村長で初代村長の、お兄さまの妹です」
「ああ、そういうのはいいよ。きみのことは色々と、白い子から聞いたからね。さあ、君も連れて行くから門から出てきてくれ」
「申し訳ありませんがそれは、できません。私がこの鏡から出てしまうと世界に混沌が起きるのです。過去には世界全てを巻き込むような戦争が起きてしまったのです」
「いやあ、その話は白い子から聞いたって」
「え?それなのに私に外に出ろと?なにが起きるか分からないのですよ?」
アサヒは、信じられないという顔をする。
「うん。でも国王から命令されているから」
「あ、あなたは命令に従うためなら世界など、どうなってもいいと言うのですか?」
「そんなことはないさ。でもしょうがないかなって思うよ。命令だからね。部下は上司に逆らえないだろう?皇子は国王には逆らえないんだよ。仕事ってのはそういうふうに回っているんだよ」
「あなたは、頭がおかしいのですか?そんな指示にはとても従えません。村を救ってくれたことは心から感謝しますが、残念ながらあなたを信頼することはできないようです。アンナ、彼に従う必要などありません。彼の指示には実力で抵抗しなさい」
「……」
白い子はあまりにも困惑した顔をしている。どうしたらいいかわからないようだ。興味はないのだが、白い子はアンナという名前らしい。
「こっちも、従ってもらえないなら実力行使するしかない。それにトール村は一応メテオ国の民だろう?ある程度の恩恵を受けている以上は、緊急時ぐらい国王の命令には従わなければならない。それに危害を加えると決まっているわけでもない。ぼくはきみたちの処遇は聞いていないからな」
「ますます信用などできません。アンナ!」
「……」
「アンナ!彼を動けなくしなさい!」
「!」
一瞬悩んだが先祖には逆らうのが難しいらしく、その姿が掻き消えた。
「ごめんなさい!」
その声は背後から聞こえた。
当然のことながら一般人程度の運動能力しか持たないぼくには、人類最強の一族の動きなど見えるわけがない。声の位置からして首から上を狙っているのかと思う程度だ。
だが、別に動く必要などないのである。
「あ!」
白い子は体中に電気が走り、全身がマヒ状態になり指先一本動けなくなった。だが、いまぼくが使ったアイテムは解毒をしなければ永遠に動けなくなるものだ。
威力が強すぎてランクが低く、麻痺を解ける専用のアイテムは世界に一種類しか存在しないという上に、扱い方を間違えるとどうしようもなくなる、だれも見向きもしないものである。
おそらく好んで意図的に使っているのは、ぼくだけではないだろうか。なぜなら永遠に動けなくするぐらいなら殺すのが当たり前だからだ。
しかも解毒アイテムはセットで存在するわけでもなく、そっちは公には発表されてもいない。
基本的には決して治らないものなのだ。
「な、何をしたのですか?」
「さあ、それよりこれで君を守る人間はいなくなった。どうする?大人しくついてくる?」
「……門の中には持ち主の許可した人間しか入れません。あなたには決して私を連れていくことなどできないのです」
「白い子は見捨てるのか?他にも生き残りが何人かいるよ」
「……仕方がないのです。大事な一族とはいえ、世界とは比べ物になりません。数十人を守るために何百億人もの犠牲は出せません」
「そっか」
一応情に訴える作戦を使ってみたが、何千年も生きているとやはり頑固な性格になってしまうのだろう。
だが、決して情がないわけではないようだ。無表情を装っているとしても、やはりつらそうに見える。
「じゃあ、仕方ない」
門そのものに使う、専門のアイテムと言うものが存在する。
普通は誰にも分からない。門の持ち主にだけ理解できるアイテムだ。
自分の門で色々と実験した結果。他者の門の破壊や、中身を奪うことは流石に出来なかったが、侵入方法など、いくつかの介入方法を確立した。
おそらく、世界でぼくにしか出来ないだろう。
ぼくは門から一枚の紙を取り出し、鏡にベタリと張った。
「ボン」
大きな音と同時に鏡が完全に割れた。
「は?」
「安心していいよ。まだ、門が割れただけだ。その範囲から出なければ何も変わらない。でも、一歩でも出れば、ね」
ぼくはにこやかに笑った。
これで、もし本当に彼女が呪われているのなら全世界にしっかりと壊滅的な被害が出るだろう。
断言しておくが、ぼくは理由もなく何かを救う気など、一欠けらもない。
これで滅ぶというなら、滅べばいいのだ。
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