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最終話 (挿絵付き)

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 その日は本当に楽しい一日でした。

 山間やまあいの小さな旅館での同窓会。

 突然現れた先輩の姿に呆然とするゆきちゃん。
 にやにやする14人。

 先輩が話す、空港の記者たちやカメラからいかに逃げ出してきたかのお話は、スパイ映画のようだとみんな大笑いでした。

 それから16人は、高校時代から今までのことを楽しくお話ししました。
 ゆきちゃんが見つけてくれたみんなのすごいところ。自分では気がつかなかった素敵なところ。

 みんなはそれを胸に、それぞれの世界で活躍していました。

 みんなは夢中になって、ゆきちゃんに伝えてくれました。

 時間はいくらあっても足りませんでした。



 次の日、先輩はゆきちゃんの家を訪ねてきました。

「長い間借りていてごめん」
 先輩の手にはゆきちゃんの色鉛筆がありました。

「……大丈夫です……ずっと信じていましたから」
 ゆきちゃんは、ふわりと笑顔をみせました。

「あらためて……おめでとうございます」
「ありがとう。このゆきちゃんのお守りのおかげだよ」
 先輩は、ゆきちゃんの色鉛筆をそっと返しました。

「それから……あの時のもうひとつのお願いをしにきたんだ」


 ――もし自分の目が曇ってしまいそうになったら、この色鉛筆を返しに来る。その時はまた君の話を聞かせて欲しい――


「私の話でよければ……」
 ゆきちゃんは照れた顔をみせました。

 先輩はいつもの生真面目な表情をもっと緊張させました。

「ゆきちゃん、もしよかったら……その……これを受け取って欲しい」
 先輩は一枚の絵をゆきちゃんに差し出しました。


 それを見たゆきちゃんは、目を大きく見開きました。

 両の手で口を押え、その目からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちました。


 そこには、ゆきちゃんの色鉛筆で描かれた、空や山や星や花……色とりどりの色に囲まれた、輝く純白のウェディングドレスをまとったちいさな女性が描かれていました。


 ゆきちゃんは震える手でそれを受け取りました。
 そして、輝くような笑顔と、涙にうるんだ声でしっかりと答えました。

「はい……喜んで……」



 ゆきちゃんの机の上に置かれた16本の色鉛筆たちは、その小さな背中に声をかけました。


「泣かないで、ゆきちゃん!」




fin




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