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ギルドの魔術士による一日と非日常
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「新女王の政策も分かるけど……魔道具の一般販売は治安維持の面も意識して欲しいねぇ」
僕はアルス。
王国の魔術師ギルドに所属する魔術士。
首都と言える王国に居を構えて様々な魔法の研究をしている本の虫なんだけど、昨日くらいか新女王が魔道具なる物を一般市民含めて提供してきた。
確かに興味深い魔道具ばかりで好奇心を擽られる。
特にこの板状の魔法石で作られた魔道具『マジックタブレット』は、魔法石一つに魔力のペンで与えた情報を記載できる。勿論、魔力のペンでなくとも素人魔術士程度でも指や声を扱えば簡易的に情報を書き込む事ができる。
それにマジックタブレットは所持者同士で情報共有が可能で非常に便利……なんだけどぉ
「誰とでも情報共有できるって事は、詐欺師が情報操作を出来てしまう事かな」
そう、僕の書いた文章や論文も信用されない可能性がある。つまり信用を揺るがしかねない可能性さえあるという事。
「はぁ、考え過ぎると頭が疲れちゃう。魔道具関係の考察は後にしよう」
一旦魔道具から視線を外す為に魔術師ギルドの道具保管庫から出て、外の空気を吸う為にギルドホールに来る。ココを通れば外の扉までは目と鼻の先。
今日もギルドホールでは魔術の教師が生徒に魔法の勉強を教えている。
「照明の魔法は神聖な精霊からの魔法で、周囲を照らす役割で使われます。火属性の精霊魔法と違うのはー」
今やってるのは神聖魔法の灯明、つまり明かり魔法。暗い場所で本を読む際には重宝してる基礎魔法の一つ。強化すれば霊の精霊が扱う魔法に対抗できる応用魔法が出来上がる。
火属性と明らかに違うのは本を燃やさない事、まぁ基本中の基本だね。
「見学ばかりしてないで、外の空気吸わないと!」
僕は自分に言い聞かせる様に魔術師ギルドから外に出る。
「んー!やっぱ太陽の恵みは体で味あわないとねぇ!さて、装飾品作りに街の屋台まで行こうかな」
実はこう見えて僕は装飾品作りが好きで、左腕に嵌めてる腕輪も右手の人差し指に付けてる指輪も全部僕の手作り。
流石に魔術士の服は魔術師ギルドからの提供品だけどね、でも魔術士の服は体の動きを阻害しない柔らかい生地で作られてるのもあって僕のお気に入り。流石は魔術師を育成する団体なだけある。
「まずはお小遣い稼ぎに、装飾品作りの依頼でも受けよっかぁ」
街の中央通りまで行くと商人やアイテムを求める人が一杯。
今回は仕事消化を先に行いたいから、依頼が貼られてる掲示板まで一直線。
「んーと……あったあった」
鍛冶・仕立て・木工・宝飾品の依頼と書かれて貼られているビラの中から宝飾品の依頼ビラを取る。
真っ先に宝飾作成専用台の宝飾台のある宝飾屋へと走り扉をくぐる。
「いらっしゃい。商品をお求めの方は1階に、制作関係者の方は2階へどうぞ」
店員に促されて僕は2階へ上がる。
「よし、作業開始!」
宝飾台の席に付き流れる様に片目レンズと拡大レンズを取り出し、拡大レンズを片目レンズに嵌め込む。
「さぁて、今日の依頼を再確認っと……腕輪!僕の得意分野だラッキー!」
宝飾品の依頼には腕輪の他にネックレス・指輪・鈴・ピアスがある。
今回の腕輪の宝飾品制作は自前で魔力操作にも応用するほど作ってるから、慣れた手付きで容易く作成できる。
「先ずは指定の腕輪サイズと、指定の原料で……よし!」
僕は素早い手捌きで宝飾台の上で腕輪を高速で作成する。
宝飾品の作成依頼は数が多くても一つ2時間程度で終わる。勿論、デザインや素材に拘りだすと時間はもっとかかる。
今回は仕事の依頼だから簡単に終わらせるけどね。
「えーっと、依頼された数は3つ……うん、僕ならすぐ終わるね」
そのまま僕は時間経過など気にせず規定数の腕輪を完成させた。
依頼品を持って配達箱の前まで足を運ぶ。
「よし、後は配達伝票に依頼完了と僕のサインを書いて……仕事終わり!」
納品した事で配達物を整理してた配達係が声と袋を持ってきた。
報酬金を受け取った僕は、そのまま宝飾屋から出る。
「さてと、次はどうしようかなぁ」
仕事が終わった後の僕は特に次の目標を決めておらず、このまま帰ろうかと思っていた。
その道の間に、鋳造場で鉄を打つ一人の戦士に僕は自然と目が行った。
僕と同じ様に、鍛冶の依頼で装備作りをしているのだろう。
僕は鋳造場の仕事は好きじゃない。釜戸は熱いし金槌を力一杯に扱う以上は向いていない。
だけど僕は鋳造場で鉄を打つ金髪ポニーテールで鎧甲冑な片手剣戦士の女性に無意識に目を釘付けにしていた。
黙々と熱い鉄を打つその姿に、僕はただ夢中に見ていた。
「何?そこの魔術師ギルドさん」
「あっごめんなさい、気を払わせちゃって」
僕の服装でそう判断した金髪戦士の女性は、声を掛けたかと思えば再び鍛冶の作業に戻る。
熱で赤くなった鉄を金槌で打ち、武器の形を作ろうとしている。
形が整ったのか、鋳造場にある水の入った桶に剣を入れ、ジュ~と熱い鉄が水によって冷やされる音が鳴る。
「よし、完成っと」
金髪戦士の女性が出来上がった剣を見て配達係の所まで持って行き、配達伝票にサインをして報酬の金貨を貰った。
「……鋳造場の時からずっと私を見てるけど、何?」
「あっえーと」
声を掛けられた僕は我に返る。
「え~っと、友だちになって下さい!」
「はっ?」
あ~!思わず口に出ちゃったよ僕! でもしょうがないよ、だってこの女性の事を格好良いって思っちゃったんだもん!?ここで仲良くしないのは損だ!損!
「ごっごめん。急に声を掛けてビックリさせちゃったよね」
「え?あぁいや別に大丈夫だけど……あんた服装からして魔術師ギルドの人でしょ?」
「まぁうん……そうだね」
魔術師ギルドは王国の体勢から見ると中立の位置に所属しているんだけど、この行動は完全に僕個人の物だ。
「魔術師ギルドの人間が私に何の用?私は見ての通り、鉄を叩いて鍛冶の仕事を副業にしていた戦士なんだけど?」
「いやぁその……」
僕は気恥しさから言葉を詰まらせる。
僕が彼女に感じた事は、一言で言えば一目惚れだ。今まで魔術士として勉強したり魔法道具作りを趣味にしてきたけど、そんな彼女に憧れた。だから……
「貴女に惚れました!」
僕は気持ちをそのまま伝えると、彼女はキョトンとした表情を浮かべて口を開けたまま黙ってしまった。
あちゃあ……いきなり告白は流石に駄目かなぁ。
「ふーん……ねぇアンタ、私に雇われない?」
「ふぇっ?!」
彼女は何を思ったのか、僕の告白に答えて雇いたいと言い出した。
「え?でも僕って鍛冶仕事とか出来ないけど……」
「別に鍛冶をやれなんて言わないわよ。寧ろやられちゃ困るわ」
「じゃあ何の仕事を?」
すると彼女は何か言おうとしたのを躊躇ったが、意を決して僕に答えた。
「私の本業は戦士よ」
あ~なるほどそういう事ね!確かに彼女のスタイルを見た時は近接職も出来て可笑しくはないと思ったし、実際に戦士の格好してるから合ってるね!
「えっとぉつまり?」
「戦士ギルドの依頼に付き合いなさい」
「……えぇー!?」
僕が冒険者になるなんて思いもよらなかった。
そもそも戦士ギルドの依頼ってどんな内容?戦士を集うギルドな訳だし魔物退治とかかな。
「言っておくけど、アンタが依頼に付き合う事を望んだんだからね?」
「いや、でも僕はそこまで言ってなくてそれに僕はただの魔術師だし……」
すると彼女は僕の左腕に付けてる腕輪ごと掴んで耳元でこう威圧する。
「口答えするの?ボク……」
「はい、喜んでお供させてもらいます。お姉さん」
断ったら腕の骨を折る……と言わんばかりの勢いに押され、僕は彼女と行動する事を受け入れた。
「エリザよ。私の事はそう呼んで」
威圧で脅されてた僕とエリザの光景を目にしていただろう周囲の街の住民の視線が何だか冷たいけど、エリザが特に大した問題を起こしてないのもあり衛兵ですら見て見ぬふりである。
「えっと、アルスです……」
「敬語も不要よ。今から同じ依頼をこなす仲なんだから」
「因みに、エリザ……戦士ギルドからの依頼って……?」
エリザが懐に入れただろう依頼ビラを取り出して確認してこう言う。
「邪神崇拝してる悪徳教団の殲滅よ」
「……教団の殲滅?」
「そう。何でも邪神を崇拝しているカルト教団らしくって、今回の依頼は信者の捕縛が主な依頼。ただ過激な宗教団体でもあるから、必要な時は……ね」
「え、捕縛で良いんじゃないの?過激ならもう討伐対象じゃない?」
「良いのよ。連中は邪神を信仰してるのよ?それに邪神崇拝してる教団のメンバーが現世に邪神を降臨させようとする祭壇地帯も確認されてるの」
「祭壇地帯?」
聞いた事の無い言葉に僕は首を傾げる。
「邪神を現世に降臨させる為の、言わば着地点として扱われる祭壇ね。祭壇地帯には教団信者が生贄を使って邪神降臨の儀式を行うから、入り込んだら信者達に捕まって殺されるわよ」
なるほど、邪神崇拝集団なら命は惜しくないだろうし他人を巻き込む事前提で動いてそうだ。でも一つ気になる事があるんだよね……
「でもさ、そんな危険な集団が何で冒険者ギルドとかに討伐依頼を出さないの?ギルドに所属してる人達は……」
「単純にギルドの部隊展開が、教団の部隊展開に追い付いてないだけ。いや、教団の暗躍が上手いとでも言うべきかしら?」
「確かにそれなら戦士ギルドだけじゃ殲滅も難しいね」
「あいつ等、目的概要は大胆なのにそこに行き着くまで透明化の魔法を惜しみなく使うからね……新人冒険者も不意を突かれるの」
「透明化の魔法を?それ、扱うにしても上級の魔法だよ。そんな魔法使えるの魔術師ギルドでも少数なんだけど」
「まぁ難しい事は剣で本体を叩き斬れば良いだけだからね」
エリザって女性なのに戦闘になると意外と脳筋なんだ。
「でも、僕は非力だから戦士ギルドの力仕事は出来ないよ?」
「戦士ギルドは魔法が使えない人達が大半よ。仮に肉体的パワーの無い魔術師でも一応は歓迎してるわ。難しい話は大体嫌がられるけどね」
「なんか、戦士ギルドの人達ってそういうの面倒くさがりそうだなぁ……」
「だからこそ私が依頼に付き合ってるし、今は私一人しかいないからね」
でも改めて考えるとエリザは何故僕に声を掛けたんだろう?その理由が僕は知りたかった。
「あのエリザ……一つ聞いて良い?」
「何よ」
「どうして僕を誘ったの?」
「……はぁ?」
あちゃあ。それ聞いちゃ不味い質問だったかな……此方から言ってきた事だしどうしようと焦っていた時だ。
「都合が良かったからに決まってるでしょ。それにヤバかったらアンタを囮にして逃げるだけ。分かりやすいでしょ?私一人でも充分だけど、アンタみたいな魔法が使える存在は滅多にいないからね」
「あっ、そういう感じだったんだ……」
てっきり僕と仲良くなりたいからとかそんな理由かと思ってた。
「一緒に頑張ろうねエリザ」
僕が握手の手を差し伸べると、エリザは少しびっくりした表情を見せて直ぐに笑顔になって握手し返してくれた。
「えぇ、よろしくねアルス」
この時はまだ、エリザの本当の力を知る由もなかった。
今、僕はエリザと共に宗教団体が根城にしてる村に向かっていた。
目的地は祭壇地帯から少し離れた場所にある村の近くであり、そこには村人も生活しているという。
「アソコね。目的地の村だけど、特に教団の信者が巣食ってるとは見た感じ思えないわね。普通に畑耕したり物運んだりって位かしら」
「見た感じは普通の農民だよね。マジックタブレットの情報でもそう書かれてる」
僕は取り出していたマジックタブレットを使って村に記載された情報を見ていた。
「何使ってるの?」
「あれ、知らない?新女王が新しく提供し出したマジックタブレットだよ。色んな人が書き記した情報が見れるんだ」
「へぇ、便利じゃない。私はそういうのに記載するの面倒くさいわね、文字を手書きして自前の印鑑で証明したりギルド紋章を装備に付けて身分を証明するだけで充分」
「んー、僕は寧ろ魔法のペンとタブレットで書きたいかなぁ。身分証明も細かく分けたいし」
「アンタはそういうの気にする人なのね」
「でもマジックタブレットって高いから手が出せないんだよね」
魔術師ギルドはギルドでの開発費だったり教育関係で便利に取り扱ったり今後の発展を期待してで貸し出してくれてるけど、一般的には値段が張るし買う気が無くなるよね。それにそういう使用用途に合わない人には貸し出してくれなさそうだし。
「まぁ良いわ。これから村に入るわよ。」
そう言ってエリザは村の中に入るが、僕は何か違和感を感じた。
「……うん?」
違和感の原因は直ぐに分かった……人がいないんだ。
「誰も居ない?静かだね」
「……アルス、建物の中を一軒ずつ目視で調べて。何かあったら叫ぶなりして私を呼んで、すぐ駆け付けるから」
「えっ?ちょっと!」
エリザがそう言うと何かに勘付いたのか僕を置いて何処かへ走り去る。
僕はエリザの言葉に従い、村の一軒ずつ見て回った。
すると……
「何これ?」
僕は見つけた物に対して何も言えなかった。だってこれはあまりにも予想外過ぎる光景だったのだから。
「これって、骨……?」
村の一軒の家の中は何かの骨で埋め尽くされており、壁や床から突き出ていた。その数は恐らく100を優に超えているだろう。
何の骨かよく見てみる。
「何の骨だろう……コレ……っ!?」
よく調べてみると、人の手の形をしてる事に気付いてしまった。
「はぁっはぁっはぁっ……!」
息を荒げて慌ててその場に倒れ込んでしまう。人であった骨がソコにある事実に呼吸が落ち着かない……
「どうしたのアルス!」
エリザが僕に気付いて駆け付けた時には僕は過呼吸気味で冷や汗を掻いていた。
「何かヤバい物を見たの?」
僕は震える手で村の至る所に突き出ていた骨を指差す。
すると……
「人の手みたいね」
エリザは僕の恐怖を気にせず、冷静に家の人骨の状況を見ていた。
「……エリザは怖くないの?」
「職業柄ね。常に重犯罪者や害獣なんかと死に物狂いで戦ってるからね。動物や犯罪者の過去とか待遇とか考えたら情が湧いちゃうし」
エリザって脳筋だと思ってたけど、戦士ってだけあって誰かを殺す事があり得るギルドだもんね。怖い感覚も麻痺しちゃうって事なのかな。
「アンタは無理して慣れる必要は無いわ」
そう言って気遣いしてくれたエリザ。でも誰かが死んでしまった事には変わりない。
僕は震えていた足に力を入れてフラつきながらも立ち上がる。
「大丈夫だよ」
僕は無理矢理に笑顔を取り繕って見せた。だってそうしないとエリザは僕に気を遣ってしまうし、僕もその優しさに甘えてしまうからだ。
「そう……それじゃこの村の後始末を早く片付けないとね」
エリザは深くは聞かずに居てくれた。気を遣ってくれたのかな?それとも偶然かな……
「でも邪神崇拝のメンバーは何処に行ったんだろう」
村の住人もだけど、敵勢力の邪神崇拝メンバーも見当たらない。マジックタブレットを見ると……
「なんだろうコレ?黒い服を着た人が何人か居る……」
「見せて!」
僕より背の高いエリザが僕の肩に回り込む様にマジックタブレットを覗き込んでくる。勢いが凄いから少しビックリしちゃった。
「間違いないわ。邪神崇拝の信者衣装よ。全身黒で分かり易くお出ましだなんて、戦士ギルドに喧嘩売ってるのかしら?」
エリザは懐に締まってた剣を抜刀するとすぐさま何処かへと走り去ろうとする。
「何処行くのさ!エリザ」
「祭壇の所よ!ほら、アルスもついて来なさい!場所は把握してるから」
エリザに急かされて僕は走って彼女の後を追う。
「待って!早いよ!」
僕が全力で駆けても彼女の足に追い付けない。だがエリザはそれさえも気にせず一人で先に行った。
そして黒い服を身に纏った写真崇拝のメンバー達が見えてきた。儀式に使われてる祭壇の規模は大きく一般的な1軒家の面積を示す程の大きさだった。
「全く、コイツ等のせいでどれだけの土地を不法占領されて沢山の犠牲者が居るか……何回やっても聞く気のない奴等なんだから!」
エリザは走る足を止めず、信者達が儀式を行ってる所を斬り伏せようとする。
「我等が神よ!この地に降り立ち給えぇ!」
信者の一人が叫ぶと、祭壇の中央から大きな光が吹き出し同時に大きな地響きが一瞬起きた。
「わぁ!」
僕は突然の揺れに足を取られ、尻餅をついてしまった。
ふと空を見ると、何か巨大な光の輪が出来てた。何、あの魔法?あんなの見た事無い!
「ったく、こんな儀式までして……この祭壇は破壊させてもらうわ!」
エリザは力強くジャンプすると、空中で剣を振り下ろした。その一振りで地面ごと祭壇を粉々に砕いて見せた。
「無駄ぞ!我等が神はこの地に楔を繋いでおる!間もなく降臨なされる!」
「だったらその楔ごとぶっ壊してくれる!」
信者達が一斉に自分の心臓に目掛けて隠し持ってたのか串刺しになり始める。
「っ!!」
信者達のいきなりの自害行為に僕は理解が追い付かず頭が混乱してしまう。
「アンタ達!何をやって……」
信者達の自殺行為にエリザも驚きを隠せない。
「ふ……ふふっ……我等が神よ、ココに供物を捧げます……!」
「これで我等は神の身元へと浄化される!」
信者達が死ぬと、彼等の体から黒いオーラが漏れ始めていき上空の光輪へと吸い寄せられていく。
「これで我等は神の一部に……なっ……」
そして信者達は死んだ。いや、自ら命を絶ったと言った方が良いのかな……
「何よこれ……」
エリザも目の前の光景に唖然としている。無理もないだろう、教団メンバーの一人が突然自殺して自分達の身を捧げているのだから。
上空の光から何かが降って来て大地にドスンと落ちる。
「えっ?」
僕はそれを見て思わず声が出てしまった。何故なら落ちて来たのは、見た事もない獣のような存在だった。
「ぐぅぉおおーん!」
アレ?あの獣、何かの本で読んだような……
「コイツは召喚獣?なんで空から落ちてくるのよ!?」
そうだ召喚獣!魔術師ギルドでも学ぶ難易度が高い召喚魔法だ。使役する必要があるから危険な呪文でもあって術式を理解してても実力のある魔術士や冒険者以外は扱っちゃいけない魔法だ。
そんな召喚呪文の獣が、どうして信者の死で呼び出せるの?出来たとしても……こんなのおかしいよ。
「グルルルル!」
唸り声を上げながら僕の方を睨む召喚獣。その強食の眼光は鋭く体格も倍はある大きさ……弱肉で小さい僕は思考も混乱して足が麻痺してるかのように震えて動けない。
「アルス!さっさと逃げなさい!」
「エリザ……でも、足が……」
「あーもう!」
エリザは素早く召喚獣に駆け寄り、剣で斬りつけた。
「グォッ!?」
斬られた召喚獣はよろけるが倒れる事はなかった。そして……
「うぐっ!?」
エリザは召喚獣の前足を食らい、吹っ飛んで祭壇の壁に叩きつけられてしまった。
「エリザァァァァッ!!」
そんな光景を目にして、僕は恐怖より怒りが込みあがり大声で叫び出す。
「……生きてるわよ、まだね……」
エリザはヨロヨロと起き上がる。
「なっ硬っ!!」
再び召喚獣に突撃し、剣を突き刺すも頑丈な毛皮の前に剣が弾かれてしまう。
「くっそ!」
エリザが懐から薬の小瓶を出して一気に飲み干す。
「……っは!!ぶっ殺してやるわよ、犬っころぉ!」
「グォオオオオン!」
目を力強く見開きながら狂気と共に再び突撃するエリザ。それと同時に召喚獣は彼女の身体目掛けて爪を振り下ろす。
「エリザ!避けて!」
僕が叫ぶと、彼女は瞬時に飛び退く。
召喚獣の隙を見逃さなかったエリザはすぐさま剣を勢いよく突き、召喚獣の中心を串刺した。
「おめえの心臓はココかぁ!おらぁ!」
女性とは思えない大声と台詞をエリザが言うと、彼女は剣に力を込めて上に斬り上げた。
「グォオオオン!」
召喚獣は悶えながら暴れだす。エリザは返り血を浴びながらも素早く剣を引き抜き大きく動き、次は召喚獣の頭を目掛けて剣を振り下ろし兜割り。
「ガ……グォ……」
召喚獣は横に倒れ、その場で絶命した。
召喚獣の返り血で汚れたエリザは息を荒げながらも剣を地面に突き刺すと、フラフラと体と足をフラつかせる。
「さぁて、次の防具素材は何処かしらぁ」
彼女の台詞と笑顔に僕は恐怖を感じた。
「エリザ、大丈夫なの?」
「はぁ……はぁ……大丈夫よ。ちょっと油断しただけ」
そう言って彼女は懐からポーションを取り出して飲み干すと、傷が癒えて回復していく。
気になってしまった僕は聞く事にした。
「それ、回復薬?あまりに治癒効果が高すぎるんだけど……」
「あぁ、即効性があるのよ。気分も目茶苦茶あがるし、すぐに治るから戦線復帰し易いのよ」
「それ、エリザの体は大丈夫なの?」
医学にはあまり詳しくないけど、この即効性が強いポーションの服用は危険な気がした。
「前会った治癒士に相談したら、内臓ボロボロだって言われたわぁ。だから何?私には戦士の生き方しか知らないし他の仕事も出来ないのよ」
「そうなんだ……」
戦士だから……か。もしかしたらエリザは命知らずの無鉄砲な脳筋じゃなくて、自分の運命を受け入れているのかもしれない。だからこそ危険なポーションに手を出してでも前線で戦う戦士としての生き方が染み付いてるのかな?
「ねぇアルス、あんた男のクセして顔は可愛いのねぇ。筋力も殆んどないし……戦士の私が少し本気出しちゃったら、あっという間にいっちゃうんじゃない?」
エリザは突然僕を押し倒す。あの、ここ屋外……しかもさっきの召喚獣の死体が近くに転がったまま……
そうは思ってもエリザの力は非力な僕じゃ勝てず振り解けない事も悟っている。
「さぁて、どんな味がするのかなぁ」
エリザが地に押し倒されてる僕に顔を近付ける。怖かった僕は目をつむる。
「……っ!」
右肩に噛まれるような痛みが走り出し、それが暫く続く。目をつむってるから状況は読み取り辛いが、エリザが僕の右肩を力強く噛んでる感覚と生暖かいヌルリとしたモノが垂れてるのを感じる。
「ちょっと、エリザ……」
僕は恐る恐る目を開き、彼女の状態を見る。エリザは僕の右肩を力強く噛みながら血を啜っている。その光景に僕は思わず声を失う。
「んっ!んくっ……」
舌で舐められ肩から口を離したエリザは大きく息を吸って吐いた後に、僕の血で赤く染まった唾液と血を口から垂らした。
「ぷはっ!結構美味しかったわねぇ」
「エリザって吸血鬼?」
「違うわよ、こうでもしなきゃ楽しくなれないってだけ。嫌なら拒絶しなさいよ」
そう言ってエリザは立ち上がり、剣を鞘に納める。
「僕はエリザがどんな人であっても拒絶なんてしないよ」
僕は微笑みながら彼女に手を差し伸べる。すると彼女は少し微笑み、僕の手を掴んで立ち上がった。
「私がどんな奴でもって、どういう事よ?」
エリザは僕と向き合うと真剣な表情で僕に尋ねる。
「やっぱり僕、エリザの事が好き」
「やめて!」
「自分の身を犠牲にしてまで非力な僕を守ってくれた。僕はそれを勉学という形で恩を返したい」
「変な期待を持たせようとしないで!!」
「それに二人で行動すれば、一人じゃ出来ない事も出来ると思うんだ」
「そう……よ……」
僕が捲し立てる様にエリザへの思いを語ると、彼女は涙を流しながらその場に崩れて座り込む。
「どうして男のアンタが優しい言葉をかけるのよぉ!私は他人もモンスターも自分の命さえも何とも思わないクズ人間なのよ!社会に馴染めなかった殺人者なのよぉ!」
大粒の涙を溢しながらエリザは地面に拳を叩きつける。その行動に僕は優しく彼女の拳に手を添えた。
「一人で抱えて辛かったよね。僕も一緒にその辛さを背負うよ」
貰い泣きしてしまってる僕。エリザは泣きやむのに暫く時間がかかった。
「今日は帰ろうか」
「うん……そうね……」
落ち着いたエリザは、泣きながら笑って僕に言う。僕と彼女は肩を抱き合って歩いて行った。
そんな光景を祭壇跡地から監視している者がいた事に気付かずに……
バァンッ!! 銃声が鳴り響き、僕の身体は後ろに倒れる。
「えっ……」
胸からは大量の血と焦げる匂いが漂い激痛が走る。何が起きたのか理解が出来ない僕は意識が遠退く。
エリザの声が聞こえるけど、何を言ってるか分からない……僕…しんじゃ…うん……
「んっ……あれっココは?」
「アルスっ!」
目が覚めたと思ったら、回目一番の音がエリザの声だった。見慣れない景色が広がるけど……
「エリザ?あれっ僕はどうして……?」
「アルスは胸の傷の出血多量で死にかけて意識不明だったのよ!応急処置したけど、私が街の治癒師の所まで運んだの」
エリザが不安そうな顔で僕を見る。何が起きたのか思い出せない。あの後僕は一体?
「そうなんだ……うっ!」
胸に痛みが走ると、あの時の出来事を思い出した。しっかりと僕の胸部に包帯が巻かれてて、結果的に治癒師が助けてくれたけどエリザがここまで運んでくれたのかな。
「暫くは動いちゃ駄目!安静にしてアルス」
「そうだ、銃声の主は?一体誰だったの?」
「邪神崇拝の教団リーダーだった。メンバーを祭壇まで集めて、生贄の儀式で召喚獣を大量に呼び出そうとしてたみたい。私とアルスが阻止してる所の隙を見て同じ様な儀式をするつもりだったってさ」
「そっか……僕、打たれた後に生け贄にされる所だったんだ」
「だから私がリーダーを完膚無きまで惨殺してやったわ。アンタが生け贄になりやがれってね」
エリザはニコッと笑いながら恐ろしい事を言う。
「でっでもこうして生きてるし良かったでしょ」
「良くないわよ!アルスは撃たれて死にかけてたのよ!」
僕の言葉が気に入らなかったらしく、彼女は僕の顔に近づき怒りを露にして僕を睨む。僕は思わず怯んでしまった。
「……っごめん……」
僕が謝ると、エリザは目を丸くしてから大きな溜息をつく。
「うぅん、私のせいで大怪我したんだから……ごめん……」
そう言うと僕の頭を優しく撫でながら軽く抱擁してくれた。その彼女の行為に僕は少しホッとした。
「ねぇエリザ……僕はどのくらいの間、意識不明だったの?」
「……三日」
「みっ三日もっ!?その間、ずっと側にいてくれたの!?」
僕は思わず目を丸くしてしまう。そんなに意識が無かったんだ……
「うん。だから、目を覚ましてくれてありがとう。私を置いていかなくて」
そう言ってエリザは申し訳無さそうに頭を下げる仕草をする。
すっごく丸くなったなぁ……
そんな彼女の手を強く握り返す僕。
「僕こそありがとうエリザ。助けてくれて」
「当然でしょ、相棒なんだから」
御礼に照れたのか顔が赤くなった。可愛い。
「エリザがそう言うの?でも、女戦士って格好良いし、これから頼らせちゃうね」
僕が少し笑うと彼女はジト目で見つめてくる。新しい生活が始まったみたいで気持ちがポカポカする。
誰かと一杯話すのは初めてかも。
「この怪我じゃ僕は魔術師ギルドの仕事もままならないけど、エリザの得意な事で良いから何か頼めるかな?」
「仕方ないわね、私の得意な事で手を打つわ」
「ありがとう!僕も完治する様に休んでるから」
僕は微笑んでそう言うと、エリザはプイッと顔を背けてしまう。そんなエリザの仕草が新鮮で凄く可愛く思えた。
こうして僕は女戦士のエリザと共に行動することになった。彼女とならどんな困難でも乗り越えられる気がするよ。
僕はアルス。
王国の魔術師ギルドに所属する魔術士。
首都と言える王国に居を構えて様々な魔法の研究をしている本の虫なんだけど、昨日くらいか新女王が魔道具なる物を一般市民含めて提供してきた。
確かに興味深い魔道具ばかりで好奇心を擽られる。
特にこの板状の魔法石で作られた魔道具『マジックタブレット』は、魔法石一つに魔力のペンで与えた情報を記載できる。勿論、魔力のペンでなくとも素人魔術士程度でも指や声を扱えば簡易的に情報を書き込む事ができる。
それにマジックタブレットは所持者同士で情報共有が可能で非常に便利……なんだけどぉ
「誰とでも情報共有できるって事は、詐欺師が情報操作を出来てしまう事かな」
そう、僕の書いた文章や論文も信用されない可能性がある。つまり信用を揺るがしかねない可能性さえあるという事。
「はぁ、考え過ぎると頭が疲れちゃう。魔道具関係の考察は後にしよう」
一旦魔道具から視線を外す為に魔術師ギルドの道具保管庫から出て、外の空気を吸う為にギルドホールに来る。ココを通れば外の扉までは目と鼻の先。
今日もギルドホールでは魔術の教師が生徒に魔法の勉強を教えている。
「照明の魔法は神聖な精霊からの魔法で、周囲を照らす役割で使われます。火属性の精霊魔法と違うのはー」
今やってるのは神聖魔法の灯明、つまり明かり魔法。暗い場所で本を読む際には重宝してる基礎魔法の一つ。強化すれば霊の精霊が扱う魔法に対抗できる応用魔法が出来上がる。
火属性と明らかに違うのは本を燃やさない事、まぁ基本中の基本だね。
「見学ばかりしてないで、外の空気吸わないと!」
僕は自分に言い聞かせる様に魔術師ギルドから外に出る。
「んー!やっぱ太陽の恵みは体で味あわないとねぇ!さて、装飾品作りに街の屋台まで行こうかな」
実はこう見えて僕は装飾品作りが好きで、左腕に嵌めてる腕輪も右手の人差し指に付けてる指輪も全部僕の手作り。
流石に魔術士の服は魔術師ギルドからの提供品だけどね、でも魔術士の服は体の動きを阻害しない柔らかい生地で作られてるのもあって僕のお気に入り。流石は魔術師を育成する団体なだけある。
「まずはお小遣い稼ぎに、装飾品作りの依頼でも受けよっかぁ」
街の中央通りまで行くと商人やアイテムを求める人が一杯。
今回は仕事消化を先に行いたいから、依頼が貼られてる掲示板まで一直線。
「んーと……あったあった」
鍛冶・仕立て・木工・宝飾品の依頼と書かれて貼られているビラの中から宝飾品の依頼ビラを取る。
真っ先に宝飾作成専用台の宝飾台のある宝飾屋へと走り扉をくぐる。
「いらっしゃい。商品をお求めの方は1階に、制作関係者の方は2階へどうぞ」
店員に促されて僕は2階へ上がる。
「よし、作業開始!」
宝飾台の席に付き流れる様に片目レンズと拡大レンズを取り出し、拡大レンズを片目レンズに嵌め込む。
「さぁて、今日の依頼を再確認っと……腕輪!僕の得意分野だラッキー!」
宝飾品の依頼には腕輪の他にネックレス・指輪・鈴・ピアスがある。
今回の腕輪の宝飾品制作は自前で魔力操作にも応用するほど作ってるから、慣れた手付きで容易く作成できる。
「先ずは指定の腕輪サイズと、指定の原料で……よし!」
僕は素早い手捌きで宝飾台の上で腕輪を高速で作成する。
宝飾品の作成依頼は数が多くても一つ2時間程度で終わる。勿論、デザインや素材に拘りだすと時間はもっとかかる。
今回は仕事の依頼だから簡単に終わらせるけどね。
「えーっと、依頼された数は3つ……うん、僕ならすぐ終わるね」
そのまま僕は時間経過など気にせず規定数の腕輪を完成させた。
依頼品を持って配達箱の前まで足を運ぶ。
「よし、後は配達伝票に依頼完了と僕のサインを書いて……仕事終わり!」
納品した事で配達物を整理してた配達係が声と袋を持ってきた。
報酬金を受け取った僕は、そのまま宝飾屋から出る。
「さてと、次はどうしようかなぁ」
仕事が終わった後の僕は特に次の目標を決めておらず、このまま帰ろうかと思っていた。
その道の間に、鋳造場で鉄を打つ一人の戦士に僕は自然と目が行った。
僕と同じ様に、鍛冶の依頼で装備作りをしているのだろう。
僕は鋳造場の仕事は好きじゃない。釜戸は熱いし金槌を力一杯に扱う以上は向いていない。
だけど僕は鋳造場で鉄を打つ金髪ポニーテールで鎧甲冑な片手剣戦士の女性に無意識に目を釘付けにしていた。
黙々と熱い鉄を打つその姿に、僕はただ夢中に見ていた。
「何?そこの魔術師ギルドさん」
「あっごめんなさい、気を払わせちゃって」
僕の服装でそう判断した金髪戦士の女性は、声を掛けたかと思えば再び鍛冶の作業に戻る。
熱で赤くなった鉄を金槌で打ち、武器の形を作ろうとしている。
形が整ったのか、鋳造場にある水の入った桶に剣を入れ、ジュ~と熱い鉄が水によって冷やされる音が鳴る。
「よし、完成っと」
金髪戦士の女性が出来上がった剣を見て配達係の所まで持って行き、配達伝票にサインをして報酬の金貨を貰った。
「……鋳造場の時からずっと私を見てるけど、何?」
「あっえーと」
声を掛けられた僕は我に返る。
「え~っと、友だちになって下さい!」
「はっ?」
あ~!思わず口に出ちゃったよ僕! でもしょうがないよ、だってこの女性の事を格好良いって思っちゃったんだもん!?ここで仲良くしないのは損だ!損!
「ごっごめん。急に声を掛けてビックリさせちゃったよね」
「え?あぁいや別に大丈夫だけど……あんた服装からして魔術師ギルドの人でしょ?」
「まぁうん……そうだね」
魔術師ギルドは王国の体勢から見ると中立の位置に所属しているんだけど、この行動は完全に僕個人の物だ。
「魔術師ギルドの人間が私に何の用?私は見ての通り、鉄を叩いて鍛冶の仕事を副業にしていた戦士なんだけど?」
「いやぁその……」
僕は気恥しさから言葉を詰まらせる。
僕が彼女に感じた事は、一言で言えば一目惚れだ。今まで魔術士として勉強したり魔法道具作りを趣味にしてきたけど、そんな彼女に憧れた。だから……
「貴女に惚れました!」
僕は気持ちをそのまま伝えると、彼女はキョトンとした表情を浮かべて口を開けたまま黙ってしまった。
あちゃあ……いきなり告白は流石に駄目かなぁ。
「ふーん……ねぇアンタ、私に雇われない?」
「ふぇっ?!」
彼女は何を思ったのか、僕の告白に答えて雇いたいと言い出した。
「え?でも僕って鍛冶仕事とか出来ないけど……」
「別に鍛冶をやれなんて言わないわよ。寧ろやられちゃ困るわ」
「じゃあ何の仕事を?」
すると彼女は何か言おうとしたのを躊躇ったが、意を決して僕に答えた。
「私の本業は戦士よ」
あ~なるほどそういう事ね!確かに彼女のスタイルを見た時は近接職も出来て可笑しくはないと思ったし、実際に戦士の格好してるから合ってるね!
「えっとぉつまり?」
「戦士ギルドの依頼に付き合いなさい」
「……えぇー!?」
僕が冒険者になるなんて思いもよらなかった。
そもそも戦士ギルドの依頼ってどんな内容?戦士を集うギルドな訳だし魔物退治とかかな。
「言っておくけど、アンタが依頼に付き合う事を望んだんだからね?」
「いや、でも僕はそこまで言ってなくてそれに僕はただの魔術師だし……」
すると彼女は僕の左腕に付けてる腕輪ごと掴んで耳元でこう威圧する。
「口答えするの?ボク……」
「はい、喜んでお供させてもらいます。お姉さん」
断ったら腕の骨を折る……と言わんばかりの勢いに押され、僕は彼女と行動する事を受け入れた。
「エリザよ。私の事はそう呼んで」
威圧で脅されてた僕とエリザの光景を目にしていただろう周囲の街の住民の視線が何だか冷たいけど、エリザが特に大した問題を起こしてないのもあり衛兵ですら見て見ぬふりである。
「えっと、アルスです……」
「敬語も不要よ。今から同じ依頼をこなす仲なんだから」
「因みに、エリザ……戦士ギルドからの依頼って……?」
エリザが懐に入れただろう依頼ビラを取り出して確認してこう言う。
「邪神崇拝してる悪徳教団の殲滅よ」
「……教団の殲滅?」
「そう。何でも邪神を崇拝しているカルト教団らしくって、今回の依頼は信者の捕縛が主な依頼。ただ過激な宗教団体でもあるから、必要な時は……ね」
「え、捕縛で良いんじゃないの?過激ならもう討伐対象じゃない?」
「良いのよ。連中は邪神を信仰してるのよ?それに邪神崇拝してる教団のメンバーが現世に邪神を降臨させようとする祭壇地帯も確認されてるの」
「祭壇地帯?」
聞いた事の無い言葉に僕は首を傾げる。
「邪神を現世に降臨させる為の、言わば着地点として扱われる祭壇ね。祭壇地帯には教団信者が生贄を使って邪神降臨の儀式を行うから、入り込んだら信者達に捕まって殺されるわよ」
なるほど、邪神崇拝集団なら命は惜しくないだろうし他人を巻き込む事前提で動いてそうだ。でも一つ気になる事があるんだよね……
「でもさ、そんな危険な集団が何で冒険者ギルドとかに討伐依頼を出さないの?ギルドに所属してる人達は……」
「単純にギルドの部隊展開が、教団の部隊展開に追い付いてないだけ。いや、教団の暗躍が上手いとでも言うべきかしら?」
「確かにそれなら戦士ギルドだけじゃ殲滅も難しいね」
「あいつ等、目的概要は大胆なのにそこに行き着くまで透明化の魔法を惜しみなく使うからね……新人冒険者も不意を突かれるの」
「透明化の魔法を?それ、扱うにしても上級の魔法だよ。そんな魔法使えるの魔術師ギルドでも少数なんだけど」
「まぁ難しい事は剣で本体を叩き斬れば良いだけだからね」
エリザって女性なのに戦闘になると意外と脳筋なんだ。
「でも、僕は非力だから戦士ギルドの力仕事は出来ないよ?」
「戦士ギルドは魔法が使えない人達が大半よ。仮に肉体的パワーの無い魔術師でも一応は歓迎してるわ。難しい話は大体嫌がられるけどね」
「なんか、戦士ギルドの人達ってそういうの面倒くさがりそうだなぁ……」
「だからこそ私が依頼に付き合ってるし、今は私一人しかいないからね」
でも改めて考えるとエリザは何故僕に声を掛けたんだろう?その理由が僕は知りたかった。
「あのエリザ……一つ聞いて良い?」
「何よ」
「どうして僕を誘ったの?」
「……はぁ?」
あちゃあ。それ聞いちゃ不味い質問だったかな……此方から言ってきた事だしどうしようと焦っていた時だ。
「都合が良かったからに決まってるでしょ。それにヤバかったらアンタを囮にして逃げるだけ。分かりやすいでしょ?私一人でも充分だけど、アンタみたいな魔法が使える存在は滅多にいないからね」
「あっ、そういう感じだったんだ……」
てっきり僕と仲良くなりたいからとかそんな理由かと思ってた。
「一緒に頑張ろうねエリザ」
僕が握手の手を差し伸べると、エリザは少しびっくりした表情を見せて直ぐに笑顔になって握手し返してくれた。
「えぇ、よろしくねアルス」
この時はまだ、エリザの本当の力を知る由もなかった。
今、僕はエリザと共に宗教団体が根城にしてる村に向かっていた。
目的地は祭壇地帯から少し離れた場所にある村の近くであり、そこには村人も生活しているという。
「アソコね。目的地の村だけど、特に教団の信者が巣食ってるとは見た感じ思えないわね。普通に畑耕したり物運んだりって位かしら」
「見た感じは普通の農民だよね。マジックタブレットの情報でもそう書かれてる」
僕は取り出していたマジックタブレットを使って村に記載された情報を見ていた。
「何使ってるの?」
「あれ、知らない?新女王が新しく提供し出したマジックタブレットだよ。色んな人が書き記した情報が見れるんだ」
「へぇ、便利じゃない。私はそういうのに記載するの面倒くさいわね、文字を手書きして自前の印鑑で証明したりギルド紋章を装備に付けて身分を証明するだけで充分」
「んー、僕は寧ろ魔法のペンとタブレットで書きたいかなぁ。身分証明も細かく分けたいし」
「アンタはそういうの気にする人なのね」
「でもマジックタブレットって高いから手が出せないんだよね」
魔術師ギルドはギルドでの開発費だったり教育関係で便利に取り扱ったり今後の発展を期待してで貸し出してくれてるけど、一般的には値段が張るし買う気が無くなるよね。それにそういう使用用途に合わない人には貸し出してくれなさそうだし。
「まぁ良いわ。これから村に入るわよ。」
そう言ってエリザは村の中に入るが、僕は何か違和感を感じた。
「……うん?」
違和感の原因は直ぐに分かった……人がいないんだ。
「誰も居ない?静かだね」
「……アルス、建物の中を一軒ずつ目視で調べて。何かあったら叫ぶなりして私を呼んで、すぐ駆け付けるから」
「えっ?ちょっと!」
エリザがそう言うと何かに勘付いたのか僕を置いて何処かへ走り去る。
僕はエリザの言葉に従い、村の一軒ずつ見て回った。
すると……
「何これ?」
僕は見つけた物に対して何も言えなかった。だってこれはあまりにも予想外過ぎる光景だったのだから。
「これって、骨……?」
村の一軒の家の中は何かの骨で埋め尽くされており、壁や床から突き出ていた。その数は恐らく100を優に超えているだろう。
何の骨かよく見てみる。
「何の骨だろう……コレ……っ!?」
よく調べてみると、人の手の形をしてる事に気付いてしまった。
「はぁっはぁっはぁっ……!」
息を荒げて慌ててその場に倒れ込んでしまう。人であった骨がソコにある事実に呼吸が落ち着かない……
「どうしたのアルス!」
エリザが僕に気付いて駆け付けた時には僕は過呼吸気味で冷や汗を掻いていた。
「何かヤバい物を見たの?」
僕は震える手で村の至る所に突き出ていた骨を指差す。
すると……
「人の手みたいね」
エリザは僕の恐怖を気にせず、冷静に家の人骨の状況を見ていた。
「……エリザは怖くないの?」
「職業柄ね。常に重犯罪者や害獣なんかと死に物狂いで戦ってるからね。動物や犯罪者の過去とか待遇とか考えたら情が湧いちゃうし」
エリザって脳筋だと思ってたけど、戦士ってだけあって誰かを殺す事があり得るギルドだもんね。怖い感覚も麻痺しちゃうって事なのかな。
「アンタは無理して慣れる必要は無いわ」
そう言って気遣いしてくれたエリザ。でも誰かが死んでしまった事には変わりない。
僕は震えていた足に力を入れてフラつきながらも立ち上がる。
「大丈夫だよ」
僕は無理矢理に笑顔を取り繕って見せた。だってそうしないとエリザは僕に気を遣ってしまうし、僕もその優しさに甘えてしまうからだ。
「そう……それじゃこの村の後始末を早く片付けないとね」
エリザは深くは聞かずに居てくれた。気を遣ってくれたのかな?それとも偶然かな……
「でも邪神崇拝のメンバーは何処に行ったんだろう」
村の住人もだけど、敵勢力の邪神崇拝メンバーも見当たらない。マジックタブレットを見ると……
「なんだろうコレ?黒い服を着た人が何人か居る……」
「見せて!」
僕より背の高いエリザが僕の肩に回り込む様にマジックタブレットを覗き込んでくる。勢いが凄いから少しビックリしちゃった。
「間違いないわ。邪神崇拝の信者衣装よ。全身黒で分かり易くお出ましだなんて、戦士ギルドに喧嘩売ってるのかしら?」
エリザは懐に締まってた剣を抜刀するとすぐさま何処かへと走り去ろうとする。
「何処行くのさ!エリザ」
「祭壇の所よ!ほら、アルスもついて来なさい!場所は把握してるから」
エリザに急かされて僕は走って彼女の後を追う。
「待って!早いよ!」
僕が全力で駆けても彼女の足に追い付けない。だがエリザはそれさえも気にせず一人で先に行った。
そして黒い服を身に纏った写真崇拝のメンバー達が見えてきた。儀式に使われてる祭壇の規模は大きく一般的な1軒家の面積を示す程の大きさだった。
「全く、コイツ等のせいでどれだけの土地を不法占領されて沢山の犠牲者が居るか……何回やっても聞く気のない奴等なんだから!」
エリザは走る足を止めず、信者達が儀式を行ってる所を斬り伏せようとする。
「我等が神よ!この地に降り立ち給えぇ!」
信者の一人が叫ぶと、祭壇の中央から大きな光が吹き出し同時に大きな地響きが一瞬起きた。
「わぁ!」
僕は突然の揺れに足を取られ、尻餅をついてしまった。
ふと空を見ると、何か巨大な光の輪が出来てた。何、あの魔法?あんなの見た事無い!
「ったく、こんな儀式までして……この祭壇は破壊させてもらうわ!」
エリザは力強くジャンプすると、空中で剣を振り下ろした。その一振りで地面ごと祭壇を粉々に砕いて見せた。
「無駄ぞ!我等が神はこの地に楔を繋いでおる!間もなく降臨なされる!」
「だったらその楔ごとぶっ壊してくれる!」
信者達が一斉に自分の心臓に目掛けて隠し持ってたのか串刺しになり始める。
「っ!!」
信者達のいきなりの自害行為に僕は理解が追い付かず頭が混乱してしまう。
「アンタ達!何をやって……」
信者達の自殺行為にエリザも驚きを隠せない。
「ふ……ふふっ……我等が神よ、ココに供物を捧げます……!」
「これで我等は神の身元へと浄化される!」
信者達が死ぬと、彼等の体から黒いオーラが漏れ始めていき上空の光輪へと吸い寄せられていく。
「これで我等は神の一部に……なっ……」
そして信者達は死んだ。いや、自ら命を絶ったと言った方が良いのかな……
「何よこれ……」
エリザも目の前の光景に唖然としている。無理もないだろう、教団メンバーの一人が突然自殺して自分達の身を捧げているのだから。
上空の光から何かが降って来て大地にドスンと落ちる。
「えっ?」
僕はそれを見て思わず声が出てしまった。何故なら落ちて来たのは、見た事もない獣のような存在だった。
「ぐぅぉおおーん!」
アレ?あの獣、何かの本で読んだような……
「コイツは召喚獣?なんで空から落ちてくるのよ!?」
そうだ召喚獣!魔術師ギルドでも学ぶ難易度が高い召喚魔法だ。使役する必要があるから危険な呪文でもあって術式を理解してても実力のある魔術士や冒険者以外は扱っちゃいけない魔法だ。
そんな召喚呪文の獣が、どうして信者の死で呼び出せるの?出来たとしても……こんなのおかしいよ。
「グルルルル!」
唸り声を上げながら僕の方を睨む召喚獣。その強食の眼光は鋭く体格も倍はある大きさ……弱肉で小さい僕は思考も混乱して足が麻痺してるかのように震えて動けない。
「アルス!さっさと逃げなさい!」
「エリザ……でも、足が……」
「あーもう!」
エリザは素早く召喚獣に駆け寄り、剣で斬りつけた。
「グォッ!?」
斬られた召喚獣はよろけるが倒れる事はなかった。そして……
「うぐっ!?」
エリザは召喚獣の前足を食らい、吹っ飛んで祭壇の壁に叩きつけられてしまった。
「エリザァァァァッ!!」
そんな光景を目にして、僕は恐怖より怒りが込みあがり大声で叫び出す。
「……生きてるわよ、まだね……」
エリザはヨロヨロと起き上がる。
「なっ硬っ!!」
再び召喚獣に突撃し、剣を突き刺すも頑丈な毛皮の前に剣が弾かれてしまう。
「くっそ!」
エリザが懐から薬の小瓶を出して一気に飲み干す。
「……っは!!ぶっ殺してやるわよ、犬っころぉ!」
「グォオオオオン!」
目を力強く見開きながら狂気と共に再び突撃するエリザ。それと同時に召喚獣は彼女の身体目掛けて爪を振り下ろす。
「エリザ!避けて!」
僕が叫ぶと、彼女は瞬時に飛び退く。
召喚獣の隙を見逃さなかったエリザはすぐさま剣を勢いよく突き、召喚獣の中心を串刺した。
「おめえの心臓はココかぁ!おらぁ!」
女性とは思えない大声と台詞をエリザが言うと、彼女は剣に力を込めて上に斬り上げた。
「グォオオオン!」
召喚獣は悶えながら暴れだす。エリザは返り血を浴びながらも素早く剣を引き抜き大きく動き、次は召喚獣の頭を目掛けて剣を振り下ろし兜割り。
「ガ……グォ……」
召喚獣は横に倒れ、その場で絶命した。
召喚獣の返り血で汚れたエリザは息を荒げながらも剣を地面に突き刺すと、フラフラと体と足をフラつかせる。
「さぁて、次の防具素材は何処かしらぁ」
彼女の台詞と笑顔に僕は恐怖を感じた。
「エリザ、大丈夫なの?」
「はぁ……はぁ……大丈夫よ。ちょっと油断しただけ」
そう言って彼女は懐からポーションを取り出して飲み干すと、傷が癒えて回復していく。
気になってしまった僕は聞く事にした。
「それ、回復薬?あまりに治癒効果が高すぎるんだけど……」
「あぁ、即効性があるのよ。気分も目茶苦茶あがるし、すぐに治るから戦線復帰し易いのよ」
「それ、エリザの体は大丈夫なの?」
医学にはあまり詳しくないけど、この即効性が強いポーションの服用は危険な気がした。
「前会った治癒士に相談したら、内臓ボロボロだって言われたわぁ。だから何?私には戦士の生き方しか知らないし他の仕事も出来ないのよ」
「そうなんだ……」
戦士だから……か。もしかしたらエリザは命知らずの無鉄砲な脳筋じゃなくて、自分の運命を受け入れているのかもしれない。だからこそ危険なポーションに手を出してでも前線で戦う戦士としての生き方が染み付いてるのかな?
「ねぇアルス、あんた男のクセして顔は可愛いのねぇ。筋力も殆んどないし……戦士の私が少し本気出しちゃったら、あっという間にいっちゃうんじゃない?」
エリザは突然僕を押し倒す。あの、ここ屋外……しかもさっきの召喚獣の死体が近くに転がったまま……
そうは思ってもエリザの力は非力な僕じゃ勝てず振り解けない事も悟っている。
「さぁて、どんな味がするのかなぁ」
エリザが地に押し倒されてる僕に顔を近付ける。怖かった僕は目をつむる。
「……っ!」
右肩に噛まれるような痛みが走り出し、それが暫く続く。目をつむってるから状況は読み取り辛いが、エリザが僕の右肩を力強く噛んでる感覚と生暖かいヌルリとしたモノが垂れてるのを感じる。
「ちょっと、エリザ……」
僕は恐る恐る目を開き、彼女の状態を見る。エリザは僕の右肩を力強く噛みながら血を啜っている。その光景に僕は思わず声を失う。
「んっ!んくっ……」
舌で舐められ肩から口を離したエリザは大きく息を吸って吐いた後に、僕の血で赤く染まった唾液と血を口から垂らした。
「ぷはっ!結構美味しかったわねぇ」
「エリザって吸血鬼?」
「違うわよ、こうでもしなきゃ楽しくなれないってだけ。嫌なら拒絶しなさいよ」
そう言ってエリザは立ち上がり、剣を鞘に納める。
「僕はエリザがどんな人であっても拒絶なんてしないよ」
僕は微笑みながら彼女に手を差し伸べる。すると彼女は少し微笑み、僕の手を掴んで立ち上がった。
「私がどんな奴でもって、どういう事よ?」
エリザは僕と向き合うと真剣な表情で僕に尋ねる。
「やっぱり僕、エリザの事が好き」
「やめて!」
「自分の身を犠牲にしてまで非力な僕を守ってくれた。僕はそれを勉学という形で恩を返したい」
「変な期待を持たせようとしないで!!」
「それに二人で行動すれば、一人じゃ出来ない事も出来ると思うんだ」
「そう……よ……」
僕が捲し立てる様にエリザへの思いを語ると、彼女は涙を流しながらその場に崩れて座り込む。
「どうして男のアンタが優しい言葉をかけるのよぉ!私は他人もモンスターも自分の命さえも何とも思わないクズ人間なのよ!社会に馴染めなかった殺人者なのよぉ!」
大粒の涙を溢しながらエリザは地面に拳を叩きつける。その行動に僕は優しく彼女の拳に手を添えた。
「一人で抱えて辛かったよね。僕も一緒にその辛さを背負うよ」
貰い泣きしてしまってる僕。エリザは泣きやむのに暫く時間がかかった。
「今日は帰ろうか」
「うん……そうね……」
落ち着いたエリザは、泣きながら笑って僕に言う。僕と彼女は肩を抱き合って歩いて行った。
そんな光景を祭壇跡地から監視している者がいた事に気付かずに……
バァンッ!! 銃声が鳴り響き、僕の身体は後ろに倒れる。
「えっ……」
胸からは大量の血と焦げる匂いが漂い激痛が走る。何が起きたのか理解が出来ない僕は意識が遠退く。
エリザの声が聞こえるけど、何を言ってるか分からない……僕…しんじゃ…うん……
「んっ……あれっココは?」
「アルスっ!」
目が覚めたと思ったら、回目一番の音がエリザの声だった。見慣れない景色が広がるけど……
「エリザ?あれっ僕はどうして……?」
「アルスは胸の傷の出血多量で死にかけて意識不明だったのよ!応急処置したけど、私が街の治癒師の所まで運んだの」
エリザが不安そうな顔で僕を見る。何が起きたのか思い出せない。あの後僕は一体?
「そうなんだ……うっ!」
胸に痛みが走ると、あの時の出来事を思い出した。しっかりと僕の胸部に包帯が巻かれてて、結果的に治癒師が助けてくれたけどエリザがここまで運んでくれたのかな。
「暫くは動いちゃ駄目!安静にしてアルス」
「そうだ、銃声の主は?一体誰だったの?」
「邪神崇拝の教団リーダーだった。メンバーを祭壇まで集めて、生贄の儀式で召喚獣を大量に呼び出そうとしてたみたい。私とアルスが阻止してる所の隙を見て同じ様な儀式をするつもりだったってさ」
「そっか……僕、打たれた後に生け贄にされる所だったんだ」
「だから私がリーダーを完膚無きまで惨殺してやったわ。アンタが生け贄になりやがれってね」
エリザはニコッと笑いながら恐ろしい事を言う。
「でっでもこうして生きてるし良かったでしょ」
「良くないわよ!アルスは撃たれて死にかけてたのよ!」
僕の言葉が気に入らなかったらしく、彼女は僕の顔に近づき怒りを露にして僕を睨む。僕は思わず怯んでしまった。
「……っごめん……」
僕が謝ると、エリザは目を丸くしてから大きな溜息をつく。
「うぅん、私のせいで大怪我したんだから……ごめん……」
そう言うと僕の頭を優しく撫でながら軽く抱擁してくれた。その彼女の行為に僕は少しホッとした。
「ねぇエリザ……僕はどのくらいの間、意識不明だったの?」
「……三日」
「みっ三日もっ!?その間、ずっと側にいてくれたの!?」
僕は思わず目を丸くしてしまう。そんなに意識が無かったんだ……
「うん。だから、目を覚ましてくれてありがとう。私を置いていかなくて」
そう言ってエリザは申し訳無さそうに頭を下げる仕草をする。
すっごく丸くなったなぁ……
そんな彼女の手を強く握り返す僕。
「僕こそありがとうエリザ。助けてくれて」
「当然でしょ、相棒なんだから」
御礼に照れたのか顔が赤くなった。可愛い。
「エリザがそう言うの?でも、女戦士って格好良いし、これから頼らせちゃうね」
僕が少し笑うと彼女はジト目で見つめてくる。新しい生活が始まったみたいで気持ちがポカポカする。
誰かと一杯話すのは初めてかも。
「この怪我じゃ僕は魔術師ギルドの仕事もままならないけど、エリザの得意な事で良いから何か頼めるかな?」
「仕方ないわね、私の得意な事で手を打つわ」
「ありがとう!僕も完治する様に休んでるから」
僕は微笑んでそう言うと、エリザはプイッと顔を背けてしまう。そんなエリザの仕草が新鮮で凄く可愛く思えた。
こうして僕は女戦士のエリザと共に行動することになった。彼女とならどんな困難でも乗り越えられる気がするよ。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
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ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
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ただただ思い付いたお話しを書き綴っていきます。
順番通りとはいかないかもしれません。
取り敢えず完結したお話しに関しては、更新してから1週間程しましたら、(読み切り短編{完結してるもの})と(中編{完結してるもの})に章を振り分けます。
それ以外のもう少し続けたいお話しなどは、(最近更新。)に残します。
最新のお話しも(最近更新。)に...。
こちらに書いたお話しから、本編を書く可能性もあります。
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