170 / 196
主人公の優しさ
しおりを挟む
「いえ、様付けをされていたのが気になりまして…。私は貴族ではなくただの平民ですのでそのように呼ぶ必要はありませんよ」
イサベルはアーグレンが平民であることを聞いて少し驚いていたが、それ以上の反応は見せなかった。あまり反応すると失礼に値するかもしれないと考えたようだ。
「そうだったのですね。ですがそれでも…どうか呼ばせては頂けませんか?私にとってはアーグレン様も命の恩人です。尊敬に値する方なのです」
イサベルはそう言って懇願するようにアーグレンを見つめる。
彼は少し困惑する様子を見せたものの、「イサベルさんがそう呼びたいのであれば構いませんが…」と告げた。
もしかしたら彼は今まで「騎士団長」と呼ばれることはあっても様付けで呼ばれることはなかったのかもしれない。
色々偏見もあるだろうしね。だからこそイサベルの呼び方に慣れないと感じるのだろう。
居心地の悪そうに視線を逸らしたアーグレンを見てイサベルは「ありがとうございます」と嬉しそうに微笑む。もうこの笑顔を見たら何でも許したくなっちゃうわね。
私も彼女に釣られて微笑むと、ずっと心に引っかかっていたことを告げた。
「そうだ。イサベル、私も貴女に謝りたいことがあるの」
「えっ、あ、謝りたいことですか?」
「そうよ」
私は彼女に向き直ると、イサベルが何と言うべきか迷ってあたふたと手を動かす。そして私は彼女に向けて軽く頭を下げる。
あまり深く下げすぎるのは貴族らしくないからこのくらいまでしか下げられないけど…本当は土下座して謝りたいくらいだわ。
私が護ってあげるって言ったのに全然ダメだったんだもの…。
原作を知っている私が狙って貴女を助けたんだから責任を持ってこの屋敷では快適な生活を保証するつもりだったのに…。
「…ごめんなさい。貴女がこの屋敷で酷い待遇を受けてることに気づけなくて…。私が貴女を大切にしていれば大丈夫だと高を括っていたわ」
イサベルはあの時火傷を自分のミスだと告げていたが恐らくあれも他の侍女達の仕業だろう。
彼女は自分をいじめる存在すらも庇ってしまう優しい子であるということをすっかり忘れていた。
「気づいてあげられなくて本当にごめんなさい…」
「リティシア様、どうかお顔をあげてください。私のことを気にして謝ってくださって…ありがとうございます。でも私は本当に気にしていません。伝えなかった私が悪いのですから。あの時リティシア様とアーグレン様が助けに来てくれた時…本当に嬉しかったんです。だから…もう気にしないでください。」
「貴女に過去のことを黙っていたことも謝らせて。過去の私は…本当に酷い悪女だったの」
「それでも、今は今です。私は今のリティシア様が大好きです。なので、そんな顔をしないでどうか笑ってください」
イサベルから溢れ出る愛らしい主人公パワーに私は思わず目が眩んでしまう。
いっそのこと私がこの子をお嫁にもらいたいわ…ってダメダメ、何考えてるの。
小説を読んでいた時はただの平民がここまで好かれるなんておかしいと思っていたけど…実際に会ってみるとよく分かるわね。
可愛らしさに加えて優しい心も持っている主人公。それに加えて何も持っていない悪役令嬢。与えられたものが違いすぎるのよね。
ここまで圧倒的だと逆に諦められるわ。
もう近い…私とアレクの婚約が破棄される日は…きっともうすぐそこにある…。
イサベルがこの屋敷から去ったその時には彼女はもう皇后になる為の一歩を踏み出しているはず…。
それが正しいハッピーエンド…なのよね。
私がイサベルになんと言おうか悩んでいると、突然ノックの音が響く。先程まで開け放たれていたはずの扉はいつのまにか閉められていたらしい。
私が許可して中に入ってきたのは侍女のルナだった。一体どんな要件で来たのだろう。
うーん…部屋に紛れ込んでいたマギーラックについての話かしら?それについてはあんまり話したくないんだけど…。
「失礼致します。お嬢様、今年のパーティはどれくらい派手になさる予定ですか?」
「…パーティ?それならもう二つもやったじゃない。お城のパーティに、デイジー嬢のティーパーティ…」
「…何を仰ってるんですか?普通のパーティではなく、お嬢様の誕生日パーティーですよ。まさかお忘れですか?」
ルナが呆れたように答えると、私達は思わず声を揃えて言葉を返してしまう。
「誕生日パーティー!?」
その言葉だけが広い部屋に反響し、息ぴったりの三人を前にルナはあからさまに顔をしかめる。
「イサベルさんと、アーグレンさんの反応は分かるのですが…何故お嬢様まで驚かれるのですか?まさか本当に忘れていたんですか?」
「そ、そんなことないわよ。ただ最近忙しかったでしょう?だから…」
「それは忘れていたと同義だと思いますけど…」
「気のせいよ。それで…今回のパーティは時間がないからなしにするとか…」
「ダメです。公爵令嬢が誕生日パーティーをしないなんてあり得ません。貴族達にその財力を見せつけるものなのですから。それにお嬢様が愛されていると知らしめることにも繋がります。いいですか?死ぬ気で準備するんですよ。」
イサベルはアーグレンが平民であることを聞いて少し驚いていたが、それ以上の反応は見せなかった。あまり反応すると失礼に値するかもしれないと考えたようだ。
「そうだったのですね。ですがそれでも…どうか呼ばせては頂けませんか?私にとってはアーグレン様も命の恩人です。尊敬に値する方なのです」
イサベルはそう言って懇願するようにアーグレンを見つめる。
彼は少し困惑する様子を見せたものの、「イサベルさんがそう呼びたいのであれば構いませんが…」と告げた。
もしかしたら彼は今まで「騎士団長」と呼ばれることはあっても様付けで呼ばれることはなかったのかもしれない。
色々偏見もあるだろうしね。だからこそイサベルの呼び方に慣れないと感じるのだろう。
居心地の悪そうに視線を逸らしたアーグレンを見てイサベルは「ありがとうございます」と嬉しそうに微笑む。もうこの笑顔を見たら何でも許したくなっちゃうわね。
私も彼女に釣られて微笑むと、ずっと心に引っかかっていたことを告げた。
「そうだ。イサベル、私も貴女に謝りたいことがあるの」
「えっ、あ、謝りたいことですか?」
「そうよ」
私は彼女に向き直ると、イサベルが何と言うべきか迷ってあたふたと手を動かす。そして私は彼女に向けて軽く頭を下げる。
あまり深く下げすぎるのは貴族らしくないからこのくらいまでしか下げられないけど…本当は土下座して謝りたいくらいだわ。
私が護ってあげるって言ったのに全然ダメだったんだもの…。
原作を知っている私が狙って貴女を助けたんだから責任を持ってこの屋敷では快適な生活を保証するつもりだったのに…。
「…ごめんなさい。貴女がこの屋敷で酷い待遇を受けてることに気づけなくて…。私が貴女を大切にしていれば大丈夫だと高を括っていたわ」
イサベルはあの時火傷を自分のミスだと告げていたが恐らくあれも他の侍女達の仕業だろう。
彼女は自分をいじめる存在すらも庇ってしまう優しい子であるということをすっかり忘れていた。
「気づいてあげられなくて本当にごめんなさい…」
「リティシア様、どうかお顔をあげてください。私のことを気にして謝ってくださって…ありがとうございます。でも私は本当に気にしていません。伝えなかった私が悪いのですから。あの時リティシア様とアーグレン様が助けに来てくれた時…本当に嬉しかったんです。だから…もう気にしないでください。」
「貴女に過去のことを黙っていたことも謝らせて。過去の私は…本当に酷い悪女だったの」
「それでも、今は今です。私は今のリティシア様が大好きです。なので、そんな顔をしないでどうか笑ってください」
イサベルから溢れ出る愛らしい主人公パワーに私は思わず目が眩んでしまう。
いっそのこと私がこの子をお嫁にもらいたいわ…ってダメダメ、何考えてるの。
小説を読んでいた時はただの平民がここまで好かれるなんておかしいと思っていたけど…実際に会ってみるとよく分かるわね。
可愛らしさに加えて優しい心も持っている主人公。それに加えて何も持っていない悪役令嬢。与えられたものが違いすぎるのよね。
ここまで圧倒的だと逆に諦められるわ。
もう近い…私とアレクの婚約が破棄される日は…きっともうすぐそこにある…。
イサベルがこの屋敷から去ったその時には彼女はもう皇后になる為の一歩を踏み出しているはず…。
それが正しいハッピーエンド…なのよね。
私がイサベルになんと言おうか悩んでいると、突然ノックの音が響く。先程まで開け放たれていたはずの扉はいつのまにか閉められていたらしい。
私が許可して中に入ってきたのは侍女のルナだった。一体どんな要件で来たのだろう。
うーん…部屋に紛れ込んでいたマギーラックについての話かしら?それについてはあんまり話したくないんだけど…。
「失礼致します。お嬢様、今年のパーティはどれくらい派手になさる予定ですか?」
「…パーティ?それならもう二つもやったじゃない。お城のパーティに、デイジー嬢のティーパーティ…」
「…何を仰ってるんですか?普通のパーティではなく、お嬢様の誕生日パーティーですよ。まさかお忘れですか?」
ルナが呆れたように答えると、私達は思わず声を揃えて言葉を返してしまう。
「誕生日パーティー!?」
その言葉だけが広い部屋に反響し、息ぴったりの三人を前にルナはあからさまに顔をしかめる。
「イサベルさんと、アーグレンさんの反応は分かるのですが…何故お嬢様まで驚かれるのですか?まさか本当に忘れていたんですか?」
「そ、そんなことないわよ。ただ最近忙しかったでしょう?だから…」
「それは忘れていたと同義だと思いますけど…」
「気のせいよ。それで…今回のパーティは時間がないからなしにするとか…」
「ダメです。公爵令嬢が誕生日パーティーをしないなんてあり得ません。貴族達にその財力を見せつけるものなのですから。それにお嬢様が愛されていると知らしめることにも繋がります。いいですか?死ぬ気で準備するんですよ。」
1
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる