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質問
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「あら?あんな人この屋敷にいたかしら?」
その声に振り向くと、通りすがりの侍女達が私を不思議そうに見つめていた。
私は彼女達にも自己紹介をし、同業者となったことを伝える。彼女達も男性と同様に、笑ってよろしくと言ってくれた。
公爵家の使用人って一体何人いるのかな?
お仕事もしながら全員に挨拶しないと。
私はまだ見ぬ世界に感激しながら、意気込んだ。
【リティシア】
そしてあっという間に時は過ぎていき、夕食の時間を過ぎても私はイサベルと話すことができなかった。
どうやら彼女は各所を回って使用人達から仕事を貰っていたらしく、今日入ったばかりとは思えないほど忙しく働いていた。
ちなみに、お父様が与えた掃除と洗濯の仕事はあっという間に終わらせてしまったらしい。流石は主人公。
そして入ったばかりの彼女に仕事をくれるって…すぐに使用人と打ち解けたってことよね…。主人公だってことを知っていても正直怖いわ。
ほら、そこの男の使用人だってイサベルのことを熱っぽい眼差しで見てる。この分ならここでも平気でやっていけそうね。
心配する必要もなさそうだわ。
私は雑巾を手に取りどこかへ行こうとしたイサベルの腕を掴むと、「はい、そこまで」と声をかける。この子ったらこんな綺麗な手でどれだけ働く気なのよ。
「り、リティシア様!?私、まだ仕事が…」
「ねぇ、そこの貴方、イサベルが引き受けた仕事全部貴方と他の人で分担してやってくれない?このままだと明日になる前に過労死するわ」
「わ、分かりました。ではイサベルさん、また明日お会いしましょう!」
「はい…。あ、いえ、そんな申し訳な…あぁ、行っちゃった」
イサベルは悲しそうに去りゆく使用人の背中を眺めると、行き場のなくなった手を力なく下げた。
「リティシア様…私の仕事が気に入りませんでしたか…?」
「まさか。埃一つ残さないレベルの掃除をする貴女の仕事が気に入らないわけないでしょ。ほら見て、この床も、あの花瓶も、まるで新品みたいよ」
「では仕事を…」
「でもそれとこれとは話が別。急にそんなに働いたら疲れちゃうわよ」
「そう…ですね、すみません。褒めてくださってありがとうございます…」
イサベルをここにいる間にあまりにも働かせてしまうと彼女の手も荒れてしまうし、何より時間がなくて自分の髪や肌への手入れを怠ってしまうことだろう。
そんなことになれば彼女の可愛さと美しさが半減しかねない。それは困る。私が悲しい。
正直彼女の仕事は文句のつけようのないくらい完璧だから仕事自体に不満はないのよね。
そもそも本当は働く必要なんてないのよ。
貴女は金も、地位も、大好きな人も何もかも全てを手にする主人公なんだから…。
「ねぇイサベル、貴女学校は?」
あまりにも悲しそうな顔をするものだから、話題を変えてみる。
「学校は…二年前に卒業しました。一般教養は学んでおりますが平民の通う場所ですので、リティシア様には遠く及ばないと思います」
「そう…」
確か…平民は学校、貴族や王族は家庭教師…だったわね。
ということは大した知識もなかったのに独学で色々研究して皇后の立場を努めていたってことよね。ある程度は皇后になってから教えてもらっただろうけどそれを踏まえて考えても恐ろしいわ。
それとリティシア様には遠く及ばないって言われたけど私は何も知らないに等しいからイサベルの方がこの世界のことをよく知っているんでしょう。
何か疑問があったら聞いてみようかな。
「それじゃぁ貴女の仕事も晴れてなくなったことだし、私の部屋へ行くわよ」
「リティシア様のお部屋ですか!?そんな、私のような者がリティシア様のお部屋に…」
「侍女なんだから関係ないわよ。ほら早く」
「分かりました」
私が急かすとイサベルは観念したのか、大人しく後を着いてきた。
そんなに仕事がしたかったのかな…主人公の悲しい顔って結構心に来るのよね。早く笑ってほしいな…。別に貴女の仕事の邪魔がしたかったわけじゃないのよ…?
私達が部屋に入り扉を完全に閉めると、唐突にこんな質問を投げかけてみる。
「ところでイサベル、王子様は好き?」
突拍子もないその質問に、イサベルは驚いて可愛らしい目を大きく見開く。
「…王子様、ですか?」
「そうよ。貴方も一度だけ会った事があるでしょう。」
「王子様って…まさかアレクシス殿下のことですか?」
「えぇ」
「殿下のことはもちろん好きですし、尊敬しております。助けて頂いた恩もございますし…。ですが、それまでです。リティシア様と殿下の仲を引き裂くつもりなど一切ありません」
私の言わんとする事を察したのか、彼女は真っ直ぐ私の目を見つめて宣言する。
「…そう。」
それがあるんだよな…引き裂いたわけじゃなくて自然とそうなっただけだけど。
と言いたくなったのだが、何を言ってるのか分からない状態になるのは嫌なので黙っておく。
「…じゃぁこんな話はどう思う?身分では絶対に敵わない令嬢から平民が王子様を奪って結婚する。王子はようやく真の愛を見つけるのよ。平民だった彼女は皇后となり、一生幸せに暮らす…ありがちだけど、素敵だと思わない?」
流石にあからさますぎて自分たちのことだと勘付かれたかな…と少し不安に思ったのだが、彼女は全く予想外の言葉を口にした。
「…リティシア様、正直に申し上げますと、私はその物語が好きではありません。王子様を奪われてしまった令嬢の気持ちはどうなるんですか?」
その声に振り向くと、通りすがりの侍女達が私を不思議そうに見つめていた。
私は彼女達にも自己紹介をし、同業者となったことを伝える。彼女達も男性と同様に、笑ってよろしくと言ってくれた。
公爵家の使用人って一体何人いるのかな?
お仕事もしながら全員に挨拶しないと。
私はまだ見ぬ世界に感激しながら、意気込んだ。
【リティシア】
そしてあっという間に時は過ぎていき、夕食の時間を過ぎても私はイサベルと話すことができなかった。
どうやら彼女は各所を回って使用人達から仕事を貰っていたらしく、今日入ったばかりとは思えないほど忙しく働いていた。
ちなみに、お父様が与えた掃除と洗濯の仕事はあっという間に終わらせてしまったらしい。流石は主人公。
そして入ったばかりの彼女に仕事をくれるって…すぐに使用人と打ち解けたってことよね…。主人公だってことを知っていても正直怖いわ。
ほら、そこの男の使用人だってイサベルのことを熱っぽい眼差しで見てる。この分ならここでも平気でやっていけそうね。
心配する必要もなさそうだわ。
私は雑巾を手に取りどこかへ行こうとしたイサベルの腕を掴むと、「はい、そこまで」と声をかける。この子ったらこんな綺麗な手でどれだけ働く気なのよ。
「り、リティシア様!?私、まだ仕事が…」
「ねぇ、そこの貴方、イサベルが引き受けた仕事全部貴方と他の人で分担してやってくれない?このままだと明日になる前に過労死するわ」
「わ、分かりました。ではイサベルさん、また明日お会いしましょう!」
「はい…。あ、いえ、そんな申し訳な…あぁ、行っちゃった」
イサベルは悲しそうに去りゆく使用人の背中を眺めると、行き場のなくなった手を力なく下げた。
「リティシア様…私の仕事が気に入りませんでしたか…?」
「まさか。埃一つ残さないレベルの掃除をする貴女の仕事が気に入らないわけないでしょ。ほら見て、この床も、あの花瓶も、まるで新品みたいよ」
「では仕事を…」
「でもそれとこれとは話が別。急にそんなに働いたら疲れちゃうわよ」
「そう…ですね、すみません。褒めてくださってありがとうございます…」
イサベルをここにいる間にあまりにも働かせてしまうと彼女の手も荒れてしまうし、何より時間がなくて自分の髪や肌への手入れを怠ってしまうことだろう。
そんなことになれば彼女の可愛さと美しさが半減しかねない。それは困る。私が悲しい。
正直彼女の仕事は文句のつけようのないくらい完璧だから仕事自体に不満はないのよね。
そもそも本当は働く必要なんてないのよ。
貴女は金も、地位も、大好きな人も何もかも全てを手にする主人公なんだから…。
「ねぇイサベル、貴女学校は?」
あまりにも悲しそうな顔をするものだから、話題を変えてみる。
「学校は…二年前に卒業しました。一般教養は学んでおりますが平民の通う場所ですので、リティシア様には遠く及ばないと思います」
「そう…」
確か…平民は学校、貴族や王族は家庭教師…だったわね。
ということは大した知識もなかったのに独学で色々研究して皇后の立場を努めていたってことよね。ある程度は皇后になってから教えてもらっただろうけどそれを踏まえて考えても恐ろしいわ。
それとリティシア様には遠く及ばないって言われたけど私は何も知らないに等しいからイサベルの方がこの世界のことをよく知っているんでしょう。
何か疑問があったら聞いてみようかな。
「それじゃぁ貴女の仕事も晴れてなくなったことだし、私の部屋へ行くわよ」
「リティシア様のお部屋ですか!?そんな、私のような者がリティシア様のお部屋に…」
「侍女なんだから関係ないわよ。ほら早く」
「分かりました」
私が急かすとイサベルは観念したのか、大人しく後を着いてきた。
そんなに仕事がしたかったのかな…主人公の悲しい顔って結構心に来るのよね。早く笑ってほしいな…。別に貴女の仕事の邪魔がしたかったわけじゃないのよ…?
私達が部屋に入り扉を完全に閉めると、唐突にこんな質問を投げかけてみる。
「ところでイサベル、王子様は好き?」
突拍子もないその質問に、イサベルは驚いて可愛らしい目を大きく見開く。
「…王子様、ですか?」
「そうよ。貴方も一度だけ会った事があるでしょう。」
「王子様って…まさかアレクシス殿下のことですか?」
「えぇ」
「殿下のことはもちろん好きですし、尊敬しております。助けて頂いた恩もございますし…。ですが、それまでです。リティシア様と殿下の仲を引き裂くつもりなど一切ありません」
私の言わんとする事を察したのか、彼女は真っ直ぐ私の目を見つめて宣言する。
「…そう。」
それがあるんだよな…引き裂いたわけじゃなくて自然とそうなっただけだけど。
と言いたくなったのだが、何を言ってるのか分からない状態になるのは嫌なので黙っておく。
「…じゃぁこんな話はどう思う?身分では絶対に敵わない令嬢から平民が王子様を奪って結婚する。王子はようやく真の愛を見つけるのよ。平民だった彼女は皇后となり、一生幸せに暮らす…ありがちだけど、素敵だと思わない?」
流石にあからさますぎて自分たちのことだと勘付かれたかな…と少し不安に思ったのだが、彼女は全く予想外の言葉を口にした。
「…リティシア様、正直に申し上げますと、私はその物語が好きではありません。王子様を奪われてしまった令嬢の気持ちはどうなるんですか?」
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