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救世主
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漆黒の美しい黒髪が、揺れた。紫色の瞳は私達を捉え、心配そうにこちらを見つめている。
助かった。
彼の姿を見た瞬間に私はそう確信した。
「アーグレン!」
「グレン!」
私とアレクシスの声が重なり、薄暗い空間に響き渡る。アーグレンは「…ご無事で何よりです」と告げ、安心したような表情をこちらに向けた。
彼の手にはギラリと光る銀色の剣がしっかりと握られていた。
騎士服に身を包み、剣を握る彼の姿は小説と同じだ。アレクシスを護る最強の盾が…今正に目の前に存在している。
「…来てくれたのか…!」
きっと騎士団が彼を呼んでくれたのね…。ここに入る姿を彼らに見られていて、助けを呼びに行ってくれたんだわ。
…ということはやっぱり騎士団じゃ手に負えなかったのね。それともアーグレンが強すぎるのかしら…まぁどっちだっていいけどね。
「ここに閉じ込められていた人々は全員安全な場所へお連れしました。茶髪の彼女のことは私に任せてお二人は早くお逃げ下さい」
この状況を一瞬で把握したらしいアーグレンは剣を軽く振ると、そう私達に告げる。
丁度私たちは彼の背後に隠れるような形となっていてこの位置では男も簡単には手を出せない。アーグレンを倒さなければ男は私達に指一本触れることはできないだろう。
確かにこの状況なら、私達は逃げられる。
しかし、アーグレンは任せてくれと言っているものの、私達が完全に逃げた段階でイサベルを見捨ててしまったら?
それは困る。なんとしてでも彼に助けてもらわなくては。
「グレン!その子を頼む!」
「アーグレン!その子をお願い!」
考えていた事が同じだったらしく、私達がほぼ同時に叫ぶと、アーグレンは少し驚いたように目を見開く。
そして彼は口元で笑ってみせる。それは嬉しそうにも見えたが、彼の絶対的自信の現れのようにも思えた。
「承知致しました。…御主人様」
彼は男に向き直ると、剣の切っ先を相手に向けた。本来の色は紫色であるはずなのに、光の影響か、彼の瞳は真っ赤に染まっているように見えた。
紫も素敵だけど赤い瞳も良いわね…まぁイケメンはなんでも似合っちゃうから結局どんな色でも素敵なんでしょうね。イケメンって罪だわ。
イケメン罪がもしできたら確実にアレクシスとアーグレンは逮捕されるわね。…って私は一体何の話をしてるのかしらね。
せっかくアーグレンが作ってくれたチャンスなんだから兎に角今は死ぬ気で逃げないと。
…え、死ぬ気で?死ぬ気でこのドレスで走れっていうの!?絶対無理よ、いくら動きやすいドレスを選んだとはいえ結局ドレスはドレスなのよ。
踊って楽しむことしか考えられていないドレスで全力疾走することがどれほど大変なのかさっき身を以て感じたもの…。
「…リティシア、ごめん!」
「え?きゃぁっ、ちょ、ちょっと何よ」
私の手に浮かんでいた炎は驚きと共に消え、私の身体はふわりと浮かび上がる。確実に経験したことのある感覚ではあるものの、全く慣れていないため、私はただただ困惑してしまう。
アレクシスが何故私を抱き抱えたか、その理由は明白だ。…彼は私を抱えたまま全力で走るつもりなのだ。
「グレン、ありがとう!ここは任せたからな!」
「あぁ任せろ。早く行け!」
アレクシスは私のいかなる反論も聞き入れずにそのまま元来た道を走り始めた。私は無駄だということを悟った。
仮に普通の服を着ていたとしてもこの速度についていける自信はない。アレクシスに抱えられた方が確実に早く外に出れるであろう。
…でも、この近すぎる距離は心臓に悪くない!?前はほぼ気絶してたようなものだから良かったものの今は完全に意識があるのよ!?出口につくまで命が保たないわ…。
…こんなにドキドキしてるのは私だけなのかな。ちょっと悔しいわね。
小説のこととか全部忘れてさ、アレクと一緒にいられたらきっと楽しいんだろうな。
イサベルを目の前にしてあぁここは小説の世界なんだって改めて痛感させられたけど…それでもこの世界は小説と全く同じ展開を辿っているわけではない。
…同じ展開ではないけれど、イサベルは小説通り良い子そうだった。あの子ならアレクを幸せにしてくれるだろう。私みたいな悪役ではない、優しく純粋な主人公…彼女こそアレクに相応しい。
…本当はちょっとだけ、イサベルが悪者だったらよかったのにって思ってた。そうすれば小説とは違うんだってはっきり確信ができたし、彼を幸せにするという名目で私はもう少し側にいることができる。
まぁそうなったらなったで焦ったけどね。イサベルが悪者だったら彼を幸せにする方法が一切分からなくなってしまうんだから。
…私ってバカね。主人公が悪者だったらよかったのに、とかありもしない未来を夢見たりして…本当にバカだわ。
もうこれ以上好きになってはいけない。私と彼の別れは確実に目前へと迫って来ているんだから。どうせなら笑って別れた方がずっといいわ。
決めた。その時がやって来たら…盛大に笑ってやるんだから。そうすれば…悲しいなんて絶対に知られることはないでしょ。
ねぇイサベル、最高の皇后になってね。
もしアレクを悲しませたりしたら、この悪役令嬢様が…絶対に許さないんだから。
助かった。
彼の姿を見た瞬間に私はそう確信した。
「アーグレン!」
「グレン!」
私とアレクシスの声が重なり、薄暗い空間に響き渡る。アーグレンは「…ご無事で何よりです」と告げ、安心したような表情をこちらに向けた。
彼の手にはギラリと光る銀色の剣がしっかりと握られていた。
騎士服に身を包み、剣を握る彼の姿は小説と同じだ。アレクシスを護る最強の盾が…今正に目の前に存在している。
「…来てくれたのか…!」
きっと騎士団が彼を呼んでくれたのね…。ここに入る姿を彼らに見られていて、助けを呼びに行ってくれたんだわ。
…ということはやっぱり騎士団じゃ手に負えなかったのね。それともアーグレンが強すぎるのかしら…まぁどっちだっていいけどね。
「ここに閉じ込められていた人々は全員安全な場所へお連れしました。茶髪の彼女のことは私に任せてお二人は早くお逃げ下さい」
この状況を一瞬で把握したらしいアーグレンは剣を軽く振ると、そう私達に告げる。
丁度私たちは彼の背後に隠れるような形となっていてこの位置では男も簡単には手を出せない。アーグレンを倒さなければ男は私達に指一本触れることはできないだろう。
確かにこの状況なら、私達は逃げられる。
しかし、アーグレンは任せてくれと言っているものの、私達が完全に逃げた段階でイサベルを見捨ててしまったら?
それは困る。なんとしてでも彼に助けてもらわなくては。
「グレン!その子を頼む!」
「アーグレン!その子をお願い!」
考えていた事が同じだったらしく、私達がほぼ同時に叫ぶと、アーグレンは少し驚いたように目を見開く。
そして彼は口元で笑ってみせる。それは嬉しそうにも見えたが、彼の絶対的自信の現れのようにも思えた。
「承知致しました。…御主人様」
彼は男に向き直ると、剣の切っ先を相手に向けた。本来の色は紫色であるはずなのに、光の影響か、彼の瞳は真っ赤に染まっているように見えた。
紫も素敵だけど赤い瞳も良いわね…まぁイケメンはなんでも似合っちゃうから結局どんな色でも素敵なんでしょうね。イケメンって罪だわ。
イケメン罪がもしできたら確実にアレクシスとアーグレンは逮捕されるわね。…って私は一体何の話をしてるのかしらね。
せっかくアーグレンが作ってくれたチャンスなんだから兎に角今は死ぬ気で逃げないと。
…え、死ぬ気で?死ぬ気でこのドレスで走れっていうの!?絶対無理よ、いくら動きやすいドレスを選んだとはいえ結局ドレスはドレスなのよ。
踊って楽しむことしか考えられていないドレスで全力疾走することがどれほど大変なのかさっき身を以て感じたもの…。
「…リティシア、ごめん!」
「え?きゃぁっ、ちょ、ちょっと何よ」
私の手に浮かんでいた炎は驚きと共に消え、私の身体はふわりと浮かび上がる。確実に経験したことのある感覚ではあるものの、全く慣れていないため、私はただただ困惑してしまう。
アレクシスが何故私を抱き抱えたか、その理由は明白だ。…彼は私を抱えたまま全力で走るつもりなのだ。
「グレン、ありがとう!ここは任せたからな!」
「あぁ任せろ。早く行け!」
アレクシスは私のいかなる反論も聞き入れずにそのまま元来た道を走り始めた。私は無駄だということを悟った。
仮に普通の服を着ていたとしてもこの速度についていける自信はない。アレクシスに抱えられた方が確実に早く外に出れるであろう。
…でも、この近すぎる距離は心臓に悪くない!?前はほぼ気絶してたようなものだから良かったものの今は完全に意識があるのよ!?出口につくまで命が保たないわ…。
…こんなにドキドキしてるのは私だけなのかな。ちょっと悔しいわね。
小説のこととか全部忘れてさ、アレクと一緒にいられたらきっと楽しいんだろうな。
イサベルを目の前にしてあぁここは小説の世界なんだって改めて痛感させられたけど…それでもこの世界は小説と全く同じ展開を辿っているわけではない。
…同じ展開ではないけれど、イサベルは小説通り良い子そうだった。あの子ならアレクを幸せにしてくれるだろう。私みたいな悪役ではない、優しく純粋な主人公…彼女こそアレクに相応しい。
…本当はちょっとだけ、イサベルが悪者だったらよかったのにって思ってた。そうすれば小説とは違うんだってはっきり確信ができたし、彼を幸せにするという名目で私はもう少し側にいることができる。
まぁそうなったらなったで焦ったけどね。イサベルが悪者だったら彼を幸せにする方法が一切分からなくなってしまうんだから。
…私ってバカね。主人公が悪者だったらよかったのに、とかありもしない未来を夢見たりして…本当にバカだわ。
もうこれ以上好きになってはいけない。私と彼の別れは確実に目前へと迫って来ているんだから。どうせなら笑って別れた方がずっといいわ。
決めた。その時がやって来たら…盛大に笑ってやるんだから。そうすれば…悲しいなんて絶対に知られることはないでしょ。
ねぇイサベル、最高の皇后になってね。
もしアレクを悲しませたりしたら、この悪役令嬢様が…絶対に許さないんだから。
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