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真実
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「お客様、ご案内しても宜しいですか?」
「あ、はい…」
その後、他のお客さんも私達の存在に気が付き始めた為、慌てて移動する羽目になったのであった。
案内されたプライベートルームは熱くもなく寒くもない正しく快適な空間で、私がお金持ちであることを実感する。
厳密に言うと私がというか公爵なんだけどね。
店員は貴族や王族のお客様が来るのは極稀にあるらしく、こういう部屋が用意されているのだと教えてくれた。
椅子もテーブルも飾りも全てが高級な素材で揃えられたこの空間は確かに位の高い者が好む場所であろう。
私は正直言うと逆に落ち着かないけどね…。
それにしても…生きていたらこんな空間に来ることがあるのね。前世では絶対にお目にかかれない場所だわ。
店員は私達を座らせてから、用があればベルを鳴らすよう伝えると、深くお辞儀をして去っていく。その動作一つ一つに不安と緊張が感じ取れた。
去りゆく背中を眺めながら、私はほぼ無意識に声を漏らす。
「プライベートルームなんて私初めてよ…」
「えっ、公女なのに?」
「あっ」
そうか、貴族ならこういう部屋に入るのは当たり前だものね。
リティシアを溺愛してるあの両親なら彼女を連れて色んなお店へ行っただろうし、私が一度も入ったことがないっていうのはどう考えても変だわ。
私は彼の疑惑の視線を誤魔化すかのように軽く咳払いをする。
「いや…このお店が初めてってことよ。ホント察しが悪いわね貴方」
「あぁ、なるほど。察しが悪くてごめんな」
あぁ心が痛い。悪役令嬢ってホントに心が痛むのね。
…いや悪役令嬢はそもそも心なんてないに等しいわね。自分以外がどうなろうと構わないような悪女だもの…。
「看板にもあったけど、このお店はケーキが人気みたいだな」
「そうよ。だからこの店に入ったんだもの」
「え?」
「貴方甘いものが苦手なんでしょ?」
「なんでそんなこと知ってるんだ…?リティシア…お前俺が知らない女性と踊るのが苦手だってことも知ってたしもしかしてそういう魔法とか…」
「違うわよ!アーグレンから聞いたの!」
「冗談だよ。あぁなるほどな、グレンがそう言ったのか。確かに俺は甘いものが苦手だけど、正確に言えば苦手にさせられた感じなんだよな」
「苦手にさせられた?どういうことよ」
普通、好きか嫌いかは自分で決めるものでしょ?苦手にさせられるってよっぽど嫌な出来事があったのかしら…。
彼は私の問いかけに複雑そうな表情を浮かべ話すのを迷った様子であったが、少しずつ過去を語り始めた。
「実は、母さんが昔から太りやすい体質だったらしくて…結婚できなくなるから甘いものは食べるなって親からも周りからも言われて育ってきたらしい。それで息子にもその体質が遺伝したと思った母さんは…俺に甘いものはなるべく食べるなって言ったんだ。変に食べるのを避けてると疑問に思われるから、周りには苦手だって伝えろって」
つまり自分の体質を理由に子供に甘いものを食べるなと躾けたと…とんでもない親じゃない。
親がそんな人なのにどこをどうしたらこんな風に育つの?
親が良い人だから誰にでも優しくできる立派な男主人公に育ったわけじゃないのね…。
あくまでもこれはアレクシスの過去として物語を盛り上げる為に創作されたものなのであろう。
だが今彼を現実に目の前にしている私にとっては事実以外の何物でもないのである。
主人公には辛い過去をもたせ、尚且つ苦労させて育ったという背景を与えがちだが、こう直接話を聞くと複雑な気持ちになる。
作者が適当に作ったであろうその設定が、その人の人生をも揺るがすのだから。
ちなみにこの話は小説で読んだ覚えはない。
小説内では語られなかった設定なのかもしれないし、もしかしたらそもそも作者が考えてもいなかった話なのかもしれない。
だがただ一つ分かることは、後に誰からも愛され、歴代最高の王となった男主人公が、実は壮絶な過去を抱えているのかもしれないというだけだ。
私が愛したキャラクターにまだまだ悲しい過去が隠されているのかもしれないと思うと正直耳を塞ぎたくなる。
その辛い過去をも癒せる存在である主人公に、彼が早く出会うことをただただ願うしかない。
私では…彼の癒やしにはなれない。
「…王子様も色々大変なのね。」
ふと、私の口からそんな言葉が溢れる。これは私の純粋な気持ちだ。
皆に期待され生まれてきた彼はきっと想像以上に波乱万丈な人生を送ってきたのだろう。
でも大丈夫。貴方には幸せな未来が約束されているんだから。
「皆大変だと思うから俺だけではないけど…一つだけ言わせてもらうと…別に俺は食べても太らないんだよな…」
真剣に呟かれたその発言に私は思わず吹き出してしまう。
今の言葉だけを切り取って他の人に聞かせたとしたらただの王子の自惚れに聞こえてしまうだろう。
だが彼がその事実を誰にも言えずにたった一人で抱えてきたと思うとまた違って見えるはずだ。
ただ…アレクシスがあまりにも真剣にそんなことを呟くから思わず笑ってしまった。
食べても太らないなんて主人公らしい設定だなって思って…。
やっぱり主人公は主人公らしく最強のステータスを持っていなきゃね。
「…それは皇后陛下に言ったの?」
「…言ったよ。でも聞いてくれなかった」
「可哀想ねって言いたいところだけど…貴方、どうして自分が食べても太らないことを知っているのかしら?」
「あ、はい…」
その後、他のお客さんも私達の存在に気が付き始めた為、慌てて移動する羽目になったのであった。
案内されたプライベートルームは熱くもなく寒くもない正しく快適な空間で、私がお金持ちであることを実感する。
厳密に言うと私がというか公爵なんだけどね。
店員は貴族や王族のお客様が来るのは極稀にあるらしく、こういう部屋が用意されているのだと教えてくれた。
椅子もテーブルも飾りも全てが高級な素材で揃えられたこの空間は確かに位の高い者が好む場所であろう。
私は正直言うと逆に落ち着かないけどね…。
それにしても…生きていたらこんな空間に来ることがあるのね。前世では絶対にお目にかかれない場所だわ。
店員は私達を座らせてから、用があればベルを鳴らすよう伝えると、深くお辞儀をして去っていく。その動作一つ一つに不安と緊張が感じ取れた。
去りゆく背中を眺めながら、私はほぼ無意識に声を漏らす。
「プライベートルームなんて私初めてよ…」
「えっ、公女なのに?」
「あっ」
そうか、貴族ならこういう部屋に入るのは当たり前だものね。
リティシアを溺愛してるあの両親なら彼女を連れて色んなお店へ行っただろうし、私が一度も入ったことがないっていうのはどう考えても変だわ。
私は彼の疑惑の視線を誤魔化すかのように軽く咳払いをする。
「いや…このお店が初めてってことよ。ホント察しが悪いわね貴方」
「あぁ、なるほど。察しが悪くてごめんな」
あぁ心が痛い。悪役令嬢ってホントに心が痛むのね。
…いや悪役令嬢はそもそも心なんてないに等しいわね。自分以外がどうなろうと構わないような悪女だもの…。
「看板にもあったけど、このお店はケーキが人気みたいだな」
「そうよ。だからこの店に入ったんだもの」
「え?」
「貴方甘いものが苦手なんでしょ?」
「なんでそんなこと知ってるんだ…?リティシア…お前俺が知らない女性と踊るのが苦手だってことも知ってたしもしかしてそういう魔法とか…」
「違うわよ!アーグレンから聞いたの!」
「冗談だよ。あぁなるほどな、グレンがそう言ったのか。確かに俺は甘いものが苦手だけど、正確に言えば苦手にさせられた感じなんだよな」
「苦手にさせられた?どういうことよ」
普通、好きか嫌いかは自分で決めるものでしょ?苦手にさせられるってよっぽど嫌な出来事があったのかしら…。
彼は私の問いかけに複雑そうな表情を浮かべ話すのを迷った様子であったが、少しずつ過去を語り始めた。
「実は、母さんが昔から太りやすい体質だったらしくて…結婚できなくなるから甘いものは食べるなって親からも周りからも言われて育ってきたらしい。それで息子にもその体質が遺伝したと思った母さんは…俺に甘いものはなるべく食べるなって言ったんだ。変に食べるのを避けてると疑問に思われるから、周りには苦手だって伝えろって」
つまり自分の体質を理由に子供に甘いものを食べるなと躾けたと…とんでもない親じゃない。
親がそんな人なのにどこをどうしたらこんな風に育つの?
親が良い人だから誰にでも優しくできる立派な男主人公に育ったわけじゃないのね…。
あくまでもこれはアレクシスの過去として物語を盛り上げる為に創作されたものなのであろう。
だが今彼を現実に目の前にしている私にとっては事実以外の何物でもないのである。
主人公には辛い過去をもたせ、尚且つ苦労させて育ったという背景を与えがちだが、こう直接話を聞くと複雑な気持ちになる。
作者が適当に作ったであろうその設定が、その人の人生をも揺るがすのだから。
ちなみにこの話は小説で読んだ覚えはない。
小説内では語られなかった設定なのかもしれないし、もしかしたらそもそも作者が考えてもいなかった話なのかもしれない。
だがただ一つ分かることは、後に誰からも愛され、歴代最高の王となった男主人公が、実は壮絶な過去を抱えているのかもしれないというだけだ。
私が愛したキャラクターにまだまだ悲しい過去が隠されているのかもしれないと思うと正直耳を塞ぎたくなる。
その辛い過去をも癒せる存在である主人公に、彼が早く出会うことをただただ願うしかない。
私では…彼の癒やしにはなれない。
「…王子様も色々大変なのね。」
ふと、私の口からそんな言葉が溢れる。これは私の純粋な気持ちだ。
皆に期待され生まれてきた彼はきっと想像以上に波乱万丈な人生を送ってきたのだろう。
でも大丈夫。貴方には幸せな未来が約束されているんだから。
「皆大変だと思うから俺だけではないけど…一つだけ言わせてもらうと…別に俺は食べても太らないんだよな…」
真剣に呟かれたその発言に私は思わず吹き出してしまう。
今の言葉だけを切り取って他の人に聞かせたとしたらただの王子の自惚れに聞こえてしまうだろう。
だが彼がその事実を誰にも言えずにたった一人で抱えてきたと思うとまた違って見えるはずだ。
ただ…アレクシスがあまりにも真剣にそんなことを呟くから思わず笑ってしまった。
食べても太らないなんて主人公らしい設定だなって思って…。
やっぱり主人公は主人公らしく最強のステータスを持っていなきゃね。
「…それは皇后陛下に言ったの?」
「…言ったよ。でも聞いてくれなかった」
「可哀想ねって言いたいところだけど…貴方、どうして自分が食べても太らないことを知っているのかしら?」
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