悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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パーティ編 その13

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 彼は自分の欠点を公表してでもリティシアが自分を庇った事実を明かし、少しでも評判を上げようとしているのだろう。


 先程強く否定しても尚持ちかけてくるほどだから彼が覚悟を決めている事がよく窺える。


 しかし、私はそれを許可する訳にはいかない。彼が弱みを握られるのをみすみす見逃す訳にはいかないのだ。


「…リティシア、でも」


「何度も言わせないで。私の噂なんてそう簡単に消えない。それに…私がどうしてああしたのか、分かってないの?」


「…俺の為に、だろ?」


「…そうね。貴方の為でもあり、私の為でもある。貴方の地位が確立されればされるほど私の立場も良くなるのよ」


「…俺がお前の為に動く事も…許されないのか…?」


「えぇそうよ。貴方がしようとしてる事は私の意思と反するもの。そもそも私の為に動いていないのよ。私のやる事にいちいち口出ししないで」


「リティシア……」


 自分の思いが全く通じない事実にただただ悲しさを感じるアレクの表情は、切なく、今にも泣きそうな程であった。


 ごめん。ごめんね、アレク。貴方にそんな辛そうな顔をさせたくて言ってるんじゃないの。


 大丈夫。最後に待ってるのは主人公とのハッピーエンドだから。


 約束する。最後に笑うのは…貴方よ。


 悪役令嬢わたしのことはさっさと忘れてしまいなさい。


 そのまま彼に背を向けその場を無言で去ろうとしたが、私の肩にかかる高級な上着の存在に気づき、立ち止まる。


 その場で立ち尽くす私を彼は不思議そうに見つめている。


「…上着は洗って返すわ。」


 最低限の礼儀は忘れない様にしないとね。


 そして城へと戻ろうとすると「…なんで?洗わなくていいよ」と予想外の声がかかり、思わず振り返る。


「…どうして?」


 しまった。無視して帰れば更に印象を下げれたのに。でもどうしても気になったのよね…彼の言葉の意味が。


 私がじっと見つめ返すと何故か彼は少し視線を逸し、耳を触り始める。


 …もしかして照れてる?


「どうしてって…今日のリティシアはとっても…綺麗だから」


 彼は、そう静かに呟いた。


 私はその言葉に驚き戸惑い慌てて背を向ける。


 冷え切っていたはずの身体に唐突に温かい熱が駆け巡っていく。


 危うく忘れるところだった。褒められているのは私じゃなくて、リティシアよ。


 確かに彼女は…言い表せない程、綺麗だもの。


 …そんな事よりリティシアらしい返事を考えなきゃ。早く、早くこの高鳴る鼓動を忘れたい。


「…それは、普段の私は綺麗じゃないという意味?」


 私は深く息を吐き、呼吸を整える。


「…え。あぁ、悪い。そういう意味じゃなくて、勿論リティシアは普段から綺麗だけど、今日も綺麗だなって…そう言いたかっただけだ」


 私は振り向かないが、声色から緊張と照れが窺える。


 自分で言って自分で照れるくらいなら言わなければ良いのに。でも伝えようとしてくれるのよね。


 そうよね…貴方は、そういう人だわ。


「…言いたい事はそれだけ?全くくだらないわね。当たり前の事を言っているだけじゃない。罰として…この上着は貰っていくわ」


 罰として上着を奪っていくような女は婚約者に相応しくないでしょう?さぁアレク、私との婚約についてよく考えなさい。


 破棄すべきか、しないべきか…答えは明白よね。


 …王族の持ち物を奪った事が知られれば更に評判がガタ落ちしそうだけど、きっと彼なら言わないし、これくらい悪役ぶるのは良いわよね。


 アレクシス…どうでるの?


「リティシア…それは良い考えだな!お前がそれを持っていれば俺がその場にいなくても何か言われた時に王子である俺との親密さをアピールできる。リティシアを侮辱すれば国を侮辱するのと同じ事になって…上手くいけば…相手を黙らせる事も可能かもしれない。貰ってくれ、リティシア!」


 予想外すぎる返答に、私は開いた口が塞がらない。


「…いらないわ。何があっても貴方に返すわね」


「えっ!?この流れは貰う流れじゃないのか…?」


「何を言っているの?貴方の持ち物なんて何の価値もないもの。さっきは使えるかと思ったけど、やっぱりいらない。綺麗に洗って返すわ」


 …アレクシスと婚約破棄したい私がアレクシスとの親密さをアピールしてどうするのよ。


 …周囲の評判を利用して婚約破棄しようとしてるのに、仲良しアピールしてどうするのよ。


 人が好意で貸した物を奪い取るなんて!と怒ってくれるかと期待したけど…やっぱりダメだったわね。


 貴方は全てが優しさで出来ているような人だから。


 でもその発想、貴方らしくてとっても好きよ、アレク。


 この上着は、丁寧に洗って返さなきゃ。


 悪役に楽しい夢を見させてくれてありがとうって…とびっきりの感謝を込めて。


 良い考えだと思ったんだけどな…と呟く彼に気づかれぬ様、私は心からの笑みを溢した。
 

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