13 / 197
パーティ編 その4
しおりを挟む
「すみませんでした!」
再び大声を張り上げて謝罪する男に、呆れ顔を向ける。この男が謝罪する相手は、私ではないはずなのに。
私は怒りの表情を崩さぬまま、言葉を紡ぐ。
「ご令嬢には?」
「申し訳ありません!!ご令嬢のドレスは後日弁償させて頂きます!」
私が言うや否や頭を地面に擦りつけて令嬢に謝罪をする。
令嬢は終始ぽかんとした様子だったが、「いえ、もう気にしていませんので…」と随分棒読みの台詞を口走っていた。
そりゃあんな事されたら気にするわよね。ご令嬢、ドレス代倍くらい上乗せして搾り取ってやりなさい。
…いけないいけない。私が本当に悪役令嬢リティシアになるところだった。
「あら、それなら私も貴方のタキシード代をお支払いするわ。私がワインをうっかり溢してしまったから…本当にごめんなさいね。本当に、『うっかり』してたわ…。ちゃんとお支払いするからブロンド家に請求するといいわ」
「うっかりなのに令嬢に金を支払わせるのか?」という台詞を言外に含ませるとその意図に即座に気づいたらしい男が立ち上がり、頭を下げてくる。
「い、いえ結構でございます!!申し訳ございませんでした!!」
どうにか悪役令嬢として名高いリティシアに許されようと彼はプライドを捨て、必死になっている。
リティシアの背後には王族の次に偉い公爵家がいるから、領地没収にでもなったら大変どころでは済まないのだろう。ほんとに没収してやろうかしら。
「あら本当に?悪いわね。じゃぁもう貴方に用はないわ…とっとと私の前から失せなさい」
笑顔で微笑みかけ、終盤は真顔で威圧してみせると、男は「ど、どうかお許しを!申し訳ございませんでした!」と叫びながら後ずさりをすると、テーブルクロスに足を引っ掛け、無様に転んでいた。
そして更にその男にテーブルに置かれていたワインが一気に注がれる。ポタポタと地面に垂れるワインを他所に、彼はただ私を見て震え続けている。
そんな彼に最後のサービスをしてあげようと私はゆっくりと歩み寄る。彼は最早恐怖で動くことが出来なかった。
「えぇ勿論。許してあげるわ。貴方の今の姿、とっても似合ってるわよ」
残っていた一本のワインを頭のてっぺんから丸ごとかけ、心からの微笑みをみせると、彼は言葉にならない声を上げ、この場を走って去っていった。
前が見えてないのによくこの会場から去れるわね。闘争本能じゃなくて逃走本能が優れているのね。きっと。
あぁすっきりした。
…やっぱりやりすぎたかしら…周りからは相当な悪女に見えるわよね。まぁいいわ、ワインをかけたくらいで死刑にはならないだろうから…。
そして私は振り返り、立ち尽くす令嬢の瞳をじっと見つめる。彼女は怯えておらず、私に対して驚きを顕にしていた。
「こっちへいらっしゃい」
そう声をかけ手を差し出すと、反射的に令嬢はその手を取ろうとしたが、はっとしたように手を引っ込めると、また首を横に振る。
「リティシア様、私は大丈夫です。そんなご迷惑はかけられません」
「いいからいらっしゃい。私に逆らう気?」
私にそう強く言われると、観念したのか令嬢は手を差し出してくる。私はその手を取り、会場を後にする。
再び大声を張り上げて謝罪する男に、呆れ顔を向ける。この男が謝罪する相手は、私ではないはずなのに。
私は怒りの表情を崩さぬまま、言葉を紡ぐ。
「ご令嬢には?」
「申し訳ありません!!ご令嬢のドレスは後日弁償させて頂きます!」
私が言うや否や頭を地面に擦りつけて令嬢に謝罪をする。
令嬢は終始ぽかんとした様子だったが、「いえ、もう気にしていませんので…」と随分棒読みの台詞を口走っていた。
そりゃあんな事されたら気にするわよね。ご令嬢、ドレス代倍くらい上乗せして搾り取ってやりなさい。
…いけないいけない。私が本当に悪役令嬢リティシアになるところだった。
「あら、それなら私も貴方のタキシード代をお支払いするわ。私がワインをうっかり溢してしまったから…本当にごめんなさいね。本当に、『うっかり』してたわ…。ちゃんとお支払いするからブロンド家に請求するといいわ」
「うっかりなのに令嬢に金を支払わせるのか?」という台詞を言外に含ませるとその意図に即座に気づいたらしい男が立ち上がり、頭を下げてくる。
「い、いえ結構でございます!!申し訳ございませんでした!!」
どうにか悪役令嬢として名高いリティシアに許されようと彼はプライドを捨て、必死になっている。
リティシアの背後には王族の次に偉い公爵家がいるから、領地没収にでもなったら大変どころでは済まないのだろう。ほんとに没収してやろうかしら。
「あら本当に?悪いわね。じゃぁもう貴方に用はないわ…とっとと私の前から失せなさい」
笑顔で微笑みかけ、終盤は真顔で威圧してみせると、男は「ど、どうかお許しを!申し訳ございませんでした!」と叫びながら後ずさりをすると、テーブルクロスに足を引っ掛け、無様に転んでいた。
そして更にその男にテーブルに置かれていたワインが一気に注がれる。ポタポタと地面に垂れるワインを他所に、彼はただ私を見て震え続けている。
そんな彼に最後のサービスをしてあげようと私はゆっくりと歩み寄る。彼は最早恐怖で動くことが出来なかった。
「えぇ勿論。許してあげるわ。貴方の今の姿、とっても似合ってるわよ」
残っていた一本のワインを頭のてっぺんから丸ごとかけ、心からの微笑みをみせると、彼は言葉にならない声を上げ、この場を走って去っていった。
前が見えてないのによくこの会場から去れるわね。闘争本能じゃなくて逃走本能が優れているのね。きっと。
あぁすっきりした。
…やっぱりやりすぎたかしら…周りからは相当な悪女に見えるわよね。まぁいいわ、ワインをかけたくらいで死刑にはならないだろうから…。
そして私は振り返り、立ち尽くす令嬢の瞳をじっと見つめる。彼女は怯えておらず、私に対して驚きを顕にしていた。
「こっちへいらっしゃい」
そう声をかけ手を差し出すと、反射的に令嬢はその手を取ろうとしたが、はっとしたように手を引っ込めると、また首を横に振る。
「リティシア様、私は大丈夫です。そんなご迷惑はかけられません」
「いいからいらっしゃい。私に逆らう気?」
私にそう強く言われると、観念したのか令嬢は手を差し出してくる。私はその手を取り、会場を後にする。
1
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる