上 下
3 / 3
第Ⅰ章 はじまりの鐘

第3話 

しおりを挟む
狭い場所の中で強行に走ったメアリーによって、服をはぎ取られ花嫁衣裳をきせられる。最後の足掻きとして、むしろこっちがメインと言っていいほど最後の仕上げは頑張った。

「…………姫様、本当にそのお姿で行かれるのですか?」
「何か問題でもありまして?」
「……………いいえ、なんでもございません」

フッフッフッフ。あの無表情かつ出来る毒舌メアリーが頬を痙攣させるくらいにはいい出来らしい!超絶うれしすぎるぜ!王宮の廊下を歩きながら、私の姿を確認したサピルス国のプロの侍女執事が顔を引きつらせるくらいにひどい顔だって理解できる。ええ、そうさ。そうなるように化粧したんだからね!ハッハー!とまぁ、高笑いしたいくらい気分のいい状態の私を、めちゃくちゃ嫌な顔をしたメアリーがみてる。冷たい視線なんてしーらないっ。これが私の最後の悪あがきだい!タダでは転ばない!これが私!!母様の希望通りサピルス国でもどこでも、嫁いでやる…けども、絶対相手から解放されるようにコトを運んでやるんさ!!!だって私は、腹黒姫アンリスの娘、セリシール・フィオーレなんだからね!

「見てなさいメアリー!私は絶対、平和に暮らしてみせるにげきってみせる!!」
「………ハァ」

ため息をつくメアリーを無視して、私はまだ見ぬ旦那様(仮)を仇にして、闘志を燃やし続けたのでした~。腹黒姫の娘がそう簡単に思い通り動くなんて、あるわけないんだからね~~!

* * * * *

カリカリとペンを走らせる音と、書類をめくる音だけが静かに響く。そんな中でいつもより響く喧噪に、ペンを走らせていた男は、やっとその手をとめペンを机においた。

「ふぅ…。今日は、やけに騒がしいな…」

肩を動かしバキリと鳴らし、ずっと下にむけていた視線をゆったりと扉のほうへむける。その瞳は宝石のようなエメラルドの瞳、そうこの男こそ武力国家サピルス国の第一皇子、レオーネ・エルドラド・フェリジオン。最後の足掻きを企むセリシールが嫁ぐ、旦那様なのでした。

「入れ」

静かな部屋に響いたノック音に、いまだパキパキと鳴る体を動かしながら返事をする。そしてスッと入ってきた青年ににこやかに挨拶すると、現状を確認した途端に何か言いたげに顔を顰めた。

「何か言いたげだな、レイヴン?」
「俺が言いたいことをわかってるはずですよね??兄王様」
「さて、なんのことかな」

レイヴンとよばれた青年が顔を顰めたまま言葉を紡げば、レオーネはとぼける様に肩を竦めた。

「まったく…、今日は南の小国の姫が嫁ぎに来るって言っておいたでしょう!」
「…ああ、なるほど。だからこんなに騒がしいのか」
「素で忘れてたんですが。一応、兄王様の正妃候補なのですよ」
「候補、だがな。まぁ、俺自身がそんな気が全くないから可能性は限りなく0に近いがな」
「またそんなこと言って…」
「事実だ」

呆れるレイヴンの言葉も右から左へ聞き流しながら、ため息を吐く。

側室たちあいつらは、ただの政治の駒だろう。俺にこびへつらって子が生まれれば俺なんてすぐにポイっさ」
「そうかもしれないですけど」
「…おい、少しは否定してくれ」
「事実でしょう」
「それもそうだが…」

レイヴンの言葉に少しの傷を負いながら唸る。そしてその後、納得したかのように頷いて、先程から視線が合わないレイヴンに声をかける。

「俺がお前に面倒事を押し付けたから怒っているのか?」
「…………」

無言だ。しかし、弟であるレイヴンが拗ねている時には沈黙して目を合わせないのを知っている兄は、自分より少し低い頭に手を置き労わるようにその頭をなでた。

「いつもありがとうな。いや、今回は本当に忘れていたんだ。決して、お前に押し付けたわけじゃないぞ?」
「…理解はしてますが、それでも俺は兄王様に嫁ぎに来る姫達は嫌いです」
「あー…お前は特に白粉の臭いが苦手だからなぁ」
「そうですよ!!それなのに、今回の姫といったら…」
「…そんなに酷かったのか?」
「酷いもなにも…思い出しただけでもゾッとしますよ」
「そ、そんなにか…」

いつも以上に力説をする弟にやや引き気味になりつつ、宥める様に頭の上に置いてある手を動かしながら苦笑する。

「…まったく、兄王様がしっかり挨拶してくれれば俺が苦しまなくってすむんですけどね!?」
「すまん。信頼してるんだよ、お前を。……また頼むな?」
「またさぼる気満々ですか!!?」

吠えるレイヴンをからかいながら、レオーネは椅子にかけていた上着を羽織って部屋をでて歩き出す。その後ろを、いまだからかわれて機嫌の悪いレイヴンが歩いていく。そして、先程邂逅した一人の姫の様子を思いだしては、肩をさする。元凶ともいえる兄を睨みつけながら、愚痴を零し続ける。

「聞いてますか、兄王様」
「聞いてるよ、レイヴン」
「南の小国の姫は特に酷いですよ」
「南の小国…、フィオーレ国か」
「父上の推薦だったので少しは期待したというのに、」
「白粉の化け物の姫か」

自分の愚痴を聞いて逆に気になってきた様子の兄に、天邪鬼め…とげんなりとした表情をしたレイヴンがその日第一皇子の後をついていったとかないとか。


2024.10 修正

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

前世で医学生だった私が、転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります

mica
ファンタジー
ローヌ王国で、シャーロットは、幼馴染のアーサーと婚約間近で幸せな日々を送っていた。婚約式を行うために王都に向かう途中で、土砂崩れにあって、頭を強くぶつけてしまう。その時に、なんと、自分が転生しており、前世では、日本で医学生をしていたことを思い出す。そして、土砂崩れは、実は、事故ではなく、一家を皆殺しにしようとした叔父が仕組んだことであった。 殺されそうになるシャーロットは弟と河に飛び込む… 前世では、私は島の出身で泳ぎだって得意だった。絶対に生きて弟を守る! 弟ともに平民に身をやつし過ごすシャーロットは、前世の知識を使って周囲 から信頼を得ていく。一方、アーサーは、亡くなったシャーロットが忘れられないまま騎士として過ごして行く。 そんな二人が、ある日出会い…. 小説家になろう様にも投稿しております。アルファポリス様先行です。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

処理中です...