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プロローグ

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鉛の様に重くなった体が冷たい海の底へ沈む感覚と、透き通っている様に見えた海の青と自分の赤が混ざり合う混濁した景色、必死にこちらに手を伸ばす様に見える小さな手のひら、全てがゆったりと流れていく中で痛みだけが鮮明に、私が死んでゆくのだと告げる。
いつの日か夢見た私の終わりが、こうも呆気なく迎え入れられる。
手を伸ばすことを諦めた小さな手に、微笑んで見せる。
「もういいよ」と、思いを込めて笑ってみせた。
海の底からでも分かるルビーの様な真っ赤な瞳から、ぽたぽたと流れ出た雫が沈む私の手に届く前にふわりと消えていく。
あんなにも鮮明に訴えていた生命活動の痛みが消え、次に襲いかかったのは酷い眠気。
ああ、これでやっと眠りにつけるのだ、と、心が歓喜する。
もう覚めることのないであろう夢の中へ、生きる事に望みを見出せない世界とこれでおさらばだ。
…ああ、でもそうだね、ひとつだけ、心残りと言えば…、今もきっと海上で泣いているあの子の涙を拭ってあげられないことかな…


「(なんて…)」


傲慢な願いに、私は自分を嘲笑って、そのままくらい暗い海の底へと沈んでいった。





* * * * *





ーーードサッ!!




物が落ちた様な音と同時に、先程まで感じていた痛みとは違う鈍痛が私の脳を刺激した。それを意識した為か、何故か尻がジンジンと痛かった。
もう二度と感じるはずがない痛みに回らない頭で考えるより早く、久々に目を開けた様な感じの視界の悪さと、大勢いる人の気配、そして、ガチャガチャと鳴り響く不快な金属がこすり合わされる音に、自然と眉が寄った。


「ーーーーー、ーーー!」

「………は?なにい、」

「ーー、ーーーー!!!」


近づいてきた人の気配に、様子見とばかりに黙っている私の耳に入り込んだ言葉に、驚きで目を開く。
普段の色を取り戻しつつあった視界の中で、私に向けて言葉を発したであろう男に声をかけようとしたのだが、私の喉からこぼれ落ちた声は、私が思ってたより掠れていた。
その事にももちろん驚いたが、私が少し体を浮かせた瞬間、目に見えて驚いた男が声を発した。
…その言葉は先ほどと同じ意味を持ち、私は頭を鈍器で殴られる様な気持ちになった。


「ーーーー!」

「ーーー?」

「ーーっ!!!!」

「ーーー?ーーーーー?ーーーーっー!」


意識した現実にひどい頭痛が私を襲って、現実から目を背けたくなって目をぎゅっと瞑る。
視界が暗くなったせいか、余計ヅキヅキと痛みを増す頭痛に、頭を抱える様に蹲る。
周りが先程よりもうるさくなった様な雰囲気で、突然肩に何かが触れた。


「やッーーー!!!」

「 ーー!!!!! 」


服越しに触れられた何かが、とてつもなく恐ろしいものの様に感じ、反射的にその何かを振り払った。
瞬間、首に冷たい何かが滑り次いで生温かい液体が首から鎖骨へと滑り落ちていく感覚に、何もかもわからない状況に脳がショートして意識が暗闇に蝕まれた。


「姉ちゃん!?」

「ーー?!」


暗闇に意識が奪われる寸前に、聞こえた声に薄っすらと重くなっていく瞼を少しだけ開く。
ぼんやりとする視界の中で、目に痛い赤い髪が視界を写し、そこで私の意識は途切れた…。



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