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第一章 始まり

俺は誓う、必ず復讐しに(現実世界へ)戻ると

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 この世界ティルナノーグでの俺の本名はバニィ・クロムウェル=ティターニアと言う。父はラビィ・クロムウェル=ティターニア公爵である。ティターニアと言うのは皇族に与えられる名で、その名が示す通り父は皇族の一人だ。だがその継承順位は10位とかなり低く、今現在この国を統治しているテバルトとはかなり遠縁である。しかし腐っても皇族、様々な差別特権のおかげで生活に不自由はなかった。俺は5歳になるまではこれがこの世界での一般的な生活水準だと思っていた。

 だが転機は訪れる。

 父上が死んだ・・・

 ヴァニル帝国公爵、ラビィ卿、第二次レーテ戦にて栄えある戦死。5年前起きたレーテとの武力衝突で父は帰らぬ人となった。

 当時父が駆っていた魔法少女はオルトリンデ、二つ名を≪戦乙女≫。

【レベル】65
【属性】聖女×騎士
【LP】2362
【MP】3000
【腕力】242
【熟練】345
【素早】545
【魔力】410
【ユニークスキル】飛行レベルⅢ

 属性の組み合わせは抜群、変身以外弱点がない。そのスピードと相まってヴァニルの生ける魔弾とまで呼ばれるエースだった。

 だが過信は禁物、レーテが新開発した位相反転結界ディストーション、そしてそこに罠を張り巡らせていた敵変身部隊。自慢の素早さを殺され、不意打ちを受け父とオルトリンデは雪原に散った。
 例えどんなに強い魔法少女でも無敵などありえない。何が一番なのか?何が最強なのか?その時々で常に変わってしまう。それを見極め、実行したものこそ勝者となる。それを知らなかった父上は負けるべくして負けたのだ。

 その最後を看取みとった父の従者は語る。空の男に恥じぬ、実に立派な最期だったと。どうやら父はオルトリンデを最後まで見捨てなかったらしい。助かる命を捨て、妻子を残して逝くそのどこが立派だと言うのか?

 おかげでこの家は没落の一途をたどる、没落貴族と言う奴だ。かつては特権目当てに顔を出していた悪徳商人も、施し目当てに群がっていた貧民ももういない。残されたのは父が生前に残してくれた財産と僅かな遺族年金、そして13位という皇位継承権だけである。
 母は言う、この家を再興するためにはもうどこかの貴族に婿養子として入るしかないと、政略結婚である。母と食事をするといつもその話になった。

「バニィ、そろそろ縁談の話受けてくれないかしら?」

「母上、その話はギルド試験の結果で決めると前に言ったでしょう?」

「だってあなたの魔法少女まだレベル1じゃない、受かりっこないわ。それよりもほら、この子可愛いと思わない」

「母上・・・」

 俺は小さくため息をつく。

「なぁに、バニィ。その呆れたような顔は。この家を再興するにはもうこれしかないのよ?本当ならこんな落ち目の貴族どこも相手にしてくれないわ。でも、それでもあなたは皇族の子、ティターニアとの結びつきを欲している新興貴族も多い。それになによりバニィはあの人に似てイケメンですもの、こんな男子をどこの女子がほっとくと言うの?」

 どうやらこの顔、妖精から見たらイケメンらしい・・・確かに俺の周りには常に女子がいた。食事しているときも、本を読んでいるときも、妄想にふけっているときも、常に女子の視線が俺に付きまとった。

 告白されたこともある。

 「バニィ先輩、私とつき合って下さい!」

 俺は断った。

 昔から恋愛にはすこぶる興味がない、彼女?子供?全くほしいと思わない。気苦労の方が多いと言うのに何が人をそこまで駆り立てるのか?生物が遺伝子の奴隷と言うのなら俺はその理から外れている。モテない?童貞?リア充爆発しろ?それがどうした、全然羨ましくない。
 可愛い女の子にときめかないのかと言われても、こうして俺の前にいるのはただの喋る動物だ、ときめける訳もない。

「母上、なにも政略結婚だけが再興の道ではありません、武勲ぶくんを上げればきっとこの家も立ち直るでしょう。俺は父上のような立派な軍人になりたいのです」

「でもねぇ~、死んでしまったら元も子もないじゃないの?命を懸けて戦うよりも、女の子に優しくして生きた方が断然楽よ」

 絶対に嫌だ!興味ない女子になぜ優しくできようか?例え生きるためだとしても俺はヒモになるつもりはない、俺は何が何でも出世したいのだ。

 それには理由がある、これは俺がまだ5歳の時、父が生きていた頃の話である。



 ある時俺は父に人間を見てみたいと懇願し、一度だけ戦場に出た事がある。
 硝煙と血生臭い臭い、響き渡る怒号と雄叫び、剣と剣が鍔迫つばぜり合い、人と人が命を奪い合う。地獄?と言えばいいのだろうか。そこに慈悲はない、強者だけが生き残る世界。
 人間の男達は甲冑をまとい、剣を、槍を、盾を、弓を構える。まるで千年前にタイムスリップでもしたかのような原始的な戦い方。
 俺と父は人間に姿を変え、戦争を指揮する安全な野営地からそれを見物した。するとそのさらに後ろから敵竜騎隊が雄叫びをあげて攻め込んできた。本陣を狙った奇襲である。

 これはちょっと不味くないか?

 俺はそう思った。この世界で竜といえばこちらで言うところの戦闘機だ、申し訳程度についた歩兵で止められる訳がない。案の定俺の予想は的中、敵はこちらの守備を軽々と突破し、土煙を上げて突撃してくる。俺の眼下をたちまち竜騎の軍勢が埋め尽くす。

 いくら何でもこれはやば過ぎるだろ!迂闊うかつに前線に出たのが間違いだった。こんなところで俺はまた死ぬのか?

 だが大人達は冷静だ。

「ガング起動、ダインスレフ隊、前へ!」

 父の号令で民族衣装を着た7人の少女が前に立つ。

 “これが魔法少女?”

 と俺は疑問を投げる。
 だがそんな息子を他所に父は声を高らかに上げた。

「ゴッドフリート、撃てぇー!!!」

 悲鳴にも似た奇怪な音、魔法少女の杖に光子が集まる。そして次の瞬間、大気を震わせ目の眩むような閃光が敵奇襲部隊を薙ぎ払った、さながらビームである。着弾地点に核爆弾でも落としたかのようなキノコ雲があがる。それを7人の魔法少女が一糸乱れず整然と放っていくのだ。それを言葉にするならまさに圧巻である。地平線を埋め尽くしていた敵が死すら感じず瞬く間に灰と化していく、人が虫ケラのように死んでいく。

 なのに何だこの高揚感は?胸が高鳴る。

 俺が魔法に釘付けになっていると水晶を持った魔法少女がその横に立った。

「ラヴィ卿、敵魔法少女部隊を確認しました。数3、陸戦使用と推測。こちらに向かってきます」

「フッ、たったの3か。兵は多くても魔法少女は少ない原始国家め、戦の華が何なのか知らぬと見える。ヴァルキリー隊出撃、敵魔法少女に絶望をくれてやれ」

 俺の頭上を5人の魔法少女が滑空した。生身の人間が・・・だ。

 “ええいコイツ等、レーダーも航空力学も目くそ鼻くそか!”

 これは誉め言葉である。俺は顔に出さなくても心の中で笑っていた。劣等種、劣等文化、劣等文明、何もかもを見下していたこの世界で俺は初めて称賛したのだ。
 これが魔法少女、常識外れにもほどがある。こいつら原始人のくせにこんなファンタジーな力で宇宙人もびっくりな戦争をしてやがる・・・やれる、この力さえあれば現実世界の奴等に復讐できる!あのイカれたナイフ男の脳みそを地面にぶちまけられる、あの腐りきった老害共を生きたまま焼却してやれる、俺にあだなす全ての害に鉄槌を!くぅぅぅ~~~・・・たまらん! 






 ・・・だがどうやって戻ろう?






 次の日、目が覚めると俺は浴槽の栓を抜かれたようにすっかり放心していた。これが賢者タイムというものか?己のバカさ加減に脱力して何もする気になれない。そもそも現実世界に帰る術がない、それなのにどうして復讐できようか?
 だが枯れ果てた泉も案外その地下には源泉が残っているもので、その後も魔法少女を見る度に俺の復讐心は掻き立てられた。
 この世界にはまだ見ぬ未知の魔法がまだまだたくさんある、それは俺の常識を遥かに超えた奇跡、ならばきっと現実世界に戻る魔法だってあるはずだ。
 期待を胸に、俺の異世界探求はまだ終わらない。いつか復讐を果たすその日まで・・・



                 ~翌朝~

「では母上、行ってきます」

「気をつけていってらっしゃい、ギルドに落ちても落ち込むことはないのよ。あなたには結婚という輝かしい未来が待っているのだから」

 俺は愛想笑いを返した。

 なぜ自分が異世界に転生したのか分からない。でも、もし理由があるならきっとそれは神様が俺にくれたとっておきの慈悲なんだと思う。ならこの第二の生、謳歌しなかったらもったいない。

 小高い丘を登る。

「リット、調子はどうだ?」

「悪くないわ」

「よろしい。では行くとしよう、我々の戦場へ・・・」






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