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本編
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兄、デュナスは王国最強の剣士だ。剣を抜かせれば右に出る者はいない。愛刀、ファルシオンは刃渡り2メートル以上もある巨大な片刃剣で魔力を帯びた黒曜石から出来ている。デュナスはそれでドラゴンをも狩ったと言う。
兄は暗黒騎士だから私のように真っ当な戦いはしない、丁度私とラルクを足して二で割ったような戦い方をする。刀身に火薬を仕込み、トリガーを引けば剣から鉄砲玉を撃てるし、柄を伸ばすと長さ4mもの斬馬刀と言う武器にもなる。爆弾、ボーガン、猛毒を塗った仕込み刀、卑怯と言えばそれまでなんだけど兄はこれで幾多の死線を潜り抜けてきた。
デュナスの繰り出す数々の攻撃にオークはたじろぐ。
「ぐぬぬぅ~、次から次へと姑息な攻撃ばかりする」
「でかい図体して泣き言か?私にすら勝てない軟弱者に妹はやれないな」
それを言ったら私は誰とも結婚できない。だけど今はそれでいい、兄の勝利を信じ、私は二人の戦いを見守った。
「黒騎士、そこまでだよ」
周囲を大勢のオークが睨みを利かせて取り囲む。目には目を、卑怯には卑怯を、指揮っているのはあの子オーク。
「さあ兄さん、ここは僕等に任せて姫を連れていくんだ」
黒いオークはあからさまに嫌そうな顔をする。まるで男の戦いに水を差されて不満とでも言いたげな顔。だけどそこにさらに水が差される。
三本のクナイが手下のオークに突き刺さった。
「ブヒィィィッ!」
一体の緑色のオークが地面に倒れてのた打ち回る。
刺された腹を抑え、弱々しく立ち上がるラルク。ヨロヨロと二歩、三歩と歩きながら
「あたしも加勢する・・・」
倒れかけると咄嗟にデュナスが支えた。
「やめておけ、その身体では無理だ」
「うっせぇ、黙って加勢されろ」
ラルクはまだ生きていた!
息も絶え絶えで、虫の息だけどこうして私の前に立ってくれていることが何よりも嬉しい。自分の身など二の次だ、今はただ、一刻も早く友の手当てをしてあげたい。
昔から私は後先を考えない性格だ、そのせいで何度も後悔したし、つくづく馬鹿だなとも思う。現に今起きているこの惨状も本を正せば私が招いたことだ。大人しく籠の鳥として生きていれば誰も傷つかずに済んだ。
あの日、空を見上げてほんの少し、自由に手を伸ばしたばっかりに・・・
きっとたがを外し過ぎて神様が怒ってるんだ、運命と言うシナリオを滅茶苦茶にした罰が今下ってるんだ。でも神様、流石にこれはあんまりだよ。私は悪くてもラルクや皆に罪はない。
ねぇラルク、
普通に生きるのって、
難しいね?
「お兄様!どうか彼女を頼みます!
その者は
私の
かけがえのない
この世でたった一人の親友
死なせたくない
失いたくない
お兄様には散々迷惑かけたけど
妹の最後の頼み、聞いてくれますか?」
デュナスはシルフの微かに豊かな胸を感じ、全てを合点する。
なるほど、本当に手の焼ける妹だ。
そしてラルクを肩に担ぐ。
「おい!お前何するんだ!?」
「今より私は妹を見捨てて敗走する、恨むなら恨め。だがこれだけは覚えておいてほしい、私はオークに屈したのではない、人の情に折れたのだ。お前の友は王国最強の男を退かせたぞ、そんな友を誇りに思え」
デュナスは私に背を向けて走っていく。オーク達も黒騎士を深追いするつもりはないらしく、敵が退いていくと大人しく来た道を戻っていった。
オークの肩に揺られながら、目を閉じることでようやく吹っ切れる。
ありがとう皆、私は幸せだったよ。
「レフィーーーーー!!!!!」
貫くような甲高い声が響く。
「絶対迎えに行く、誰が何と言おうと、どんな困難があろうと、だから待ってろ!諦めんな!!」
ああ、折角諦めかけてたのにそんなこと言われたら諦められないじゃん。
「待ってる!いつまでも待ってるから!」
また後先考えずに口走ってしまった。こんなこと言ったらまた皆を巻き込んでしまう。だけど私はそう叫ばずにいられなかった。
兄は暗黒騎士だから私のように真っ当な戦いはしない、丁度私とラルクを足して二で割ったような戦い方をする。刀身に火薬を仕込み、トリガーを引けば剣から鉄砲玉を撃てるし、柄を伸ばすと長さ4mもの斬馬刀と言う武器にもなる。爆弾、ボーガン、猛毒を塗った仕込み刀、卑怯と言えばそれまでなんだけど兄はこれで幾多の死線を潜り抜けてきた。
デュナスの繰り出す数々の攻撃にオークはたじろぐ。
「ぐぬぬぅ~、次から次へと姑息な攻撃ばかりする」
「でかい図体して泣き言か?私にすら勝てない軟弱者に妹はやれないな」
それを言ったら私は誰とも結婚できない。だけど今はそれでいい、兄の勝利を信じ、私は二人の戦いを見守った。
「黒騎士、そこまでだよ」
周囲を大勢のオークが睨みを利かせて取り囲む。目には目を、卑怯には卑怯を、指揮っているのはあの子オーク。
「さあ兄さん、ここは僕等に任せて姫を連れていくんだ」
黒いオークはあからさまに嫌そうな顔をする。まるで男の戦いに水を差されて不満とでも言いたげな顔。だけどそこにさらに水が差される。
三本のクナイが手下のオークに突き刺さった。
「ブヒィィィッ!」
一体の緑色のオークが地面に倒れてのた打ち回る。
刺された腹を抑え、弱々しく立ち上がるラルク。ヨロヨロと二歩、三歩と歩きながら
「あたしも加勢する・・・」
倒れかけると咄嗟にデュナスが支えた。
「やめておけ、その身体では無理だ」
「うっせぇ、黙って加勢されろ」
ラルクはまだ生きていた!
息も絶え絶えで、虫の息だけどこうして私の前に立ってくれていることが何よりも嬉しい。自分の身など二の次だ、今はただ、一刻も早く友の手当てをしてあげたい。
昔から私は後先を考えない性格だ、そのせいで何度も後悔したし、つくづく馬鹿だなとも思う。現に今起きているこの惨状も本を正せば私が招いたことだ。大人しく籠の鳥として生きていれば誰も傷つかずに済んだ。
あの日、空を見上げてほんの少し、自由に手を伸ばしたばっかりに・・・
きっとたがを外し過ぎて神様が怒ってるんだ、運命と言うシナリオを滅茶苦茶にした罰が今下ってるんだ。でも神様、流石にこれはあんまりだよ。私は悪くてもラルクや皆に罪はない。
ねぇラルク、
普通に生きるのって、
難しいね?
「お兄様!どうか彼女を頼みます!
その者は
私の
かけがえのない
この世でたった一人の親友
死なせたくない
失いたくない
お兄様には散々迷惑かけたけど
妹の最後の頼み、聞いてくれますか?」
デュナスはシルフの微かに豊かな胸を感じ、全てを合点する。
なるほど、本当に手の焼ける妹だ。
そしてラルクを肩に担ぐ。
「おい!お前何するんだ!?」
「今より私は妹を見捨てて敗走する、恨むなら恨め。だがこれだけは覚えておいてほしい、私はオークに屈したのではない、人の情に折れたのだ。お前の友は王国最強の男を退かせたぞ、そんな友を誇りに思え」
デュナスは私に背を向けて走っていく。オーク達も黒騎士を深追いするつもりはないらしく、敵が退いていくと大人しく来た道を戻っていった。
オークの肩に揺られながら、目を閉じることでようやく吹っ切れる。
ありがとう皆、私は幸せだったよ。
「レフィーーーーー!!!!!」
貫くような甲高い声が響く。
「絶対迎えに行く、誰が何と言おうと、どんな困難があろうと、だから待ってろ!諦めんな!!」
ああ、折角諦めかけてたのにそんなこと言われたら諦められないじゃん。
「待ってる!いつまでも待ってるから!」
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