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3学年 後期

第266話

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 オレガリオがピモに倒される前。
 隣の会場では鷹藤家の戦いが繰り広げられていた。

「……ガハッ!!」

 自分の命と引き換えに、魔人と化した孫の文康を葬り去ることを決意した鷹藤家当主の康義。
 刀を捨てるという奇策に出て、文康を押し倒そうとタックルに向かった。
 その康義が吐血する。 

「残念!」

「父さん!!」

 奇策により、タイミング的に成功すると思えが、タックルに行った康義の腹に文康の膝が深々と突き刺さっていた。
 その膝蹴りによって、内臓を痛めたのだろう。
 吐血した父を見て、康則は慌てて声をかける。

「父さん、大丈夫か!?」

「グウゥ……」

 その場にとどまっていれば、文康に止めを刺される。
 そうならないために、康則は父の康義を抱えて距離を取った。
 心配そうに声をかける康則だが、康義は口から血を流しながら呻き声を上げた。

「ふぅ~、何か企んでいるのは分かっていたけど、まさか刀を放ってくるとは思わなかったぜ……」

 小声で話をしていたのを黙って見ていたので、祖父と父が何か策を練ってきたのは分かっていた。
 それが何かまでは分からないでいたが、小さい頃から訓練中に耳にタコができるほど自分に注意をしていた祖父が、まさか刀を手放してくるとは思わなかった。
 あまりの意表を突いた攻撃に驚いたが、何とか反応できた。
 その理由を簡単に言うのなら、野生の勘だ。
 魔人になったことで、危機察知能力が人間の時よりも上昇していたお陰だろう。

「ほら! 大事な刀だよ。どんな時でも手放してはダメだぞ!」

 足元に落ちていた康義の刀。
 それを拾い上げた文康は、馬鹿にしたように言いながら康義に返す。
 武器を返すなんて、敵に塩を送る行為にしかならない。
 それなのにそうするというのは、文康の余裕の表れだろう。

「貴様っ!!」

「……へっ! 負け犬の遠吠えにしか聞こえないな……」

 大和皇国で魔闘師の頂点に立ってきた鷹藤家。
 その権力を笠に、少々の悪事もおこなってきた。
 しかし、刀を向けあう相手には、敵であろうと敬意を払うように文康には教え込んできた。
 その教えを無視するような康義への行為に、康則は怒りが沸き上がる。
 そんな教えなど命の取り合いには不要と断ずる文康は、耳の穴をほじりながら嘲笑った。

「貴様ーーっ!!」

「さてと、そろそろその老いぼれに止めを刺させてもらおうかね……」

 祖父や父親を痛めつけ、馬鹿にしてもなんとも思っていない表情の文康。
 もう人としての心はなくなっているかのようだ。
 ここまで康則はその僅かな感情が残っていることを期待していたのだが、もう確定的だった。
 自分の息子がそうなってしまったことの悲しみも伴った怒りで康則が声を上げるが、文康はどこ吹く風とと言うかのように康義の始末へ歩み始めた。

“ドスッ!!”

「っっっ!?」

 康義への止めを刺すために動き出した文康だったが、数歩進んだところで衝撃を受ける。

「…………」

 何が起きたのか分からず、文康は衝撃を受けた腹部に視線を移す。

「っ!?」

 腹部を見た文康は目を見開く。
 何故なら、腹から刀が突き出ていたからだ。

「グフッ! お、お…前……!!」

 ようやく自分の状況を理解した文康は、口から血を吐き出す。
 そして、背後に顔を向け、刀を突き刺した者の顔を確認した。
 その顔を見て、文康は眉間に皺を寄せる。

「いくら性格がねじ曲がっているって言ったって、魔人になるなんて最悪だな。くそ兄貴!!」

「道康ーーっ!!」

 気配を消しての不意打ちをおこない、背中から突き刺された一撃。
 それをおこなったのは、鷹藤家の次男道康だった。
 してやったりの表情で、魔人と化した兄へ話しかける道康。
 祖父や父に余裕をかまし、誰もいなかったことで全く周囲への警戒を怠っていたために、文康は弟の不意打ち攻撃に反応できなかった。

「こ…の野郎っ!!」

「ガッ!!」

 突き刺さった刀を抜き、文康は振り向きざまに道康のことを殴りつける。
 殴られた道康は吹き飛び、何度も地面を跳ねて・転がりってようやく止まった。

「うぅっ……」

 文康としては、頭蓋骨を砕くつもりで殴りつけたのだが、腹の痛みのせいで踏み込みが甘かったらしく、道康を仕留めることができなかった。
 動いたことで、より出血が酷くなった文康は、思わず呻き声を上げる。

「くそっ! まさか…道康なんかに…こんな痛手を…負わされるなんて……」

 背中から腹まで貫かれているため、当然出血は止まらない。
 そのため、文康は額から嫌な汗が流れてくる。

「ハ、ハハッ!! まあっ!! うぅ……」

 痛みに苦しむ文康を見て、横向きに寝転ぶ道康はしてやったりと笑みを浮かべる。
 しかし、殴られた右頬は腫れあがり、喋った瞬間に血が垂れ、歯が数本零れ落ちた。
 しかも、地面を跳ねたときにどこか痛めたのか、起き上がろうにも痛みで動けないようだ。

「こうなったら……、フンヌッ!!」 

 まずは血を止めなければ、出血多量で動けなくなってしまう。
 回復魔術が使えない文康は、別の方法で血を止めることにした。
 ジューという音と煙が立ち上る。
 火の魔術によって、背中と腹を焼き塞ぐことにしたのだ。

「ぐうぅ……、とりあえず、これで動ける」

 傷口を焼いたことで、ひとまず血は止まったが、あくまでも応急処置でしかない。
 仲間に回復をしてもらうためにも、早々にこの戦いを終わらせる必要がある。
 そのため、文康はこの傷をつけ、まず動けなくなっている道康を睨みつけた。

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