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3学年 後期

第264話

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「な、なんだこいつっ!?」

 右へ左へ動き回るピモ。
 その動きに、オレガリオの目は追い付かない。

「キキッ!!」

「このっ!!」

 一瞬動きをを止めたピモ。
 それを好機とみて、オレガリオは咄嗟に刀を振る。

“フッ!!”

「なっ!?」

 オレガリオの刀が当たると思われた直後、ピモの姿が消える。
 それにより、オレガリオの刀は空を斬った。

「キキッ!!」

「くっ!!」

 左側で笑みを浮かべる。
 馬鹿にされたと思って、オレガリオの怒りのゲージはさらに上がる。

「この猿っ!!」

 ピグミーモンキーなんて弱小の魔物に馬鹿にされて、魔人としてのプライドが許さない。
 そのため、オレガリオは怒りに任せて刀を振る。

「キキッ!!」

「くそっ!!」

 刀を振っても、当たる瞬間にはもうピモはそこにいない。

「このっ! このっ! このっ!」

 何度も何度も刀を振り回すオレガリオ。
 しかし、その巣で手が空を斬る
 外から見ていると、オレガリオが1人で刀を振り回しているだけのようにも見えて、滑稽に思える。

「ハァ、ハァ……」

 少しの間無駄に空振りをしたオレガリオは、大量の汗と共に息を切らす。

「くそっ!! 小猿ごときがーー!!」

 こめかみに浮かんだ血管が今にも切れそうなほど、オレガリオは顔を赤くして大声を上げる。
 ピグミーモンキーなんかに翻弄されていることが、絶対に認められないようだ。

「うおらーっ!!」

「キキッ!?」

 完全に怒りに任せた大振りの攻撃。
 そんな攻撃が通用するわけがないことも分からないくらい、頭が回っていないのだろうか。
 当然攻撃を食らう訳もなく、ピモはオレガリオの攻撃を躱した。

「おらーっ!!」

「キッ!?」

 オレガリオの狙いは、空振りに終わってもそのまま地面を叩きつけることだ。
 ピモを見つけ出した時のように、またも地面を爆発させての細かい石弾をまき散らす。

「キキッ!!」

 小さいがゆえ、人にとっては小さくても、ピモにとってはかなり大きな石弾たちだ。
 当たればかなりの痛手を負う可能性があるため、ピモは飛んでくる石弾たちを躱しまくる。

「っっっ!!」

「……もらった!!」

 石弾を躱すことで、ピモの動きが制限される。
 オレガリオの狙いはそこだ。
 思った通り、ピモの動きを制限することで、その動きが目で追えている。
 その動きに合わせるように、オレガリオはピモに向かって刀を振り下ろした。

“フッ!!”

「っっっ!?」

 自分を翻弄したピモを、思い通りに動かし、仕留めることができる。
 そう思って笑みを浮かべていたオレガリオだったが、その思い通りにはならず、またも刀は空を斬った。

「な、何で……?」

 空振りをした理由は、ピモの急激に速くなったからだ。
 しかし、いくら何でもピグミーモンキーの出せる速度ではない。
 理解できないオレガリオは、戸惑いの声を上げるしかなかった。

「……気付いていないみたいだな?」

「……うん。そうみたい……」

 オレガリオが、どうしてピモを捕まえられないのか分からないでいるのとは違い、柊親子はその理由を理解していた。

「……恐ろしいな。あんな魔物がいるなんて……」

 ピモのことを弱小魔物と侮っていたら、痛い目に遭うことの典型のような戦闘だ。
 もしかしたら、ピモのような魔物が他にもいるかもしれない。
 そう考えると、どんな魔物も恐ろしく思えてくる。

「大丈夫だよ。あの子は新田君の特別だから……」

「……そう言えば、そうか……」

 鷹藤家に目を付けられないように、伸は魔力で他人を操って魔物や魔人と戦わせることで自分の実力を隠そうとした。
 その実験台として、従魔にしたのがピモだ。
 伸から魔力操作の説明を受けたことがあるため、ピモがでたらめな速度で動ける理由に俊夫は気が付いた。
 伸の魔力操作を受けると、その時の感覚が残っているからか、魔力操作技術が向上する。
 従魔になって、伸から何度も魔力操作を受けたピモは、ピグミーモンキーでありながらとんでもない魔力操作技術を得ることになったのだろう。
 その魔力操作技術によって、でたらめな移動速度をするピグミーモンキーができたという訳だ。
 つまり、綾愛が言うように伸が特別なことをしたからピモがこのようになったのであって、他の魔物が同じようになるということはありえないということだ。
 余計な恐れが消えたことで、俊夫は安堵と共に呟いた。

「……ヌッ? 腕が……」

 ピモを仕留めようと刀を振り回していたオレガリオだったが、自分の腕の異変に気付いた。
 重く感じ、刀を上手く振り回せない。

「…………ま、まさかっ!?」


 異変を感じるのは腕だけではない。
 ピモの持つ針に刺された場所の全てがおかしい。
 柊親子が気付いていたことと同じことを、オレガリオはようやく気が付いた。

「針に毒を仕込んでいやがったのか!?」

「キキッ!!」

 所詮は数cmの針のため、刺されたところで僅かな痛みでしかなかった。
 その判断が間違いだった。
 このピグミーモンキーは、一撃必殺を狙っているのではない。
 自分を弱らせ、仕留める機会を作るのが目的だ。
 そのことに気付いたオレガリオに対し、ピモはしてやったりと言わんばかりに鳴き声を上げた。

「くそっ!! くそーーっ!!」

 攻撃をして姿を見られた後、このピグミーモンキーは逃げ回るだけで攻撃をしてこなかった。
 体中に毒が回るまで時間稼ぎをしていたのだ。
 毒で体が思うように動かないうえに、弱小魔物のピグミーモンキーに馬鹿にされる。
 あまりの悔しさに歯を食いしばったことで切れたのか、オレガリオは口から血を流して怨嗟の声を上げた。

「キキッ!!」

「がっ!?」

 両手両足が思うように動かなくなり、少し前までの高速移動が嘘のように鈍い。
 そんな状態なら恐れるに値しない。
 そのため、オレガリオとの距離を一気に詰めたピモは、オレガリオの額に武器となる針を突き刺す。
 刺さった針から頭に毒が回り、オレガリオはすぐに白目をむいて痙攣し始める。

「キキーッ!!」

 頭に針を刺してから少しの間経つと、オレガリオは膝から崩れるようにして倒れ、 段々と動かなくなっていった。
 そして、とうとうオレガリオが全く動かなくなったのを確認したピモは、右手を上げて勝利のガッツポーズを決めたのだった。

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