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3学年 後期

第258話

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「フゥ~……」

 大きく息を吐き、バルタサールから目を離さずに額の汗を拭う伸。
 怪我をしているわけではないが、服が所々斬れており、埃によって汚れている。

「ハハッ! こんなに楽しませてくれるは嬉しいぞ伸!」

 バルタサールの方は服が汚れているだけで、汗も少ししか掻いていない様子。
 生まれて初めてともいえる長い時間の戦闘を楽しんでいるらしく、大きな笑い声をあげて伸に話しかけてくる。

「フンッ!!」

「っっっ!!」

 伸に向けて左手を上げるバルタサール。
 その左手に、一気に魔力が集まる。

「ハッ!!」

『ったく! こんな高威力の攻撃をポンポンと……』

 バスケットボールサイズの魔力の球が、バルタサール左手から発射される。
 大きさ的には大したことない。
 しかし、その魔力球に込められた魔力がとんでもない。
 武舞台や観客席が穴だらけになっているのは、この魔力球によって吹き飛ばされたことが原因だ。
 直撃すれば大ダメージを受けてしまうことは間違いない。
 そのため、伸は必死になってその魔力球を回避する。

“ドガーーンッ!!”

 伸に躱された魔力球はそのまま観客席に飛んでいき、大爆発を起こした。

「シッ!!」

「っっっ!!」

 魔力球を避けた伸に向かって、バルタサールが斬りかかる。
 伸が避ける方向を読んでいたようだ。

“ガキンッ!!”

「くっ!!」

 振り下ろされた攻撃を、伸は刀で受け止める。
 片手で持っての攻撃だというのにとんでもなく重いため、伸は両手で持って抑えるしかなかない。
 体格差で言えば伸の方が大きいというのに、これほどのパワーを持っているなんて、いくら魔人だからと言っても信じられない。
 恐らく、魔人としての身体能力に加え、とんでもない量の魔力を使用して身体強化をしているのだろう。

“スッ!!”

「っっっ!!」

 片手のバルタサールと両手の伸。
 そんな状態で鍔迫り合いの状態になったら、不利になるのは伸だ。
 バルタサールは、空いている左手を振りかぶった。
 拳による攻撃が飛んでくる。
 それを予測した伸は、その場から後方へ飛び退いた。

「フッ!!」

 飛び退いた伸をバルタサールは追いかける。

「このっ!」

「……っと!」

 追いかけてきたバルタサールに対し、伸は側に落ちていた手のひらサイズの瓦礫を拾って投げつける。
 身体強化している伸の腕力から放たれた瓦礫は、超高速でバルタサールに迫る。
 あれだけのパワーを持つほどの身体強化をおこなっているのだから、いくら速度のある瓦礫だろうと当たったところで少し痛いくらいでしかないだろう。
 しかし、痛いことには変わらない。
 そのため、バルタサールは接近するのをやめ、少し横に動くことで飛んできた瓦礫を回避した。

「フッ! ハッ!」

「ハハッ!」

 接近戦はなるべく控えたい。
 そんな思いから、伸は動き回りながら瓦礫を拾って連投する。
 緩急つけて放たれた瓦礫たちを、バルタサールは余裕の表情で躱し続ける。

「シッ!!」

 瓦礫攻撃を苦にしない余裕の表情が気に入らない。
 そのため、伸は慌てさせるために次の手に出た。

「おわっ!!」

 伸が何をしたかと言うと、転がっている大きめの瓦礫を蹴り、高速の散弾のようにして攻撃をしたのだ。
 思惑は成功し、バルタサールは声を上げて慌てて刀で攻撃を防いだ。

「もう一丁!」

 防がれたが、数が多いために防ぐのに精一杯といった様子。
 それならば、もっと慌てさせてやろうと、伸はもう一度瓦礫を蹴飛ばして散弾攻撃をする。

「甘い!!」

 先程と同じ攻撃が来る。
 それを察知したバルタサールは、地面に手を付き魔力を流す。
 それによって土の壁が出現し、瓦礫の散弾攻撃を防いだ。

“バッ!!”

「っっっ!?」

 土の壁を作ることで伸の散弾攻撃を防いだバルタサール。
 攻撃を防いだのは良いが、伸はバルタサールが地面に手を付いた時点で土魔術で防がれることを想定していた。
 攻撃を防ぐために土壁を作り出したのは良いが、それと同時に視界が制限される。
 バルタサールが自分の姿を見失った状態になったその一瞬を利用し、伸は土の壁の横へと回り込んでいた。

「フンッ!!」

「なっ!?」

 土の壁の横から向かってくる伸。
 その手には瓦礫を持っており、振り向いたバルタサールに放たれる。
 至近距離からの瓦礫投擲攻撃。
 それを防ぐために、バルタサールは刀で瓦礫を弾いた。

「シッ!!」

「くっ!!」

 左手は土の壁を作り出すために、刀を持つ右手は瓦礫を弾いたことで上へ上がっている。
 それによって、がら空き状態ができた。
 そんなバルタサールの首を狙って、接近した伸は斬りつけた。

“チッ!!”

「くそっ!!」

 斬りつけると同時に走り抜けた伸だったが、手応えの無さに思わず悔しそうに声を漏らす。
 バルタサールの首を斬り落とす折角のチャンスだったのだが、それが失敗に終わってしまったためだ。

「……さすがだな伸。俺に血を流させるとは……」

 魔人としての身体能力に加え、大量の魔力による身体強化をおこなっていたため、反射速度も上昇していたのだろう。
 伸の攻撃を躱すことは成功したが、それによって頬を僅かに斬られた。
 頬から流れた血を指で拭ったバルタサールは、これまでの余裕の表情が消え、冷静な口調で話しかけてくる。

「遊びは終わりだ……」

「っっっ!!」

 自身の血を見たからか、冷静になったバルタサールから一気に殺気が膨れ上がる。
 その凶悪な殺気に晒され、伸は息を飲んだ。

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